IPEの果樹園2004

今週のReview

6/21-6/26

IPEのタネ

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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   エネルギーとクズ鉄 :石油が無くなければ,自動車も工場も止まります.他方,鉄が足りなければ,見えざる手に導かれて,世界中からスクラップやクズ鉄が中国に集まります.

2.   新しいリヴァイアサン :グローバリゼーションに単純な答は無い.けれど,リヴァイアサンは巨大化する.

3.   リチャード・コブデン200歳 :ある意味で,グローバリズムの誕生日です.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune


NYT June 10, 2004

Epitaph and Epigone

By MAUREEN DOWD

(コメント) 「それは国民が喪に服して悲しんでいるようでもあり,支配者たちがその創始者の威厳を称えているようでもあった.」とDOWDは書きます.

最後には,国旗が棺をおおい,軍隊式の葬儀が行われた.ブッシュ大統領がそれらを結びつけるように望み,また,国民がそれを見るように望んだから.(ラムズフェルドが世界中のアメリカ軍を再編している最中に,なんと多くの兵士たちが葬儀に使われたことか!)

CNNのKen Dubersteinは,ブッシュの心がレーガンへの想いで一杯だ,と放送した.コール・ポーターの名曲「私の心はお父さんへの想いで一杯」が流れる.W.ブッシュは「大股で歩く,派手な指導者である.彼は(レーガン同様に)大きなヴィジョンを持って,揺らぐことが無い.」(まあ,二人ともミドル・ネームは同じWである.)

ブッシュ=チェイニー再選ウェブ・サイトは,完全に,レーガンへの賛辞に埋め尽くされている.そして選ばれた演説の中には,「理想の帝国」・・・ それはあんまりだ・・・ また,1984年のノルマンディー記念演説.あまりにしばしば聞かされたから,ブッシュの演説なんて色あせてしまった.

ブッシュの強固な支持者たちは,テレビの質問に大いに安堵した.だれも囚人たちへの拷問や,WMDの幻想,イラクで首相になったCIA工作員のことなど聞かなかった.なんと素晴らしい,栄光に満ちた,人気のある,共和党出身の大統領であったことか.彼は世界中で民主主義を煽った.ただし,ブッシュのように中東ではなく,ソビエト圏に対してだったが.ブッシュ愛好者たちは誇大宣伝が大好きだ.ブッシュの息子は本物のレーガンの息子である,と.

真偽はともかく,レーガンは私たちを陽気にした.真偽はともかく,ブッシュにはうんざりだ.


NYT June 10, 2004

D-Day in Iraq

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) FRIEDMANに限らず,イラクのニュースには「正当性」「治安」「反米」「機能しない(傀儡)政府」などの言葉が並びます.この論説は,ノルマンディーのように武力で一掃する機会を逸した,本格的なイラク軍を新設するしかない,と述べるに止まります.しかし,ここに出てくる「言葉」が刺激するイラクの出口を,私たちも想像してみるべきでしょう.

l         イラクの新しい軍隊と警察.失業者に多くの雇用をもたらします.公正な審査と規律,訓練が必要です.

l         軍隊のための制服,学校,食糧なども,イラクで調達すれば良いでしょう.市場に活気が戻ります.

l         バース党,アル・カイダ,犯罪者.彼らが治安や民主的意思決定の敵であれば,イラク人自身が見つけ出して,社会や政治から排除するでしょう.

l         彼らの中でも社会復帰を願う者がいるはずです.銃器を購入して職業訓練や雇用を与える,平和支援活動を日本は行えるでしょう.

l         都市のインフラ整備,石油施設の復興,さまざまな建設事業は,多くの投資と雇用をもたらすでしょう.

l         アメリカがノルマンディー上陸から解放を始めたように,独仏はイラクに上陸して,戦争ではなく,解放に参加できるでしょう.

アメリカのように銃器の氾濫した社会より,日本?のように警察に武力を集中した社会.サウジ・アラビアのように石油の富や政治的意志決定を血族で独占したり,イランのように政治的な権威を聖職者が独占したりするような社会ではなく,ノルウェーのように富や権力を国民が公平に分配し,管理する社会に変わる可能性も,きっとあるはずです.


NYT June 10, 2004

As Oil Prices Rise, a Sense of Alarm in Asia

By WAYNE ARNOLD

NYT June 10, 2004

Asian Scavengers Feed China's Hunger for Steel

By JAMES BROOKE

(コメント) アジアの成長は,資源や安全保障について,統一した長期の見通しを欠いています.いわば,「ただ乗り」の状態です.危機が意識されれば,「共有地の悲劇」を再現するのでしょうか?

もし中東で何か起これば,東南アジア経済の成長に深刻な影響が及ぶでしょう.地理的に見て,最もコストの安い中東からの石油に依存してきた東南アジアの成長は,最近の石油価格高騰によって不安を感じています.タイ政府はガソリンスタンドの営業時間を朝5時から夜10時までに制限しました.

中東からの石油供給がストップする場合に備えるには,他の地域からの輸入を増やす,他のエネルギーに転換する,戦略的な備蓄を増やす,エネルギーの利用効率を改善する,などが考えられます.東南アジアでは,たとえば,インドネシアの豊富な天然ガスを液化して,東南アジア全体をパイプラインのネットワークで結ぶ計画が夢想されます.しかし,その巨額の投資に見合った長期の保証を東南アジア諸政府が一致して行うには,インドネシアの不安定な社会・政治状態が致命的な障害となっています.

日本や韓国,中国などとも協力し,資源開発や安定した供給体制,備蓄や効率改善に向けた投資を,長期的に考える必要があるわけです.

