IPEの果樹園2004
今週のReview
10/4-10/9
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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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三つだけ推奨するとしたら?
1. 中国の新体制 :江沢民から胡錦涛への権力移行は,アジアや世界に何をもたらすか?
2. イスラム社会との関係 :「テロとの戦争」だけでは民主化を実現できません.
3. グローバリゼーションの擁護 :バグワッティの確信にどこまで同意できますか?
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times
FT September 23 2004
Wilful blindness will no longer do
By Samuel Porteous
FT September 23 2004
Lex: China’s currency
Sept. 29 (Bloomberg)
Asia Power -- China Joins Japan at G-7 Table
William Pesek Jr.
(コメント) 中国政府は,腐敗を一掃できるかどうかが,共産党の政治支配を維持できるかどうかの決定的な鍵になる,と考えています.今までと違い,メディアもこの問題を真剣に取り上げている,と言います.しかし,それは見せかけだ,という過去の観念もまだ拭い去れません.共産党政府内部や,地方政府間の抗争が,腐敗追放の名目で今も盛んに行われているだけかもしれません.
腐敗を取り締まることは重要です.たとえ中国が独自の政治・経済システムによって繁栄するとしても,国民の政治参加と,ビジネスにおける効率性の基準は,明確でなければなりません.腐敗によって代表が決まり,腐敗によって利益が失われているのであれば,中国の成長はそれだけ早期に終わります.
最初の論説は,外国投資家が中国で企業を経営する場合,しばしば地元の政治家と利益を分け合ってきた方式が変わることを指摘しています.他方,次の論説では,人民元の為替レートを変える問題も,国内のインフレやバブルを抑制できるなら将来に延期される,と考えます.
三つ目の論説は,今回のG7がアジアの経済管理に欧米が参加することをテーマにしています.人民元が固定されたままでは,選挙を控えたアメリカ政府は不快であり,国内経済が硬直したヨーロッパや日本は不満(不安)です.中国経済の目覚しい成長と輸出に嫉妬しつつ,世界経済に参加している以上,その行動には規範が求められるのです.貿易,投資,為替レート,景気対策,・・・ しかし,アジアは欧米の植民地では無い以上,欧米の利益でその行動を制約することはできません.
同じことを,日本も言われてきたはずです.黒字の累積や為替市場への巨額の介入,市場参入や企業間の差別的な慣行,株式市場の閉鎖性,資本市場の改革,不良債権や金融システムの改革,・・・を求められてきました.国内政治を「外圧」によって動かす,政治家たちの国際連係プレーとして,G7などの国際政策協力は機能します.
中国の人民元と,日本の郵政民営化.これらが欧米の主要な関心です.そして,それが各国政治家の目的と一致するとき,具体的に動き出すわけです.
ST SEPT 24, 2004 FRI
Cut tariffs and grow
BG September 29, 2004
Rethinking free trade
By Robert Kuttner
(コメント) STは,ブッシュ大統領が国連総会でいつも通りの選挙演説を繰り返したことに失望します.特に,その聴衆が多くの発展途上国の代表であることを思えば,自由貿易に関する言及が無いのは重大な過ちである,というわけです.「テロとの戦い」に支持を訴えるより,関税をなくして第三世界の貧困を解消したい,と訴える方が良かった,と.
ブッシュ氏が演説する前の日に,フランスのシラク大統領とブラジルのルーラ・ダ・シルバ大統領が「貧困との戦い」を訴えました.61億の世界人口に20億人以上も貧困線以下の人々が居る,というわけです.どうやって戦うのか? 彼らが訴えたのはトービン・タックス,すなわち金融取引に対する世界課税であり,また,重火器の取引にも課税することです.また,貧しい諸国に対して行われている融資を増やすために,新しい融資枠を設ける提案も行いました.
しかし,このような提案が実現する見込みはありません.なぜなら,豊かな諸国はいかなる国際的な課税も受け入れないからです.出席していたアメリカ農務省のAnn Veneman次官は,世界課税は「本質的に非民主的である,実行不可能だ」と述べました.
なるほど.しかし,考えてみれば,豊かな諸国は貧しい国からの輸入品を阻止するために,関税を課しているのではないか? むしろ,貧しい諸国が互いに高い関税を課して国内市場を保護しています.関税収入の多くは,役人や政治家が私物化し,汚職の源泉となります.それらが貧しい諸国の成長を妨げます.STの論説は,関税の無いシンガポールの方が豊かであり,インドやスリランカのように関税を下げて輸出を伸ばせる,と主張します.
関税は,小国の場合,自国の消費者に対する課税です.しかし,世界中で関税を課せば,世界課税(取引税)となるわけです.アメリカは超国家的な徴税システムに反対し,シンガポールは国際取引税に反対し,フランスやブラジルは課税による貧困救済を支持する,というわけです.
Kuttner は,Journal of Economic Perspectivesに載ったSamuelsonの自由貿易異論を賞賛します.それはKuttner自身が1983年に提唱し,非難された異論に似ているからです.「比較優位」に従う自由貿易であっても,それは必ずしも両国の利益にならない,と.
その理由は,インドや中国に,アメリカ企業が先進的な部門まで生産拠点を移し始めたからです.もし貧しい諸国が先進的な部門でも豊かな国の雇用を奪い,しかも,その製品の国際価格を大幅に下げた場合,豊かな国では安くなった製品を輸入することで消費者が得る利益と,失われた雇用や賃金で生産者が被る損失とが,必ずしも前者に注目するだけでは済まないだろう,というわけです.
