IPEの果樹園2004

今週のReview

11/29-12/4

IPEのタネ

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   ウクライナの大統領選挙 :ロシア型の「操作された民主主義」を離脱するか? 国際介入も必要か?

2.   チャドの油田開発 :資源を開発する国が,真に,豊かになる方法を見つけるのは誰か?

3.   ファルージャへの攻撃 :アメリカ兵の誇りと傲慢,もしくは狭隘さ?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


FT November 18 2004

China has taken a small step on a big journey

By David Hale

(コメント) 中国の金利引上げについて,市場経済に向かう正しい選択であった,とHaleは支持します.それまで政府が金利引上げを嫌っていた理由は,@投資ブームの過熱を認めたがらなかった,A国有銀行の健全性に対する懸念や不良債権を心配した,B資本流入と外貨準備,貨幣供給の増加をもたらす,ということでした.そこで中国政府は預金準備率を引き上げ,さまざまな行政指導によって融資を減らそうとしました.

しかし,急速な銀行融資の抑制は,健全な企業までクレジット・クランチに巻き込み,同時に,銀行預金が実質マイナス金利になっている中で,非公式な金融が拡大していることに,政府も注意を向けるようになりました.もし闇金融がこのまま拡大すれば,政府の金融に対する支配力も失われます.それゆえ政府も,規制による金融管理だけでなく,遂に資本のコストを変更する必要を認めました.

Haleは,この事実が金融政策に関する論争を刺激し,さらに大きな金利引上げを必要としていることが認められるはずだ,と予想します.そして,為替レートの弾力化とあわせて,資本の効率的な利用が進み,消費が長期的に拡大し,持続的な成長と資本流入に支持された為替レートの安定も可能になる,と考えます.


LAT November 18, 2004

Trading Up

ST Nov 19, 2004

Apec is about networking

FT November 16 2004

Trade deals offer little benefit to developing world

By Guy de Jonquieres in London

FT November 22 2004

World trade liberalisation still excludes Africa

By K.Y. Amoako

(コメント) ブッシュ再選は,どの程度,その政治的資本を自由貿易の実現に振り向けるのでしょうか? LATは,ブッシュ政権Uが,国内の保護主義勢力に対抗する市政に注目します.それは,労働組合,特殊利益団体(砂糖,綿花など,保護された業界),そして中米自由貿易圏CAFTAなどの地域主義・FTA協定です.

CAFTAはGuatemala, El Salvador, Honduras, Nicaragua and Costa Ricaが参加する自由貿易圏であり,NAFTAがメキシコに果たしたように,自由化と民主化,そしてアメリカ市場への結びつきを強化する意味があります.これら5カ国で経済が繁栄し,民主的な政府が安定することは,アメリカにとって政治的にも重要です.しかも,その経済規模は800億ドルしかありませんが,アメリカからの輸出額は5カ国合計で230億ドルを超えており,それはロシア,インド,インドネシアを合計したものより大きいのです.

同時に,CAFTAには現代の保護主義の特徴がすべて見られます.アメリカ政府は砂糖業界の保護を譲らず,労働規制や環境規制を理由にさまざまな保護主義を取り込みました.

サンチアゴにおけるAPEC総会に見られるように,世界の政治指導者たちは自由貿易よりも他の課題に関心を向けています.自由貿易によって地域の繁栄を目指すAPECが,実際にはさまざまな二国間の政治交渉,特にテロ・安全保障や領土問題に忙しく利用されています.

世界銀行は,こうした二国間もしくは地域的な貿易取り決め(RTAs)が能駅自由化に役立っていない,という調査報告書を出しました.1990年以来,RTAsは4倍に増加し,約230に達し,その加盟諸国間の貿易は世界貿易の3分の1を超えています.しかしRTAsによって発展途上諸国が関税を下げたり,交通インフラを改善したりした,という効果はほとんど見られません.特に小さな発展途上国が発達した大国とのRTAsに頼ると,貿易の利益は限定されてしまいます.なぜなら,RTAsは,しばしば貿易の障壁を減らすよりも,小国が大国の複雑なルールに従わされ,しかも,アメリカやEUも出稼ぎ労働者の自由化には否定的です.

RTAsが通信や金融で発展途上国に利益をもたらす,と言われますが,全面的に世界市場に対して自由化する方が良いでしょう.また,アメリカは発展途上国の利益にならない資本自由化や知的所有権を強いています.RTAsに含まれない諸国との取引をできるだけ差別化せず,世界貿易の自由化を進めるためには,各国の国内政策を変更し,WTOなどの国際機関がもっと監視・助言しなければなりません.

