IPEの果樹園2004

今週のReview

8/9-8/14

IPEのタネ

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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   ケリー候補の何を見る? :複雑な政治と孤立主義.

2.   IMFか債券市場か? :債券市場がIMFと世銀を吸収する日.

3.   スーダン,ダルフールの虐殺 :虐殺を止めることに政治的な合意はあるか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


NYT July 30, 2004

Triumph of the Trivial

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 確かにケリーは中・低所得層のための健康保険制度を提案している.他方,ブッシュ大統領の行ってきた政策は,顕著に,富裕層へ利益をもたらした.しかし,民主党大会を伝えるメディアやジャーナリストは,国民に間違った情報ばかりを与えている.大統領を選択するのに関係ない,ケリーの妻がハインツ社の資産を相続した超富裕者であるとか,「とっとと失せろ!」という下品な言葉を使った,といった些細な話を,その脈絡も伝えずに繰り返して報道する.

確かに,ケリーもエドワードも裕福である.しかし,ブッシュやチェイニーも裕福である.ところが,ケリーは富裕層に有利な政策に反対している.他方,ブッシュはそれを支持し,実施してきた.政治報道には「瑣末化と偏向」という罠がある,とKRUGMANは指摘します.これらはともに意図されたものであり,互いに強め合っています.

報道にもジャーナリストにも,指導者としての大統領を評価する能力や明確な方針があるとは思えません.彼らの行動は,何の良識ある報道基準にも拠らず,不必要なまでに民主党候補たちを「億万長者のケリー氏は」とか,「巨万の富を得た弁護士であるエドワード氏が」などと紹介し続ける.他方,「ブッシュ大統領」や「チェイニー副大統領」には,そのような修飾語を付けない.

選挙報道において,政策の対立点ではなく,候補者のヘアー・スタイルや健康状態,妻の服や暴言など,瑣末なこと(トリビア)が多くの時間を占めるようになるのは,それ自体重要な政治的偏向なのだ,と.彼らはイラク戦争になだれ込んだような間違いを,何度でも繰り返す.

ST JULY 31, 2004 SAT

What Kerry has missed

(コメント) アメリカの大統領は,同時に,世界の大統領である,とSTは言います.シンガポールから見て,民主党大会におけるケリー氏の演説には,二つの欠落がある,と彼らは考えます.一つは,ケリー氏がグローバリゼーションに対してどのような姿勢を取るのか? もう一つは,アメリカと中国との関係をどうするのか? という点が示されなかったことです.

アメリカの指導者は,たとえその論争や投票がアメリカ国内で行われ,決まるとしても,世界の重要な安全保障,政治・経済問題に,決定的な選択を行えるのです.

WP Friday, July 30, 2004

Missed Opportunity

(コメント) WPは,ケリーの演説には,この国が必要とする指導力が欠けていた,と厳しい評価を下しています.なぜなら,ケリーは難しい問題を自らすすんで取り上げ,国民に解決に向けた指導力を示そうとしなかったからです.

イラクでは難しい課題が残されている,と言いながら,ケリーは早期に撤退できるかのような空しい期待を抱かせたに過ぎません.イランや北朝鮮の核問題についても,不確実な情報によって,何をしなければならないのか,答えていません.ブッシュ大統領との違いを強調する,経済や安全保障に関しても,ケリーの説明は曖昧です.アウトソーシングを止め,中東への石油依存をなくす,と主張しても,では,どうするのか? ベビー・ブーマー世代の社会保障が破綻するとしても,では,財政赤字に対して増税するのか? 彼は難しい問いを避けようとする.

FT July 31 2004

The complicated candidate

By James Harding

(コメント) FTの論説は,ケリーを「複雑な候補」として描きます.学生として兵役を免れるより,ヴェトナムを選ぶことで,若いケリーは双方を避けたかった.すなわち,「過剰な孤立主義」と「過剰な国際主義」.しかし,木曜の夜,彼が再び選択しなければならなかったのは,クラスメートに対してではなく,アメリカ国民に対してであり,この危険に満ちた時代に,戦争指揮官として自己を飾り立てるジョージ・W・ブッシュに対してである.

ケリーは,ブッシュの人々を分断し,破壊する性質を批判します.彼は「聖戦」を嫌うのです.「私は,神が自分に味方してほしい,とは思わない.リンカーンがわれわれに述べたように,私は,われわれが神の意に背いていないよう,謙虚な気持ちで祈るだけだ.」

ケリーの経歴,ヴェトナム,ボストンの名家,資産家,しかし,その地位は厳しい試練の中にあったし,生まれつきの指揮官だった,と言います.それに加えて,ケリーに対する国民の印象は妻のTeresa Heinz Kerryに関わります.その暴言? その情熱! 2000年のゴアは壇上で夫人と長い熱烈なキスを公開し,今回のケリーは短いキスで済ませます.「彼女のそういうところが好きなのさ.」

ケリーは,自分が「グレー(灰色,不明瞭)」だと非難されていることを知っています.しかし,「自分がグレーになるのは,そう言った複雑な問題があるからだ」と答えます.明瞭さは,必ずしも,政治家の仕事ではない.

