IPEの果樹園2021

今週のReview

1/18-23

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帝国の野蛮 ・・・アリババ創業者の失踪 ・・・「私の時代」の終わり ・・・議事堂襲撃と幻想政治 ・・・ナルシシズム、デマゴーグ、嘘 ・・・改革と金融市場 ・・・トランプ後の経済政策 ・・・「理性的でない人びと」

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 帝国の野蛮

The Guardian, Fri 8 Jan 2021

A return to civility will not begin to quell the threat of fascism in the US

Richard Seymour

顔に色を塗ったLARPers(仮想体験型ゲームマニア)たち、QAnon陰謀信奉者、民間武装集団、ネオナチ、キリスト教至上主義者、終末論者たちがワシントンDCの議事堂を侵略したが、彼らは大統領選挙の結果を翻すわけではない。

しかし、彼らは決して孤立した一部の変人集団ではない。共和党有権者の45%が支持し、ドナルド・トランプが召還した者たちだ。トランプは繰り返し民間武装集団を支援した。ロックダウン反対集会、ブラック・ライブズ・マターに対抗する暴力、そして、投票日の行動を呼びかけた。

そもそもどのようにして武装した暴徒たちは議事堂に侵入したのか? 警官たちと自撮りを楽しみながら。立ち退くまで、彼らは勝利を宣言し、驚くほどゆっくりと州兵は到着した。

これはすべて、初期ファシズムを示している。暴力的で、議会を超えた、右翼の大衆運動に向けた文化的、政治的な準備運動だ。ファシズムが独裁の形を取ると考えてはならない。数百万人、数千万人がすでに国粋・人種・ナショナリスト的イデオロギーに影響されているからだ。

特に裕福な人びとの間で、権威主義的な政府を支持する者が増えることは重要な兆候だ。極右の政治家が再選され、政府がリベラルな法規範や制度に軍事的に挑戦し始める。単独行動のテロリストや陰謀論者が増える。民兵や準武装集団が、しばしば警察や軍隊と緊密な関係を取りながら行動する。戦争は彼らの溶鉱炉であった。

2008年の大統領選挙で、狂信的な人種差別主義者たちが銃や縄(リンチで黒人をつるす)を持ってタウン・ミーティングに現れた。オバマをイスラム教徒とみなし、「バーサー」(出生証明を求める者たち)の神話が生まれた。彼らは共和党を完全に分割し、中産階級に支持基盤を築こうとした。

トランプ主義は逸脱ではない。それは大衆現象だ。ジョー・バイデンがこうした現実を変えて、市民的な、超党派的なワシントンを回復する、と信じるとしたら、それは許しがたい思い上がりだ。アメリカは、そしてアメリカだけでなく世界中で、反ファシズムの運動が必要だ。この現実を終わらせる最初の一歩も見いだせていない。

PS Jan 8, 2021

Trump’s Götterdämmerung

IAN BURUMA

この醜悪なショーは予想されたことだ。トランプは大統領選挙の討論集会でも、選挙結果を受け入れるか、と訊かれて、結果次第だ、と答えていた。自分の勝利だけを受け入れる。それ以外の結果は、不正である。

トランプがリベラルな民主主義のルールを守らないことは明らかであった。他にも、自由な新聞報道を「人民の敵」とみなし、彼の政敵であったヒラリー・クリントンを投獄せよと主張し、移民たちを強姦魔や麻薬密売人であると主張した。大統領として、トランプは、ユダヤ人や黒人との戦争を宣言する暴力的な過激派を承認し、奨励さえした。

トランプはカルトの指導者である。支持者たちは、暴力的で、退廃した都市から、リベラルなエリート、黒人、ゲイ、移民、その他の汚染されたエイリアンたちが住む邪悪な世界から、救済される約束を得る。多くの人々がトランプに投票したのは、彼が政治家よりも、むしろ彼らの救世主であるからだ。