さらに,たとえば,鉄の不足と価格上昇はアジア諸国のくず鉄業者を刺激します.モンゴルの廃棄されたソ連軍事基地を掘り返す人々が求めているものとは,地中に埋まる鉄の配管です.あるいはロシアの村でも,港湾労働者たちが砲弾やシベリア鉄道の余ったレールだと言われるくず鉄を集めています.今や中国は,まさに巨大な磁石として,周辺からくず鉄を吸い寄せているわけです.ゴビ砂漠で,くず鉄を満載した100台ものトラックが,予想外の雨で立ち往生した,というニュースがあります.

「鉄は中国の工業経済が成長するための血液である.橋,船,自動車,すべてが鉄でできている.2007年までに,中国におけるGMとフォルクスワーゲンの自動車生産は倍増する.鉄の需要はますます伸びる.」

しかし,中国の鉄鉱採掘量は増えず,その結果,中国はブラジルやオーストラリアから鉄鉱石を輸入し,さらに,くず鉄も輸入し始めました.市場の力は,見えざる手として,アジアに散在するソビエト時代の軍事施設を一掃しつつあります.それらは人々の手によって粉砕され,くず鉄がより分けられます.ロシアが残した莫大なくず鉄を中国人が買ってくれる,と老人は言います.

その影響は,シドニー,ソウル,大阪,ピッツバーグにも及びます.アメリカから中国へのくず鉄輸出量は,2002年以来3倍になり,2003年に350万トン,10億ドルを超えました.くず鉄の国際価格も約3倍になりました.くず鉄輸出を規制して欲しい,という声もありますが,実際に規制したのはモンゴルだけです.ウランバートルの北の町Darhanはソ連時代からの製鉄の町であり,10万人が雇用されているからです.選挙を前に引き上げられた輸出税で,一時的に輸出が減りましたが,再び増えるだろうと予想されています.一つには,モンゴルの道路事情が悪いために,くず鉄をDarhanに輸送するコストが高すぎるのです.

ロシアの極東部の港で沈みかかっていた船は一掃され,さらに内陸部へとくず鉄が求められています.その熱狂は,次第にくず鉄探しから窃盗に変化しています.モンゴルでは,鉄であれば何でも,たとえば墓地のフェンスまで,いつの間にか消えてしまうのです.


FT June 11 2004

Arab democracy

NYT June 11, 2004

A Call for Arab Democracy

(コメント) 拡大中東地域の民主化を支援する.どうやってか? 民主主義による政府や政策の選択,国境を越えた人や物の移動,交易の自由,女性や子供に十分な教育や医療を施し,彼らの成長の権利を保証する.そして主要国は,留学生の引き受けや教員の育成など,経済的に支援する.それらがブッシュ氏の示したサミットにおける主要諸国の合意です.確かに,その精神は素晴らしいものです.

しかし,現実には素晴らしい主張がしばしば実現しておらず,悪事の弁解や口実になったりしています.アラブの政治的支配者は,王族であったり,軍事的独裁者であったりします.アメリカはそれを支持してきました.アラブ諸国の民衆はイスラエルの入植政策やフェンス建設を激しく非難しており,もし民主的な政府が増えれば,シャロン氏の強硬姿勢を容認するアメリカ政府とより厳しく対立するでしょう.あるいは,アメリカの銀行や企業が享受する自由を,アラブ諸国の零細企業や農民が歓迎するでしょうか?

少なくとも,スエズ危機以来,初めて,アメリカがアラブの進歩的勢力の側に立つ,と(名目であれ,言い訳であれ)宣言したことは,好ましい・・・はずです.


NYT June 10, 2004

An Economic Legend

By PAUL KRUGMAN

(コメント) レーガンの伝説,すなわち「左派のケインズ主義経済学と一緒にインフレを打破し,アメリカ史上最長の好景気をもたらした」という謬見(実際は3番目)に,KRUGMANは憤慨します.

まず,1982年以後,景気が良くなったのは,その前に景気が大きく悪化していたからだ,と.1982年には大恐慌以来の大量失業が生じていた.深刻な不況から景気が回復するのは当然である.アルゼンチンでさえ,昨年の成長率は8%を超えた.それが自慢できるか?

また,景気の拡大はレーガンの原理が正しかったことを証明していない.彼に助言したサプライ・サイダーたちは,不況から脱する一度きりの好景気を唱えたのではなく,持続的な経済成長の加速を約束した.そして,それは失敗であった.確かにインフレ率は下がった.彼が大統領になったとき12%であったが,任期を終えたときは4.5%であった.しかし,その成果のために犠牲となったものは大量の失業者であった.レーガン政権期の平均失業率は7.5%にも達した.

つまり,「左派のケインズ主義経済学」が予想した通りであった.経済学者の多くは,インフレを抑えるには高い失業率と不況を長期間続けるしかない,と予想していた.そのインフレ抑制計画を進めたのはレーガンではなく,ポール・ヴォルカーであった.ヴォルカーこそ,1982年夏に金融緩和して,その数ヶ月後の景気回復を決定したのである.

レーガン経済には何の不思議も無い.しかし,漸く,アメリカは経済的奇跡を味わった.それはクリントンの二期目の政権であった,とKRUGMANは言います.すなわち,急速な成長と低失業率,そしてインフレの沈静化です.(理由も無くクリントンが大嫌いなアメリカ人から大量の抗議メールが届くのは知っているが.)

ところが,保守派のコメンテーターたちはクリントンの好景気を「レーガンのおかげ」と必ず解説する.それを読んで,レーガンの伝説を信じるアメリカ人が多いのは,なんとも嘆かわしい! レーガンの大幅減税は後で戻された.もしレーガンがクリントンの生みの親なら,リンドン・ジョンソンがレーガンを生んだわけだ.

