IPEの果樹園2004
今週のReview
7/12-7/17
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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.
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三つだけ推奨するとしたら?
1. マイケル・ムーアの愛国心 :ムーアが嫌いなのはアメリカではなく,醜く,愚かなアメリカです.
2. 人口問題・「実のならない枝」 :アジアの人口増加がもたらす深刻な社会問題
3. ラテン・アメリカの民主化モデルが味わった50年 :アメリカの「民主化モデル」を信用できますか?
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune
July 2 (Bloomberg)
Maybe Japan's Bond Market Does Make Sense
William Pesek Jr.
July 4 (Bloomberg)
Japan Gets New Finance Chief in Charge of the Yen
David DeRosa
(コメント) GDPの170%,そして5年後には190%に及ぶとIMFが予測する日本の公的債務残高を考えれば,その実質金利がアメリカのトリプルAの国債に比べてはるかに低い,1.81%であるのは経済学の謎です.日本国債の格付けは,景気が回復しつつある今でも,クウェート,ラトヴィア,モーリシャスと同じであり,ボツワナに少し劣ります.しかし,Christian Broda(the New York Federal Reserve Bank of New York)とDavid Weinstein (Columbia University) による研究は,こうした債務残高の比較が誤解である,と言います.
要するに,日本の債務は政府機関内部の相互の債務であり,非政府部門への公的債務としては省かれます.実際には,64%程度であり,言い換えれば,ユーロに参加する基準より少し高いだけです.また,日本の税率はOECD諸国の中では低く,増税の余地があります.問題があるとすれば,人口の高齢化と減少です.成長率が低下し,高齢者への負担が増えても,政治家たちはいつまでも増税を選択できず,時間を浪費する,という現状が問題です.
DeRosaは,日本の為替政策のトップが交代した,というニュースを取り上げます.すなわち,史上空前の外国為替市場介入である,32兆9000億ドル(3040億ドル)をどう考えているのか? というわけです.しかも,3月半ばに,突如,介入を止めました.こうした日本の為替介入姿勢を,DeRosaは「ストップ・ゴー政策」と呼びます.それは全く不合理だ,説明がつかない,と.政府が円売りを続けているとき,円安は起こらず,それを止めてから円安になりました.その政策は,効果が無く,愚かである,と断言します.
要するに,財務省や日銀には,国際経済における為替レートの役割をまともに受け入れる気は無いのか? ということです.日本の財務省の考えでは,為替レートが変動することは,基本的に,日本経済の安定性を損なう脅威なのです.彼らは宣言します.「われわれは市場を注意深く監視し,介入することも辞さない.」と.しかし,そのような発言は,為替レートが市場の需要と供給によって変動し,ミクロ的にも,マクロ的にも均衡をもたらす,という発想が全く無いのです.
そして財務省は,金利についても日銀が同じことをしなければならない,といった強い調子のコメントを出します.
July 2 (Bloomberg)
Iraqi Dinar Investors Face Some Risks
David DeRosa
(コメント) イラクの通貨ディナールは,前代未聞の投機的な利益を約束しているのでしょうか? それは現在,1ドル=1460ディナールに固定されています.しかし,急速に価値を高める,と期待する者もいます.しかし,DeRosaは,そのような者が過去のレートに引きずられている,と言います.イラン・イラク戦争まで,1ディナールが3.32ドルもしたからです.中央銀行がこうした以前のレートに戻すことを目指すことなどありえません.
他方,もう一つ確実なことは,新しい暫定政府が暴徒に倒されたなら,ディナールの価値がなくなることです.政府が無ければ,その通貨の価値もありません.また,たとえ政府があっても,中央銀行がインフレを止められない場合もあります.多くの新しい国家で,政府は赤字を爆発させ,インフレやハイパー・インフレを生じました.
ディナールの価値を支えるものは,金ではなく,中央銀行の指名と権限を作った法律です.中央銀行が責任ある行動を取ることだけが,その通貨の価値を保証するのです.もしあなたが通貨を買えば,あなたはその政府と中央銀行を信用したことになります.
ディナールにどの程度の金利を期待できますか? その金利は,政府や中央銀行がハイパー・インフレに訴えるかもしれないというリスクに,十分,見合ったものであるはずです.また,ディナールの銀行券は,さまざまな銀行が勝手に増殖し,いくらでも手に入ります.
今,ディナールを買っておけば,絶対,儲かる,などという噂を聞いたら,あなたはどうしますか?
LAT July 2, 2004
Bush's Secret Deficit-Reduction Plan
Michael Kinsley
(コメント) 過去(2001年初め)の計画では,4000億ドルの赤字は消滅し,2兆1000億ドルの債務はゼロに向かうはずでした.ブッシュ氏の今の計画では,5000億ドルの赤字と,4兆4000億ドルの債務,それはさらに10年経てば6兆ドルである,と予想されます.
莫大な債務を支払うには,4つの方法がある,と言います.@つましく暮らして,収入の範囲内で支出する.A地方政府にまで,財政的な規律を要求する.B生産性上昇等で経済的奇跡を起こす.そして最後は,Cインフレを起こす,です.しかも,アメリカはドル建で外国から借金できますから,これをインフレで帳消しにしたい,という誘惑は異常に強いはずです.返すときの通貨の価値を,借り手が決める,というわけです.
それは既に始まっているのかもしれません.ブッシュ政権は3%のインフレで,債務総額の3%,すなわち1320億ドルを帳消しにしました.財政赤字の約4分の1です.1%インフレが高くなれば,約440億ドルを始末できます.ところが,政府の支出も増え,さらに債権者はこの目減りを嫌って,それを金利に反映させます.そこで,政府はインフレをさらに高くするわけです.
それでどうなるか? 1970年代に経験したように,固定収入・利回りを得る者は貧しくなり,取引は抑えられ,長期の計画は立ちません.これを止めさせたのは,前連銀議長のポール・ヴォルカーでした.しかし,グリーンスパンはブッシュによって難しい状況に追い込まれました.景気の回復を持続しながら,しかしインフレは抑えたいわけです.きっと,大幅な財政黒字に悩んだ過去のプランが懐かしいでしょう.
