IPEの果樹園2004
今週のReview
12/6-12/11
*****************************
世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
*****************************
三つだけ推奨するとしたら?
1. ドル安とアジア :ドル安によって,アジアから国際協調と新しい国際通貨秩序が始まる?
2. ウクライナの革命 :民主化を求める群集は,鎮圧部隊と対峙し,凍った通りに花を置いた.
3. 国連改革 :国連を通じた大国の支配を排して,拒否権をルールにより配分すべきでは?
******************************
ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
FT November 25 2004
Europe must help slow the dollar's decline
By Brendan Brown
BG November 25, 2004
Dollar danger
Nov. 26 (Bloomberg)
Time Asia Pulled the Plug on U.S. Treasuries
William Pesek Jr.
FT November 26 2004
Lex: Asia’s dollar reserves
IHT, Saturday, November 27, 2004
Asian currencies: The euro zone looks east
Philip Bowring
(コメント) Brownhaはドル安の理由を,アメリカの経常収支赤字や貯蓄不足に求めません.これは貨幣の不均衡を表しており,アメリカの金融が緩和しすぎているか,欧日の金融が引き締めすぎている(ただし,日本の場合,ゼロ金利以上に緩和できないから)ということを示す,と考えます.すなわち,グリーンスパンはいつまでも自由市場の功徳を賞賛するのではなく,ドル安の行き過ぎに警告を発し,インフレ懸念による金利引上げを行うべきだし,ECBは,ユーロ・ナショナリズムに惑わされること無く,ユーロ高を抑える金融緩和に向かうべきなのです.
ブッシュ政権は財政赤字を放置する気である.アメリカは対外赤字も無視しています.外国の投資家や中央銀行は,いつまでもアメリカ政府の放漫財政,特にイラク駐留を金融し続けるでしょうか? ユーロではなく人民元が増価すれば,輸入物価の上昇で,すぐにもアメリカ人は生活水準を悪化させます.ブッシュ氏はいつまで増税を無視していられるか?
大幅なドル安で,アメリカの債務を帳消しにされる前に,アジアの中央銀行は今がまさに売り時ではないのか? 中国,香港,日本,韓国,シンガポール,台湾,タイの外貨準備は,合計で1兆1000億ドルに達する.10%のドル安でも1100億ドルの損失だ.もし本当に,40〜50%も減価したら・・・
アメリカの消費者とブッシュ政権は,債券市場で価格が暴落し,ドル安,株価暴落などに波及して,高金利で消費や減税を諦め,返済と増税をしなければ債務が爆発すると納得しない限り,今の状態をいつまでも続けたがるでしょう.ドルの特権,イラク戦争,ビナイン・ネグレクト政策,・・・どれも聞いたことがある話です.ニクソンは金と交換する約束を破棄し,他通貨の切上げを求めました.今もそうです.ただし,先の混乱の後,ヨーロッパはユーロを作ったのです.次はアジアか?
5150億ドルを保有する中国がアメリカの財務省証券を売却するという話があり,否定されたにもかかわらず,市場で債券が売られました.香港と台湾をあわせれば,8700億ドルです.日本も約8000億ドルを保有します.金融不安や非効率な資源配分を批判されているアジアが,これほど無駄な投資を続けて良いものか? 不安があるからドルを買う,ドル安を阻止する,というだけでは,悪循環です.
ドル安が進めば,ヨーロッパとアジア諸国の通貨との関係が重要になります.ユーロは経常収支調整のすべての負担を引き受けたくないでしょう.韓国がウォンの増価を許容し,中国は切上げを求められています.金融不安や不況を脱しきれない日本は,調整のための論争を未だに主導できません.もし可能であれば,アメリカを無視して,対ドル協調介入と調整コストの分担をヨーロッパとアジアが合意するべきでしょう.
NYT November 27, 2004
Foreign Interest Appears to Flag as Dollar Falls
By EDMUND L. ANDREWS
FT November 29 2004
Unilateral action can stop the dollar's slide
Paul de Grauwe
FT November 30 2004
Martin Wolf: America’s switch to a weak dollar policy
By Martin Wolf
Nov. 30 (Bloomberg)
China Tells Currency Speculators to Get Lost
William Pesek Jr.