The Guardian, Saturday July 31, 2004

The Democrats' message: don't get mad, get even

Martin Kettle in Boston

(コメント) 民主党とは何か? それが掲げる政治信条とは何か? 反ブッシュ? 反イラク戦争? 2000年大統領選挙の勝利を奪ったブッシュへの復讐! 9・11の捕囚から解かれた自由な批判精神の復活! あるいは,経済・社会・福祉問題?

NYT July 31, 2004

All Things to All People

By DAVID BROOKS

(コメント) これは,選挙に勝利するための戦略というよりも,民主党が変身して得た長期の同盟関係ではないか? 安全保障を強化せよ,と叫ぶ,外交や軍隊の出身者たち.そして,ケリー夫人と語り合うロバート・ルービンのような,ウォール街の出身者たち.

ケリーが選ばれたのはなぜか? 民主党のイメージとして,武力を行使する穏健派.貧しい者に味方する富裕層.国民にも,世界にも,彼は和解を呼びかけます.

WP Sunday, August 1, 2004

The Kerry Doctrine

By Robert Kagan

(コメント) アメリカはなぜ戦争するのか? ケリーは,アメリカが戦争を望むからではなく,国際秩序が必要とするから,アメリカは戦争するのだ,と主張し,喝采を浴びました.しかし,それが「アメリカの伝統だ」というのは間違いだ,とKaganは批判します.

アメリカが必要だから戦争をしたのは,第二次世界大戦とアフガニスタンだけでした.他方,求められていても酸化しなかった戦争がある一方で,国際秩序を無視して,アメリカに有利であるから戦争したケースは多々あるのです.ケリー青年が戦ったヴェトナム戦争は,冷戦の一部でした.あの時代も,アメリカは「反共主義」に翻弄されて,誤った外交を推し進めた,と考えていたはずです.しかし,今やケリーも,冷戦における数々の介入を正当化するわけでしょう.

ポスト冷戦についても,ケリーは上院の中で,アメリカがなぜ戦争したか,その議論をよく知っているはずです.安保理が全会一致で決めた湾岸戦争に,ケリーは反対投票しています.クリントン政権が関わった,ハイチ,ボスニア,コソボが,アメリカを攻撃されたからではなく,政府の選択によって参加した戦争であったのはもちろんです.他方,国際秩序を理由とした要請は無いか,部分的でした.

もちろん,ケリーは過去のアメリカ外交を批判しているというより,自分の外交方針「ケリー・ドクトリン」を語ったのでしょう.それは反戦運動と民主党のヴぇちなむ戦争についての考え方を反映しています.アメリカの軍事力,国際的影響力を削減し,アメリカの間違った過去の贖罪に向けられたものです.ケリーにより,アメリカの外交政策が30年前の方針に回帰する側面を持つのは当然です.

皮肉に満ちている,とKaganは考えます.ケリーは,自分が戦ったヴェトナム戦争に反対して,政治的な地歩を得た.そして,自分が賛成投票したイラク戦争に反対して大統領候補になった.ところが,自分もタカ派であることを示して,もし大統領になれれば,ブッシュの始めたイラク占領と再建計画を長期にわたって継承する,と.

その中で,ケリーの受諾演説には真実が語られました.ケリー・ドクトリンは彼の反戦・孤立主義を示しています.人道的介入や民主主義を守る戦い,国際法違反に対しても,アメリカは戦争したくない.なぜなら,それは政治的な選択で行われる戦争となるから.このように狭い自己利益を主張するアメリカが,国際主義を掲げることはできない,とKaganは考えます.

WP Thursday, August 5, 2004

Questions for Kerry

By George F. Will

(コメント) ケリー候補への質問.

「社会保障は削らない,と言うが,年金給付を65歳から,と決めたとき,アメリカ男性の平均寿命は62歳であった.受給資格を引き上げるべきではないか?」

「外国の賛同が得られずとも,武力行使できる,というのは,ブッシュとどこが違うのか?」

1981年に,イスラエルがイラクの原子炉を一方的・先制攻撃で破壊したとき,喜んだのではないか?」

「イランの核武装は受け入れられない,と言うが,イスラム強硬派の政治体制が国際合意に従うと思うのか? 他に,どうするつもりか?」

「台湾の陳水偏大統領は,独立と主権国家を目指す,と言い,北京の軍事部門は,2020年までに統一する,と初めて明言した.軍事衝突が起きた場合,アメリカはどうするのか?」

「クリントン政権の時期にも,アメリカは攻撃され,若い兵士たちが世界中に展開していたではないか?」

「あなたはソマリア,バルカン,ハイチへの派兵を支持した.スーダンでも,大量虐殺を防ぐために軍事介入するべきか?」

「あなたは,ヴェトナムにおけるニクソンの戦争に反対する,と言った.しかし,それを始めたのはケネディーであり,50万人に拡大したのはジョンソンではなかったか?」

他にも,人工中絶,同性愛の結婚,政治と宗教の分離,ガソリン価格,選挙資金,アメリカの小都市について,ケリーの主張を吟味します.

WP Thursday, August 5, 2004

Who's the Flip-Flopper?

