政治地理研究部会

最終更新日:2013年9月5日


第5回 政治地理研究部会 研究会 報告

日時:2013年7月20日(土)午後1時30分〜午後4時
会場:滋賀大学大津サテライトプラザ
滋賀県大津市春日町1-5(JR大津駅前 平和堂アルプラザ大津5階) 

テーマ:琵琶湖の湖沼流域管理をめぐる環境政治

趣 旨:環境政治の政策決定において、地方行政では計画策定に住民参加の動向が反映されつつある。琵琶湖をめぐる湖沼流域管理について、滋賀県行政や関係行政機関における政策および計画の変遷を概観しつつ、政策決定プロセスへの住民参加の結果を踏まえ、琵琶湖の保全に対する住民の価値観についても分析する。

■研究発表:琵琶湖をめぐる湖沼流域管理の変遷
報告者:  平山奈央子(金沢大学)

 まず,琵琶湖の環境変化やそれに関わる県の政策,住民運動(活動)について歴史的変遷を概観した。琵琶湖では1930年から上水の給水(大津市),42年から内湖干拓,69年から下水道供用,72年から(琵琶湖総合開発特別措置法に基づき)琵琶湖総合開発が始まった。77年の赤潮の大発生を受けて,せっけん会議が環境保全運動を開始し,それらの運動が影響して79年には富栄養化防止条例が制定された。その後,80年代後半から住民による琵琶湖の環境保全活動が活発化し,2000年には開発から保全のための琵琶湖総合保全整備計画が策定された。
 本発表では,特に,「琵琶湖総合保全整備計画 マザーレイク21計画(以下,ML計画)」の再策定プロセスを研究対象とし,住民の湖に対する価値観を把握する手法,把握した価値観を政策決定の議論の場で活用する手法,様々な価値を持つ利害関係者の合意形成のための手法を紹介した。
 ML計画は2000年に河川管理者である滋賀県によって策定された琵琶湖保全のための総合計画である。同計画は,「水質保全」「水源涵養」「自然的環境・景観保全」の3つの分野について2010年までを第1期,2020年までを第2期,2050年ごろをあるべき姿としてそれぞれ目標を設定し,そのための対策や施策を定めている。第2期計画の再策定に向けた検討が滋賀県および琵琶湖総合保全学術委員会によって2008年から開始された。
 計画検討プロセスの一環として,滋賀県民の琵琶湖に対する価値観を把握するためのアンケート調査を,滋賀県政世論調査(N=3000)の一部として実施した。調査の結果,滋賀県民は水資源,生態系,景観,産業,生活文化の順に価値を置いていることが明らかになった。一方で,琵琶湖の環境に関する利害関係者(環境保全活動をする住民や事業者,農業者等)を対象として同様の調査を実施したところ(N=15),世論調査の結果とは異なり,水資源よりも生態系や景観に価値を置いていることが明らかとなった。
 次に,先に述べた琵琶湖の環境に関する利害関係者15人を対象として琵琶湖の将来像を描くワークショップを全5回開催し,その議論の結果を専門家委員会で扱うための分析方法について紹介した。具体的には,ワークショップから得られた発言記録,アンケート結果など,全てのテキストデータを文章化し,それらをテキストマイニングすることで議論の中で話題の出現頻度などを可視化することができた。この手法により,ワークショップにおける議論の内容や結果を客観的に把握し,計画検討の際の貴重な資料になることが考えられる。
 これらの研究では,計画策定段階での政策決定プロセスに住民の価値観を反映させるため手法を提案してきた。今後は,計画実施段階での行政と住民のコミュニケーション手法やコンフリクトの共有や議論の方法について研究をすすめる必要がある。
 

■質疑応答


■司会所見

 第6回政治地理研究部会の報告者であるColin Flint氏による『地政学入門』にも環境政治の章があるように,環境問題が政治地理の継続的なテーマとなることは確実であろう。今回の報告者は環境科学の立場から琵琶湖の環境政策を論じたということになるが,質疑応答における地理学者と環境科学者の議論が政策,計画,行政,住民さらには調査方法という点で収束していたように隣接分野としての交流がますます期待できる。琵琶湖に限らず,日本あるいは世界各地における環境問題の論議に地理学者のさらなる参画が望まれる。

(参加者17名、司会・記録:香川雄一)



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