IPEの果樹園2004

今週のReview

5/31-6/5

IPEのタネ

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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   グローバリゼーションと不可触民:インドは政権が変わってもグローバリゼーションによって成長を続ける.それに値する力を社会の貧しい者たちに与えることで.

2.   エルサレムの壁:新しいゲットー,もしくはレインボー作戦.隔離によって平和を得るのか,それとも,さらに多くの住居を破壊するのか?

3.   ニコラス・バーグと夢の死:悪魔の饗宴.もしくは,悪魔たちの競演!

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times


WP Wednesday, May 19, 2004

Crutch of Cheap Credit

By Robert J. Samuelson

現実には起きなかった重大事件.それは,アメリカの景気が崩壊し,世界を巻き込んで恐慌を引き起こすことだった.株価暴落,ハイテク・バブル破綻,9・11,企業スキャンダル,イラク戦争,といった多くの悪いニュースにも関わらず,それは回避された.その理由はいつくもあるが,アメリカの消費者が強気を維持し,ブッシュ政権が減税を行ったことも含まれる.しかし,何より重要なことは,連銀の金融緩和である.アラン・グリーンスパンはそれが終わると告げている.では,何が起きるだろうか? 低利融資で膨れ上がった部分が,住宅価格でも株式でも消えてしまうだろう.景気回復が,もはや,低利融資を必要としていないことを願う.

その支柱ははっきり存在した.2001年1月3日から2003年6月25日までに,連銀は短期金利(FFレート)を6.5%から1%に下げた.それは40年ぶりの低い金利だ.それは効果的だった.景気後退において,自動車販売と住宅建設が典型的に悪化する.しかし,今度はそうならなかった.「自動車産業でも,住宅産業でも,通常そうであるように,職場は失われなかった.」とアラン・メルツァーは言う.なぜなら,自動車会社は低利で借りて,顧客に低利で融資したから.自動車と軽トラックの販売は,わずかに減少したにとどまった.

住宅建設も好調だった.モーゲージ・レートは30年の固定金利で7.5%から5.8%に低下した.住宅建設は157万戸から185万戸に増加した.住宅の所有者たちは,既存モーゲージを低利で借り換え,毎月の支払を減らしたり,満期を短くしたり,評価額の上がった住宅により借入額を増やした.2000年末には,住宅債務額が3分の1も増加し,9兆4000億ドルに達した.追加の融資額は住宅の改築やショッピングになった.

こうしたことすべてが企業の計画削減の影響を相殺した.好況の後には,企業は余剰の労働者や投資(工場,機械,オフィス)を抱えていた.利潤を回復させるためには,給与や投資を切り捨てた.低利融資は,企業の金利負担を減らし,有利な短期融資を与えて,こうした回収過程も容易にした.

最後に,低利融資は世界に広がった.アメリカ人が支出すると,それは輸入を増やし,ドルが海外に流出する.こうしたドルは,外国の中央銀行によって,しばしば現地通貨に変えられる.こうしてアメリカの金融緩和が海外に波及し,特にアジアを潤した.「中央銀行は共謀したのだ.・・・世界経済の好調さを持続させるために.」

難しいのは,短期金利以外は,連銀が管理する金利など無いことだ.銀行や年金基金,その他の金融機関が,インフレ予想とリスク評価により,モーゲージや企業融資,債券など,市場金利を決める.連銀がFFレートを下げるときには,単に,銀行などから財務省証券を購入するだけだ.それに対して支払われたドルが,銀行には追加の融資を行う資金となる.だから,他の条件が同じなら,他の金利も下がる.連銀が成功したのは,インフレ予想が低く,連銀の行動がリスク評価も下げたからだ.

「キャリー・トレード」を活発にすることで長期金利も影響された.すなわち,投資家は低利(たとえば2%)で短期資金を借り,それをより高い長期金利(たとえば,5%ないし6%)で貸した.その規模は,2000年から2003年にかけて,銀行融資を約1兆ドル増やしただろう.銀行の低利の預金を集め,モーゲージや債券を買ったのだ.こうした資金が流れるほど,その金利も下がった.しかし,キャリー・トレードは危険をともなう.もし短期金利が上昇すれば,利益が失われるかもしれない.連銀は,昨年,投資家にそれを注意した.「当分の間」低金利が続くだろう,と.連銀は,こうして,非常に創造的な仕方で,長期債投資家の期待を形成する.

不幸にして,金融緩和は永久に続かない.なぜなら,いったん経済が回復すると,インフレが再燃するから.すなわち,多すぎる貨幣が少なすぎる財貨に向けられる.インフレ心理が悪化すると,市場金利が上昇する.雇用増加が見え始め,グリーンスパンと連銀は分岐点に差し掛かった.連銀は,「当分」と約束したが,もうすぐ金利を引き上げるだろう.市場金利は既に上昇した.

高金利になっても経済の安定性が保てるか,それは分からない.好ましいサインはある.家計の債務(主にモーゲージ)の約80%は固定臨機であるから,毎月の支払は変わらない.また企業の再編も進んでいる.生き残った企業は利益を増やし,弱い企業から市場を奪って拡大している.しかし,危険もある.高金利は株式市場から資金を奪う.金融引締めが海外に波及する.高金利は自動車販売や住宅建設,不動産価格にマイナスだ.上昇した住宅価格で融資を増やすことは減るだろう.債務を増やしすぎた消費者は,消費に慎重になる.