By Richard Cohen

(コメント) Flip-Flopper(方針転換する者)は,信用できない.矛盾している.愚かな腰抜けだ! といった調子のケリー批判が,ブッシュ陣営に充満し,有権者の心理を広く汚染しています.しかし,Flip-Flopperとは何か? 誰がFlip-Flopperか?

フランクリン・D・ルーズベルトは,財政均衡を唱えて当選し,大統領になってから大恐慌の深淵に次々と新しい連邦機関を投げ込んで,財政赤字を拡大しました.しかし,これをFlip-Flopperと呼ぶ者はおらず,「ニュー・ディール」として尊敬されています.

ブッシュがケリーをFlip-Flopperと非難するとき,イラク戦争に賛成しておきながら,その資金を出すことに反対した,と強調します.しかし,この二つの投票の間に,ブッシュ政権は多くの不手際や失敗を犯したという証拠が現れたのです.そうであれば,「熟慮の人」として,ケリーが立場を変えたことには意味があります.戦争は混沌をもたらし,それに対してブッシュは,何でも買える小切手帳を得ることなどできなかった,というわけです.

ケリーに比べて,ブッシュは自分を「信念の人」として売り込みます.彼は大衆の人気と関係なく,正しいことを行う,と断言します.たとえ証拠や合理的な説明に反しても! 例えば減税は彼の信念であり,その後の世代が赤字の埋め合わせに苦しむとしても,その前に,自分はラシュモア山に英雄として顔を彫られている,というわけです.

しかし,それ以外の点で,ブッシュほどFlip-Flopperな政治家はいません.国家建設のような戯言に関わらない,という方針を転換し,多数の若いアメリカ兵を死亡させ,大量破壊兵器の説明を転換し,新しい戦争理由を持ち出しました.安保理を無視して一方的に開戦しましたが,今ではパウエルが世界中をめぐって支持を集め,北朝鮮との交渉を拒否していましたが,交渉し始めました.国家安全省や政権幹部の議会証言についても立場を変え,自分が証言するのも無視できると思っていたのが,いざ証言するとなったときには,チェイニーを同伴させ,試験場にテキストを持ち込むようなあり様です.

ブッシュはいつもFlip-Flopperでした.もし彼がケリーと同じくらい長く政治家であれば,海の中の魚を数えるほど,彼のFlip-Flopperなケースも増えたでしょう.Flip-Flopperとは,熟慮の結果であれば,新たな事態に対して敏感に対応する,一つの美徳です.あるいは,原則を破棄する勇気です.ケリーは両者を持っており,ブッシュは後者しか示しません.


FT July 30 2004

Capturing the IMF

2001年と2002年にアルゼンチン経済が崩壊したことは,アルゼンチンの政策担当者たちが早期に必要な是正策を取り損ねたことを示している.しかしIMFもまた,主要な出資国に支持されて,それが履行する持続不可能な戦略を早期に中止するよう要求し損なう,という失敗を犯した.」これが,昨日,IMFの独立評価局が示した崩壊に関する報告の,残酷な,しかし正しい判断である.問題はその教訓だ.

引き出すべきではない教訓とは,IMFの努力は無駄だ,というものだ.もしIMFが市場の支持する国にだけ融資するのであれば,そのような融資は余計である.同じく,1990年から98年までのアルゼンチンの経済実績は,年平均6%近い成長とインフレの解消であった.アルゼンチンは遂に変わった,と考えたのも無理は無い.

では,何が間違っていたのか? 本質として,IMFの経済管理は長い支援の歴史に囚われていた.その顕著な結果として,2001年に,成功の機会が失われたのだ.報告が述べるように,(IMFは)「政府への影響力を維持するため,弱い政策を支持することは,実行できないほど強硬な安定化策を求めて,結局,支援を打ち切り,影響力を失うよりも,まだましだ,と考えた.」

他方,アルゼンチンも,弾力性を最小にすることで信認を最大にする,という政策の罠に陥った.政策当局が財政規律を課すことに失敗するに連れて,一連の絶望的な便宜策に走り,それらが信認を強化するより,むしろ掘り崩した.

この経験から,報告は幾つかの提言を行った.その中でも,IMFは戦略転換が必要なことを示す基準を持つべきだ.為替レート政策や債務の返済経路を変更する必要があるなら,それを表明するべきだ.資金が緊急に必要でない国,また必要な改革に対して政治的障害がある国に対しては,安定化政策を組んだり,維持したりするべきではない.例外的な融資には諸政府の緊密な協力が必要である.IMF理事会はより効果的な監視を行うべきだ.

外部の観察者はもっと厳しい結論に達しただろう.その一つは,不必要な破綻を最小にするには,IMF融資に対して独立の監視を行い,その結果を即座に,完全な形で公表するしかない,というものだ.さらに,もう一つは,IMFが脆弱な債務諸国の人質になっている,という.アルゼンチン政府は,2001年末に不履行になる前,IMFの経済管理を乗っ取ってしまった.アルゼンチンに対するIMFの融資残高に,今日まで,IMFは縛られている.最終的には,厳格な理事会が支持する厳格な管理のほかに代わるものは無い.


