IPEの果樹園2004
今週のReview
10/25-10/30
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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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三つ(+α)だけ推奨するとしたら?
1. 安全保障 :イランの核開発を空爆し,世界の安全保障レジームを新設し,北朝鮮には開発投資を行う?
2. 大統領にはケリーを :ロサンジェルス・タイムスとニュー・ヨーク・タイムスのケリーを支持する社説です.
3. G4あるいはC1? :政策協調はなくなった? あるいは,再建(アジア版)プラザ合意体制へ?
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
FT October 15 2004
Philip Coggan: Iraq explained by behavioural finance
By Philip Coggan
(コメント) 市場において,経済学者が好むような「合理的な」行動を投資家たちは採らないことから,投資家の実際の行動を説明する理論が発達しています.それに照らせば,どれほど優れた人々であろうとも,バブルや暴落を繰り返す投資家の行動パターンと同様に,政治家の行動もかなり説明できる,とCogganは言います.
1. 「確証を得た偏見」によって投資家は行動します.すなわち株価の上昇を説明するために,インターネットによって新しい利潤の源泉を見出した,という見解が広まると,それを支持する証拠だけが注目され,それに反する事実は無視されます.アメリカの政治家たちも,イラクの亡命者の話を過度に重視し,より慎重な専門家の見方を無視しました.
2. 自信過剰によって過剰な行動を採ります.例えば多くの人が自分は運転が平均よりも上手いと信じているように,多くの投資家は自分の判断を過度に信じて,取引を過剰に行います.政治指導者も専門家の報告書より自分の判断を信じ,過剰な反応を示しました.
3. 投資家も,政治家も,過去の行動や発言に引きずられます.例えば,しばしば投資家は自分が買った値段より安い価格では売りたくないので,売る時期を逃します.軍人たちは「過去の戦争」に引きずられて,マジノ線が飛行機によって無駄になったように,軍事技術などの変化を無視します.また,ブッシュ氏は父親の「失敗」を避けることに執着しました.
4. 投資家も政治家も「サンク・コスト(埋没費用)」に拘ります.失敗をしたことを認めたくないし,我慢すれば,結局,市場は自分が正しかったと認めてくれるかもしれない,と思います.政治家も軍隊をなかなか引き揚げません.自分の間違いで多くの人命を失った,とは言えないのです.間違いを認めることのできる指導者の方が良い,というけれど,それは反対派を喜ばせます.だから「将来,何かが起きる」ことを期待したくなります.
Cogganは,このような場合,経営陣を交代させるだろう,と言います.新しい経営者は,損失を出すプロジェクトを処分し,全員者の間違いを進んで見つけます.ファンド・マネージャーは,前任者のポートフォリオを大幅に切り捨てます.しかし,ファンド・マネージャーと違って,政治家は選挙に勝たねばなりません.戦争の中で選挙に臨めば,対立候補は「愛国的でない」という非難を避けようとして,結局,当選するとしても,前任者の戦争の失敗を引き継いでしまうのです.
Oct. 15 (Bloomberg)
General Motors and Ford Won't Survive as Bankers
David Pauly
Oct. 15 (Bloomberg)
Daiei Another Day -- Japan's Zombie Lives On
William Pesek Jr.
(コメント) GMやフォードは自動車を造る会社でしたが,今は違います.それらは資金を作っています.昨日発表されたGMの第三四半期の利益4億4000万ドルすべてを,General Motors Acceptance Corpが金融ビジネスで稼いでいます.フォードもクレジット・ビジネスで利益を上げています.でも,利益であれば,同じでは無いか? という疑問にPaulyは,自動車そのものを売ることでは日本車に勝てず,無利子の融資などで販売を維持している,と懸念します.そして金融部門はモーゲージ・ビジネスの拡大により利益を上げています.
アメリカの自動車会社は,(雇用や年金を維持するための)巨大な福祉機関に過ぎない,と言います.
では,日本の企業はどうか? ダイエーは1980年代の過剰投資が1990年代の破綻をもたらした日本の典型的なケースである,とPesek Jr.は言います.そして,再び墓場から蘇る,というニュースに,何が理由かを考えます.民間の買収案(Wal-Mart Stores Inc., Ripplewood Holdings LLC and Goldman Sachs Group Inc.)が話題になりましたが,結局,政府の産業再生機構に救済融資を申請することになりました.
当初は交渉の余地を残せる民間の買収案を目指しましたが,UFJが合併前に不良債権の整理を急いだために,政府案に変わった,と解説しています.しかし,Pesek Jr.から見れば,このような整理・再建は余りにも遅い過程(ロー・ギア)です.納税者はまったく騙されている,というわけです.他方,自民党はダイエーの整理で4万人近い失業が出るのを恐れ,産業再生機構は存在理由となるような大きな仕事を探していました.
そして,民間部門が再生するためには,政府の融資に頼って生かし続けるよりも,経済は「創造的破壊」に委ねる方がよい,と信じる必要がある,と言います.
BG October 15, 2004
Delusions of empire in America
By H.D.S. Greenway
(コメント) ヨーロッパの平和と繁栄を葬った第一次世界大戦の始まりに,戦争がもたらす解放感や高揚した気分を,文化的な退廃の一掃を,各国の知識人たちは称えていた,と言います.
イラク戦を始めた頃のブッシュ政権を取り巻く発言もそうでした.あたかも1914年にドイツが建てた雄大な世界計画,ドイツ文化の世界化をまねたように.法も持たない野蛮な諸民族にアメリカ文化を教えてやる,と.
ジョージ・W・ブッシュの外交政策を「ウィルソン的」と表現することもあるけれど,より正しくは,世界に道徳を行き渡らせようとしたドイツ帝国の方が多くの共通した特徴を示しています.1914年のドイツの夢想家たちが描いたように,ブッシュ政権の戦士たちはアメリカ文化の優越と民衆が歓呼をもって迎える様子しか考えていませんでした.ドイツ皇帝も,ラムズフェルドも,軍事作戦がクリスマスまで続くとは考えなかったのです.そしてドイツの計画も,アメリカの計画も,開戦の口実を得るずっと前から準備されていました.