レーガン氏はその本当の業績によって名誉を得るべきであり,レーガンと結びついた間違った経済成果を吹聴して,国を誤らせてはいけない,と.


NYT June 10, 2004

China's Soft Landing

June 15 (Bloomberg)

Is China Moving Close to Higher Interest Rates?

Andy Mukherjee

(コメント) 世界経済を考えるとき,グリーンスパンだけが重要なわけではありません.中国人民銀行の総裁であるZhou Xiaochuan と,その銀行監督部門のトップであるLiu Mingkangとが,加熱した中国経済を抑制する最高責任者です.中国経済の拡大はすさまじく,輸出を伸ばし,労働者の移動や資源の需要,住宅建設などに投資が殺到し,過熱し続けています.二人は融資を抑えることで,7%の成長にソフト・ランディングしたいわけです.その成功は,日本や韓国だけでなく,ブラジルなど,世界中に影響します.

中国の指導部は高金利政策を採用するでしょうか? Credit Suisse First Boston香港支店のDong Taoは,ソフト・ランディングが失敗する,と考えます.なぜなら,中国政府は「窒息療法 “choke-therapy”」を始めたからです.それは工業生産も貨幣供給も減らす対応です.「既存の融資も借り換えが拒まれ,建設業者は土地を売却し,輸入業者は返品している.」

中国共産党は,失業者が増えることを恐れて成長を維持したいと考えます.しかし,融資の割当だけでは,むしろ,地方が統制に従わず,しかもますます効率性を低下させて失業者を増やすでしょう.今すぐに金利を引き上げるべきだ,と.


NYT June 10, 2004

Not Many Jobs Are Sent Abroad, U.S. Report Says

By EDUARDO PORTER

NYT June 10, 2004

Europe Knows It Needs a Lot of Immigrants. But It Also Fears Them.

By FLOYD NORRIS

NYT June 10, 2004

White House Shuns Role on Textile Quotas

By ELIZABETH BECKER

(コメント) アウトソーシングも,移民流入も,失業問題の主要な原因ではありません.しかし,アメリカではアウトソーシングが大統領選挙の焦点となり,ヨーロッパでは移民がヨーロッパ議会選挙の争点となりました.いずれもシステムを支える人間が問題です.

アメリカは景気を回復させ,雇用が増加すれば,アウトソーシング問題を忘れるでしょう.しかし,ヨーロッパは税金が増えて,年金が支払えなくなっても,移民問題を忘れません.高い成長率や雇用をもたらす取り組みとして議論しなければ,問題が悪化しても打開策は消極的です.

他方,繊維製品の輸入には,アメリカもヨーロッパも長く反対してきました.その分野で,自分たちの雇用が失われるからです.そして,多くの雇用は多くの投票です.雇用が増えるのはもっぱら国外です.WTOで大枠は作っても,選挙の前には,新しい保護や補助金が約束されます.さらに,そもそも協定の実施を延期して欲しい.貧しい諸国への割当が失われれば,中国やインドだけが利益を得るだろうから,調整期間が必要だ,と.


FT June 12 2004

This superman must not fly

(コメント) イギリスは,独仏のライン型資本主義復興計画,1970年代の産業政策や国家介入型経済発展という幻想に,断固,反対しなければならない,とFTはEU内の経済諮問委員会設置に反対します.


NYT June 11, 2004

When Trade Leads to Tolerance

By ROBERT B. ZOELLICK

(コメント) レーガンが楽天家であったと繰り返し語られているのに,ブッシュのイラクやアラブ世界については,楽観的な予想や希望のある計画がありませんでした.占領後の困難を予想して,国民に最悪のシナリオを学習させていたのかもしれません.しかし,大統領選挙までの追い込みは最後の局面に入りました.アラブ世界全体の理想を具体化する計画によって,「アメリカの楽観」を打ち出し,局面を変えるときです.

たとえアメリカが政治的な理想主義のすべてを失ったとしても,世界中において,アメリカへの最強の支持基盤が残っています.すなわち,アメリカと貿易する経済的な利益です.自由な取引に庶民に参加させて,アラブ世界の自由貿易圏を築くこと.アメリカがアラブ世界の繁栄を目指す庶民にとって理想の取引相手になることです.ZOELLICKが,今や,CIAやイラク占領軍以上に,重要な役割を担うでしょう.

私は,基本的に,こうした主張を支持します.モロッコ,ヨルダン,バーレーンなど,開明的な指導者たちは,経済的な繁栄によって民衆の心を掴みつつある,と言います.宗教的な支配や悲観,憎悪ではなく,自分たちが豊かになる可能性を掴むために,機会さえあれば,人々は社会を変えました.アメリカは彼らに正しい社会を押し付けることなどできません.しかし,アメリカとの自由貿易協定が彼らの機会を拡大し,豊かになる可能性を約束します.

ZOELLICKは,こうした貿易の増大を労働組合への圧力と捉える反対意見に応えています.アメリカは,他国に先駆けて,自由貿易協定に労働者の権利擁護や環境保護を含めた,と.そして,自由貿易は世界の貧困解消にもっとも有効な手段である,とも主張します.だから,中東自由貿易圏構想を前進させることは正しい,と.

経済的な孤立主義者たちは,アメリカと共有するさまざまな利益を見失っています.自由貿易が,民主主義や寛容を尊ぶ社会への変化を促すのです.


FT June 13 2004

Wolfgang Munchau: Co-operation is the best policy

By Wolfgang Munchau

(コメント) ヨーロッパの各国政府指導者が口々に互いを非難し,不況を省みないECBを非難する態度について,Munchauは批判します.