July 30 (Bloomberg)

The IMF's New Boss Stands Up to Argentina on Loan

David DeRosa

NYT July 30, 2004

Report Looks Harshly at I.M.F.'s Role in Argentine Debt Crisis

By TODD BENSON

(コメント) アルゼンチンが抱える7280億ドルのIMFに対する債務を処理できなければ,その他の民間債務や金融システムの再建が始まりません.しかしその額は余りにも大きく,アルゼンチンもIMFも動けないのです.世銀やアメリカ財務省の融資も互いに制約しています.

政府予算に大幅な赤字があれば,安定化融資は行えないでしょう.財政赤字がインフレや対外赤字,為替レートの減価を続けているのに,他方で,国内には大幅な失業があるというのでは,安定化の見込みが立ちません.政府は増税や支出削減で赤字を減らし,賃金を引き下げるか,インフレと減価が実質的にそれらをもたらし,金融引締めと不況で国内資源がシフトし,輸出を増やすことから安定化が始まります.

問題は,アルゼンチン政府が余りに巨額の債務を放置し,また,IMFが債務不履行と為替レートの安定化放棄を選んだ国に,十分な政策監視を行えないことです.アルゼンチンに続いて,IMFもそのトップが交代したことで,両者は新しい交渉のルールを確立できるでしょうか? IMFの政策監視を破棄して,アルゼンチン経済は極端な破局を通じて回復し,財政黒字を出し,インフレも為替レートも安定しています.しかし,対外債務は返済しません.

アルゼンチンから見れば,IMF融資は,過去の債務に対する支払が再融資されたに過ぎません.他方,もし再融資しなければ,アルゼンチン政府は財政黒字を失ったはずです.アルゼンチンの刺激策と回復は,やはり,IMFと加盟諸国の沈黙に依存しているのです.

債務の組替は,IMFと民間の融資団によって交渉されます.4分の3を切り捨てる,というアルゼンチンの要求を,債権者は受け入れません.本当にアルゼンチンの経済が回復し,世界市場や外国資本を必要とするまで,交渉の条件は整いません.これが,もう一つのルールになるでしょうか?


IHT Friday, July 30, 2004

Building democracy takes patience

Stanley A. Weiss

(コメント) フランス革命は20世紀にどのような影響を与えたか? と質問された中国のZhou Enlai首相は,「まだ語るには早すぎる」と答えました.民主化という歴史的な過程には,非常に長期にわたる曲折が伴うのです.イラク戦争の成果を語るのは,まだ早すぎる,というべきです.

他方,ジャーナリズムはその瞬間の批判的評価を追います.1946年にも,ドイツを占領したアメリカ軍について,同じような批判が溢れていました.「勝利は失われた.」「期待とは反対の結果をもたらした.」「治療は,病気そのものよりも悪い.」

選挙だけでは,民主主義や経済的繁栄は実現しません.街の治安が回復され,少数者の意見も自由に表明でき,一人当り6000ドルの生活水準を越える中産階級が増え,原油生産が安定して復興に利用でき,政府が国民の心を掴むことが必要だ,と.


BG August 1, 2004

Stalling in Sudan

(コメント) 安保理決議は薄められ,死に直面するDarfurの住民を助ける力は無い,とBGは批判します.パキスタン,中国,ロシア,アルジェリア,エジプトなどが,経済制裁に反対しました.警告と猶予.もし事態が改善しないようなら,介入も覚悟しなければならない,とパウエル国務長官は述べました.

しかし,事態は既に虐殺が始まっていることを示している,とBGは主張します.Africa Unionは,多くの村が襲われ,娘たちが鎖に繋がれてJanjaweed(スーダン政府に武器を与えられ,黒人を襲っている民兵集団)に焼き殺された,と伝えています.120万人以上が村を負われ,民兵たちはその住居を焼き,井戸に毒を流し,家畜を殺しました.飢餓と病気のせいで,200万人がしに瀕している,と報告しています.

国連は,こうして人間が作り出した災厄を放置するのか? 多くの人々が死んでも,主権国家の神聖な原理を守りたいのか?

The Observer, Sunday August 1, 2004

Into Africa, now

David Aaronovitch, columnist of the Year

WP Sunday, August 1, 2004

'Realism' and Darfur

(コメント) 恵まれた裕福な者は,いつも,その幸福を享受する特権を維持したい.だから,門の外で泣き叫ぶ不幸な貧者たちを見殺しにする.安保理はDarfurで強姦や虐殺が起きていることを知っている.しかし,救援も平和維持群も送らない.

どのような理由で? まず,ヨーロッパの30年戦争が確立した国家主権の原理.これによって国際関係は安定化されている.しかし,そのような「リアリズム」は新しい条件に合致しない.もう一つの理由は,国益にかなう介入しかしない,ということ.しかし,これも,「国益」を余りに狭く定義するべきではない.最後に,イスラム圏の反発を危惧する.エジプトは確かに反対した.しかし,これがイスラム圏の総意か?

IHT Thursday, August 5, 2004

Sanctions on Sudan have little chance of working

Tracy McNicoll

(コメント) 軍事介入に代わる制裁の効果には疑問があります.介入に比べて,制裁はより高度な,しかも全面的な,周辺関係諸国の協力が必要であり,その損害が周辺に及ぶために,さまざまな利害調整が必要です.それゆえ,より高度な政治的意志の協力水準が無ければ,効果は期待できません.サダム・フセインを懲らしめるために行われた制裁は,完全な合意を得たにもかかわらず,13年にわたって期待したような成果を出せませんでした.結局,フセインは多くの部族を買収し,さまざまな密輸ルートを開拓しました.