LAT October 15, 2004
Unlocking a Christian Club
FT October 19 2004
Martin Wolf: Turkey’s turnround is not assured
By Martin Wolf
International Herald Tribune, Friday, October 22, 2004
Not ready to swallow Turkey
Dominique Moisi
(コメント) LATはトルコのEU加盟を支持し,EUはキリスト教クラブではないことを示すべきだ,と主張します.WolfはIMFとの政策合意を通じたトルコの一層の経済改革を支持します.MoisiはEU市民に広がる慎重論をより重視します.
支持する意見としては,トルコをEUに迎えることが,高齢化するEUにとっても,インフレ抑制や財政健全化,民営化,などを進めてきたトルコにとっても,ともに経済的な利益になります.そしてトルコの成功が,イスラム世界の政治・経済改革を励まし,イスラム教とキリスト教との対立という間違ったイメージを払拭するでしょう.
他方,Moisiは,EUが人権を重視する平和で穏健な民主的統治のモデルをトルコからイスラム世界にも輸出するのか,それともEU自身の中にイスラム世界との対立を抱え込み分裂の危機を深めるのか? と問います.Moisiは,世論調査がトルコ加盟に反対する理由を次のように列挙します.
@グローバリゼーション,A9・11,B東へのEU拡大.この三つの要因が採るこの加盟申請に否定的な反応をもたらしています.さらにフランスに特有な事情として,Cスカーフ論争,Dヨーロッパの中心地という自覚,などが障害となるでしょう.
LAT October 15, 2004
How to Rein In Iran Without Bombing It
By Patrick Clawson
イランは,原子爆弾の最も重要な技術を手に入れた,と自慢している.長距離ミサイルも持っているが,しかし,核弾頭を搭載できなければ,軍事的に無意味である.さらに,国連が中止するように求めても,ウランの濃縮作業を続けると主張している.
さらに,ブッシュ大統領も,ケリー上院議員も,イランの核武装はアメリカにとって受け入れることができない,と述べた.イスラエルのシャロン首相はもっと強硬な姿勢だ.コレラを考えるなら,アメリカは軍事力を使って,イランの核計画を阻止する可能性もあるのか?
まず,イランが外交的な交渉で計画を中止する望みがある.しかし,国際社会が一致して厳しい選択を迫らなければならない.計画の続行に対する処罰か,計画中止に対する報償か? そのような選択は,イランの強硬派が処罰を確信しなければ意味が無い.そして,軍事力を含まないような,重大で信用する処罰など,ありそうにない.
包括的な制裁措置? しかし,一体,誰がイランの日量250万バレルの石油輸出を止めて石油価格の高騰を煽ることなど提案するか?
すると,軍事力の行使が現実的な選択か? 1981年にイスラエルがイラクの原子炉を空爆したように,イランの核施設を空爆するのか? まず,われわれにはイランの多くの核施設に関する十分な情報が無い.施設を分散しておいて,空爆後に再建するかもしれない.空爆によってイラン政府がコストに見合わないと判断すれば良いが,そうでなければ,少し遅れるだけで,2年後にまた空爆するのか?
さらに困ったことに,イランは報復としてホルムズ海峡に機雷を敷設し,ペルシャ湾を封鎖するかもしれない.その結果,世界の石油価格はさらに上昇する.もっと心配なのは,イランにはテロを支援するさまざまな選択肢があることだ.イラクでも,イスラエルに対しても,アル・カイダへの支援を通じても.
空爆に対する国際世論の非難は,われわれにとって高価な代償となる.他国はアメリカとイランへの圧力を強めることに賛同しなくなる.言い換えると,各施設に空爆しても,時間は稼げるけれど,非常に高くつく.こうした問題は,イスラエルによって空爆が行われた場合も,同様か,もしくはさらに深刻である.
イラン侵攻は核施設空爆よりももっと魅力に乏しい.兵士の命も,財政支出も,イラクの戦後処理で学んだことだ.ほとんどのイラン人は聖職者の支配を終わらせたいだろうが,アメリカの支配されることも望まない.安定化を阻むイスラム過激派の強硬派がそこには存在する.
さらに基本的な問題として,イラクでの作戦がアメリカ軍を疲弊させ,イラン侵攻のためには人員も設備も不足している.それを準備するには1年かそれ以上の期間を要し,大規模な動員計画が必要になる.空爆でも侵攻でもない,軍事的な選択肢もあるはずだ.理想的には,アメリカはイランの核開発計画を,ソフトウェアの破壊といった,秘密工作でも妨害できるはずだ.しかし,アメリカの諜報機関にそれができるかどうかは明らかでない.
アメリカにできることは,単独でも,同盟諸国と一緒でも,イランを封じ込め,抑止することだ.そのためには,イラク周辺にアメリカ軍を配置し,イラク沿岸に核搭載のアメリカ海軍を派遣し,地域のミサイル防衛網を強化し,イランの脅威にさらされる諸国を核の傘に入れ,より高度な軍事技術をイランの周辺諸国に移転すること,などだ.
こうした手段は空爆ほど劇的でないが,パッケージとしてテヘランに示すなら,彼らが核兵器を追求する確信を弱めるだろう.封じ込めと抑止力はイランに外交的な解決策を受け入れさせるし,アメリカが後に,もし必要になれば,軍事力を行使する能力を高める.
要するに,イランに圧力を加える選択肢は多くある.創造的に思考を働かせるなら,爆弾を落とすことから始める必要は無いのだ.
The Japan Times, Oct. 16, 2004
By DAVID HOWELL(a former British Cabinet minister and former chairman of the Commons Foreign Affairs Committee, now a member of the House of Lords)
中東世界を安定化し,テロを抑えることが,地政学的に最も重要な課題となっている.それは世界の平和と繁栄,政治指導者や政策の将来を決定するほど重要だ.中東問題はヒドラのようにさまざまな面に影響し,複雑で,しかも急速に変化する.
長期に及んでも,イラクの安定化から始めるほかは無い.しかし,それはほんの一部でしかない.世界中にテロリストが流出し,問題の解決には真に世界的で包括的な対策が必要になる.平行して進めるべき6つの戦略を示す.最初の三つは「ハード・パワー」に関して.後の三つは「ソフト・パワー」に関わる.
