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IPEのタネ 5/24/2004
小泉再訪朝と短い首脳会談は世界のニュースになりません.この会談が拉致問題の解決を持ち越した両国間の交渉に限定されたからでしょう.その短い,1回切りの会談には,「あっけない」という表現が適当だ思います.
日本と北朝鮮の政治指導者が話し合う場合,残された拉致家族を取り戻すことが,本当に,最重要な課題なのでしょうか? 家族がバラバラになったままの状態で,北朝鮮から譲歩を引き出せる,とした判断は,間違っていたと思います.拉致問題に対する,日朝両国の政府間における評価や認識の違いはあまりに大きく,その溝は埋まらなかったわけです.
日朝国交正常化とは何でしょうか? 日本の植民地支配や朝鮮戦争の終結,南北分断状態の現状をどのように国際機関が認めるのか? あるいは,南北統一に向けた交渉にも及ぶのか? 北朝鮮が核兵器開発を完全に放棄し,東アジアの地域的な安全保障の枠組みで自国の安全を確保するような合意を見出せるか? 現行の「全体主義的」独裁体制が,何らかの改革を進めると前提して,国内の人権や経済状態を改善するために支援できるのか? など.
北朝鮮による拉致事件を,イラクの日本人人質事件や,首を切り落とされたアメリカ人ニコラス・バーグ氏,ヴェトナム戦争やイラク戦争に対するアメリカの兵役拒否者,戦後の北朝鮮に帰国した人々やその家族,中国から日本に帰国した残留孤児たち,国内における人質立てこもり事件,諸外国のテロや誘拐に関する事例,などと比較してほしいです.
「何が最終的な解決なのでしょうか?」と,NHKの日曜討論で,司会者は栗山元駐米大使に尋ねました.栗山氏は苦労しつつ,言葉を選んで,それは今後の情報とご家族の感情による,と答えました.最終的な解決! 家族にとっては,肉親が帰ってくることです.責任者が罰せられ,苦労を強いられた,何の過失も無い人々に十分な補償が行われることです.しかし,その非難が日本政府の外交政策に及ぶとき,飛躍がある,と感じました.政府は,もっと政治的な原則と,責任や補償の原理を明確にするべきです.
なるほど,北朝鮮と日本は今も交戦状態にある,と思いました.小泉氏に,その覚悟があったようには見えません.
前日,私は,すでに朝鮮半島の北朝鮮軍や在韓米軍,韓国軍,自衛隊や在日米軍基地は,最高レベルの臨戦警戒態勢を採っているだろう,と思いました.しかし,北朝鮮にはもうそんな力が無い,と楽観する人も多いでしょう.北朝鮮は,日本から援助をできるだけ多く引き出したい,と思っているだけだ.アメリカは本気で攻撃してくるかもしれないが,日本が単独に攻撃することはない,と計算しているはずだ.アメリカ軍は,と言えば,イラクの占領統治に失敗し,世界各地で二つでも三つでも同時に戦争できる,と豪語していた情勢とまったく違っています.
たとえ小泉氏が日米関係(ブッシュ氏と自分)の親密さを指摘しても,体制転換レトリックが後退したアメリカの現状を知っている金正日には余裕があったわけです.むしろ,なぜ小泉氏は選挙前に行ったのでしょうか? この会談が失敗して困るのは小泉氏です.戦争よりも政治ショーとして,世論を動かすなら,ブッシュ氏よりも賢明です.しかし,北朝鮮政府は世論を気にしません.日本からの援助は,独裁体制と軍の補強に利用するだけだ,という批判を,赤十字のような国際機関が解決できるとは思えません.
政治的な解決,法・制度的な解決,家族の感情,それらを議論するには,準備が必要です.国際的な危機は,それを解決する政治的な手腕と,国民の側の健全さ,頑健さがあれば,新しい可能性を開くでしょう.日本の市場や政治システム,言論界は,頑健でしょうか? あるいは,パニックを起こすような脆弱さに満ちているでしょうか?
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