制裁は,しばしば第三世界の腐敗や独裁に対して,豊かな諸国の政治家が要求しますが,時間が経つにつれて効果を失います.特に,経済活動が大幅に非合法化し,地下経済が発達します.そして,麻薬や銃器の取引に外貨を求めるのです.

そして,アメリカ,EU,国連と,スーダンの周辺諸国の関係は,そのような全面的な協力と政治的意志を欠いています.

BG August 6, 2004

Death's grip on Darfur

By Richard Holbrooke(former US ambassador to the United Nations) and Kenneth Bacon

(コメント) 1994年にルワンダで80万人が虐殺されてから,人々は過ちを繰り返さない,と語りました.しかし,今,スーダンで同じような惨劇が進行中です.虐殺を止めさせねばなりません.そして,人道支援を行うべきです.

スーダン政府軍の空爆とJanjaweeの民兵組織が,住民たちを村落から追い出します.飢餓と病気が,彼らを確実に死滅させるでしょう.パウエル氏が現地を訪問し,アメリカ政府は漸くこの事態を正しく「虐殺」と呼び始めました.国連,フランス,アフリカ連合などとともに,解決策を模索しています.


FT August 1 2004

The US must think beyond protectionism

By Eric Rauchway and Peter Lindert

(コメント) ブッシュの関税率引き上げに比べたら,ケリーは理想的な自由貿易論者です.エドワーズのアウトソーシング批判にもかかわらず,ケリーはその対策に,労働者の移動を促す教育への投資,所得格差を是正する所得税改正,そして社会保障制度の改善を掲げています.

グローバリゼーションは,長期的な利益にもかかわらず,短期的には失業を増やし,市場閉鎖に向けた政治的要求を強めます.大規模移民が,今世紀初めの最初のグローバリゼーションをもたらし,また,阻止したように,現代のグローバリゼーションでは工場の移転や雇用のアウトソーシングが政治的な限界となっています.共和党は,雇用の世界化を歓迎する一方で,アメリカ企業を保護しました.しかし,国内の雇用で移民たちが労働者から雇用を奪うようになり,貧富の差とともに,政治問題となります.

アメリカは,ヨーロッパのような福祉国家や公共住宅建設を目指さず,教育に投資して世界最高水準の教育機関を育てました.また,アメリカ国民は関税を,消費者に課税して生産者を補助している,として嫌いました.それでもグローバリゼーションへの反対は抑えきれず,市場の不安定性から教育ある労働者にも十分な雇用をもたらせず,戦争や大恐慌がもたらした不安定性により決定的となったのです.

再び,長期的利益が短期的な不満から危機に直面する場合,民間企業による公共財の供給が重要です.民主党は,上位2%に増税することで,雇用の不安定化に社会保障を拡大する用意があります.それは,アウタルキーの政治に戻ることに比べて,民間部門にとって,はるかに安価なコストなのです.


FT August 2 2004

Strategic work for Japan's banks

By David Ibison

Aug. 3 (Bloomberg)

Top Ten Questions About UFJ Merger

William Pesek Jr.

ST AUG 4, 2004 WED

Finance czar takes on the big boys in Japan Inc

By Colin Donald

(コメント) 日本の金融改革は,次第に,そのスピードから,金融監督の厳格さに,焦点が移ってきました.今回,UFJに対して三菱東京(MTFG)と住友三井(SMFG)とから買収提案が現れたことは,金融再編の完成として,また「聖域なき改革」(そして「痛みをともなう改革」)を唱えた小泉政権と竹中大臣の勝利として,見なされています.

Ibisonは,こうした見方を受入れながら,合併がどうなるにせよ,日本の銀行が大きく遅れていることを強調します.金融改革が成功した,と言えるには,不良債権を減らした銀行が利潤を上げること,そのためには,企業向けの融資から,もっと利益の上がる金融手段の開発や消費者金融,手数料収入を増やす必要があります.UFJはそのために必要な土俵となるのです.

しかし,将来の展開は予想できません.合併は容易でなく,改革も困難です.景気回復が止まれば不良債権処理や金利上昇は終わるでしょう.今回の事件は,日本の大手銀行がリスクを取る勇気を示し,金融当局がそれを(少なくとも今は)歓迎する姿勢を示したことにある,とIbisonは結論します.

これまでの日本の金融改革をふり返るなら,Pesek Jr.は,もっと懐疑的な姿勢を薦めます.注意すべき点は,以下のようになります.1.合併の条件は何か? 2.本気で合併するのか? 3.政府が介在するのか? 4.どちらと合併する方が良いのか? 5.なぜUFJが欲しいのか? 6.株主の利益は? 7.シティ・グループやHSBCなどは参入しないのか? 8.ビジネスなのか,日本のエゴか? 9.関係のある,トヨタやFidelityはどう考えるか? 10.日本の金融改革を進めるのか,新しい鎖国体制か? 結局,後者であるなら,期待されるほど改革は進まない,と.