BG December 1, 2004
The amazing shrinking dollar
By Robert Kuttner
The Guardian, Wednesday December 1, 2004
Danger - falling dollars
(コメント) ドル安は輸出を刺激し,経常収支の赤字を改善します.しかし,同時に債券価格を下げ,金利を上げて,住宅投資や自動車販売,消費を減らします.日本は巨額の介入を繰り返し,ドル安を抑え,あるいは,円滑に進めています.他方,中国も固定レートを維持するための介入を続けています.その中国が,外貨準備をドルからユーロに変えるという話で,ドル安が一気に進みました.既にアメリカの株価はバブルを生じなくなり,たとえ中央銀行がドル買いを続けても,いつか投資家たちがドル市場から逃げ出すでしょう.
ECBのトリシェ総裁も,アメリカのグリーンスパン議長も,スノー財務長官も,ドル安を非難し,暴落を警告するだけで,止める手立てを講じません.アメリカ市場ほど巨額の投資を円滑に吸収できる市場はどこにも無い,と自慢するだけでよいのでしょうか? アメリカは今でも資本流入を必要としています.しかしアメリカに投資するのは,もはやアジアの中央銀行やヨーロッパの投資家ではなく,カリブ海域からの資本逃避です.
なぜECBは,日本のように,介入によってユーロ高を回避しないのか? Grauweは,ユーロ高ではアメリカの経常赤字を解決できない,と言います.すなわち,第一に,赤字はアメリカの過剰消費・過少貯蓄によって起きている.それゆえドル安ではなく,アメリカの高金利や増税が必要です.第二に,アメリカが経常赤字を減らすには,ユーロだけでなく,他通貨全体に対して安くなる必要がある.それはアジア通貨,特に人民元の問題です.
では,ECBが介入すれば良いのか? 金融政策の変更を伴わないと,介入は無効でしょうか? Grauweは,「効率的市場仮説」による介入無効論に反対します.なぜなら為替市場はそれほど効率的ではないからです.為替市場が心理的な動揺を繰り返しているとすれば,通貨当局が正しいシグナルを送ることで,間違った思い込みから市場を解放することができます.その条件は,ECBが市場に対して「間違ったドル安には無制限にでも介入して阻止する用意がある」と明確に伝えることです.
また,協調介入でなければ効果は無い,という批判もあります.Grauweは,確かに協調した方が,心理的な過ちを正すのにより有効であろうが,一方的な介入も効果を発揮する,と考えます.スノー財務長官がそうした意志を持たない以上,それが心理的な要因による間違ったユーロ高であれば,ECBが正すべきです.それが必要である,と市場が理解するまで.
このGrauweの主張は,無制限な介入が長期に及べば金融緩和になるし,アメリカがドル安を望んで反対の介入をすれば,一方的な介入を相殺してしまう,という問題を残しています.中国や日本の政策を,彼は必ずしも持続可能だと思わないでしょう.
ドル安はどこまで進むべきか? その前に,Wolfは,為替リスクを重視します.民間の投資家は,為替リスクが大きいと思えば,アメリカに投資しなくなるからです.そのためにも,ドル安の程度が問題となるわけです.国内の需要を抑えて,為替レートを変えずに赤字をすべて解消できるなら,為替リスクはありません.しかし,実際の経済はそのように動きません.不況を回避するために為替レートが減価します.その程度を推計することがリスクを示すことになります.
固定を続ける,という中国当局は,投機家たちを追い払うだけの高金利を覚悟しているのか? と問われるでしょう.アジア通貨危機において,マハティール首相は投機家たちに挑戦しました.しかし市場が動き始めたら,資本規制など無視され,中国の脆弱な金融システムが耐えられない,と危惧する声もあるわけです.統制経済の停滞に回帰するのか? あるいは,もし日本が一層の円高を許容すれば,中国も切上げや増価を検討する?
ドル安を過激にするものとは,経常赤字解消を妨げる要因です.1.ドル安を自動車価格に反映させないトヨタなど,日本の自動車会社.2.ドルに固定した中国の人民元.3.赤字を増やす石油依存.4.財政赤字でも減税しようとするブッシュ政権.ブッシュ政権の戦争指導者スタイル,近視眼が直るとは思えない.金融パニックの可能性は,ヴォルカーが言うように,この数年以内なら75%だ! とKuttnerは同意します.
ドル暴落に対して,日本やヨーロッパには何ができるか? 危機の波及は避けられない? 一国回復策は可能か? ヨーロッパや日本の改革は進んでいるのか? 地域ブロックへの依存を増やす? それを予想したアメリカの先制攻撃型対応策とは何か? 資産凍結や課税もありうる? ドルに代わる国際通貨は何か? SDRsは多角的交渉で復権できるか? ・・・
FT November 25 2004
Martin Wolf: Civilisation and tough liberalism
By Martin Wolf
(コメント) オランダ出身のWolfは,Theo Van Gogh殺人事件がオランダ社会にもつ意味を考察しています.
