IPEの果樹園2004
今週のReview
10/11-10/16
*****************************
世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
*****************************
三つだけ推奨するとしたら?
1. 移民政策1 +2 :移民に対する政治的な意識と能力はどのように形成されるか?
2. EUの将来1 +2 :EUの夢と現実.分裂するのか? 強化されるのか? むしろア・ラ・カルト?
3. 官僚制度と民主主義 :選挙が有効に機能しないなら,経済政策を管理する,さらに多くの独立した制度が必要か?
******************************
ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
BG September 29, 2004
By Lawrence E. Harrison
アメリカ本土の安全保障,失業,貧困,教育,健康,環境にとって重要な影響を及ぼす公共政策で,選挙戦の焦点になっていない問題は無いか? 移民政策がまさにそれだ.この問題について,どちらの陣営からも聞いたことが無い.非合法移民たちにアムネスティーを認める両党による支持を除いて.
しかし,移民政策の重要性は以下の数字で明らかだ.
l 主に移民流入によって,アメリカの人口は1990年の2億4900万人から2000年に2億8100万人に増えた.それはカナダの総人口にほぼ等しい.
l 国勢調査局の予測によれば,移民政策に変更が無ければ,2050年には4億2000万人,2000年から2050年の間に人口の50%,1億4000万人が増加する.同じ期間に,ラティーノ人口は3600万人から1億人に増える.
l 移民帰化局は,非合法移民が年に50万人増加している,と推計する.それはアメリカに定住する移民が年に約150万人であることを意味する.
l 2000年に,カリフォルニアの人口は3300万人であった.今でも,水不足や住環境の汚染,都市の肥大化,交通渋滞が深刻である.もし予測どおりに,カリフォルニアの人口が2025年に4900万人に達するなら,これらの問題はどうなるだろうか?
こうしたデータが以下のことを説明する.
だから9・11調査委員会があれほど移民政策に注目した.特に非合法移民に.
だから移民経済学の大家George BorjasやVernon Briggsが雇用や賃金,特に最下層への影響に注目する.
だから元コロラド州知事のRichard Lammはラティーノの学業履修や健康保険加入を憂慮する.
なぜ移民は選挙戦の表面に出てこないのか? 強力な政治的・イデオロギー的な力が,このアメリカ人の規模,構成,統一性,生活の質を長期にわたって大きく変える問題に,「慣性」を働かせる.
両党ともラティーノの人口増加を知っているし,彼らを口説くために移民歓迎の態度を取る.しかし調査が示すように,政治家たちが思うほど,最近の移民たちは大量流入が続くことを支持していない.結局,新移民は職場や便益を彼らと競うのだから.
最近のシカゴ対外関係委員会調査では,エリートと一般人とで移民に関して大きな意見の相違があった.エリートたちは大量流入を支持するが,一般人は流入数を大きく減らして,移民法を厳しく守らせることに賛成である.
移民に関するイデオロギーは,通常なら起こりそうにないことだが,ウォール・ストリート・ジャーナルとニュー・ヨーク・タイムスという,二つの移民支持派を結び付ける.WSJや保守,より一般に自由論者は,非常な低賃金をアメリカの競争力とみなし,急速な人口増加を成長にとって好ましいと考える.
他方,NYTは,より一般にリベラル派だが,世界をEmma Lazarus(米国の詩人.自由の女神の台座に刻まれた詩がある.)の目で見る.「私に,あなたの疲れた人々,自由の息吹を希求して詰め込まれた,あなたの群集を与えなさい.」 しかし,其の詩句が書かれたのは120年も前のこと,アメリカ人口が5500万人でしかなかった頃のことである.
われわれは移民政策を高度な国益の問題として位置付け,自由に討論するべきだ.大統領候補者たちは移民政策に関する立場を明確に示すべきだ.国境の開放を支持するのか? もしそうでないなら,どのような基準で制限するのか? どのような水準なら認めるのか? 熟練や家族の呼び寄せでビザを発行するのか?
貧困を減らし,低水準の生活に苦しむ人々の所得を増やし,環境を保護するには,移民政策を重視しなければならない.
アメリカ移民改革委員会は,非合法移民をせき止め,合法移民を減らし,家族から熟練に合法移民の重心を移し,同化を促すように,移民政策の転換を求めてきた.これこそ候補者たちの議論にとって素晴らしい土台である.
IHT Friday, October 1, 2004
地中海をさ迷う,錆付いた船に乗った,絶望したアフリカ人の家族たちが示す悲惨な光景こそ,ヨーロッパの最も深刻な問題の一つを表している.避難所を求める一群の人々,難民,非合法移民たち,これら破滅した母国を逃れ,繁栄するヨーロッパを目指す人々に,われわれは何をなすべきか?
EU法務・内務閣僚会議がオランダで開かれ,この問題が議論された.そして最初はイギリスが提案し,今ではドイツやイタリア,オーストリアも支持している一つの提案がある.将来の難民になる人々を事前に審査する作業センターを設ける,しかもリビアに設ける,というものだ.支持者たちは,秩序正しく海外で処理した方が,密航のために報酬を支払ったり,非合法な渡航の危険を冒したりするよりも良い,というわけだ.しかし,そのようなセンターやキャンプがどのように運営されるのか,特に人権を無視している国で,何の情報も無い.また,EUには共通の難民保護政策が無い.このままセンターを設立すると言うのは間違っている.
難民に関するヨーロッパの論争は,スウェーデンやアイルランドのように,ヨーロッパが孤立したよう歳になるという諸国と,ドイツ,イタリア,イギリスのように,大量の非合法移民が流入する諸国との間で,対立している.最近は,東ヨーロッパでその問題が注目され,エストニア,ラトビア,リトアニア,オーストリア,スロバキアの内相たちが,チェチェンなどからの難民を懸念し,ウクライナに一時収容所を設立することを提案した.当然,ウクライナ政府はこの提案に強く反対した.
