IPEの果樹園2004

今週のReview

5/24-5/29

IPEのタネ

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世界の英字紙からコラムを紹介します.私が選んだ論説の内容を,かなり自由に要約し(全訳に近いものもあります),そこには自分の意見も含まれています.利用する場合は,それぞれの出典を自分で確認してください.なお著作権は,それぞれ,元の著作権に従うものと考えます.

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もし三つだけ推奨するとしたら?

1.   AMF(アジア通貨基金) : アジアは通貨調整により世界経済の均衡回復を可能にし,アジア住民の利益を図り,ドル危機の回避と,IMFに依拠したヨーロッパ人の傲慢さを是正するため,アジア通貨基金を設立せよ!

2.   スポーツ・チームの国際買収 : タイのタクシン首相が開く,グローバリゼーションの新しい国家間宣伝競争.

3.   イラクの選択肢 : アメリカ救出作戦はあるか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times


NYT May 13, 2004

Dollars Without Borders

NYT May 18, 2004

Latin Migrants to U.S. Send Billions Home

By ELIZABETH BECKER

(コメント) 移民たちは,たいてい,家族を残したまま出稼ぎに来ています.そこで,彼らが母国の家族に宛てて送る資金が,国によっては,国際金融決済の重要な手段になっています.あるいは,アメリカが行う資金移転の,援助や軍の駐留に並んで重要な項目として,アメリカで働く移民たちによる送金が,事実上,貧しい諸国の国際的な資金決済を支えているわけです.しばしば政府によって濫用される経済援助と違い,送金は貧しい家族に,直接,届きます.

メキシコの場合,移民による送金額は,他の二つの主要な外貨獲得源である石油や観光サービスを抑えて,最大の黒字項目です.開発諸国から発展途上諸国への資金移転は,この7年間で4倍に増えたようです.NYTの論説は,この資金移動を貧困解消のために活用することを訴えます.すなわち,単なる移転のためのエージェントを,預金や融資も行える銀行に育てるわけです.

移民送金を既存の銀行システムに代える,という提言ではなく,移民の資金移転を各村の協同組合など,零細金融機関と組み合わせて,近代化する,という提案です.言わば,マイクロ・ファイナンスの国際金融版です.送金で住宅を建てたり,店舗やタクシーを買ったりする場合も多いようですが,貧しい地域の,これまで融資の対象にならなかった人々が,協同組合により融資されるだろう,と.

BECKERは,ラテン・アメリカとカリブ海域からの移民たちが送金した額を300億ドルと紹介しています.それは各国政府の主要関心事になっています.ブッシュ政権も送金に注目していますが,その場合,アメリカの主要銀行に送金を扱いやすくするように(手数料の引き下げ,など)求めています.あるいは,労働組合も,ラテン・アメリカの労働者の生活水準が改善することは,すべてのものの利益だ,と支持しています.


NYT May 13, 2004

Will China Buy the Giants or France Acquire the Yankees?

By FLOYD NORRIS

(コメント) イギリスのサッカー・クラブを買いたがるのは,ロシアやアラブの大富豪だけではないようです.タイのタクシン首相が,しかも自分の企業や私財によってではなく,税収で購入する計画を示して,批判されています.もちろん,すでにイタリアではSilvio Berlusconi首相がACミランのオーナーとして政治的名声を高めるのに利用しています.ジョージ・W・ブッシュ大統領も,テキサス州知事になる際,野球チーム,テキサス・レインジャーズを所有していた,と言います.

しかし,たとえ政治家はやるとしても,政府が税金を使って,しかも外国のチームを買うのは間違いだろう,もっとましな税金の使い方があるはずだ,と批判されるわけです.これについて,NORRISは,これこそ政府の新しい国際市場戦略だ,と解釈します.アジア各国が直接投資や輸出市場を激しく奪い合って国際競争している中で,しかも豊富な外貨準備をドル安のリスクを冒して保持し続けるなら,このような投資を政府が考えるのも当然だ,というわけです.

たとえば,中国政府がサン・フランシスコ・ジャイアンツを買う,というのどうだろうか? あるいは日本政府が,ゴジラやイチローを輸出するだけでなく,ニュー・ヨーク・メッツやシアトル・マリナーズを購入してはどうか? 中国なら,Yao Mingが選手として活躍するベースボール・チーム,ヒューストン・ロケッツの方が良いだろう.アメリカとの関係修復を狙って,シラク大統領がアメリカの野球チームを買い,ワールド・シリーズを観戦すれば良い,と.

さらに,多くの移民がいるという点で,アイルランドがBoston Red Sox,ドイツはMilwaukee Brewers,ノルウェーはMinnesota Twins,ロシアはCincinnati Reds,を買収対象とするでしょう.そして,もしヨーロッパ人が野球をもっとよく理解するなら,きっとアメリカ人もよく理解できるでしょう.(これは,日本の例を見ると,間違いのようです.) 政治的理由でキューバがFlorida Marlinsを買収することは出来ませんが,メキシコがSan Diego Padresを買収することには誰も反対できないでしょう.

アメリカ以外では野球よりもはるかに人気の高いサッカーを,アメリカ政府は親善のため,幾つかヨーロッパ・チームの中から買収してはどうでしょうか? そして,それがフーリガンでなければ,欧米間でファンの交流を促進すると良いでしょう.ただし,優勝する見込みの高いArsenalを買収する案は,オサマ・ビン・ラディンがそのファンでもあるらしい,と聞けば,躊躇するでしょう.それでは,とベッカムの居るReal Madridを買収する話になれば,アジアで彼の人気が高いことに目をつけた日本政府と,価格で競り合わねばならないかもしれません.

