これまでの研究
少子高齢化が進む日本において,不足する労働力の確保を高齢者に求めるならば,高齢者の高い就業意欲をどう維持するかを議論することが重要となります.また,社会保障財政の観点からいえば,高齢期の健康格差は介護や医療などの政策的課題において重要な論点となります.これまで,私は主にマイクロデータを用いながら,高齢期の就労についての分析と高齢期の健康についての分析を計量的に行ってきました.
現在とこれからの研究
現在,私は個人の時間配分(時間の使い方)に注目した分析に取り組んでいます.標準的な経済学の分析では,消費と余暇から効用を得ると考え,利用可能な時間のうち労働に費やす時間以外を余暇とします.しかし,働き方の変化は労働時間の総量だけでなく始業や終業時間,就業場所の変化を伴うため,労働以外の時間の使い方も大きく変わります.このような変化の違いは健康形成や家計内生産活動に影響を及ぼすのでしょうか.そもそも,このような時間配分の違いは何から生じているのでしょうか.
すべての人々は睡眠に余暇の多くを費やします.睡眠時間が生産性に与える影響の分析では,生産性を向上させる働きを持つ睡眠の重要性を指摘しました.また,労働時間が健康に与える影響の分析では,労働時間が健康に与える影響には非線形性(逆U字型)があることを示しました.
今後は,就業や睡眠,育児といった行動時間や行動時間帯が健康に及ぼす影響の分析や,行動時間や行動時間帯の相互依存関係についての分析など,個人の時間配分に注目した分析を引き続き行う計画です.これらの分析では,パネル分析や操作変数法,自然実験などの因果推論の手法により内生性や個人の異質性から生じる問題を解決することで,分析から得られるインプリケーションを深化させることにつなげたいと考えています.