ドイツのSchroder首相はフランスのSarkozy蔵相を批判し,SarkozyはECBを批判し,イタリアのBerlusconi首相はECBの上に政治委員会を作るべきだ,と主張しました.どれも身勝手な政治的ジェスチャーです.彼らは自国内に改革すべき課題を抱えています.他国を非難することも間違いではありませんが,まず自国の改革に取り組むことです.たとえECBを非難しても,ECBは憲法によって守られた独立性と,物価の安定を目的とした正当な政策運営に努めています.いずれの政治家も憲法まで変える気など無いのです.

ユーロ・ECB誕生後のヨーロッパが示した問題とは,金融政策に限らず,各国政府が協力しなければ効果的なマクロ政策が実現できないにもかかわらず,各国は自由にユーロ圏の障害となるような矛盾した要求を繰り返したことです.他方,政治家たちの気が進まないミクロの改革に政府は手をつけないまま,ユーロ圏全体の成長条件を改善できないままです.ECBではなく,ヨーロッパ政府を実現できない各国の政治エリートたちが,最大の障害なのです.

年金制度改革に力を尽くしたイタリア政府は,過大な賃金要求を受け入れる交渉形態を変えることができず,ユーロ圏のインフレを押し上げています.また,地方選挙で敗北したドイツ政府は,失業者を減らす労働市場の改革に取り組めず,ユーロ圏の成長率を抑えています.ECBが動けないとしたら,それは政治家たち自身にも責任があるわけです.


June 13 (Bloomberg)

Give Some Credit to BOJ for Economic Turnaround

David DeRosa

FT June 14 2004

Seeking the exit

(コメント) 日本の景気が目覚しい回復を示したのは,日本銀行が何をしたからなのか? とDeRosaは日銀の武藤理事の講演に注目します.彼が日本の景気回復の理由として指摘したのは,@国際的な需要の回復,A消費者の購入するようなデジタル家電について日本企業が成功した,B日本企業の構造調整,すなわち,債務処理が進んだ.の三つでした.日銀は? 何もしなかったのか?

2001年に金融政策を厳しく批判されて,日銀はいわゆる「量的緩和」を始めます.それまで物価だけに目標を絞ってきた政策を転換し,貨幣供給が増加するように目標を掲げるのです.しかし,日銀は景気回復がその成果であった,とは主張しません.デフレがほぼ解消されたことで「量的緩和」を導入した条件が失われました.この異常な政策を終わらせるときです.他方,日銀を批判してきた者の解釈では,実質的な引き締め政策を明確に転換したから,景気も回復したのだ,ということであり,一層の「量的緩和」が求められます.意見の対立はまだ続くようです.

もし完全にデフレから脱却できたと確認できたとき,日銀はどのように政策転換すべきでしょうか? インフレを確認して,たとえば2%のインフレ目標を宣言し,ただちにそれを追求する? あるいは,新しいインフレ水準に達するまで金利を上げない,と宣言する.後者の場合,政策の効果が遅れるために,インフレ率が目標を上回る危険があります.しかし,デフレを完全に制圧する方が,インフレ目標よりも重要だ,ということがアメリカ連銀の示す教訓です.日本経済には根強いデフレ期待と,経済分野の諸過程に蓄積された弛緩がある以上,インフレ加速を心配するのは早すぎる,と.


BG June 13, 2004

Nine traits that predict great presidents

By Steve Rubenzer

(コメント) ミネソタ大学では,43人の大統領に関する120人の研究者による特徴付けとその評価を基に,人物の性格と業績とを関連させています.その性格とは,@知性,A決定力,B前向きの姿勢,C行動力,D成果重視,E婉曲さ,F思いやり,G実務能力,H精神的強さ,です.

企業の重役になる性格と比較すれば,それらの多くは重なりますが,E婉曲さ,F思いやり,は不適当でしょう.大統領が企業の重役と違うのは,その有権者が多様で,行動する範囲がはるかに大きいことが理由であろう,と述べています.


NYT June 6, 2004

The Maestro Slips Out of Tune

By PAUL KRUGMAN

FT June 16 2004

Greenspan's legacy

(コメント) ニュー・エコノミーを演出し,日本型のデフレは回避した,というグリーンスパンの伝説について,KRUGMANは批判します.一つはバブル,もう一つは財政赤字,です.グリーンスパンは根拠の薄弱な「ニュー・エコノミー論」に賛同し,バブルを放置しました.たとえ日本型デフレを回避できたとしても,それはギリギリの回避であって,操縦ミスには変わりないのです.また,ブッシュ氏の大型減税を支持し,財政赤字が拡大することにも反対しませんでした.連邦最高裁と同じく,政治から独立しているべき連邦準備制度を,グリーンスパンはブッシュを支援するための政治的道具にしました.

公平に見て,私は,批判意見が正しく,グリーンスパンが間違っていた,と思う.バブル破綻後に日本型デフレを回避したけれど,それはニア・ミスであった.金利を1%にまで下げ,経済が回復する前に,連銀の弾薬庫は尽きかけていた.たとえ景気が持ち直したとしても,この3年間で数百万人のアメリカ労働者は貯蓄を失い,長期の失業によって尊厳を傷つけられ,金融的な苦境を味わってきた.もしバブルが膨れ上がる前に,グリーンスパンがそれを挫いていたら,それは避けられたはずだ.