グリーンスパンにとって,これが最後の歓声を浴びる機会となる.法により,彼の任期は2006年初めで終わる.連銀は市場金利の上昇を抑える程度に金利引上げを急ぐとともに,景気回復を妨げないように金利引上げを伸ばす.それはデリケートな操作だ.これによってグリーンスパンの評価も決まる.


WP Wednesday, May 19, 2004

Death of a Salesman

By Harold Meyerson

ニコラス・バーグの死を非難する者は居ない.彼は,墓をあばいて死者を食らったという暗黒時代の悪魔によって,首を切り落とされた.バーグには夢があった.彼はイラクを単にビジネス・チャンスと見たのではなかった.わずか26歳でも,バーグはすでに世界の改善を目指して旅する職人であった.アメリカのユダヤ人世界サービスを介して,彼はケニアの給水事業に従事した.それはまさにアフリカが必要とする事業であったし,バーグの理想主義,技量,愛想よさ,にかなっていた.

しかし,一体なぜ,バーグは電波中継搭の維持・補修を,イラクで熱心にすることになったのか? 彼の家族は,政府主催のイラク向け貿易・投資フェアに参加してから,彼にそのような考えが浮かんだ,という.しかし,バーグがイラクに着いた際,国務省の職員はそのような考えを捨てるように説得し,帰国する無料チケットを渡しさえした.

ある意味で,国防省の途方も無い幻想と国務省の醒めたリアリズムとの争いが,ニコラス・バーグの運命に影響していたのだ.ラムズフェルドが作り,彼にだけ返答し,歓心を買おうとする,暫定行政当局(CPA)が,アメリカのビジネスマンを呼び寄せるのに躍起となる一方で,国務省はアメリカ人がイラクに入らないよう警告していた.

アメリカ企業は,政府に指名された建設と警備の業者を除けば,イラクに来ることも,投資することも無い.これまで,イラクに大規模な投資をしたアメリカ企業はペプシだけだ.CPAは,アメリカのビジネスマンに好まれるフラット・タックスのような右寄りの万能薬を唱えてきた.しかし企業は,そんなスティーブ・フォーブズの突飛な経済案より,治安問題をもっと重視した.

ブッシュ政権が企業誘致に失敗したとは言え,すべて無視されたわけではない.ブッシュのアメリカにおいて,多くの低賃金労働者たちが中流の所得と健康保険を熱望している.それらは,イラクにおいて建設会社や警備会社が提供しているものだ.そして,そのコストを支払うのはアメリカの納税者である.ウォル・マートがペプシにならってサダム・フセイン後のイラクに出店することは無いが,ウォル・マート型経済の労働者たちはイラクをそれほど区別しない.

多くの低賃金・非組合員のトラック運転手たち,機械操縦員たち,コックたちが,ハリバートンKBR社などの求める職場に応募した.労働者たちはイラクへ出稼ぎすることの不安に苦しんだが,結局,家族に健康保険をもらい,まともな住居を得られるという理由で,行くことを決意した.

この事実は,われわれの多くに,アメリカの暗部を思い出させる.ちょっと見ただけでも,アメリカの労働者の4分の1は時給8ドル70セントしか得ていない.4400万人のアメリカ人が健康保険を持たず,政治経済が機能していないことを実証している.

しかし,このことが結局は役立つわけだ.国内の同じ職業で,手ごろな賃金と家族の医療費を得ているとしたら,一体,誰がファルージャの契約警備員として働くことなどに応募するだろうか? 海外に向けられたウィルソニアニズムは好戦的であり,国内の社会ダーウィニズムによって安上がりに達成される.明らかに,これはブッシュの外交政策と国内政策が見事に調和した実例である.

そして外交政策は,日々,明らかになるように,セールスマンたちの夢に根ざしている.否,ニコラス・バーグの夢ではない.それは政府において戦争を叫ぶタカ派たちの夢だ.すなわち,イラク再建は容易だ.予防的,一方的な攻撃のせいではない.イラクをわれわれのフラット・タックス天国にする.ブッシュとその仲間たちは,こうした夢を,2002年や2003年になっても,バーグや,議会や,アメリカ国民に売りつけたのだ.ある程度は幻想であり,ある程度は詐欺であった夢が,出口の無い自滅的な占領をもたらした.これらのセールスマンたちこそ,信用で売ったのであり,非難されるべきだ.


NYT May 20, 2004

Making India Shine

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 政府に予想外の敗北をもたらした,地方の貧しい国民によるインドの選挙結果とは,決して経済改革を否定するものではない,とFRIEDMANは考えます.

たとえば,インドのハイテク村であるバンガロールから自動車で1時間のところにある,学校Shanti Bhavan schoolを訪ねてみることです.その生徒はすべて「不可触民(アンタッチャブルズ)」の子供たちです.この学校は,アメリカで成功したハイテク産業の企業家Abraham Georgeによって,インドのもっとも虐げられた子供たちに優れた教育を与えること,また,他のインド人にもグローバリゼーションで同様に成功する自信を与えること,を使命として設立されました.FRIEDMANは,8歳の子供たちが学んでいたスピード・タイピングのクラスに挑戦し,子供たちに大敗北を喫します.