これは,かつて比較優位によりW.A.ルイスが示した問題に近いです.@労働力の豊富な供給で,実質賃金が固定されたまま生産性が大きく上昇すれば,その利益は価格の下落を介して消費者(の国)に帰属します.A賃金格差を超える生産性格差があれば,先進的部門の雇用を豊かな国が維持します.しかし,もし貧しい国の生産性上昇が賃金格差を超えれば,先進的部門でも賃金が低下し,雇用が失われます.B先端的部門への投資だけでなく(それは十分な雇用をもたらしません),国内の労働力をより多く生産的に雇用することが重要です.完全雇用と賃金上昇を伴わない「自由貿易」論には,問題があるわけです.
それでもBhaghatiなら,アメリカ経済(あるいは,ドイツ経済)が全体として貧しくなるとか,賃金を下げる必要がある,とは言わないでしょう.問題は,インドや中国の賃金が上昇して輸入を増やし,アメリカ国内でも十分に産業間で労働者を再配置できるかどうか,です.単純に考えて,インドや中国が「アメリカと同じ」生産性と消費水準を実現すれば,そのほうが世界は豊かであるはずです.そして,本当にそうなれば,地球温暖化やエネルギー不足,ゴミ問題をもっぱら議論しているでしょう.
Kuttner は,自由貿易がアメリカ労働者に損失を生じないように,インドや中国に対して,@市場競争に補助金や保護政策で介入するな,A労働組合を認め,生産性上昇に見合った賃金上昇や輸入の増加を促せ,と求めます.また,アメリカ政府に対して,教育や研究・開発にもっと投資し,国内労働者の最低賃金や組合の権利を尊重するように(労働者の再配置を促す?)求めます.
自由貿易がすべての国の,すべての階層や地域・部門にとって利益となるには,多くの条件・制度が必要なのです.
ST SEPT 24, 2004 FRI
What Hu's new post changes, and what it doesn't
By Richard Halloran
BG September 25, 2004
Will Hu make China stable or stagnant?
By Ross Terrill
(コメント) 中国の共産党,官僚制度,人民軍において,胡錦涛・温家宝体制の指導性(権力)が承認されたことで,中国や世界がどう変わるか,注目されています.指導者や政治体制の「性質」は,社会制度が変化を十分に規制していない時期・国ほど重要な意味を持つでしょう.
新しい体制は,江沢民よりも官僚主導であり,政治改革・人権・民主化には熱心でない,と言われます.国内経済運営を重視し,そのために対外関係の改善・安定化を好みます.失業問題,社会保障の不備,汚職,銀行システムの不安,国営企業の再建・整理,エネルギー不足,など,国内問題が深刻だからです.アメリカが提供する1500億ドルの輸出市場は重要です.不必要な対立や摩擦は避けるでしょう.
しかし,アメリカが中国を「封じ込め」ようとしている,という不安があります.それゆえ,北朝鮮との交渉には強い態度で解決の指導権を示すでしょう.アメリカと距離を措く韓国との友好関係も,東南アジア諸国との貿易や投資の自由化も重視します.特に,強硬な対日姿勢を示した江沢民に代わって,新体制が日本との関係改善を明確に求めるだろう,とHalloranは予想します.
それでも,台湾問題では,人民解放軍が武力を行使する選択肢は保持します.1979年にヴェトナムとの戦争を終えて25年,1989年に天安門で軍隊を動かして15年が経ちます.
Terrillは,世界最大の専制支配体制を円滑に移行する政治過程は無事に終わったかもしれないが,それだけで良いのか? と問います.確かに中国は成長と安定を実現し,世界的な影響力を高めてきました.しかし,これは中国がブレジネフ時代に入ったことを示すだけで,と.胡への権力委譲は確かなように見えても,中国の政治は息の長い暗闘であり,もし何か危機が生じれば,他の権力者たちが胡を葬るだろう.過去にケ小平もそうしたように.
今の中国を支えているのはケ小平の考えです.Terrillの考えでは,中国のエリツィンが現れて,真実を叫ぶまで,この官僚指導体制が続くに過ぎない,というわけです.ケ小平はソビエトの崩壊を見て,共産党が中国の支配を失うとしたら,それはむしろ毛沢東主義の左派が改革を終わらせるときだ,と考えました.すなわち,彼は政治的な危険を冒して改革都市を巡り,その正しさと継続を説いたのです.大衆消費を称えることでレーニン主義を救った,とTerrillは言います.
しかし,その改革も部分的なものです.改革の成功により,停滞は抜け出したものの,都市の富裕層が示すアヴァンギャルド生活は高価なペットや精神科医,ハーゲン・ダッツ・アイスクリーム,バーベキュー・グリル・・・と広がる一方で,地方の暮らしは債務と土地喪失,医者に診てもらうにも代金が払えない状態です.
江沢民の時代は,この現実を共産党が追認し,「三者代表制」や「西部大開拓」により神聖化しました.マルクス主義の権威が失われればナショナリズムで置き換え,体制の支持を得るためには外国資本や外国市場に頼りました.すべてはケ小平主義の適用に過ぎません.次はどうなるのか? 中国のゴルバチョフは現れるか? 共産党の支配体制はいつ崩れるのか? 今後とも,マルクス=レーニン主義無しにやって行くのか? もし胡がそれに触れれば,彼は権力を失うかもしれない.
胡の最重要課題は,不安定性を回避すること,です.しかし,社会や経済が躍進するのに,政治の改革は停滞し続けています.銀行改革も,北朝鮮の抑止(そして日本の軍事強化)も,辺境(台湾,香港,新疆,チベット)における政治不安も,胡体制では扱えないでしょう.安定性は法律などで政治支配を強化するだけでは得られません.むしろ強硬な支配体制は,民主制より,衝撃に弱く,長期にわたって繁栄する専制支配など歴史的に存在しなかった,とTerrillは考えます.