まずPaul Seabrightの研究を援用して,Wolfは人類が発揮した「異なる者との協調を制度化する能力」を賞賛します.優れた制度があれば,私たちは異邦人でも名誉ある友人とみなせます.しかし,集団間での信頼関係はさらに重要です.それが自由主義,もしくは多文化主義を目指すオランダの諸制度でした.
しかしビジネスと異なり,政治や信仰の問題では,人々は余りにも小さな集団や地域に執着し,互いを敵と見なします.もし自由主義的な社会が持つ価値を軽視し,あるいは敵視するような集団が移住してくれば,社会制度は存続できるでしょうか? 文化的な同調を強制する社会を目指すのではなく,Wolfは四つの論点を示します.
1. 人の移動よりも,財・サービス・資本の移動が優先される.
2. 社会的な繁栄と安定のために,どのような移民を,どの程度まで受け入れるか,考えなければならない.
3. 学校や教会を使って,寛容な民主主義と根本的に矛盾するような価値観や態度を助長することは,違法としないまでも,強く非難されるべきだ.
4. すべての市民が発達した民主的社会の機会を享受できるように,最善を尽くすべきだ.
オランダの教訓とは,自由な民主的社会が依拠する「市民同志の信頼」は,非常に壊れやすいものだ,ということです.寛容は文明の基礎であるが,同時に,不寛容を許容してはならない.そのバランスは難しいが.
NYT November 26, 2004
When Weakness Is a Strength
By STEPHEN S. ROACH
FT December 2 2004
Deficits that need a global answer
By Wynne Godley and Alex Izurieta
(コメント) 「ブッシュ政権は暗黙の合意を与えているようだし,グリーンスパン議長も漸く同意した.しかしアメリカの外では,政策担当者がアメリカの経常赤字に不快感を示してきたし,その救済策に反対している.ヨーロッパはドル安を残忍だと非難し,日本は為替市場に巨額の介入を行った.中国当局は世界の不均衡を「メイド・イン・アメリカ」だと糾弾する.」
しかし,実際は誰もが責任を負っている.ドル安それ自体が問題ではなく,世界経済が均衡を回復する必要こそ重要である,とROACHは主張します.もし非難合戦を止めて,主要国間で調整が進むなら,ドル安は歓迎すべきことなのです.
アメリカ発の危機を免れるには,経常赤字を抑制し,しかも財政赤字を爆発させないことが必要です.そのためには,アメリカが輸出を伸ばす必要があり,ドル安だけでなく,ヨーロッパと日本が成長しなければなりません.そして中国が人民元を切り上げることです.多くの同意が得られるこの解決策に向けて,障害は克服されるでしょうか?
ST Nov 26, 2004
Time for Asia to wean itself off US
By Janadas Devan
(コメント) クリントンは真実を語るコツを心得ていました.民主党大会で彼はこう述べた,とDevanは伝えます.「もちろん彼らはわれわれと良い職場を競い合っているさ.しかし,われわれは自分の銀行家たちに通商法を強制できるだろうか? それはないよ.そうだよ?」 と言って肩をすくめました.会場は爆笑に包まれた,と.
その銀行家たちの一人,中国人民銀行のLi Ruogu副総裁が,FTとのインタビューで明確に述べました.クリントンの不安が的中したわけです.アメリカの構造的な過剰消費・過少貯蓄を解決するために,中国が人民元を切り上げるつもりは無い,と.もし中国の黒字を減らしたいなら,それは簡単だ.アメリカは軍事技術やハイテク製品を中国に売ればよい.「おいおい,私たちが君たちの銀行家なのだよ.軍事やハイテク分野で追いつかれたくないって? 私たちが貸さないなら,君たちは破産するのに? 誰のおかげで暮らせているんだね,友よ.」
アメリカ人は飽食を続けながら,まるで問題は世界の側にあるという顔をしていた.しかし,外の世界に対して借金を増やすことは,それだけ弱みを握られるわけです.
しかし,世界はアメリカに何を求めているのか? 共犯者でもある銀行家たちは,要するにアメリカがクレジット・カードを破り捨てて,問題を自分たちの上に掃き捨てないよう,より穏健な解決策を考慮するべきです.