トランプは人びとの苦しみ、さまざまな社会・経済問題を利用した。目立つ髪型で支持者を集めた。彼はビジネスマンとしては失敗を重ね、詐欺師として、何より、テレビ・ショーの司会者として成功した。トランプの支持基盤を継承することを望む共和党の政治家たちは、だれもそれにふさわしくない。

トランプがいなくなれば、共和党が内紛を悪化させるだろう。

FP JANUARY 9, 2021

It Happened Here

BY JONATHAN M. KATZ

水曜日のアメリカ議会議事堂における流血と混乱の衝撃は、アメリカ人にさまざまな比較を促した。マサチューセッツ州の民主党議員Seth Moultonは、バグダッドにおける包囲戦に兵士として加わった経験を比較した。「私はイラクで海兵隊員としてこのようなことを予想した。しかし、アメリカの議員として、このような事態を想像することは決してなかった。」

アメリカ帝国主義の表現を思い出す者もいた。メディアや、議会の党派によらず、議員たちは、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の言葉に共鳴した。議会襲撃は、選挙結果を争うバナナ共和国のやり方であって、われわれの民主共和国のものではない。

これらの比較に共通しているのは、この事件が外国のものであるという感覚、外国では起きても、われわれの国では受け入れがたい、ということだ。しかし、襲撃はアメリカで起きた。

しかも、彼らが比較する対象は、まさにアメリカの創り出したことだった。Moultonがイラクにいたのは、ブッシュが金融的、外交的な観点から軍事侵攻を命じたからだ。「バナナ共和国」という言葉は、著名な短編作家O. Henryが、アメリカ帝国主義の下で、単一の農産物を輸出するホンジュラスのカオスを描くための言葉である。アメリカが持ち込んだカオスであった。

今、カオスはアメリカに帰還した。これは新しい事態ではない。第2次世界大戦が終わって10年後に、アフロ・カリビアン作家Aimé Césaireは、ヨーロッパにおけるファシズムの台頭を考えていた。そして、その起源をヨーロッパ自身の帝国主義の経験に観た。「植民地化は、入植者の文明をはぎ取るからだ。それは入植者を、言葉の真の意味で、野蛮にする。」

ヨーロッパ人はその植民地で、強姦し、殺人し、拷問したが、それを放置した。


 アリババ創業者の失踪

FT January 8, 2021

What we can read into Jack Ma’s disappearance

Leo Lewis

アリババ創業者のJack Maが、昨年10月、外灘サミットで行った演説は多くの点で異例なものであった。規制当局を批判し、国有銀行を「質屋根性」として糾弾した。それは3点で異例であった。

1に、マーは紙面を読み上げた。第2に、20分の演説であったが、その後の株価暴落でアリババは1分当たり128億ドルの損失を被った。第3に、この演説が中国で最も著名なビジネスマンを追うやけの席で観た最後になった。

マーは、政治にかかわらない限り、個人的な成功でいくら豊かになっても気にしない、という習近平との密約を誤解したのだろうか。それはロシアで失脚したホドルコフスキーに似ている。

あるいは、舞台への復帰に向けて、政権との入念な打ち合わせをしているだけかもしれない。


 「私の時代」の終わり

The Guardian, Sun 10 Jan 2021

The age of national self-interest must end if we are to vanquish the pandemic

Will Hutton

先週、「私の時代」はついにピークを越えた。リバタリアニズムは45年間も上げ潮を続けた。それはブレグジット、トランプ、そして、グローバルなパンデミックに対する不十分な対応をもたらした。まともな文明は、われわれを利己心の孤島とみなすような優先意識の上に成立するわけがない。われわれは運命を共有しており、この致命的なウイルスに、孤独、絶望、死によって、イデオロギーを罰せられている。「われわれ」を忘れることは、敗北することだ。

イギリスやヨーロッパ中で行われるロックダウンは、われわれがいかに密接に関係しており、COVID-19の脅威が普遍的であるか、ということを示した。ウイルスに勝利するには、豊かな国がグローバルなワクチン供給の不足の理由を無視して奪い合うような、よそで起きていることに無関心であるような、そういう文化を破棄する必要がある。

