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「21世紀大予想:本学教員10年後を語る」/Wild Rover(Vol.19)

十年後雇用状況は明るいか

不景気、リストラ……、社会全体が大きく変動し、雇用に関しても暗い話題ばかりが続いた世紀末。今後も変化の勢いは止まりそうにない。雇用の未来は明るいのだろうか。

この十年間に雇用をめぐる状況は大きく変わりました。

第一は、低成長時代を迎えて終身(長期)雇用制度が崩壊しつつある点。以前は入社すれば、よほどのことがない限り定年まで勤めあげるというのが一般的でしたが、今は「七五三離職(中卒者の七割、高卒者の五割、大卒者の三割が在職三年以内に辞めていく。)」が現状。加えて、企業が求める人材像も変化してきました。終身(長期)雇用を前提とした日本企業には、新卒者を徹底した企業内教育によって社の色に染めるという傾向がありましたが、今はそんな悠長なことはしていられません。即戦力になる、何らかのキャリアを持つ人材が求められています。また雇用される側も、一部上場企業ですらリストラの嵐が吹き荒れ、いつ倒産するか分からない昨今、ただ一社でしか通用しないような実力では先行き不安は増すばかり。留学や資格取得など、今後もキャリア志向は増大するでしょう。

第二は、労働者の属性による「くくり」が取り払われつつある点です。例えば、十五年前に男女雇用機会均等法が施行されてから、様々な問題点を残しながらも「一生勤めあげる男性V.S.職場の補助的な役割を経て結婚退職する女性」という構図が明確に崩れてきています。女性の大学進学率も上がり、かつての男性並みに一生仕事を続ける女性や、少数派ではありますが、家庭で主夫をしたい男性も出現しています。男性だから、女性だから、若いから、熟年だから、そういう属性だけにとらわれない雇用形態が広がりを見せています。日本の労働組合の組織率が20%まで低下したのも、集団ではなく、個人で働き方を選ぶ時代になってきたことのあらわれかもしれません。

属性にとらわれず、それぞれのペースで自分自身の能力を生かすことができる職場、これは理想的。ですが、ここで忘れてはならないのは、自己の権利を主張するためには、自己の責任の拡大も避けては通れないということです。男性だから、女性だから、長く勤めているから、と様々な「くくり」に守られていたのが、個人レベルで否応なしに市場メカニズムに組み込まれていくのですから。それに伴うリスクを自己管理するのは、必要不可欠と言えるでしょう。

労働者を取り巻く環境が激変する中、急務なのは失業給付などに代表される社会的セーフティネットの一層の整備。今後、本人の資質や努力に反して失業の憂き目にあう人や、時代の変化に乗り遅れる人など、何らかの形でサポートしなければならない労働者が増大するはずです。転職をスムーズに運ぶシステムや、ITリストラにあわないためのスキルを身につける場の提供などの整備が待たれます。大学もその一つの手段となるでしょう。さらにステップアップを目指す社会人が、必要な知識や能力を取得するため、育児や介護などで一定期間職場を離れた人が、復帰を目指して再度勉強するためなど、多彩な活用がなされるべきだと思います。

私は、二十一世紀の雇用状況は意外に明るいと考えています。景気の見通しは今のところやや上向きつつある程度ですが、高齢化や少子化の進展により、十年後の労働力は間違いなく不足すると言われています。そんな状況下、意欲的で質の高い労働力が、より良い待遇で迎えられるのは自明の理。一人一人が納得できる働き方に向けて、可能性は大きく広がっているのではないでしょうか。



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