同時に,アメリカへの投資が経常収支赤字の原因だ,と自慢してきたクリントンから,財政赤字を資本流入で賄うブッシュへと変わったことが,アジアの銀行家たちに何を思わせるでしょうか? アジアはアメリカの消費に融資し続けることで輸出を伸ばしてきました.今後とも,それを続ける気でしょうか? それは持続できない,と認めるべきです.
アジアはドル安を受け入れて,特に中国は早期に切上げを実施するべきです.同時に,ドルから資金を分散することでアメリカの金利を引き上げ,ブッシュ政権に財政再建を促すことでしょう.そして,アジアの貯蓄はアジアで投資し,成長と互いに輸出を増やすことです.
WP Thursday, November 25, 2004
The Guardian, Thursday November 25, 2004
Freedom's front line
Timothy Garton Ash
FT November 28 2004
Theat of east-west split looms in Ukraine
By By Stefan Wagstyl in Kiev and Tom Warner in Donetsk
FT November 30 2004
Spectre of a split
(コメント) WPは述べます.「ウクライナでの不正に抗議するのは,アメリカとEUが新しい西側の従属国を求めているからではなく,多くのウクライナ人が求めている独立と民主主義を支持するからである.もし彼らがそれに成功すれば,彼らは東西の分断を創り出すのではなく,プーチンによる分断化を阻止するのだ.ウクライナであれ,他のどこであれ,プーチンの行動は,クレムリンが支配する非民主的な諸国による新しいブロックを建設する方向を目指している.それは隣接するEUと全く対照的だ.」
Ashは述べます.「ウクライナのデモ隊は,暴動鎮圧部隊ののぞき穴を開けたメタル・シールドの囲いの中で,キエフの凍った通りに花を置いた.」 それは私たちに向けられた絶望的で,しかも荘厳な,メッセージである.「われわれはヨーロッパに参加したい.しかも,ヨーロッパのやり方で.」 Ashは,ジャコバン=ボルシェビキ型の暴力革命が終わり,ヨーロッパの新しいベルベット革命が広まっている,と考えます.プラハ,ベルリン,セルビア,グルジア.明日では遅すぎる.今すぐ,彼らを支持しなければならない,と.
彼らの連帯は明白です.主要な民間学生組織 “Pora” は,「時が来た」という意味です.彼らはミロシェビッチを倒した学生たちから教わって,1989年のプラハに集まりました.セルビアの学生たちはグリジアにも現れました.他方,革命に反対する側は情報を統制しています.国営テレビ局は現代のバスチーユだ,とAshは述べます.反対派は皮肉にも「自由投票派」を自称し,炭鉱組織を動員して都市のリベラル派を威圧し,地方においては100%の投票率という欺瞞を重ねて多数による勝利を捏造します.学生たちはBBC放送を通じて訴えました.「ヤヌコビッチが,われわれ学生に銃を向けないよう希望する.・・・彼らにわれわれの意志は殺せない.」
ポーランドの大統領は,もしロシアが東側の支配を正当化しようとすれば,ウクライナの東西分断は現実に起きる,と警告します.「絶壁へは,ほんの一歩でしかない.過激な行動を慎むように.一滴でも血が流されたら,止めることはできなくなる.」
1990年代前半には,共産党支配からの解放が幸せな結末を迎えた.それは,現在のウクライナで起きているような,反政府活動の波及は起きない,と考えて,ロシア政府が静観したからです.しかしヤヌコビッチ候補に対するプーチンの支持は強固であり,その敗北は彼の威信をゆるがせるでしょう.ウクライナ分割は誰の利益にもなりません.プーチンが近隣諸国でロシア人とロシア語の影響を利用したケースでは,いずれも深刻な混乱を招きました.
NYT November 30, 2004
Glimmers of Sanity in Ukraine
The Christian Science Monitor, December 01, 2004
False Spin in Ukraine
LAT December 1, 2004
Ukraine's Waiting Masses
WP Thursday, December 2, 2004
Democracy for Ukraine
(コメント) 戦争や分断ではなく,どうすれば平和的に収拾できるのか? 完全な再選挙によって,正当な代表者を決めることです.部分的な解決策は混迷を長引かせ,危機を拡大します.ヤヌコビッチへの非難ではなく,制度として,最高裁がそれを決定し,プーチンや外国からの影響力は排除しなければなりません.彼らは結果を待って,その正当性を一致して支持することです.
しかし,衝突は起きるでしょう.さまざまな団体や情報,資金や武器が国境を超えているでしょう.イラクがそうであるように,周辺諸国が協力しなければなりません.また主要諸国が参加して,選挙への国際監視団を派遣する必要もあるでしょう.政府だけでなく,国際的な名声を確立したNGOや報道機関も,地方まで移動する自由を保障されるべきです.
