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IPEのタネ 7/12/2004

投票の後に,私は考えました.

20歳代の投票率が数%しかなく,60歳代・70歳代が70%以上も投票するとしたら,「選挙」とは国民の政治的選択を示す行事ではなく,30年前の紅白歌合戦を観ながら,今の生活を少しでも安楽に,と願う,高齢者たちの漠然とした不安や善意の表現でしかないでしょう.もし若者を政治に参加させたいなら,もっと新しいアイデアが必要だ,と金曜のニュースで聞き,土曜の新聞論説でも読みました.私もそう思います.

韓国の若者たちは,大統領や政治家を選挙によって交代させました.若者の投票率は高く,しかも,それを高く維持するためのアイデアも豊富です.たとえば,住民票を移していないソウルの若者たちに,同窓会や結婚相手探しも兼ねて,投票日に帰郷してはどうか? と呼びかけます.同様に,メキシコやフィリピンでは,出稼ぎで海外にいる国民に投票の権利を保証しようとしています.そして,国境を越えて,投票のための特別列車やバス,フェリーを走らせます.たとえ彼らが少数でも,海外で暮らす人々には自国を想う強い心があります.海外で働く彼らは,既存の政治組織や利害関係に縛られず,村落内の有力者による脅迫や買収にも屈しない,と言われます.

マイケル・ムーア監督の映画『華氏911』が大ヒットしている,と聞きます.日本でも,政治をテーマにした映画祭を開催してはどうでしょうか? 世界中の著名な映画監督や才能ある新人の映画監督を日本に招待し,全く無名の人々が作った公募作品のコンペ,あるいはドキュメンタリー部門やアニメ部門,SFや歴史部門なども募集します.そして古典的な作品には,記念賞を贈ります.ただし,すべてを政治映画にしてください.

私たちは映画を通して,さまざまなテーマを楽しみながら考えるでしょう.・・・「政治家の理想」,「その仕事? 冠婚葬祭から調査・政策委員会・国会質疑まで」,「ある政治家の典型的な日常」,「選挙運動:初めから終わりまで」,「落選した議員たち」,「政治資金の集め方」,「大物政治家と新人との違い」,「暗殺された政治家」,「外国の政治家と比べて」,「政治家を嫌う人々」,「若者に人気のある政治家・老人に人気のある政治家」,「あなたはなぜ投票するのですか?」,・・・「腐敗した選挙区」,「選挙をめぐる失敗の話」,「選挙カーに乗って街を走れば」,「政治に解決してほしいこと」,「あなたの声は届いていますか?」,「2050年・日本内戦の始まり」・・・ もちろん,多くは最高の娯楽映画として!

NHK教育番組で「課外授業 ようこそ先輩! 奥田瑛二」を観ました.小学校6年生の子供たちが,自分で考え,工夫して,面白い映画を作ります.テーマを決め,シナリオを考え,ふさわしい台詞やシーンの絵コンテを描き,撮影場所やカメラ位置,俳優たちの演技も指導します.最後に編集し,字幕を書き,ピアノを弾ける子が音楽も付けました.たった二日間で,すごい! 彼らの楽しそうで,満足そうな顔が魅力的です.

しかし,若者が参加するだけで,本当に,政治は望ましい方向に変わるでしょうか? 映画俳優や歌手,スポーツ選手,老人にゴマをすり,外人を罵倒するタレント候補,などが次々に立候補し,外国政府や国際機関を侮辱して,日本政府の弱腰をなじるデマゴーグが喝采を浴びるだけではないでしょうか?

政治的な選択をめぐる豊富な論争が必要です.週末に,春の講義が終わって,久しぶりに見た“International Economy” には,興味深い “A Symposium of Views” が載っていました.2003年の夏号で「ドル安は,今から1〜2年後に,世界景気の回復をもたらすのか?」,また2004年の春号は「日本の景気回復は本物?」と,多くの論客に尋ねています.論客たちの配置と,その多彩な関心から示される具体的な見解に,私は感心します.日本の政策についても,識者の責任ある判断が求められます.

選挙の後,若者と老人の投票率が同じになるように荷重平均した投票結果で,もう一つの当選と落選を示したり,政党や政策の評価を修正したりしてみてはどうですか? もし政策に関心を持たない者が,組織や団体の利益,宗教やスポーツ選手の知名度だけで投票しているとしたら,候補者だけでなく,投票者の関心や知識をチェックしてはどうですか? あるいは,年金資格や保有資産によって,投票が特定の政策に関して歪められているなら,こうした歪みを除いた政策別の投票結果を示してほしいです.

朝のニュースで,民主党が勝ち,多くの新人議員が誕生したことを知りました.一つの選挙が終わった今,政治にもっと新しいアイデアや表現,解説を求めたいです.

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