WP Friday, July 2, 2004
Saddam Hussein's Trial
FT July 6 2004
International justice
WP Friday, July 2, 2004
Next in Darfur
BG July 3, 2004
Time for action in Darfur
By John Olver
NYT July 4, 2004
Death in Darfur
(コメント) たまたま同じ週に,サダム・フセインの裁判開始と,スーダン南部の人種迫害に関する国際介入,が取り上げられています.世界から独裁者を追放し,大量虐殺や民族浄化を無くす試みは,国際法・国際裁判所と,国連安保理決議や人権擁護のための国境を越えた経済制裁・軍事介入などによって,多分いくらか,実現されました.二つとも明白に人類の社会的・政治的な前進を示すはずですが,同時に,強い反対を受けています.たとえば,
1. 独裁者や大量虐殺(あるいはテロ)であるかどうか,どうやって,誰が決めるのか?
2. 経済制裁や軍事介入で,事態を改善できる保証はあるのか?
3. アメリカや,近隣の大国に都合の良い,裁判や介入だけが取り上げられ,都合が悪いと無視されるのではないか? 国際機関は大国の道具でしかない?
4. 必要な人的・物的支援,財政的な負担は誰が引き受けるのか?
5. そもそも法的な手続きになじむのか? 民主的な意思決定になじむのか? 勝者の政治ショーではないか?
6. 国際的な意思決定には時間がかかり,無駄が多く,時間稼ぎに利用されたり,国際対立を持ち込まれたりすることが多く,ナショナリズムや人種差別を強めて,むしろ解決を妨げる.
7. 紛争や迫害の犠牲者・当事者から,本当に,その声を聞き,彼らの意志が代表される制度的保証はあるのか?
8. 介入や支援がもたらす国際ビジネス・国際政治の強い影響により,地域社会が翻弄され,分裂してしまうのではないか? 石油,ダイヤモンド,国際海峡,・・・
その他,論争は絶えません.しかし,国際社会が合意できるような明確なケースに限って,効果的な支援や介入を選択するなら,成功するケースが増えるのではないか,と思います.おそらく今後の選択や介入手段の決定において,集められた事例から一般的な基準が議論され,適切な手段が選択されるでしょう.
可能な事例は限られています.しかし,国際社会は形成されつつあります.国際法廷は無力ではないし,一方的な軍事介入も万能ではない,というわけです.
FT July 3 2004
Sixty years on
1944年の今週末,ニュー・ハンプシャー州のブレトン・ウッズにある大統領山荘のそばに,代表たちが集まった.国際通貨基金IMFと世界銀行についての考えをまとめるためだった.あれから60年を経て,これらの機関も寿命が尽きたか?
答は ‘No.’ だ.世界情勢は変化し,それらの機能も変わった.しかし,国際金融機関は上手く適用し,有益な役割を果たしている.よく知られた欠点は別にしても,これらの機関はその歴史を通じて,特有の弱点に苦しめられた.すなわち,短期的で,利己的な株主たちが,余りにもしばしば腐敗し,専門技術者の金融機関を,政治的影響力の道具に変えてしまうのだ.
IMFの仕事は,ブレトン・ウッズの固定レート制において経常収支の不均衡を解決するように監督することから,大きく変わった.今日,最大の不均衡はもちろんアメリカの貿易赤字であり,同時に,日本やユーロ圏の貿易黒字である.それは,IMFからの助けなど無いまま,どのようにでも解決されるに違いない.先祖帰りしたようなブレトン・ウッズ型の固定レート制を再建してきた新興アジア市場を除けば,固定レートや資本規制,公的な外貨準備管理,などは変動レートと自由な民間資本移動に代わりつつある.
しかし,IMFは金融危機解決の役割を未だに担っている.近頃では,新興市場の過大な公的債務負担にしばしば関わっている.国際資本市場に比べてIMFの規模は縮小し続けているが,もう一度,1997-98年のアジア通貨危機のような破局に遭えば,ブラジルほどの大きさの経済を流動性危機から融資で救える.
IMFの真の問題は,その株主たちが,政治的な動機を持って,アルゼンチンのような新興市場諸国に過剰な融資を行うことである.構造をもてあそぶより,支配的な株主たちが有能で意志強固な経営陣を選び,彼らを支持することだ.
実際,国際金融機関に対するG7の影響力はますます揺るぎないものになっている.結局,富者が支配することは避けられない.なぜならこれは負担を分担する(株式会社型の)金融機関であり,(一国一票型の)国際連合ではないのだ.ただし,金融の「分担金」と投票力は,その経済規模を反映して,新興アジア諸国などに力を与えるよう,改訂されなければならない.
世界銀行は,状況の変化に加えて,独自の問題を抱えている.国際通貨基金と同様に,中所得国への影響力は民間資本の増大によって台無しにされてきた.日本や韓国のような国が世銀の商業融資の対象から「卒業」し,メキシコなども続くだろう.そして世銀は,ますます,主にアフリカの破綻した低所得国に対する機関となる.そこには,余りにも多くの競合する優先事項を抱えた専門家たちがいる.またその規模を超えて,他の援助や債務免除の交渉窓口としても行動し,支配的な力を行使する.
開発をめぐる激しい論争において,世界銀行は不可避的に批判者たちを喜ばせる.世界の援助供与者の間でも,助言や技術支援,援助,の協力はバラバラのままだ.ここでも株主たちは多角的な話し合いを持つが,余りにもしばしば,勝手に行動する.
60年前のブレトン・ウッズ会議も,わずかな,利己的な,各国代表たちの口論によって傷つけられた.それは今でも同じだ.世界は,単により良い国際金融機関を必要としているだけでなく,より良い株主たちを必要としている.
BG July 3, 2004
Will and Law in Israel
LAT July 8, 2004
Wall Is a World Issue Too
By Jessica Montell
(コメント) イスラエルの最高裁が,ヨルダン川西岸のフェンス建設を,パレスチナ人の人権を守るために撤去しなければならない,と判決しました.裁判官たちは,法に従うことで,イスラエルはより強くなり,安全を保障できると考え,また,イスラエルの隣国として平和を求めることで,パレスチナは独立できる,と考えました.
こうした判決が出されたのは,計画されていたフェンスによって農民とその土地とを切り離すことは敵意を強め,むしろイスラエルの安全を損なう,と考えたイスラエルとパレスチナの村人たちが,法廷に訴えたからです.シャロン首相は,既に建設されたフェンスを撤去し,土地を破壊された村人たちに賠償し,国際法が認めたパレスチナ人の人権を損なわないようにフェンスのルートを変更しなければなりません.