WP Friday, November 26, 2004
Engage Iran
By David Ignatius
BG November 29, 2004
A key role for Europe in US-Iran conflict
By Robert Kuttner
FT December 1 2004
The US must stop posturing and talk to Iran
By William Beeman and Donald Weadon
(コメント) アメリカとヨーロッパは,イランの核開発問題について,the European good-cop approachとan American bad-cop stanceにより対処するべきだ,と言うわけです.イラン政府を信頼し,説得して,平和的な交渉と市場開放による利益を受け入れさせるか,あるいは軍事的に威嚇し,強制的な手段で解体を迫るか,いずれか一方では効果が発揮されません.また,アメリカの一方主義ではなく,ロシアや日本,中国,発展途上諸国を含む,多角的な外交が重要です.
アメリカは,孤立化や経済制裁,軍事的強制に頼るだけでなく,幅広い外交的選択肢や交渉のチャンネルを利用しなければなりません.
WP Thursday, November 25, 2004
Thankful for the Settlers . . .
By George F. Will
(コメント) 1862年にホームステッド法ができました.「18ドルの登記料と交換に,160エーカーの土地が手に入った.何千,何万というホームステッダーたちがやって来て,草むらに住み,バッファローの糞を燃やし,生垣を編んだ.」 「大平原には火事が起きる.そして1マイルの高さまで,1000億匹ものバッタが雲となって,100マイルにもわたって空を覆い尽くす.さらに,鉄のように厳しい気候.地表を消し去る,岩のように硬くて,チリのように細かい吹雪の中で,子供たちはわずか150ヤードしか離れていない学校から帰宅する道を探しながら,凍死した.」
ダコタの大平原を開拓したアメリカ人の一人,Lena Woebbeckeに関する論説です.彼女は25歳で亡くなりました.数時間で20度も気温が下がり,激しい吹雪や雹で,街中の子供たちが死んでしまうほどの厳しい自然を克服しながら,それでも土地と自由を求めた多くの移民たちが続々とアメリカに渡ってきました.彼らの労苦と信仰が,今のアメリカという国を作ったのです.感謝祭という習慣がアメリカ人にあるのは素晴らしいことだと思います.日本の多くの祝祭日にも,こうした一人一人を重視する歴史観がもっとあってほしいです.
NYT November 26, 2004
W.T.O. Authorizes Trade Sanctions Against U.S. for Import Duties
By PAUL MELLER
(コメント) カナダやEUなどが訴えていたように,アメリカのバード修正条項による反ダンピング規制はWTOによって条約違反であると判定され,その後のアメリカの改善策が不十分なために,1億5000万ドルの制裁を科すことが承認されました.アメリカはこの条項で自国の市場価格よりも安く輸出しようとする外国企業を訴えてきました.こうした振る舞いに,もはや貿易相手国は我慢できないわけです.
FT November 28 2004
Can the UN reform itself to stay relevant?
By Mark Turner
1945年6月26日,世界からサンフランシスコに集まった50人の指導者たちが国連憲章に署名しました.人類に,二度にわたって語りえない悲しみをもたらした戦争の惨禍から,将来の世代を救い出すために.それは「共通の利益と自衛のために使用される以外は,軍事力を使用しない」という原則に従う,新しい世界秩序を目指しました.これを確実なものにするため,国連の安保理と総会を含む,いくつかの制度が創られたのです.
アメリカ大統領であったハリー・トルーマンは,3500人の聴衆を前に,それを「歴史上の偉大な日である」と演説しました.「われわれはたとえどれほど強力であったとしても,いつも好きなことをして良いわけではない,ということを知る必要がある.それは各国が世界平和のために支払う代価なのだ.」
しかし,トルーマンも指摘していたように,時代とともに条件は変わり,国連も進化するべきでした.改革のない60年は長すぎた,と多くの者が考えています.予算の5分の1を提供するアメリカには,イラク戦争を認めなかった国連安保理への批判が強く,国連の分裂と無能さに不満を持ち続けているのです.この数ヶ月,アメリカ上院や議会がイラクに対する「食糧援助計画」の不正事件を全面的に糾弾し,右派の論客はアナン事務総長の辞任を要求しています.カリフォルニアで「前進するアメリカ」という保守派集団は,「アメリカの国連脱退」というキャンペーンを開始しました.
