IPEの果樹園2020

今週のReview

12/14-19

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COVID-19の経済対策 ・・・EUのもう1つの危機 ・・・アメリカと中国の戦略的合意 ・・・ハイテク大企業の規制 ・・・2020年のブレグジット ・・・分裂病とアメリカの民主主義 ・・・パンデミックとドル

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 COVID-19の経済対策

NYT Dec. 3, 2020

Learn to Stop Worrying and Love Debt

By Paul Krugman

共和党は政府債務を嫌う。民主党の大統領が債務を増やすときは。しかし、共和党の大統領なら、ドナルド・トランプが赤字を増やしても、気にしない。

ジョー・バイデンが就任すれば、再び、共和党が正義を唱えて暴言を吐くだろう。オバマの時代には、中道派やメディアも赤字を恐れる声に同調した。

しかし、希望はある。IMFの主任エコノミストであったOlivier Blanchardが、「財政に関するパラダイム・シフト」が起きた、と語ったように、債務の大きさは重要でなくなり、正しい目的で借り入れることが重要になったのだ。

10年ほど前は、だれもがギリシャを心配した。債務危機が波及する、と。私は決してそんな意見を支持しなかった。実際、他に危機は起きなかった。ECB総裁が、必要なら、現金が足りない政府に融資する、と約束したからだ。

アメリカが債務の上限を超える、という警告は、常に、間違っていた。危機に近づいてはいないし、将来も、危機は起きないだろう。

長期についても、低金利が続くからだ。その理由は複雑だが、主要な理由は、人口と技術だ。投資機会は減って、他方、利子が低くても貯蓄は増え続ける。政府の借り入れコストは非常に低く、長期的に低いままだろう。

ジョー・バイデンは“build back better”をスローガンに、インフラ、気候変動対策、教育など、多くの財政支出を提案する。その財源は借り入れだ。それは正しいことであり、民間のように高い利益を求めるのではない。

共和党は必ず反対するだろうが、債務を懸念するのはやめるべきだ。債務によって正しいことを行えることを想えば、債務を愛せ。

PS Dec 7, 2020

The Infrastructure Spending Challenge

KENNETH ROGOFF

政府は積極的に債務を増やして、経済的な破局を回避している。しかし、長期的な成長は実現できるのか?

先進諸国における公共投資は低下してきた。2008年の金融危機でもインフラ投資が主張されたが、慎重論があった。すでに発展した諸国にはインフラが整備されており、高い収益が期待できるプロジェクトがない。また、19世紀、20世紀の大規模な成長をもたらした技術革新の流れは、1970年代以降、途絶えたのではないか。

たとえそうではなくとも、適切な公共投資を行うには困難な諸問題があり、環境評価や住民の反対でプロジェクトのコスト評価が大きく上昇する。国立のインフラ投資銀行のような仕組みが必要だ。


 EUのもう1つの危機

FT December 7, 2020

Europe is right to risk a double ‘no deal’

Gideon Rachman

妥協が見いだせない場合、EUは両方とも「合意なし」になる。1つは、EU離脱に関するUKとの交渉。もう1つは、ポーランド、ハンガリーがEU予算に対する拒否権を行使する条件となっている、法の独立性を復興基金の給付条件にする交渉。

もしUKと合意できない場合、UK国境に通関が設けられ、輸送トラックが長蛇の列をなす。漁船同士が争って会場で衝突するかもしれない。また、もしポーランドとハンガリーが拒否すれば、EU予算は初めて成立しなくなる。

EUの指導者たちは、これほどのリスクをなぜ冒すのか? EU官僚たちが傲慢すぎるのか?

EUの側で「合意なし」を求める者はいない。しかし、EUは間違った合意が長期的にEUを破壊する影響を知っているからだ。

ブレグジットの条件が、イギリス企業の市場アクセスを認めながら、UK政府が企業を保護し、EUよりも規制を緩和するなら、ヨーロッパ企業は市場を奪われるだろう。EUは「平坦な競争条件」を決して譲らないのだ。UKはカナダと違い、EUのすぐ横で、しかも、多くの潜在的な競争企業がUKにはある。

UKとの交渉を間違えば、EU加盟国政府が国内で政治・経済的ダメージを被るだろう。特に、右派のポピュリズムから攻撃される。フランスのマクロン大統領は、2022年の選挙を前に、すでに右派に流れている漁業関係者たちを刺激するようなことは、決して認めない。

ハンガリー、ポーランドとの悪い合意は、ブレグジット以上に破壊的影響がある。何年も、両国は権威主義体制に向かう傾向を進めてきた。EUからの復興基金に「法の独立性」を条件として付けることは、彼らの方針を変える最後のチャンスであろう。