ヨーロッパに非合法に入国する多くの人々が深刻な問題であるのは間違いない.非合法移民の多くは彼らが住む国の法律や社会制度の外に居り,影の存在である.または時間と金のかかる難民審査の長い過程を待っている.
しかし,問題をアウトソーシングすることは,その解決を意味しない,難民たちはヨーロッパの海岸を目指し続けるだろうし,外国の一時収容所にいる人々はおそらく実質的な拘留と,ひどい条件を,何年も耐えるしかないだろう.リビアには難民を保護する法律が無く,エストニアやスーダンのような,帰国すれば罪を問われる国にも強制的に送還してきた,という恐るべき記録がある.
しかし,もしよくできた,正しく管理され,注意深く監視されるなら,海外の一時的な収容所や審査センターは,問題解決の一部になるかもしれない.しかし,より重要なのは,EUが共通の難民保護政策に合意することである.それにより,各国は問題を隣国に押し付けるためにバーを高くする動機を持たなくなる.そのような政策は,彼らが避難所を求める権利を完全に認め,彼や彼女の訴えを聞き,審査が終わるまで,ヨーロッパで一時収容所に入る権利を認めるべきだ.またEUは合法移民の流れを整備するべきだ.ヨーロッパは,今,命の危険を冒して入国しようとしている人々の多くを必要としているのだから.
こうした政策が実現すれば,一時収容所も有益であるし,新規入国者への人道的な審査も可能になる.それまでは,問題を隠しているに過ぎない.
LAT October 2, 2004
State Is Sailing Toward a Crisis on Immigration
By Beverly Antel, Beverly Antel lives in Torrance.
FT October 6 2004
Deporting the lot
(コメント) Antelは,カリフォルニアがタイタニック号のように沈み始めている,と言います.彼女はアメリカに生まれて50年以上暮らしています.アフリカ系アメリカ人であり,彼女の両親は文化の多様性を尊重し,統合学校に通い,あらゆる人種の友人を作りました.彼女の亡くなった夫はコーカサス人ですし,母親はフィリピン人と結婚し,兄のガールフレンドはラティーナです.
彼女が非合法移民の大量流入に反対するのは,人種の問題ではなく,公平性の問題です.移民の流入は経済にとって有益だ,と教えられました.しかし,本当にそうだろうか? と彼女は反問します.われわれのコミュニティーが負ったコストを見れば,詰め込まれた学校,緊急治療室も満員,住宅も過密,はなはだしい交通渋滞,汚染,犯罪,賃金低下・・・ それらが,50セントでレタスやぶどうを買うことのできた代償なのか? 信じられない!
超リッチなウェストサイドの住民や企業幹部,特殊利益団体の政治家たちは,タイタニック号の下の階で何が起きても気にしない.民主党は,三等船室の乗客を増やしたがり,運転免許書や合法化で党勢の拡大を図る.共和党は工場に低賃金労働者が増えることを好む.誰のコストで? 私たちだ.私たちの税金でこうした過剰人口のための公共投資が賄われる.
カリフォルニアは,赤字の中に沈みつつあるタイタニック号なのだ,と.
他方,FTはヨーロッパの非合法移民と難民申請問題を取り上げています.アフリカからの難民流入に業を煮やしたイタリア政府は,難民申請の時間も許さずに,彼らを強制送還し始めました.国連人権委員会などからの批判に対して,イタリアからヨーロッパ委員会の委員となったRocco Buttiglioneは,それは強制送還ではなく,単なる入国拒否だ,として支持しました.
イタリアの措置は,北アフリカに移民審査センターを設ける,というドイツの提案,元はイギリス案,によっても支持されました.イギリスは,ヨーロッパに既に居る難民たちも「封印列車」で海外のセンターに送る,とは考えていませんでしたが.そして,他の国の内務大臣たちは,人権やコストの点から,このような提案を批判しました.それでも,難民申請の問題は終わらない限り,提案は繰り返されるでしょう.
実際には,コソボやイラク,アフガニスタンからの難民の数が減って,今では経済難民が主流です.その圧力を直接に受ける,イタリアのようなEUのボーダー国家が負担を強いられています.FTは,強制送還ではなく,EU諸国の協力体制を求めます.確かに1980年代のヴェトナムが出したボート・ピープルよりも問題は複雑です.受入れを分担するだけでなく,難民の流出がアフリカ全体から中東地域に及ぶのです.それでも,他のEU諸国はイタリアの負担を分担し,共通の移民・難民政策を合意し,送出し国や地域と交渉しなければならない,と言います.
IHT Thursday, September 30, 2004
Sometimes efficiency is not the best measure
John Schmitt(the Center for Economic and Policy Research)
The Guardian, Monday October 4, 2004
IMF must learn the golden rule
Larry Elliott in Washington
FT October 5 2004
Martin Wolf: Sweep away the barriers to growth
By Martin Wolf
(コメント) IMFの新しいRato専務理事は,世界中で,機会さえあれば「労働市場を弾力化しなさい」と説いて回ります.しかし,それは正しいのか? OECDの研究に依拠して,Schmittはそれに反対します.
そもそもIMFには,マクロ政策に対する指導を行う権限しかなく,労働市場政策に口を挟むべきではありません.また,OECDが最近まとめた研究は,豊かな諸国の雇用保護法employment protection legislation (EPL)についての実証から,労働市場の効率性だけでなく,雇用を維持することによって守られる社会的な価値を重視するべきだ,と述べています.例えば,失業手当や雇用保護,積極的な再雇用促進を行うデンマークの労働市場は,保護の少ないアメリカと比べても劣らない,と.すべての国に「効率」という単一の基準を説くのは間違いなのです.
