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「若年失業・早期離転職・セーフティネット」/2000年度文学部就職情報(秋号)

文部省の学校基本調査によると、2000年3月に大学を卒業した者53万9千人のうち、進学も就職もしていない無業者が12万1千人もいるらしい。実に20%を超える高率である。さらに「七五三離職」と呼ばれるように、中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が在職3年以内に辞めている現状がある。こうして数字で挙げてみると、いかに不況で若年層の雇用機会が奪われているとはいえ、凄まじい数の若者がフリーターや家事手伝いという名のもとに街を漂っていることが分かる。たとえそうでなくても、離転職を繰り返していれば、よほどのステップアップが達成できていない限り不安定な印象がつきまとう。

普段学生と接していて感じることと、日本労働研究機構によるフリーターに対するヒアリング調査の結果とは、「拘束を嫌う」という点で見事に一致している。フリーターになるのは「自由だから」「時間の融通がきくから」「休みが取りやすいから」であり、学生も会社に縛られるのは嫌だと言う。そして双方とも何よりも「やりがい」のある仕事がしたいと言い、夢の追求には妥協がない。このような生活がなぜ成立するのか?なぜ「やっていける」のか?社会システムが、今なお非正規労働者に冷たく、雇用の流動化に対応できていない以上、一時的なモラトリアム、切り詰めた生活、何らかのセーフティネット等が背景として考えられようか。明らかに「豊かさ」なしには生み出されない現象である。

大方のご父母の目には、大学まで出たのにふらふらして……というマイナスイメージで映ろうが、生活に追われることのない豊かさが実現する夢も確かにあるし、そのような夢を追求できるのはやはり幸せである。私自身で言うならば、大学を出てから4年間、アルバイトも碌にせず、実家にパラサイトして大学院生活を送った。親にそれを支えるだけの余力がなかったら、この道には進めなかっただろう。決して裕福な家庭ではなかったから、その分プレッシャーも大きかったが、経済的理由で十分な勉強時間を確保できなかったり、就職せざるを得なかったりした人たちの無念さと比べれば取るに足りないことである。

もちろんネガティブな側面は多々ある。どう好意的に解釈しても見通しが甘過ぎたり、努力が不足していたり、そのまま怠惰な生活に陥ってしまう例もあろう。実のある就業経験がないまま、スキルを形成しないまま若い時代を終えてしまうと、やり直そうにもその事実が労働市場では決定的なハンディキャップになりかねない。最後までセーフティネットに恵まれるごく少数の幸運な人たち以外は、恵まれた状態にある時こそ、それに溺れることなく冷静に自分自身の実力と将来を展望して、設計図を描く必要があるように思う。

それにしても、ウチの子は仕事も長続きしないし、やりたいこともよく分からないし、結婚もしないし、いつまでも親のすねを齧って先が思いやられる……というお嘆きを結構頻繁に耳にしますが、相手は十分な教育を授けた立派な成人、どうして家から叩き出してしまわないのでしょう?いわゆるパラサイト・シングル論に話がおよぶと、多くの学生は平然と言い放つのです。それは親が望んでいるからだ、と。



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