IPEの果樹園2004

今週のReview

8/16-8/28

IPEのタネ

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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   ダルフール :今も,「国際社会」は,大規模な虐殺やレイプを防げないほど未熟なのか?

2.   海洋の保護 :それでも,地球の生命圏を維持する世界的な権力の誕生は可能かもしれません.

3.   スウェーデン・モデル :日本がスウェーデンになる日まで,私も生きてみたいです.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


NYT August 6, 2004

What About Iraq?

By PAUL KRUGMAN

NYT August 10, 2004

Banning Bad News in Iraq

(コメント) ブッシュ大統領がイラクの暫定政府に主権を返還する,と宣伝したのは6月28日でした.それから,イラクのニュースは一気に減ります.ブッシュ氏が望んだように,アメリカ兵の死者は減っていませんが,そのニュースは新聞やTV画面から消えたのです.アフガニスタンがそうでした.どこか遠くの,どうでも良い小国の混乱として,無視されました.

しかし,実際にはアメリカ軍に敵対するイラクの民兵や宗教的指導者が支配を強めています.サドル・シティ,ナジャフ,そしてスンニー派の多いファルージャ.いたるところで自動車が襲撃され,爆発,誘拐,暗殺が起きています.もちろん,再建は進みません.昨年の夏と同様,電力供給は足りず,下水道は損なわれ,伝染病が広がります.暫定政府への政治的な支持も得られません.

ブッシュ政権は,基本政策を変えるつもりはない,と繰り返します.しかし,アメリカは戦闘に勝って,政治的には敗北し続けるのです.テロリストが増え,アメリカ人は殺され,アメリカ政府は国際的な評価を落としています.このままでよい,と言うのか?

アメリカ兵は,この敵意に満ちた土地から退却しなければなりません.実質的な権力の移譲を認めることです.バクダッドを陥落させてから,アメリカの占領政策はそれを何度も延期してきました.アメリカ政府が信用できるイラクの指導者を探し続けているのです.アラウィもそうです.彼は反政府軍の兵士を許して,政治的な支持を拡大しようとしています.ただし,アメリカ兵を殺害した者を除く,と.

アラウィ政権もまた,ブッシュの傀儡であり,真の出口を示していません.暫定政府は,自分たちに都合の悪いニュースを世界に流すアルジャジーラ放送を弾圧し,専制支配の体質を示しています.アルジャジーラはアラブ民衆の強い支持を受けて,各国政府が報せたくないニュースを公表してきました.アラブ世界の支配者やブッシュ政権からも非難されながら,その独自の姿勢を貫いています.

もしアラウィ政権が民主的なイラクや中東を欲するなら,むしろアルジャジーラの拠点を招待するべきではないか?


NYT August 6, 2004

Whispers That May Wake the Dragons

By ANNE WU(a former officialin the Chinese Ministry of Foreign Affairs, a fellow at the Belfer Center for Science and International Affairs at Harvard's Kennedy School of Government)

(コメント) 中国の外交政策を,北朝鮮との6カ国協議という点から見れば,Wuの指摘は当然です.まず,平和的に,段階を踏んで,北朝鮮の核武装を解除し,経済的な繁栄を支援するべきだ,ということです.この点で,中国はアメリカの姿勢を批判します.他方,北朝鮮が中国との条約を過信して,言動をエスカレートしないように,と釘をさします.中国はもはや「革命を輸出する」ことに関心は無く,国内経済の繁栄を維持することが重要なのです.どんな場合でも北朝鮮の安全を守るために中国が介入するに違いない,という彼らの思い込みを改めさせた,というわけです.

では,現在の中国の外交は何を求めているのでしょうか? それは,アジアにおける核軍拡競争を阻止することです.ロシア,インド,パキスタン,日本,韓国,さらには台湾までも,核武装が拡大するかもしれません.中国は,アジアの地殻変動を抑制し,平和を維持する,と主張します.それは,アジアの政治経済的な覇権を中国が握る,ということの確認でもあるでしょう.