そのようなIMFの行動は,誰が決めているのか? 少なくとも財源に関して,貧しい諸国の債務免除をIMFに求めたイギリスのブラウン蔵相は,結局,政治の限界によって阻まれました.なぜなら,それを可能にするため,IMFが保有する金の売却や再評価による利益を利用することは,アメリカ議会の反対を気にするアメリカ政府によって,いつも潰されたからです.アメリカ政府はいかなる財源の移転も,アメリカ国内での財政引締めを難しくし,あるいは納税者に増税への反感を持たれる,と恐れているわけです.しかし,春のIMF総会までに何人が貧困で死ぬか計算して欲しい,とElliottは嘆きます.・・・その答.世界で一日に約3万人,200日として約600万人が,債務免除で避けえたはずの死を迎えます.
他方,Wolfは,開発政策に関する世銀の姿勢を評価します.新企業の登録に必要な時間は,ハイチなら200日,オーストラリアは2日です.すなわち,貧困を解決できない政府は,しばしば市場を上手く機能させていないのです.そこで世銀の『世界開発報告』は,市場経済を機能させる方法について特集しています.
民間投資を促すビジネス環境の改善に成功した中国やインドは貧困を減らし,他方,それに失敗しているウガンダなどは貧困が悪化しています.環境改善は,外国からの投資にも,国内投資にも有効だ,と言います.他方,契約の履行が不確実であったり,規制が不適切であったり,汚職や犯罪が蔓延しているようでは,企業活動にともなうコストが高くなります.それはマクロ政策の不確実さや不安定性について言われるのと同様に,政府が無能であり,職員たちは悪事に染まっていることを意味します.
世銀の報告は,必ずしも政府が一気に改善されるように求めるのではありません.政府は何よりも競争を妨げないこと,既存企業を保護するのではなく,むしろ競争こそが進歩をもたらすことを認めるように,そして政府を縮小することが答ではなく,それを改善することを報告書は求めます.そのポイントは,@レント・シーキングを減らす.A政策の確実性・実効性を高める.B公的な信頼・合法性を高める.C各地の条件に法律を適応させる.
改革は一度きりの転換ではなく,引き続く過程です.そして,市場が上手く機能することを豊かな諸国の経験で知ることによって,それが機能していない諸国は多くを学べる,と言います.病気の本質を正しく理解する,というのが,治療のための最初の一歩です.
NYT September 30, 2004
WHAT TO ASK JOHN KERRY
A Nuclear Iraq
By RUTH WEDGWOOD
Spread Democracy
By VICTOR DAVIS HANSON
Changing Direction
By MADELEINE K. ALBRIGHT
The Exit Strategy
By WILLIAM KRISTOL
(コメント) ケリーが選挙戦で述べてきた国際主義やイラク占領政策の転換,民主化と軍の撤退などについて,民主党の知的後見人?たちが厳しい質問を並べています.
FT September 30 2004
The world will pay for arms sales to China
By Tan-Sun Chen(foreign minister of Taiwan)
FT October 1 2004
Missile rivalry
FT October 3 2004
Hu's agenda for the Chinese army
By Tai Ming Cheung
(コメント) EUは加盟諸国に中国への武器売却を認めてはならない,という台湾の外務大臣の意見です.その理由を以下のように示します.@中国は今も権威主義体制(専制国家)である.武器売却は軍事強硬派に加勢することだ.Aアジアに軍拡競争をもたらし,中国や台湾だけでなく,地域の成長を損なう.B貧困解消のためにEUが行っている中国への援助が,武器購入に使われても良いのか? C中国に対する外からの軍事的脅威は,歴史的に見て,非常に低い水準である.D軍事的対立を煽れば,中国を含むアジアの生産・貿易システムを損ない,EUとの貿易も減らすだろう.E民主的諸国家の団結を乱すことの結果は,歴史が示すように,非常に大きなコストをもたらす.
FTは,中国と台湾との間で高まる好戦的な主張,ナショナリズムの昂揚を懸念します.実際,陳水偏首相は中国に対して冷戦型の「恐怖の均衡」に訴える,と主張しました.中国が軍事力を行使すれば,台湾は防戦するだけでなく,上海を報復攻撃する,というわけです.これに対して中国政府も陳を「分離主義者」と強く非難し,彼の発言を宣戦布告に等しい,と見なします.
抗した台湾の強硬姿勢は,軍事予算の通過を促し,独立支持派の政治基盤を維持する,政治的なスタイルでしかない,とも言えます.しかし,中国の好戦論を煽り,唯一の同盟国であるアメリカ政府を不快にさせることが,台湾にとって得策ではありえません.また,中国政府も対岸にミサイルを並べ,選挙戦に介入して陳水偏の再選を妨げたように,両者の対立を煽ってきました.外交的にも台湾政府を厳しい国際的な孤立に追い込んだ中国政府こそ,こうして台湾に,ミサイル防衛で対抗することが最善の抑止策だ,と確信させてしまったわけです.
FTは,中国との直接的な物資や人の交流を認め,平和と繁栄を分かち合うことが利益になる,とアメリカ政府は両者を説得しなければならない,と主張します.その上で,中国が合理的に行動すれば,台湾政府は強硬姿勢を取り下げるしかないはずだ,と.