経済的な成功が政治改革を遅らせるとしても,それを避けることはできない,と.
FT September 24 2004
A bitter draught for the world's coffee farmers
By Andrew Bounds
(コメント) 石油はG7でも注目されるが,それと並ぶ国際商品であるコーヒーは無視されています.しかし,国連総会で遅くまで議論されたのは,このコーヒーについてでした.というのも,もし国連が本気で2015年までに貧困を半減させたいのであれば,既に5年に及ぶコーヒー危機を解決しなければならないからです.
石油と異なって,コーヒーの消費がなくなっても,世界は困らないでしょう.しかし,それを生産する者にとっては,毎日,コーヒーの価格が重要なのです.世界で1億人以上が,しかも非常に貧しい諸国の人々が,コーヒー豆に生活を賭けています.1998年に価格が暴落してから,アフリカ,アジア,ラテン・アメリカの50を超えるコーヒー生産諸国では収益が半減しました.1980年代・90年代にはポンド当り1ドル20セントしていたのが,今では75セントです.生産者の60%が小規模であるから,所得に直結します.
ところが裕福な消費諸国では,通りに並ぶコーヒー店が植民地化されて寡占市場に変わり,その価格を急速に引き上げています.1990年代初め以来,西側の消費者がコーヒーに支出する額は年に300億ドルから800億ドルに増えています.しかし,消費者の支出から生産者が得る割合は,3分の1から13分の1に減りました.
価格暴落の原因は,特に新しい生産国による過剰供給もあるでしょうが,コーヒー市場が正常に機能しないことが重要です.価格が下落すると,小規模生産者はより多くを売って所得水準を維持しようとするから,一層の暴落を招きます.他の農産物を植えるにはコストがかかり,あるいはコーヒー以外の耕作に適さないため,多様化できていません.また消費量は増加する傾向が無く,支出額もほとんど一定で,卸売価格の下落が最終価格に反映しません.その結果,コーヒー生産者の所得は,Starbucksなどによってますます分割される消費市場によって決まる国際価格を,長年,受け入れるだけでした.
焙煎技術の進歩や,特定のコーヒー豆,仲介業者の排除,フェア・トレードの拡大などにより,コーヒー生産者の中でも利益をあげる者はいます.しかし,流通を支配するのはネスレ,クラフト,サラ・リー,プロクター&ギャンブルのたった4社であり,彼らがその供給の連鎖を自ら手放すことは無いでしょう.
BG September 24, 2004
Are US elections the ultimate hostage?
By Joan Vennochi, Globe Columnist
(コメント) テロリストたちが指揮する流血の海が,アメリカの次の大統領を決めるのか? 選挙が近づくほど,その混乱と悲劇は増すでしょう.それがケリーに有利に働くとか,テロリストがケリーの勝利を望んでいる,という見方を,Vennochiは否定します.しかし,もし連続殺人犯が隠れているのであれば,殺人が増えるほど捜査が強められるでしょう.同様に,テロの脅威を徹底的に取り除くブッシュを再選させる理由にもなります.
アメリカは,テロによって政権が交代したスペインと異なります.スペインのテロはアル・カイダと関係が無く,またイラクから撤退することも政治的に容易でした.しかし,アメリカ人は既に余りにも深くイラクに関わっており,イラク占領は1000人の命を失わせた国民的な大儀です.ケリーが次期大統領になれば,イラクの民主的再建により多くの国が協力するだろう,と選挙戦で彼も主張しています.このことをテロリストたちが歓迎するでしょうか?
テロリストたちがどちらを望むにせよ,分裂したアメリカの政治的見解に決着をつけるのは,イラクに集まったテロリストたちだろう,と.
IHT Friday, September 24, 2004
I was wrong to support the Iraq war
Dominique Moisi
ST SEPT 28, 2004 TUE
Is democracy possible in the Arab world?
By Joseph S. Nye
(コメント) 2003年にパリでイラク戦争を支持した少数のフランス人であったMoisiは,自分の意見が間違っていた,と認めます.彼がイラク戦争を支持した理由は,イラクが大量破壊兵器(WMD)を持っていると考え,テロリストと連携する政治体制を排除するには武力によるしか他に有効な手段は無い,と考えたことです.
しかし,アメリカが専制支配の象徴を引き倒し,そこに立てた旗は,イラクではなく,アメリカの旗でした.アメリカ軍はイラク国民に権力を渡す代わりに,自分たちの本能に任せて,9・11の復讐を演じました.アメリカは戦争に勝って,平和を築く過程で負けたのです.
アメリカはこのような勝利,このような戦後処理しかできなかったのか? アメリカ文化とイラクの分裂には重大な関係があるのか? フランス政府が主張したように,国際法と国連の制裁を続けることが,民主的で安定したイラク政府につながったのか?
こうした苦しい問いかけを繰り返して,真実はYesでもNoでもない,どこか中間にある,と言います.アメリカの野望は非現実的であったし,その失敗が政治的なリスクを大きな破局に変えました.そして,もしWMDが存在せず,これほどの混乱を導くかもしれないという可能性を重視していたら,イラク戦争を支持しなかっただろう,と書きます.サダム・フセインを捕らえるために失われた命の価値は,余りに大き過ぎました.
私たちはイスラム世界を敵にすることなく,原理主義者のテロと戦う正しい方法を見出すべきです.その失敗の代償は非常に重く,中東の反米感情やプーチンによるテロの悪用,イランの核兵器開発など,現実に手に入れた「サダム後の世界」は,アメリカ政府の描いたいかなる最悪のシナリオよりも悪いものです.