「この子たちの親は,ぼろ集め,荷役,採石場の労働者です」とLalita Law校長は言います.「彼らは貧困線以下の家庭から,アンタッチャブルの子供として,成文化されたものではないインド社会の法により,定められた宿命を生きるしかないと思われています.私たちは彼らを4歳で引き受けました.彼らはきれいな水が飲めるとか,トイレを使うことも知らない.運良く側溝のそばに住んでいれば,それで水浴びするだけでした.ボロの服を着たこともない.・・・ベッドで眠ることさえ,カルチャー・ショックでした.私たちは,彼らに世界水準の教育を与えたい.そして,専門的な職業に就いて欲しいと思います.」

これがインドの選挙が示す教訓だ,とFRIEDMANは考えます.1990年代初めにインドが取り組んだグローバリゼーション戦略は,インドの抑圧されていた能力を解き放ち,持続的な成長を始動させた.それこそ最高の貧困対策であった,と.インドの多くの人は,この道を後戻りしようとは思っていないし,隣の中国に大敗北を喫することを恐れています.しかし,グローバリゼーションの利益を広大な社会に行き渡らせるのは,単に,より多くのインターネットではないのです.もっと基本的なもの,すなわち,良い政府と良い教育が必要です.インドの問題とは,グローバリゼーションは大きく進んだけれど,統治が改善されていないことです.

有権者は,改革反対,と叫んだのではありません.もっと改革を,本当の改革を,都市や町だけではない,草の根の改革を,求めています.腐敗と社会的な不公正によって,改革はその成功を阻まれているのです.


NYT May 20, 2004

Does Highway Spending Really Pay Off?

By VIRGINIA POSTREL

(コメント) アメリカの「道路公団」みたいな話です.ホワイト・ハウスは今後6年間で道路,橋,輸送路の予算として2560億ドルを示しました.昨年までの6年間では2180億ドルでした.しかし,下院は2840億ドルを,また上院は3180億ドルの予算を通し,ホワイト・ハウスがその余りの額に拒否権で脅している,というわけです.

記事は,関連する論点を示しています.@高速道路の建設は議員の利益が一致するテーマであり,増やすことにまとまりやすい.A既存の所得を再分配する社会保障と異なり,将来の富を増やして返済できる,と考える.すなわち,B道路を建設する場合,それは単なる支出ではなく,生産性を高める投資と考えられている.Cしかし,投資の効率はその収益によって正当化できるほど良くない.Dしかも,以前の高速道路建設計画よりも,最近になると効率が悪化している.E計画の細部を比較すると,その非効率や無駄は非常に大きい.たとえば,1ドルの投資に対して,改善される渋滞時間の価値は8セントでしかない.F問題は,政治家たちが経済的な効率には関心が無いことだ.


NYT May 20, 2004

The Big Three Fear That Toyota Is Becoming the Big One

By DANNY HAKIM

(コメント) トヨタの100億ドルを超える利益を知れば,アメリカのビッグ・スリーも先行きが心配でしょう.その利益は,GM,フォード,ダイムラー・クライスラーを合わせた額より大きい,と言います.技術開発やブランド,新規事業開拓で,トヨタは他の企業を圧迫します.

記事は,それ以上に何を分析するわけでもない印象です.なぜトヨタか? いつまで続くのか? 本当に強いのか? 分かりません.特に,トヨタの企業としての評価が高ければ高いほど,同じ日本人が優れた自動車を作れるのに,貧しい生活や貧しい社会を変える点で劣っているように見えるのは不思議です.


WP Thursday, May 20, 2004

Decline of a Doctrine and a Diplomat

By Richard Cohen

(コメント) パウエル・ドクトリンなど,多くの人はもう知らないかもしれません.世界で最も標高の低い地点,死海で行われた会議で,パウエル国務長官は最も低い評価に耐えながら,質問に答えました.彼がブッシュ政権で無視され,次期政権の構想に含まれることも無いからです.

もし彼の描いた外交戦略が選択されていたら,アメリカの今の地位はもっと尊敬されていたでしょう.しかし,もはやパウエルの発言は重要と見なされません.この誇り高い,信望の篤い軍人が,彼の誇るアメリカ軍の行ったアブ・グレイブの虐待事件について謝罪するのは特別なことです.しかし,聴衆はそれを冷たく無視しました.ラムズフェルドも謝罪し,その直後に,アブ・グレイブを訪問して,アメリカ軍を鼓舞したからです.アラブの怒りには,もはや,どのような謝罪もむなしいでしょう.

ブッシュ政権の冒した外交政策の過ちが,パウエル個人に体現されたかのようです.パウエルが開戦論に最後まで従わなかったことは知られています.彼はイスラエルとパレスチナの和平にも公平な仲裁を尊重しました.パウエルはイスラエルがガザ地区で難民の住宅を破壊することを非難しましたが,シャロンはその姿勢を変えませんでした.パウエルはブッシュに戦争の結果を憂慮し,占領が如何に困難であるかを警告しました.「(イラク政府を)破壊すれば,(その後の混乱をアメリカ政府が)所有する」と.パウエルは,アブ・グレイブのアメリカ兵をかばって,彼らは命令に従っただけだ,と言いました.・・・パウエルもそうです.