Cheungによれば,胡錦涛主席の人民軍掌握には,まだ長い時間が必要なようです.なぜなら,江沢民が任命した軍の指導者たちが内的なネットワークを持っているからです.そして,たとえ胡が本気で「和平演変」を信じていても,人民軍の装備の近代化に予算がつぎ込まれるでしょう.人事と装備を一新するとともに,新しい情報戦略にも人民軍が活躍する形で,軍事的な主導権を握るのではないか,と考えます.中国の権力を支える人民軍が,その政治的な役割を取り除いて専門的な軍事組織に転換するのは,まだその先なわけです.
FT October 1 2004
Lex: Group of Seven
FT October 1 2004
G7 calls for greater oil markets transparency
By Andrew Balls and Chris Giles in Washington
Oct. 5 (Bloomberg)
Fed, Not G-7, May Decide China's Move on Yuan
Andy Mukherjee
(コメント) かつて1980年代には世界経済に強い影響を及ぼしたG7であるが,それは今でも重要か? 今では市場による民間投資が国際的不均衡を減らすどころか,さらに拡大しています.当時も日本の経済発展には欧米と差があったけれど,日本が参加したことで,日米のプラザ合意を主導できたのです.しかし次のG7では,中国をゲストに呼ぶだけです.
G7が議論したもう一つの手段は石油市場でした.十分な供給と消費における効率の改善を目指すとともに,もっと透明性を高めて市場の変動を抑制するべきだ,というわけです.
むしろ,中国がいつ変動制に抗するかを決めるのは,G7ではなく,アメリカの連銀である,とMukherjeeは考えます.もしアメリカが低金利を続ければ,中国の輸出は伸び,中国への投機的な資本流入も続くでしょう.それを抑えるには,為替レートを弾力化するしかありません.
BG October 1, 2004
Kerry's turnaround
(コメント) 「なるほど,あなたは断固として決断したのだろう.そして,それは間違いだった.」 ケリーはブッシュの自慢するスタイルを攻撃しました.「この大統領には,何が起きているのか分かっていない.」 ブッシュ大統領の答は内容が無く,「われわれはイラクに勝ったのだ」と繰り返しました.そして,ケリーの方が多くの知識を持っていることを示せました.たとえば,ブッシュがイラクと戦争を始めたとき,フセインよりも武器を持っていた国が35ヶ国もあった,と.そしてケリーは批判します.北朝鮮に核兵器を残したまま交渉も進めず,この大統領は「使命を果たした」と宣言したのだ!
BG October 1, 2004
Kerry holds his fire
By Derrick Z. Jackson
BG October 1, 2004
Bush's costly gaffe
By Thomas Oliphant
BG October 1, 2004
Channeling growth
LAT October 1, 2004
Kerry Won. However ...
(コメント) ケリーはブッシュを上手に批判し,いくつかの点でブッシュは守勢に立った.しかし,ケリーはイラク統治に異なった手法を示せたわけではない.ケリーは,今更,ブッシュの失敗を訂正できないし,国際主義を唱えてより多くのサミットや国連総会を開けば,イラク統治が本当に改善できる,などと国民は思っていない.
NYT October 1, 2004
The First Debate
(コメント) 聴衆の心を掴んだのは,@イラクはテロとの戦いにおいて最善の地点ではなく,しかも戦後統治にブッシュが準備を怠っていた.A確かにケリーも判断を間違ったが,ブッシュは間違った判断に基づいてイラクに侵攻させた.どちらの方が悪いのか? Bわれわれは攻撃されたのだ,と応じるブッシュに対して,ケリーは聴衆に確かめる.攻撃したのはビン・ラディンであって,サダム・フセインでは無い.
しかし,選挙というのは周到に練られた陣地戦であって,新鮮な,中身のある論戦など起こりえない.だから,TV討論がさらに重要になります.
LAT October 3, 2004
L'Etat, C'est George W.
ST OCT 2, 2004 SAT
What debate missed
(コメント) アメリカの大統領が及ぼす世界的な影響に従った価値ある論争を展開して欲しい,とSTは望みます.人口においても,経済成長についても,最大のアジアはまったく無視され,その他の地域は言うまでもありません.候補者たちは自分のスタイルを示すだけです.アメリカが圧倒的な地位にあることを二人は疑いません.しかし,ケリーはグローバリゼーションの管理について国際協調を重視します.
WP Friday, October 1, 2004
The First Debate
(コメント) 論争の中心はイラクでした.その将来計画について,二人の候補は非常に異なっています.ブッシュ氏の答は簡潔であるが,イラクの現状を説明しておらず,ケリー氏の答は複雑で,交じり合っています.ともかく,二人の候補はその個性の違いを明確にしました.
BG October 2, 2004
A revealing debate
NYT October 2, 2004
Sense and Sensibility
By DAVID BROOKS
FT October 2, 2004
Kerry-Bush debate
WP Sunday, October 3, 2004
Debate Victor: Iraq's Reality
By Richard Cohen
(コメント) ブッシュが侵攻に目覚めたときと同様に,自分の単純なメッセージに固執した結果,ケリーの批判に答えられなかった.ケリーも,国際主義がイラクからの撤退を約束しない点で,矛盾した主張であった.しかし,フセインを捕らえたことが,ビン・ラディンを逃がしたこと,大量破壊兵器は発見できなかったことの代わりにはならず,こうした現実に対してブッシュは敗北した.
WP Sunday, October 3, 2004
Unanswered War Questions
By David Ignatius
BG October 1, 2004
A plan to fix Israel's borders
By Reshef Cheyne(a member of Israel's Knesset and chairman of the Shinui Party faction)
NYT Tuesday, October 5, 2004
Why not two peoples, one state?
