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「運が悪かった?−新卒労働市場の様変わり−」/2002年度文学部就職情報(春号)

「就職戦線異常なし」という映画がある。1991年の制作で、超売り手市場華やかなりし頃、大手マスコミ限定で就職活動をバブリーに繰り広げる学生の青春群像をコミカルに描いた作品である。就職活動に苦戦中の4回生がみれば、極めてたちの悪いパロディとしか思えないだろうが、10年前は誇張でも何でもなく確かにこんな感じだったのである。冗談じゃない、やってられない、そう、今の学生はもっと怒っていい。10年前と現在とでは、新卒労働市場を取り巻く経済・社会環境が激変してしまっている。その点を不問にして、就職活動における不首尾を、すべて自らの責任において被ってしまう必要など全くない。

何よりも呆れるほど不況が長引いている。失業率が5%を超え、中高年の雇用不安ばかりが取り沙汰されているが、15〜24歳では10%、25〜34歳では6%と、若年失業率のほうがよほど高い。その一方で、パラサイト・シングル論に代表されるように、若者の就業意識の低下が、安易な自発的失業やフリーターを生み出しているとするむきもある。実際、苦労して就職したにもかかわらず、大卒者の3割が3年以内に離職している現況をみれば、最近の若者はやる気がない、ちょっとしたことですぐに辞めてしまうとぼやきたくもなろう。

しかし、公表データを論拠にしたある研究によれば、社会通念に反して中高年、特に大卒ホワイトカラーの雇用は、今なお手厚く守られている。雇用調整=中高年リストラと思われがちだが、一足飛びの解雇などあり得ず、まずは新卒採用を抑制することで対応する企業がほとんどである。例えば、「置換(既得)効果」と名づけられているが、45歳以上の社員の比率が高まった企業ほど、新卒採用の求人は大きく減少しており、この傾向は大企業で顕著である。また、「世代効果」として、卒業時点の失業率が高まると、正社員になりにくくなるほか、希望通りの就職ができないため、転職しがちになることも実証されている。

確かに、採用抑制によって仕事量が飛躍的に増加し、長時間勤務を余儀なくされる若者が相当数存在する。また、後輩が入社しなければ、いつまでも末端の業務を強いられ、仕事を通じての能力開発や内的な成長も望めず、必然的に将来に対する希望や働き甲斐も見出せなくなる。先日も、この春卒業したばかりの学生が、わずか1ヶ月弱で会社を辞めたと聞いた。一瞬、なんて根性がないのだろうと思ったが、入社以来1日たりとも休みなく勤務が続いていたらしい。極端な話かもしれないが、これでは過労死する前に辞めたくもなろう。

もちろん、何もかも世の中が悪いのだという言い訳を学生に与えたいのではない。問題の所在を学生自身に軸足をおいて論じるのか、あるいは外的要因に軸足をおいて論じるのかによって、随分とらえ方が違ってきてしまうということを認識して欲しいのである。このような時期に就職せざるを得ない学生は、運が悪かったとしか言いようのない側面が間違いなくある。そう理解できれば、学生がどれだけ揺れ、混乱し、結論を出すのに時間がかかろうとも、周囲は今までよりずっと優しいまなざしを向けずにはいられないだろう。本学の学生が、苦しくも充実した日々を乗り越え、納得のいく社会への第一歩を踏み出せることを心から願っている。



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