WP Friday, August 6, 2004

Oceans in Need of a Visionary

By Fred Krupp and Peter Benchley

テディー・ルーズベルトが現代のわれわれにとっても重要なのはなぜか? 一世紀も前に,セオドア・ルーズベルトがその自然や未来に傾けた情熱のおかげで,すべてのアメリカ人は広大な野生の森林や自然公園を保存できたからだ.彼は土地管理を科学に基づかせ,強欲な短期的収奪の流れを食い止めた.

今,その流れが海洋に押し寄せている.マグロ,メカジキ,サメなど,重要な種族の数が90%も減少した.農業の化学肥料が流れ込むメキシコ湾内のニュー・ジャージー海域はデッド・ゾーンとなった.そのような生命のいない海域は国中に広がっている.沿岸部やその住民は汚染と生命の減少に苦しんでいる.漁業,リクレーション,観光によって成り立つ経済は危機にある.

21世紀の大統領は,ルーズベルトが大陸について行ったことを,海洋について行えるだろう.今月,ブッシュ大統領は海洋政策に関する報告を受け取る.その鍵となるのは,独立委員会Pew Oceans Commissionと共通しており,海洋資源の回復を目指すものだ.大統領も,民主党のケリー候補も,そこに指摘された発見を真剣に検討して,その方針を採用するべきだ.

大統領にできることとは,第一に,海洋管理を科学に基づくものにすることだ.無数の法律と機関を協力させて,海洋の保護に秩序と実効性をもたらさねばならない.ルーズベルトが,長期に及ぶ利益を,最大多数の人々に最大化しようとしたように,管理者は市場型の近代的な手法によって,主要な漁獲量を回復させるような長期的な利害関係を漁業者たちに与えることができる.

短期的な漁業の利害から圧力を受ける政府管理者も,海洋を漁業だけのために考えては来なかった.しかし,科学的な管理が求めるよりも厳しい制限を課し,漁期も短縮して,市場を歪め,漁師たちはますます危険で混み合った条件の下で競争を強いられている.

幸い,多くの漁師たちが長期の視点に向かっている.アラスカ・カレイ漁は,1990年代に危機を迎えたが,科学的に決められた総漁獲量の%シェアを受け取るという量的規制のおかげで,復活している.有害な短期の漁ではなく,今や,いつでも漁船は漁に出る.そして一年を通じて最も利益を上げるように漁をする.魚が増えれば上限は緩和されるから,それは漁師たちの利益になる.

第二に,ルーズベルトが国立公園における保護された地域を拡大したように,海洋を守る大統領は回復のために必要な保護された海域を拡大するべきだ.それは産卵や養殖も含む.今は,海洋のわずか1%が保護されているだけだ.しかし,希望はある.ブッシュ大統領は,クリントン大統領が北西ハワイ諸島で始めた1200マイルに及ぶエコ・システムの保護を支持した.ここにアメリカのサンゴ礁の70%が含まれる.

第三に,海洋を守る大統領は,無差別に魚を殺し,海洋の住処や揺籃の地を破壊するのを止めさせるために,大統領府から説教するべきだ.そして必要な法制化を指導すれば,国立公園と同じように,海洋資源を効果的に保護できる.

海洋が直面している問題はルーズベルトの時代に無かったものだ.科学雑誌は,海洋が人類の排出する温暖化ガスの約半分を吸収してくれている,と報告した.しかし,その能力にも限界があり,ガスを吸収して海洋が化学変化を生じている,と警告している.かつて,レイチェル・カーソンは,海洋は人類が犯しがたいほどに広大だ,と信じられていたが,不幸にして,それは愚かな楽観でしかなかった,と書いた.確かに,われわれは人類が自然を犯す力の強さを知らなかった.しかし,人類がその道を選択する力も過小評価すべきではない.残された海洋は,その機会を逃さなければ,まだ逆転できる.