LAT May 20, 2004

A Bloody Mess in Gaza

(コメント) ガザ地区へのイスラエル軍の戦車による侵攻は,市民の死者を増やしています.イスラエル軍は,武器を持たないデモ隊に,攻撃用ヘリからミサイルを撃ちました.しかし,ブッシュ大統領はイスラエルを非難せず,より詳しい情報を求めただけです.Rafah難民キャンプを襲った3年半ぶりの大規模な軍事行動は,エジプトから武器が密輸されている,という理由でした.

シャロンは,120万人のパレスチナ人が住むガザ地区に入植した7500人のユダヤ人を引き上げさせると提案しました.それは1967年の戦争でイスラエルが占領してからできました.しかし,シャロンの支持政党であるリクードはこの提案に反対し,彼も再考すると述べました.大量のイスラエル兵が入植者を守っており,最近も,兵士たちが爆弾を積んだトラックによる自爆テロで殺されています.

イスラエル国民の多数は入植地の引き上げを支持しています.また,EU,国連,ロシア,アメリカは「ロード・マップ」を作成しました.それを復活させるにはアメリカの継続的な関与が必要です.しかし,アメリカのイラク占領によって関心を奪われ,中東和平は進みません.

NYT May 23, 2004

Finally, Good News in Mideast

By DAVID BROOKS

(コメント) BROOKSが注目した,ガザに関する良いニュースとは何か? 第一に,イスラエルのセキュリティー・フェンスが安定をもたらす,と分かったことです.それは自爆テロを減らし,経済活動を回復させた,と.また,フェンスがパレスチナ人を隔離された貧しい飛び地にするとは考えません.David Makovskyの調査に依拠して,フェンスが概ねクリントンの提案したパレスチナ国家の境界線に沿うものであり,イスラエル側に1万3000人(ヨルダン川西岸の1%以下)のパレスチナ人を残すけれど,パレスチナ側に5万4000人のユダヤ人入植者を残す,と推定しています.それゆえ,十分に納得できる分割である,と.その建設計画は,パウエルやライスなど,アメリカからの圧力と介入で,このような修正を強いられたようです.

第二に,シャロンの入植地撤退案が,イスラエルの論争の焦点を根本的に変化させたことです.もはや「大イスラエル構想」の幻想は退場し,安全保障や歴史の捉えどころの無い論点も後退して,民主主義が議論されています.イスラエルの圧倒的多数が,遠く離れた植民地に反対するのは,それが反民主的だからです.イスラエルの俳優,Shlomo Vishinskiは,今週,その息子がガザで殺害されたとき,シャロンもハマスも非難せず,リクードの活動家を非難しました.「私は民主主義の体制に住んでいる.多数が決定するべきだ.」彼はそう言って泣きました.

イスラエルの副首相Ehud Olmertでさえ,この新しい現実主義を認めています.彼は,オスロ条約さえ,ユダヤ人の歴史的な権利を理由に拒否しました.しかし,将来の人口増加を見ても,入植者は決して西岸の多数者になれません.「誰もフェンスを好ましいとは思わない.しかし,植民地を撤退するだけで平和になるとは言えない.結局,バラクは撤退を約束したが,アラファトが(他の条件を呑めずに)拒んだのだ.」

イスラエルはパレスチナ側に交渉相手を見出せず,しかも軍の撤退後に生じる真空を,ハマスなどの過激派が満たすことを恐れています.ホワイト・ハウスの芝生に並んで,晴れ晴れしい和平条約の調印を願っても無駄である.不平をこぼしつつ,一方的に行動することの結果として,死者が減る,と.

WP Monday, May 24, 2004

Why Not Palestinian Elections?

By Jackson Diehl

The Guardian, Wednesday May 26, 2004

Through the heart

Jonathan Freedland in Jerusalem

LAT May 26, 2004

The Building Blocks of Hope

By Uri Dromi (the director of international outreach at the Israel Democracy Institute in Jerusalem.)

LAT May 26, 2004

Demolishing Houses, and Lives

By Jessica Montell

(コメント) ブッシュ政権は,「ロード・マップ」と「アラファト排除」という,矛盾した原則を示しています.この二つを譲らない限り,パレスチナがアラファト以外の政府を決めなければ,交渉は進みません.では,パレスチナに民主的な選挙を行わせてはどうか? とDiehlは考えます.たとえシャロンとその軍隊が,選挙ではなく,アラファトの追放や暗殺を望んでいるとしても.

Freedlandが伝えるフェンスの情景はまるで違います.フェンスの落書きは,「ようこそゲットーへ!」となっています.イスラエルの作る新しいパレスチナ・ゲットーです.テロを防ぐと言いながら,そのフェンスはパレスチナとイスラエルの間ではなく,パレスチナ住民の町を分断しています.土地を拡大するというイスラエルの願いは,二つの国家案を葬るでしょう.フェンスによって,パレスチナ人の家族も,畑も,学校も,職場も分断され,住民の生活は悪化し,離散を強いられます.イスラエルは間違いを犯した,とFreedlandは考えます.これまで軍事紛争には関与しなかった東エルサレムの住民も,このフェンスによって難民キャンプの苦しみを味わうようになる.強硬派はエルサレムでも支配的になるだろう,と.