野党が反対しても,タクシンはやる気です.こうして,新しいグローバリゼーションを開始する野心家が,また一人誕生するわけです.


ST MAY 13, 2004 THU

India's have-nots will have their say

By Pranay Gupte

May 14 (Bloomberg)

India's Election Is Wake-Up Call for Markets

William Pesek Jr.

BG May 16, 2004

Two winners in India

(コメント) 既に指摘されてきたように,グローバリゼーションを賛美しているのは,一握りの成功した者たちです.それゆえ選挙において,有権者の多数がグローバリゼーションを支持することはないでしょう.選挙のメッセージは明白です.

「いい感じ」という政治的なレトリックが無数に携帯電話に流され,消費財市場は拡大し,コール・センターが多くの雇用を生み出した,という現象の背後に,インドの人口の約半数は一日1ドル以下で生活している,という事実が忘れられました.

インドには地方に55万の村があり,灌漑が不十分で,電気が無く,衛生状態は悪く,学校もありません.花嫁は今も夫の葬儀で焼かれ,女の赤ん坊が生まれると間引きされ,女性の農民は男性に支配されています.独立後,60年を経ても,インドの持てる者と持たざる者が別々の国に住む,と言われます.他方,自由化の成果も明らかです.外貨準備が1150億ドルで世界第6位,都市には3億人の中産階級が育っています.

それが貧しい者の不満を増幅します.貧しい地域の衛生状態や教育を改善するために,政府はもっと投資しなければならないでしょう.灌漑設備を整備し,政府の腐敗をなくすべきです.地方までインフラを整備し,ハイテク産業の分散を促すでしょう.地方の,特に女性に,雇用を増やす必要があります.

BJPのバジパイ首相は,「輝けるインド」を宣伝しました.しかし,それが逆に,多くの有権者に,自分たちは無視されている,と感じさせたのです.インドの輝きを強調すればするほど,国民の多くは自分がその利益を受けていない,と不満を持ちました. ・・・株価の上昇? バンガロールのハイテク企業? それは誰のことか? 誰の利益になるのか? 急速に豊かになった,と雑誌が特集するようなヤッピーたちか? インドの資本市場は,予想外の選挙結果にショックを受けて暴落しました.

次は,多くの貧しい国民に焦点を当てたソニア・ガンジーの出番です.しかし,国有資産を売却して,年10%の成長という公約を実現できるでしょうか? Pesek Jr.は,インドのすべての党派が成長を支持しており,市場自由化は逆転できない,と投資家に冷静な対応を求めています.問題は,連立相手の左派政党が国営企業の売却に反対していることです.

新しい政府も,豊かな投資家たちと地方の貧しい人々とを,同時に満足させる政策を見出すか,さもないと権力を失うしかありません.

BGの論説は,国民会議派の勝利を高く評価しています.インドの民主主義は,教育ある金持ちの有権者ではなく,文字も読めない貧しい有権者に発言を許し,政治家たちの責任を問いました.BJPのヒンズー愛国主義やその好戦性を拒否し,インドに住む1億4000万人のイスラム教徒を尊重しました.国民会議派は市場自由化を90年代初めに提唱した政党であり,中国の改革路線を熱心に模倣した共産党の支配する地方政府で力を得ました.新しい政府が,パキスタンとの和平を推進し,中国との関係を改善し,アメリカともテロとの戦いで協力するなら,世界最大の民主主義国家が,そのマハトマ・ガンジー以来の非暴力主義という伝統を受け継いでいることを証明するだろう,と.


FT May 14 2004

Evil under interrogation

By Michael Ignatieff

May 14 (Bloomberg)

Two Answers to Abu Ghraib: One Legal, One Savage

Ann Woolner

BG May 17, 2004

Iraq horrors grow more complex

By Cathy Young

(コメント) 法と民主主義が支配する国について,拷問の意味に関する長い考察です.ナチスに拷問された犠牲者は,その後,人間とその社会をなかなか信用できなかった,と言います.拷問は,それを受けた者に肉体的な苦痛や障害を残すだけでなく,人間の本質に対する抜きがたいイメージを焼き付け,社会の根本を破壊します.拷問に遭った多くの者が,たとえ肉親にも真実を明かさず,何十年もたって自殺したりします.

暴力や拷問は,憲法によって対等な市民が構成した社会の原理を否定し,ニヒリズムを蔓延させるものです.それゆえ,どのような状況においても,私たちの社会はその政治的な目的に照らして,暴力や拷問を規制し,邪悪な人々を管理しなければなりません.たとえどれほど有効であるように見えても,自分たちもそれらを利用して敵に報復し,反撃したい,という誘惑に負けてはならないのです.

「われわれはお前たちに告げる.アブ・グレイブやその他で(虐待・虐殺された)イスラム教徒の男と女の尊厳を取り戻すには,(お前たちの)血と魂によるしかない,と.」 覆面の男たちはそう言って,アメリカ市民,ニコラス・バーグの頭を胴体から切り取りました.

しかし,人々の尊厳を回復するもう一つの方法がある,とWoolnerは考えます.バーグへの残虐な報復行為は,あらためてアブ・グレイブの過ちとイラク占領の大儀に目を向ける機会を世界に与えてくれた,と考えます.もしアメリカが虐待を行った兵士たちを裁き,その司令官や,司令官たちの指揮官,将軍,そして国防長官や大統領でさえ,議会に召喚して責任を追及できることを世界に示すなら,拷問や,裁判の無い処刑に怯えるアラブ諸国の国民は,その自由と民主主義の価値を理解するだろうから.