1. 世界中でテロ行為を押さえ込む(封じ込める)ために,警察,諜報機関,治安部隊の緊密な国際協調が必要である.アメリカ,ロシア,中国,パキスタン,エジプト,日本,などを含む.殺人犯とその行為に関わった者を捕らえて処罰する.
2. この作戦は包括的でなければならず,協力しない国は説得し,必要なら,圧力を加える.抜け道やテロリストが避難する国を許すことはできない.テロ組織の指導者たちは世界中のどこでも逮捕される.
3. 民主主義諸国の治安部隊・軍隊を増強し,緊急時だけでなく,すべての政府機関や公共施設を守るために訓練し,展開しなければならない.日本が東京駅に設置する監視カメラを,90台から500台に増やしたように.
4. 確信した殺人犯と交渉することはできない.世界の破滅を説く黙示録的なテロリストたちは,罪も無い市民を最大限殺すという目標しかない.彼らに的を絞って,致命的な攻撃を加えることだ.しかし,こうした組織がメンバーを補充し,自爆攻撃の要員を募集する過程には,対話が有効だ.例えば,すべてのレベルで,国内的にも国際的にも,穏健派のイスラム組織を支援することだ.それが過激な暴力を抑える.
5. 国際社会はテロの温床となり,テロを「正当化する」と言う者さえいる,すべての不満に対して,外交的に,精力的・直接的に,対処しなければならない.パレスチナ・イスラエル紛争,チェチェン自治,イラク政策,その他,貧しい社会には成長と開発を引き起こすためのより有効で意味のある戦略を示すべきだ.かつてアラビアのローレンスが述べたように,「アラブ人とともに戦い,ともに働けば,彼らは改革を進める.アラブ人に説教したり,彼らに秩序を押し付けたりしてはならない.」
6. 国内の治安問題については,先進的な社会が持つテロ攻撃への脆弱性を実質的に低下させなければならない.エネルギー(石油,天然ガスなど)や情報の世界的な供給システムに頼ることを減らさねばならない.戦時と同様に国内も警戒し,可能な限り分散化し,小型化し,バック・アップ・システムを整備する.
安全保障と環境問題に関して,双方の戦略的な目標が一致する.今後,10〜20年で,化石燃料と中東地域への依存を低下させることだ.逆の方向に進みつつあるのは残念なことだ.中国,インド,アメリカなどの巨大な需要が,世界のエネルギーを奪い合い,その脆弱で複雑な世界的インフラと合わせて,テロリストに有利な状況を作っている.
アメリカとイギリスは大量破壊兵器WMDに多くの議論を費やしてきた.しかし,不幸なことに,最近の主要なテロはWMDなど使っていない.誘拐,ハイジャック,斬首,繁華街での自爆,などでテロリストが要したのは,携帯電話,ファックス,飛行機,セムテックス(爆薬),そして自爆を行う心である.
もしわれわれが軍事,情報,治安における世界的な協調に失敗すれば,ハイパー・テロリストたちに敗北し,世界の暗黒時代がやってくる.
FT October 17 2004
Failure in Iraq is dangerous for all
By William Cohen(US defence secretary from 1997-2001)
FT October 19 2004
The wrong way to rebuild a broken country
By Bjorn Brandtzaeg
(コメント) 選挙の結果,どちらが大統領になっても,そのイラク政策は大きく変わりません.では,アメリカが本当にイラクでの失敗を認め,その軍隊を引き揚げればどうなるのか? 治安回復に協力を拒む国連や他の諸国は,そのコストを自国内でも知るはずだ,とCohen前国防長官は言います.他方,イラクの暫定統治をイギリス支配地域で行ったBrandtzaegは,イラクのように国際介入によって政府の交代を迫るケースはこれが最後にはならない,と考えます.そして,占領や暫定統治を早期に終了するためには,住民たちがコストよりも利益を早く実現できるような仕組みを学ぶ必要がある,と強調します.
Oct. 17 (Bloomberg)
Asian Central Banks Should Follow South Korea
Andy Mukherjee
(コメント) アジア諸国の政府と中央銀行の関係を論評しています.1997-98年の危機を経て,アジアでも多くの国がインフレ目標を導入しました.しかし,投資家から信頼される中央銀行になるには,韓国のように大蔵大臣の発言や政治的圧力に背いて,中央銀行が独立していなければならない,と言います.
その前提となるのは,貨幣の供給を変化させても雇用や成長には影響が無い,ということです.ニュー・ジーランド,カナダ,イギリス,オーストラリアは1990年代に相次いでインフレ目標を採用しました.他方,インドネシアの中央銀行総裁は成長や雇用を心配し,タイの中央銀行総裁は消費を心配します.最近の石油価格高騰はインフレをもたらし,政治と中央銀行との関係を緊張させます.
こうした目標の対立を避けるためには,政府がインフレ抑制以外の目標を中央銀行から分離して,政府の監視機関に移すことだ,と言います.実際,韓国は二つの期間を設けましたし,タイはそれに続こうとしています.アジアでも,中央銀行はインフレ抑制を,政府は雇用と成長を,そして為替レートは市場が決める.・・・将来は.
NYT October 17, 2004
What If a Sales Tax Were the Only Tax?
By DANIEL ALTMAN
WP Sunday, October 17, 2004
Fiscal Ruin on the Horizon
By David S. Broder
(コメント) 政治家たちが決める税金はどうすればよいのでしょうか?
数週間前に,共和党の下院議員JOHN LINDERが所得税をすべて取引税に代えることを議会に提案したところ,民主党議員はそんなホラ話はやめておけ,とたしなめました.しかし8月には,それはいい考えだ,とブッシュ大統領が述べていました.納税する側から見れば,いろいろな手続きを悩むことから解放されるような気がします.
しかしALTMANは,それほど単純ではない,と言います.
まず,昨年のIRSの歳入は1兆7000億ドルでした.戻された分を除けば,1兆5000億ドルです.これをアメリカの消費者,企業,政府による昨年の取引額,12兆2000億ドルから一律に徴収すると,税率は約12%になります.
しかし,政府の取引に課税することは無意味です.すると税率は15%に上昇します.またほとんどの州が食糧と衣類には課税しません.貧困層を保護するためですが,取引税は逆進性がありますから,この免税措置を引き継ぐことにします.すると18%に上昇します.ただし,この品目への免税は所得に関わりません.低所得者に限定することは非常に困難です.
