IPEの果樹園2004

今週のReview

9/20-9/25

IPEのタネ

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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   郵政民営化論 :世界が注目する日本の改革派指導者は,本当に日本を変えるのか?

2.   独裁とテロ :どちらが先か? 独裁を終わらせるべきか? テロを攻撃するべきか?

3.   ダルフールの悲劇 :国際機関やアメリカは,辺境の悲劇に無関心であるしかない.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


FT September 8 2004

We must unite against barbarism

By William Kristol

3年前,テロリストたちはアメリカの力のシンボルを攻撃した.先週,彼らはベスランの学校で子供たちを攻撃した.そこに共通するのは,聖戦の旗を掲げた野蛮な暴力が,バリ島からイスタンブールまで,エルサレムからマドリードやファルージャまで,罪の無い人々を殺戮していることだ.文明の力ではテロとの戦いに足りないのであろうか?

たぶん.結局のところ,先の世紀においても,それは足りなかったのだ.20世紀は全体主義と大量虐殺という二つの悪を生み出した.文明化された世界はそれに対応するのが遅かった.ヒトラーと対決するのも,スターリンと対決するのも遅すぎた.1945年以後,「二度と繰り返さない」と私たちは言った.しかし,その後も,カンボジアで,ルワンダで,21世紀になってダルフールでも,大量殺戮が起きた.

今や,新しい挑戦.それは聖戦を叫ぶテロリストたちだ.世界中の指導者たちは団結して,テロリストの勝利を許さない,と誓う.ベスランの虐殺が起きてすぐに,アメリカの高級紙は論説で,悲しみ,怒り,団結を表明し,テロとの戦いに勝利するとだけ約束したのか? そうではない.彼らは手短にテロリストを非難した後,ロシアの治安部隊の無能さを批判し,ロシアとチェチェンとの不幸な歴史を繰り返し述べた.たとえばThe New York Timesの社説は,「ロシア側が妥協を示せ」と言い,「外交的な意味合い」を込めた.これに対して軍事評論家のRalph Petersは,単純な真実,受けの悪い真実を告げた.「ベスランの攻撃は,チェチェンにおけるロシア軍の無能さや,モスクワの強硬策に向けられたのではない.彼らの宗教的な頑迷さは,子供たちの額に銃口を当て,引き金を引いても,「神の正義」を唱えるほど深刻だ,ということだ.」

しかし,このことは単純すぎて,アメリカのリベラル派やフランス政府には受け入れられない.二人のフランス人ジャーナリストがイラクの自警団によって1週間前に誘拐された.フランス外務省は中東に飛んだ.そしてフランス市民は,事実上,アメリカの率いる同盟諸国の市民とは区別するように求めた.Le Figaro紙は,「イラク戦争についての立場を考えれば,フランスは(そのような攻撃から)守られていると思った」と書いた.フランスのそうした外交努力が「印象的で」あったため,フランスの政治アナリストは,「フランスの態度がテロリストを宥和することに依拠しているのは耐えがたいことだ」と述べた.

まさに,耐えがたいことだ.同じ集団に殺害されたイタリアのジャーナリストは,殺されても仕方なかった,というわけか? スペイン,韓国,ネパール,その他の諸国はイラクでテロリストに殺害された.イラク解放に参加した国から来た者は数えないのか? テロリストに殺害された多くのイラク市民はどうか? 彼らの苦しみについて,フランス人の関心は低い.

他方,ベスランで溢れた血の海はアラブ世界にも亀裂を生んだ.ロンドンの日刊紙Al-Sharq Al-Awsatの元編集者は,「テロリストがすべてイスラム教徒である,というのは痛ましい真実だ」と見出しを付けた.この真実を知ることから,アラブ世界の解放は始まる.それはまだ始まったばかりだ.

アメリカはもっと上手く,アラブ人やイスラム教徒,ヨーロッパ人を説得して,テロとの戦いに参加させることができたはずだ.そのような人々をもっと上手く支援できたはずだ.しかし,この戦争では上手な外交など待っていられない.テロリストは待ってくれない.

日曜日.私たちは9・11の3周年をアメリカで記念した.アメリカ人が,そこで死んだ者や,その後のテロとの戦いを遂行する過程で死んだ者を最初に思うのは当然だ.しかし,われわれはまた,他の土地でテロの犠牲となった者たちを思うだろう.共通の理由で,われわれとともに戦った者たちだ.40年前には全体主義的な独裁と戦う中で,われわれは皆,ベルリン市民であった.聖戦を叫ぶテロと戦う中で,われわれは皆,今や,ベスラン市民だ.


NYT September 10, 2004

Stop Blaming Putin and Start Helping Him

By FIONA HILL

BG September 11, 2004

Moving beyond our losses on 9/11

By Patricia Quigley and Susan Retik

BG September 11, 2004

Bush shamefully exploits tragedy

By Dan Payne

(コメント) ベスランやチェチェンについて,プーチンを責めるべきか? 現実主義者はそれに反対し,むしろプーチンが権力基盤を固め,西側との協調路線を維持するように,支援することを主張するでしょう.他方,リベラリズムや理想主義は,プーチンの専制や強権政治を批判し,人民を抑圧することでテロを醸成していると非難するでしょう.

9・11の記念日や式典は,すでに余りにも政治や戦争の理由として利用された結果,遺族たちの感情を置き去りにしてしまった印象です.テロの無い世界をどのようにすれば実現できるか,シンポジウムを開いて,遺族たちに耳を傾けてもらうほうが良かったでしょう.あるいはアメリカだけでなく,世界中のテロの犠牲者が集まって,さまざまな経験と意見を交換した方が良かったかもしれません.