WP Sunday, August 8, 2004

Stop the Slaughter

By Bob MacPherson(CARE's security director and a retired Marine colonel)

(コメント) MacPhersonは,ダルフールで,体重8ポンドしかない3歳の子供が数時間後に死んでゆくのを目撃します.そして翌日,彼は国民の6割が肥満に苦しむアメリカへ戻ります.彼はヴェトナムに従軍し,もはや個人的な苦しみなど感じないと思っていました.しかし,ダルフールは彼の心を痛めます.そこは,この地球上で,もっとも地獄に近い場所だ,と.

援助団体のスタッフも,かつて,これほど多くの人々が飢餓に瀕する情景を見たことなどない,と言います.しかも,ソマリアで,ルワンダで,われわれが経験したはずの失敗を,ここでも繰り返しています.しかも,ダルフールはそれ以上にひどい.飢餓による死,集団レイプ,殺害.

だから,国連がスーダン政府に30日間の猶予を与えたことに憤慨します.毎日,440人も餓死しているのに.また,国連は救済のために3億5000万ドルの寄付を呼びかけましたが,その半分も集まりません.国際社会は何のために時間を稼ぐのか? 何人人が死ねば,行動を起こすのか? 虐殺を止める軍事力も資源もある.しかし,豊かな諸国には,その意志がない.

安保理は国連憲章第7条を理由に介入を控え,アフリカ同盟の監視を要請しています.帰国して気づくのは,これは虐殺か,人種抹殺(エスニック・クレンジング)か,という定義の問題と,制裁の可否についての議会論争でした.もちろん,スーダンは主権国家である.しかし,明らかに政府は国民を守っていない.定義は辞書に任せておけ! 今は行動のときだ!

スーダンはアメリカの問題では無いし,ヨーロッパやアフリカの問題でもない.それは人類の問題だ.多数の人々が殺戮され,強姦される状況を,どのような基準においても,人間として許してはならない.国際社会は団結を示すべきだ,と.

The Guardian, Saturday August 14, 2004

In Darfur, the UN veto is proving as deadly as the gun

David Clark (a special adviser at the Foreign Office from 1997 to 2001)

(コメント) Clarkは,安保理による国際秩序の限界を指摘します.すなわち,その秩序は「国家主権」に基づいているのです.スーダンへの制裁に反対したのは,人権を尊重するという評価が世界的に見て非常に低い,次の四つの国でした.すなわち,ロシア,中国,パキスタン.アルジェリア,です.二つの常任理事国,ロシアと中国は,スーダン政府と経済的な利益を共有しています.そして,彼らが拒否権を保持する常任理事国であるのは,60年前の戦争で勝者の側にいたから,というだけなのです.

しかし,他の常任理事国も,その拒否権を行使する際に秩序をねじ曲げ,同じように偽善的な行動を選択しました.アメリカは79回も拒否権を行使し,その多くがイスラエルを国際的な批判から守るものでした.ニカラグアやグレナダでは国際的な譴責を拒みました.イギリスもアメリカも,時にはフランスも加わって,南アフリカ政府の人種差別を擁護しました.抗して,国際的な正義の要求は,「大国の支配」という唯一の法によって拒まれたのです.そして,かつてのように独裁者や一党支配の諸国が大部分を占めるような状態ではなくなった以上,国連総会に国際介入や支援の権限を求める,という考えも出てきます.


FT August 10 2004

Martin Wolf: Asia's game with America

By Martin Wolf

Aug. 13 (Bloomberg)

Why Asia Ignores Greenspan's Rate Increases

William Pesek Jr.

FT August 17 2004

Lex: Asian central banks

(コメント) アジアの経常黒字とアメリカの赤字によって拡大する国際収支不均衡,そして大規模な国際資本移動は,一体,いつまで続くのか? Wolfは,それが長期にわたる,と予想します.

アジアの新興市場経済(中国,インド,インドネシア,マレーシア,フィリピン,韓国,タイ)には,高い貯蓄率と豊富な労働力があります.アジア通貨危機を境に,これらの諸国は経常赤字から大幅な経常黒字に,国際収支を「調整」しました.この地域の国際競争を支配する中国の生産条件と政策思想は,ハードなドル・ペッグ政策を可能にしています.そして,アジアの他の新興市場もソフトな(相対的なインフレ率を調整する)ドル・ペッグ政策を採用するのです.