医療専門家たちが、COVID-19を克服する闘いには、全体的で、一致したアプローチが、戦争のように必要になる、というのは正しい。しかもこの課題を国内だけでなく、海外にも及ぼすことを求められる。新しいワクチンを、十分な量だけ生産し、グローバルに供給する、そのやり方をあまりにも考えることなく、協力することもなかったことは、犯罪に近い。

私はアストラゼネカが、30億回分のワクチンを、自社のコストで生産する意欲を称賛する。高い目標を掲げる企業が何を行えるか示しているからだ。しかし、それには限界がある。政府は、リバタリアンや右派ナショナリストたちが称賛するような、国内の支援を40億ポンドも削減することより、アストラゼネカの生産能力を倍増するための補助金を出すべきだ。これはグローバルな公共財の古典的ケースであり、政府による支援が必要だ。

少なくとも10万人もの死者がシステムを焦がしており、ボリス・ジョンソンはトランプが直面しているのと同じような方針転換を迫られている。リバタリアニズムの潮流は尽きたのだ。「われわれ」という意識が満ちている。すぐに、公共政策が変わるだろう。命の問題である。


 議事堂襲撃と幻想政治

PS Jan 8, 2021

The Truth About Trump’s Mob

JEFFREY D. SACHS

通常、犠牲者は有色人であるが、今回は、白人の暴徒が白人政治家たちを標的にした。

暴動の目的は、議会における平和的な政権移行を阻止することであった。アメリカ史を通じて、ほとんどの暴徒による暴力行為は下からの自発的な抗議ではなく、上からの構造的な暴力、白人政治家により刺激された恐怖、憎悪、そして、無視された白人下層階級によって、起きた。

トランプのアプローチは人種差別を異常に煽るものであったが、それは共和党が1968年の選挙で示した、それ以前の公民権運動によって起きた、「南部戦略」と一致している。トランプはその仕事を、富裕層の献金提供者や、企業のボスのために、昨年まで、うまくこなしてきた。

トランプや白人暴徒たちが何をしようと、アメリカの白人寡頭政治は次第に解体していく。2045年までに、非ヒスパニックの白人人口は半数になるからだ。若いアメリカ人は人種差別を問題として意識している。議事堂襲撃は、その最後の、絶望的な凶行であった。

NYT Jan. 9, 2021

How Trump Made the Fantasy Real

By Ross Douthat

大統領が広めた幻想と、インターネットを介した拡散、暴徒が議事堂を襲撃した事件を、どのように解釈するべきか、私にはわからない。1930年代のファシズム、1870年代の白人至上主義の復活か、あるいは、仮想現実の、非常に弱いものか。

3カ月前に、私はトランプのクーデタは起こらない、と書いたが、もっと想像力を働かせるべきだった。

この事件はクーデタの伝統的な定義に合わないが、しかし、単なる暴動ではない。その参加者たちはアメリカ共和国を救出し、再建するために、歴史的なドラマの役者であると確信していた。

トランプは大統領職に居座ることを望んでいた。トランプ、どれほど不完全であれ、現実の大統領であり、オンラインのRPGに登場するキャラクターではない。自分が創り出した幻想を現実に転換する導管となって、夢想家たちを行動の駆り立て、暴徒の襲撃や死者を創り出した。

他方で、トランプンに道を開いた政治家たちがいた。Ted Cruz and Josh Hawley and Kevin McCarthyがそうだ。

より軽いトランプ幻想の中毒者を現実に戻すにも時間がかかる。民主党政権下では法の執行が進むだろう。ゴーストバスターのように、オンラインの幻想を現実にぶつけるような犯罪前の部隊を制圧する試みになる。

右派の保守主義と幻想との関係が問題だ。共和党はリアリズムを回復しなければならない。あるいは、永久に分裂することになる。少なくとも、トランプ自身につては、彼の就任期間がオカルトのオンライン集団に乗っ取られたことで、彼がときには主張するふりをしていた、ポピュリズムの大義を完全に失った。