テロを生み出す社会も,それを解決できない政治も,もちろん,非常に複雑です.それぞれのテロは,その背景や事情が異なり,戦争の定義や目的(正義)と同様に,明確な区別ができません.武装し,あるいは権力を握ることで,誰もがその状況を利用し,それによって苦しみます.もしテロに反対するからプーチンやブッシュは絶対に正しい,というのであれば,彼らに抑圧された人々を忘れても良いのでしょうか?

私は,多国間で合意して,テロと戦う特別警察を組織するのが良いと思いました.そこに情報を集中し,捜査や逮捕の明確な権限を与えるべきでしょう.それと同時に,各国政府は領土内の紛争や政治問題がテロ組織と関係を持たないように,平和的な交渉のテーブルで問題が改善されることを保証し,実行しなければなりません.もし政府にそれができなければ,国際的な介入や委任統治の形態を段階的に導入するのが良いでしょう.極端な貧困の解消や政治的な発言の保証は,むしろ一時的に,紛争地域の管理を国際機関に委ねた方が,具体的に効果のあがる,さまざまな方策を提示できるでしょう.

他方,ブッシュ氏は何をしたか? Payneは,9・11と無関係な多くのイラク人を殺しただけだ,と言います.ブッシュ政権はサダムが嫌いだったから.それは攻撃の良い機会でした.おかげで世界中にイスラム過激派のテロが頻発しています.ケリーは,この間違った,不正義の戦争に反対しなければならない,と.

ブッシュがやったことはそれに止まらない.テロとの戦いを口実に,それと並行して富裕層への巨額の減税を行い,貧困層には失業の増加と社会的給付の削減をもたらした.司法の名においてアシュクロフトの極端な保守的価値をアメリカ人に押し付けた.大気や水,自然を損なった.いいかげんな医療保険支出の拡大,ネオコンによる外交の破綻,イデオロギーによってアメリカ兵をますます死に追いやった.エネルギー政策は石油企業に利益をもたらしただけだ,と.

そのブッシュ氏がテロとの戦争を指導し,9・11の式典を主催する.他方,ロシア軍は,テロとの戦いとして,先制攻撃を準備します.


LAT September 9, 2004

Election '04: a Guide for the Complexed

By Lee Siegel

(コメント) アメリカのリベラル派は,「複雑さ」に苦しんでいます.そして保守派はそれを攻撃します.Michael Moore以後,リベラル派はブッシュを憎むことが難しくなったのです.

Mooreはブッシュを大いに憎み,アメリカの資本主義や,アメリカそのものまで憎みます.ブッシュを憎むことはMooreを連想させ,それゆえリベラル派はMooreを憎むのです.

こうしてリベラル派は分裂し,複雑になり,互いに憎むようになります.MooreやChomsky,その他のアナーキストが加わって,次第に右寄りに移行してきた民主党の宣伝を混乱させます.彼らはMoore やChomskyを「過激だ」と非難し,あるいは「複雑だ」と擁護します.しかし,戦争の時代には,「単純さ」が最も効果的なプロパガンダとなるのです.

保守派は「リベラル」を悪用し,その意味を損なってきました.60年代にはラディカル派が,非合理的な,極端な戦術に溺れて自滅し,同時に,リベラル派の偽善を攻撃しました.今度は右派が同じように攻撃するのです.リムジンに乗ったリベラル派の矛盾を衝き,真のリベラルではない,と非難します.

ブッシュを憎むリベラル派は,この複雑なリベラルに苦しみます.Siegelは,それを真っ直ぐに表現したい,と試みています.

@私はアメリカを愛する.しかし,ブッシュを憎む.A保守派の攻撃には反撃しなければならない.Bしかし,逆の偏見を持ち込むべきではない.Cアメリカは敵を封じ込め,可能ならば殲滅するべきだ.しかし間違った理由で戦争してはならない.D1968年の左派の情熱は,2004年のリベラル派の情熱と同じではない.もっとプラグマティックな対応ができる.E知性は矛盾を区別するが,政治は矛盾を敵への攻撃に転化する.政治の世界に知性のきらめきは無い.F私はジョージ・W・ブッシュが大嫌いだ.あんな奴と一緒に夕食を摂りたくない!


Thursday, September 9, 2004WP

Mad Gun Disease

(コメント) アメリカ人が罹っている病気は,「狂牛病」ならぬ,「狂銃病」というわけです.

重火器に対する販売禁止措置が効力を失うことに,ブッシュ大統領は反対しないでしょう.多くの武器製造業者や販売店,そして右派の政治団体が自由化を求めているからです.文明化された社会には,そのような武器が広まる余地など無いはずですが,禁止されていない武器でも犯罪は多発しています.それらは性能を高めており,パトロールする警察官たちを狙います.むしろ,武器の規制は強化されるべきでした.犯罪者が店舗で容易に重火器を購入でき,子供たちが学校でそれらの標的になるかもしれません.それでも,軍需産業の発達や,家庭における武器の備蓄を,自由社会の勝利と見なす人々も居るわけです.


NYT September 11, 2004

Reign of Terror

By NICHOLAS D. KRISTOF

6月,私が最後にスーダンのダルフール地域を訪ねたとき,木の下に一人の男を見つけた.彼は首とあごを撃たれて,いくつかの死体とともに,死ぬのを待っていた.次の木の下には,逃げ場を求めて数人の未亡人が集まっていた.彼女たちの夫は,撃たれて殺されたのだ.その次の木の下には,4歳の少女と,彼女が世話する1歳の弟が居た.さらに次の木の下には,一人の婦人が居た.彼女の夫は,7歳と4歳の息子たちと一緒に殺された.そして彼女はレイプされ,手足を切り落とされた.

彼らはたった4本の隣接する木に逃げた人たちだ.同じような背景を持った多くの犠牲者たちが,見渡す限り,広がっていた.