その意味で,この無法者たちは邪悪なだけでなく,まったくの愚者である,とYoungは言います.その日まで,アメリカ兵を苦しめた激しい非難が,これほど邪悪な敵との戦いで疲れた人々への同情,敵への憎しみに変わったからです.

しかし,アブ・グレイブのスキャンダルを終わらせてはなりません.バーグを殺した男たちは殺人狂です.他方,アブ・グレイブは収容所であり,正当な手続きも無く,疑いをかけられたイラク人たちを,アメリカ市民が虐待・虐殺したのです.二つの事件を比較して,その映像の扱い方や,それらの関係をどう考えるべきか,民主主義の社会は異なる声をぶつけ合います.


FT May 14 2004

Too complex for simple solutions

By Alan Beattie

(コメント) コスト・ベネフィット分析,と言えば,経済学の骨身に染みたレトリックです.しかし,環境保護に明快な答えを求めたコペンハーゲン・アプローチを,有限な資源で世界の公共政策の優先順位決定に拡大するのは間違っている,とBeattieは指摘します.

たとえば,栄養失調に対処するべきか? 伝染病の予防に対処するべきか? それとも,衛生的な飲み水を確保するべきか? 限られた世界予算の使い道として,その優先順位を決めることは不可能です.それぞれの目的は,その将来に,多くの不確実さを含むだけでなく,互いに影響し依存しあっているからです.

この考え方は「重役会議型の解決策」と呼ばれるものです.すなわち,選択的で,トップ・ダウンにより,データを使って,指令と管理を徹底させます.かつて,かつてフォード社の戦略的な計画管理を行ったR.マクナマラが,ヴェトナム戦争や世銀に持ち込んだ手法と同じです.また最近では,アルミニウム企業の会長であったポール・オニールが財長官となって,アフリカを訪問した際,全ウガンダ住民に清潔な水を供給する案を発表したとき,思い描いた手法です.

その計画は全土に汚れた井戸を掘っただけで,放置されています.緯度の管理や維持に必要な技術や部品を,アメリカはその社会に与えなかったからです.一つの目的に固執すれば,他の重要な目的や条件が容易に見失われます.また,内戦や腐敗に苦しむ社会が,援助を有効に利用し,必要な条件を学ぶことなど出来るでしょうか?

国家は,その定義からして,多くの目標を同時に追求する存在です.それゆえ,法を遵守し,近隣諸国との戦乱を回避し,衛生・教育サービスの提供に尽力し,自国を世界経済に統合させる方針で,上手く機能する正直な国家であれば,貧困を減らし,清潔な水を飲めて,移民や難民の流出も減るでしょう.こうした国家を支援する援助こそ,個々の世界的な公共財を選択的に増やすコペンハーゲン・アプローチのすべての目的を,同時に,達成します.


May 14 (Bloomberg)

Iraq's Central Bank Plan Goes Beyond Basics

David DeRosa

(コメント) イラクの暫定統治評議会(CPA)は,金融部門や通貨をどうするつもりなのでしょうか? イラクに中央銀行を作る,とCPAは強調します.イラク中央銀行法には,中央銀行に関することが何もかも書かれています.また,その通貨ディナールの為替レートを変動させることも決めました.しかし問題は,長期的にはともかく,今,為替レートを変動させて決めることが望ましいか? ということです.また,6月末以後に成立する新政府が,通貨を増発しないか? 市民は不安を高めています.中央銀行は,三つの外国銀行に銀行業務を許可しました.香港上海銀行,クウェート国立銀行,スタンダード・チャータード銀行,です.しかし,治安悪化により,彼らの業務は開始されていません.


LAT May 14, 2004

Extra! Read Nothing About It

By William Powers.

NYT May 14, 2004

The Wrong Direction

(コメント) 新聞なんて読まない,あんあものは正しいことを伝えない,とブッシュ氏もラムズフェルド国防長官も不信感をぶつけます.そこで,Powersはラムズフェルド版を工夫しました.

フロント・ページには,ワシントンDCの天気予報だけを載せる.「快晴,そして吹雪.」 イラクの収容所スキャンダルは週末で中断.右派の「自由で情熱的な新聞」も伸び悩み.次は,マイケル・ジャクソンの爆弾探しに走る.

政治欄には,ケリーをくさし,ラムズフェルドのおしゃべり満載.マッケインは,もちろん,無視.メトロ(ローカル・ニュース)で,イラクと同じ,学校では卒業式の準備に忙しい.否定的なジャーナリストたちは目を向けないが,良いことは一杯ある.

ビジネス欄,株価はもみ合いだが,景気回復は絶対確実だ.実際,戦争というのは景気を刺激するのだ.誰も言わないけれど.メディア欄.スポーツ欄.コミックス欄.論説欄,国防長官は辞任について7回言及したが,それを拒む.任務完了.

そして,求人欄,世界企業のエグゼクティブになれ.7桁の給与が待っている.

実際のNYTは,その週の二人(大統領と国防長官)の議会調査委員会への証言に,暗澹とした気分を強めています.今すぐ,アブ・グレイブを閉鎖せよ,諜報機関を一般の収容所から排除せよ,また,民間契約による監視を禁止せよ,そして専門的に訓練された軍人を派遣せよ,ジュネーブ協定と同じ内容で捕虜や収容所を扱え,とラムズフェルドに要求します.


NYT May 14, 2004

A Crude Shock

By PAUL KRUGMAN

FT May 16 2004

This is not the next great oil shock - at least, not yet

By Ed Crooks and Kevin Morrison

(コメント) 今の石油価格上昇は,1973年や1979年の上昇と似ていない.だからこそ,不気味だ,とKRUGMANは考えます

あのときには供給の側に大きな断絶がありました.中東戦争と石油禁輸,あるいはイラン革命です.ところが,今はイラク情勢が不安定ですが,当時に匹敵するような供給のショックはありません.中国の需要増加を理由に,バレル12ドルまで上昇しています.