2001年11月に,WTOがドーハで自由化交渉の開始に失敗したように,発展途上諸国は自由化交渉が自分たちの利益になるかどうかを疑っています.アフリカが世界貿易に占める割合は1980年の5%から現在は2%に低下しました.豊かな諸国で農産物の自由化が進まないからです.貧困解消と貿易自由化を結び付けるドーハの精神は,アフリカ諸国とEUとの経済連携協定(EPAs)に示されています.この問題についても,全面的な自由化交渉が進まないなら,地域協定で先行するべきだ,とAmoakoは考えます.


WP Thursday, November 18, 2004

Apparel Apocalypse?

By Fred Abernathy and David Weil

(コメント) 繊維製品の輸入に関する多国間割当制度が廃止されれば,特に中国からの輸入が増えて,アメリカの繊維産業は壊滅されるという声が政治家たちを刺激しています.しかし二つの要因が,必ずしも,繊維産業が衰退しないことを示しています.

まず,アパレル製品の輸入は既に隣接した諸国から多く行われています.なぜなら,安価な量販店が主流ではなくなり,むしろ,近隣の生産拠点から流行の変化に迅速に対応することで売上を増やせるからです.ウォル・マートは1週間単位で品揃えを見直している,と言います.また,GATTの下での割当制度は終わっても,より複雑で巧妙な関税や地域取り決めが今後も続くでしょう.特にメキシコやカリブ海諸国は自由貿易協定をアメリカと結び,わずかな差でも消費者が意識する商品では,こうした差別的な取り決めが重要です.もちろん,それでも生き残るためには技術への投資が必要です.アメリカの小売店や消費者の要求に応え続けることです.そして,近隣諸国間で障壁を下げ続けることです.


FT November 19 2004

Ukraine's election contest is a rebuke to autocracy

By Chrystia Freeland

WP Friday, November 19, 2004

Ukraine's Democratic Strengths

By Stephen Sestanovich

(コメント) 反対派が,選挙結果は不正である,と主張した場合,政治はどうなるのでしょうか? 国民に主権がある,という定義だけでは,国民の意思をどのように判定すればよいのか,分かりません.そして深刻な対立があれば,選挙は行えません.

ウクライナでは,ソ連時代からエリツィン,プーチンが引き継いだ「管理(操作)された選挙」という伝統が国民によって否定されました.それゆえ,選挙結果は誰にもわからず,本当の選挙戦=戦争が行われるわけです.投票所では,配管工や教師,年金生活者,学生,主婦,農民たちが,不正の無いように監視しています.しかし彼らは投票箱がどこかに運ばれて,不正に集計されることを疑っています.中央選挙管理委員会は国民からの糾弾を恐れています.

プーチンは,たとえポーランドやバルチック諸国,グルジアで民主主義が行われても,その歴史や文化の違いを理由に,ロシア型の民主主義を擁護できました.自分を批判する新聞やテレビ局,産業界の指導者を弾圧し,地方政治や政党を丸ごと支配し,税務署や裁判所,秘密警察などによって有権者を脅迫したわけです.しかし,ウクライナは違いました.もしウクライナで違った民主主義が行えるなら,ロシアもそうなのです.プーチンの言い訳は否定されることになります.だから親ロシアのヤヌコヴィッチが当選しなければならないと考えます.

もし野党候補のユシュチェンコが当選すれば,それはポスト・ソビエト社会における革命へと波及するでしょう.

この選挙では,民主主義が争われているだけでなく,貧困,犯罪,腐敗,などが争われ,西部のポーランドと西側へ向かう文化と東部のロシアに向かう文化とが衝突しています.選挙戦で現れた政治の地域的分断化は非常に深刻ですが,それは敗者の側にも民主的な政治的基盤を保証する,という意味で,健全な民主的政治過程なのです.

選挙は統一した政治意志によって最終的答えを出す仕組みではありません.対立を明確に示し,和解や妥協を探るための新しい政治的条件や交渉の代表者を決める過程である,と理解すべきです.


WP Friday, November 19, 2004

For Bush, Confidence Can Cut Two Ways

By David Ignatius

(コメント) 世界を動かすアメリカ外交の方針は,ブッシュ再選で固まりました.ブッシュ氏は確固とした指導力を発揮するときです.しかし彼の欠陥はその姿勢に現れています.すなわち,ギリシャ悲劇の用語ではhubris「神々への不遜」もしくは傲慢さです.

パウエル,ライス,ゴスCIA新長官の指名と内紛を通じて,Ignatiusは警告を感じています.ブッシュ大統領は,彼自身への忠誠心だけで,その職務を果たす能力や方針を正しく評価していないのではないか? と.