事態の推移を見れば,こうなっている.「アメリカの労働者たちに増税して,社会保障制度の黒字を作らせた.それから彼は財政の黒字を理由に,それが社会保障制度にもっぱら由来しているのに,減税を支持した.その減税の大部分は,ほとんどの人には関係なく,年収30万ドル以上の人々に利益をもたらした.そして今や,減税策は財政赤字を膨張させているが,社会保障の給付を減らす一方で,減税策は維持したがっている.グリーンスパンは,『増税しよう.労働者たちへの給付は減らそう.そうすれば大金持ちたちにふんだんに減税してやれるぞ!』 などと言わなかった.しかし,それが彼の助言の結果なのだ.

FTは,グリーンスパンの伝説を,三つの点で考察します.インフレ抑制,バブル処理,対外赤字,です.グリーンスパンは,バブルを判定することは困難であり,物価が安定している限りバブルを放置し,破綻したら,積極的な金融緩和を行い,その影響(デフレ)を事後的に最小限に食い止めるべきだ,という哲学を称揚しました.

今や,労働市場はまだ弛緩しているのに,金融緩和で膨張した住宅価格などがインフレの再燃を予告しており,対外赤字も持続不可能な水準に達しています.現状を見れば,グリーンスパンのバブル哲学が承認された,とは言えない訳です.


FT June 14 2004

Emerging economies need help

By Rubens Ricupero

(コメント) 十分な関心を払われないまま,世界経済の回復は,新興経済を構造的に取り込んで進んでいます.豊かな諸国は市場を開放し,企業はもっと投資し,技術を移転して,貧しい国には援助もして欲しい.貿易や金融の世界化と,貧困解消や開発戦略とを,有機的に結合して考えて欲しい.UNCTADに集まった発展途上諸国の代表たちは,そう願っています.


NYT June 14, 2004

Military Bases in Germany

ST JUNE 15, 2004 TUE

Do numbers matter?

(コメント) アメリカが,ドイツ(7万人を半減)や韓国(3万7000から1万2500へ)に駐留している軍隊を引き上げることは,世界にとって好ましいことでしょうか? NYTは,ドイツに関して否定的です.STは,韓国に関してノー・コメント?

安全保障に関して,アメリカは紛争地域への駐留という関与の形を終わらせるつもりです.もっと安定した地域の重要拠点だけを充実させて,迅速に,軍事展開できる方法を模索します.あるいは,アメリカ以外の諸国は,こうしたアメリカとの関係を再考するためにも,地域的な安全保障同盟の模索を進めています.


NYT June 14, 2004

Loving Ray Charles

By BOB HERBERT

BG June 15, 2004

Soul's everyman

By Julian Bond

(コメント) アメリカの,偉大な,盲目のソウル歌手,レイ・チャールズを聴きたくなりました.


FT June 15 2004

Martin Wolf: It's the economy, stupid

By Martin Wolf

The Guardian, Wednesday June 16, 2004

Face it - Europe isn't working

Larry Elliott

(コメント) EUの政治家たちは,たとえ不人気な政策や改革でも,成長を高めるものを実行しなければならない,とWolfは強調します.たとえば,EUは財政赤字を削減する目標を掲げました.しかし,その基準は短期に偏り,積極的な財政刺激策を制約して,結局,低成長による赤字を拡大しています.政治家たちが選挙で支持されなかったのは当然です.

各国の政治家は,それぞれが,独自の政治目標を掲げています.しかし,それらを実現するためには,何よりも十分に成長しなければなりません.さまざまな改革を実行すれば,アメリカと同じような水準まで潜在成長力を高めることができ,雇用や所得を増やすまで財政的な刺激も行えるはずです.ECBの保守的な金融政策を非難するのは間違いであり,その場限りで人気取りの政治的約束を積み上げるのは,全体として,EUの破滅を意味します.

Elliottは,イギリスのユーロ支持派が,今でもその主張を行えるか? と問います.左派には深刻なEU懐疑論が広がっています.EUの規制は彼らの要求を満たしているか? 成長率において明らかに劣っているユーロ圏に参加する理由があるのか?

今も支持するのは,援助団体,環境保護団体,反グローバリゼーション運動,そしてケインズ左派ぐらいでしょう.彼らは,別の理由がある,と言います.すなわち,@アメリカに対抗する,Aアングロ・サクソン型の資本主義を採らない,B道路も鉄道も公共空間も,イギリスはヨーロッパと一体である,C大陸規模の平和を実現する,と.

しかし,最後の理由を除けば,ヨーロッパが成長していることを前提しています.また,最後の理由も,冷戦構造があったからでしょう.つまり,ヨーロッパ規模の成長を回復できなければ,EUもユーロも政治的求心力を失うのです.そして,停滞の理由について,左派のように,人的資本も物的資本もありながらヨーロッパが成長できないのは,権力を分散させて,効果的に機能する形を採れないからだ,と言うか,サッチャーのように,ヨーロッパはそもそも成長できない,と言うか,どちらかです.未来はこの二つに一つからしか生まれない,と.


NYT June 15, 2004

Bitter at the Top

By DAVID BROOKS

どのような社会にも二つの貴族がいると言われる.精神貴族はアイデアをもたらし,知識を操作する.他方,貨幣貴族は生産物をもたらし,経営組織を牛耳る.アメリカにおいても,これら二つの貴族集団が,SUV(レジャー用大型車)から大統領選挙まで,あらゆることについて厳しく対立する.この教育を受けた階級における市民戦争を理解できなければ,現在の深刻な政治的両極化も理解できない.

この30年で,有権者に占める大学卒業者の割合は倍増した.そして高等教育階級が増えるに連れて,その分裂も起きた.教師,法律家,建築家,研究者,ジャーナリスト,セラピストなど,経済は裕福な知識労働者を巨大な階級にしたが,彼らは同様に教育あるビジネス志向の人々とかなり異なった投票行動を取る.