竹中氏と言えば,参院選挙で,監視対象の銀行の系列企業から選挙応援を組織的に受けていた,と批判する記事を読みました.何か,手心を加えるのではないか? というわけです.Donaldの記事は竹中氏を「皇帝」と揶揄しながら,それぞれが勝手に動く,銀行,自民党,金融庁,郵便貯金,日銀,などの間で,さまざまな圧力を受けながら金融行政を操縦する,小泉首相の補佐官として描きます.

私は,なるほど,と納得する記事や解説を読んだことがありません.竹中氏が引退後に,この間の交渉を詳細に報告する文書を出版して欲しいです.


The Guardian, Monday August 2, 2004

What WTO needs is a new Reformation

Larry Elliott

(コメント) WTOや自由化交渉をめぐる混乱は,国際システムが中世に戻って国民国家の支配を弱め,再び普遍的なカソリックとしての「新自由主義」が君臨する前兆なのでしょうか? あるいは,そのような見せかけで「自由貿易」を唱える腐敗した神父たちを排除し,各地で宗教改革が起きるのでしょうか?

IHT Tuesday, August 3, 2004

The WTO still has a long way to go

Robert Hunter Wade

ST AUG 3, 2004 TUE

India helps nail WTO pact for Third World

By Pranay Gupte

FT August 3 2004

The new dynamic in world trade

By Celso Amorim(foreign minister of Brazil)

(コメント) Wadeは,むしろッ非農業分野の市場開放を発展途上国が強いられることに問題がある,と考えます.また,Gupteは,インドのNath通産大臣が,欧米の農業補助金による輸出を攻撃していること,に注目します.各国の交渉力や目標は,時間によって,不断に変化します.それはブラジルの外相も同じです.交渉の力学に,新しい変化を期待します.

NYT August 5, 2004

W.T.O. Rules for Brazil in Sugar Dispute

By TODD BENSON

FT August 6 2004

Sweet justice for EU sugar

(コメント) 品目によっても対立は異なるでしょう.例えば,ブラジルはアメリカの綿花補助金,EUの砂糖割当に反対して,WTOの法的強制力や補償を利用しようとしています.それはまた,主要生産国や市場が交わす,最低価格や市場分割の新しい合意です.しかし,本当に求められているのは,弱小国の自由化に伴うコストへの配慮と補償です.アメリカやEUは,国内的な理由ではなく,世界的な基準で,それを説得できるでしょうか?

NYT August 5, 2004

Free Trade Debate in Australia

By JAMES BROOKE

(コメント) オーストラリアのアメリカとのFTAは,どのような利益をもたらし,自由貿易から何を諦め,結局,アメリカの植民地になるのか? という批判に応えなければなりません.例えば,砂糖について,オーストラリアの生産者はアメリカからの輸入に対して生産転換を支援されます.これが,長期的に,自由貿易にいたる最善の道,と主張しても,論争は終わりません.


FT August 3 2004

Martin Wolf: We need a global currency

By Martin Wolf

(コメント) 世界の通貨システムには,二つの矛盾がある,と言います.一つは,新興諸国が黒字を累積するために通貨を過小評価させること.もう一つは,国際通貨を供給するアメリカなどが赤字を累積すること.これら二つは関連しており,持続可能ではありません.

新興市場が黒字を維持したがるのは,外貨でしか融資を受けられないからです.その場合,通貨建てのミスマッチが生じ,危機の原因となります.そこで,常に為替レートを減価させ,その変動も安定化します.経常収支は黒字で無ければならないのです.それはまた,増価の圧力やバブルのリスクを含みます.他方,高齢化が進む日本のような国や,投資と成長が活発なアメリカのような国は,対外資産や負債を累積します.

Wolfは,このような世界の通貨システムが大きな不安を抱えている,と主張し,その原因を,それぞれが異なった通貨をもっていることだ,と考えます.もし世界が単一の通貨であれば,新興国は黒字を維持する特別な理由も無く,日本やアメリカが対外資産や債務の累積に政治的な反応を示す理由も無いだろう,というわけです.

私はこの主張に反対です.世界が最適通貨圏で無い以上,単一通貨では実物ショックに対する調整手段(為替レート)を失う結果になります.自立的な金融政策を失っても,必ず財政移転や要素移動が世界的に起きるわけではありません.市場による統合化は進行しても,必ず部分的でしかなく,相互の調整や安定化は,市場とともに政府間の協力で行うしかないのです.たとえ世界単一通貨で通貨危機や貿易摩擦を部分的に解決できるとしても,それ以上に悪いことが,いくらでも起こりえるでしょう.

同じように,簡単な答えがあります.通貨(特に信用貨幣)を使用しないこと,です.もちろん,危機は起きません.1000年後なら,可能でしょうか?


FT August 3 2004

IMF calls on EU to free up labour markets

By Ralph Atkins in Frankfurt

FT August 4 2004

The fallacy that stifles growth in Europe

By Paul de Grauwe

FT August 6 2004

Germany's task

(コメント) 労働市場とヨーロッパ経済をめぐる考察です.IMFは,ヨーロッパの低成長を労働市場の規制に求め,自由化を促します.他方,de Grauweは,ヨーロッパの労働市場がなぜ硬直的になったのか,を問います.そして,その理由は間違った労働市場理論による社会保障制度の設定であり,このことを政府(特にドイツ政府)が理解し適切な政策で対応するべきだ,と主張します.