だから私は,ブッシュ政権が正式にこの殺戮をジェノサイド(大量殺人)と宣言したことに,歓迎の挨拶を送りたい.しかし,われわれが9・11の記念式典を行うとき,どうか思い出してほしい.ワールド・トレード・センターで亡くなったのと同じ数の人々が,今もダルフールでは毎週死んでいることを.

「そこには恐怖(テロ)が一種の支配を確立している」と,オランダの「国境のない医師団」の責任者は言う.

「国境のない医師団」が開設されたキャンプでも,Janjaweedの民兵たちは女性を強姦し,木の枝を集めに出た男たちを処刑している,と彼は言う.だから多くの家族は,苦しい選択をする.幼い子供たちを,夜の間,キャンプから出して木の枝を拾わせるのだ.なぜなら,幼い者であれば殺されたり,強姦されたりする心配は少ないから.

私は質問したい.

ブッシュ大統領.あなたはスーダンとの交渉をもっと急かさないのか? 同盟諸国の指導者たちと緊急の話し合いを持ち,スーダンに圧力を強めてはどうか? 犠牲者たちをホワイト・ハウスに招いて,ローズ・ガーデンから大量殺人を非難してはどうか? スーダンが協力するまで,ダルフールに飛行禁止空域を設けてはどうか? (スーダン空軍がJanjaweedを支援しないように.)

フランスやドイツに,私はイラク戦争に反対したあなたたちに共感した.しかし,あなたたちは余りにも偏屈な反ブッシュ感情にこだわって,ダルフールの虐殺を止めるアメリカとの協調にも加わろうとしないのか? 彼らの苦しみを緩和する貢献を,何もしないのか?

シラク政府がスーダンの虐殺に道義的な無関心を装うのは,ヴィシー政府がヒトラーを容認したようなものではないか?

イスラム世界には,こう言いたい.イスラエルがパレスチナ人たちにしばしば野蛮な扱いをすると言って,イスラエルを非難するのは全く正しい.しかし,なぜ同じ心配をスーダンの死者たちにはしなかったのか? 8月に,人権団体によれば,イスラエルが戦闘を含めて殺したパレスチナ人は42人であった.同じ時期,WHOによれば,1万人以上の人々がダルフールで死んでいる.事実上,すべてがイスラム教徒である.

イスラム的な救済は素晴らしいが,ダルフールのイスラム教徒の犠牲者たちは,イスラム教の寄付より,ユダヤ教やキリスト教の援助団体からずっと多くの支援を得ている.

世界食糧機構のような国連の機関に対して.あなたたちは犠牲者の命を救うために,英雄的な努力を行った.しかし国連全体としては,スーダンの危機に適切に対応しなかった.その失敗の理由は加盟諸国にもあるが,私が好み,尊敬もしているコフィ・アナンに,いくらかは帰せられる.

私は言いたくない.しかし,彼が死んだら,その訃報は例えばこんな風に始まるだろう.「コフィ・アナン.元国連事務総長.その経歴のいくつかの点で,虐殺を阻止しようとしたが失敗した.最初はルワンダで.その後,スーダンで.」

最後の旅で出会った一人,Hatum Atraman Bashirは,20人のJanjaweed民兵の一人が父親である子を孕んでいた.彼らは彼女の夫を殺害し,集団で彼女をレイプした.数日前に,援助団体の職員がe-mailで教えてくれた.彼女は子供を生んだが,乳が出ない.そこでは誰もがそうであるように,栄養が足りない.

彼女やその赤ん坊,そして100万人に及ぶ人々の命が懸かっている.ジェノサイドに対するわれわれの対応は何か? われわれは彼らを見殺しにしている.


NYT September 11, 2004

Ruling Class War

By DAVID BROOKS

(コメント) どんな人が民主党を支持し,あるいは,共和党を支持するのか? 民主党を支持するのは大学の組合や学者たちです.そして,共和党を支持するのは企業の重役たちです.俳優,作家,図書館員も圧倒的に民主党を支持します.他方,会計士や銀行は民主党から共和党に鞍替えしました.ただし大銀行の被雇用者は民主党です.弁護士は,逆に,共和党から民主党に鞍替えしました.


ST SEPT 11, 2004 SAT

A conservative critique of the neo-cons

By Doug Bandow(The writer is a senior fellow at the Cato Institute and was special assistant to former president Ronald Reagan)

NYT September 12, 2004

Preventive War: A Failed Doctrine

LAT September 16, 2004

A Democratic World Is No Neocon Folly

Max Boot

NYT September 16, 2004

The First Draft of Freedom

By PAUL WOLFOWITZ(the deputy secretary of defense)

(コメント) Mr Stefan Halper and Mr Jonathan Clarke, America Alone: The Neo-conservatives And The Global Order.『アメリカは一人ぼっち』によりながら,Bandowは保守派からのネオコン批判を展開します.その要点は,驚くほど,民主党によるブッシュ批判と共通します.すなわち,慎重な国際主義の立場を忘れて,極端な価値観と中東に関する長期計画を押し付けた,というわけです.ブッシュ氏が9・11に直面して,ネオコンによる外交政策の支配を許してしまったからです.保守派は石油の利権を守ることや,軍事力を使用することに反対していません.しかし,ネオコンはそれを十分な考慮も無く,世界のアメリカ軍配置や同盟諸国への配慮も無いまま,中東に偏らせ,また,アメリカへの反感を強めました.これは保守派から見ても,アメリカの利益を大きく損なったのです.

ブッシュ=チェイニー政権の「予防的戦争」という新しい外交政策が,本当に,これまでの外交政策に代わる有効な原則となるのか? NYTは,同様に,これを批判します.その原則が試された唯一の例はイラクである,と.