政治学者たちは,今や,プロフェッショナルズ(専門家)とマネージャー(経営者)とを区別した方が良い,と考えるようになった.専門家たちは,その多くが知識労働者であるが,民主党に投票する.他方,経営者たちは,企業,ブローカー,不動産,銀行のために働き,共和党に投票する.数の上で,ブッシュ支持が教育ある有権者の多数を占めてきた.

今年の選挙では,教育ある専門家のために,民主党が理想的な候補者を立てた.ジョン・ケリーはロー・スクールを卒業し,クラシック・ギターを弾く.他方,ブッシュ大統領は,ビジネス・スクールを出て,彼の牧場でピック・アップ・トラックを運転していた.今度の選挙は,二つのエリート間で起きた,理想的な内戦だ.

教育ある階級内部の対立は,政治的な論争を形成する経済学の役割を弱めた.所得水準と共和党支持との関係は曖昧だ.むしろ,二つのエリート集団は,文化や価値,特に重要な,指導力の性質について,しばしば対立する.どのような人物にこの国の運営を委ねるべきか? 指導者にとって重要な資質とは何か?

専門家たち,もしくは知識階級は,彼らが大学スキルと呼ぶような,多くの情報を読んで,消化し,自分なりの解決策に向けて前進する力を重視する.民主党政権は,自己規律より自己表現を重視した.他方,経営者たちは,単純で,ストレートな話し方の指導者を好む.彼らは,アイデアだけでなく,人々を上手く使いこなす指導者を賞賛する.そして,過度に知性的な,自己満足の過剰表現を嫌う.共和党政権は,企業のように,強固な組織化と冷静さを求め,忠誠心や儀式を重視する.

人々は自分と異なる集団が権力を握るのを嫌う.知識階級は共和党の指導者を,頭が単純で文化的に低能だ,と考える.ビジネス階級は民主党の指導者を,道徳的に退廃したエリートだ,と考える.言い換えれば,この政策や文化について分裂した人々が,大統領の資質や,正しい知識への道,大統領となるべき人物,についても意見を対立させる.

その対立が政治のすべてではないが,彼らの文化的,金融的な力が強まっていることから,どちらのエリートがこの国の選択を行うかで,他の人々にも大きな影響を与える.もし教育ある階級の市民戦争が無ければ,この国の両極化も抑えられただろう.


WP Tuesday, June 15, 2004

Settlements That Settle Nothing

By Richard Cohen

(コメント) 過激な国家主義者や信仰集団が入植地を拡大し,彼らを守ることを理由にして軍隊による支配領域を拡大する過程は,おそらく,今のイスラエルやかつての大日本帝国だけでなく,すべての軍事・安全保障優先の政治集団に見られた現象です.ほとんどがもっと穏健な解決を望んでいたはずの,多くの国民が,こうした軍事的な冒険主義や宗教的な狂信のために犠牲となり,途方も無い税金と命を失うのです.

イスラエルを愛し,兵士としても戦ったシオニストである,ジャーナリストのJeffrey Goldbergは,このことを指摘し,またハーヴァードで学んだパレスチナ系アメリカ人のMichael Taraziも明確に述べています.イスラエルは,その境界を越えて支配を拡大すればするほど,自ら,アパルトヘイト国家となって自壊する,と.


FT June 17 2004

America needs a new approach to N Korea

By Ian Bremmer

(コメント) アメリカの現在の対北朝鮮政策は機能していない,とBremmerは批判します.その政策とは,CVID,すなわち「完全に検証可能な,後戻りできない非核化」政策です.ところが,2年経っても北朝鮮は譲歩せず,着実に,核を蓄積し続けています.多国間協議による圧力が,CVIDを促すはずでした.しかし,中国も韓国も,勝手に,北朝鮮と合意を模索しています.その内容は,完全でもないし,検証可能でもない,非核化なのです.アメリカとの磐石の協力関係を期待できる日本でさえ,国内に拉致問題解決への強い圧力があって,アメリカの政策では効果が無いことに苛立っています.

しかし,アメリカは二国間交渉を避けるだけでなく,条件を明示して,それが受け入れられないときは中国と韓国が援助を打ち切ればよい,という批判は間違いです.まず,北朝鮮の政治体制を支えるのは情報の管理です.検証作業が完全に行われれば,金正日は権力を失う,と知っています.また,中国や韓国は,北朝鮮の政権が崩壊して戦乱や不安定化のコストが生じることをなんとしても回避したいと考えます.アメリカの交渉に合わせて援助を止める,とは考えられません.

それゆえ,Bremmerは,過渡的な政策を提案します.アメリカは周辺諸国による随時の臨検体制を条件に,北朝鮮の体制転換や予告無しの軍事攻撃を行う,とした過去の政策を撤回します.そして食糧や医薬品,エネルギーを含む,包括的な援助を提供し,その代わりに,アメリカの意図を十分に理解した中国と韓国による核の凍結を実行させるのです.こうして,時間の経過により,新しい条件が現れる中で,完全な非核化を可能にするのを待つ,というものです.


FT June 17 2004

Philip Stephens: There are no easy answers

By Philip Stephens

(コメント) Stephensは,ヨーロッパでは際限なく会議が続くのだ,とアメリカ人の政治家が侮辱するのを聞いて,二つの反論をしています.

まず,すでにEUはかつてのような「際限なく会議を続ける」組織ではない,ということです.EUの規制や政策は現実に力を持っており,既に国家を超える超国家として,新しいリヴァイアサンなのです.しかし,それは皮肉な過程であった,と言います.なぜなら,際限なく国民国家の自律を叫ぶ各国の政治家が,現実の相互依存によって生じる移民・難民問題や環境保護,犯罪やテロの取り締まりに,協力して対応するしかないのです.その結果,彼らは答を出せずに,権限をEUの執行機関に委譲してきました.