FT August 3 2004

America must not stop promoting democracy

Moises Naim

FT August 4 2004

The dawn of a new era of American isolation

By Zeb Bradford

(コメント) 民主主義の名のもとに行われた戦争が,民主主義の後退をもたらす.アメリカを失った世界は,民主化への圧力や支援をも失ってしまう.

アメリカはよりヨーロッパ的になり,利己的で,粗忽な武力に頼らず,外交と国際会議に終始するかもしれません.しかし,アメリカはより若い国です.人口増加でも移民でも,ヨーロッパに比べて成長と柔軟性を維持しています.中国を除けば,近隣に挑戦国を抱えていません.アメリカの優位と覇権は明らかです.しかし,信条としてヨーロッパに近づくなら,ヨーロッパはそれを歓迎して良いのか?


Aug. 5 (Bloomberg)

China Puts Boot Into Japan Sport and Economy

William Pesek Jr.

FT August 6 2004

A chance to settle old scores in Beijing

By David Pilling and Richard McGregor

(コメント) ヨーロッパでも,アメリカでも,アジアでも,人種差別やナショナリズムを利用することで,長期的に,政府は大きな歪みや制約を増やします.指導者たちは,それを自覚して,互いに協力し,正しいメッセージを国民に繰り返し伝えるべきです.そして,協調のための恒久的制度を設けて,市民間の交流を促進してはどうでしょうか?

しかし,靖国参拝や教科書問題が注目されたときも,政府が合同のアジア会議を開催する用意は無かったと思います.また,学者や市民グループの集まりが,共通の理解に達した,とも聞きません.アジア・カップで,なぜ日本のポスターは中国と台湾を異なる色に塗っているのか,と質問されたジーコ監督は,「そんなこと知るわけないだろ?」と無視しました.

私は,スポーツと政治を切り離す,というのが答えでは無いと思います.


IHT Wednesday, August 4, 2004

Turning a blind eye to nukes

Jonathan Power

NYT August 4, 2004

Iran's Nuclear Challenge


FT August 5 2004

Why Asia must think global on financial markets

By Harald Benink and Ghon Rhee(Asian Shadow Financial Regulatory Committee)

(コメント) アジア債券市場の育成やそのための基金(ABF)創設について,この論説は反対しています.日本では,黒田東彦氏など,多くのABF支持者がいます.

まず,アジア諸国が危機の反省に立って,債券市場を整備し,外貨準備を増やすことは,合理的な対応として理解できます.しかし,この外貨準備を何か共同の助成策に転用できる,と考えるのは間違いだろう,というわけです.債券市場は世界的に成立しており,アジアだけの補助はむしろコストがかかります.今でも,債券市場を利用しているのはアジアの機関投資家とアジアの企業です.政府が金融制度を改革し,自由化を進める一方で,金融機関や企業が近代的な会計や投資基準を満たせれば,彼らは世界債券市場に参加できるのです.

4つの教訓を示します.@地域的な金融制度ができるのには時間がかかる.A金融・財政政策や制度の協調には,さらに時間がかかる.B各国の債券市場は,たとえ地域内でも,投資を集められない.C銀行に依拠した経済において,債券市場の障害を克服し,地域的な協力を実現するのは難しい.

そこで,短期的には,金融制度の改革に各国が取り組み,世界債券市場に個別に参加すること.長期的には,各国が金融政策や財政制度の地域内での協力関係を深めること,為替レート制度や資本勘定の自由化,貿易自由化にエネルギーを注ぐべきだ,と主張します.

さて,あなたはどう思いますか?


The Guardian, Thursday August 5, 2004

What the terror alerts really tell us

Sidney Blumenthal

NYT August 5, 2004

The Terror Alerts

WP Thursday, August 5, 2004

Security Muddle

(コメント) 戦争やテロの脅威を,政府の正当性や支配者の威信を高めるために利用しているのではないか? 隠された情報.隠された判断.比較できない結果.治安や環境,疫病,戦争,なども,政府の公的な役割であると同時に,政治家たちの競争的なテーマです.情報を開示して,市民に判断を委ねる? 諜報・捜査機関の再編と効率化を進める? 独立の調査委員会が報告書を定期的に作成する?

戦争やテロについても,「市場」が好ましい比喩なのか? 「法」が正しい比喩でしょうか?


BG August 6, 2004

A wakeup call on America's future debt

By Scot Lehigh

(コメント) Peter G. Peterson の新著"Running on Empty."についての紹介です.そのタイトルを変えたほうが良い,と.たとえば,"The Generation that Crippled Its Children," とか,"The Debt Demon that Stalks Today's Youth."といった書名へ.

日本でも,年金改革法は激しい論争になりました.しかし,若者はすでに制度からの離脱を選択しているようです.破綻する制度に資金を蓄えるほど愚かではない,というわけです.しかし,年金制度が無くても良い,とまでは考えていないでしょう.現在のコストを先送りする,という点で,アメリカも日本も同じです.