むしろ,KRUGMANは,湾岸戦争時と比べて,石油生産の供給余力が尽きてしまったことを重視します.もしイラクのパイプ・ラインやサウジ・アラビアの政治情勢など,何かが起きたら,今の需要が満たせないことは明らかです.

でも,経済学が教えるように,需要と供給は互いに調整するはずではないか? もちろん調整します.しかし,それにかかる時間と,調整過程でどこまで石油価格が上昇するか,は分かりません.もちろん,効率的な新車が販売され,新しい油田が採掘されるでしょう.

石油価格の上昇は,消費者にとって増税と同じです.それは,再び,1970年型のスタグフレーションを起こすのでしょうか? KRUGMANは,石油のGDPに占める重要性が低下し,インフレは重要問題でなく,賃金との悪循環も起きないだろう,とその不安を緩和します.

しかし,メモリアル・デーの休日はドライブ旅行のシーズン開始を告げます.もしガソリン価格が高ければ,国民の多くは部屋でテレビを観るしか楽しみが無く,イラクの凄惨な映像や,議会で追及される軍や政府の高官たちを観て不信感を強めるかもしれません.金利の上昇に加えて,これから石油需要が増えるとしたら,ブッシュ氏がガソリン価格を気にするのも分かります.実際,米英政府がOPECに増産を求めました.

世界の景気回復が石油需要の背景です.では,石油価格はどのように景気回復を損なうでしょうか? FTはいくつかの理由を指摘します.@インフレを招いて,金融・財政政策の引き締めを促す.A石油消費国から産油国への資源移転を強める.B世界の需要パターンを変化させ,自動車など,石油消費型の商品が売れなくなる.

また,石油価格はドル建であることから,ドル安によりアメリカの負担が大きくなります.中央銀行は,インフレが低い水準であれば,金利を引き上げるべきか,スタグフレーションを危惧して躊躇するでしょう.石油価格上昇の4つの含意をFTは考察します.1.貧しい新興市場ほど景気を損なわれるでしょう.中国やアフリカ,インドなど,石油消費の非常に非効率的な諸国では,今後の需要増大によりコストを強く意識します.2.成長が減速する中で石油価格が上昇することは,その被害を大きくします.3.現在の水準では,まだ,石油需要は増え続けるでしょう.4.中東の石油供給にテロや政情不安が影響します.


FT May 14 2004

Lex: US dollar

FT May 14 2004

Lex: China inflation

(コメント) ドルの為替レートには,相反するさまざまな予想が合流しています.アメリカの雇用は回復を示しました.しかし,金利が上がるでしょう.それは構造問題を懸念させ,経常収支赤字の増大を心配させます.市場では投機的な取引が膨張し,ドルがキャリー・トレードに利用されているからです.高利回りの国際投資が解約されるに連れて,ドル高が進みます.

その後,高金利がそる打かを維持するのかどうか,意見はバラバラです.景気回復で株価が上昇し,ドル高が進むこともあれば,逆のこともありました.金利が上昇し,アメリカは海外投資家に対する支払が増えます.石油価格の上昇や中国の成長減速は,アメリカの国際決済問題を意識させるでしょう.

中国の先月の物価上昇は,7年ぶりの高さです.小売の売上は12%伸び,輸入は43%も増えました.中国の引締策が,1990年代の急激な景気後退を繰り返さない保証はありません.確かに,外貨準備や銀行預金は当時より増えています.しかし,今も資本の非効率な配分は変わっていない,とFTは警告します.直接投資も含めて,中国には過剰設備が放置され,デフレ問題が残っています.その意味で価格は機能せず,銀行の不良債権やバブルの懸念が続くでしょう.


ST MAY 15, 2004 SAT

Noh overnight recovery for Japan

By Anthony Paul

May 16 (Bloomberg)

Bank of Japan Frets Over the Bond Market

David DeRosa

(コメント) 日本の景気回復は,その長期停滞と同じように,「外人」には理解できない,と嘆いています.それは「能舞台」のように,小さな舞台を端から端まで歩くのに25分もかかる.観衆は,舞台に感情移入することや,それを理解することを,期待されてもいない.

P.ドラッカーは,アメリカが政治において経済を何より優先するのが,日本は社会を優先する,と述べ,改革に時間がかかったことに同情します.あるいは,アグベレンは,90年代が「失われた10年」ではなく,成熟社会としては十分な成長を遂げた,と考えます.すなわち,日本人は,その壊れやすい社会を保持したまま,まずますの成長を実現したわけです.日本が根本的に変わったのは,明治維新と太平洋戦争の敗戦だけであり,外からのショックが必要でした.

要するに,日本で政治と経済が互いに均衡を保ち,チェックする様子を見守るには,能舞台に集まった観衆の覚悟が必要だ,というわけです.

DeRosaは,そんな考えを相手にしません.日銀が,その導入について説明したように,量的緩和政策をデフレ解消によって終わらせるなら,長期金利が上昇するのは当然です.それは景気が回復したことの証拠であり,健全な過程です.他方,日本の金融機関は長期金利が上昇することを予想して,ポートフォリオを管理しなければなりません.国債価格の暴落が金融機関の健全さを損なう,といったことが日銀の政策運営に影響するとしたら,そんな不明瞭な方針に対して,金融市場が混乱を来たすでしょう.