Wolfはマッキノンとドイチェ・バンクの研究とを元に,新しいドル・ペッグ体制の世界的な構造が長期にわたって安定している,と考えます.この地域には長期的な資本流入が,特に直接投資の形で,続いてきました.そして,経常黒字と直接投資を相殺するのは,ドル・ペッグ政策を採用した諸政府による外貨準備の累積です.その結果,アメリカの経常赤字は,1996年の1170億ドルから1999年には2910億ドルに増加しました.

しかし,なぜ,アジアの新興市場は高い貯蓄率を国内投資に向けず,輸出と外貨準備の累積に変えてしまうのでしょうか? それは結局,インフレ抑制と市場の拡大を,自国で管理するよりも,アメリカに追随する方が,安定化が容易であり,しかも成長を加速できる,という判断があるからです.実際,アメリカのインフレ率はアジアの新興市場よりも低く,その最終財市場も開放的で,アメリカ系多国籍企業を中心として,アジアからの輸入に弾力的な対応を続けています.

これは,もちろん,開放型のルイス・モデルが想定した成長加速の条件です.アジア諸国はアメリカの双子の赤字を融資し続けるでしょう.なぜなら,そうすることでアジア通貨危機の再現を防ぎ,成長を加速し,生産的な投資を拡大できるからだ,とWolfは言います.しかし,危機の前にも,同じことが言われたはずです.アメリカや日本がバブルを生じるまでは?

他方,William Pesek Jr.の論説は,アジア諸国がグリーンスパンの金利引上げに従わなかったことに注目します.これは,以前と違って,アメリカや中国への輸出だけでなく,内需を刺激して景気を維持しよう,とする姿勢や政策の余地が現れたせいであって,アジア経済の「成熟」を示す,とも評価しています.

アジアの中央銀行は,それほどドルの価値に無関心でいられるだろうか? そして,Eichengreenが指摘したように,現在はユーロが存在します.もしユーロに対してドルが大幅に減価し始めたら,政府間の国際協定や国際機関が明確に支持しないようなドル体制を,各国はいつまで信用するでしょうか? 特に,アメリカ政府が国内の不況や失業を経常収支の赤字のせいにして,保護主義による不均衡の解消を要求し始めたら,アジア諸国は競ってドルを投売りするでしょう.もはや,もっぱら日本がドルを買い支えた80年代と異なり,プラザ合意も再現できません.

しかし,世界景気の軟化と原油高に直面して,アジア諸国が選択するのは通貨価値を割安にすることです.すなわち,当面,ドル高が維持され,アメリカの製造業は苦情を言い,財務省は安堵する,ということです.


FT August 10 2004

We need a new fuel to power the world economy

By Wolfgang Reitzle

(コメント) 温暖化の規制や石油の埋蔵量が枯渇することで,石油エネルギーの時代が終わりに近づいています.次のエネルギーは何か? ・・・水? 水素だ,と言います.

世界に5億台の自動車が,そしてアジアが成長して,2030年に20億台の自動車が走るようになれば,それは何を意味するのでしょうか? 完全な水素時代への移行はまだ先であるとしても,水素とのハイブリッド・エンジンは急速に開発されそうです.


ST AUG 11, 2004 WED

3 lessons from China-Japan Asian Cup final

By Tommy Koh

(コメント) アジア・カップの決勝戦で見られたような,中国の若者に広まる反日感情や激しい反日の言動を,独仏関係や日韓関係と比較して,シンガポールの政治学者が論評しています.

教訓は三つです.1.日中の歴史的な和解が必要である.特に,反日感情の起源は先の戦争における日本軍の振る舞いであり,その後の日本政府が(たとえば,南京陥落時の虐殺や集団レイプに対して)明確な謝罪を示してこなかったことによる,と言います.2.和解は可能である.そのためには,独仏間でも,韓日間でも,政治指導者の明確な意思表示と協定調印が必要でした.スポーツや文化の交流も,それによって可能となったのです.3.アジア共同体の将来は日中の友好関係に懸かっている.それを制度化し,軍事紛争を考えられない時代に移行しなければならない,と.