もう一つは,現代の複雑な諸問題に対して,迅速に,しかも政治的なコストを支払わずに,正しい解決を見つけたい,という政治家やマス・メディアの浅ましさです.多くの場合,単純な答,即効的な解決策など,存在しないのです.たとえ小さな破綻国家でも,容易に民主的な国家に再建できる,というのは間違いでした.国際的な犯罪集団を,国境警備や警察を強化することで,一掃することもできなかったのです.飢餓に苦しむ人々が居るなら,援助してやればよい,と裕福な国の政府が考えても,彼らはスーダンの飢餓を解決できないでしょう.

グローバリゼーションの利益を享受するのは簡単です.世界中のどこからでも,消費者は欲しいものを安価に手に入れるからです.世界市場に直結して画面をクリックすれば良い.この消費者市民は,同様に,簡単で,即座に実行できる,痛みの無い答を求めます.テロリストは掃討し,難民は母国に送り返し,北朝鮮は非核化する.もちろんだ!

この忍耐を知らない,痛みを嫌う政治が蔓延することで,政治家たちは,その場限りの人気取りに奔走する.そして,この複雑で不愉快な世界的相互依存の現実と,人々に人気ある解決策との乖離が,アメリカほど離れてしまった国はどこにもない.中東の民主化やイラクへの主権移譲の計画は,所詮,ブッシュ氏の再選日程によって決められる.アメリカの有権者は,決して,痛みやコストを要求されない.税金を上げずに,ガソリンの価格が上がる.そして,コストを支払わそうとしているのはケリーだ,と非難する.

速やかに決断するのと,忍耐強く解決を模索するのとは,まったく別のことだ.アメリカの政治家には分かっていない,と.

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The Economist, June 5th 2004

Richard Cobden: An anti-poverty hero

(コメント) The Economistが敬愛する,その創設者リチャード・コブデンは,200年前の6月3日に,サセックスで,貧しい農民の息子として生まれました.キャラコ綿布の捺染・交易で財を成しましたが,彼が自由貿易を主張した理由はビジネスの利益ではありません.1839年から46年にかけて,自由貿易を議会に働きかけた反穀物法同盟は,輸入穀物の禁止が労働者を貧しくしており,飢饉の頻発や労働コストの上昇をもたらしている,と考えたからです.そして1845年に始まったアイルランド飢饉が,遂に穀物法を破棄させたのです.運動を支えたコブデンは,結局,破産しました.

それから200年経っても,農業には多くの保護がはびこっています.技術進歩や規模の経済によって得られた利益の多くが,低価格ではなく,保護された一部の富裕者に奪われているのです.OECDの推計では,2002年にEUの農民が補助金や高価格で得た利益は,1070億ユーロです.それは加盟14カ国の各家計が平均686ユーロ(646ドル)を課税されたことを意味します.アメリカの補助金は400億ドル,家計当り366ドル.そして富裕諸国の中の農業保護チャンピオン,日本が与えた補助金は5兆5000億円(440億ドル),家計当り1000ドルに近いのです.

日本もEUも,内需が低迷して経済活動は停滞しています.しかし,景気を刺激する財源がありません.アメリカの需要は力強いですが,その財政赤字は過大です.それゆえ,食糧を輸出する貧しい諸国を支援するとともに,実際的で,自分たちの利益にも従う,コブデンの解決策を再発見するべきだ,とThe Economistは考えます.すなわち,食糧税を廃止せよ!


Argentina and its debt: It takes two to tango

The long road back: A survey of Argentina

(コメント) おびただしい非難を浴びながら,アルゼンチン経済が急速に回復したことは人々を当惑させます.特に,利子の支払や債務返済を停止したままの債券を保有する海外の債権者や,巨額の損失と預金者による訴訟で将来への見通しが立たない銀行は,政府にもIMFにも失望しているでしょう.史上最大の債務不履行は,2001年末に810億ドルでした.

金利の上昇が予想され,周辺諸国への輸出が減速すれば,石油価格や電力不安から,アルゼンチン経済は再び悪化するでしょう.長期的,構造的な改善をもたらすには,新しい貿易や投資が必要であり,銀行システムが融資を再開し,国際金融市場と政府との関係も再建しなければなりません.

アルゼンチンの特集記事は,2001年末の危機をこの国の歴史や政治システム,特に軍の介入,そしてメネム政権期の経済改革にさかのぼって理解します.しかし,もちろん,直前の政策ミスも重なったでしょう.「交換制 Convertibility (USドルとの等価交換制度)」に固執したことも,そのために預金封鎖したことも,政治家たちが地方的な利害を手放さなかったことも,預金者や民営化された企業,有権者に見せかけの補償を与えたことも,問題を危機に転化しました.債権者と話し合って問題を解決するより,破綻する方が好まれたのです.

昨年の成長率11%が示す経済とは,夜になれば表通りまで失業者や浮浪者が溢れる惨状です.2000年から2002年まで,3年間の激しい不況で,社会構造は破壊されました.1998年に比べて,2002年の一人当り所得は22%も低下した,と言います.国民の半分以上が,政府の認める貧困線以下で生活しています.