イラクが大量破壊兵器を保持し,それをビン・ラディンに使わせる,という誤った印象を国民に与えて,ブッシュ政権は戦争を始めた.その結果は,アメリカの長期にわたる同盟諸国が離反し,大量のアメリカ軍がイラクに駐留し続けなければならなくなった.つまり,アメリカの軍事的・外交的防衛は損なわれたのだ,と.

確かに,「世界を民主主義にとって安全な場所に変える」と1917年に宣言したのはウッドロー・ウィルソンでした.自由を守り,世界に自由を拡大する使命は,民主党にも共和党にも支持されてきたのです.しかしイラクで直面した困難は,左派からも右派からも,民主化の使命に対する批判を噴出させました.ブキャナンもクルーグマンも,アメリカの価値を輸出できると思うのは「ネオコン」の不当な要求でした.

しかし,Bootはブッシュの民主化要求を,ネオコンと切り離して支持できる,と言います.なぜなら民主化よりも開発を優先するべきだ,という主張は間違っているし,貧困や教育の不足がテロの原因だ,という通説も間違っているから,と.むしろ民主化が成長を促し,自爆テロの犯人は比較的裕福な家族の若者だった,と言います.だから,ブッシュが目指したことは,基本的に,正しかった.アメリカによる世界の民主化こそが,貧困もテロも解消する,というわけです.

WOLFOWITZが,インドネシアにおける民主的な秩序の定着を祝福しているのは,もちろん自己の信念と一致していることですが,皮肉なことです.スハルトの独裁を終わらせたのはアメリカの軍隊ではなく資本逃避でした.法の支配が確立され,ジャーナリストや新聞が自由になって,インドネシアは二度の大統領選挙で,平和かつ民主的に大統領の交代を実現しました.世界最大のイスラム国家が,こうして民主化されるのであれば,イラクの米軍は何を学ぶべきか? この点では,ネオコンとリベラルもそれほど意見が対立しないようです.


WP Saturday, September 11, 2004

Suppressing Truth in Russia

WP Wednesday, September 15, 2004

Stand Up to Putin

By Robert Kagan

FT September 16 2004

Putin's cure could be Russia's poison

By Nicholas Gvosdev

(コメント) ロシアではベスランのテロ事件について詳しい報道が許されませんでした.

このテロ事件を利用してプーチンがやろうとしていることは,ロシアのも民主主義を圧殺し,政敵たちを一掃することだ,とKaganは強く抗議します.もし民主主義の拡大をブッシュ氏が自分の政策の核心であると主張するなら,ロシアに独裁が誕生するのを許してはいけない,と.あるいはFTも,成長や国際協調路線にもかかわらず,プーチンが民営化を非難して市場への介入を強めたり,民主的選挙の拡大や地方分権化を妨げたりしていることを厳しく批判します.


FT September 10 2004

'60% of world will live in cities by 2030'

By Vanessa Houlder

LAT September 12, 2004

Sewer Socialism

By Joel Kotkin

(コメント) 長期的な世界の姿を決めるのは,地球環境の変化とともに,人口の変化です.その一つは,国連の予測によれば,世界人口は急速に都市化に向かっている,ということです.

2030年までに,世界人口の6割が都市に住むだろう,と言います.それは毎週,100万人規模の都市が,すなわちハノイやピッツバーグが,誕生することを意味します.今でも既にアジア太平洋地域では「過剰都市化」が問題になっています.ロンドンは100万人から800万人に達するのに130年かかったけれど,バンコクは45年,ダッカは37年,ソウルはたった25年で達しました.それは都市の貧困や住環境の悪化を意味します.

問題は,世界の成長がほとんど都市で生じ,富を求めて人口がますます集中することです.また,アジア太平洋地域では交通インフラが整備されるに連れて,人々が都市に集まってしまいます.そして都市の領域が急速に郊外を飲み込んでいます.「超都市化」が進み,何千キロにも及んで,シンガポールのように国境を越えてしまうことさえあります.経済のダイナミズムでは,これほどの拡大を説明できません.

他方,アフリカの「過剰都市化」では,農村の貧しさと高出生率が重要な要因となっています.農村には雇用が不足し,インフラ投資も足りません.彼らは最低限の生活にも不自由して,都市へ流入するのです.その都市でも,半端な雇用はあっても,人口にインフラ投資が間に合いません.中東地域でも,急速な都市化が目立ちます.

世界人口の3%が移民となっているように,都市化には国内外の人口移動が重要な影響を与えます.発展途上国の問題を解決できなければ,彼らが豊かな国に流れ込んで都市の膨張を加速する,というわけです.

興味深いことに,ある意味で,アメリカではそれが逆転している,とKotkinが指摘しています.都市で生まれた"sewer socialism"「下水道社会主義」が,民主党の重要な支持基盤でした.それは消滅しつつあります.21世紀に各政党の全国大会を決めるのは都市ではない,と.

なぜなら,これまで政党が取り組んだような都市の危機は重要でなくなるからです.学校の崩壊,中産階級の没落,失業,貧困層,移民,など,民主党のリベラル派は都市政策を介入や計画によって解決しようとしました.それは産業革命の伝統が残る都市を再生する「下水道社会主義」だったのです.あるところでは労働者が,しかし他所では財界が主導して,地方自治体が水道や下水を整備し,衛生システムを通じて病気を制圧しました.公園や学校も整備しました.

しかし,有権者に占める都市住民の割合は低下しています.50年前は,イリノイ州の有権者の5人に2人はシカゴ市民でしたが,今やその半分です.ニュー・ヨークも3分の1以下に減りました.そして都市政治は同質化し,表面的な繁栄を演出して優美な人々,あるいは富裕層,を互いに奪い合っています.都市センターにはカフェや美術館を配置し,都市再生を競いました.

拡大した都市圏や移民層も含む「下水道」型の都市社会主義が,都市の美的再生に取って代われるかどうか? それは政治の問題です.