 ナルシシズム、デマゴーグ、嘘

The Guardian, Mon 11 Jan 2021

Why the Democrats should not impeach Donald Trump

Simon Jenkins

アメリカ議会がドナルド・トランプに屈辱を与える十分な理由がある。議事堂襲撃を煽動したことは、弾劾と即時解任に値する。

しかし、それはバイデンへの政権移行から関心をそらせ、むしろ大きなリスクをもたらす。

最も重要なことは、トランプが大統領選挙で1000万ほども得票を増やしたことだ。彼の支持基盤は拡大した。黒人やラテン系でも支持を伸ばした。

バイデンは大学教育を受けた、裕福な民主党員たちの支持を頼りにしたが、トランプは違う支持者たちに囲まれている。連邦政府の支配、海外の同盟諸国、権力のインサイダーたちから、ワシントンの政治の泥沼を洗浄してやる、というトランプの2016年の約束は今も色あせていない。

先週の行動でトランプは政治的に死んだ、と反対派は言うが、そうであれば、何もしない方がよい。彼を告発してもそれは復讐劇のように見える。彼の大義とその支持者に敵対することは間違いだ。そんなことをすれば、彼らは心の中でトランプの過激な思想や偏執を称賛し、自分たちの声を代表している、と思うかもしれない。

支持者たちにとって彼の評価は、その敵の叫びに応じて高まるだろう。リベラルはトランプの退場を扱うのに注意しなければならない。民主主義における敗者は上手に負けを認め、勝者は懸命に勝利する必要がある。

NYT Jan. 11, 2021

The Scary Power of the Companies That Finally Shut Trump Up

By Michelle Goldberg

ツイッターが、トランプやQAnonの陰謀論を拡散するアカウントを追放した後、Sarah Huckabee Sandersは「ラディカルな左派」の検閲体制について不満を述べた。トランプの元報道官は、中国の言論弾圧にたとえた。

しかし、Twitter Facebookによるトランプ排除は、中国の姿勢とは逆である。中国のWeiboが習近平を排除することはあり得ない。トランプをソーシャルメディアが追放したことは、リバタリアンの理想である公共空間の完全民営化がもたらしたものだ。そこでは企業が、政府ではなく、許容される会話の幅を定義する。

プラットフォームの能力は素晴らしいが、嫌いな言論を排除する自由は、ハイテク企業の少数の人間に与えられるべきか。彼らの気まぐれの決定は説明責任を果たさない。ドイツのアンゲラ・メルケル首相や、ロシアの反体制派活動家、ナワルニーは、トランプの排除を問題だと感じている。「この例は、世界中で、自由の敵が言論を統制するために悪用するだろう。」

その答えは、トランプにアカウントを認めることではない。独裁国家やCOVID-19否定論者、トロール・ビジネスにソーシャルメディアが自由に利用できるから、トランプの排除が恣意的に見えるのだ。より透明な禁止措置を示すべきである。

それは、エリザベス・ウォーレンが提案したように、長期的に、ハイテク企業を分割することである。ハイテク企業の支配者たちは、長い間トランプに協力してきた。


 改革と金融市場

FT January 10, 2021

Why investors shrugged off the Capitol riots

Rana Foroohar

普通、クーデタや政治的な非常時に金融市場が上昇するのは、左派が追放されて、企業家のアニマル・スピリットが解放されるからだ。しかし、先週のアメリカでは、異なる結果が観られた。ドナルド・トランプ支持者の反乱が議事堂を破壊する中で、株価が上昇したのだ。その理由は、要するに、議会の多数を得た民主党が政権を継承することになったからだ。

ジョー・バイデン次期大統領は法人税を上げ、規制を強化するだろう。それはビジネス界が嫌うものだ。しかし、先週のジョージア州選挙で民主党候補が勝った。バイデンの民主党が議会の両院を支配する。インフラ投資、医療サービス、教育、州財政への支援において、大規模な刺激策を取るだろう。それはまた連銀からの金融緩和をもたらす。