UKも、ハンガリーも、ポーランドも、EUが求める条件は国民の利益に一致する。

ボリス・ジョンソン首相は、環境規制や労働基準に関して、UKがそれを低下させることには関心がない、と表明している。漁業の対立は国益と関係ない。むしろ、フランスとの関係を悪化させるだけだ。また、ポーランドとハンガリーの国民も、汚職や政治の経済介入を防ぎ、権威主義体制への傾斜を止めるために、EUを必要としている。EU加盟国として、国民は多くの利益を得ているのだ。

たとえ、短期的には2021年が悪いスタートになるとしても、悪い条件で合意することは何十年もEUを弱めるものになる。

The Guardian, Thu 10 Dec 2020

For Europe, losing Britain is bad. Keeping Hungary and Poland could be worse

Timothy Garton Ash

「ブレグジットとは、ブレグジットのことだ。」 イギリスのテリーザ・メイ元首相はこんな呪文を唱えた。

EUとほとんど合意なしの離脱を決めれば、こうした言葉で自分たちをだますこともできなくなる。5年か10年で、この島と大陸の間の新しい関係が決まる。そのときは、EUが全く違うものになっているだろうし、UKはなくなっているかもしれない。

スコットランド人は、数年内に、イングランドとの300年間の同盟を破棄して、EUに参加することを住民投票で決めるかもしれない。それに反対して、同盟を維持したいイングランド人は、独立より望ましい新しい同盟関係を示さねばならない。UKが終わり、新しい連邦国家になる。(Federal United Kingdom produces an unfortunate acronym.)

2016年の国民投票は、約束破りの連続だった。ボリス・ジョンソンは、自由貿易で、しかも欧州単一市場にアクセスできる、と書いた。Liam Fox通商大臣は、EUとの自由貿易協定を「人類史上で最も簡単なもの」と述べた。強硬派は、「イングランドを征服する独仏のナポレオン帝国」と非難し、同時に、このナポレオンたちがUKの特権や単一市場へのアクセスを認める、と主張した。つまり、ケーキを持って、しかも、ケーキを食べる。

イギリスと大陸の間は、接近するのか、離れていくのか? 現在のポピュリスト政権が進める方針に代わる説得的な方針はソフト・ブレグジットである。他方で、ハードなブレグジットのあと、スコットランドと北アイルランドを失った小さなイギリスが、優れた金融サービス、大学、バイオなど、競争的なビジネスモデルを、時間をかけて、発展させるかもしれない。

しかし、ブレグジットの将来は、大陸側の変化にも依存するだろう。18000億ユーロの予算と復興基金の提案を、ハンガリーとポーランドが拒否権で阻止している。基金の前提条件に「法の支配」を求める提案を弱めるため、彼らは他のEUを人質にしている。

両国の主張が意味するのは、コロナウイルス危機で苦しむユーロ圏、特にイタリアやスペインを助けたかったら、何の条件も付けずに、われわれに復興基金を使わせろ、ということだ。その金は、ドイツやオランダの納税者が支払い、オルバンとその家族や友人たちが使う。持ってもいない他人のケーキを、彼らは食べる。

EUUKに「平坦な競争条件」を求め、ハンガリーとポーランドに「法の支配」を求めて、交渉が危機に陥っている。しかし、ハンガリーとポーランドがイギリスに続いてEUを離脱することはない。彼らはEUに残り、EUの重要なルールを破り続ける。

EUの将来にとって、どちらが重要な危機か?


 アメリカと中国の戦略的合意

FP DECEMBER 4, 2020

The United States Can Negotiate With a China Driven More by Power Than Ideology

BY ROBERT A. MANNING

中国の台頭・再登場に関して議論するとき、私は問題を提示する。「アメリカは、何を中国の正当な利益と認めるべきか?」 会場は静まり返る。その答えは、基本問題につながる。アメリカは中国と共存できるのか? あるいは、戦うしかないのか?

米中対立を生じている中国の行動は、大国の行動パターンなのか、あるいは、中国共産党のマルクス=レーニン主義イデオロギーによるものか? パワーは交渉できるが、イデオロギーは、宗教と同じように、妥協の余地がない。

中国の台頭・再登場は、勢力均衡の変化として理解できる。第2次世界大戦後の秩序は、神が命じたものではなく、永久には続かない。Robert D. Kaplan and Eldridge Colbyが、Foreign Affairsで論じた。アメリカに比べて中国のパワーが相対的に増大することは、アメリカの利益や影響力を損なう、しかし、これはイデオロギーの問題ではない。もしそう考えれば、破滅をよぶことになる。

中国の1000年を超える歴史が示すのは、イデオロギーが重要な要素ではあるが、基本的に、パワーの問題であることだ。中国共産党のイデオロギーは、マルクス=レーニン主義と、権威主義的な開発型・国家資本主義モデルとの、雑種である。