批判はアメリカだけからではありません.イラク戦争に反対した者は,国連がそれを阻止し得なかったことに失望しています.多くの国が国連を金持ち諸国のクラブとみなし,貧しい国の問題を無視している,と思っているでしょう.人権団体はスーダン西部,ダルフールの殺戮を止めることができない国連に憤慨するのです.
昨年の9月,高まる圧力を受けて,アナン事務総長は改革のための行動を起こしました.要するに,国連の課題とは,その正当性を確立し,世界をより安全にするための力を持っていると,各国に確信させることです.アナン事務総長が指名した16人からなるパネル(検討調査会)は,人類が直面する最大の脅威を評価し,それに対処する集団的な行動をどのように導くか,それを可能にするために国連をどう改革すれば良いか,提言を求められました.
国連は,最初,大国とその同盟間の対立を主要な関心としていましたが,今日,新しい問題に関心が移っています.破綻国家や悪漢国家の増大,それが疫病や非国家型のテロ集団を広め,大量破壊兵器を供給することです.すべての制度が,冷戦の中,組織による一貫した行動を超大国によって阻止されてきました.しかしベルリンの壁が崩れ,クウェートに侵攻したサダム・フセインを1990年に撃退したとき,国連は漸く最初に意図された役割を果たせる,と思われました.しかし,最近のイラク戦争ではその弱点が鮮明になり,安保理は分裂したまま,イラクに派遣されていた国連職員22人が爆弾テロで殺され,国連はイラクを撤収しました.
提案された解決策には,テロの定義や,核不拡散体制の再生,エイズ撲滅の100億ドル基金,ドーハ「開発ラウンド」の2006年までの完成が含まれます.またパネルは,国連が軍事力の使用を認める条件を明確にしました.また,政府が国民の人権を蹂躙する場合に,国際社会は彼らを守る責任を持つ,と考えます.国連がアメリカの権力を制約したり,逆に,各国政府に民主主義を要請したりすることが示されていないことを,不満に思う者もいるでしょう.各国が協力して行う介入について,国連は正当性を保持し,最大の脅威にも対処できるのです.
国連改革とは,問題を討議する側面と,決めたことに正当性を付与して実行する側面に分かれます.諸国が同意しなければ,行動もありません.報告書は,安保理の参加国を増やす制度改革と,開発問題との「グランド・バーゲン」を進めています.どちらにも反対は多いのです.国連で決めたことを実行できるのか? たとえばPeace Building Commissionを提案するなど,組織の動脈硬化を克服し,官僚制度としての国連が行動を起こせるよう,アナン事務総長は「大胆な」提言を求めています.
アメリカを含めて,すべての国が交渉し,妥協することで,国連を正しい問題解決の場に変えて欲しい,とTurnerは考えます.
FT December 1 2004
Global threats require global response
The Guardian, Thursday December 2, 2004
The only one we've got
IHT, Friday, December 3, 2004
The UN's role: There's work in Asia
Michael Vatikiotis
IHT, Friday, December 3, 2004
Kofi Annan: A way forward on global security
Kofi Annan
(コメント) アジアは,将来の紛争について,最も国連の役割を重視する地域でしょう.安保理の改革が拒否権を扱わなかったことは,将来の問題について不安を残しました.要するに,アジアの秩序は中国が決めるのか?
特定の大国間の駆け引きが秩序をゆがめず,しかも,大国の参加と合意を尊重し,平和的な交渉によって,地域の安定を維持するためには,絶対的な拒否権をなくし,IMFやEUのように国別の貢献度と投票権を数値化するべきです.そして重要決議の承認ほど,それに見合った高いハードルを設けることです.たとえば全体の80%の賛成を必要とする案件なら,20%以上の投票権をもつ国と,20%以上に達する小国のグループが,拒否権を行使できます.
FT November 28 2004
Wolfgang Munchau: Correction of economic policies
By Wolfgang Munchau
(コメント) 1970年代初めとの類似性には不安を覚えます.当時,ドル安は深刻な経済不安定性をもたらしたのです.アメリカ政府がヴェトナム戦争に要する軍事支出を持続的な財政赤字の増大にしてしまったからです.通貨政策は緩和しており,石油価格が上昇しました.実質で,今よりはるかに高く.崩壊したブレトン・ウッズ体制と,今日の(擬似?)ドル・ペッグは,不気味な類似を示します.