FT August 11 2004

Take time to prepare for Basel rules

By Cesare Calari and Ryozo Himino

(コメント) 世界の金融システムが安定化するには,市場の規律が完全に機能するような,透明な規制が行われることが最善であり,それは国際的な市場監督・規制の基準を示すこと,各国の金融当局が改善に努めること,各金融機関がリスク評価技術を改善し,また,自己資本の強化と市場規律に正しく反応すること,などが求められます.国際通貨制度ではなく,こうした金融市場の規制と監督,金融機関の健全化について,市場の誘因と競争圧力が働くような,システムの微調整が繰り返される,というわけです.IMFも世銀も,BISも,特別な融資や政策を指導することはありません.市場の改善.それが最後の呪文です.


BG August 11, 2004

The right economic stimulus

By Robert Kuttner

ST AUG 12, 2004 THU

American Dream comes bundled with stress

By Robert J. Samuelson

(コメント) 財政と金融について,あれほどの景気刺激策を打って,早くもアメリカ景気の回復は終わりかけています.この機会は,Kuttnerはブッシュ政権の政策ミスと,ケリーを選択することで何が変わるか,を示そうとします.すなわち,金持ちや大企業への優遇を止めて,雇用の流出を止めて,賃金や労働条件を改善し,労働者家族の購買力を増やすことで景気を刺激します.その方が刺激としても有効だから,と.


IHT Wednesday, August 11, 2004

Make the best of money that migrants send home

Brunson McKinley (director general of the International Organization for Migration)

(コメント) 移民は資源だ,とIOMの所長は主張します.1970年以来,移民の数は倍増しました.世界全体でも,35人に一人は移民です.移民による国際的な送金は,2003年に930億ドルに達すると推定されます.非公式な送金を含めれば,その額は倍増するでしょう.それは豊かな諸国からの全援助額を上回ります.

移民は,受入国の負担や送出し国の「頭脳流出」として議論されてきました.しかし,その反面,移民たちは発展した国と未発達な国とを繋ぐ,社会的・経済的なリンクとして「資源」になります.彼らは故国に送金し,投資を行い,知識を伝えます.それをもっと有効に利用することが,IMFや世銀でも注目されるようになりました.

移民たちの移動や取引のコストを減らし,正しい情報を与える点で,政府は貢献できます.


IHT Wednesday, August 11, 2004

Sweden's success story has lessons for the world

Jonathan Power

(コメント) 経済に比べて,社会・政治システムはより多様です.日本が「アメリカ」になることはできませんが,私は,ときに,「イギリス」のようになれば良い,と思います.しかし,「スウェーデン」のようになるべきだ,という理想を唱える人には,容易に賛同しかねるのです.でも,意外に将来であれば,なるほど,日本も「スウェーデン」に近づくかもしれません.

Powerの論説は,「スウェーデン」のさまざまな姿を興味深く示します.昨年,ユーロをめぐる国民投票の前夜に,スウェーデンの女性の外相が殺害された事件を除けば,最近はニュースにも現れることのない国です.しかし,幼児死亡率や国民の教育水準で見るなら,スウェーデンは世界で最も優れた国です.Carnegie Mellon University のRichard Florida教授は,スウェーデンはビジネスの面で,その創造性,技術,忍耐について,世界最高であると評価します.そして,目的意識に富んだ労働者を世界中から引き寄せる「才能のマグネットである」と,賞賛します.

他面では,スウェーデンの孤独,執着,憂鬱が人々を特徴付けます.スウェーデンのさ迷える魂であり,その芸術を支配します.スウェーデンが世界から切り離されたままでいられるのは,この長く,暗い,灰色の冬があるからだ,と言われます.その成功にもかかわらず,国民の少なくとも半数がユーロを拒みます.ゆりかごから墓場までの手厚い福祉国家を守り,高額の税金を支払ってそれを支えます.