Dromiは,イスラエル軍が過激派を掃討するために破壊した住居を,政府が補償しなければならない,また,入植者が撤退する際に,その設備を破壊するという考えも間違っている,と主張します.ブッシュ大統領がイラクで理解したように,戦争で勝つだけでは勝利を維持できません.敵を味方に変えるために,ブッシュ氏は5つのステップを示しました.@主権移譲,A治安確保,Bインフラ再建,C国際支援,D民主的選挙,です.イスラエルが撤退するときも,同じことが実現されるべきです.入植者の住居を彼らに与え,ガザ地区の住民にもっと経済的繁栄をもたらすべきだ,と.

しかし,同時に,イスラエル軍の破壊行為が和らぐわけではありません.イスラエル軍の破壊は,何の予告も無く,深夜に行われます.住民たちは,戦車とブルドーザーの音に気づいて,すべてを家に残したまま,子供だけを抱えて逃げ出すしかない,と言います.Montellは,5月15日から16日にかけて,Rafahの住宅116軒が破壊され,1100人以上が家を失った,と述べています.1月以来,既に284軒,2185人のパレスチナ人がホームレスとなったのです.戦争を理由に,彼らの所有権は無視されます.イスラエル軍は,境界に沿った道路を拡幅するために,さらに2000軒を破壊する計画です.


NYT May 21, 2004

Reforming Mutual Funds

May 26 (Bloomberg)

Forbes, Donaldson Should Give Hedge Funds a Break

Matthew Lynn

(コメント) 1兆ドルの資金を動かすヘッジ・ファンド業界について,資本市場の安定性や公平性を実現するため,法律による規制が求められています.後者は,すべての革新は市場に利益をもたらし,ヘッジ・ファンドも市場の拡大が示すように,投資家たちによって支持されている,という擁護論です.


NYT May 21, 2004

Why We Built the Ivory Tower

By STANLEY FISH

LAT May 27, 2004

Let's Get Rid of Learning Factories

By Hugh Osborn and Margaret Gayle

(コメント) なぜアカデミックな世界に生きる者にとって「象牙の塔」が必要か.なぜ世界を変革するより,世界を解釈することが重要か.FISHは考察します

他方,すでに工場のための学校というのは時代遅れです.工場が海外に流出してしまったのに,政治的対立が今の教育制度を混乱させています.むしろ学校は次の5つの原則で再建されるべきだ,とOsborn and Gayleは考えます.@生徒の気持ちを掴む.A情報技術を利用する.B子供をコンピューターの奴隷にせず,体験や参加を重視する.C異なる学年の子供たちを混ぜて,社会教育やコミュニティー形成を促す.D自宅学習やバウチャー制度を活用し,教育に自由市場を取り込む.

アメリカは,科学研究,技術開発,エンターテイメントで先端を走っています.これを教育の分野にも利用するべきだ,と.


NYT May 21, 2004

In Indonesia, Unions Hit a Roadblock: Contract Labor

By WAYNE ARNOLD

(コメント) インドネシアでは,金融危機から数年しか経っていないが,労働運動が活発になっています.それは,スハルト体制の下で,反対派の共産党などが支配する労働組合を弾圧し,政府の認める単一の国民労組しか認めなかった時代が危機とともに終わり,IMFも労働組合の活動を支持したからです.あるいは,アジアの貿易黒字を減らすためには労働者がもっと消費できるように賃金を引き上げるべきだ,という提言が関係あるかもしれません.

しかし,労働者たちは今も厳しく弾圧されます.なぜなら,中国との競争に負けない,外国企業の求める条件を維持するために,一部の労働運動は好ましくないからです.組合組織は分裂しており,生産性の上昇よりも大きな賃金引上げを唱えるとか,組合内部の腐敗が激しい,と批判されています.そして,経営者たちは次第に国内の労働者ではなく,労働組合の無い貧しい国から契約労働者を連れてくる,というケースが増えています.


WP Friday, May 21, 2004

Tax and Drill

By Charles Krauthammer

NYT May 23, 2004

The Oil Question: To Fret or Not to Fret

By EDMUND L. ANDREWS

May 24 (Bloomberg)

Higher Oil Prices Are Not Like a Tax. Really

Caroline Baum

NYT May 23, 2004

The 50¢-a-Gallon Solution

By GREGG EASTERBROOK

WP Tuesday, May 25, 2004

Homemade Oil Crisis

By David Ignatius

(コメント) 石油価格が上昇しています.需要と供給にその理由はあるでしょう.価格が上がれば消費が減り,その結果,価格を抑制します.しかし,価格が下がると再び消費が増え,アメリカは不安定なサウジ・アラビアの政治体制に依存し,いつかまた,政府は石油価格の上昇に驚きます.だから,政治的な意志さえあれば,課税によって価格を高く維持すべきです.安定した高価格は,国内の油井を開発し,世界の石油消費も減らすからです.

ガソリン価格がガロン当り2ドル上昇すると,アメリカは繁栄できないのか? そんなことはない,とBernanke連銀理事は答えます.これでインフレが再燃するわけではないからです.しかし,石油価格の上昇はアメリカの対外不均衡を拡大します.また,アメリカ自動車業界にも不利でしょう.それは,ブッシュ政権が連銀ほど落ち着いていられない理由です.