しかしまた,最高裁は人々の間の小さな土地の取り合いを解決できませんし,イスラエル政府が安全保障のためにフェンスを建設するという主張を受け入れ,1967年に合意されたグリーン・ライン内に築くべきだという主張を拒みました.イスラエルに壁の建設を諦めさせ,パレスチナ人にテロによって独立を達成することを諦めさせるのは,法廷ではありません.ただ政治指導者たちだけが,そのような歴史的決断を行えるのです.
他方,この判決の時期に対して,Montellは疑念を示します.なぜなら,イスラエル最高裁は数日後に国際法廷が判決を示すことを知っていたからです.その直前に判決を示すことで,国際法廷への関心をそらせ,影響を抑えようとした,というわけです.
シャロム外相は,イスラエルが国内法に従いフェンスの位置を変えることにした,と強調しています.「これによって,われわれの法システムはパレスチナ人を含むすべての住民に対して適切に対応していることが分かっただろう」 と.
しかし,国際社会の関与を拒むことは間違いだ,とMontellは考えます.国際法やパレスチナ人の権利を重視して,フェンスを築くべきだと思うなら,イスラエルは国際的な圧力や監視を免れることはできません.もし現在のルートでフェンスが築かれれば,81のコミュニティーに住む25万人以上のパレスチナ人たちが,有刺鉄線と塹壕,コンクリート・フェンスによって孤立させられ,農民たちは20万エーカーに及ぶ農地から切り離されるのです.パレスチナ人からの嘆願は,法廷によって拒否されてきました.
コンクリートの壁は,今や,エルサレムの市街地をも分断しようとしています.Montellは,イスラエルが1967年に勝手に決めた区画に沿って,20フィートの高さの壁が人々をさえぎり,学校や職場,家族,病院を切り離します.たとえエルサレムが過去3年間にテロに苦しんできたとしても,罪も無い市民に強いられた壁の代償はあまりにも大きく,イスラエル政府は安全保障のための他の手段を見出さねばならない,と考えました.
イスラエルの国内法にそれができないなら,国際法廷が関与するべきです.しかも,壁の建設は単に安全保障のためではなく,明らかに,エルサレムをイスラエルの恒久的な首都にする,という政治的目的によって進められている,と言います.もし政府にできないなら,法廷はそのルートを示すべきだ,と.
NYT July 4, 2004
It's the Economy, Right? Guess Again
By LOUIS UCHITELLE
(コメント) 経済政策について,ブッシュとケリーとの違いを考察する記事です.主要な論点は,@雇用,A民間部門への支援,B社会保障,C労働組合,D通商政策,E財政再建.
ブッシュ政権の経済運営について,特に雇用の回復が進まないことをケリー陣営は強調してきました.しかし雇用が増え始めたことで,その争点を,賃金水準や,政権の4年間を通じた経済運営に転換し始めました.
ブッシュ政権が財政を悪化させて大幅な赤字を出したことに批判を強めてきたはずが,ケリー氏もクリントン政権のような財政均衡主義にとどまれるかどうか,微妙な情勢です.なぜなら,民間部門への支援や社会保障制度,年金・医療問題で,ブッシュ政権との相違を強調する戦略に転じ,制度に含まれていなかった国民を組合や社会保障制度によって包括することを主張しているからです.
民間企業の研究開発などに財政支援を与え,アウトソーシングに頼らない経営を助け,通商政策には労働者の保護や環境の重視を盛り込むように求めています.
さて,これがケリー氏の勝利の方程式になるでしょうか?
WP Saturday, July 3, 2004
A Stop in Moldova
(コメント) ラムズフェルド国防長官が,ヨーロッパの小国,モルドバを訪問しました.なぜこれほど小さな,外交的に意味の無い国に立ち寄ったのか?
ソ連崩壊後に成立した多くのポスト共産主義諸国は,政治が不安定で,経済は崩壊し,復活したロシアの軍事・経済的な関心から,プーチン政権の帝国主義的拡張にさらされています.ロシアはエネルギー供給を支配し,重要な輸出先としてロシア市場へのアクセスを制限し,さらに,分離独立運動やロシアとの併合を主張する各国内の反政府運動を支援します.また,出稼ぎや人の移動,ビザの発行を制限したり,旧ロシア国籍やロシア人のグループに特別な優遇措置を与えたりして,周辺の小国に露骨な干渉を行っています.
特に,メリーランド州ほどの面積のTransdniestriaが,旧ロシア官僚に支配され,分離独立する動きを,ロシア軍が支援しています.ロシアは5年前に,ヨーロッパや北米諸国との話し合いで,モルドバとジョージア(グルジア)から2002年までに軍を撤退すると約束しました.しかし期限を昨年末まで延長し,その約束も破って駐留を続けています.新しい停戦合意では,Transdniestria(それゆえロシア)に外交上の拒否権を与える条件が含まれている,と言われます.
ラムズフェルドは,これに対して,独立国家モルドバへのアメリカおよびNATOの断固とした関与を示したわけです.他方,パウエルの国務省は,ロシアが周辺国家と「連邦化」することも支持する見解を示してきました.
「帝国拡大」と国際安全保障,あるいは連邦化.そのいずれにも欠陥はあります.
FT July 4 2004
Wolfgang Munchau: Turning back the clocks
By Wolfgang Munchau
(コメント) ドイツやEUから,労働時間短縮の要求が後退して,新しいヨーロッパの成長を回復できるか? という問題についての論説です.ドイツの大企業ジーメンスが,週35時間の労働条件を,超過勤務手当て無しに40時間まで延長しよう,というわけです.フランスでも,35時間の協約を廃止する考えをSarkozy経済相が示しました.
これは,「古いヨーロッパ」が経済的に復活する兆しなのでしょうか? OECDによれば,2002年の年間の平均労働時間は,ドイツ1444時間,フランス1545時間に対して,イギリス1707時間,アメリカは1815時間です.もし週40時間に戻せば,ドイツはOECDのほぼ平均になります.
EUの総労働生産性(もしくは労働者の一人当り生産物)は,アメリカのわずか70%ですが,時間当たりに直せば,両者の間に大きな違いはありません.ドイツの労働組合やフランスの社会主義的な政治家たちは,「労働のかたまり説」"lump of labour theory"を確信しています.すなわち,経済が必要とする労働時間は決まっており,それを多くの者にどのようにも分割できる,というわけです.1990年代に,労働時間を35時間に短縮することで雇用が増える,と主張されましたが,実際には,多くの企業が労働生産性を高めたのです.