LAT November 20, 2004

Ending Hunger Today and Into the Future

By Michael Flood

(コメント) UCLAの調査によれば,ロサンジェルス郡だけで77万5000人が「食糧の不確実な」状態にあったと言います.すなわち,彼らはしばしば食卓に食事を用意できなかったのです.アメリカ全体では,約3500万人がまさに飢餓を味わっている,ということに驚きます.アメリカから飢餓をなくす計画について,「地球上から飢餓がなくなる日,われわれ経験したことの無い精神の高揚を感じる.世界に広がるその喜びを,人類は想像もできない.」というロルカの詩が示されます.感謝祭だから.


NYT November 20, 2004

Fuel of the Future? Some Say Coal

By SIMON ROMERO

The Guardian, Tuesday November 23, 2004

Fuel for nought

George Monbiot

(コメント) 資源はどうでしょうか? 石油価格が高くなれば,その他の資源が注目されます.かつては太陽エネルギーや原子力,水素,天然ガスでしたが,ROMEROはアメリカで石炭業が復活しつつある,と紹介しています.中東の石油に依存したくないために,ブッシュ政権Uの環境規制とエネルギー政策が転換するかもしれません.

他方,Monbiotは,イギリス政府が関心を示す植物オイルの利用に警鐘を鳴らします.しかし,廃棄される植物からオイルを抽出することは,さまざまな関係者を喜ばせています.農民,化学工場,政府,そして環境保護論者が歓迎します.しかし,彼らの楽観が続くのはわずかしか使用されていないときだけです.

もし植物オイルだけでイギリスの自動車が今と同じ距離を走るとすれば,イギリスの国土が570万ヘクタールしかないのに,耕地は2590万ヘクタール必要です.イギリス人は餓死してしまう? もちろん,すべての耕地が燃料用の植物に支配される前に,人間や動物のための穀物を育てるはずです.しかし,世界的に見ればどうでしょうか? すでに世界には飢餓で苦しむ人々が何億人もいるのに,人類は一部の人々が肉食を楽しむために耕地の多くを独占しています.自動車の燃料も同じです.


FT November 21 2004

Amity Shlaes: Tax changes can save US from critics

By Amity Shlaes

FT November 22 2004

Say it softly: the solution is a tax increase

By Stephen Cecchetti

(コメント) アメリカの経常収支赤字とドル安をヨーロッパに非難されても,スノー財務長官は笑って答えます.確かにアメリカは貯蓄率を高めたいが,ドルは別問題だ,と.

経常収支赤字をなくすには,アメリカが貯蓄を増やすか,他の黒字国が投資を増やすべきです.ブッシュ氏は税制改革によって,投資や貯蓄に課税しないよう求めています.最も好ましくないのは,増税によって,アメリカの市民文化や成長を抑えてしまうことです.そして四つの提案を比較します.@売上税,A付加価値税,Bフォーブズの均一税,C資産保有や投資に対する課税を漸進的に減らす.これらは為替レートを変えないだろう.アメリカのインフレや中国の為替レートの弾力化によって,ドルの為替レートは影響を受ける.

アメリカがいずれの方法で貯蓄を増やしても,他の諸国は成長を加速するべきです.

1971年のコナリー財務長官の発言,「ドルはわれわれの通貨であるが,ドル問題とは君らのものだ」と違って,今や,アメリカにとってもドルが問題です.「強いドルはアメリカの利益だ」という政策は,1990年代にルービン財務長官が始めました.当時はアメリカ経済が成長し,財政黒字で,株価が上昇し,資本流入によってドル高と経常収支赤字が生じている,と言えたのです.海外の投資家はアメリカ市場に殺到しました.

その後,資本市場は下落したのに経常赤字は増え続け,財政赤字が生じています.アメリカは投資にふさわしい場所ではなくなりました.ドル安が不思議なのではなく,金利が上昇しないことが不思議でした.その理由は,よく知られているように,日本と中国が大規模に為替市場に介入し,財務省証券を買ってアメリカの財政赤字を埋めたからです.

しかし,外貨準備もドル安には逆らえません.日本(8000億ドル)と中国(5000億ドル)の外貨建資産はドル安による損失をもたらします.ほとんどの国で外貨準備の保有は独立に管理されており,その運用も公表されています.それゆえ,損失を出し続ける資産を保有することはできないのです.もし円高や人民元の切上げ,ドルの金利上昇が起きると,キャピタル・ロスを生じます.アメリカ政府は増税し,財政政策を変更するしかありません.1990年代にアメリカが広めた世界資本市場が,今まで他国の政府に強いてきたように.