他方,Nyeは,このイラクにおける治安の悪化がアラブ世界に民主主義を拒む何かがあることを示している,という解釈を退けます.アラブ世界の多くの人々,特に知識人は,経済的な機会や繁栄をもたらすことができない自分たちの社会・政治秩序に不満を持っています.急速に増える人口の45%が14歳以下であるのに,雇用が十分にもたらされる見込みはありません.石油や天然ガスを除けば,人口3億人のアラブ諸国が輸出する額はフィンランドより少ないのです.
もはやソ連の影響力拡大やイスラエルの存続を守るために,アラブ諸国の専制体制と協力することがアメリカの目標ではありません.ドイツがヨーロッパ民主化の鍵であったように,イラクは中東民主化の鍵である,と考えます.もちろん,イラクはドイツや日本のような中産階級がおらず,アメリカとの文化の違いも大きいので,ドイツでさえ10年を要した占領統治が,イラクで容易に終わるわけが無い,とNyeは注意します.
それでも,近代化やグローバリゼーションに対する期待と不安が反政府活動に流れていることを慎重に扱って,この地域の人々に優れた教育と雇用機会,医療の改善など,利益をもたらすことが重要です.そのためにはバーレーン,オマーン,ヨルダン,クウェート,モロッコなどで行われているように,経済を開放し,官僚の統制を減らし,教育システムや選挙制度を改善することです.時間はかかりますが,日本や韓国がしたように,地域の知識人たちが自分たちの文化と自由な経済システムとを調和させる方法を見出すでしょう.
西側の美徳と欠陥とをよく理解した現地の市民たちが,自分たちに合った社会変化を進めることです.そのためには,大学やNGOの発展が非常に重要です.また政府は留学生や市民たちの団体を育てることです.安定した,広く市民の参加する社会がアラブ世界でも拡大すれば,それがアメリカの掲げた民主化の目標を近づけるだろう,と.
LAT September 24, 2004
If the War Were in the U.S. ...
By Juan Cole
The Guardian, Saturday September 25, 2004
Bring Baghdad to Brighton
Mark Seddon
(コメント) ブッシュ大統領は悲観主義を一蹴し,事態が好転している,と断言します.しかし,もしイラクの現状をアメリカに移せば,それは何を意味するでしょうか?
アメリカの人口はイラクの11倍以上あります.先週,暴力によって死亡したイラク人は300人を越えますが,アメリカでなら3300人以上になるわけです.つまり,爆弾,ロケット砲,マシンガン,空爆などで一週間に死亡したイラク人の方が,9・11の犠牲者よりも多いのです.
Coleはさらに想像します.アメリカ中に27万5000人の反政府の武装した集団が散在し,失業率が40%に達するような街の様子.アメリカで,昨年,もし国務長官,大統領,司法長官が暗殺されていたら? 主要都市部でしばしば空爆が行われ,宗教的な武装集団が数百人も殺害され,アーリントン墓地が,毎日,戦場になっていたら? 飛行機もトラックも満足に国中の物資や人を輸送できない生活とは? ハイウェイではいたるところで自動車を奪われ,銃撃される・・・?
一日に10時間も送電されず,猛暑のヒューストンやマイアミで真夏に突然の停電がしばしば襲い,アラスカからのパイプラインが爆破されるとしたら? また,地方選挙が突然中止されて,大統領が勝手に知事たちを任命する? しかも,彼らがその直後に爆殺され,あるいは子供を人質に取られて,次々に辞任を希望する・・・?
それでもEUの政治家が,アメリカ国民は悲観主義を一蹴して,事態は好転していることに気づくべきだ,などと演説するとしたら,アメリカ人は何と思うだろうか?
他方,漸く,バクダッドの悲鳴がブライトンのイギリス労働党大会にまで届きそうだ,という論説もあります.
The Guardian, Saturday September 25, 2004
Tony Blair needs a big idea. Adam Smith can provide it
Gareth Stedman Jones(professor of political science at Cambridge University)
(コメント) 新しい労働党が「平等」という理想を捨ててから,新保守主義との違いは,一体,どこにあるのか? ベッカムの所得を減らすことに関心は無い,というブレア首相に,社会主義と所得分配との関係を説明してもらいたい.この20年間で,イギリスの最も裕福な1%の人口が総所得に占める割合は,6.5%から13%へと,倍増しました.
イラクや難民騒動,医療・年金問題など,さまざまな論争を抱えている労働党が支持者の心を捉えるには,平等の実現,という問題を避けてはいけない,とJonesは考えます.まさに貧困層の支持が揺らぎ,投票率が下がっているのです.貧困を無くし,平等な社会を実現する,という訴えが真実であることを示すべきです.
しかし,新しい労働党はこの問題を避けています.なぜなら,それは増税を連想させ,新富裕層に反感を持たれるからです.実際には,右派からの攻撃が怖いのです.それは「社会主義」の幻想によって国を滅ぼす旧い労働党に退化することだ,と.平等なんて捨ててしまえ?
それは間違いです.保守派がしばしば賞賛するアダム・スミスも,自由主義の主張を,貴族や特権に支配された不平等な社会を解放することから始まっています.スミスの思想を受けて社会を改造しようとしたのは左派の思想家でした.イギリス生まれのトマス・ペインやフランスの革命家コンドルセです.彼らは不平等を自由な市場経済の避けられない代価とは考えませんでした.国民年金制度や学校,相続税,さまざまな社会保障制度を通じて,社会を科学的に制御することを考えたのです(science and "the social art").
彼らにとって社会の進歩を妨げるものは二つでした.一つは権力(貴族や寡頭制支配).もう一つは虚偽(迷信や無知からくる偏見),です.