これまで、われわれは金融緩和しか得られなかった。最近、投資の賢人Jeremy Granthamが書いた。「2009年以降、長い、長い株価上昇は、ついに成熟したバブル相場となった。今回も、南海バブルや、1929年、2000年と並ぶ、金融史上に残る大きなバブルとして記録されるだろう。」

どうすれば崩壊を避けられるか? 低金利がもたらした債務の洪水が、生産的な投資であればよい。しかしそうではなく、GDPに占める投資は減少した。確かに、デジタル分野の台頭は、かつてほど多くの投資を必要としない。問題なのは、企業が余剰資金で自社株式を買戻したことだ。他方、成長をもたらす公共投資は、1960年代をピークに減少した。

歴史は、政府による技術投資が転機となって、生産性上昇のブームが起きたことを示している。鉄道やインターネット、今なら、5Gやグリーン・テクノロジーだ。バイデンの「より良い復興」は、再生可能エネルギーやブロードバンドに投資する。

ある時代が終わろうとしている。「金融化された」成長は、債務累積と資産バブルに依拠したが、リアルな何かに交代する必要がある。今の大統領が本当の指導者に交代する必要があるように。アメリカにおけるリベラルな民主主義が生き残るためには、より安定した政治経済を創造することだ。より多くの、良い職場を創り出せなければ、人びとは独裁者を支持する。

バイデン政権は、財政がひっ迫する州を支援し、ワクチン接種が進むだろう。気候変動対策では、電気自動車、バッテリー、建物の更新で多くの雇用が生まれる。景気回復は、インフレをもたらし、高金利と資産価格が下落するかもしれない。それはバイデンにとって苦い薬である。

しかし、この逆立ちした世界が終わって未来の富につながる、一時的な下落でしかない。

PS Jan 12, 2021

America Is the New Center of Global Instability

NOURIEL ROUBINI

議事堂襲撃がクーデタであるか。そんな議論より、政権移行を暴力で阻止するような、危険な狂人が権力を握っていることが問題だ。

アメリカが、伝染病の蔓延も、独裁者をめざす男の暴徒煽動も管理できない、バナナ共和国になったことは、権威主義的指導者たちを喜ばせている。

さらに悪いことに、トランプにはまだ混乱をもたらすための時間がたっぷりある。右派武装集団や白人至上主義者がアメリカ中の都市で暴動や人種戦争を計画している。ロシア、中国、イラン、北朝鮮が、情報操作やサイバー攻撃で、この機会を利用するだろう。

破滅的になったトランプが戦争を命じるかもしれない。イランの核施設を空爆することだ。戦術核爆弾を搭載したステルスや戦闘ジェット機を待機させている。ペロシ下院議長がUS統合司令部議長に、ホワイトハウスからの狂った指令を無視するよう、協議したのは当然だ。トランプは、サウジアラビアやイスラエルがイラン攻撃を支持することを知っている。

ペンス副大統領が、イラン攻撃に対して、憲法25条による大統領解任を求めるかもしれない。しかし、ペンスがトランプに特赦を与え、トランプは2024年に立候補するか、キングメーカーにとどまるだろう。解任と特赦について、ペンスとトランプがファウスト的な合意をするかもしれない。

トランプは単に辞任するとは思えない。それは彼の最も嫌う「敗者」に見えるから。超巨大エゴの辞書における最悪の侮辱だ。逆に、イラン攻撃を命じて解任され、特赦を受けることは殉教martyrである。トランプは支持基盤を維持し、しかも、責任を免れる。

これは皇帝ネロがローマを焼き払ったことに等しい。アメリカ帝国の没落が加速する。分裂状態のアメリカで、バイデンが健全な指導力を発揮できるとは思えない。共和党は新政権を妨害するために何でもする。

アメリカは、こうして、政治的、地政学的な、世界の震源地になる。同盟諸国は、将来のトランプ主義復活に備えておかねばならない。戦略的敵国は、非対称的な戦争行為によってアメリカを不安定化する。世界は長期にわたる、醜い、荒れた進路に入る。


 トランプ後の経済政策

PS Jan 12, 2021

Whither America?