確かに,メネムとカヴァロの自由市場改革は,ハイパー・インフレーションを終わらせ,為替レートをドルで固定し,民営化を進めて外国投資家を歓迎しました.アルゼンチンは,当時,新興市場の改革モデルとなったのです.しかし,財政的な規律は不十分で,金融的なバブルも防げませんでした.年金制度の改革で,短期的に個人負担が増えたこともマイナスでした.ロシアのデフォルトが起きた時点で,「交換制」の命脈は尽きていたのです.新興市場から資本が一斉に流出し,ブラジルの切り下げも重なって,アルゼンチンを深刻な不況に陥れました.「交換制」を残して,デフレで調整するという選択は,政治的に耐えられない痛みを伴うものでした.

アルゼンチンの歴史を見れば,こうした大幅な振幅を繰り返してきました.1913年,この国の一人当り所得はフランスやドイツに並び,イタリアやスペインよりも高かったのです.パンパがもたらす豊富な輸出,主に鉄道に流れ込んだ海外からの投資,そしてスペインとイタリアからの移民流入が,アルゼンチンの豊かさを形成しました.しかしその後,ヨーロッパ諸国が次々に抜いて行きました.何が間違っていたのか? いつから後退したのか?

この開発の挫折ケースを,記事は5つの点から分析します.@1913年にパンパが開発し尽くされ,工業化や産業の多様化に失敗したこと,が重視されます.Aリベラル派は,ペロン大統領(1946-55年)による準ファシスト的な自給型国家管理経済を批判します.B左派は,1976年3月24日,南アメリカでもっとも凶暴な軍事独裁が成立した日を強調します.現政権は,同じ調子で,前任者のメネムを批判します.

この三つの主張はいずれも正しい,と記事は考えます.さらに,C第二次世界大戦後,それまでアルゼンチン経済を動かしてきたイギリスが退散したけれど,アメリカはそれほどアルゼンチンに関心を持たなかったこと,D1930年に軍事クーデタが成功して以降,政治が不安定で,法の支配が失われたこと,を重視します.ハイパー・インフレーションと切下げを繰り返して,政府は民間の富を繰り返し奪ってきました.

2001年危機の遺産として,記事は二つの変化に注目します.一つは,政治家たちが国民からの支持を競い合うこと,もう一つは,街頭に出てフライパンを叩き,金槌で銀行を打ち壊す,民衆デモが社会を変えたことです.軍事政権への後退や,政治家による地域支配などは,国民の支持を失いました.法の支配,腐敗・汚職の追放,開かれた政府,人権重視,などを訴えることで支持を得るのです.政府が何度も民衆の抗議で倒れたのは,IMFとの交渉が行き詰まったからではなく,その腐敗と債務を国民に押し付けようとしている,と見なされたからです.

しかし,アルゼンチンが完全に変わるには,地方まで含めて政治システムがペロニズムと決別し,海外まで含めた債権者との交渉をまとめることが必要です.人口希薄な土地を専制支配したカウディーリョ・システムが国家の政治まで支配してきました.2001年末に,ペロニズムが破綻したのか,それとも新しいペロニズムに移行しただけなのか,キルチンネル大統領の選択に関心が集まります.債務交渉でも,政府は多面的な合意を模索します.債権者とは,IMFや国際銀行のほかに,海外(アメリカや日本など)の機関投資家,個人投資家,ハゲタカ・ファンド,そして国内の債権者,すなわち銀行(しかし,ほとんど外資系),機関投資家,ドル預金の保有者,などを含みます.合意次第では,最終的に,国民への税負担が増加します.

IMFが,債権者を組織して,政府との合意を準備しなければなりません.しかし,IMFの役割をめぐって,主要な資金提供国が政治的に対立・迷走してきたのです.債務の利払いはその後も繰り延べされて累積しています.また,ドゥアルデ前大統領は債務のペソ化を強行し,銀行や預金者に補償しました.こうした債務について,キルチンネル大統領は額面の25%だけ支払う,と言います.また,財政からの返済額に上限を設ける,とも主張します.最低でも75%を要求する債権者,返済負担の下限を示すIMFと,合意は成立しません.また,裁判所の支払命令で,国内の銀行システムは再建されず,さらなる訴訟が続いています.

もし秩序が回復され,法の支配と民主主義が確立されれば,アルゼンチンの農民たちは価格に反応してきたし,若者たちへの教育も再会されるだろう.世界市場から離脱したり,愛国心を煽ったりしてIMFとの交渉を遅らせるのは,政治指導者の仕事では無い,と.


Copenhagen Consensus: Putting the world to rights

(コメント) 世界の希少な公共財源を,多くの政治的目標に対して,どのように配分するべきか? コスト・ベネフィット分析を試みたコペンハーゲン会議の結果だけ示します.一般に,疾病対策や衛生状態の改善が優位にあり,移民問題は中位,環境対策は下位に評価されています.つまり,豊かな諸国の政府は間違っている?

¨         非常に望ましい目標:HIV/AIDS対策,栄養不良の子供に栄養剤を配布,貿易の保護・補助金を撤廃,マラリアの撲滅

¨         望ましい目標:新しい農業技術の開発と普及,生活のための給水システム,コミュニティーの給水・衛生管理,食糧生産の水利用効率,ニュー・ビジネスの立ち上げコスト引き下げ

¨         それほどでもない目標:熟練労働者の移民促進,幼児・児童の栄養状態改善,未熟児出産の改善,基礎的医療の拡大

¨         やめるべき目標:未熟練労働者の一時雇用制度,「最適」炭素税,京都議定書,VAR炭素税


The IMF: The new man at the Fund

(コメント) 新しいIMF専務理事が直面する問題とは,@財源不足.A少数の債務国に対する融資先の偏り.Bその融資の長期的な返済の見込みが乏しいこと,です.何よりも,Rato専務理事は,初めての政治家出身者として,IMFが一部の債務国や裕福な国のための機関ではない,ということを示すべきです.