スウェーデンには,矛盾した二面性があります.どこよりも多くの国民一人当り多国籍企業を育てながら,社会主義にもかかわらず,国営企業はほとんどありません.鉄道から病院,学校まで,スウェーデンは民間の競争を取り入れたパイオニアです.移民を寛大に受入れ,EU加盟国でも新規加盟諸国からの移民を一切の移行措置無しに受け入れる国です.

スウェーデンは,しばしばヨーロッパの「日本」と呼ばれるほど,社会的な合意を重視しますが,それは何時間でも,何日でも,何ヶ月でも続く徹底的な議論によって形成されます.同時に,スウェーデンは非常に個人主義的です.性の自由や女性解放を先導し,10代後半のセックスに非常に寛大で,離婚率も西側世界で最高です.

スウェーデンを理解するためには,ルター派の信仰を知るべきです.教会に通う率はイースターとクリスマス程度でも,宗教的な誠実さはスウェーデンの魂です.嘘をつかず,握手は契約の徴です.誇大な表現も好みません.支払は遅れることが無く,もし真剣な関係で不誠実であれば,関係は絶たれます.

アングロ・サクソン・モデルから乖離したスウェーデンの姿勢を,外部の者は没落と見ます.国民所得の半分を福祉に充てて,残りは長期の休暇と旅行に費やします.所得の上昇には関心が無いのです.彼らは世界中を旅し,異なった美徳や感情を知っています.国民のすべて,たとえゴミ回収の清掃夫でも英語を話し,それでも極端な変化を嫌います.彼らはグローバリゼーションの中でもアメリカをまねる必要が無いことを教えています.世界は将来,スウェーデンのようになるかもしれません.

・・・同志社大学の未来の学長は,スウェーデンに20年余り暮らしてから,スウェーデンの優秀な学生や教師,職員を1000名ほど連れ帰って来てはどうでしょうか?


NYT August 11, 2004

An American Hiroshima

By NICHOLAS D. KRISTOF

NYT August 14, 2004

The Nuclear Shadow

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) もし10キロトンの原子爆弾がニュー・ヨークのタイムズ・スクウェアで爆発したら,広島よりは小さいが,何千万度もの熱球が膨張するだろう.マジソン・スクウェア・ガーデン,エンパイア・ステート・ビルディング,グランド・セントラル・ステーションやカーネギー・ホールが消滅,もしくは焼失し,国連ビルを含む,さらに広大な地域が壊滅する.それが平日であれば,50万人が死亡する.

KRISTOFの紹介するこの悪夢は,先週末に開かれたAspen Strategy Groupで検討されたケースです.その会議の結論は,核によるテロは人々が思っている以上に起こる可能性が高く,政府はそれを防ぐ十分な対策を講じていない,というものです.Graham Allisonの新著も,そのようなケースを9・11の一月後に大統領に報告されたCIA情報から推測しています.ロシアから盗まれた原爆がアル・カイダの手に渡り,ニュー・ヨークに密輸されたかもしれない,と.

ブッシュ大統領は専門家とチェイニー副大統領まで派遣して捜索させました.その秘密報告「ドラゴンファイアー」は,市民をパニックに陥れるかもしれない,という理由で,ジュリアーニ市長にさえ知らされなかった,ということです.

アリソン教授はさらに,核不拡散の画期的な措置が採られないなら,51対49で,この10年以内に世界のどこかで核テロが起きる,という方に賭けます.しかし,ブッシュ政権や政治家たちはアメリカに広島を作るテロリストたちの計画を防ぐ手立てを十分に行っていない,と.

まず,世界中のウラニウムとプルトニウムを完全に管理することです.その意味で,すでに法案が議会で両党によって支持されたのに,ブッシュ氏は推進していません.第二に,核保有国を増やさないことです.しかし,北朝鮮やブラジルが新たに核保有を宣言すれば,アジアやラテン・アメリカで核軍拡競争が起きるでしょう.第三に,アメリカへの核の非合法な持込を防ぐことです.そして最後に,アメリカは人類の核廃棄に向けた道徳的な崇高さを示すべきです.しかし,ブッシュ政権は,むしろ,新しい核兵器の開発を推進しています.