Michael Tarazi(a legal adviser to the Palestine Liberation Organization)
(コメント) 国際社会の認める国境を画定して,イスラエル政府は過激な入植者と手を切るべきである,とBGは訴えます.他方,ユダヤ人とパレスチナ人が同じ権利をもち,平和に一つの国に住める「一国型解決」を支持するパレスチナ人たちは,「二国型解決」を目指すイスラエル政府がパレスチナ人からできるだけ多くの土地を奪おうとしている,と考えます.
IHT Friday, October 1, 2004
Africa must be heard in the councils of the rich
Kevin Watkins and Ngaire Woods
NYT October 1, 2004
Ending the Cycle of Debt
WP Friday, October 1, 2004
Mr. Bush's Debt Relief
(コメント) 債務免除に関する論争があります.特に1970年代から,債務を負う貧しい諸国がIMFなどの国際機関から借入れた結果,債務の罠にはまり,借りた額を超える利子を既に返済しています.他方,ブッシュ氏の目的はイラクの債務減免です.アメリカはむしろ,援助の再配分を主張します.
ST OCT 2, 2004 SAT
Sizing up China's currency options
By Lu Ding(associate professor of economics at the National University of Singapore)
FT October 4 2004
Lex: Chinese monetary tactics
(コメント) 中国の為替政策と金融政策は結び付いています.為替レートを固定しているのは,輸出が可能で,直接投資を促進でき,しかも資本移動によって国内の金融システムに危機が生じないようにしたいからです.同様に,国内に為替介入で発生する貨幣供給は,景気の過熱を加速しますが,金利ではなく融資の割当制度によって抑制しています.こうした融資の割当は,結果的に,民間部門よりも政府系の企業を優先し,汚職を促すのではないか,と懸念されます.それが成長を損なうのであれば,いつか放棄するしかありません.
いつするのか,どのようにするのか? 変動幅を徐々に拡大するよりも,中国は為替レートをドルに固定したまま,切り下げによって時間を稼ぐでしょう.その間に,国内金融システムを強化し,デリバティブを含めた為替市場の育成と管理を学びます.しかし,ドル安がもっと進んだり,アメリカの金利が変化したりすれば,中国政府の判断も変わるでしょう.
ST OCT 2, 2004 SAT
The US dollar may be in for a hard landing
By J. Bradford Delong(professor of economics at the University of California at Berkeley)
GDPの5.7%に及ぶ経常収支の赤字を出しながら,ドルの水準はまだ高い.国際経済学は,いつかドル安の懸念からドル資産が暴落する,と予想する.こうした事態を予想するIIEのF.バーグステンは,歴史的な経験則としてドル安の規模を予測し,赤字のGDP比率を1%下げるのに10%のドル安が必要だろう,と言う.しかも第二の経験則として,為替レートはオーバーシュートする,と言う.
では,いつ起きるのか? という問いに,「間もなく」とバーグステンなら答えるだろう.しかし私は同意しない.
マクロ経済学者の故ドーンブッシュは,経済学者が合理的と思うより,持続不可能な状態が長く続く,と言った.しかしその後,誰も思わないほど急速に崩壊が進む,と.彼はその過程を5つに分けた.
1. 投機的な短期的利益の追求,もしくは安全を求めた資本移動が,通貨価値を持続不可能な水準に押し上げる.
2. 通貨の増価傾向を追って流入する資本がさらに利益を増やし,増価を加速する.通貨価値の過大評価は通常の経済学で説明できないほど大きくなる.
3. その高い水準を説明し,持続していることを正当化するために,学者たちは理屈をこねる.
4. 「ニュー・エコノミー」論に支えられて強気の市場が続く.利益は非常に大きく,永遠に増価するように思える.
5. 熱狂的な買いの波や追随的な投資が終わり,暴落が始まる.それはポンツィ金融(ねずみ講)の崩壊過程に似ている.
この5ヶ月間で,ドルは第三局面に入った.アメリカ・ドルの価値を高く維持することにアジア諸国が利益を見出すから,ドル高はまだ続く,といった具合に正当化する学者も現れた.実際,日本や中国を含むアジア諸国の中央銀行はドル高を望み,既に2兆ドルのドル建資産を購入している.中国政府にとって,中央銀行がドル資産の価値で損失を被るよりも,国内の雇用を維持する方が重要だ.大量失業と都市の暴動など,彼らが最も望まないことだ.
しかし,もし国債市場の投資家たちがドル資産を売れば,アジア諸国の中央銀行ではその価値を維持できない.アメリカ連銀にはできるだろうが,国内の失業者がドル高の維持を許さない.ドル価値のソフト・ランディングが緩やかに進むかどうか,それはまだ分からない.前回の主要なドル・サイクルは1985−87年であったが,大きな危機を生じることなく行われた.ドル暴落による危機の可能性は,経験則によって25%程度.ただし,それは今も高まりつつある.
ST OCT 2, 2004 SAT
Housing boom in big cities a house of cards
By Robert J. Shiller(professor of economics at Yale University)
ブームが始まったのは1996年ごろ.最初の大都市はロンドンでした.1997年,ブームの気分はロサンジェルス,ニュー・ヨーク,シドニーに広がりました.パリは1998年.そして2001年にマイアミ,モスクワ,上海へ.2002年頃にバンクーバーに達したのです.
住宅価格は,2000年以後,実質で50%も上昇し,その所有者たちを豊かにしました.しかし,購入を計画する者たちを苦しめています.しかし住宅価格の上昇はすでに減速し,シドニーでは下落し始めています.ブームは終わったのか? 住宅価格は暴落するか? その予測は困難です.
なぜこれほど多くの都市でブームが起きたのか? それに関して広く支持される説明はありません.このブームは,結局,心理的な理由で起きたからです.経済学者は金利や失業率を問題にしますが,それだけでは最近のブームを十分に説明できません.たとえば,以下の点で人々の認識が変化したのでしょう.@変化する世界経済において価値の源が変わった.A国際的に認知された都市の魅力が増した.そして,B投機的なバブルへの欲望.