WP Saturday, May 15, 2004

How the U.S. Can Get Out

By Yossi Alpher

アメリカは退出策を検討しなければならない.6月末に権力を移譲して選挙を実施させる,と約束したことだけ実行すれば,後にはシーア派の宗教国家が残るだけだ.今のところ,以下のような戦略が考えられる.

1.   それほど民主的ではないが,強力な治安維持軍を持つ親米政権を樹立する.ある程度,恥をかくが,賢明な政府が問題を解決できるなら,民主化を否定することにもならない.実際,アメリカが中東の体制転換を唱えたこと自体,民主化だけで実行不可能だった.

2.   民主化計画を捨てて,イギリス支配が終わって,バース党が支配する前の,ハシム家の支配を復活させる.彼らは今もヨルダンを支配する.近隣諸国は歓迎し,アメリカの重要な権益も守られる.

3.   すべてを国連に委ねる.アメリカは面目を失うけれど,それを最小に食い止め,世界中が歓迎する.しかし,国連指揮下で,アメリカ軍が引き続き大規模に展開しなければ,それは機能しない.アメリカ兵はイラクで殺され続ける.しかも,アメリカは地域の権益を守れない.

4.   イラクは,残酷な独裁者が居なければまとめることができないような,三つの国から成っていると認める.クルド国家,スンニー派三角地帯,シーア派南中部,をそれぞれ独立させる.しかし,それは地域の分離独立運動を刺激し,近隣諸国が強く反対する.

5.   勝利を宣言し,撤退する.アメリカと連合諸国の生命を守り,これ以上の手痛い失敗を防ぐ.将来のサダム・フセインたちには,アメリカが「ヒット・エンド・ラン」戦術で対抗し,彼らによる国家建設を許さない.長期的には,唯一の現実的な選択だ.

6.   現状維持.うずくまり,損害を減らし,「民主化」の新しい道を探す.スキャンダルを終わらせ,事態の好転を待つ.短期的には,最も起こりそうなことだ.官僚にも,イデオロギーにも,反発されないから.


FT May 16 2004

Wolfgang Munchau: A convenient marriage

By Wolfgang Munchau

フランスとドイツは,たとえ将来のヨーロッパ憲章をめぐって論争が続いていても,静かに,政策協力を進めている.かつての交戦国が,共同の産業政策,共同のマクロ経済政策,共同の外交政策に向かっている.それは友好的な国家の合併を目指すものだ.

先週,フランス・ドイツ両政府は,パリで合同の閣議を開いた.それは,両国が定期的に閣僚の相互訪問を行い,共同の意思決定や一層の協調行動に合意してきた成果である.また,フランス政府はドイツと,若手や上層の官僚たちを積極的に交流させ,フランスの首相は若手ドイツ官僚を内閣に入れて,協力の強化分野を発掘させている.

ヨーロッパ統合の50年から学ぶことがあるとすれば,それは統合を進めたいなら,制度を作れ,ということだ.このことは独仏二国間でも言える.フランスとドイツの動機は,自分たちの利益を守り,権力を拡大することである.特に,両国の政治エリートたちは,彼らの互いに及ぼす能力が厳しく制約されていることを理解している.イラク戦争を阻止できず,ユーロ圏が長期の経済停滞を経験していることは,政治的なマイナスとなり,自信を失わせてきた.

それが,ヨーロッパ憲章に反対するイギリスを追い出せ,という議論にもつながっている.しかし,重要なことは憲章の成否ではない.いずれにせよ統合は止められない.統合の形式が異なるだけだ.すなわち,より限定された問題について,独仏が主導するか,より包括的な問題についても,制度的な協力を進めるか?

独仏(英語では仏独)枢軸とは,戦略的な意味で,重要である.EU内の調和や大西洋同盟に反しても,仏独はイラク戦争に反対し,ヨーロッパ委員会,ECBが嫌っても,安定協定を無視している.こうして,ヨーロッパ統合は二国間の統合に強く偏る.

多くの疑念が,特に経済政策について,起きているのは当然だ.しかし,1億4000万人の人口を持つ,ユーロ経済圏の半分を占める両国の統合が,その利益を強く主張し,協力することで,良くも悪くも,決定的な力を持つ.


IHT, Monday, May 17, 2004

Rethinking the U.S. exit strategy

Anatol Lieven and Joseph Cirincione

WP Tuesday, May 18, 2004

Set a Date to Pull Out

By James Steinberg and Michael O'Hanlon

(コメント) どうすればアメリカは撤退できるか? アメリカが中東における軍事基地としてイラクやその誇大な大使館建設計画を利用せず,撤退の意志を明確に示すことで,中東諸国の理解を得ることだ,とLieven and Cirincioneは主張します.すでにアメリカの軍隊は,その軍事力を利用してファルージャやナジャフを制圧すれば,支持を失うと分かっていた.そうであれば,イラクについても同じことが言える.ヴェトナムで敗北したことを繰り返すのではなく,冷戦に勝利したように,中東の友好国を増やすべきだ,と.

Steinberg and O'Hanlonは,イラクが完全に治安を失う状態を避けるべきだ,と考えます.そのためにも,イラク国民の中から,アメリカの治安維持と民主化支援に協力する者が現れるよう,以下の政策を求めています.@アメリカ軍のイラク駐留は,イラク国民が自分たちで選択できるまでの,一時的なものだ.Aイラクが無法国家となり,アメリカの安全保障上の脅威となることを,アメリカ自身が阻止する権利を主張する.その安定した多元社会の形成を支援するため,他のさまざまな国際機関,地域協力を求める.Bイラク自身の治安維持軍や警察の要請を急ぐ.

LAT May 17, 2004

Even an Empire Needs Legitimacy. The Question Is, How Do We Win It?