たとえ21世紀になっても,Jonesは,労働党がその大きな理想を社会民主主義の誕生から,1790年代の啓蒙主義運動から,学ぶように求めます.彼らは個人の自由と商業社会がもたらす利益を,包括的な市民権の理想や公共財と組み合わせました.法によって特権や差別が禁止され,市場の不平等は自発的な協会や地方政府により,また相互扶助,友愛組織,生活協同組合,地域自治,企業倫理,労働組合などが矯正したのです.
FT September 26 2004
Exchange rate flexibility is in Asia's interest
By Raghuram Rajan and Arvind Subramanian
NYT September 30, 2004
I.M.F. Asks China to Free Its Currency From Dollar
By ELIZABETH BECKER
(コメント) IMFも経常収支の不均衡が拡大する世界経済に不安を感じています.アメリカは貯蓄を増やし,アメリカの外で需要を増やす必要があります.そして,その解決策の一つとして,アジア諸国が為替レートを弾力的に変動させるように求めています.
この論説が批判するのは,Michael Dooley, David Folkerts-Landau, and Peter Garberの定型化したa "New Bretton Woods" systemです.その主張によれば,アジア諸国が通貨を安くして固定し,輸出によって成長を遂げ,貯蓄を海外=アメリカに移すのは,自覚的に選択された政策であり,非難するのは間違いだ,というわけです.2億人の過剰労働力を抱えた中国が人民元を安くして輸出を伸ばすのは,雇用を増やし,成長を加速する有効な政策です.それはコア諸国の雇用を奪うとしても,中国は貯蓄をアメリカに移して金利を下げ,中国に投資した企業は利益を上げています.
IMFはこれに反対します.中国政府はドルに連動して通貨が増価しても,通貨を安くすることなどできませんでした.また,直接投資はアメリカではなく,もっぱら日本などのアジア諸国から流入しています.何よりも,為替レートを固定することが長期的には維持できないし,望ましくもない,と言います.
その理由は,輸出財の生産性上昇が高いことです.これが成長とともに貿易財に比べて国内物価や賃金を相対的に上昇させ,貿易財の価格を引き上げると競争力を奪います.すなわち,実質的な通貨の増価となるわけです.周辺諸国はこれを回避して輸出と成長を維持しようとします.たとえば,国内価格を統制し,外貨流入を不胎化し,資本流入を規制します.
すなわち,a "New Bretton Woods" systemは,成功することで崩壊するわけです.いずれ不胎化の限界に達し,ミクロやマクロの非効率が著しくなり,中国自身が資本自由化と為替レートの弾力化を求めるはずだ,と.
この主張は,完全な弾力性を求めているのか? いつ,どのような形で移行するのか? 分かりません.一定期間はa "New Bretton Woods" systemが成功するのであれば,問題は増価によって成長が衰え,投機的な圧力と通貨危機が生じることです.早めに,段階的に,弾力化することに対して,国際的な支援を制度化したい,と提唱すべきではなかったか?
IMF・世銀総会では,アメリカとIMFが中国ならびにアジア諸国に為替レートを弾力化するよう求め,それがインフレに苦しむ中国と,「安過ぎる」中国製品の流入に苦しむ工業諸国の,双方の利益であると唱えています.また,イギリスの労働党政府に配慮して,貧しい諸国への債務削減を合議している,というわけです.誰かが世界政治交渉の中身を透視できたでしょう.
IHT Friday, September 24, 2004
Putting Germany together again
(コメント) これほど厳しい経済的な負担と,それにもかかわらず拡大する格差を見れば,西側の人々“Wessis”は「ベルリンの壁がなくならないほうが良かった」と思い,“Ossis”は「高慢で,大敗した,搾取に耽る資本家たち」を憎みます.「ドイツの統合計画は機能していない」というケーラー大統領(前IMF専務理事)の発言は,ドイツ政治のタブーを破りました.
論説は,それにもかかわらず,ドイツには他の選択肢などほとんど無かった,と考えます.マルクの統合も,福祉国家の拡大も,統一の政治的な流れが東から西への人々の奔流として生じた以上,政治家たちにそれ以外の選択肢を残していなかった,というわけです.あの状況で,東の貨幣は西の半分の価値しかない,福祉国家の財源は無い,と言えたでしょうか?
しかし,今なら,すべての国民が現実の格差を直視するはずだ.そして,経済活動の機会を増やすことで,その格差を克服することに集中できるはずだ,と.
The Japan Times, Sunday, September 26, 2004
Blame supply-side policies
By GREGORY CLARK
(コメント) 元財務次官の行天豊雄氏が,the Aspen Institute in Coloradoで1980年代後半の日本の政策失敗を要約したそうです.アメリカは日本の貿易黒字に憤慨していたけれど,日本では円高が生産力の過剰をもたらし,さらに輸入を抑え,企業は輸出拡大に奔走してしまいました.アメリカは日本に内需を拡大する具体策を求めたわけです.
それは財政的な刺激策であるべきでした.しかし,大蔵省は財政の健全化に固執していたため,過度の金融的な刺激に頼ったのです.金利を下げて,土地の価格が上昇しても,日銀は他の指標はインフレを示していないから,という理由で金融緩和を続けました.
なぜバブルは起きたのか? 行天氏は,日本政府がリスクを見ておらず,政策目標を間違い,政策手段を間違い,政策変更の時期を間違ったからだ,と言います.当時も,土地利用の不適切さや税制のゆがみ,オフィスの供給過剰を指摘する声はありましたが,無視されました.
なぜ間違ったのか? 大蔵省,日銀,さまざまな利益団体に従う愚かな政治家たち,指導力の無い政府,土地神話をもてあそぶ軽薄なメディア,・・・何とも多くの犯罪者リストです.