「もしアメリカ政府が直ちに手を打たないと,ラテン・アメリカ諸国と同じ経験をするだろう.金融崩壊だ.ドル安はほんの手始めに過ぎない.外国為替市場のトレーダーは,債券市場の自警団が使う偵察隊でしかない.何も変わらなければ,注意しておくことだ.」


NYT November 20, 2004

Descent of Ivory Coast

WP Monday, November 22, 200

Road to Violence

By Douglas Farah

(コメント) 象牙海岸は,1960年に独立した後,戦後の経済発展を順調にたどってきました.その成長の理由はココアの栽培に適した土地であり,長期の支配者であったHouphouet-Boignyがイスラム教とキリスト教の宗教対立や,数十の部族間で対立を抑えてきたことです.アフリカの多くの国が資源による内戦で貧しくなったのと対照的に,庶民の暮らしは停滞していましたが,国は豊かになりました.愚かな工業化に向かうより,移民を受け入れてカカオを増産しました.

しかし,1993年に彼が死ぬと,その安定した支配は失われました.現在の政府を率いる南部の支配者Laurent Gbagboはキリスト教徒で,北部のイスラム教徒が支持するAlassane Ouattaraを選挙から排除し,敵対しました.Gbagboは南部を優遇し,さらに北部の移民たちから市民権を奪いました.この政策が内戦をもたらしたのです.

今月初めにGbagboの軍隊が停戦を破り,駐留していたフランス軍も攻撃し,平和維持軍を殺害しました.フランスが報復すると,Gbagboは支持者を煽動してフランス市民を襲撃しただけでなく,権力を失う不安から,この国の分割やリベリア,シエラ・レオネへの戦闘拡大をも目指しています.国連安保理はGbagboに停戦合意を守るよう求め,改革を実行しなければ制裁を科すと表明しています.

たとえ国際介入が成功しても,象牙海岸は分裂し,経済や社会は混乱したままです.制裁や国際的な平和維持部隊が駐留することは,どれほど時代錯誤に思えても,その住民の安全を確保するために必要です.

WPの記事も,国連による武器輸出の禁止,宗教対立・地域対立・植民地支配への反感を利用したGbagboの分断化,などが指摘されています.その結果,決して社会や経済の秩序を維持できず,外国からの投資は失われ,雇用が失われ,移民たちは家族に送金できず,テロリストが流入し,恐怖が支配しています.

北部の反政府軍も,民主的な政府を再建するとは思えない,リベリアの独裁者チャールズ・テイラーが率いた暴力集団の一部や,ダイヤモンドや武器の密売業者,汚職に染まった役人たちだ,と言われます.禁輸と制裁に加えて,アフリカ連合による軍事介入を支援する方法が検討されています.


NYT November 20, 2004

Postcards From Iraq

By THOMAS L. FRIEDMAN

NYT November 20, 2004

A Doctrine Left Behind

By MARK DANNER

The Guardian, Friday November 26, 2004

Smoking while Iraq burns

Naomi Klein

(コメント) FRIEDMANは,ファルージャへの攻撃を支持します.彼はそこで兵士たちと話し,現実から未来を想像します.一つは携帯電話で作った爆弾です.地獄の門のそばで営む免税店の棚には,色とりどりの携帯電話でできた爆弾が並んでいます.もう一つはファルージャから暴徒を追放したアメリカ兵たちの勇姿です.彼の想像力では,これこそ「ノアの箱舟」です.アメリカ兵たちは,人種や宗教の違いを超えて協力し,海兵隊と陸軍とがフットボール・ゲームを楽しむように,武装した暴徒たちを追い払って行きます.イスラム教徒の民間人やボランティアまで襲うようになった暴徒たちを攻撃することは,イラクの宗教指導者にも支持されている,と.

FRIEDMANは,これが一つのイラク国民を作る過程なのだ,と考えます.アメリカ人は,この厳しい土地に来て,道徳的で,民主主義を重んじる政府のタネを撒き,育てているのである.多くの失敗を犯したとしても,イラク人たちが互いに社会契約を結ぶ助けとなるのは,アメリカ兵にとって立派な行為である.何よりも,彼らはそう確信している,と.

しかし,DANNERは反対するでしょう.この戦争と作戦の継続によって,アメリカ兵の死者がますます増えているからです.大量破壊兵器を理由として始めた戦争が,ブッシュのイデオロギーによって継続しています.ヴェトナム戦争の経験から,パウエルは正しい問題を立てていた,とDANNERは考えます.

アメリカ兵の命を戦争に投げ込む前に,政策決定する者は自問しなければなりません.「われわれが達成しようとしている政治目的は明確に定義され,理解されているか? 他のすべての非暴力的手段は失敗したのか? 軍事力はその目的を達成できるか? どのようなコストで? その利益とリスクは分析されたか? われわれが変えようとしている事態は,軍事力によって変えた後,さらに展開して,どのような結果をもたらすだろうか?」

そして,ブッシュ大統領の父は,1991年に,フセインを捕らえるため戦争を継続することを拒否しました.「それは何のために行われるのか? それは,さらに死者が増えることに値する目的なのか? それに必然的に伴う事後処理,すなわち,数年に及ぶ大規模な軍隊の駐留と,バクダッドにおける複雑で費用のかかる政府支援を,引き受けるに値する目的か? アメリカにとって幸いなことに,当時の理性ある人々は,そう考えなかったのだ.」と,パウエルは書いています.