IHT Saturday, September 11, 2004

Free and fair trade in the Americas

L. Ronald Scheman(former U.S. executive director at the Inter-American Development Bank)

(コメント) 南北アメリカに自由貿易をもたらすだけでなく,EUにならった,アメリカ共同体を建設するべきだ,とSchemanは主張しています.

なぜなら,アメリカとの自由貿易協定だけでは,ラテン・アメリカ諸国の深刻な生産性格差,港湾施設や内陸部の交通・運輸私設などに対する投資不足,などが解消できないからです.ラテン・アメリカは輸出で得た収入の40%をアメリカからの輸入に向けています.それは日本やヨーロッパの約2倍です.ラテン・アメリカが豊かになれば,アメリカの輸出も伸びるわけです.しかも,ラテン・アメリカの所得水準は日本やヨーロッパの10分の1でしかなく,輸出により,大きな潜在成長力を発揮するでしょう.

そこでジョン・ケリーはアメリカ共同体を提唱するわけです.貿易だけでなく,労働者の技能やインフラの整備,制度の改善に向けて,アメリカが支援したい,と.それはアメリカにとっても重要な課題です.周辺諸国が貧しければアメリカの成長の制限されます.貿易は,底辺への競争を強いてはならず,その底上げを図るべきです.また,貿易によりラテン・アメリカの貧しい人々の生活を改善することが重要です.そして,より安定した民主主義が育つことで,非合法移民や麻薬取引,環境破壊も防ぐはずです.


NYT September 12, 2004

'The Folly of Empire': Mission Abandoned

By JAMES CHACE

(コメント) John B. Judis ‘The Folly of Empire.’ の紹介です.

帝国主義に向かった頃,ウィルソンはその目的を,「西半球における近隣諸国が」人々に自由をもたらすよう保障することである,と述べました.しかし,メキシコの独裁者Victoriano Huertaを追放するために6000人の兵士をVeracruzに派遣したとき,彼はアメリカの兵士たちが解放者として歓迎されるのではなく,国中に叛乱を引き起こし,独裁者とその反対派とが(反米闘争のために)統一するのを見ました.ウィルソンはついにメキシコでの軍事的冒険主義を諦めます.「この国は彼らのものだ」と,ウィルソンは結論しました.「彼らの自由は,彼らが得たのである.私はアメリカの大統領であっても,その影響には限度がある.誰も彼らに干渉することはできない.」

しかしウィルソンは,アメリカには世界における特別な使命がある,という信念を捨てませんでした.大統領になる数年前に書いたように,「世界中の国がアメリカの感化を受ける必要がある.」 第一次世界大戦で,彼はアメリカが単に模範を示すだけでは,その信念や統治システム(民主主義)を広めるのに十分ではない,と確信しました.人々はどこにいても「アメリカの指導力と方針を見ている」と,彼は宣言します.国際連盟は,アメリカのイメージによって世界を再建するという彼の希望を実現したものでした.しかし,国連協定の批准を上院が拒否したとき,ウィルソンの夢は消えました.

ジョージ・W・ブッシュはどうでしょうか?


FT September 12 2004

Koizumi shakes up the post office

By David Pilling

(コメント) 郵便局の巨大さは,とても私たちの実感で測れるものではありません.これを改革することが重要であり,それについてさまざまな反対や意見が噴出するのは当然でしょう.FTが挙げた数字は,以下のようなものです.

l         職員数は28万人に及ぶ.公務員の三人に一人,です.

l         国債の購入に政府は郵便貯金を利用しています.ただし2007年までに廃止します.

l         郵便貯金と保険の資産総額は3兆3000億ドル.そのうち1兆2800億ドル余り(140兆円)で国債を購入しています.

l         日本の家計貯蓄の85%,また生命保険の60%を郵便局が占めています.

FTは,郵便局の制度が,明治維新で職を失った武士たちを救済するために,政府が用意した特権的な制度であった,と考えます.なぜなら,新しい投資を行うにも,日本の保守的な銀行は土地を担保としなければ融資しなかったからです.ところがこの特権は,今日まで,無傷で維持されました.

閣議で承認された改革案によれば,2007年までに郵便局を業務毎に,郵便,貯蓄,保険,その他の窓口業務,に分割する.さらに10年後,その株式を民間に売却する.

貯蓄と保険を合わせて3600兆円の資産を持つ事業を改革するのは,その規模から言って,史上空前のことです.シティ・グループの2.5倍,ドイチェ・ポストの銀行部門ポストバンクの約20倍です.規模の大きさや国際保有を理由に改革に反対する政治家もいますが,もしも日本に香港上海銀行やバークレー銀行,ドイチェ・バンクの郵便・貨物部門ができるなら,それは嬉しい可能性ではないでしょうか? (教科書にも載りそうな?不正な個人資産の運用を処罰され,日本から撤退を決めたシティ・バンク,とは書きにくいですが)

それゆえこの改革は,明治維新に比較されるほど,重大な改革となるわけです.21世紀研究所の田中直毅氏の発言が小泉首相の改革思想を支える者として多く引用されています.すなわち,郵政民営化こそ計画経済から市場主導型の資本主義に移行することを示している,と.郵便貯金は,武士の救済後も,戦費調達のため,戦略的な産業育成のため,地方への富の再分配(ただし自民党と建設業者に偏った再分配)のために,国民の貯蓄を政治的に利用してきました.「しかし1985年までに(日本経済の)キャッチ・アップ過程が終わった.」 その後,政府の指導による金融の非効率を解決するのに20年を要した,というわけです.