さらに二つの品目が問題です.住宅と医療です.
現在,住宅の所有者はその債務への利払いに対して所得税を免税されます.所得税が無くなれば,この免税も受けられません.アメリカン・ドリームを助けるために直接の補助金として残せば,取引税は21%に上昇します.また現在,企業による被雇用者の医療保険の支払いや,また個人による医療費の支払いも,それに見合って免税されています.これを止めないとすれば,税率は25%になります.
しかも,新しい税制は個人や企業の行動に影響します.取引税によって25%も支払額が増えれば,通常,そのコストは売り手と買い手とで分担されるでしょう.そして企業の利益が減り,被雇用者が住宅の購入などで免税を得ているなら,賃金をカットしても良い,と考えるはずです.しかし,高所得者は所得税がなくなることで,賃金カットされても利益を受けるでしょうが,低所得者は元から所得税を支払っていませんから,不利益を受けます.彼らが消費を削れば取引額が減り,さらに税率は上がります.
取引税に対してブッシュ氏が関心を示したのは,彼の提唱した「所有者の社会"ownership society"」を実現する道になるからです.ホワイト・ハウスは金融所得や資産に一切課税しないことを考えています.相続税は廃止し,配当や資本取得に対する課税も,企業所得への課税も廃止しようとしています.そして個人には,ほとんどの有価証券保有を課税から免れる貯蓄口座を開設させるわけです.
唯一,課税されるのは賃金などの労働所得です.取引税の世界では,高所得者もわずかに課税を免れ得ない部分が残ります.
Broderの記事によれば,ワシントンの政治家たちが合意しているのは,このままでは税制が破綻し,アメリカは破滅する,ということです.この10年間で財政赤字は5兆ドルに達する,と予測します.それでも政治家たちは,あまりに容易に,減税には同意します.例えば,最新の減税は1430億ドルに及びましたが,それがすべて将来世代からの借入れであった,とPete Petersonは批判します.「孫たちに支払わせて無料のランチを食い散らかす.」
NYT October 17, 2004
The Dollar Is Defying Both Expectations and Gravity
By JONATHAN FUERBRINGER
FT October 21 2004
Lex: US dollar
FT October 21 2004
China's euro bond offer is big hit
By Francesco Guerrera and Enid Tsui in Hong Kong
(コメント) そんなアメリカのドルに,いつまで買い手はあるのでしょうか?
アメリカのFRBに属する高官たち(ダラス連銀総裁のRobert D. McTeer Jr.,サン・フランシスコ連銀総裁のJanet L. Yellen,そしてBen S. Bernanke連銀理事,Roger W. Ferguson, Jr.連銀副議長)が,相次いでドル高の現状を牽制し,ドル安への懸念を示しました.
しかし今は,経常赤字を超える資本流入が続いています.ユーロは金利差により増価を逆転し,また日本の為替介入が終わったにもかかわらず,日本への資本流入が弱まって,円高を生じていません.ドル高を生むほどユーロにも円にも魅力が無い,というわけです.
他方,FTの記事は,GDPの5.7%に達する経常赤字への関心が強まり,ドルへの資本流入が減っている,と伝えています.2%を抑制するのに,ドルは20〜25%減価する,と予測されます.債券相場が下がり,財務省はドル高の維持にリップ・サービスを続けますが,FRBは違います.将来のドル暴落を回避するため,FRBの中で早期の調整を促すコメントが増えているわけです.ただし,グリーンスパンはそれに賛同していません.
民間資本流入よりも,ますます政府による為替介入とアメリカのドル資産購入に依存していることは,問題を複雑にします.他方,中国政府が10億ユーロの国債を発行したことで,ヨーロッパの投資家たちは,アジアの政府や企業がアメリカからヨーロッパのユーロ債市場に関心を移し始めた,と騒いでいます.
ST OCT 17, 2004 SUN
Clash of the Titans
(コメント) ボーイングとエアバスとの紛争について,STの解説は,基本的に他の説明と同じです.この産業や市場の特殊性,アメリカとヨーロッパの政府・企業関係に対する異なった見解,WTOの紛争処理能力,などです.
飛行機を自国で独自に生産しようとは思わないシンガポールからすれば,優れた航空機が欧米の政府による補助金で開発されるのであれば,それは「漁夫の利」を占めることで,歓迎されます.どちらか一方が市場を独占すれば,革新は衰え,旅客機を購入する国は交渉力を失います.しかし,欧米間の紛争が激化して,WTOを大幅に機能不全にし,世界貿易の将来に悪影響を及ぼすことも困るでしょう.結局,欧米の巨人同士が激しく争って,より透明な国際的ルールの下で技術開発と価格競争をしてくれることが最も望ましいわけです.
紛争の可能性としては,さらにロシアと中国の航空産業でしょうか?
BG October 17, 2004
BG October 17, 2004
The case for change
NYT October 17, 2004
John Kerry for President
(コメント) BGは,三つの例をあげてケリーを支持します.1984年にマサチューセッツ州で酸性雨問題に直面したとき,ケリーはヨーロッパにまで調査団を率いて,ドイツの森が枯れ,歴史的建造物が損なわれている状況を知ります.彼は酸性雨を規制する画期的な国際協定を結びます.また,1997年,9・11の4年前に,ケリーは『新しい戦争』を書いて,彼の指導した上院の「テロ,麻薬,国際展開に関する小委員会」から導いた内容を示しています.それは,冷戦終結によって安全保障が根本的に転換したこと,脅威は国民国家よりも,地下の犯罪組織からもたらされる,と訴えていました.われわれは「犯罪に対する国際連合の指導者になるべきだ」,と.今年,ケリーは大統領候補となって,エネルギーの自律を訴えました.それは資源不足が世界の安全保障に与える不安定化の影響を重視したからです.
ケリーの強みは明らかです.彼は複雑な問題を,斬新な,しかも正確な方法で理解し,協調的な解決に向かう意欲を持っています.アメリカは国民とそのアイデアを統合する指導者を求めています.「ケリーとエドワードを,われわれは大統領選挙で支持する」,とBGは明言します.