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The Economist, July 24th 2004

Saving the rainforest

The Brazilian Amazon: Asphalt and the jungle

(コメント) もし熱帯雨林が地球の肺であれば,それが傷つくのを防ぐために,世界がコストを負担するのは正しいことです.アマゾンの熱帯雨林に自動車道を建設すれば,その周囲から熱帯雨林は消滅します.木材は伐採されて売られ,大豆畑や牧場に変わるからです.

熱帯雨林を守る州政府に対して,環境保護団体や政府間援助から資金が提供されるでしょう.京都議定書には含まれなかった二酸化炭素の吸収源を保護する行為に対して,排出権市場から資金調達することができます.そして,ブラジルの州政府によって異なった対応は,熱帯雨林の消滅を示す人工衛星からの写真に示されており,世界銀行からの融資に反映されるでしょう.


John Kerry: Not Dean, not Bush, not a robot...

John Kerry: Who is John Kerry?

(コメント) なぜケリーか? ブッシュは嫌いだし,ディーンは好きじゃない.ロボットみたいに国民の人気を反映するだけでは仕方ないが・・・

ブッシュのアメリカは自信過剰で楽観的だった.しかし,ケリーのアメリカは複雑で後向きだ.両者の政策に示された違いを,有権者が明確に判断する,というわけではない.

もうそろそろ落ち着いた,再評価をしたい,と国民が思うなら,ケリーか?


The Unites Nations: A winning recipe for reform?

Charlemagne: A crucible -- or a zoo?

(コメント) 国連やEU議会は,機能しない国際機関の代名詞です.ストラスブールのヨーロッパ議会など,「迷路」として建築され,「動物園」に近い,と酷評されます.反EU感情が強く,多くの議員が入れ替わったために,ヨーロッパ議会では迷子になった新人議員が続出しています.

安保理の改革を議論する「高等専門家委員会」がアナン事務総長によって設置され,合意を得て報告書が出ました.改革の骨子は,安保理メンバーの軍事的・財政的負担義務を明確にすること,安保理を三層化すること,です.三層とは,1.拒否権を持つ,現在の常任理事国(5カ国).2.4もしくは5年任期で,各地域から選出された,準常任理事国(8カ国).3.再任できない2年任期で,各地域からローテーションする.

しかし,9・11とイラク戦争を経て,安保理の機能を拡大し,大量破壊兵器の査察やテロの防止,先制攻撃による戦争,を含めることには,当然,異論があります.

健全な民主主義に必要でありながら,ヨーロッパ議会には欠けているものとして,記事は,国民の関心と参加,を指摘します.ヨーロッパの超国家民主主義には,未だに,共通の言語と情報媒体が欠けているのです.サッカーやオリンピックは,その機会となるのでしょうか?


Kenneth Rogoff: The sisters at 60

(コメント) IMFと世銀の創設60周年を記念して,Rogoffが現状と将来を展望します.

Rogoffは,両機関が援助機関となってしまい,モラル・ハザードを繰り返している,と現状に批判的です.特に,世界銀行は独自の財源を持たず,国際債券市場と発展途上国への融資を仲介する「ヘッジ・ファンド」と成っています.そのポートフォリオも極めて偏り,アルゼンチンが破綻すれば世銀も破綻します.その場合,主要国が救済するでしょうが,納税者が負担を強いられるのです.

他方,IMFの安定化融資はさまざまな批判を受けていますが,Rogoffは間違っていなかった,と主張します.危機に際して,海外投資家に加えて,自国民も資本逃避させるような国へ,IMFが融資したのは,政策を指導し,転換コストを抑制できた.融資条件が厳し過ぎる,という批判は,危機の原因を危機に付随した現象と混同している,と.

しかし,アジア諸国が早期に為替レートの弾力化を選択するべきであったこと,また,IMFはアジア諸国が自力で回復する力を過小評価し,介入に深入りしたこと,を指摘します.資本流入に依存しすぎてはいけないし,その意味で,資本自由化を万能薬とも考えていない,と今のIMFの立場を示します.

危機に対処するのは,明確な処方箋の無い,難しい判断です.アジア危機に際して,世銀は中国に人民元の固定化を放棄し,減価させることを薦めました.他方,IMFは為替レートの安定化と輸出の回復を維持するため,人民元を固定化するように求めたのです.当時の状況で,何を支持すべきか,誰にも確実に答えられなかった,と言います.今では,IMFが為替レートの弾力化を求めています.

では,IMFや世銀は将来何をするのでしょうか? Rogoffは,両機関とも融資から撤退するべきだ,と考えます.ケインズとホワイトが考えた時代には,国際金融市場が担えない問題も多くありました.しかし,現代の柔軟な資本移動の規模を知れば,彼らも世界銀行を廃止するだろう,と言います.世界銀行は純粋な援助機関,政策や投資の国際コンサルタントになるでしょう.

IMFも,モラル・ハザードを免れず,危機を救済するより,債務不履行に巻き込まれてシステムを悪化させる可能性があります.他方,調査や政策指導,監視機能は,実際に必要な場合に限って(すなわち,有料化しても要請されるなら)実施すればよい,と主張します.