他方,労働時間を延長しても,消費の不足は解消しません.ドイツの消費は可処分所得と密接に相関しており,過去数年間,伸びていません.しかし,工場の生産物は増えるでしょう.それはユーロ圏内でドイツの輸出を増やすでしょうが,同時に,短期的にインフレを低下させ,日本のようなデフレの心配もあります.この場合,ドイツは日本よりも労働組合が強く,労働者の取り分を要求して,可処分所得の上昇にも繋がるから,成長を高めるはずだ,とMunchauは考えます.
LAT July 4, 2004
By Michael Moore, director of "Fahrenheit 9/11"
(コメント) 愛国心や愛国者について,ブッシュ陣営が語り,彼の映画を非難することに対して,Michael Moore自身が答えています.
彼は子供のときからアメリカ国旗が大好きで,軍のパレードなどについて歩き,忠誠の誓いを暗誦した,と言います.アメリカ独立を記念する自転車を小さな国旗で飾り,賞をもらったこともあるそうです.
しかし,高校生になって,彼の考えは変わりました.9人の少年たちが,ヴェトナムから棺に入って帰ったからです.それらの棺は国旗で覆われていました.しかし,彼らの犠牲はアメリカのためではなかったのです.ヴェトナム戦争は嘘にまみれて続けられ,大統領や上院議員,政府職員たちが,国旗をまとってごまかし続けました.そのときから,彼はフットボールの試合でも国歌を歌わず,国旗を飾ることもやめました.
それだけではありません.今では,国旗が戦争や支配の象徴となり,アメリカ国内の反対派を叩き潰すために使われています.SUV自動車に飾られた国旗,自動車ディーラーやビジネス街,ファースト・フード店の紙袋に飾られた国旗が意味するのは,「お前は敵か味方か?」など,ブッシュの粗野な台詞です.
自由や権利を叩き壊す連中から国旗を奪い返したい,とMooreは願います.アメリカ人であることを誇りに思える,とはどういうことなのか? 彼は問います.ブッシュ大統領がアメリカにしたことを強く支持し,それに従うことで国旗を振る人々は,アメリカの難問に答えてみることだ,と.
アメリカの子供の6人に1人は貧しい.4000万人の成人が文字を十分読めない.最近増えた仕事の多くが低賃金もしくは最低賃金だ.時給5ドル15セントの同胞たちに何と言う? 青年たちの85%は,世界地図でイラクがどこか示せない.11%はアメリカも知らない! 9・11後に世界から広く同情を受けたアメリカが,今では軽蔑され,嫌悪されている.今すぐに実現できる資源も技術もありながら,世界の約30億人が清潔な飲み水を利用できない.自衛のために何の役にも立たない戦争に,大統領は兵士たちを向かわせた.
こんなアメリカを誇りに思うのか? では,恥じ入るだけでよいか? そんなつもりはない,とMooreは宣言します.自分が信じる愛国的な行動を取る,と.大統領が子供たちを戦場に送るなら,自分は彼に質問する.それをしなければ,命をかけて国を守っている彼らを裏切ることになるだろう.絶対に必要な戦争しか,するべきではない.そしてこの戦争では,間違った,不道徳な理由で,彼らが傷つき,不具になり,殺されている.
「いつか,私たちは彼らに償うべきだ.彼らに謝罪し,感謝して,大きなパレードと多くの国旗で彼らを迎えたい.私はそのパレードの先頭に立つだろう.アメリカは二度と,最後の手段としての戦争以外,決して戦うことは無い.人々が星条旗を見て,世界に平和をもたらす象徴だと思ってほしい.世界中に十分な賃金の雇用と,飲み水をもたらす国として尊敬してほしい.
その日を待って,私は今,国旗を掲げない.そして,希望と誇りを持ち続ける.」
もちろん,Michael Mooreにも,私の望む日本映画際に参加してほしいです.
LAT July 4, 2004
Side by Side ... but in Starkly Different Worlds
By Robert I. Rotberg
FT July 5 2004
Poverty retains its grip on African nations
By Robert Guest
(コメント) アフリカの光と影.それはジンバブエとボツワナのことです.国境を接した二つの国が,一方は独裁者,他方は発達した民主主義を実現しています.同じような部族,言語,伝統,植民地文化を持ちながら,なぜこれほど大きな差が生じたのか?
ジンバブエの指導者となったムガベは,富と権力を私物化し,最初は豊かであった国を完全に滅ぼしました.他方,ボツワナのSeretse Khamaは,独立運動を指導し,最初の大統領になりました.そして,他の多くのアフリカ諸国と違って,法の支配と民主主義により部族間の平和を確立したのです.
その国の経済状態や国民の教育水準,資源の有無,海外投資など,さまざまな違いを超えて,政治指導者の質が,長期的に最も重要な影響を与える,と論説は主張します.
Guestは,アフリカの再生に必要な国際支援を考えます.アフリカ統一機構あるいはアフリカ連合(EUに似て,AUと呼びます)は,たとえ地域紛争や内戦,独裁者と飢餓を解決したいと願っても,その構造を支える財源がありません.余りにも貧しいアフリカでは,権力が富への近道であり,また政府の腐敗が富を食い尽くして,悪循環を深めています.
関税を引き下げても,アフリカの貿易や商業は栄えません.内戦や腐敗,貧困,病気が,そもそも経済活動を不可能にしているからです.カメルーンの熱帯雨林を超えて,ビールを運搬する費用を考えてみれば,貿易の機会が彼らにとっては重要でないとわかります.それゆえ,また,支配者たちは法律を無視し,国際的な制裁も恐れません.
AUにできることは,「同胞の圧力」という以外に何も無く,現実は各国の支配者が決めます.冷戦が終わったとき,アフリカにも新しい民主的指導者が現れました.ナイジェリアと南アフリカがその代表です.しかし,ナイジェリアのオバサンジョ大統領は民主化の約束を守りませんでした.また,南アフリカは安定した政府を維持してきましたが,黒人(実は,一握りの政府関係者の親族)に有力企業の株式保有を再分配する政策をめぐって,深刻な危機が生じつつあります.
NYT July 3, 2004
A Declaration of Mutual Dependence
By WALTER ISAACSON
(コメント) アメリカ建国の父たちが,その独立を達成する際に,脅迫と,利益と,理想に訴えた,という指摘は,私にとって非常に興味深いです.ジェファーソンやフランクリンは,アメリカ近海での安全や,アメリカとの将来の取引を失うことを示して,ヨーロッパ諸国を脅かし,イギリスとのバランス・オブ・パワーを変えるには,イギリスと植民地との関係を断つことだ,とフランスの利益を訴えました.それだけでなく,彼らは啓蒙主義の時代に,人間の理性や権利を唱えて,フランスの理想にも,直接,訴えたのです.