もう一つのBGの論説は,ブッシュ政権のもたらしたアメリカの選択を批判します.金大中が韓国の大統領に当選し,北朝鮮との歴史的な和解を進めてノーベル平和賞を受賞したとき,彼はアメリカの新しい大統領がその「太陽政策」に賛同してくれると期待してアメリカを訪れました.しかし,ブッシュ大統領は以前から抱いてきた北朝鮮への強硬姿勢を変えず,金大統領の説得を無視しました.
この事件はブッシュ大統領について二つのことを示している,と言います.@それは9・11の6ヶ月も前のことであり,9・11がブッシュの外交姿勢を変えた,というのは嘘である.Aその後,北朝鮮は核兵器の生産を進め,公的な推定でも,複数の核爆弾を保有するに至っている.北朝鮮は2003年のイラクよりも深刻な脅威となっている.ブッシュの選択は失敗だった.
ブッシュ政権の重大な失敗はこれに限りません.国内でも国際社会でも,ブッシュ氏は敵対的な政策を採り,分裂を深めました.富裕層に有利な再分配を行い,雇用や医療保険の無い人々の声を無視しました.財政赤字を拡大し,世代間の不平等も拡大しました.さらにドルも弱くなり,貿易赤字も増えました.それでもブッシュ政権はこのような事実をかたくなに否定し続けます.
ブッシュ氏が二期目の政権を組めば,存在も認めない問題を解決しないだけでなく,同盟諸国との対立を深め,アブ・グレイブ刑務所のように市民権を奪い,人々を監視して保守派の価値観を押し付けるでしょう.彼は戦争大統領であり,恐怖によって国民と世界を支配するのです.こんな人物にアメリカも世界も任せられない,と.
2000年の選挙において,多数の支持により政治的な権力を確立できなかったブッシュ氏は,党派を超えた支持を説得するどころか,むしろ一握りの右翼イデオローグに頼りました.9・11により国民に犠牲を求める権限を得たことで,彼らを制約するのは,ただブッシュ氏の想像力だけになったのです.この確信に満ちた,自分たちの計画に執着するブッシュ政権の失敗について,NYTは病人や子供を犠牲にした巨額の減税,そしてサダム・フセイン討伐の経緯をたどり,アメリカにとって避けるべき大統領であった,と判断します.
NYTは,特に次の最高裁判事の指名を心配し,また財政赤字を無視して補助金を与え続けることを心配します.財政赤字も貿易赤字も拡大し,金融市場がいよいよ過剰な反応を示すでしょう.過激な右翼の政治目標を採用し,それを実際に成功させる方策は何も持たないのです.
ケリーは,はるかに,はるかに優れている,と断言します.彼は,近頃のワシントンで見られないような,党派を超えた協力を模索する人物であり,市民権に対するはるかに強い擁護者である.医療覇権についても,財政赤字削減についても,エネルギーや温暖化対策,石油依存の抑制についても,精力的に新しい提案を行ってきた.そして意欲を示す諸国の協力においてアメリカの指導的な役割を常に考えている.
「過去の4年間を振り返るとき,われわれは胸の潰れる思いだ.失う必要の無かった人命を失い,貴重な機会を余りにも無造作に浪費した.何度も何度も,歴史はジョージ・W・ブッシュに指導的な役割を求めていたのに,彼はそのたびに選択を間違えた.われわれは,ジョン・ケリーが大統領となれば,アメリカはずっと良くなると信じている.」
WP Monday, October 18, 2004
The (Probably) Right Answer to Terrorism
By Sebastian Mallaby
私はイギリスで育った.IRAが活動するロンドンで,サッチャー首相の宿泊するホテルが1984年に木っ端微塵に爆破された.テロに対して,イギリスでは過剰に反応せず,法によって対処した.サッチャーは,9・11のブッシュがしたように空軍のジェット機に乗って去るのではなく,イヤリングをつけてテレビ・カメラの前に立った.「生活を続けなさい.」 彼女は断固として宣言した.保守派から軍事力で対抗せよと要求されたが,彼女はそれを拒んだ.テロに遭っても,イギリスが日常生活を維持することこそ,もっとも効果的な対抗策である,と.
しかし,わたしはアメリカが核攻撃される日を待ってなどいられない.私はイラク戦争を支持した.なぜなら私はサッチャーの対抗策を疑ったから.狂信的な自爆テロが私たちを狙うかもしれない.もし核兵器を利用できれば,私は自国の防衛や価値を信じて,このまま息を殺してなどいられない.戦時において,罪と非難は避けられない.
FT October 19 2004
Can Germany learn from Sweden?
By Ralph Atkins and Nicholas George
(コメント) ドイツの経済改革に悩むシュレーダー首相は,アングロ・サクソン諸国の経験よりも,同じヨーロッパの福祉国家として,スウェーデンのピアソン首相から教訓を得たいと希望しています.スウェーデンの繁栄はこの10年の改革で築かれたからです.
1994年に,ピアソンが蔵相になったとき,スウェーデンは財政赤字がGDPの10%を超え,金利は二桁に達し,失業率も3年で3倍になりました.銀行システムは崩壊に瀕し,スウェーデンの有名な福祉システムも国民の信用を失っていました.しかし,1996年から首相となったピアソンの下で,スウェーデンは失敗した経済モデルではなく,福祉システムを再建し,ドイツのように福祉国家を維持しながら財政再建を目指す国の新しいモデルとなって蘇ります.競争的な市場を目指すEUの「リスボン・アジェンダ」に関して,スウェーデンはどこよりも早く実行しました.
人口規模は違いますが,ドイツ(8250万人)とスウェーデン(900万人)には共通点が多いのです.特に,政府とともに大企業と労働組合が経済・政治システムに加わります.ともに福祉システムを自慢しますが,それは労働意欲を殺ぐなど,矛盾した側面もあります.
まず何よりも,一番の教訓は,健全な経済政策が成長の前提条件だ,ということです.こんなことは,過去に,スウェーデンがドイツに言うことではなかったはずです.しかし,ドイツの赤字はGDPの3%を越え,フランスと合意して上限を無視しました.1990年代初めのスウェーデンはもっとひどい財政破綻を示していました.財政赤字が増え,将来の不確実さが増し,ますます人々は貯蓄したのです(そして,不況と財政赤字の悪循環へ).