石油の高価格と増税とは全然違う,とBaumは指摘します.すなわち,増税は価格を上昇させ,需要も供給も減らす.あるいは,増税された財への需要が減って,曲線が原点に向けて縮小します.供給曲線も同じです.ところが,今の石油価格は,需要の増加と投機によって上昇しているのです.もし需要の増加によって価格が上昇すれば,供給を増やすでしょう.富は,ガソリンを消費する家計や自動車産業から,石油供給者に移されるのです.

ガソリン税の増税は,また,問題の違った側面を表します.EASTERBROOKは,ケリーが50セントの増税を主張することで,アメリカをより賢明な方針に向けるだろう,と期待します.なぜなら,レジャー用の大型車は売れなくなり,交通事故は減り,石油輸入も減るからです.温室効果ガスの排出量は減り,世界の石油需要の中でアメリカの占める地位から,増税は世界の石油需要を減らし,産油諸国が世界の外交政策に及ぼす影響を抑えて,王侯たちに流れるオイル・ダラーも減ります.経済学者なら,さまざまな規制を行うよりも,ガソリン価格を引き上げることで,こうした調整を可能にするのが望ましい,と考えるでしょう.数年前,N. Gregory Mankiwも,ケリーと同じく,それを支持しました.今は,ブッシュの経済諮問委員会委員長ですが.

Ignatiusの論説は,石油価格がアメリカの景気回復やサウジ・アラビアの生産量で決まる以上のこと,すなわち,危機が政策によって準備されたこと,を示します.すなわちアメリカ政府は,@ガソリン需要が増す中でガソリン消費を煽ってきた.A戦略備蓄を増やすために市場を逼迫させた.Bドル安政策を進めて,その補償を求めるサウジ・アラビア政府が価格の上昇を促す政策を容認した.サウジ・アラビア政府は,C石油の在庫を減らす「ジャスト・イン・タイム」方式を導入し,石油市場を操作する力を回復した.何より,アメリカ政府は,Dイラク戦争によってサウジ・アラビアへの依存が危険であることを訴える必要があったときに,現状維持を続けた.


FT May 23 2004

Wolfgang Munchau: Europe needs a strategy

By Wolfgang Munchau

(コメント) マーストリヒト条約と安定協定でユーロが誕生したことも,今では過去の逸話です.特に後者は,通貨統合後にも各国が独自の財政政策を選択することに不安を持ったドイツ政府が,それを制限するために主張しました.しかし,各国がどの程度の財政赤字を維持できるかは,その国の潜在成長力が異なっている以上,同じようには制限できません.(おそらく,インフレ率もそうでしょう.)

しかし,ドイツとフランスが安定協定を無視する形で,財政規律の放棄を公認したことは,ユーロ圏の将来を損なっています.そこで,各国の財政赤字が維持可能な水準にあるかどうかを,誰かが監視する役割を求められます.しかし,こうした合意のためにも,ユーロ圏の成長戦略が同時に求められるわけです.


NYT May 23, 2004

Talking Deficits

(コメント) ブッシュ氏の財政赤字はどうでしょうか? NYTは,選挙の争点から外すために推定値を並べて,それを「勝利」と強弁する政府を批判します.アメリカの財政赤字の深刻さは,@規模:その絶対額だけでなく,社会保障を考慮すれば,GNP比でもレーガン期に迫る5%に達する.A原因:政府の減税政策によって作られた.B時期:ベビー・ブーマーの引退が迫っている.C海外依存:特にアジアからの資本流入によって赤字の80%を賄っている.


NYT May 23, 2004

Warriors in West Africa Need Jobs as Well as Peace Treaties

By SOMINI SENGUPTA

(コメント) アフリカ西海岸の紛争地帯が,国際的な軍事介入で漸く沈静化したにもかかわらず,その完全な平和的統治の再建には程遠いようです.国連は,武器と交換に,生活費を支給し,職業訓練などを施しています.しかし,大工の仕事を覚えた少年も,結局,生活できるほどの仕事は無く,再び隣国で兵士に戻るほか無かったと言います.この地域に回収されねばならないと予想されたカラシニコフ銃の半分も,まだ,集められてはいません.兵士たちは武器を隠して,失業と貧困のときの保険としているからです.彼らにとって,銃だけが,食事を支える最後の手段なのです.

これも,戦乱の続く地帯の仮想的な「財政赤字」と言えるでしょう.


FT May 24 2004

China's leaders want a green revolution

By James Kynge

May 25 (Bloomberg)

China's Landing -- Hard? Soft? Or `Can't Say?'

Andy Mukherjee

(コメント) 中国の工業化は持続不可能である.なぜなら,人口,資源,環境が,それを耐えられないものとしてしまうから.この主張は,環境保護グループの声明ではなく,中国政府の国家環境保護局(SEPA)が出した報告書にあるものです.

たとえ,中国の人口が豊富であるとしても,それは資源や環境への負担を無視できるものではなく,現在の西側の経済発展を真似てはいけない,とSEPAの副所長Pan Yueは主張します.過去20年間で,中国の石油消費は100%,天然ガスは92%,鉄が143%,銅は189%,アルミニウムは380%も,増加してきました.他方,中国は世界人口の21%ですが,天然資源の保有量はずっと少ないのです.