これに比べて,今のアメリカ政府はどうでしょうか? 彼らは他者の心を掴まず,人類の理想に訴えもしない.国際法の理念を問われても,「私の弁護士を呼んでくれ」と,ジョークを言ってバカにします.ラムズフェルド国防長官は,アメリカ兵がジュネーブの国際協定に従う必要など無い,と考えます.「支配者は,愛されるより,恐れられる方が良い」と教えたマキャヴェリなら,ブッシュ氏を誉めるかもしれません.しかし,ブッシュ政権はこのような方法で,テロとの戦争には勝てず,同盟諸国の支持も得られない,と.
NYT July 4, 2004
The Chinese Century
By TED C. FISHMAN
(コメント) 「アメリカの世紀」から「中国の世紀」へ,という流れを,アメリカ人はどう考えるのでしょうか? The Times Magazineに載ったこの長い記事は,その枠組みを明快に示します.
話は,イリノイ州の小さな町,ペキンPekin,から始まります.その名は中国の首都にちなんで付けられたそうです.人口3万4000人.20年前の中国と同じように,誰も知らない町です.しかし,地球上で,北京のちょうど反対側にある町だから,その名を付けたというわけです.もちろん,今では,海運,金融市場,情報通信,そして何より欲求の世界化によって,中国と結び付いています.
ペキンの町では,中国が関税率を下げて市場を開放し,エネルギー市場へのエタノールの販売を認め,機械部品の購入も増やしてくれたら,という願望が一杯です.今や日本を抜いて,中国こそアメリカの第一の貿易相手なのです.あるいは,ペキンにも展開したウォル・マートが,中国製品の安さを通じて影響力を拡大しています.中国からアメリカへの輸出の12%がウォル・マートの棚に並ぶ,と言われます.
要するに,中国はあらゆるところで,ペキンの人々に影響を及ぼしているわけです.それは最大の脅威であり,また重要な友人なのです.われわれの仕事を奪い,しかし,広大な市場を提供します.発展途上国の上昇機会を奪い,しかし,日本も含めてアジアや世界の景気回復に貢献します.インフレを加熱させもすれば,デフレも恐怖も輸出します.中国はブームになり,また,破綻を恐れられています.ソフト・ランディングを目指しつつ,貿易,生産,消費支出に中国の影が現れます.中国の真の姿は,矛盾に満ちています.
記事は,中国の経済規模はアメリカの8分の1しかなく,アメリカの製造業部門は中国経済全体よりも大きく,アメリカ人は,平均で,中国人の36倍も多く稼いでいる,と言います.中国の前途は,銀行破たん,貧しい少数部族の氾濫,台湾や北朝鮮による戦争のリスク,アメリカによる関税賦課,など,さまざまな障害が横たわっています.それでも,もしアメリカが世界市場の地位を誰かに追われるとしたら,それは中国しか考えられません.
毛沢東は,まさに今の資本主義革命を準備していたのでしょうか? はるか以前から,毛は中国人民を率いて,世界市場における「大躍進」を唱えてきました.ただし,その1950年代の試みは失敗し,3000万人が餓死したと言われます.シカゴ大学の中国史の教授Prasenjit Duaraも言うように,もしマルクスがそれを見たら,中国は壮大な原始的蓄積を遂行し,資本主義を準備した,と考えるはずです.
中国経済の奇跡の理由はいろいろありますが,何よりも,その豊富な労働供給が挙げられます.しかも,中国が輸出し始める製品の広がりは,急速に産業の階段を駆け登っています.その秘密は,中国の人口と潜在的な市場の魅力です.世界の一流企業が競って中国に工場を建てています.それゆえ,中国市場を足場に超巨大企業が誕生し,中国に育つ超富裕な階層が消費を担います.中国には優秀な学生や知識人,エンジニアが大量に存在します.
アメリカでは,“China Price” と言われます.さまざまな製品の世界価格水準を中国の生産コストが決定し,中国に生産拠点を設けることで,諸外国の企業は生産費を節約し,消費者は貯蓄を増やします.中国は,新しいアメリカになるのです.
なるほど・・・ もし中国が次のアメリカであり,アメリカはヨーロッパになるとしたら,そのとき日本はどうなるのでしょうか? 多分,・・・キューバ? あるいは,コスタ・リカ? ひょっとしたら,マンハッタン島やカリフォルニア半島になれるでしょうか? それとも, ・・・次の香港!?
しかし,異なる未来もあるでしょう.中国の産業は個々の分野や技術に特化して,次第に国際分業を安定的に拡大し,周辺諸国と緊密な市場統合を進めます.こうした相互依存関係が,地域的な通貨秩序や安全保障についても,中国人の考えを変えるでしょう.もちろん,日本人自身も大きく変わらなければなりません.
NYT July 4, 2004
The Years After Tomorrow
By STUART E. EIZENSTAT and DAVID B. SANDALOW
(コメント) 京都議定書の後,6年半の間,世界の温暖化対策は何も進みませんでした.ロシアが批准する意志を表明して,京都議定書の成立する可能性もありますが,その考え方は失敗でした.世界全体の温暖化ガスの半分を排出するアメリカが離脱し,発展途上諸国もカバーされていません.
著者たちは,失敗の教訓を整理します.@排出権の取引市場は温暖化防止にとって重要な合意である.Aたとえ地球全体の問題でも,その影響や評価について異なる180カ国が合意することは不可能だ.B国際規制が無ければ,各国,各企業は独自に動き出す.Cアメリカ国内の合意形成が先だ.D排出権取引市場を含む,EUとの大西洋間協定を結べ.Eアメリカは,中国やインド,南アフリカなどと,二国間の合意を模索せよ.Fそれらを,WTOにおける包括的な国際合意によって結び付けよ.
WP Sunday, July 4, 2004
'Bare Branches' and Danger in Asia
By Valerie M. Hudson and Andrea M. Den Boer
July 7 (Bloomberg)
Powell Discusses Asian Security, Does `YMCA'
William Pesek Jr.