Klein の論説は,12時間に及ぶファルージャ攻撃を終えて,ようやく安堵と満足の紫煙を吐くthe "the Marlboro man"の写真がメディアを賑わせたことを取り上げています.彼は20歳の海兵隊員James Blake Millerです.国民的な英雄となり,その写真はイコン(宗教画)となって,イラク占領を輝かせています.しかし,ブッシュ大統領の政治はさまざまな免責によって実現されています.アメリカ兵はイラクの民衆を殺し,街を焼き払っても,罪を問われません.戦火によって破壊されたファルージャでタバコに火をつける兵士は,ブッシュの理想かもしれません.


WP Sunday, November 21, 2004

Mr. Bush's Better World

(コメント) しかしスーダンのダルフールにおける住民虐殺について,アメリカの立場は曖昧で,安保理の決議も後退しています.


The Guardian, Monday November 22, 2004

US risks a downhill dollar disaster

Larry Elliott

FT November 23 2004

Martin Wolf: Adjusting to the dollar's inevitable fall

By Martin Wolf

(コメント) ブッシュ政権には協調介入の意志は無く,アジア諸国の通貨が切り上げられる見込みも余りありません.今のところ,ドル安はアメリカにとって利益であり,ブッシュ政権はイラク戦争に反対するフランスやドイツと何であれ協力したくないからです.ドル安でもアメリカの一方主義が示されただけです.

もう一つの理由は,中国かもしれない,と考える者がいます.アメリカは中国が通貨をドルに固定せず,変動させるべきだと主張してきましたが,中国は政治的・経済的な理由でアメリカの要求を拒んでいます.そこで,ヨーロッパを苦しめれば,中国に対する圧力にもなるだろう,というわけです.中国が天安門事件でさえ安保理に取り上げられなかったのはフランス政府のおかげであり,フランスなら中国政府に通貨政策の変更を説得できる,と.

しかし,為替レートを望ましい水準に決めたり,ドル安を円滑に管理したりすることは,どのような政府にもできません.それでもアメリカ政府はソフト・ランディングを信じているわけです.G7で協調介入を試みていた1980年代も,結局,金融パニックをもたらしました.バクダッドに軍隊を送るのは簡単ですが,帰還は容易ではありません.一方主義の魅力は薄れ,多角主義が必要になります.

Wolfも,主要国が協調して早く調整を進めるべきだ,と主張します.すなわちドル暴落と金融パニックを防ぐには,@問題の存在,A主要国の政策との関係,B為替レートと世界の需要配分とを変更する必要,を正しく認識することです.正しい認識を得るには,幻想を捨てることから始めるべきだ,として,三つの神話を批判します.

神話 1.アメリカの経常赤字は,高い収益を求めた資本流入によるものだ.:赤字の増大は,投資の増大によるのではなく,貯蓄の減少による.アメリカへの投資収益は低い.なぜなら,ほとんどが現金や短期債券を購入しているから.今のアメリカは豊かな投資機会の国ではなく,避難所に過ぎない.

神話 2.アメリカの経常赤字は,高い成長率によるものだ.:中国を見ても分かるように,高い成長率は必ずしも経常収支の赤字をもたらさない.アメリカの赤字は,需要に比べて供給が伸びないことによる.それは実質為替レートが高すぎるからだ.もっとドルが安くなれば,成長しながらも経常赤字は増えない.

神話 3.アメリカの財政赤字が悪い.:財政赤字を減らす場合,一方では民間投資が伸びてその支出額を代替するかもしれない.他方,それだけ対外赤字が減少するかもしれない.前者が可能になるのは,金融政策が緩和されて,それゆえドル安も進む場合だろう.後者の場合,より大きなドル安が必要だ.ドル安が進まなければ,対外均衡を回復するには国内需要を減らす必要がある.GDPの1%だけ対外赤字を減らすためにGDPを6%も減らすことになるから,それは厳しい不況を意味する.

アメリカの経常赤字を維持する積極的な理由などないし,調整するためには一層のドル安が必要だ,とWolfは結論します.


FT November 22 2004

Don’t believe the latest scare story about China

By Arthur Kroeber (managing editor of the China Economic Quarterly)

(コメント) 国有銀行システムから闇金融に預金が流出してしまう,と中国の金融不安を煽るような間違った推論にだまされるな,とKroeberは主張します.