そこでピアソンは福祉システムを大改革しました.現在の労働者が支払う社会保険料で退職者の年金を支払うのでは,急速な高齢化で公的年金の負担が大きくなりすぎます.ドイツでは給付を減らし,個人で民間の年金契約を利用するようにしました.しかし将来の納税者にも公的負担が及び,若い世代が二重に負担を強いられている,という仕組みは持続可能ではありません.
スウェーデンの改革はもっと革命的です.二重に年金を支払う世代など見つけられない,と理解した上で,働いていたときの各人の所得から退職後の支給額を決めるシステムを止め,年金システムに支払った額に応じて各人の給付を決めるシステムに転換しました.スウェーデンは気前の良い福祉システムを失いましたが,システムの健全性を取り戻し,追加的な民間の年金契約が支援されて,今やブームとなっています.
スウェーデンの転換を可能にした条件には,政治システムの改革もあります.議会を3年から4年に延長し,予算編成の過程も変えました.予算に反対するには,その全体を投票で否決しなければならず,政府は予算案を無傷で通過できました.その結果,審議は集中的に行われ,拡大した整理統合ができました.
また,スウェーデンはユーロを採用しておらず,財政赤字に制限を受けていませんでした.他方,ドイツは15年前の東西統合による負担があります.東ドイツの労働者を国際競争から保護し,補助金がさらに競争力を損ないます.その点では,スウェーデンのモデルはドイツと全く異なり,むしろ自由化,支出削減,市場経済を実行している,と言われます.1995年にEUへ加盟したことで,スウェーデンは自由化を強いられたのです.例えば,労働市場は部門別の賃金交渉を行い,はるかに弾力的です.
スウェーデンにも問題は多く,医療保険の支払は不正を促し,高率の所得税は企業家精神を損ないます.またスウェーデン経済は「ジキル博士とハイド氏」型の,二重構造になっている,と言われます.大企業に関する評価は高くても,中小企業の扱いでは最低に近い水準です.その意味では,今もドイツ経済の中核をなす中小企業にふさわしいモデルではありません.
何よりもドイツと違うのは,当時のスウェーデンには転換するしかないという強い危機意識が共有されていたことです.IMFの介入も噂されました.ドイツでも,日本でも,それは欠けているようです.
The Guardian, Tuesday October 19, 2004
Seeking out monsters
Arthur Schlesinger
戦時の大統領が選挙で勝てるとは限らない.ブッシュ氏は戦争指揮官であり,「先制攻撃」を戦争の理由に使用した.しかし,それが「先制」と言えるのは,敵に対する情報が正確な場合である.予言ではなく,事実に対する正確さをブッシュ氏は問われている.彼はアメリカの軍事的,政治的,経済的な力を「自由」のために行使する.しかし,世界中に赴いてモンスター退治を始めるのか? かつてアメリカの最も優れた国務長官John Quincy Adamsはこう述べた.われわれは自由のために戦う人々に共感を覚えるが,「モンスターを探して海外へ赴くことはしない.」そんなことをすればアメリカの基本政策が「自由から軍隊へと」変わってしまうから.「アメリカ自身が世界の独裁者となり,もはや自分自身の精神を支配することも無い.」
International Herald Tribune, Tuesday, October 19, 2004
What is this 'European Union'?
Anne-Marie Slaughter
International Herald Tribune, Tuesday, October 19, 2004
What Bush really believes
By Paul Kengor
International Herald Tribune, Friday, October 22, 2004
Would Turkey split the EU and the U.S.?
Ian Bremmer
(コメント) ヨーロッパから見たアメリカ,です.
ブッシュ氏は演説でEUのことを取り上げたことが無い.たった一回だけ,中東和平についてEUにも言及したことがある.しかし,その一回きりだ.多くのアメリカ人には,ヨーロッパとEUとの違いも分からない.しかしEUは政治制度であり,これまで人々によって築かれてきた.アメリカや中国と並ぶ,世界政治の中心となるだろう.だから,大西洋の両岸で拡大する認識ギャップには,不安を覚える,と.
ボブ・ウッドワードの『ブッシュの戦争』で,ブッシュ氏は自分の外交政策を神の命じたことだ,と説明します.彼は,「もちろん,神によって戦争を正当化しているのではない」とも言います.戦争を正当化するのは9・11のテロ攻撃です.9・11が彼を戦争指導者にし,国内政策とキリスト教精神を掲げる「思いやりのある保守主義」を忘れさせたのです.
しかし,今も,神への確信は彼の政策を歪めています.候補者討論で,ブッシュ氏は「神がすべての人を解放せよと求めている」と言います.すべての人とは,キリスト教徒,ユダヤ教徒,イスラム教徒,などを含むはずです.ブッシュ氏のこうした主張は二重に批判されます.それはアメリカの外交政策を,これまでの指導者たちが注意深く否定してきたはずの,真実がどうか判断できない信念に結び付けます.またブッシュ氏が何を言おうと(何を信じていようと),彼が信じているのはキリスト教徒とユダヤ教徒の自由でしかない,という人々の確信を広めます.
「デモクラティック・ピース」という仮説が,ブッシュ政権の中東民主化計画の背後にある,と指摘されることは残念です.
トルコがEUに加盟すれば,アメリカとEUとの関係に深く影響します.高齢化と若年労働力の不足が心配なヨーロッパにとっては,トルコが大きな魅力となるはずです.ところが,EU諸国の国内政治は人種差別や外国人排斥を叫ぶ極右の政治集団によって歪められています.EUの政治指導者たちが,既にヨーロッパに住むイスラム教徒とトルコのイスラム教徒とをヨーロッパに同化し,あるいは貧困救済や教育により平等化を進めることで穏健化することに成功しなければ,極右の予言どおりイスラム過激派がヨーロッパにも浸透するでしょう.
他方,ブッシュ氏はトルコのEU加盟を支持して,無神経な政治的干渉と批判されています.しかし冷静に考えれば,アメリカやイスラエルの外交姿勢に近かったトルコがEUに加盟すれば,トルコがEUの論調に近づくかもしれません.NATO軍としてアメリカが利用してきたトルコの軍事基地も,EUによって制約されるかでしょう.そしてEUは,直接に,シリアやヨルダンなど中東の紛争諸国と国境を接し,アメリカに対抗して政治的・軍事的な関与を深めるに違いありません.