(コメント) 「もし数千万人の青年たちが花嫁を見つけられないとしたら,社会はどうなるのか? これこそ,中国やインドが直面する問題だ.」
アジアでは,男子の子供を尊重する社会が,伝統的な嬰児殺しから近代的な生み分けまで,男女の比率を歪めています.中国の2000年センサスで,4歳までの女子100人に対して,男子は120人もいます.それは,結婚できない,家族をもてない多くの男性(実のならない枝=“bare branches”と呼ばれる)を下層社会に繁らせます.
すでに中国では,花嫁を得るために女性を誘拐し,売買する集団があると言います.資産や技能,教育のある男性だけが結婚でき,それ以外の男性が永久に社会的経済的な下層階級に落ち込むのを,政府は無視できないはずです.2020年までに,中国とインドの青年たちの12〜15%がbare branchesを構成します.
歴史的に見ても,bare branchesの拡大は社会を不安定化し,暴力的犯罪やギャング組織の蔓延を引き起こしています.また政府は,こうした若い犯罪者を取り締まることに,特別なコストを負うでしょう.なぜなら,経済的な負担だけでなく,社会そのものがますます警察に支配され,権威主義的な性格を強めるからです.
少なく見積もっても,2020年には中国で3000万人,インドで2800万人がbare branchesに成ります.さらに,台湾やパキスタンでも,大量のbare branchesが生まれます.政府は,ある時点から,こうした犯罪者を多く含む若者たちを国外に輸出しようとするでしょう.彼らの満たされないエネルギーを海外の冒険的事業に向かわせるのです.その結果として,世界的な秩序を乱す危険が高まるでしょう.国際的な安全保障や抑止の枠組みが動揺し始めます.
しかし,それは所詮,中国とインドの話だろう,と思う者は,彼らが世界人口の40%を占めることを考えておくべきです.
コーリン・パウエル国務長官がジャカルタで行った余興の演劇(演説ではなく)を,Pesek Jr.が紹介しています.ASEANがアメリカやEUを招いて行う社交辞令は,全く無駄ではないか? というわけです.彼らは,経済協力や金融危機の防止,テロとの戦い,AIDS対策など,重要な問題を何も真剣に話し合わず,記念撮影するだけです.彼らの航空運賃やホテルの宿泊費用,さまざまなパーティーで浪費された時間と資源を考えれば,東南アジアの政治や経済の貧しさはこうした愚行を繰り返す余裕など無いはずだ,と.
FT July 5 2004
Braking China
FT July 6 2004
Martin Wolf: Overheating should not worry China
By Martin Wolf
NYT July 7, 2004
Pondering China’s Rates Through a Central Prism
By KEITH BRADSHER
(コメント) 中国経済のブレーキを踏む政府は,その見事な減速によって祝福されるべきでしょうか? 特に固定資産への投資の伸びは,34.7%から18.3%に半減しました.それを実現したのは,政府による新工場建設の規制と,銀行の預金準備を高めたことです.ただし消費者の購買意欲は強く,インフレはまだ注意を要します.電力不足や資源の枯渇,輸送のボトルネックなどは緩和されると予想されます.
アメリカが金利を引き上げ,世界的な金利上昇が始まったことで,中国への資本流入は抑えられるでしょう.政府をなたませてきた人民元の切上げ圧力も,これで漸く緩和されるのです.ブレーキを踏みすぎたことに気づくのが遅すぎた,という心配を別にすれば,今のところ安堵の溜息を吐いても良い,というわけです.
他方,Wolfは,中国の過熱をそもそも心配してはいけない,と言います.ペキンの専門家会議に出席して感じた,彼らに共通した懸念とは,現在の政策が中国の景気を過度に引き締めてしまう(overkill),ということでした.なぜなら,まず,中国の潜在成長率は8〜9%であり,9.1%の成長に大騒ぎすることは無い,というわけです.
ただし,問題は成長のパターンが偏っていることです.固定資本投資が成長率を大幅に越えて増加することは,長期的に持続不可能です.投資が急減すれば,1990年代後半にそうであったように,成長率も急減します.しかし,中国は住宅やインフラで大幅な遅れがあるために,投資の加速は必要であり,また,それがインフレも抑えることになる,と言います.そのためにも,投資のパターンがより重要です.
さらに,基本的に,景気が過熱することは,人民元問題を解決するために必要だ,と言います.USドルとの固定レートを続ける限り,外貨準備が増大し,同時に,通貨供給も増加し続けます.もし,景気の過熱を抑えるために金利を引き上げれば,たとえ資本規制を行っていても,それが完全でないために,資本流入が生じてしまうのです.経済学者が一般に好む,金利の引き上げよりも,銀行融資の抑制を指導するほうが良い,と考えます.
現在の引締め措置は強すぎるか? という問いに,このままでは成長率が7%まで下落し,中国にとって危険である,と指摘します.中国は,まだ多くの固定資本投資や成長を必要としており,為替レートの実質的な増価を進めるべきです.その意味で,景気が過熱することを騒ぐのは間違いだ,とWolfは結論します.むしろ重要な問いは,その投資が効率的に配分されているか? ということであり,それが市場メカニズムによって行われていないことを心配します.
NYTの記事は,むしろ,政府の指導による引締めの弊害や,それによる過度の引締めを懸念し,インフレの影響が分野や労働者によって異なって現れることを指摘しています.中国の金融政策は,独自に,複雑な,相互関係と解釈とを求めるようです.
The Guardian, Monday July 5, 2004
The United Kingdom of London
Larry Elliott
(コメント) これまでも,ロンドンとそれ以外のイギリスは,全く別の世界を見るようだ,と多くの観察者を驚かせてきたと思います.この論説は,いわば,その最新の観察です.その理由は,かつてと同じ,金融サービス部門におけるロンドンの繁栄と,国際収支や為替レートに現れた,製造業の不振,長期的な衰退です.
Elliottは労働党政府やイングランド銀行,ロンドン市政府を批判します.自国の貯蓄は海外資産に分散し,ロンドンの金融部門が低金利と住宅価格の高騰で繁栄するのを放置し,移民労働者の流入に依存しています.ますます過大なロンドンの食欲を満たすため,地方経済は資源を吸い取られ,国土を分断し,製品の輸入増加は国内製造業を打ちのめします.あたかも遺伝子に金融業の秘密を埋め込んでもらったかのように,金融サービスの輸出だけに特化して行く経済は,一旦,それが過大評価されたヘッジ・ファンドの取引のように,消滅してしまうリスクを考えるなら,はかない幸運でしかないと思うべきでしょう.しかも,産業革命と労働者の政治的伝統を引き継ぐ北部の工業地帯から,雇用を奪い取ってしまったブレア政権の労働党によって,この南北分断の傷が深められていることを彼は憤慨します.