JOSEPH E. STIGLITZ

議事堂襲撃は、ドナルド・トランプの4年間におよぶ民主主義的諸制度への攻撃から予測できたことであったし、共和党の多くの議員たちが支援したものであった。

アメリカはどこに向かうのか?

トランプはさまざまな力の産物であった。少なくともこの4半世紀、共和党はビジネス・エリートの要求に応えるためには、反民主的な手段(投票の抑圧、ゲリマンダー)や、宗教的原理主義者、白人至上主義者、ナショナリストのポピュリストたちと同盟するしかないことを知っていた。

通信技術の進歩が、間違った情報や幻想を急激に拡散することを可能にした。またアメリカの政治システムは金の力を最上位に優先しているため、ハイテク大企業の自由が最大に認められ、説明責任を求めなまった。

ネオリベラルな約束は、富と所得の増大が最低変異まで滴り落ちるという内容だが、根本的に虚偽であった。アメリカの企業家精神は、同時に、道徳的な制約がなければ、詐欺師、略奪者、デマゴーグたちを大量に供給した。

われわれには、社会的な懸念から情報の拡散を制限し、投票の権利や代表制を実現し、政治における金の力を抑える改革が必要である。何より、多方面に及ぶ不平等を解消するべきだ。

バイデンはこの戦いを進める何代にもわたる大統領たちの最初である。

PS Jan 13, 2021

American Capitalism’s Poor Prognosis

ANGUS DEATON

富裕層に課税して貧困層に給付することを主張する者は、しばしば、そのような再分配政策が無駄であるという説明を、うんざりするほど聞かされる。

しかし、その逆の説明を聞くことはほとんどない。すべての者から広く、数セントを集めることで、少数者が非常に豊かになっている、という逆向きの再分配だ。独占企業やレント・シーカーがつねにやっていることだ。

COVID-19のパンデミックが進行する中で株価が上昇していることは驚きだ。もちろん、金利は低く、他にプラスの利回りを得る投資先がない。問題は、株式市場は将来の国民所得を意味しないことだ。国民所得が何であれ、利潤が増えれば株価は上昇する。労働への分配が減少するときもそうだ。

パンデミックは、労働者から資本への長期的な再分配という傾向を強めている。民主党が大統領職と、議会の上下院で優位を得たことで、立法の方針が逆転するかもしれない。家計を破綻させている医療サービスは公的医療保険の導入でチェックされ、ハイテク大企業の独占に反対する訴訟が行われる。

司法は、経済効率を支持し、分配問題を無視してきたが、それにはエコノミストたちが責任を負うべきだ。20世紀の前半、大不況の中で、資本主義が失敗してケインズ主義が勝利し、国家の役割を支持した。しかし、すぐにフリードマンやハイエクの反革命が起きた。国家も問題である、と。そして、George Stiglerは、規制者と業者の関係を疑い、James Buchananは、政治家が常に交易に従わないと主張し、Ronald Coaseは、国家の行動に頼らず、外部性を改善できると主張した。

説得的ではないが、フリードマンは分配問題を軽視し、相続税でも、タックス・ヘイブン閉鎖でも、効果的な課税に反対した。法学者のRichard Posnerは、こうした考え方を司法に持ち込んだ。正義は社会に富の最大化を求めると主張し、消費者より生産者を優先した。不平等は問題ではなく、公正な社会の特徴になった。

それはばかげた考えである。革新的で、競争的な資本主義を回復するには、国家を攻撃する思想を逆転する必要がある。ドナルド・トランプの退任はクローニー資本主義を後退させるかもしれないが、レント・シーカ―たちはあまりにも強力である。


 「理性的でない人びと」

FP JANUARY 13, 2021

How to Know You’ve Lost Your Grip on Reason

BY STEPHEN M. WALT

アメリカ社会の分断を、左派と右派の対立や、穏健派の減少として描くことがある。もう1つの視点は、「理性的な人びと」と「理性的でない人びと」とを区別することだ。国民を脅かしているのは、イデオロギーの違いや、特定の政策論争、憲法の問題ではない。真の危険は、アメリカの政治にかかわる空間で、「理性的でない人びと」が増えていることである。「理性的でない」というのは、事実や正直な議論に従わない、認めることができない、自分たちの勝手な想像で宮殿を建て、そこに住むことを好む、という意味だ。