CLARK氏は疑念を抱きます.もし当時の政策がそれほど愚かであったなら,現在の政策は何か賢明になったという保証はあるのだろうか? 今も国内の需要は不足し,財政刺激策は取られず,低金利に頼り,デフレ解消に効果が無いままです.そして軽薄なメディアは,銀行が不良な融資を減らし,企業を倒産させれば景気は良くなる,という新しい信仰を流布しています.
しかし,CLARK氏はそれが不適切なサプライ・サイド経済学の信仰だ,と考えます.1980年代に需要過剰と供給不足で英米に登場した学派を,今の日本に適用するのは間違いです.しかし,財政的な保守主義がケインズ主義を葬るために,こうした異説を好むわけです.日本は英米と違って現在の消費よりも仕事や貯蓄を重視し,貿易赤字を無視して生活水準を高めたわけではありません.むしろ過剰貯蓄と貿易黒字が問題なのです.過去のバブルに囚われて現在も需要を切り捨てるような政策を続けているのは,不健全だ,と.
CLARK氏が,1930年代にケインズの同僚であったコーリン・クラークの子息であり,ケインズ主義を実践した宮沢首相の財政的刺激策でバブル後の景気回復が成功しつつあったとき,その後の橋本・小泉政権で採用されたサプライ・サイダーたちが日本経済を破壊した,と言うとき,この論説の背景がさらに理解できました.
ST SEPT 26, 2004 SUN
Don't say globalisation lacks a human face
By Pranay Gupte
(コメント) Gupteはコロンビア大学のバグワッティJagdish Bhagwati教授に,自由貿易やグローバリゼーションに反対する主張を吟味してもらいます.[一部省略]
Q:「グローバリゼーション」を定義してください.
A:いろいろな意味がある.学生は東京からオックスフォードにくるし,パヴァロッティはロンドンの王立フェスティバル・ホールではなくニュー・ヨークで直に聞ける.
しかし経済的な意味では,さまざまなレベルで,各国の経済が世界経済に統合されて行くことだ.貿易,直接投資,短期資本移動,移民,技術の移転や普及など.
Q:グローバリゼーションは突然生じたのですか?
A:19世紀のヨーロッパの拡大において,重要なグローバリゼーションが起きた.資本と人口が大規模に移動し,貿易が増大した.しかし第一次大戦がこれを破壊し,第二次大戦が終わるまで回復しなかった.
その後の半世紀は,貿易,直接投資,資本移動,移民という,グローバリゼーションの第二波である.
Q:なぜ今,私たちはグローバリゼーションのことを心配するのか?
A:私は不満のある人々を分類したい.わめき散らす人々.手を伸ばすと噛み付く人々.脱構築やマルクス主義など,知的伝統が異なる拒絶派の人々.そして,座って話し合い,経済的なグローバリゼーションの影響をわれわれと議論する人々.
後者の人々はグローバリゼーションが社会的目標にマイナスであると心配する.すなわち貧困解消,児童労働の抑制,女性の権利や福祉,環境保護,民主化,など.また,市民団体などに加えて,伝統的な保護貿易を求める団体の主張が,アメリカなどで強まっている.アウトソーシングを非難し,ケリー上院議員に保護を約束させたように.
Q:「良い」グローバリゼーションと「悪い」グローバリゼーションとがあるのですか?
A:確かに,グローバリゼーションには経済的にも社会的にも悪い結果がともなう.しかし全体としては,証拠が示すように,貿易や直接投資は利益をもたらす.
だから私はグローバリゼーションが人間の顔を持つと主張したい.市民社会運動の多くで,それを否定することが流行しているけれど,間違っている.
ただし,私は資本の自由移動を区別する.われわれはそれを慎重に扱うべきだが,そうしなかった.アジア金融危機がこのことに気づかせてくれた.アメリカ財務省もIMFも,余りに楽観的であったため,必要な銀行部門の改革や慎重な規制を考慮することも無く,発展途上諸国が資本勘定の自由化を進めるように急がせた.
国内的にも国際的にも,政策や制度に及ぶ適切なガバナンスがあれば,グローバリゼーションは人間的な顔を持てる.
Q:誰がグローバリゼーション大競争のプレーヤーか?
A:私はすべての政府がグローバリゼーションから利益を得られると考えている.ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツのように,ポピュリスト的なグローバリゼーション攻撃を支持する者もいるが.
Q:なぜNGOなどはWTOを中傷し続けているのか?
A:ある意味で,彼らは貿易と自由放任とを,アダム・スミスがしたように,混同しているからだ.しかし,この二つの原理に必然的な結び付きは無い.ベンサム主義者でも,アダム・スミス自身も,政府の役割を認めている.
また左派は,グローバリゼーションを国内の資本主義が拡大したものとして考えるから,直ちに悪いものだ,となる.シアトルのWTO総会にこうした人々や暴徒が集まって,(WTOを)反グローバリゼーションのシンボルにしてしまった.それはフランス人がバスチーユを革命のシンボルと思うのと,同じことだ.
Q:インドのように,諸国において今も左派のイデオロギーが持続しているのはなぜか?
A:ある意味で,作家のV.S. Naipaulが指摘したように,われわれには現実を見ようとしない文化がある.われわれの多くはオックスブリッジから帰って,フェビアン社会主義と結婚していた.1961−62年にインド計画省で論文を書いたとき,私もその類のことを激しい論調で書いた.
しかし,世界の社会主義の現実を良く見てから,私はすぐにそのバスを降りて,プラグマチックな方針に転換した.インドの新しい首相となったシン博士も,50年ほど前に私と一緒にケンブリッジにいたが,同じような転換を遂げた.
今でもそのバスに乗っている者がいる.彼らはV.S. Naipaulの小説に出てくる掃除人のように,ホテルの廊下をもっと汚すために,掃除している.