Nov. 22 (Bloomberg)

Back to 1997 for Asia? Yes, and Don't Panic

William Pesek Jr.

FT November 23 2004

Lex: Malaysia

(コメント) アジア地域の貿易と金融は,1997年の危機のときと比べて,改善されたのでしょうか? 今度は,アジアに競争力を奪うような増価の通貨投機が起きるかもしれない,という不安が生じています.アジア諸国は増価を拒めないし,金融緩和も強いられる,と市場参加者はアメリカの意図を読むわけです.現在のような「ブレトン・ウッズU」は,既に解体されるしかありません.アジア諸国が国内需要を喚起して,通貨の増価にも耐えられることを,投資家たちもアメリカ政府も望んでいるわけです.

マレーシア通貨,リンギは,ドルとの固定レート制を放棄するでしょうか? 資本規制と為替レートの固定化で通貨危機を上手く回避できたとしても,今では,その政策を維持するコストが高まっています.リンギが増価するとインフレや石油価格上昇に対応できますし,資本流入は財政赤字を賄ってくれます.しかし,FTは,為替市場の浮動性が高まりつつある今は,こうした議論を無視するべきだ,と言います.


FT November 23 2004

The upbeat governor

By David Pilling and John Ridding

(コメント) 福井日銀総裁への,外国メディアで初めての単独インタビューです.これを読んでいると,日銀が日本の経済政策を説明するのは国民にとって非常に有益なことだ,と感じます.デフレ解消や金融政策の変更時期,日本の景気回復と民間部門の再生,中国への輸出やアメリカの景気,人民元の調整や円高について,福井総裁は明確に自分の考えを示しました.国内でも海外でも,もっと日銀総裁が発言し,日本の経済政策を代表する人物として報道されるべきだ,と思います.


FT November 23 2004

How oil can be a blessing instead of a curse

By Sebastian Mallaby

最近の石油ショックは政治的な破綻が原因だ.イラクの混乱,ナイジェリアの紛争,ロシアのユコス解体.しかし,犠牲者はまた違う形で増えるだろう.石油価格の高騰が政治的に不安定な土地で採掘を増やすから.石油は政治を壊れやすくし,国家の腐敗・破綻と結びついている.1バレル50ドルの石油が,政治的破綻から生まれただけでなく,それを広めるのだ.

しかし,少なくとも最悪のケースを免れた一つのモデルがある.それに関わるのは予想外の企業と予想外の国である.

予想外の企業とは,環境やガバナンスの点で最悪の評価を受けてきたオイル・メジャーの一つ,エクソン・モービル社だ.また,予想外の国とは,内陸に閉ざされ,武装集団が親族だけで支配してきた,アフリカのチャドである.ありそうにもないことだが,エクソンのチャド採掘計画は1年前に始まり,「石油の呪い」を回避してきた.

エクソンが1990年代半ばにチャドで活動し始めたとき,一人の女性を雇った.それが彼らの秘密兵器だ.人類学者で援助団体の職員でもあったブラウン女史Ellen Brownは,1968年以来チャド南部に暮らし,内戦やリビアの侵攻を経てきた.彼女はチャド南部の方言を話し,石油収入がアフリカで引き起こした開発の悲劇を避けるように,計画を調整する方法を知っていた.

彼女の影響は明白だ.エクソンは採石場から砂利を採るつもりだったが,ブラウン女史は反対した.地域の伝統によれば,寡婦たちが川から砂利を運んで収入を得ている.だからエクソンも可能な限り彼女たちから砂利を購入し,恵まれない地域の集団を豊かにする方が良い,と.

同様に,エクソンは建設作業に地域の労働者を雇用する計画だった.しかし,それが地域の物価にどのような影響をもたらすか考えなかった.新しい賃金稼得者たちはチキンのような高価な商品を買い占めてコストを高め,その他の住民を貧しくした.ブラウン女史は村人を組織して,毎週,チキンの市場価格を調査した.もしチキン価格指数が上昇すれば,彼女は他地域からチキンを運んで,需給の均衡を保つようにした.

同様に,エクソンは採掘計画によって移住を強いられる農民たちに補償金を支払うつもりだった.しかし,ブラウン女史は村に銀行など無いし,どこにもお金を貯蓄できないことを知っていたから,村々を訪ね歩いて,お金の代わりに何が欲しいかを尋ねて回った.農場の荷台や自転車,編み機,などが最も好まれた.