「理性的でない人びと」がいると、民主的政治の原理が成り立たなくなる。それは、表現の自由や、権力の制約を受けないメディア、結社の自由など、市民は(特に、その指導者は)「アイデアの市場」における合理的な主張を受け入れる、ということを前提している。

もし「理性的でない人びと」が政治論争において多数を占めるなら、民主的政治のモデルは急速に崩壊する。影響力のある人々が、結果を無視して、利己的に行動する。自分お資産を増やし、地位を高めるために、間違った主張をでっち上げる。どのような議論も、証拠を示されても、そのやり方を変えない。利己的で、党派的な人びとが、情報のエコシステムに偏見を流し、虚言を流し、狂った陰謀論を流すなら、合理的な議論は非常にむつかしくなるか、不可能になる。たとえ堅固な民主主義国家であっても、アメリカが示しているように、危険が及ぶ。

それを示す5つの警報がある。

1) 「事実は重要ではない。」と言う。

2) 間違いや失策を認めることができない。

3) 妥協することを拒む。

4) 「私たちはいつも正しい。お前たちは間違っているだけでなく、邪悪である。」と言う。

5) 「それは陰謀だ!」と叫ぶ。

しかし、「理性的でない人びと」を特定できても、だからと言って、それを解決することはできない。そのためには、重要な地位にある人びと、メディア、選挙運動などが、「理性的でない人びと」を利用しない、そのような形で優位を得るのを許さないことだ。

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The Economist December 19th 2020

The Arab spring at ten: No cause for celebration

Charlemagne: Sprechen Sie Tory?

Waste-pickers: Down in the dumps

Market mania: Froth or fundamentals?

Counterfactual economics: The gold standard, revisited

Economies past: Factories and families

Reconstruction: Revolutionary embers

(コメント) 年末特集号の後半です。

アラブの春について、株価の上昇について、読みました。労働者が家庭から工場へ、という歴史を、ハイテク技術と、コロナウイルスの感染を恐れて、逆転する時代になりました。金本位制がもし今も残っていたらどうなったか、という研究も面白いです。

どちらもエリートであるのに、とんでもなく異なる感性と知性を発揮する2人、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長と、イギリスのボリス・ジョンソン首相に関する記事が面白いです。その対比は、たとえば、7人の自慢の子どもたちを持つライエンと、子供が何人いるのか答を拒否するジョンソン首相(Wikipediaによれば、「少なくとも6人」)。

南北戦争後の「再建Reconstruction」をめぐる記事が、アメリカ南部の奴隷制と人種差別を維持する暴力を残して、合衆国の統一維持を最優先した歴史を描いています。

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IPEの想像力 1/18/21

タクシー運転手が、ウーバーやAIで乗客を探すフリーランサーと競争するようになりました。それだけではないようです。さまざまな分野で、ギグワーカーの時代が始まります。彼らにも労働者の組合が、また、独自のベーシック・インカムが必要だ、と思うようになりました。

居酒屋のバイトがなくなったとか、大学に通うより、実家に帰ってリモート参加でも出席にしてほしいとか、身近に未来からのターミネーターたちが歩く姿を見かけます。

ブレグジット後のイギリスは、戦略を求めます。ジョンソン政権やThe Economistは考えていますが、日本はどうなのか? イギリスは確かにEUを離脱して、世界におけるイギリスの役割、成長に向けた民間投資や次世代の知識をめぐる戦略が、今こそ求めれる、という意識が高いでしょう。

しかし、老人が増えた町、赤ん坊のいない電車、中国の台頭、アメリカの議事堂襲撃・・・ 日本こそ危機とその後の課題が山積しています。バブル後の経済衰退、阪神淡路大震災、東日本大震災、福島原発事故の処理について、政治家からの積極的な発言は聴こえません。