なるほど,シティーの金融業に媚びることは,イギリスの「雇用」を増やし,その「所得」を高めたかもしれない.彼らはイギリスをますます銀行家と不労所得者に好ましい都市へと造り替えた.しかし,それが誰の犠牲で「成功」したのかを忘れてはいけない.
NYT July 6, 2004
Bye-Bye, Bush Boom
By PAUL KRUGMAN
(コメント) KRUGMANは数字を挙げて,ブッシュ政権の政策が間違いであったと批判します.@雇用創出について,政府は十分な成果を上げていません.A成長やインフレ,財政赤字についても,異なった政策の組み合わせが好ましい結果をもたらしたはずです.Bブッシュ政権によって痛めつけられた多くの国民や労働者の社会保障を見直すことは重要です.
ST JULY 6, 2004 TUE
Marriage counselling for America and Europe
By Richard Haass
(コメント) アメリカとヨーロッパとの関係を調整するために,何が問題か,間違った認識をどう修正するべきか,何を回避するべきか,問題を今後どう扱うべきか,などを整理しています.同盟国として互いに必要としながら,意見が対立することもあるわけです.それにもかかわらず,世界の人,物,サービス,技術,知識,遺伝子,貨幣,武器,二酸化炭素(温暖化),・・・その他,あらゆる者が国境を越えて流れています.それでも平和的な秩序を維持することが,アメリカにもヨーロッパにも求められています.軍事介入や破綻国家の再建は珍しいことではなく,ヨーロッパは秩序の実効性を保証する信頼には,その裏づけである軍事力がともなうことを知るべきだ,と訴えます.またアメリカは,韓国の駐留軍を引き上げてイラクに向かわせるような,国際秩序の一方的な関与や再編を慎むべきだ,と考えます.
少なくとも,特定の分野で意見が対立しても,それが他の分野に波及しないような仕組みや対応を合意し,また,ヨーロッパの指導者たちは反米感情を放置し,政治的に利用するような言動を明確に否定するべきだ,と.
FT July 7 2004
A safe choice, but Edwards is on the sidelines
By Martin Polsby
(コメント) 大統領選挙で,副大統領が果たす役割は非常に限られているようです.Edwardsは,指名争いの過程から導かれる「無難な選択」でした.これで南部の支持を得やすいと計算したわけでしょうが,二人には経験不足という弱点が明確になりました.共和党はこの点を主張するでしょう.「所詮,法律事務所よりも大きい組織を動かしたことが無い!」 通常よりも早い時期から大統領選挙が関心を集めているのは,民主党に有利です.しかし,Edwardsが今後に重要な役割を果たすことは無い,とPolsbyは考えます.
FT July 7 2004
Kerry's choice
July 7 (Bloomberg)
What Edwards and Kerry Give to Each Other
Andrew Ferguson
(コメント) その選択はケリーの大統領になる熱意を示している,とFerguson は言います.なぜなら,彼が選ばなかった候補を見れば,反ブッシュの優れた煽動家Howard Dean,選挙に欠かせない労働組合員を固めたRichard Gephardt,この二人ではなく,Edwardsが必要であったと分かるのです.すなわち,イラク戦争に上院で賛成投票したEdwardsです.
ケリーは,マイケル・ムーアのような反ブッシュ感情で選挙を戦うことを拒みました.南部を良く知るEdwardsは,北部を抑えるケリーにとって重要です.しかし,それだけならGephardtの方が良かったはずです.むしろ,Edwards指名は,ケリーがマサチューセッツのエリートであると批判されたことへの防御です.Edwardsは上院において,弁舌は秀でても重要でない,ハンサムなだけの新米政治家です.
むしろ,Edwardsが支持を集めたのは,民主党の伝統を掴み,予想外の強い調子で,ポピュリズムを取り入れたことです.ポピュリズムは,上手く扱えなければ,政治的に大きな過ちにもなりかねません.富裕な弁護士でありながら,Edwardsはその弁舌を駆使して,南部でポピュリズムの政治的支持を広げたのです.だからこそ,政治評論家たちの誰の予想をも越える候補となりました.
Edwardsは注意深く,ずるがしこい.彼が流したテレビ・コマーシャルでは,サウス・カロライナのSenecaにある彼の「最初の家」が映される.「銀のスプーン」をくわえたブッシュやケリーと違うのだ,と訴えた.しかし,その持ち主はEdwardsが1年しかこのボロ屋に住まなかったと言う.そして病院のそばの素敵な家に引っ越した,と.なるほど,政治家としてのやり方を心得ている.
BG July 7, 2004
Kerry plus Edwards
BG July 7, 2004
Kerry picked a winner
By Robert Kuttner
(コメント) Edwardsでなら勝てる,とKuttnerは考えます.Edwardsは,選挙戦に興奮をもたらし,裕福でない有権者にも共感を呼びます.Edwardsは,大衆の心をつかめるのです.Edwardsは,保守的な白人の労働者に支持されます.彼は「バイブル・ベルト(聖書によって生きる人々)」の政治家です.ケリーはGephardtと親しかったにもかかわらず,多くの民主党員はGephardtが古い政治を象徴するとして避けました.若く,ダイナミックな副大統領候補を従えることで,ケリーのカリスマ性は高められます.
Edwardsには経験が無いとか,法廷弁護士として高所得を得ている,という共和党からの批判を退けます.これまでにも共和党は若い副大統領候補を立ててきました.また,Edwardsが戦ったのは,企業に苦しめられた庶民のためであり,共和党がそうした大企業から得ている莫大な政治献金に比べて,何と小さく額であるか,と言います.
Edwardsは,マイケル・ムーア監督と比較できます.ムーアはブッシュを徹底的に罵倒し,その嘘を暴きました.共和党に近い有権者も,ムーアによって再考し始めたでしょう.しかし,同じことは,もっと効果的に,陰謀説などに頼らず,尊敬される形で行える,と民主党員たちは考えました.ムーアの行き過ぎを除いたブッシュ批判と,その経済的ポピュリズムこそ,Edwardsがケリーの勝利にもたらすものです.