もしアメリカのように,13億の人口を抱える中国が,二人に1台の自動車を保有すれば,6億台の自動車がガソリンを燃やし,それは現在の世界の自動車保有台数5億4000万台を越えてしまいます.道路や駐車場は,貴重な耕作地を失わせ,石油だけでなく穀物も大きく輸入に頼らねばなりません.

たとえそれでも,中国は経済発展を諦めません.人類史上最速の工業化と都市化により,大衆消費社会を目指します.そのことをPanも否定できません.彼は少しでも多くの資金を,新しいエネルギーの開発や資源の再生に向けるよう勧告するしかありません.彼の懸念は現実のものであり,農地の侵食や農産物輸入増加は既に進んでいます.

中国のソフト・ランディングは,その意味でも,歓迎されることでしょう.しかし,アジア開発銀行の総会でも,すべての報道機関が,日本でもアメリカでもなく,中国の代表者を追い掛けて,どのような着陸をするのか問い質しましたが,誰にも分かりません.中国のように広大な国土と異質な経済を抱える国の統計が,数%の違いを議論できるとは思えないわけです.


LAT May 24, 2004

U.S. Should Offer a Deal to N. Korea

By Daniel Poneman and Robert Gallucci

(コメント) もしクリントン政権が北朝鮮の核開発を止めていなければ,今ごろは,約100発の核弾頭を保有していたかもしれない,とPoneman and Gallucciは言います.北朝鮮政府は,威嚇されるか,報酬が得られない限り,核開発を止めません.再び騙されるかもしれないのに,アメリカ側から交渉を呼びかける理由は何か? それがアメリカの利益になるのか? それに答えるには,アメリカ政府が次の三つを確認することです.

1.抑止を期待するのでは遅い.核兵器の原料を止めること.2.より厳格な査察と,明確な関係改善のプロセス(その利益)を示すこと.3.北朝鮮を信用できるかどうかではなく,核開発を停止させることはアメリカの利益になることが重要だ.このまま交渉を避けている間も,北朝鮮は核を生産している.


WP Monday, May 24, 2004

A Tax Plan for Kerry

By Ted Halstead and Maya MacGuineas

NYT May 23, 2004

Delusions of Triumph

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 雇用を増やす,という公約と,財政赤字を減らす,という公約を実現する,具体的な政策をケリーは提案していません.Halstead and MacGuineasは,給与への課税を全廃すること,を提案します.なぜなら,それは雇用に,特に中小企業の雇用に課税するようなものだからです.それに変えて,Halstead and MacGuineasは消費税を導入せよ,と言います.ただし,保守派の喜ぶフラット・タックスではなく,毎年所得から貯蓄を差し引いた額に対して,累進的に課税することを求めます.

他方,KRUGMANは,ブッシュ政権が誇る雇用増加の数字を,さまざまな基準から自慢できるものではない,と考えます.


The Guardian, Tuesday May 25, 2004

Immigrants the rich love

George Monbiot

IHT Tuesday, May 25, 2004

Philip Bowring: Abuse sheds light on vulnerable millions

Philip Bowring

(コメント) 非合法移民に対するヒステリックな攻撃にもかかわらず,イギリス政府は多国籍企業の契約労働者が入国するのは問題にしません.右派の新聞が攻撃するのは,社会給付の受取や寡婦,難民の詐欺的申請者ばかりです.イギリス経済が依存しており,出版者のお得意先である多国籍企業が雇用する外国人は攻撃しません.企業家は,国粋主義と低賃金のどちらを取るか? その答えは,歴史的に,後者です.しかも安いほうが良いわけで,その意味では,規制も保護も無い,貧しい移民の流入が企業家たちを豊かにします.右寄りの大衆紙が移民排斥を叫べば叫ぶほど,移民たちへの規制や保護は遅れるでしょう.

もし政府が大企業の非合法な移民就労を規制するなら,非合法移民は大幅に減るでしょう.しかも,それは特に困難なわけでもない,とMonbiotは考えます.しかし,内務省の顧問が述べたように,それでは明日から,誰が朝食を作ってくれるのか? と心配しなければなりません.イギリス経済は彼らに大きく依存しているのです.そうかと言って,企業は非合法移民を合法化することによるコストを受け入れないのです.移民規制とは,合法移民ではなく,非合法移民を脇道から安く買い入れるための条件に過ぎないのです.

Bowringの記事は,家政婦など,アジアの移民労働者が虐待されている現状を伝えます.政府は,移民送金に比べて,労働者の権利保護には関心が薄く,受入国では問題自体を無視しています.多くの人種偏見が強いアジア諸国では,定住型移民を歓迎しません.しかし,たとえばフィリピンの人口の約1割,800万人が海外で働いています.


NYT May 26, 2004

An Endangered State

(コメント) 美しい自然と小さな町からなるヴァーモント州に,ウォル・マートの大規模店が進出するのを受け入れるべきかどうか,記事は,慎重な選択を住民たちに求めます.