NYT November 28, 2004
The Last Mile
By THOMAS L. FRIEDMAN
NYT November 30, 2004
Think Small in Iraq
By ROBERT MALLEY and JOOST HILTERMANN
WP Tuesday, November 30, 2004
Don't Postpone Elections
LAT December 2, 2004
What We Won in Fallouja
Max Boot
NHY December 2, 2004
The 9/11 Bubble
By THOMAS L. FRIEDMAN
WP Thursday, December 2, 2004
Stick With Jan. 30
By Jim Hoagland
(コメント) ファルージャの攻撃を終えても,まだ,イラク分割統治案,選挙や治安確保の地域的縮小案,選挙延期論,などが現れます.
多くの間違いを犯した後でも,FRIEDMANは,最後の1マイルを駆け抜く力を示せ,とブッシュ政権を鼓舞します.なぜならイラク戦争の評価は,この1マイルで決まるからです.ブッシュ政権はサダム・フセインやアラファトが去った後に,民主的な政府と市民社会が現れて,アメリカと一緒に秩序を再建してくれる,という間違ったモデルを信じていました.すなわち,「ベルリンの壁」型転換です.実際には,独裁者が去っても,民主主義や市民社会は存在しませんでした.それらを上から押し付ける仕事に,十分な準備もなく取り組みました.
十分な合意も,開明的な指導者も居らず,問題は山積し,極端に分断された部族社会が秩序や利益をめぐって争い始めました.ブッシュ政権が煮えたぎった釜の蓋を開けたのです.そして,その後は方針を持っていません.戦争でも,料理でも,このような状況での第一原則は,釜の温度が下がるまで,決して蓋を取るな,であったのに.だから混乱は必至でした.FRIEDMANは,むしろ最後の1マイルに注目します.
今からブッシュ政権は,選挙や新政府にスンニー派の参加を促し,正当性を確保し,電気の供給や下水を整備し,雇用を与え,市民に再建への信頼を広めることです.570ヶ所以上の投票所で安全を確保し,アル・ジャジーラなどとの情報戦に勝って,イランやシリアの干渉を排除しなければなりません.政治的目的が達成されるとき,初めて,戦争に勝利できます.
他方,FRIEDMAN にとっても,“The 9/11 Bubble” の崩壊は避けられませんが.政府も国民も,愚かな幻想を捨てて再建に向かうときだ,と.
FT November 30 2004
Japan still waits for a turnround
(コメント) 日本の景気回復に関する悲観的見方です.日銀の福井総裁とは異なり,余りにも雇用削減と不良債権処理にだけ回復を依存している,と記事は批判しています.国内需要を支える消費も,金融も,投資も,まだ少しも新しい形が見えません.漸く,「問題の始まり」が終わったに過ぎない?
ST Dec 1, 2004
China's trade pact with Asean: Who gains?
By Michael Vatikiotis
ST Nov 30, 2004
Asean, China in tandem
The Japan Times, Thursday, December 2, 2004
First step to an 'open door'
(コメント) アジアにおける自由貿易圏は,誰の利益か? 農産物でも,工業製品でも,中国からASEANへの輸出は急増するでしょう.確かに今は,ASEANが中国の急成長に必要な資源を輸出して,大きな黒字を出しています.しかし,時間が経てばこの関係は逆転します.それでもASEANは中国経済との結びつきを強める他はない,とVatikiotisは考えます.中国との関係で発展のチャンスをつかめるでしょう.また,ASEAN地域が統合すれば,中国のさまざまなリスクに対して投資家が求めるような魅力的選択肢を示せる,と.しかし,多くの地域統合論が示す数字の合計額は,信用しない方が良いと思います.
The Japan Timesは,日本政府のFTA戦略を概観しています.シンガポールに始まり,特に,タイ,マレーシア,韓国とのFTAを重視して,自由貿易圏をめざすわけです.交渉では労働者の受け入れや米の輸入自由化問題など,日本が貿易自由化とともに迫られる国内問題を扱わねばなりません.中国とのFTA競争や,WTOによる自由化交渉が進まないことによる不安が,日本政府・官僚を動かしつつあるのでしょう.
LAT December 1, 2004
Disorganized Labor
By Richard Hurd, Richard Hurd is a professor of labor studies at Cornell University.
(コメント) 労働組合は消滅するのか? あるいは・・・ 新しい産業構造に見合った労働組合が形成されるのかもしれません.組合を結成するメリットが何であるのか,労働者たちも再認識を迫られるはずです.
FT December 2 2004
Historic chance for the world's emerging economies
By Mohamed El-Erian
(コメント) 新興市場の成長が,債務に依存したアメリカに代わって,世界経済の成長のエンジンになるときが来るかもしれない?