Q:グローバリゼーションが生まれてからも,なぜ多くの貧困や絶望が残されているのか?
A:そうではない.逆だ.グローバリゼーションは貧困を減らす最大の勢力だ.中国やインドでそうであったし,他でもそうである.
Q:持続可能な発展に関するあなたの考えはどのように形成されたのか?
A:1950年代以来,われわれも計画の目的は常に貧困を持続的に減らすことだった.もちろん,10年か,それ以上も高成長を遂げれば,外国投資を排除したままでも,貧困を減らせるだろう.これを行った旧ソビエト連邦は,結局,成長率が持続的に低下し,国民の福祉も持続的に悪化して,ゴルバチョフが降参のタオルを投げ入れた.
この点を上手く説明する面白い話がある.かつてケンブリッジで,私の過激な先生であったジョーン・ロビンソン婦人と,イェール大学の「ネオ・リベラルな」経済学者であるグスタフ・ラニス教授とが,互いに意見の一致を見た.朝鮮は大成功を遂げた,というのだ.
その疑問はすぐに解けた.ロビンソン婦人は北朝鮮の話をしており,ラニス教授は韓国の話をしていたのだ.今では,どちらの国が持続的に成長できたか,はっきりしている.
FT September 27 2004
It's not the economy, stupid
By Joseph Stiglitz
(コメント) Bhagwatiはグローバリゼーションの経済的側面を支持しましたが,Joseph Stiglitzが見ているのは経済以外の側面,特に,ブッシュ政権が歪めたグローバリゼーションです.
経済を十分に刺激せず,富裕層ばかりに利益をもたらした減税策.労働者の増加に見合うことさえできない雇用の伸び.平均的なアメリカ人の家族はより多く職場を失い,ブッシュ政権が成立してから1500ドルも所得を減らした.目標に掲げた企業の汚職やコネを追放することには失敗し,カリフォルニアの電力危機も環境規制ではなく,彼の友人がいるエンロンの市場操作によって起きた.イラクの戦後統治に失敗し,その結果として,何千もの人が命を失い,アメリカの財源を何十億ドルも費やし,中東和平にも障害となっている.
アメリカ社会の基本的価値が損なわれた.公平さ.国民を統合する指導力.社会保障.環境保護.透明性を掲げながら,情報の非公開を進め,民主主義を損なった.科学・技術への透視不足.情報を操作して地球温暖化を無視し,石油業界の利益を守った.たとえ個人主義を尊重するアメリカ社会にも,調和が必要であり,その重要な絆を破壊した.大統領への信頼が失われた.世界社会の中で生きるしかないのに,アメリカは友人を失った.
FT September 28 2004
Time for a new stance on China
By Marcus Noland
(コメント) 財政赤字は巨額の資本流入を必要としますが,経常赤字の調整にはドル安による貿易黒字が必要です.その二つが矛盾しないとすれば,大幅なドル安を起こしてから,徐々にドル高が進む場合でしょう.しかし,大幅なドル安とは金融市場のパニックを意味するのではないか? 同じ問題を1980年代のレーガン政権でベイカー財務長官も抱えていました.そして調整と金融協力の相手は日本政府でした.
Nolandは,ブッシュ政権のスノー財務長官に,プラザ合意Uを中国政府と結ぶよう求めてはいません.それはレーガン政権が産業界と労働者の不満を聞き入れたのに対し,ブッシュ政権はウォール街の利益を重視しているからだ,と言います.そして中国に対しては,金融取引を自由化し,資本流入を認めるように求めています.それは20年前に日米円ドル委員会が日本からの資本流出を認めた経緯と同じです.
では中国に対して金融版の「スーパー301条」を示して,中国が為替レートを変動させ,資本取引を自由化しなければ制裁を科す,と脅すのでしょうか? Nolandは,このような共和党の政策ではなく,ケリーと民主党は中国側が15〜25%の切上げを行うように求めています.それは中国の銀行改革に必要な時間を与えてくれます.しかも,アジア諸国の為替レート調整を促し,アメリカの赤字削減に繋がるだろう,と.
FT September 28 2004
Lex: Foreign exchange
FT September 28 2004
Forex trading volumes hit record levels
By Jennifer Hughes and Krishna Guha
(コメント) 外国為替市場の取引額が,一日当り,1兆9000億ドルに達した,とBISの報告は示しました.2001年には1兆2000億ドル(現在の為替レートで換算すると1兆4000億ドル)でした.資本市場の復活と,先端的な金融技術の普及によるものではないか,と言います.この2年間,ドルの価値が下落していることも,資産の組替に国際投資家を向かわせ,マクロ・ヘッジ・ファンドなどが利益を上げています.投資家たちは株価の下落や国債の低金利に失望し,新しい利益を通貨市場に求めている,というわけです.
しかし,通貨市場はゼロ・サム・ゲームです.こうした市場に利益を求めて資本が集まっているということが,そもそも為替レートの変動を増幅させるのではないか? と思います.そして再び,勤勉な小国の資本が失われる?
BG September 28, 2004
35.9 million people
(コメント) 貧困はアメリカの大統領選挙で無視されている重要なテーマです.2003年にアメリカ国民の12.5%,3590万人が貧困である,と国勢調査局のデータは示します.
ジョージ・W・ブッシュもジョン・ケリーも訪れない貧しい町として,Lubec, Maine; Miami; Missoula, Mont.; Cleveland の状況が紹介されています.
NYT September 29, 2004
Warehouses for Refugees
スーダンのダルフール地方に生じた難民は,世界中の多くの他の難民たちを思い出させます.世界には1200万人の難民が居り,そのうち740万人が難民キャンプや避難先で10年以上も暮らしています.その多くが移動も労働も禁止されており,密集した,汚いテントに押し込められ,盗賊に苦しめられ,飢餓をしのぐにも不十分な食料の支給に頼って生活し,コレラや赤痢も防げない衛生状態です.キャンプで数世代を過ごす者さえいます.