ブッシュ氏がトルコを支持するほどEU加盟は難しくなるだろう,などと意図して,大きな声援を送っている・・・わけでもないでしょうが.
LAT October 19, 2004
How to Get Vaccines, Not Just Viagra
By Katharine Greider
(コメント) ヴァイアグラを作った方が儲かるから,製薬会社はインフルエンザのワクチンなど作らない.医療保険の無い貧しい人々にとって,最も効果的な病気の予防策であるのに.製薬会社に正しい物を作らせるにはニンジンと鞭が要る,と.
WP Tuesday, October 19, 2004
America's Big Challenge: Asia
By Fareed Zakaria
ST Oct 21, 2004
Will oil woes lead to Asian EU?
By Leslie Fong
(コメント) Zakariaは,大統領選挙で両候補が盛んに問題にするテロとの戦争やイラクでの作戦は,もっと重要な世界のバランス・オブ・パワーを軽視している,と警告します.すなわち,中国の台頭であり,インドも含めてアジアへのバランス移動です.これが平和的に,世界にとって利益をもたらす形で可能になるためには,アメリカの協力が必要です.
アジアで中国や日本,韓国を含めた政治・経済統合が進み,EUのようになる可能性はあるか? ほとんど誰もが,無い,と答えるでしょう.彼らの感情的な反発は顕著です.しかし,彼らが持っておらず,しかも必要としているものがあります.石油と天然ガスです.彼らが歴史を学べば,協力することを必要とするでしょう.
かつて第二次大戦が終わるまで,フランスとドイツも石炭のような資源を争いました.フランスの先見の明ある経済学者Jean Monnetは,将来の戦争を無くすために,石炭と鉄鉱の生産を共有し,将来の重工業や兵器産業に必要な原料をヨーロッパで共通の制度の下に置きました.今,世界第2(中国),第3(日本),第7(韓国)の石油消費国が動揺の制度を作ることはできないのでしょうか?
既にロシアからのパイプライン敷設をめぐって,中国と日本の間で政治的な反発が強まっています.アジア諸国はむしろ,協力してエネルギー安全保障を高めた方が良いでしょう.中国の研究者Wu Jinanがthe Asian Energy Development Organisation (Aedo)と呼んだ機関を設立することで,規模の経済を生かし,リスクを分散し,石油の公平な配分を実現できます.
それぞれの首都から同じ距離にあり,中東からの輸送経路にあたるマラッカ海峡のシンガポールに,AEDOの石油精製基地を設けるのが良い,とFongは主張します.必要な資金は十分に用意できるだろう.問題は彼らの政治的意志だけである,と.
北京,東京,ソウルに,アジアのジャン・モネとシューマンの時代は来るか?
FT October 20 2004
US savings shortfall is hurting workers
By Ronald McKinnon
(コメント) McKinnonは,アメリカの財政赤字が資本流入と経常収支の赤字の原因である,と考えます.それはアメリカから製造業の雇用を減らしている,というわけです.保護主義も,ドル安も,製造業への補助金も役に立たない.もっと貯蓄せよ,あるいは財政赤字を減らせ,と.
私はこうした説明をいろいろなパターンで読みますが,どの変数が独立で,どの変数が従属して動くのか,異なっていると思います.式や数字には「粘着度」を示す係数でもあるのでしょうか?
The Japan Times, Wednesday, October 20, 2004
ADJUST EXCHANGE RATES: Friction on Asia's flywheel
By IFZAL ALI(chief economist at the Manila-based Asian Development Bank)
(コメント) ALIは,世界経済の変調に際して,アジア経済が成長を続けるには,為替レートを弾力化して増価を許した方が良い,と主張します.
アジアの急速な成長を支えてきたのは,工業諸国への輸出,アジア諸国間の貿易,アジアの消費ブーム,でした.しかし,工業諸国の成長に陰りが見えます.特に,アメリカの内外における不均衡はドル暴落や金利高騰の不安をもたらしています.石油価格の高騰もあって,世界の金利は上昇しそうです.アジアにもインフレが懸念されますが,為替レートを固定している限り,経常黒字と外貨準備の増大,貨幣供給への転化は免れません.
財政赤字が問題になっているアジア諸国では通貨の増価を許し,石油高騰によるインフレを抑えることで,金融緩和による国内需要の刺激を利用するべきだ,と言います.しかし,消費ブームやバブルを煽っていることにならないのか? それはアメリカを救うために? 日本がやったバブル刺激策に似ています.
LAT October 20, 2004
If Le Carre Could Vote
By John le Carre
「嘘の話がどれほど長かったか.やっと真実が語られる? イラク戦争は9・11のずっと前から計画された.オサマ・ビン・ラディンは開戦の口実を与えたに過ぎない.イラク人は代償を支払った.アメリカの若者も代償を支払った.イギリスの若者も代償を支払った.われわれの政治家が嘘をついたから.」
WP Wednesday, October 20, 2004
The Choice on Immigration
LAT October 21, 2004
Immigration? Oh, That.
(コメント) 大統領候補者の討論で,最も多くのe-mailを集めたのは移民に関する主張でした.しかし,どちらの候補も掘り下げません.ブッシュ氏は提案した短期労働ビザを支持者が嫌い,保守派の好む「アムネスティーは与えない」というに止まります.またケリー氏も,国境を越える移民について言及しただけで,アメリカに住む何百万におよぶ非合法移民労働者について語りませんでした.アメリカでは移民に対する反感が強まっており,その一方で,移民労働者に深く依存した産業があります.政治家は反対も賛成もしたくないのです.アムネスティーを与えるのか? ゲスト・ワーカー計画をどうするのか? 隣接する諸国に移民問題のコストを負わせるのか?