経常黒字,外貨準備増,公的債務削減,経済成長を高めている新興経済には,外部環境の好転だけでなく,国内のマクロ政策や構造改革も進んでいることが示せます.購買力で測れば,新興経済の経済活動が世界の半分に達し,貿易の主要な拡大要因,帝国との生産拠点を提供している,と言います.
しかし問題はあります.@改革には大きなばらつきがある.A短期資本の流入による浮動性が残る.B世界経済の安定化機能を担うには,旧工業諸国との関係を調整する必要がある.Cアメリカが金融的不均衡を調整するときの需要不足は補えない.DG7など,世界的なマクロ政策協調の枠組みに入っていない.
新興工業諸国が経済的規模を拡大することは確実です.近い将来,旧工業諸国の既得権や金融的支配,政治的秩序の硬直さが,国際的経済調整の障害となるかもしれません.
******************************
The Economist, November 20th 2004
China’s growth spreads inland
China’s development: String of pearls
(コメント) 中国は景気過熱でインフレを生じ,それを抑えるために激しい不況に落ち込むのか? さらに,急速な成長が引き起こした貧富の格差や汚職,腐敗が激しい社会混乱を招くのか? The Economistは,必ずしもそうではない,と考えます.
特に,中国の成長は地域的な波及を生じつつあり,同時に,農村や内陸部からの人口移動が急速な都市化を実現しつつあります.このことは,インフレや所得格差に対しても,市場が機能している,ということを示しているわけです.もちろん,中国の成長がいつまでも輸出を伸ばし続けることによって維持されるはずがありません.過熱した経済を抑えるためにも,政府は金利を引き揚げ,人民元を切り上げて,資源配分を効率的に再配置するでしょう.それは内需拡大による成長も可能にするはずです.
日本や韓国だけでなく,アメリカも,初期の輸出による成長を次第に転換したわけです.何も異常なことではありません.確かに,共産党の既得権や銀行システムの改革には限界があるかもしれません.しかし,長期にわたって高い成長率を維持できる条件があるからこそ,こうした限界も非常に弾力的です.
たとえば,早くも労働供給が枯渇し始めて,上海との競争に苦戦しつつある香港と,その背景となっている広東省は,「9+2」(9つの省や自治州と2つの特別市)を集めて,広域の非関税地域を形成し,揚子江流域の経済協力を提唱します.人口はEUに匹敵する4億5000万人,GDPは6300億ドルに達し,中国の土地の5分の1,人口の3分の1を占めるものです.大幅な賃金格差や産業構造の違い,資源の利用などから,有益な補完性を実現できると考えます.
問題は,今まで地方政府間の競争によって,重複した過剰な投資や計画が乱造されてきたことです.しかし北京の政治支配がなくても,彼らは協力することを学びつつある,とThe Economistは期待します.
The United Nations: Time for a re-think
United Nations: Fighting for survival
(コメント) The Economistの理想は,アメリカと国連をともに必要としています.アメリカは世界中で,国連よりもはるかに多くの間違いを正し,行動してきました.しかし,国連はアメリカにできないような,世界中の国に参加できる交渉の場を提供しています.ルールに依拠した世界的統治のシステムを少しでも実現していこうと思うなら,アメリカも国連も,どちらも必要なのです.どちらか一方ではなく.
アメリカが安保理の決定を経ずに戦争を始めたこと,また,国連が繰り返し世界各地の虐殺や核開発を阻止できなかったことは,国連の信用を損ないました.このままでは,国連は意味のないおしゃべりの場所になってしまいます.こうした危機意識から,今まで実現できなかった国連改革が実現するかもしれません.
戦争を始める条件,戦後統治や破綻国家の再建,先制(予防)攻撃の条件,テロの定義,人道的介入の条件,安全保障理事会の改革,常任理事国の基準,特に拒否権の扱い,反対する諸国への説得,などが含まれます.否,拒否権に関しては,パンドラの箱を開けてしまうことを恐れて,パネルが改革を拒んだと言います.私は,合意されたルールに従い,拒否権を配分(そして定期的に再配分)することを求めたいです.それは大国の行動を牽制し,事後的に検証することにもなるからです.
Controlling the internet: World v Web
The WTO and online gambling: House of cards
(コメント) インターネット上の世界(ドメイン名)を統治するのは誰でしょうか? アメリカ政府(国防省)? 民間団体や科学者? あるいは国連? 費用や効率性の点だけでなく,技術革新を妨げず,政治的な情報統制を免れている点で,The Economistは現在のICANN「アメリカ+民間団体」形式を支持します.