繰り返し批判されているように,政府が保証する郵便局の貯金リスクも税も無視して融資を行い,民間の銀行を,また郵便配達は宅配業者を,市場から締め出しました.日本の家計はリスクから切り離された反面,銀行システムには融資競争の末に不良債権が累積してしまいました.民営化を主張する田中氏らは,リスクに正しい価格を付け,効率的な資本の再配置を行うことで,1980年代のようなバブルを繰り返さないだけでなく,日本経済を再生できると考えるわけです.この改革が進めば,その他の政府系金融機関も同様に改革されるでしょう.

それは二重に政府財政に影響する,と小泉首相の経済財政諮問会議の牛尾氏は言います.一つは「第二の予算」として地方に分配されてきた財政投融資や公共事業の内容が公開されて,チェックされ,その結果,大きく削られるだろう.もう一つは,郵便貯金が民営化されれば,公団など,政府系の機関が市場で借入れを行うことは難しくなるだろう,と.国債の発行も,より市場に敏感になります.

その政治的影響も重要です.郵便局は今も約半分が世襲的に維持され,その繋がりが地方の集票マシーンとして,自民党の議席を確保しています.また自民党は地方への公共投資によって,憲法を無視した多数の地方議員を維持し,政権を長期に安定させてきました.資本の慢性的なミス配分,無駄な公共投資と国債累積,自民党の介入主義的政治支配,これらを転換する重大な意味を持つとしたら,なるほど明治維新にも匹敵するわけです.

しかし,他方で,アメリカ商工会議所のAndrew Conradが心配するように,民営化された郵便局が市場の怪物になるかもしれません.これまで民間銀行に確保されていた業務にも,民営化された郵便局が進出するでしょう.2万4000の視点を持つ郵便局が取り扱う金融商品を増やせば,銀行も配達業者も多くの仕事を奪われるはずです.民営化するだけでは,税金や規制,全国単一の郵便サービス体系に対する補助金,政府保証が続くような誤解,など,郵便局が保持している特権の多くは残されるでしょう.

国際的な視点からは,その巨大な金融資源が市場に開放されることに関心が集まります.しかし日本国内では,歩いて行ける距離にある郵便局がなくなる不安や,地方の雇用が失われることに,地方の有権者は敏感です.小泉氏であるからできたことだ,と田中直毅氏は賞賛しますが,2006年秋には自民党の総裁選挙があり,交代する可能性があります.

閣議決定は,政治論争と舞台裏の駆け引き,自民党内の暗闘を開始する合図に過ぎません.


FT September 12 2004

Beijing's closed politics hinders ‘new diplomacy'

By Minxin Pei

ST SEPT 16, 2004 THU

Behind the red curtain - power struggle in China

By Leslie Fong

(コメント) Peiは,中国の平和外交が行き詰まりつつある危険を指摘します.その原因は国内の指導権争いです.現在の指導部は,既に引退を表明した江沢民の干渉を排する政治力を持っていません.「和平演変」の外交政策も,台湾問題に対する強硬姿勢を翻すものとして攻撃されるかもしれません.より具体的には,中国の国内政治が余りにも深く既存の偏狭なナショナリズムに依存し,閉鎖的な政治・官僚機構に依拠していることが,平和的で開放的な外交政策と矛盾するのです.特に台湾や日本に関する問題になれば,外交政策は国内政治に支配されて変更されやすい,という指摘に直面し,困惑します.

他方,Fongは,江沢民が人民軍を指揮する地位も引退するかもしれない,と伝えています.しかし,その噂は錯綜しています.共産党内の路線争いはさまざまな遅滞や無言の抵抗となって混乱をもたらし,秩序のために唯一の強力な指導力を求めます.現在のような二重権力状態は,長く維持できない? SARSの克服によって支持を得た現指導部も,台湾海峡の扱いが政治の焦点になれば,誰が指導権を示すかは明らかです.あるいは,より分権化した,責任を明確にした政治システムが誕生するのでしょうか?


Sept. 12 (Bloomberg)

Safeguards Dash Hope for Free Trade in Textiles

Andy Mukherjee

(コメント) 自由貿易に対して,既存の産業が駆逐される諸国ではセーフガードを利用します.それゆえ,中国は自主規制に応じました.OECDと中国は,銀行などのサービス分野で中国が市場開放を遅らせる代わりに,その繊維製品輸出を制限するように交渉するでしょう.自由貿易というより,主要な貿易相手諸国による多角的「公正貿易」が固定された保護主義にならないよう,WTOは監視するわけです.


WP Sunday, September 12, 2004

Genocide

WP Monday, September 13, 2004

Feeds A Broken System

By Morton Abramowitz and Samantha Power

(コメント) パウエルの率いる国務省が,スーダンのダルフールにおける虐殺を真剣に取り上げたのは,アメリカ政府内部の権力争いや方針転換も関係していると思います.

WPの論説は,クリントンがルワンダを扱ったときより明確に,パウエルは調査団を送ってから,厳しい結論を示しました.より強力な治安維持の舞台を送り込む必要がある,というわけです.しかしそれにはスーダン政府が介入を要請しなければなりません.アメリカ政府は安保理の制裁などを通じてスーダン政府に圧力を強めていますが,フランスやドイツの対応は遅く,パキスタンや中国は国連の干渉を排除しようとしています.しかし,スーダン政府の行う虐殺を支持するつもりか? と彼らに問い質すべきだ,とWPは考えます.

なぜ虐殺を止めないのか? その答は単純だ,とAbramowitz and Powerは言います.それが自国の国益を損なわない限り,虐殺を止めることは無い.それが政治・金融・軍事上のリスクを伴うのが明白なのに,むしろ,なぜ取り上げる国があるのか?