市場と将来の傾向を見て,こうした心理要因が注目されました.世界経済は,以前よりも混迷に向かいそうです.株価も,テロも.都市への投資において「質への逃避」が起きるでしょう.住宅を安全にしたいという気持ちは,少数の高級都市で,恐怖と住宅価格を同時に上昇させます.また,インターネットや携帯電話に示された世界的コミュニケーションの爆発は,ビジネスや技術,文化の世界センターをさらに高く評価させます.人々は住宅価格の上昇を期待し,世界中のバブルを期待して語ります.例えば,上海の地価もロンドンを見て決める,といったように.
投機的なバブルは必ず終わります.では今回の価格上昇はどこで終わるのか? 他の二つの要因は,まだ,上昇を示しています.歴史的には,住宅価格が上昇する勢いはあるでしょう.上昇率は下がっても,経済の成長が持続する限り,まだ都市の住宅価格は上昇するはずです.他方,心理的要因では長期の予測が重要です.もし不況になれば(その予測でも),住宅価格が暴落します.
ある地域がショックを受けたり,金利が急速に上昇したりすれば,住宅価格の暴落が世界中に伝染するでしょう.
FT October 3 2004
Wolfgang Munchau: Europe is likely to split
By Wolfgang Munchau
FT October 5 2004
Europe is the new role model for world
By Andrew Moravcsik(professor of politics at Princeton University)
(コメント) もし統合ヨーロッパの創設に関わった諸国がヨーロッパ憲章を国民投票で否決したらどうなるか? フランスでも,オランダでも,その可能性があります.
Munchauは,「ア・ラ・カルトEU」が実現する,と考えます.憲章に反対する勢力の意向に反して,もし否決された場合,統合論者たちはさらに強硬な憲章を求めるでしょう.ユーロ圏を構成し,課税や市場も統合した諸国が,ユーロには参加しないイギリス,スウェーデン,デンマークなどと分裂し,新規の加盟諸国も迷うでしょう.拡大EUは,すでにニース条約によって政治的な意思決定が機能しない状態に陥っています.
Moravcsikは,EUの未来を信じるJeremy Rifkinの著書THE EUROPEAN DREAMを紹介しています.Rifkinは,ソフト・エネルギ・パスなどで知られる未来学者ですが,EUの可能性を正しく評価するための優れた視点を示しました.EUは,たとえ今,すべての加盟国がヨーロッパ憲章を批准できなくても,その未来に向けて世界の社会モデルを示したことが引き継がれます.
ヨーロッパの理想には,アメリカには無い力がある,とRifkinは強調します.ヨーロッパは個人の自立よりも共同体の関係を重視し,同化よりも文化の多様性を,富の蓄積よりも生活の質を,無限の物質的成長よりも持続的発展を,無慈悲な労苦より意味のある作業を,そして,普遍的な人権を重視します.すなわち,ヨーロッパ社会は,アメリカよりも平等主義的で,共同体主義的な,コスモポリタン的性格を強く持つのです.
アメリカの自由主義者がヨーロッパの衰退を主張し,アメリカのネオコンがヨーロッパはアメリカに安全保障を頼っていると批判しても,ヨーロッパはその理想を実現するために改革を進めることで,世界のモデルになるでしょう.
NYT October 3, 2004
Iraq: Politics or Policy?
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) アメリカは,パウエル・ドクトリンを正しく適用して勝利した.しかし,ラムズフェルド・ドクトリンも適用し,イラクの占領と治安維持に失敗した,とFRIEDMANは言います.アラブ世界に広がる既存の専制政治を解体して,過剰人口と大量失業,自爆テロ,イスラム原理主義に向かう衰退の道を阻み,雇用と繁栄をもたらすべきであるし,イラクがその要になるという考えを,FRIEDMANは変えません.しかし,ブッシュ政権にそれができるとは思えない,と言います.
なぜなら,ブッシュのチームは,正しいことと,自分たちの政治的な基盤やイデオロギーとが対立するとき,常に後者を選択してきたからです.もっと軍隊を送るべきか,減税するべきか? 米軍の指揮官がイスラム教を軽蔑したとき,彼を解雇してキリスト教右派を起こらせるべきか,そのままにしておくか? 国連に大量破壊兵器が発見できなかったことを謝罪し,イラク再建に国際支援を募るべきか? ガソリンに課税して戦費を賄い,財政赤字を減らし,サウジへの資本流入を減らすべきか? アブ・グレイブ収容所の虐待について国防長官を解任するべきか? CIAの情報が自分たちの意見と合わないときでも慎重に聞くべきか? ブッシュのチームはすべてに間違った選択を示した.何よりも不満なのは,ブッシュ氏が戦争の初めから,これを自分の再選運動に利用することしか考えていないことだ,と.
LAT October 4, 2004
No More Mr. Nice Guy in Dealing With Sudan
By Robert I. Rotberg
NYT Tuesday, October 5, 2004
Looking at Darfur, seeing Rwanda
Romeo Dallaire
ST OCT 5, 2004 TUE
Sudan: Tricky balancing act for China
By Michael Richardson
(コメント) 中国がスーダンへの制裁に反対することは,成長維持のために世界中から石油を確保しておきたいという理由でしょう.しかし,安保理で拒否権を行使して国際的な非難も浴びたくないのです.実際に制裁を有効にするには,圧力と監視を国際的に組織することと,隣接する地域のコストを負担し,制裁の発動や軍事介入に対する協力を確保することが重要です.