たとえば,ミャンマーからの50万人に及ぶ難民たちは,労働も移動も許されないまま,近隣諸国で20年も暮らしています.同様に,14万人のソマリア難民も,1991年から,北ケニアの閉ざされたキャンプで暮らしています.
難民キャンプはしばしば緊急の処置で建てられたまま,取り除かれることはありません.その最初の目的が難民たちの帰還であるために,新しい国で生活を改善する努力を妨げます.パキスタンやザンビア,チャドのように,国境の向こうで問題を生じた国から大量の難民を受け入れた場合も,既存社会への統合ではなく,隔離を目指します.
こうした難民たちの居住(保管)様式を見直すべきです.国連高等難民弁務官が自律性を高める試みに取り組んでいます.難民たちが自分で技術を習得し,帰還後の復興に役立つように.また,受入国の住民を反発させること無く,難民キャンプを解放できるように.ザンビアでは,アンゴラ難民に土地の耕作を許しています.こうして得られた食糧は,眠っていたキャンプに交易所をもたらし,彼らだけでなく地元にも活気を与えます.
豊かな諸国はより多くの永住難民を受け入れるべきです.ヨーロッパは恥ずべき水準です.アメリカもこの10年で次第に進んで受け入れなくなり,特に2001年の9・11以後は大きく減少しました.難民キャンプから受け入れることが安全保障を脅かすという証拠はありません.アメリカに入国するために,テロリストが長い難民生活や不確実な選別過程に関わることなどありません.
むしろ難民キャンプの無為な生活に,希望を挫かれた,怨嗟に燃える若者こそ,安全を脅かすでしょう.難民を閉じ込めることがテロリズムを生むのです.アフガニスタンのタリバンはパキスタンの難民キャンプで生まれました.
まず最初に,難民の閉じ込められた居住を見直すには,豊かな諸国が土地や訓練,マイクロ・ファイナンスのような必要な手段を与えることです.それは確かに,週に一回,米や調理用の油を配給するより,少し多くコストがかかるでしょう.しかし,そうすることで後のコストは減るでしょう.しかも,何百万という人々が将来に希望を持てるのです.
ST SEPT 29, 2004 WED
Crunch time on poverty
(コメント) IMF・世銀総会で扱う重要なテーマは,貧困や破綻国家を復興する新しい財源をどうやって見出すか,ということだろうとSTは予想します.国連に加盟する191ヶ国のうち約50カ国が破綻状態にあると見られます.民間の投資や融資は期待できません.IMFが保有する金を売却して最貧国の債務免除に使う,というアイデアだけでは解消されません.
WP Tuesday, September 28, 2004
Imperfect Elections
(コメント) イラクの選挙がアメリカとイラクに新しい可能性を与えることは確かです.しかし,もしそれが一部の地域で実施できなかったり,治安が回復しない地域が残ったりすると,選挙の結果が偏り,国民全体に受け入れられなくなります.国連は十分な選挙の実施要員を送れないでしょうし,アメリカ軍は治安維持に足りないのです.
FT September 29 2004
Asian bad debt deals begin to dry up
By Francesco Guerrera and David Wells
(コメント) アジアの不良債権も財政破綻しそうな外国政府の国債も,外国投資家から見れば利益の上がる市場として売買が形成される,という論説です.しかし,日本政府が公的な資金で買い取り,また株価も回復すると,この市場は縮小します.
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The Economist, September 18th 2004
American elections: No way to run a democracy
(コメント) アメリカの選挙はどの程度まで民主的か? 選挙人登録は少なく,黒人の登録が特に少ないのはなぜか? 州毎に選挙人を総取りする方式は民主的か? 機械投票にすれば開票ミスは無くなるのか? 政治家たちが選挙区の境界線を勝手に書き換えるのは民主的か? おびただしい選挙資金集めができない立候補者の脱落や,蔓延する偽情報で候補者を罵る政治団体への献金は野放しで良いか? ・・・
民主的選挙に,唯一の正しいやり方はありません.イラクであれ,アメリカであれ.民主主義の理想が実際にどのように可能であるのか,各国は示す必要があるのです.
Eastern Germany: Getting back together is so hard
(コメント) 「ドイツ人は,統一によって二つの国民を作る,最初の国になるだろう」という予言が現実のものになりました.構造改革によって,ともに成長を築くのではなく,希少な資源を奪い合って,政治的な憎悪を蓄積します.
Volkswagen: Higher wages or more job security?
Economics focus: Trade disputes
(コメント) ドイツではフォルクス・ワーゲンの労使交渉が行われ,労働者側が大幅な譲歩を求められています.労働者たちは雇用の安定を求めて,他の厳しい条件悪化を呑まなければ,工場が東欧に移転されてしまうでしょう.社会的市場モデルの寿命は尽きたのでしょうか?
こうした事態こそが,グローバリゼーションや自由貿易の利益は失われ,むしろ損失の方が大きいのではないか,という論争を生み出すのです.P.サミュエルソンの新しい論文は,グローバリゼーションが自由貿易の正しさを損なうケースを指摘します.
もし貧しい国の生産性が急速に上昇し,その結果,その商品の国際価格が大きく下落して,豊かな諸国の生産者も所得を減らすのであれば,たとえ安くなった商品を彼らが消費できるとしても,実際に実質所得を減らすかもしれない,と.しかし,そのようなケースが考えられる歴史的な事情は限られ,しかも一時的でした.バグワッティなどが示すところでは,アウトソーシングがアメリカの利益を損なうことは無い,と.