国際介入が行われない理由は,@十分に多くの人々が殺害されていない.A人道的な支援も行えばよい.Bアフリカのように複雑な地域で,国連安保理のようなシステムは機能したためしがない.すなわち,ダルフールが示したのは,現在の民主国家が指導する国際システムでは,ジェノサイドに道義的非難と人道支援は行えても,軍事介入は容易に行えない,という事実でした.政府は,財源を負担し,脱出策も明確でない海外でのジェノサイドに,国内の緊急課題を差し置いて取り組むような政治的リスクを冒すでしょうか?


LAT September 12, 2004

Drying the Tears of Thirsty Nations

By Margaret Wertheim

(コメント) 上諏訪合宿で話し合った「水不足」問題です.内戦よりも,飢餓よりも,エイズやマラリア,地雷よりも,水不足は深刻だ,と.


WP Sunday, September 12, 2004

Middle East Reality

By David S. Broder

(コメント) ブッシュもケリーも重要な問題を無視している,と批判します.中東の人々から見れば,フセイン体制崩壊による「権力の真空」が秩序を失わせているのです.次のアメリカ大統領は,その問いに答えなければなりません.イラクは国軍を再建するのか? イラクとイランの勢力均衡は回復するのか? イラクの軍事力は破壊されて,イスラエルの核兵器はそのままにしておくのか? イラクの軍隊は再び近隣諸国の脅威となるのか?


IHT Monday, September 13, 2004

A battered UN needs to go back to its roots

Simon Chesterman

(コメント) 危機無しに国際機関が改革されることはありません.イラク戦争によって機能麻痺に陥り,スーダンの虐殺を阻止することもできない今,国際機関が改革される機会があるわけです.アナン事務総長は特別研究班を指名しました.Chestermanは,フランクリン・D・ルーズベルトが,サンフランシスコで国連憲章の作成を促した点に注目します.最終審議をサンフランシスコで開くのが良い.なぜなら,1.アメリカを国連の活動の柱として再認識し,アメリカ国民が自分たちの障害ではなく,利益であることを知る.2.次の事務総長をアジアから選出するという期待を示し,太平洋地域を重視する.3.国連憲章を作成した60年前の危機を回顧し,その改正に同じような危機を待つことはないと主要国を説得できる.


ST SEPT 14, 2004 TUE

Even a little reform can go a long way

By Dani Rodrik

(コメント) 経済発展の要点は制度の改革の改革にあります.何が成長を制約しているのか,政府はそれを見極めて,成長を始動させる小さな改善策を実施します.それが上手く行けば,改革は成長の果実をもたらし,好循環を生むのです.根本的な市場の制度は成長を維持するために必要であっても,それを始動する条件ではありません.

当たり前のことですが,二つの点で革新的な主張のようです.一つは,市場の制度全体を最初から導入する必要は無いし,むしろそれを実現するには政治的な混乱をもたらす危険があること.もう一つは,成長を始動させる最初の改革が何かはその国によって独自に答えを見出すべきこと.一般的な改革や自由化の押し付けは成功しない.

例えば,中国とロシアを比較します.ロシアの方が所有権や法律は自由市場に適合した形に変えられました.しかし,投資家たちは所有権も裁判制度も不適合な中国の方を強く支持しています.その理由は,ロシアの法律が正しく機能していないだけでなく,中国が独自の方法で制約を解消したからです.すなわち,地方政府などが民間投資と提携して,その利益を分け合う形にしたのです.政府は,自分たちの利益になる民間投資を歓迎し,その一時的な所有権や法律による保護を尊重しました.

何が成長を制約しているのか,一般的な市場改革論はその答えを出せません.中国は,市場改革でしてはならないと信じられてきた二重価格制度や段階的な市場自由化・国際化を行いました.失敗すると言われながら,それは非常に成功したのです.中国の農民は割り当てられたノルマを達成してから,自分たちの儲けを増やすために増産に励みました.中国においては,計画経済の資源配分システムを一気に破棄する必要など無かったのです.

実証的にも,成長に成功した例は市場改革の原則とほとんど関係していません.政府が制約を見出して改革に成功したのは,韓国における民間投資と社会投資とのギャップ,中国の市場誘因不足,民間部門へのインド政府の敵意,チリにおける為替レートの過大評価,などでした.市場に接する政府の態度が変わることも,その意味で,重要な変化です.

もし的確に診断できれば,非常に小さな改革がこれほど広範に成長を起動させたことに,Rodrikは感嘆します.


ST SEPT 14, 2004 TUE

US-N. Korea nuclear deal still on the cards

By Ralph A. Cossa

BG September 14, 2004

Feckless in North Korea

The Guardian ,Tuesday September 14, 2004

In from the cold

Glyn Ford

ST SEPT 15, 2004 WED

A nuclear arms race in North-east Asia?

By Bernard Loo

(コメント) 北朝鮮の改革は,何から始めれば良いのでしょうか? 韓国,中国,アメリカ,日本が心配した今回の「きのこ雲」騒動は,韓国の濃縮ウラン騒ぎとともに,アジアの地政学に,また新しい謎を浮かべました.

互いを挑発して,ロシアン・ルーレット状態の米朝交渉と,時間稼ぎに終始する6カ国協議.和解に大きく舵を切った韓国政府,拉致問題で主導権をとれない日本政府,選挙前に計算できない独裁者との交渉を無視するアメリカ,あるいは核兵器を製造し続ける北朝鮮,自国の経済や政治情勢に及ぼす影響を慎重に計算する中国とロシア,・・・しかし平和統一の経済コストを考えると韓国政府でさえ積極的な再統合には進めない? 北朝鮮は動けない,という怠惰と楽観をよそに,世界中のテロリスト集団が核兵器の購入交渉をしているかもしれません.

核開発と関連施設の凍結は,他の人道支援や人権・拉致問題,経済援助,などと一体化して進めるしかないように思います.そんな夢想的な方針を誰が聞くか? むしろ日本も含めてアジアの核武装と軍拡が歯止め無く進み,新しい「恐怖の均衡」を模索するしかない? あるいは,アジアがIAEAの地域的な強化システムを創設する? いずれも夢想的ですが,現実はすべてを含んでいるように思います.