FT October 5 2004
Don't hail China's soft landing too soon
By Morris Goldstein and Nicholas Lardy(the Institute for International Economics)
中国経済が緩やかに減速し始めた,と祝杯をあげるのはまだ早い.この数ヶ月,実質固定投資,工業生産の付加価値,広義の貨幣供給,銀行融資などが減速した.しかし,個人消費が増加しているために,成長率は緩やかな減速となった.
過去の経験から見て,ここまで膨張した投資を減速するには4ないし5年を要する.個人消費が投資の減少を補う可能性もあるが,過去の例では,投資が終われば個人消費も続かなかった.住宅の消費も投資に従う.政府の支出は投資の3分の1しかなく,しかも財政赤字を嫌っている.輸出の増加で補う場合,国際的な摩擦が強まる.もしこうした可能性が限られているなら,1993年の投資のピークから底まで達する間に,たとえ5年懸かったにせよ,GDPが6%も減少したことを思い出すべきだ.
中国の工業化と都市化には持続的な固定投資が必要だ,と主張する者も居る.しかし,工業化は過去にも進展していたし,今や都市の住宅投資は民間が行う.昨年の不動産投資は,前年比50%の増加で,むしろ将来の調整(増加ではなく減少)が必要である.融資による,鉄鉱やアルミニウム,セメントへの過剰投資も,銀行が投資の水準を正しく調整するほど改革を行ってきたとは思えない.
中国政府の短期的な介入策は長期的に望ましい結果をもたらさない.介入や規制は「良好な」投資機会を損ない,成長や雇用を犠牲にする.それは政府の能力を制約するだろう.また,政府介入の抑制や国営銀行の改革,という方針に矛盾する.そして過熱を抑制できたと宣言した途端,それは再発する.
政府の中期的な政策能力は,人民元レートを固定し,金利を適切な水準に動かせないことで制約されている.人民元が安すぎ,金利が低すぎるのだから,経済は過熱になる.ソフト・ランディングを祝ってシャンペンのコルクを抜くのはまだ早い.
FT October 6 2004
Voters are ill-equipped for real economic debate
By Stephen Cecchetti(professor of international economics and finance, Brandeis University)
(コメント) 選挙は福袋を買うようなものです.何が入っているのか分からない.新しい代表が,自分たちの望んでいないことをする危険もある.今の選挙では,候補者たちは袋の中身を議論しない.自分たちの個性を示すだけだ.この先,経済問題や財政について何をするのか,われわれには分からない.
ケリーは冗談として,ブッシュのミドル・ネームがWであるのは,アメリカを間違った(wrong)方向に導いた人物にふさわしい,と非難したそうです.しかし皮肉な見方をすれば,問題はアメリカ人のどれくらいが「間違い」という単語は(Rではなく)Wで始まることを知っているか,です.
政策論争は難しい.アメリカ国民の多くが政策に関する十分な知識を持っていない限り,たとえば,保護貿易の手段を採用することが政治家には避けられないのです.自由貿易は消費者個人にわずかな利益をもたらす代わりに,特定の労働者たちから職を奪います.彼らは労働組合を組織し,政治的な発言力を行使します.
さらに難しいのは,財政状態を長期的に持続可能にすることです.もし通常の企業と同じ会計を行えば,アメリカ政府は将来の医療費や年金に対して,まだ財源の無い債務をGDPの4倍も負っていることが分かります.この問題について,国民は三つの論点を理解しなければなりません.@政府の適当な規模はどれくらいか? A政府に適当な仕事とは何か? Bそれに対して誰が支払うのか?
政治家に任せておくのではなく,国民が議論しようと思えば,むしろ税金を金融政策と同様に,政治の領域から切り離して,独立の連邦機関,連邦課税局(FRBに似たFTB)を設けるべきでしょう.そして必要に応じて取引税を変更するわけです.短期金利と同様に,税率も変更します.
このように政策を政治的代表から奪って少数の専門家に委ねることは,民主主義の原理に反します.それでも,議会ではなくFRBが金利を変更することに,国民は満足しています.政治論争が経済問題に十分な注意を払わないのは,国民の知識に限界があるからです.国民がこのトレード・オフを決めるべきです.
FT October 7 2004
Dogfight at the WTO
By Edward Alden and Raphael Minder
FT October 7 2004
Airing differences
アメリカはEUのエアバスをWTOに訴え,EUは直ちに反撃しました.大西洋貿易戦争の開始です.航空機産業についてアメリカとEUが報復合戦を行うことは,逆に,世界貿易を破壊することを意味します.FTは,交渉ではなく提訴に方針転換した背景を,苦戦を強いられたボーイング社の経営陣とブッシュの再選運動チームとが,国民にイラク以外で好戦的なムードと強硬姿勢を見せたがったのではないか,と憶測します.
航空機開発の性格(固定投資,市場規模,安全保障)から,EUもアメリカも,政府支援は避けられないでしょう.国際機関は万能ではありません.WTOで扱うべき問題とそうでない問題との区別が必要なようです.
******************************
The Economist, September 25th 2004
Telecommunications: The march of the mobiles
Oil-exporting countries: Tackling the oil curse
Economics focus: Oversold
(コメント) 携帯電話の市場は急速に拡大しましたが,早くも飽和の兆しが見えます.中国でもアフリカでも,世界中の国で販売され,一人に複数の携帯電話とか,さまざまな電化製品や工業製品と一体化させるとか,ペットや子供にも携帯電話とか,深夜にもネットで音楽や映像を集める・・・その内,宇宙人にでも売りつけるしかなくなるでしょう.