ブラウン女史のおかげで,石油採掘の地域に及ぼす影響は,それがなかった場合よりも,開発にふさわしいものとなった.しかしエクソンの大きな革新は世界銀行との共同作業であった.世銀は,チャド政府に,その財政支出を公表するキャンペーン以上に,石油収入を扱う透明なメカニズム求めた.このシステムでは,石油収入が公表されるだけでなく,その支出も市民社会の代表も参加した監視委員会に承認されなければならないのだ.政府が,もし貧困を減らす以外の何かに支出しようとすれば,監視委員会は拒否権を行使する.

この実験が独裁者の下でも機能するかどうか,まだ分からない.しかし監視委員会はチャドの援助諸国が支持しており,それを無視することは武闘派の大統領でも慎重になるだろう.今までのところ,システムは機能している.今年の臨時的な石油収入は,道路建設,医療機関,教室,孤児のために支出された.

石油価格高騰の時代に,チャドは例外ではなくルールになるべきだ.そうすれば,石油は開発を挫くよりも支えるだろう.難しいけれど,改善する道はある.資源の呪いを正しく管理することを学べば,世界経済のダイナミックな成長が不幸な地域で破綻国家や腐敗を拡大することもなくなるだろう.


FT November 23 2004

The real Viktor

The Guardian, Tuesday November 23, 2004

Old habits and fears die hard in Ukraine

Simon Tisdall

NYT November 23, 2004

Ukraine: Looking for a Fair Vote Count

(コメント) ウクライナの選挙ではなはだしい不正があったようです.ヨーロッパの諸機関は選挙を監視しており,顕著な不正について報告や非難を行っています(ユシュチェンコ支持).他方,現在の体制を維持したいクチマ大統領やロシアのプーチン大統領は(ヤヌコヴィッチ支持),選挙結果への外国の干渉を非難しています.

NYTは,旧ソ連の影響圏で民主主義が広まることは決してロシアにとって不利益を意味しないし,二人の候補が大きく隔たってもいない,と指摘します.政治的な安定性や安全保障,エネルギー・資源,外国との貿易・投資を通じた協力関係を維持することは,どちらが大統領になってもウクライナの繁栄に不可欠の条件です.ロシアとも,EUとも,ウクライナは関係を強化したいはずです.

The Guardian, Friday November 26, 2004

Is the future orange?

The Guardian, Friday November 26, 2004

Ukraine's postmodern coup d'etat

Jonathan Steele

IHT, Friday, November 26, 2004

Ukraine I: Let's help whomever wins power in Kiev

Nikolas K. Gvosdev

IHT, Friday, November 26, 2004

Ukraine II: EU hypocrisy must end

Alexander J. Motyl

LAT November 25, 2004

A Bad Path for Ukraine

NYT November 26, 2004

New Kids on the Bloc

By VERONICA KHOKHLOVA

(コメント) もしウクライナで暴力的な衝突が深まり,政府機関や軍隊を巻き込んで内戦がはじまれば,ロシアはロシア系住民やロシア企業・銀行の利権を保護するために軍隊を送るでしょうか? またEUやNATOはセルビアを空爆したように,社会秩序の回復や人権保護のためにウクライナにも軍事介入するでしょうか? もはや,そのような時代ではない,という説得に,プーチン大統領が耳を貸すでしょうか?

ウクライナの社会・経済・政治システムは,ソ連による支配と,ポスト共産主義の民営化・市場化によって,簒奪され,分割され,私物化されてしまいました.二人の候補の対立が民主主義によるものか,私的・地域的な権力や利権の改変,分配関係をめぐるものか,その区別もつきません.いずれにせよ選挙の結果に正当性はなく,彼らが市場をどこまで許容するのかも明確では無いのです.最後は,ロシアとヨーロッパとの勢力圏争いによって東西を分割するような事態も懸念されます.

いずれの政治勢力も明確に勝利を計算できないような形で,制度的に民意を反映し,定期的な権力交替の可能性を許容したシステムに主要な指導者を参加させるための交渉が行われている,と私は思います.もし民意以外に,軍事力などで支配を確立できる,と一方が優位を過信しなければ.

EUは民主主義や人権,市民社会の価値を称えながら,ロシアや東欧における欺瞞をこれまで許してきました.しかし,他国の選挙に「不正がある」と抗議することは,危険な火遊びかもしれません.首都の群衆は決して国民の代表ではありません.かつて冷戦時代にCIAが外国の反米政権を転覆したように,今では市民社会の連帯を示すと称して「ポスト・モダン型のクーデタ」を煽動できる,とSteeleは批判します.

パウエル国務長官はクチマ大統領に電話して,独立広場に集まった10万人の群集に武力を使用するな,と警告しました.しかし,ロシアの利害関係も見せかけでは無いのです.