By Niall Ferguson

WP Monday, May 17, 2004

The Democracy Option

(コメント) 他方,Fergusonはアメリカの撤退を認めません.国連や国際主義がイラクの安定化に役立つとは思えないからです.もしイラクが混乱し,周辺諸国が介入し,サウジの王制が崩壊するようなら,アメリカにも世界にも破滅的な損害をもたらすでしょう.むしろ,アメリカは単独でイラク復興を成し遂げるべきです.

ドイツや日本は今のイラクより酷い状態から復興した,とFergusonは考えます.その秘訣は,マーシャル援助です.今すぐ,イラクに対して500億ドルの援助を追加せよ,と.それはイラク人の新規事業に与えられます.治安は重要ですが,バクダッドの商人たちに融資が行われていないことも重要です.「限定された主権移譲」は,イラク復興と矛盾しません.むしろ長期的に,経済復興を優先する,という選択です.

WPも,ますます高まるリアリスト的なブッシュ政権批判の論調には,撤退後の世界に対する幻想が一杯だ,と批判します.バース党や軍人たちに権力を戻して,エジプトのようなソフトな軍事独裁国家にすれば良いとか,クルドの独立を認め,3カ国の緩やかな連邦にすれば良いとか・・・ いずれも安定化までの激しい内戦や,中東地域の不安定化を無視しています.撤退は,世界中で,テロとの戦争や民主化に対するアメリカの関与から信頼を失わせる,と.

イラクが,スイスではなくレバノンであることを放置するより,民主主義への途を支援し続けるべきだ,と.

LAT May 18, 2004

The Wrong Way to Build a Nation

By Kathy Gannon

IHT Wednesday, May 19, 2004

The dangerous idea of partitioning Iraq

Carl Bildt

(コメント) イラクに送り込まれた国連チームの最高責任者,Brahimiは,アフガニスタンのタリバン体制解体を監視しました.彼が成し遂げたことは,イラクにとって,好ましいものだろうか? とGannonは問います.治安,開発,自治,民族・宗派の和解,安定性,どれをとっても,その成果は不満足なものだ,と言います.

Bildtは,イラクの分割をユーゴスラビアと比較します.国境線は多大の流血無しに決めることが出来ず,それがどこに確定しても,多くの難民が生まれます.都市の支配や重要な資源をめぐって戦闘は果てしなく続くでしょう.そして,周辺諸国が介入し,同じ民族内でも報復や愛国心が,互いに正常な政治過程をも機能できなくするのです.混乱は国境を越えて,他国の飛び地にすら,広がる傾向があります.

アメリカやイスラエルが,安易に,イラク分割案を検討する姿勢を,Bildtは激しく非難します.


FT May 17 2004

Germany's debt trap

(コメント) 日本ではなく,ドイツが放漫財政と国家破産する危険をFTは警告しています.ドイツは,予算外の赤字が累積し,他方,成長率は予想より落ちました.それゆえ,増税ではなく,構造改革が求められています.ところが,政府は安定協定を非難することで,責任を回避しようとする混乱状態です.他方,日本は警告するような段階でも,問題でもない?


FT May 17 2004

Argentina stumbles

FT May 19 2004

Trade windfall

(コメント) アルゼンチンやブラジルはどうでしょうか?

2001年の末に債務不履行となって以来,アルゼンチンの政府と民間部門とは対立を続けています.今,対立の焦点となっているのは,電力不足です.政府は,ドルとの兌換性を維持するために電力料金を固定しましたが,その後,経済危機を経ても,この規制を維持しています.その結果,利益を得られなくなった電力産業は投資を拒み,国内経済の回復とともに電力不足が深刻になりました.さらに,隣国,チリへの電力供給契約も守れず,近隣の景気回復を妨げています.

アルゼンチンが,キルチネル大統領の方針で,IMFや国際投資家と対決姿勢を取ったことは,間違いであったと言い切れないように思います.しかし,電力価格の規制や投資をめぐる政治介入,国際価格との差を課税によって政府が横取りする考え方は,間違った政策であると思います.

ブラジルのデ・ラ・ルーラ大統領は,アメリカとの自由貿易協定に反対し,メルコスルやEU,中国との貿易拡大を,アメリカとの対抗で,拡大しようとしています.しかし,中国との貿易や,それによって上昇した国再商品価格は,また,中国の景気変動によってマイナスにもなります.貿易や投資のパターンが高くして,安定する,というイメージとは違うようです.


May 18 (Bloomberg)

Asia Honeymoons in Scary Shadow of Global Risks

Andy Mukherjee

May 17 (Bloomberg)

U.S. Praise Taylor-Made to Hide Japan Faults

William Pesek Jr.

(コメント) アジア共通通貨,アジア・ダラー,というのは幻想でしょうか? 日本の政府,金融関係者は,もっとも熱心に提唱するが,結局,誰もがアメリカの財務省証券に投資しているだけであれば,何が違うのか? アジア債券市場を育成する,と言っても,中国の経済成長が減速し,アメリカの金利が上昇し,石油価格が上昇する,といった複雑なショックに,アジア共通通貨は何か特別な答えを提供できるのか? と,Mukherjeeは批判します.

テイラー財務副長官が,日本を訪問して笑顔を振り撒いていたのは,アメリカの低金利を支え続けた日本が,漸く,景気回復したからです.政策の勝利,でしょうか? Pesek Jr.は,それがバブル経済に間違った対応を選択した日本の官僚たちにふさわしい言葉ではないだろう,と考えます.日本のGDP比で150%に達する国債や,デフレの持続を無視しているのではないか?