石油輸出国が「石油の呪い」から逃れるには,@石油収入を海外に貯蓄し,A政府の石油勘定を公開して精査し,B経済活動を補助金から切り離すことです.それが非常に困難であるとしても.なぜなら,かつてヴェネズエラからOPEC創設に加わったアルフォンソの言葉は真実だから.「石油は悪魔のクソである.それがトラブルの源だ.・・・浪費,汚職,消費,公共サービスの破綻,そして何年にも及ぶ債務!」
年金制度の改革に関して,民営化のモデルが1980年代からラテン・アメリカで先駆的に導入されてきました.世銀が率先した改革の基本は,それまでの現在の支払を退職者の給付に当てる方式から,自分の貯蓄で自分の老後を賄う方式に転換することでした.@基礎的なセーフティー・ネットは税金で行われますが,A労働者個人の強制貯蓄を行う勘定と,B自発的に老後のために貯蓄する勘定を設けました.しかし,資本が流れ込んだ金融市場や経済が繁栄した反面,実際には強制貯蓄を続ける労働者が少なく,国民を包括する年金制度が失われてしまいました.民営化モデルは三つの部分を再構成し,その関係について各国が模索し始めています.
Outgrowing the Union: A survey of the European Union
(コメント) EUの膨張とその将来に関する特集です.
6カ国から25カ国に拡大したEUは,その将来について不透明さを深めています.EUを支持してきた統合論者は,二つの理由で支持を得てきました.@ヨーロッパで再び戦争を起こさない.Aヨーロッパの市場を統合し,改革して,繁栄を分かち合う.しかし,戦争の生々しい記憶は失われ,最近ではイラク戦争をめぐって加盟諸国間の対立が鮮明になりました.また,経済的な繁栄はコアの諸国から失われ,新規加盟諸国でも人々が失望を強めています.EU市民が感じている不満は,特に,移民・難民問題と右翼政党の議会進出で明白になりました.
もしヨーロッパ憲章を各国が国民投票で批准する過程に支障が生じれば,EUの分裂や解体が起きる可能性もあります.EUの価値とは,民主主義,人権,紛争の平和的解決,でした.EU拡大も,こうしたモデルが成功することを示すはずでしたが,実際に加盟を望んだ東欧諸国は,ソ連の支配から出て,漸く得られた国民国家を失うことに反発を持ちつつ,それでもEUの繁栄に加わりたかったのです.他方,政治的な理想の社会モデルを唱えた人々は,東や南からの貧しい移民と難民の流入に反発を覚えています.それゆえトルコの加盟審査は激しい論争となっています.
EUの将来について,異なった考えが対立しています.ドイツとフランスはヨーロッパ連邦として,アメリカに並ぶ超国家を目指します.特に,イラク戦争に反対してヨーロッパ市民たちが街頭を埋めたデモ行進は,新しい超国家の政治意識が誕生した,という感慨を政治家や学者たちに生みました.確かに,ヨーロッパはアメリカともアジアとも違う文化を持っています.しかし他方で,イギリスの政治家は,伝統的に,ヨーロッパを自由貿易の点からしか見ていませんでした.サッチャーの有名な大陸蔑視,英語圏重視の発言は,今もイギリスの底流をなします.ブラッセルの官僚たちが,EU市場という経済的な魅力で国際的に重要な地位を占められる,と考えるのは早計です.アメリカから見れば,ヨーロッパは人口が減り,成長は衰え,軍事予算も急減させた,どうでも良い大陸なのです.
統一市場を形成できたのも,かつてはドイツが問題を解決する財政的な負担を引き受けたからです.1960年代にはフランスの農民を助けるために共通農業政策で補助金を出し,1980年代にはスペインやギリシャが単一市場で自国産業の衰退を恐れたため,地域振興の補助金を出しました.そのドイツが成長できなくなって,逆にヨーロッパの社会モデルを強いられる新規加盟諸国は,そのコストを負担することに耐えられるでしょうか? むしろ,ユーロはドイツの東西通貨統一と同じように,財政負担と成長減速の危険を含んでいます.
既にヨーロッパの世論調査では,有権者のほぼ半数が,今すぐEUが消えて無くなってくれた方が非常に助かる,と答えています.ヨーロッパの統合は行き過ぎだ,と言うわけです.EUには共通の言語も,共通のメディアも,共通の政党もありません.人々は国家間を移動せず,EU議会選挙の投票率は低下しています.EUとは国民性を奪うものではなく,あくまで諸国家の協調を促す枠組みです.ところがEUの市民たちは,その政策や制度に自分たちの意見が反映されておらず,市場競争や外交,防衛など,多くの重要な分野で各国が異なった意見を持っていることを知っています.特に,もしヨーロッパ憲章が批准されたら,共通の移民・難民基準を認めることになります.ヨーロッパが唱える人権思想と,国によって強まっている移民流入への恐怖は,共通政策に集約できません.移民を拒否するために,EUを拒否する有権者が増えるでしょう.
EUの将来はどうなるのか? 1.イギリスなど,少数の国が憲章を否決する.その国をEUから追放させる? 2.東欧など,多くの国が憲章を否決する.コアの政治同盟と,その周辺の緩やかな市場統合とに,分割される.3.フランスなど,コア諸国で否決が決まる.憲章が破棄される.
EUは,ILOやOECDと同じ,国際機関に転換するかもしれません.あるいは,EU内部に対立する同盟が形成され,再び軍事的な紛争の危機が訪れるかもしれません.しかし,実際はもっと錯綜した,敵対的でない相互依存状態が続くでしょう.各国は問題別に,自分にとって都合の良い関係を選択するのです.すなわち,「ア・ラ・カルト型ヨーロッパ」です.そして,それが各国間で経済・社会モデルの競争を可能にするでしょう.