FT August 12 2004

Don't resist offshoring, exploit it

By John Hagel and John Seely Brown (formerly chief scientist of Xerox)

(コメント) 多国籍企業がオフショア生産を拡大するのは,単に短期的なコストの削減を目指しているからではない,とこの論説は主張します.そこには,金融革新や医療,産業機械の変化に対応する,企業にとっての新しい商品,新しい経営,というビジネス環境がある,と.


NYT August 13, 2004

Lesson of Iraq: High Oil Prices May Not Be Temporary

By FLOYD NORRIS

(コメント) ブッシュ氏は,開戦のためにヨーロッパで外交的な努力を続けず,石油価格を安定させるためにサウジ・アラビアがイラクからの供給停止の分を引き受けるという外交努力に集中しました.しかし,再び高まるドル価格は,アフリカやカスピ海における新しい供給地が十分なインフラを持たず,アジアやアメリカの需要拡大に応えられないことから生じている,と言います.それは,アラスカの油田を開発しても解決できない問題です.


FT August 14 2004

Going for gold

FT August 20 2004

The state of the Olympic Games

By David Owen

(コメント) アテネ・オリンピックに関する論説です.世界中の都市がオリンピックの開催を望んでいるのでしょうか? 日本でも議論されたように,そうではありません.その経済的な負担は大きく,世界中の注目を集める効果が,それに見合った成果に結びつくとは限りません.むしろ,オリンピックを世界の特定の場所で,4年毎に,開催するべきかもしれません.

オリンピックは,国民国家のメダル競争でない方が良い,と思う人も多いはずです.世界中のメディアが注目し,サッカーと同じように,放映権だけでも莫大な富が動きます.安全保障上も,既存の管理方法では開催できなくなるでしょう.すなわち,オリンピックをするためだけに,4年に一度,「オリンピック・ランド」という国を作る方が良いのです.

そこには多くの選手村が設けられ,国際交流が進むでしょう.観客は,さまざまな宿舎と交通輸送システムによって移動し,競技に声援を送ります.そこでは独自の通貨とパスポートも発行されるでしょう.もちろん,オリンピック・ランドは選手も食糧も自給できませんから,世界中の国が協力しなければ,次のオリンピック・ランドは目覚めません.

Owenは,オリンピックがますます盛大になって,「国家化」の道を歩むことに反対します.しかし,それは世界の「脱国家化」かもしれないな,と思いました.人類がこれほどオリンピックに投資することは,未来に,何をもたらすのか? G7・サミットも,オリンピックも,主催者たちが将来の世界像を明確に予測しているわけではないのです.


NYT August 15, 2004

Jobs? Oil? Iraq? On Second Thought, Let's Talk Taxes

By EDMUND L. ANDREWS

(コメント) アメリカの雇用増加やイラクの治安・経済再建よりも,大統領が重視するのは税制改革である,とANDREWSは主張します.財政赤字や社会保障を逆手にとって,税負担の不公平感を無くし,効率的な財源の徴収と利用を目指すのです.具体的には,税制を公平で簡素なものに変え,投資への二重課税を止めます.こうした主張には,誰も反対を唱えにくいはずです.特に消費に対する課税を中心に据えます.

しかし,巨額の減税や戦争,医療保険の拡大によってブッシュ氏が得た政治基盤は,その主張と矛盾しないのか?


NYT August 15, 2004

Will Russia, the Oil Superpower, Flex Its Muscles?

By ERIN E. ARVEDLUND

WP Saturday, August 21, 2004

Crushing Democracy and Now the Economy in Russia

By Masha Lipman

(コメント) 新しいOPECの指導国として,ロシアは国際政治における影響力を取り戻しました.しかし,国内の経済や政治システムは「石油の富」に腐食されて行きます.


WP Monday, August 16, 2004

The Growth Mystery

(コメント) クリントン政権が,なぜ急激な生産性の上昇を実現しつつ,賃金の上昇を抑えることができたのか,その結果として,投資を増やし,所得と税収を増やして,財政赤字を解消することができたのか? 確かな答はわかりません.しかし,ブッシュ氏もケリー氏も,何とかそれを再現したいと願っています.