FT September 14 2004

American policy must be moral and muscular

By Clifford Kupchan

(コメント) 民主党が多角主義を実現するには,現実のアメリカによる一極支配を前提していなければならない,とKupchanは言います.なぜなら,アメリカはどの国に対しても,軍事的・経済的に圧倒的な優位を持つからです.アメリカの軍事支出はEUの2倍.ロシアや中国の7倍もあります.アメリカのGDPはEUの1.5倍,日本の2.6倍,ドイツ,フランス,イタリアの6倍もあります.それゆえケリーがもし大統領になっても,この事実を踏まえた現実主義的多角主義を目指すべきだ,と.


FT September 13 2004

How Argentina defied the analysts

By Alfonso Prat-Gay(governor of the central bank of Argentina)

NYT September 14, 2004

Company Shows Argentina How to Shake Its Isolation

By TODD BENSON

(コメント) アルゼンチン中央銀行総裁のPrat-Gayは「ショック・セラピー」を拒否しました.すなわち,新興市場の金行き来に対して多くの例が従った,再建可能な銀行を除いて,それ以外は一気に破綻させること.そして再建する銀行には公的資金を投入して,不良債権を処理し,自己資本を強化すること,などです.アルゼンチンはすでにドルとの固定レートを破棄してから信用逼迫が起きて,金融機関も大量に破綻しました.ですから今更,不良な銀行を選別する必要は無いのです.

また,財政赤字を減らす必要がある時期に,公的資金投入を行う余裕もありませんでした.実際には,すでに経済が回復の兆候を示し,現金から信用へと,経済の拡大が銀行システムの再生を待っています.非難されてきた対外債務への支払も,巨額の国際支援を受けたメキシコと違い,アルゼンチンは自力でIMFに返済し続けてきました.今は金融引締めや銀行の整理を求める時期ではない,として,成長による再建をIMFなどに求めます.

元財務長官のオニールによれば,アルゼンチンの問題はまともな輸出産業が無いことです.為替レートが減価しても,海外から借金できても,輸出ができなければ破綻します.


The Japan Times: Aug. 22, 2004

Barbaric immigration policy

By GREGORY CLARK

(コメント) 秋田国際大学の副学長をしておられるGregory Clarkの論説は,日本の移民政策が如何に貧困であるかを説明しています.

日本政府は出入国管理を厳しくして,また警察は外国人による犯罪の増加を理由にビザやパスポートのチェックを強化しています.しかし,それには根本的な欠陥がいくつもあります.まず,犯罪者はビザやパスポートのチェックによって捕らえられないでしょう.それは日本に居住する外国人の多くに不快感や不便,不当な印象を与えるだけです.

滞在期間がオーヴァーした外国人の多くは,特に日本人の若者が集まらない中小・零細企業でまじめに働いて,経済的に貢献しています.こうした移民たちの貢献をアメリカ政府は高く評価し,繰り返し免責して,正式に居住資格を与えています.他方,日本の愚かな保守政治家と官僚主義は,犯罪の多いブラジルやペルーから日系人を入国させ,長期に滞在を許しています.しかし,その多くは日本語を話せず,教育や熟練も不足し,ゲットーを形成しつつあるのです.

オーストラリアが白人を優先的に入国させた政策を転換し,英語や教育・技能などをポイント制によって評価し,入国させる政策に転換したように,日本も移民政策を考え直すべきだ,と述べています.

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The Economist, September 4th 2004

Ripe for revolution

(コメント) 大量生産や規模の経済で繁栄を謳歌した旧来の自動車産業は,死滅する恐竜です.生き残れるのは,ほとんど電子部品開発と消費者へのブランド戦略で差別化を図る,まったく新種の企業家たちでしょう.・・・トヨタでも,ホンダでもなく? その一部が独立したような・・・

変化は迫っています.@市場は分断化され,標準化された組立作業は新興諸国へ.A製品在庫を貯め続ける生産システムは死滅し,注文生産へ.B部品を供給する生産システムが自立化して,コスト競争を加速.C自動車の電子化は,その革新の多くを生産コストより電子部品へ.

まず手始めは環境規制や石油枯渇への対応です.中国市場でプリウスを生産するトヨタが,自分も含めた恐竜たちの息の根を止めるのでしょうか?


Prostitution: It’s their business

Prostitution: It’s a foreigner’s game

(コメント) 地元の女性たちが営む売春宿は衰退する最古の職業かもしれません.The Economistの自由主義=個人主義は,二人の成人が合意してセックスする過程に,支払がともなっても,それ自体は政府が関与して規制や処罰の対象にする問題ではない,と断言します.売春婦たちの国際人身売買が話題となって,各国の売春規制が強化されていますが,厳しい法律で彼女たちの生活が改善されるわけではない,とThe Economistは反対します.

関心のある人は,ぜひ自分で通読してください!

私も社会問題に道徳論は嫌いです.しかし売春業のグローバリゼーションについては,The Economistの自由主義に限界を感じました.売春・買春の自由もしくは規制を認める条件とは何でしょうか?


Japan Post: Ready, steady, go

(コメント) 概ね,FTの論説と同じです.賛否両派に対する政府の改善策にも言及しています.なお,すべての預金の30%,保険契約の40%,という数字がFTと大きく異なります.範疇が違うようです.私の紹介では,統計数値について原文を引用しているだけですから,数値については確認してください.


なお,The Economist, August 14th 2004に掲載された記事 “Temasek: First Singapore, next the world” について,The Economistが謝罪文を載せました.リー・クァン・ユー他に損害を償う,と明記しています.私は数週間前に一言触れただけです.お断りします.