日本の景気が回復したのは,正しい政策によるのではなく,間違った政策にもかかわらず,中国の成長が輸出を介して波及しただけかもしれません.


WP Monday, May 17, 2004

Blind to Progress

By Sebastian Mallaby

(コメント) Bhagwati, "In Defense of Globalization."に関する紹介です.Bhagwati自身,若い頃はインドの計画経済や輸入代替工業化に参加し,そのときの経験から,再分配では貧困を解決できない,と考え,市場自由化やグローバリゼーションを支持する立場に変わった,と紹介されています.今では,アメリカの政界,ビジネス界にも支配的な影響力をもつ,外交評議会の一員です.

Mallabyは,インドでは成長によって地方の貧困も減少し,女性の権利尊重,児童労働の禁止,環境保護も改善された,と指摘します.しかし,インドの批判的な知識人たちは,Bhagwatiと違って,こうした事実に目を向けず,グローバリゼーションがインドの貧困を悪化させた,と主張しているのです.

どちらが正しいのでしょうか? ここには,戦争と同じように,グローバリゼーションに関する深刻な認識ギャップがある,と思います.


FT May 18 2004

Martin Wolf: Asia needs its own monetary fund

By Martin Wolf

アジア(東アジアと南アジア)は,世界人口の55%を占める.その経済は非常にダイナミックで,貿易も世界でもっとも急速に伸びている.貯蓄率は世界で最も高く,世界最大の経常黒字と外貨準備を持っている.今こそ,地域の貿易・通貨協力を加速する必要がある.

まず,貿易を見れば,2003年11月までの12ヶ月で,発展途上のアジア諸国からは輸出の40%が他の発展途上のアジア諸国に向かい,10%は日本に向かう.日本の輸出の45%が発展途上のアジア諸国に向かい,アメリカへの25%,ヨーロッパへの16%を大きく上回る.中国でさえ,その輸出の27%はアメリカ向けであるが,31%が発展途上のアジア諸国向けで,ほかに日本向けが13%もある.

すでにこれは,高度に統合された地域である.しかし,現在の部分的な地域的特恵協定は,効率的な生産の統合をむしろ脅かす.必要なのは,単一の,地域全体をカバーする自由貿易協定である.それが,市場志向経済の間の世界的な統合に向かうのである.

次に,通貨と金融はどうか.アジア諸国の政府は,主にアメリカに向けて,莫大な資本を輸出ている.これは単に愚かなことであるだけでなく,経済的な不安定化を招くものだ.

2002年と2003年に,アジア地域の主要経済は,日本の2490億ドルを含めて,5400億ドルの経常黒字を出した.その総額は,アメリカの経常赤字,1兆230億ドルの半分を超える.この莫大な経常黒字が過剰な民間貯蓄を輸出する過程で生じたのであれば,それも頷ける.しかし,ほとんどのアジア経済は,民間資本の輸出国ではなかった.

総計で,アジアの主要経済に流入した純資本額は1780億ドルだった.香港,シンガポールと,額は少ないが,マレーシア,タイ,インドネシア,フィリピンが資本の純流出国だった.他方,日本,中国,台湾,インド,韓国,これらすべての国はかなりの資本を流入させている.ところが,その政府が経常黒字にこの資本流入額を加えた額を取り上げて,公的な外貨準備に入れてしまうのである.それゆえ,これらの国の外貨準備額は,この2年間で,7180億ドルという,驚異的な規模に膨らんだ.

なぜアジア諸政府はこのような行動を取るのか? それは彼らがドル価値の下落を回避したいからである.理由は幾つかある.特に,日本と中国が心配するように,ドル安がデフレ圧力をもたらす.また,それは自国の輸出競争力を損なう.また,経常黒字を減らし,巨額の赤字をもたらすかもしれない.それが各国を投機にさらし,再び金融危機が起きるのではないか,と恐れているのだ.

このような外貨の循環は,アジアにとって好ましくない.外貨準備にすることで,自ら投資することによる利益が失われる.また,ドル価値の減少は外貨準備の評価損をもたらし,それは5000億ドルにも及ぶはずだ.最後に,マネー・ベースが激しく増加し,破壊的な資産市場のバブルや,遂にはインフレをもたらすだろう.

莫大な経常黒字と外貨準備を持つアジアがこれほど国際金融危機の回避に熱中することは無意味である.逆に,アメリカが脆弱になる.このアジアが感じる脆弱性を抑える一つの手段は,大規模なアジア通貨基金を設立することだ.この保険を得ることで,アジア諸国は為替レートの増価を許容し,内需を拡大し,経常赤字も出せるだろう.こうすることで世界的な不均衡は調整できるだろう.さらに,もしアジア人が気前よく融資するようになれば,アメリカ人よりも自国民の利益になるではないか?

2000年5月に合意されたチェンマイ・イニシアチブは,400億ドルの二国間スワップ取り決めであり,その予備作業であった.しかし,目標は少なくともその10倍の基金を設立することである.それでも地域全体の外貨準備のわずか5分の1を吸収するに過ぎない.そのような制度は,加盟諸国の経済を直截に調査する必要がある.最初は,IMFの下請けで始めればよい.

IMFは,3160億ドルの資本しかなく,アジアの大きな国にとって頼りにならない.さらに,その専務理事を選考する傲慢で偏狭な方法は,ヨーロッパ人が(アメリカ人と組んで)IMFを支配することを繰り返し示してきた.彼らはIMF分担金の配分を変えたくないために,その増資に反対している.今や,自国通貨も持たない,ちっぽけなベルギーが,インドよりも大きな分担金(それゆえ投票権)を受け持つ.まったくナンセンスだ.