FT November 23 2004

Dancing to a different beat

NYT November 23, 2004

China addresses US trade deficit

By James Kynge in Beijing, Chris Giles in London and James Harding in Santiago

ST Nov 24, 2004

Three ways to cut huge US deficit

By Alberto Alesina and Francesco Giavazzi

(コメント) 主要国が政策協調に合意できない中で,ドルや人民元への投機的圧力は強まるでしょうか? 政治的な対立と金融システムに不安があれば,そして特に安価な短期資本が投機に利用できるなら,通貨市場はカジノになると思います.なるほど,そう言えば,アメリカ政府と中国政府・中央銀行の間で意見が公然と対立し,しかも中国の金融制度やアメリカの財政赤字に短期的な解決策は見当たりません.アメリカも中国も金利引上げには消極的です.

中国人民銀行のLi Ruogu副総裁は,むしろ明確すぎるほどの調子で反駁しました.中国の政策に注文を付けるな,アメリカは自国の問題で外国を非難するな,中国の黒字はアメリカから航空機をいくつか買えばいつでも解消できる,など.

いずれにせよ,債務を永遠に拡大できる国は無いのです.アメリカの赤字は減らすしかありません.そこでAlesina and Giavazziは三つの解決策を考察します.

1.アメリカが貯蓄を増やす.しかし,再選されたブッシュ政権は減税やイラク戦争を支持し,むしろ貯蓄を減らすでしょう.2.ドルをもっと減価させて,人民元は切り上げる.3.ヨーロッパは成長を回復して,アメリカからの輸入を増やす.そのためにはヨーロッパの構造改革が必要です.

ヨーロッパに必要なのは,不況や停滞をごまかすスケープ・ゴートではなく,自分たちの改革と成長です.もし自国の利益として,ヨーロッパが金融緩和で成長を加速し,アジア諸国が為替レートの増価を歓迎して輸入促進を進めるなら,アメリカの調整は容易になります.

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The Economist, November 13th 2004

Currencies: Where does the buck stop?

Economics focus: Checking the depth gauge

(コメント) 経常収支の不均衡と為替レートの水準が中長期的に望ましくないことを,市場に任せるより政府間の協調で調整したい,と考えることは間違っているのでしょうか? なぜ金利は変更しなければならず,株価や為替レートに介入してはいけないのか? なぜアメリカや日本の物価や賃金,住宅価格は国際会議でも重視されるのに,貧しい諸国の物価や賃金,交易条件は軽視されるのでしょうか?

ECBのトリシェ総裁がいくらドル安を非難しても,ドル買いの協調介入について,日本やアメリカは賛成しないでしょう.むしろユーロ高を利用して,インフレや石油価格上昇に対処し,経済改革を急ぐべきです.そうすれば金融緩和と国内需要による成長加速が手に入るはずです.

他方,ユーロ高を恐れる余り,インフレが起きないために金利を下げすぎれば,日本やアメリカが苦しんだように金融が膨張し,住宅価格や資産市場でバブルを生じます.世界の均衡回復のためにはドル安が望ましく,ヨーロッパはその公平な分担を巡って,アメリカの消費者や政府に支出の削減を求め,アジアの為替レート調整も求めるべきでしょう.

他方,Obstfeld and Rogoffは,ドル安の程度を問題にしています.経常収支の赤字を減らすために,ドル安がどこまで進むべきか,というのはナンセンスです.なぜなら,相対価格だけでなく,需要との組み合わせが問題だからです.また,1980年代の調整と比べるよりも,ヴェトナム戦争や石油ショックを経験した1970年代と比べるべきだ,と考えます.

彼らの予想は,40%以上もドル安が進む,というものです.それはドル建債券のデフォルトにも近く,国際通貨としてのドルと国際金融システムを終わらせるかもしれません.


Intellectual property: Monopolies of the mind

Intellectual property: The cost of ideas

(コメント) これほど技術や知識が重要であるというのに,それらが独占されて,地代のように世界から富を吸い上げるシステムが維持されていることを,正しい,望ましい,と主張することなどできるのでしょうか?

それはバランスの問題だ,とThe Economistは考えます.発明者に一時的な独占権と利益を与えることで情報や技術を公開させ,更なる革新を促すのです.しかし,とThe Economistは自問します.今の特許制度はむしろ知識や技術を歪め,革新を妨げているのではないか?


Outsourcing: A world of work

The textile industry: The looming revolution

(コメント) アウトソーシングであれ,繊維産業であれ,出稼ぎ労働者の国際移動であれ,富の生産に参加するシステムができることには,基本的に賛成です.

The Economistは,アウトソーシングを機械化や自由貿易論に含め,繊維製品の割当制度撤廃も世界の貧困解消に役立つことを重視します.グローバリゼーションは中国だけでなく,インドや南アジアにも,その利益を分配し始めるでしょう.他方で,職場を失う多くの人々がいることも事実です.