第67回中日理論言語学研究会

日時:2026年5月17日(日)
場所:同志社大学大阪サテライト・オフィスおよびオンライン


ご報告:
 先にご案内いたしました第67回中日理論言語学研究会は、5月17日(日)に同志社大学大阪サテライト・キャンパスおよびZoomオンラインにて開催され、 60名の皆様にご参加いただき、成功裡に終了いたしました。ここにご報告申し上げます。

 今回の研究会では、「漢語官話的形成与演変」と題するシンポジウムを開催し、官話形成の歴史をめぐって、歴史的変化と地域差を視野に入れた多角的な議論が展開されました。

 Richard Simmons氏は、漢語史をロマンス諸語の形成史と比較しながら、官話を長期的な言語連続体の中で捉える視点を提示されました。北朝から唐宋期にかけて成立した「早期北方話」や “Common Dialectal Chinese” を「原始官話」とみなし、軽唇化、入声の変化、児化、「他」などの特徴が段階的に形成されたことを論じられました。また、明清期には「南音系官話」と「北音系官話」という二つの通語体系が並存していたことを示し、官話史を単純に北京語中心で理解することに再考を促されました。さらに、白話文の成立を官話発展の重要な指標として位置づけ、話し言葉の歴史を重視する必要性を強調されました。
 続いて徐丹氏は、北京話と河州話の比較を通して、「官話」内部に見られる形成原理の差異を明らかにされました。北京官話が遼・金以来の北方漢語の歴史的蓄積の上に成立したのに対し、河州話はモンゴル系・チベット系諸言語との接触の中で、13世紀以降に形成された比較的新しい言語体系であると論じられました。特に、河州話に見られる格標識、包括・排除の区別、把字句の欠如などの統語的特徴は、漢語以外の言語との接触による深い影響を示すものであり、官話形成を音韻変化のみでは説明できないことを示唆されました。
 最後に木津祐子氏は、明清期の文献資料を用いて、「官話」という概念そのものの歴史的実態を再検討されました。官話が「居官」「商業」「教養」という社会的役割を担う実践的な共通語であったことを示すとともに、文言に近い高位語体から俗語的口語に至るまで、複数の語体層が存在したことを指摘されました。また、「正音」観念を通じて、各地の方言話者が自らの土音を調整しながら官話を運用していたことを明らかにされ、近代以前の官話が、現代普通話のような固定的・均質的体系ではなく、地域性と可変性を内包した柔軟な言語体系であったことを論じられました。

 本シンポジウムを通じて、「官話」は単一の標準語としてではなく、歴史的変化、地域差、社会的機能、さらには異言語接触を含み込んだ複層的な言語連続体として理解すべきであるという認識が共有されました。官話研究は今後、文献学・方言学・社会言語学・接触言語学を横断する総合的研究へと、さらに発展していくことが期待されます。
次回の第68回中日理論言語学研究会は、2026年9月27日(日)に開催予定です。詳細は追ってご案内申し上げます。皆様のご参加を心よりお待ちしております。





<発表者及び発表題目(敬称略、順不同)>
(発表概要(PDF)を公開いたします)



Richard Van Ness Simmons 史浩元(The University of Hong Kong):
「辨析官話方言演變的階段和路程」(PDF)


徐丹(Johannes Gutenberg-Universitat Mainz):
「北京話和河州話的形成−兩種模式,兩種結果」(PDF)


木津祐子(京都大学名誉教授):
「論学官話」(PDF)





※著作権は発表者にあり、引用される場合「中日理論言語学研究会第67回研究会発表論文集」を明記すること