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日本がポピュリストの耕す狂気と混乱に陥るのは、たとえば、憲法改正の過程でしょう。

英米の民主主義が根本から崩壊したように、移民・難民問題や外国人労働者、中国の衝撃、極右や極左のテロ、宗教的な原理主義、メディアや大学への不信、ソーシャルメディアにあふれるヘイトや陰謀論、短期・不安定で低賃金の契約労働、不平等と金融バブル、超富裕層など。すでにテレビでは、日本のトランプやジョンソンが聴衆を得ています。

民主主義が形骸化し、政治が住民の声に耳を傾けないとき、ポピュリストは現れます。私が望むのは、《小さな民主主義》による、市民的な秩序が育つ世界です。

● 熟議

たとえば、ある地域で、住民たちからランダムに代表を集めます。少し工夫するのもいいでしょう。地域的な偏りを避け、年齢や所得・資産、職業、などがいろいろな小グループで、重要な問題を決めてもらいます。必ず実地調査を行い、問題を自分で感じるようにします。★の付いたテーマを、4つほど集めて、議論するのがよいでしょう。そうすることで雇用や財源のバランスを取る必要が生じます。

● 憲法制定会議、定期的見直し(20年、準備2年、実施5年)

あるいは、各地に自発的な憲法制定会議を設け、草案をネット上に公開します。議会における憲法の審議過程では、提案された草案を取り入れるか、それを拒む理由を示すことを政治家に義務付けます。憲法に書き直しは、決して、1回ではなく、20年ごとに行います。事実をゆがめ、間違った宣伝を続ける人びとを、十分に、チェックするメカニズムが必要です。

● ベーシック・インカム ★(熟議候補)

たとえば、だれが、何をするなら、ベーシック・インカムに値するのか? もし私たちがそれに合意すれば、その社会が必要とする分野で、活躍する人たちを励ますことができるでしょう。事実を記録し、支給後の精査を受ける条件で、積極的に名乗り出る村や町、小さな自治体を励まし、財源と権限を与えてほしいです。

● 連帯、共同体、企業、高齢化 ★

それは政治的な共同体を励ます試みです。経済や社会過程を共有している意識を持ち、小さな集団で指導力を発揮できる人たちが連携するような仕組みを広め、元気な世話役や若者を見つけます。その土地に拠点を持つ企業は積極的に納税し、地域社会の一部として、お祭りに寄付することと同様に、市民たちの水平的な集まりを見つけて支援します。

● 代表制、発言、選挙・投票

たとえば、1人が5票を持つのはどうでしょうか? 複数の候補に投票できます。浮動票が増えるかもしれません。2回投票できる、というのはどうでしょうか? よく考えて、もう1度投票します。地方からも、一定の資格を満たせば、都市の政治家に投票するのを認めてはどうでしょうか?

● 課税と給付、公共投資 ★

● ホームレス、住宅 ★

● 金融ビジネス、バブル、貯蓄・投資 ★

● 製造業、雇用、技術革新、科学者、研究体制

● 都市と地方、農業 ★

● 自由貿易、国際分業 ★

● 移民、難民、女性、市民権、多様性 ★

● エネルギー、原子力発電所 ★

● 安全保障、核兵器、感染症、文化・思想 ★

● 災害、ボランティア、ネットワーク ★

● 義務教育、高等教育、職業訓練、ネット学習 ★

● メディア、真実、ジャーナリスト ★

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さあ集まって、じっくり話し合いましょう。自分たちで料理した、ささやかな、おいしい食べ物を持ち寄って、専門家や経験豊富な者たちをZOOMに招いて、諸外国のケースも調べてみましょう。

常に、小さな戦略会議が、日本中に何千も、何万も、開催されていることを望みます。1つの熟議が終われば、その記録は残されて、政治家(そして研究者)にとって貴重な資料となるでしょう。

休業や閉店、解雇と失業を強いられても、コロナウイルスを逃れる冬眠から覚めたとき、日本の社会がもっと違う姿に脱皮し、翼を広げるような気がします。

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