アジア地域がその貯蓄を域内で吸収するには,効率的な資本市場を発展させる必要がある.しかし,今,最も優先すべきは,その尋常でない外貨準備の蓄積を止めることだ.最初の動きは中国からだ.その為替レートはドルに完全に固定されている.人民元が増価すれば,他のほとんどの通貨が,それに追随できるし,そうするべきだ.次の段階として,もっとも国際的な統合を果たした経済の間で,共通のバスケット・ペッグを選択することだろう.

際限の無い融資を止めることは,アジア自身にとって良いことだ.それはまた,アメリカにとっても良いことだ.莫大な経常赤字はアメリカに大砲とバターとの選択を,今まで,回避させてきたが,それが最後にはドル危機を招くかもしれない.この赤字を減らすには,アジア通貨が調整し,もっとアジアの内需に依存して成長し,アメリカが国内にマクロ経済の秩序を回復できるように,助け,強いることだろう.そして,アジアによる事実上のIMF離脱は,ヨーロッパには謙虚さを取り戻すために重要な教訓を与える.

アジアは,貿易,通貨,金融の協調に向けて,大きな一歩を踏み出すべきだ.たとえアメリカ人やヨーロッパ人がそれを嫌っても,彼らもそれを受け入れるしかない.


IHT Tuesday, May 18, 2004

A tour of the Palestinian refugee camps

Peter Hansen

(コメント) 1950年以来,パレスチナ人のキャンプを支援する国連の活動the UN Relief and Works Agency for Palestine Refugees (Unrwa) が何であるか,私たちは知りません.その委員長であるHansenは,私たちにパレスチナ・キャンプをぜひ訪れて欲しい,と書きます.

「もしキャンプを訪れたなら,あなたは非常に狭い路地を歩くでしょう.死者はそのまま運び去る必要があります.なぜなら曲がりくねった路地を棺が通らないから.コンクリートの難民シェルターを覗いて下さい.ディッケンズが描いたあばら家よりわずかにましな家で,13人か,それ以上の家族が,窓の無い部屋を共有します.特に暗闇に覆われた場所では,母親がひざに赤ん坊を乗せて眠っています.彼らをネズミから守ろうとしているのです.」

Unrwaは,59のパレスチナ・キャンプで,122の診療所と,660の学校を運営しています.国際会議を開いて,Hansenは各国からの寄付を少しでも増やしたい,と考えます.ブッシュ大統領が求める中東民主化,小泉首相がピョンヤンまで引き取りに行った拉致家族,その他,「国際社会」や「人道支援」,「国際法」の隙間に,パレスチナ人が生きていく場所も無いのだろうか,と残念に思います.

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The Economist, May 8th 2004

Germany’s economy: Reform begins at home

German economic policy: The Keynesian temptation

Structural reform in Germany: How to pep up Germany’s economy

(コメント) ドイツの低迷と構造改革への政治的な抵抗がテーマです.しかし,ここで書かれているほど,本当に労働組合やドイツ国民は愚かでしょうか? 既に言い尽くされたことですが,ドイツの成長を奪った主な要因を,The Economistは以下のように列挙します.@ヨーロッパの経済・通貨統合.A東ドイツ統一.B各州の自律性を重視した連邦制度.C煩雑で,コストを高める労働規制.

もし問題がそれほど明白であれば,なぜドイツは変われないのか? 社会民主党が政権を握っている限り,既得権を奪う改革は採用できません.選挙の前には,さまざまなスケープ・ゴートを議論することや,ケインズ主義的な財政刺激策の新しい便法を考えることしか,政治家には考えられないようです.

The Economistは,新しい企業やEUの新加盟諸国に期待します.彼らは規制や障壁を破棄することで利益を上げるからです.新しい雇用や成長の機会を,自分たちで見つけ出します.


Iraq: What must be done now?

Sir Jeremy Greenstock

(コメント) この論説で,イギリス外交官であったGreenstockは,イラクの政治過程が徐々に形成されてきたことを指摘し,民主主義の確立に必要な段階は前進しており,英米はイラクに民主的な政府を樹立する機会を失ったわけではない,と主張します.イギリス政治におけるアメリカとの交渉,戦争への姿勢,占領統治の下での民主主義確立という目標を堅持すること,などの点で,外交官の精神を感じさせます.不確実さが増す中でも,将来の可能性を評価し,選択肢を見出し,正しい原則を掲げて忍耐強く働きかける.優れた外交官は,軍隊と同じように,勝利の条件なのです.


Poland’ unruly politics: When populism trumps socialism

(コメント) ポーランドの野党は,明確に,その政治目標を意識しています.「ジョージ・ブッシュはイラク侵攻の罪で裁かれるべきだ.ポーランドは,EU加盟の条件を改善できないなら,脱退するべきだ.ポーランド国立銀行の準備の半分は,農民と住宅購入家族のための低利融資に使うべきだ.もしそれで通貨ズロチが安くなるなら,それで良い.ズロチは過大評価されている.」

とんでもない党綱領でしょうか? ポーランド国民の2割から3割が支持する政党です.


The economics of auctions: Cursed

(コメント) 経済学者は,問題が制度的に解決できなくなると,オークションを唱えます.市場が正しい答えを知っているはずだから.

しかし,Googleの株式を市場公開する手法として,投資銀行に頼らず,オランダ式のオークションを行うことは,その後に,価格の暴落を招くかもしれない,と記事は心配します.株価をしばしばカルテル的に操作してきた株式市場のカラクリに反対する意味では,斬新な手法も,正しい株価を発見できないかもしれません.市場が示す価格は,常に,正しいわけではない.オークションの条件は,非常に繊細で,恣意的で,操作されやすいように見えます.