安価な商品が買えるのは歓迎されるでしょう.しかし,今のように観光収入に頼るよりも,しっかりした雇用が得られるのか? 低賃金の職場が増えるとしても,多くの零細商店は閉ざされ,フード・スタンプの世話になる人が増えるのではないか? 買い物客のために道路や橋を整備しなければならず,ますますウォル・マートからの税収に依存するようになる? むしろ誘致のために免税や補助金として,税収を使い果たすのではないか? 住民たちが長期的な視野から考えるべきです.


WP Wednesday, May 26, 2004

Great Wall of Unknowns

By Robert J. Samuelson

May 28 (Bloomberg)

China May Be a Prisoner of Greenspan's Fed

William Pesek Jr.

(コメント) 中国の成長と旺盛な消費は,輸入を通じて世界に,特にアジアに,成長を波及させています.しかし,そのことは同時に,破綻のリスクを共有しているわけです.重大なリスクは特に二つです.一つは過剰な融資と投資,生産設備や過剰在庫です.もう一つは,アパートや住宅,土地に対する投機です.それらが崩壊すれば,アジアも日本も巻き込むでしょう.

Pesek Jr.は,連銀の金融政策に注目します.なぜなら,人民元はドルに固定されているからです.中国の投機がいくら過熱しても,その金融政策はアメリカの連銀が動かします.たとえば,もし金利を引き上げれば人民元への預金が増え,政府はさらに多くのドルを買い上げねばなりません.もはやインフレの加速が進み始めたのであれば,中国はもっと厳しい対応が必要です.他方,アメリカ連銀は慎重に,徐々に金利を引き上げようとしています.

中国は人民元の対ドル固定制を放棄する,という予想がここから生じます.しかし,中国の為替市場は成熟しておらず,銀行システムも健全ではないので,変動レート制を採用できません.しかし,このままではアメリカの景気を維持するグリーンスパンの金融緩和策が,中国のバブルを育成してしまいます.アメリカの低利融資で中国の投機的利益を得られるからです.

アメリカ連銀がアメリカの利益を目指す限り,中国経済の過熱は破綻に向かうでしょう.


FT May 27 2004

Martin Wolf: Britain's miracle of stability

By Martin Wolf

(コメント) なぜイギリス経済は,他の成熟国よりも,成長を犠牲にせず,しかも高い安定性を実現できたのか? その問題は,中国やアジア経済の急速な変化の中で,成長を減速した日本にとって,特に興味深いものです.

しかし,残念ながら答えは平凡です.遂に,貨幣経済の真髄を理解し,基本的には,インフレ目標による金融政策の調整に熟達したのではないか,という楽観を退け,イギリスは,他国に比べて,経済を自由化し,改革にも積極的に取り組んだ結果,ミクロのレベルで経済の弾力性が高く維持されたのではないか,と考えます.

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The Economist, May 15th 2004

Sudan: Fleeing the horsemen who kill for Khartoum

(コメント) スーダンの南部に住む黒人たちに対する迫害は,緩やかな民族浄化である,と言われています.「彼女の子供たちの死体は,村の井戸で腐っていた.アラブの民兵たちが井戸水を飲めなくするために死体を投げ込んだのだ.しかし彼女は自宅を捨てなかった.もし作物や家畜を捨てたら,彼女の家族は死ぬしかないと分かっていたから.政府が住民たちを恐怖によって脅し続けても,彼女たちは4ヶ月そこにとどまった.」

アフリカには,まだ水や土地,資源をめぐる簒奪によって支配者が利益を確保するために,「政府」が存在しています.アメリカなど,国際的な圧力は,政府を自重させるより,若者に武器を与えて民兵を組織させ,軍隊で彼らの迫害を支援しました.ただし民兵たちは,既に,誰の言うことも聞かない殺人集団となって原野を駆け抜けています.アメリカの圧力を受けて,政府は漸く南スーダンの自治権を拡大しました.それゆえ,ブッシュ大統領は,世界のどこよりも,南スーダンで支持されている,と記事は書いています.


China’s economy: The great fall of China?

China’s economy: Time to hit the brakes

(コメント) 混雑する北京の道路では,あちこちで不慣れな運転手が自動車を衝突させているようです.政府も経済をクラッシュさせるのか? とThe Economistは問います.

記事は,ハード・ランディングを予言するのは早すぎる,という主張を紹介します.アジア通貨・金融危機の再来を警告するのも間違いです.しかし,中国経済の未来は激しい乱気流が待っています.発達した市場経済のような,繊細な政策手段が効果を発揮することなどありえません.記事が予言するのは,たとえ中国経済がハード・ランディングを避け得ない状態に至っても,長期の経済拡大が終わるわけではない,ということです.その成長の余力やキャッチ・アップの可能性は,崩壊の後に,急速な回復を予想させるからです.


Bagehot: Moral hazard

(コメント) ブレア首相の開戦演説に心を動かされた私も,彼の失意を,一部は共有しなければならないでしょう.たとえ政治的な判断が的を射たものであったとしても,所詮,ブッシュのプードルであったことには変わりなかったわけです.足元でプードルが何を吼えても,ブッシュはチェイニーやラムズフェルドの言葉しか耳に入れません.戦争さえ始まれば,ブレアがその行方に影響できる余地など無かったのです.彼の真剣な開戦の辞も,所詮,裏切られ続けるショーの端役を勤め上げるしか無い,哀れな舞台を飾っただけとなりました.

では,小泉氏や自衛隊はどうなるのでしょうか?