LAT July 7, 2004
The Obvious Choice
NYT July 7, 2004
Kerry Picks a Running Mate
NYT July 7, 2004
Kerry's Blue-Collar Bet
By NICHOLAS D. KRISTOF
NYT July 7, 2004
Body Politic Will Reject 'Charisma Transplant'
By WILLIAM SAFIRE
WP Wednesday, July 7, 2004
Mr. Kerry's Choice
WP Wednesday, July 7, 2004
Kerry's Political Criteria
By David S. Broder
WP Wednesday, July 7, 2004
The Best Choice
By E. J. Dionne Jr.
BG July 8, 2004
Edwards's glaring weakness
By Jeff Jacoby
LAT July 8, 2004
Let Sleeping Pols Lie
Max Boot
NYT July 8, 2004
Open Season in the South
By JACK BASS
WP Thursday, July 8, 2004
A Rising Star's Passion
By Richard Cohen
(コメント) ・・・残念.その他は時間切れです.
IHT Thursday, July 8, 2004
Regime change in Guatemala, 50 years ago
Beatrice Manz
ラテン・アメリカの人々は,圧倒的に,多くの国で90%以上が,アメリカのイラク侵攻に反対した.この地域がアメリカの介入を経験してきたことを思えば,それも不思議ではない.
50年前,1954年6月27日,CIAはラテン・アメリカでクーデタを組織した.それは「サクセス作戦」と名づけられたグァテマラ政府転覆を命じるものであり,穏健な改革派の大統領Jacobo Arbenzを追放した.
冷戦が激化する中で,民主的に選出されたArbenzも共産主義者の影響下にあると考えられた.あたかもそれを証明するかのように,彼は土地改革に真剣に取り組んだ.それはユナイテッド・フルーツの未使用地を脅かし,同社のアメリカ政府への密接な関係,特にCIA長官のAlan Dullesと国務長官John Foster Dullesの兄弟が動いた.
Arbenzが追放されると,副大統領であったRichard Nixonは,グァテマラをアメリカ型の民主主義と自由がラテン・アメリカに栄えるモデルである,と世界に告げた.しかし実際には,その国は数十年に及ぶ悪夢を経験する.
グァテマラでも,イデオロギーが現実に勝った.次々に入れ替わる政権が,先の政権を上回る暴力を振るい,反共の約束がアメリカ政府からの支持を得る条件であった.軍人と財界人のエリートたちが支配階層を形成し,ますます権威主義的な体制へ向かった.人権は軽視され,あるいは完全に無視された.特に1980年代,その抑圧体制は大規模な殺戮と拷問を用いた.レーガン大統領は,その最悪の血にまみれた軍人指導者である,クーデタの指導者Rios Montt将軍を批判する声を無視した.
1999年に国連の調査委員会が出した結論では,600回以上の虐殺で,特にマヤの農民を中心に,20万人を殺害した.400の村落が破壊され,150万人が離散した.無数の難民がメキシコへ逃れ,アメリカにも及んだ.
1990年代になって冷戦が終わり,アメリカは中央アメリカへの関心を変化させた.国連とヨーロッパ諸国の仲介で平和協定が結ばれ,内戦は公式に終わった.
今ならパウエル・ドクトリンと呼ばれる原則を逆立ちさせて,グァテマラの破壊に資金を惜しまなかったアメリカが,その再建にかかるコストを拒否している.むしろ,アメリカ国内のグァテマラ人たちが,自国の再建のために資金を送っている.2003年には,その額が20億ドルに達した.政府ではなく,アメリカで働く労働者たちのわずかな稼ぎから送られている.
ブッシュ政権は中央アメリカ自由貿易協定(CAFTA)を5月に締結した.しかし,多くのグァテマラ市民や宗教指導者たちは,その交渉から締め出されていた.議会や指導者たちへの手紙は,CAFTAが「中央アメリカにおける貧富の格差を拡大する」と批判している.
メキシコ国境に近い辺鄙な村で,最近,グァテマラの農民が私に言った.「アメリカには,この国を地獄に変えた罪がある.われわれの村を焼き,人々を殺す軍人たちを支持した.今度はどうか? イラクだ.それがどんなものか,われわれは知っている.」
こうして,50年前の介入失敗は,今も,人々の認識を支配する.
WP Wednesday, July 7, 2004
By the Seat of His Pants
By Robert J. Samuelson
(コメント) コンピューター・モデルを駆使する,連銀の220人のエコノミストたち.それでも予測を超える経済の変化に対して,たった一人で判断する議長.彼にほとんど個人的に会うこともなく,従うしかない理事たち・・・ アメリカの金融政策の内幕について,Laurence Meyer, "A Term at the Fed'' を読んでみたいな,と思いました.
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The Economist, June 26th 2004
European Union: The right verdict on the constitution
(コメント) 時間もスペースもオーバーですから,ひとつだけ.ヨーロッパ憲章に対するThe Economistの評価です.
25カ国も集まって,本気で,連邦国家を立ち上げるのか? ・・・これほど異なった諸国がさまざまな問題に,完全に合意できるはずがありません.「最適通貨圏論」からは何とかけ離れた「政治的意志」の領域でしょうか? そこから生まれる答は,政治的交渉(駆け引き・脅迫)と妥協の制度化です.解体することを望まないなら,何らかの手続きや交渉テーブル,妥協のルールが必要だ,と.
「憲法」あるいは憲章は,そのために各国の投票権を再編成し,新しい意思決定スタイルについて25カ国の承認を得るはずでした.しかし,たとえばイギリスの国民投票で否決されたらどうするのか? 実際,最近の欧州議会選挙では,大量の反EU政党が議員を当選させました.要するに,EU憲章の最大の欠陥は,政治的な意思決定をますますEU市民から遠ざけることです.
The Economistは,こんな「憲法」は捨てて,最初から書き直せ,と言います.しかし,これほどの時間と政治的説得を費やした文書を,政治家が白紙に戻すことは無いでしょう.(まるで年金改革法案です.) もしそうであれば,EUの制度や手続きを明確化し,簡素化して,市民がふさわしいレベルで決定に参加できるような「補完原理 “subsidiarity”」を主張することです.
「緊急停止ブレーキ」を入れることで,漸く反対派を説得しました.しかし,ブレーキを踏んで停められるのか? ヨーロッパ裁判所は機能するのか? 分からないことばかりです.
政府間交渉だけで,EU市民が望むような「憲法」を書くことはできません.だから選挙によって,多くの市民たちは政府やEU支持者に,No,と書くのです.