3.貧困:社会的分解と集団的制御――なぜ貧困はなくならないか?
<思考実験>
1.クラスの半分の学生は,非常にやせた土地へ,雨が降らず,降れば大洪水になる半砂漠の土地へ,定住させる.他の半分は,温暖で,程度の降水量のある,非常に肥沃な土地へ,定住させる.:先住民族は少ないか? 多くの労働者が必要か?
2.クラスの半分は,非常に発達した市場と,民主的で,自由な経済・政治制度を採用し,他の半分は,発言することも,移動することも無い,正しい情報すら手に入らない,因習的な規範に厳しく従う生活を強制する.
3.クラスの半分は,安定した価格で輸出の伸びる商品を生産させ,一定の貯蓄ができる.他の半分は,価格変動の激しい,輸出市場がしばしば失われる商品を生産し,しかも借金で生活させる.
4.クラスの半分は,貿易も投資も,国際移民も自由な世界に生まれ変わる.他の半分は,貿易も投資も厳しく管理され,移民を禁止した世界に住む.
5.あなたたちの能力に目立った差が無いのに,その社会的な結果が異なると予想する理由は何か?
「誰も,生まれる土地やその社会,自分の階層,家庭を選択できない.」
★ シエラ・レオーネの母子の姿
貧困は,弱者の社会的な無力さの中にあるのです.
(1)なぜ現代でも貧困があるのか?
資本ストックと知識を蓄積して,人類はすべての地域から貧困を無くせたはずではないのか?
★ スーザン・ジョージ『なぜ世界の半分が飢えるのか?』朝日選書
「いつの時代でも,どこの国でも,まず豊かな人間から食べる.」
★ ティンバーレイク『アフリカの貧困』亜紀書房
飢餓は旱魃のせいでは無い.
★ 鶴見良行『アジアはなぜ貧しいのか』朝日選書
「植民地経営の財源と富の蓄積には三つのやり方があります.第一が交易の独占で,18世紀までの東南アジアでは,これが支配的な形式です.第二がプランテーション農業やオランダの強制栽培のような労働の収奪です.第三が,アヘン,酒,豚肉,質屋などの専売権,営業権の競争入札による下請けで間接税を徴収する仕組みです.」
★ ガレアーノ『収奪された大地:ラテン・アメリカ五百年』新評論
資源があれば,住民は豊かになれたか?
「ラテン・アメリカは,いわば血管が切り開かれている地域である.」
★ アルン・クンナニ「オルダムからブラッドフォードまで:犯された者の暴力」(人文科学研究所『社会科学』第69号)
「それは、肌の色、階級、警察が分けた境界線によって、引き裂かれたコミュニティーの暴力であった。それは、希望を失った者の暴力である。すなわち、犯された者の暴力(the violence of the violated)だ。」
貧困の法則:富の社会的な生産システムを損なうものの系譜
@「搾取」:生産手段と労働者との分離
A「悪魔の碾き臼」:市場価格の不安定化と社会的調整力の低下
B「独裁者」:分配をめぐる戦乱の頻発,分配制度の支配
C「隔離・差別」飽食と傲慢の文化:支配層の無知,放縦,不合理,退廃
D「環境破壊」:富の追求と競争,不平等,科学知識への過信
(2)貧困の解決策は無いのか?
★ ジャック・ラーキン『アメリカがまだ貧しかったころ』青土社
アメリカも貧しかった.
:社会的革新への情熱と,空間的・社会的移動性.
結び:貧困のない社会
★ バーバラ・ウォード「むすび:耐えることのできない混乱」(ウィルシャー&ライター『爆発する大都市』)
「OPECの最近のある会議で,石油消費国の代表が,石油産出国の代表にこう語ったらしい.『ご存知のように,石油はこの地球共同体全体にとって非常に重要です.そこで石油は,国際管理下におくべきだ,と思います.』これに対して石油産出国の代表はこう応えた.『それは実に素晴らしいお考えですな.するとアメリカとカナダの北部平原も,国際管理体制に委ねられるわけでしょうね.食糧もまた,国際社会にとって非常に重要なのですから.』」
「食糧やエネルギーの集中は,われわれが全く新しい方法で地球的規模の管理問題に取り組むべきことを示している.・・・世界が必要としているのは,もっと多くのパンや住宅であって,核弾頭やミサイルでは無い.」
<開発援助のチェック・リスト>
もし援助が,
l 参加する人々の望むものを,
l 女性や特定の不利益を被っている集団のために,
l 地元でコントロールして,
l 地元の人的・知的資源や,
l 地元の物的資源をできるだけ用い,
l 長期間継続する形で,
l 節度のある金額を,つまり援助資金への依存をもたらさない程度で,
l 新しい社会的つながりを育てるように,
l しかも現地の行政機関とは対立せず,
l その援助の社会的影響によって不利益を被っている人々の社会的地位を向上させることができるなら,
成功する(貧困を減らせる)可能性がある.