NYT October 20, 2004
In Koreas, High Hopes for an Industrial Marriage
By JAMES BROOKE
(コメント) 軍事境界線を越えて,今や北朝鮮のKaesongにできた工業団地に韓国企業が投資しています.北の安い労働力に,南の資本を組み合わせる.このアイデアは韓国の投資家たちを熱狂させました.衣類メーカー,靴メーカー,時計メーカーなどが,バスを借り切って見学に訪れました.既に130社が工場開設に名を連ねます.数十億ドルが投資され,北から約73万人,南から10万人が1000社を超える韓国企業に雇用される,と期待されています.賃金や税金として約6億ドルが北朝鮮政府に渡るでしょう.企業への課税は国内の半分,賃金は数十分の一です.
言葉は同じですが,政治的イデオロギーの違いが障害になるかもしれません.しかし,政治的な統一に比べて,企業の利益にはほとんど関係ないのです.それは同時に,ドイツの東西再統一に学んで,政治的統合を遅らせた韓国政府が,将来の統合コストを抑制する仕組みでもあります.少しずつでも,北朝鮮を資本主義に変えていきたい,と.中国政府が北朝鮮の改革を支持していることも明らかです.
しかし,北朝鮮の核開発を巡めぐってアメリカ政府が強硬な姿勢を示していることを,投資家たちは最も懸念しています.そこで,政府系の輸出入銀行がリスクを保証しています.また投資を促すファンドも発足しました.9月にはソウルとKaesongとを結ぶバスが運行し始めています.43マイルを1時間で走る往復運賃は17ドル.今では毎日,トラックやバスが非武装地帯を越えています.民間銀行は支店を開設し,EUからも,特にドイツ企業が関心を示します.EU商工会議所はピョンヤンに支所を開設しました.
WP Wednesday, October 20, 2004
Nuclear Nightmare
By Robert Samuelson
(コメント) 世界にとって最大の脅威は,それが広島と長崎で使用されてから60年も経つのに,核兵器を廃絶できなかったことだ,とSamuelsonは言います.今も約20000個の核兵器が世界に存在し,核保有国は8カ国,アメリカ,ロシア,中国,インド,パキスタン,イスラエル(疑い),イギリス,フランスに及び,北朝鮮とイランが追加されそうです.
核管理体制は二つからなっていました.相互確証破壊(MAD)と,核拡散防止条約(NPT)です.もしNPTが機能しなければ,核による脅威は自ら核を保有する強い動機を与え,アジアや中東で一気に保有国を増やすでしょう.そして,それでも使用されない可能性は,MADによる核兵器の増産,というパラドックスによるわけです.
ブッシュであれ,ケリーであれ,次の大統領が直面する最大の脅威は,論争されたイラクではなく北朝鮮です.
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The Economist, October 9th 2004
Turkey and the European Union: The coming crescent
Turkey and the European Union: To Brussels, on a wing and a prayer
Climate Change: Carry on Kyoto
Climate Change: Welcome to Kyoto-land
(コメント) もちろん,世界の政治システムは改革を必要としています.トルコのEU加盟問題.環境問題と京都議定書.私の関心から,最後の論説だけを紹介します.
1985年9月のニュー・ヨークで,プラザ・ホテルに集まったアメリカ,日本,ドイツ,イギリス,フランスの財務大臣と中央銀行総裁は,アメリカの貿易赤字とそれに対して強まる保護主義を抑えるために,為替市場でドルを減価させることに合意し,これを発表しました.彼らは同時に,アメリカが財政赤字を減らし,ドイツは減税し,日本はドル安・円高の介入を行うことも決めました.その後,ドルは約30%減価し,マクロ経済外交の記念すべき勝利となりました.もちろん,多くの反対意見が今もあります.
しかし今日,G7(イタリアとカナダを追加)が開かれ,アメリカの製造業がドル高を非難し,人民元やアジア通貨の増価を求めても,効果はありません.G7も,所詮,アルファベット集団(G10,G20,G24,G77,など)の一つに混じって,市場に雑音を生じているに過ぎないのです.しかし,最近の研究でピーター・ケネンらはG7を高く評価し,その改革を求めました.
国際的な集団化は,特定の緊急事件・課題に対応して結成されます.しかし,時を経ても継続されて,国際政治に互いの摩擦と混沌を残します.ケネンらは,G7に集まる政治指導者たちが示す “economic statesmanship” を賞賛します.彼らは,官僚たちの縄張りや手続きを飛ばしてでも,直接連絡を取り合って,緊急課題を解決する意志を示し,行動します.G7が合意すれば,IMFや世銀が拒んでも,その決定に従うほかは無いでしょう.
IMFの本来の使命は,加盟諸国間の国際収支不均衡を秩序正しく調整することです.G7がプラザ・ホテルでその役割を担いましたが,今は誰も引き継いでいません.通貨のミス・アラインメント(不整合な相対価値),貿易不均衡,政策協調の欠如.しかし,ミルトン・フリードマンはそのような協調を余計なものだと言います.必要なことは,各国が「宿題」を済ませておくことです.もし各国政府が財政赤字を出さず,中央銀行はインフレを抑えていたなら,誰も強調など必要としないで,為替レートを市場に委ねることができます.
しかし,中国のように,それを気にしない国もあります.そこでケネンたちは中国を加えて,ヨーロッパ諸国の代表を一人にした,G4(アメリカ,EU,日本,中国)を提唱します.主要な経済ブロック間で為替レートと不均衡の調整を合意するのです.問題は,中国が参加して合意できるのか,ということです.プラザ・ホテルで合意できたのは,各国の国内政治がそれを求めていたからです.もし中国でも,国内のインフレやアメリカの保護主義が変動レートへの恐怖よりも重視されるようになれば,調整を求めてくるでしょう.しかしそうでなければ,アルファベット集団の模様替えに過ぎません.
China: Help wanted
Immigration: Out of Africa
(コメント) 中国で!労働力不足が深刻に.アフリカからEUを目指す移民労働者.
US Election 2004: A special briefing
(コメント) 2004年の大統領選挙を特集しています.ブッシュとケリーの違いは何か? ブッシュと違って,ケリーは「アメリカは間違いを犯すこともある」という前提で政策を進める人物です.損のことを国民が支持するのか,それとも嫌うのか? 次期大統領が彼になれば,国際秩序が変わる可能性は同盟諸国にとって非常に重要になるでしょう.ただし,ブッシュとの親密な関係を自慢しすぎた国は・・・?