減税策は,労働供給や貯蓄を増やすかもしれません.しかし,ブッシュ政権は財政赤字を減らさず,借入れコストを増やしています.それゆえ,他の方法を模索している,と言います.それは,輸出の増大かもしれませんし,税制の改革や規制緩和などによる経済の効率改善かもしれません.もっと直接的な,R&D投資への助成策もあるでしょう.しかし,政府の選択肢は限られ,1990年代に財政赤字を解消した奇跡を再現する手法は誰にも分かりません.

もう一度,「IT革命」が起きて生産性を上昇させる,と期待するだけでは選挙に勝てません.

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The Economist, July 31st 2004

Sudan can’t wait

Global hunger: Empty bowls, heads and pockets

International law and genocide: Must intervention be legal?

Philanthropy: Doing well and doing good

(コメント) もし私が映画監督なら,この刺を持ったカタツムリのような避難民の砂よけ?みたいなものを,私は次のSF映画のテーマにするでしょう.

世界の難民や貧困,栄養不良は,多くの子供たちを不幸にして,短い生涯を苦しむためだけで終わらせます.

もちろん,スーダン政府が反政府軍との和平を行う一方で,民兵に武器を与えて村を襲わせる理由があったのでしょう.ダルフールは広く,アフリカ大陸の奥地で,軍事介入を難しくする技術的あるいは財政的な理由があるのでしょう.ロシアはチェチェンへの国際介入を恐れ,中国もチベットや国内の人権問題で解消されることを許したくない事情があるのでしょう.アメリカの大統領は国際的な指導力を欠き,自分の選挙に忙しいというのも分かります.

世界には,今も多くの人々が飢餓や疫病に苦しんでいます.その解決策は知られており,その財源も調達不可能な額ではありません.短期的に援助できることと,長期的に可能な「機能する政府」の再建と支援は,政治的な意志を持って協力するなら実現されるでしょう.

他方で,援助も政府ではなく個人が行う時代になった,と記事は指摘します.市場かつて無い規模の資産が,高齢化し,ストック経済化した世界の至るところで,寄付金やボランティア活動を支えています.この経済的資源を社会的な公正さと世界の健全化,均衡回復に役立てることが,カタツムリ状のぼろくずに身を潜めて救済と再生を信じるしかない人たちの希望にもなれば良いのに.


The Economist, August 7th 2004

Drugs and the Olympics

Sport and drugs: Ever farther, ever faster, ever highere?

Building in Britain: Pay off the Nimbys

The European Union: After Babel, a new common tongue

(コメント) オリンピックになれば,私は人間の精神力や記録を伸ばす身体に驚きます.

その風刺画には毒が一杯です.槍投げかと思えば注射器を投げ,人のサイズをはるかに越えた巨人が錠剤を見つめてうなだれます.水泳のスタート台に並んだ一人は,完全に魚となってしまい,パンツから生えた水かきのある足だけがむしろ不自然です.実際,かつて東ドイツの選手はメダルを取るために性転換させられた,と言います.

ところが,記事は薬物の利用を認めるべきだ,と主張します.身体に危険であるとか,許されていない薬物で不当に有利な競争条件を得たのでなければ,医薬の進歩やトレーニングの改良は忌避されるべきではない,というわけです.目前に迫っている遺伝子操作の時代になれば,もはや薬物チェックなど無意味なことである,と.・・・なるほど,超人,ではなく,鳥人,魚人,獣人,などの闘うオリンピックが始まりそうです.

イギリス政府は景気刺激のために住宅価格を上昇させてしまい,再び田園都市の開発という国家改造計画に及ぶ気配です.他方,EU政府はいよいよ「バベルの塔」を再建し,言語の統一を成し遂げるかもしれません.ただし,フランス人の嫌いな英語が採用されるという皮肉な形で.

アジアの都市や国家の形,言語や通貨の将来も,子供たちの世代で話題になるでしょう.