習近平の中国は、毛沢東のように共産主義革命を輸出していないが、海外の中国系住民を利用して、悪意ある形の経済圧力を加えている。たとえば、オーストラリアに対してあらゆる中国批判を黙らせるやり方は、あまりにも常軌を逸しており、アメリカ、EU、日本、その他の諸国が団結したオーストラリアの支援に立った。

しかし、中国はグローバリゼーションを破壊するのではなく、それを支持している。IMFや世界銀行、国連に関しても、中国の地位が低いことに不満を持っているが、秩序を破壊するより、その中で地位を引き上げるつもりである。北京が採用している略奪的な産業政策に関しても、これはそもそもアメリカの初代財務長官、A.ハミルトンが提唱したものだ。

最近、ヘンリー・キッシンジャーは米中関係について語った。「アメリカの指導者と中国の指導者は、脅威になる限界がどこなのか、話し合うべきだ。・・・そんなことは全く不可能だ、と言うのかもしれない。しかし、もしまったく不可能であれば、われわれは第1次世界大戦と似た状況に入るだろう。」 しかも今、われわれは核兵器とAIを持つ。

FP DECEMBER 7, 2020

China Is Both Weak and Dangerous

BY MATTHEW KROENIG, JEFFREY CIMMINO

中国は、アメリカに変わって世界を1つの秩序によって統一するつもりだろうか。中国の長期的戦略によって、米中対立の将来が問われている。

Dan Blumenthalの新著The China Nightmare: The Grand Ambitions of a Decaying Stateは、中国が攻撃的な、野心的な大国であると同時に、底流に横たわる弱点を抱えており、それが台頭を終わらせ、衰退へ向かわせる、と考える。中国は、その内部に育つ弱点を抱えるがゆえに、外に向けて野心的な戦略を進めるのだ。

中国がアメリカからアジアにおける地域的な覇権を奪うことをめざすのか、あるいは、世界秩序そのものを中国の考えによって築こうとするのか、と学者たちは論争している。Blumenthalの答えは明確だ。中国は世界秩序をめざす。

中国共産党は、内部の多くの問題を意識している。人口危機。成長鈍化。その原因ともなっている、共産党による経済の国家管理再強化。資産の海外逃避。環境破壊。それによる農業危機と国民の健康破壊。中所得の罠。分離主義。国内の反乱。

中国共産党は、正統性を得るために、従来のマルクス=レーニン主義ではなく、新しい恐怖の帝国を築くイデオロギー、すなわち、帝国主義的ナショナリズムを広めている。中国は弱く、それゆえ危険である。

中国はどのような世界に住みたいか明確に意識している。長期的戦略だ。問題は、アメリカがそれを知らないことだ。


 ハイテク大企業の規制

FT December 9, 2020

Milton Friedman was wrong on the corporation

Martin Wolf

企業の目標とは何か? その答えは、M.フリードマンが1970年にNYTに書いた記事“The Social Responsibility of Business is to Increase Its Profits”が、英語圏で支配的であった。私も信じていた。しかし、私は間違っていた。

この答えは、複雑な問題に対して、余りにも簡単すぎる。

フリードマンの原理を、50年経って、再評価する論集の企画があった。彼と縁の深いシカゴ大学からだ。論争を促したLuigi Zingalesは、さまざまな見解のバランスを取って単純な問題を立てた。「どのような条件なら、経営者は、社会的に観て効率的に、ステークホルダーの価値を最大化することだけに集中するのか?

彼の答えは、3つの条件であった。1)企業が競争的な環境にあること。2)外部性が存在しない、もしくは、税や規制で完璧に処理されていること。3)すべての偶発的な事情がコストなしに処理できるよう契約されていること。

言うまでもないことだが、これらの条件は何1つ満たされない。企業は、規模の経済を利用するために発明された。市場価格を受け入れる、という発想は間違いだ。グローバルなものも含めて、外部性は顕著に存在する。企業は契約が不完全であるから存在する。完璧な契約が書けるなら、経営者は必要ない。何よりも、企業はルールを受け入れるのではなく、自分たちに都合のよいルールを作っている。

私は、他の寄稿者たちに問いかけた。良い「ゲーム」とはどんなゲームなのか? 企業は、気候変動や環境問題についてのクズのような理論を発明した。アヘンのような中毒性の薬物を広めて多数の死者をもたらした。莫大な利潤をタックスヘイブンに移してしまうような税制を推進するよう、政治家たちにロビー活動した。金融部門は自己資本が不足するような規制を推進し、金融危機を招いた。著作権(技術のライセンス)の有効期間を延長し、延長し、さらに延長した。競争促進政策を無効にした。不安定な職場の社会的悪影響を抑制する努力に激しく反対した。これが企業の考える良いゲームだ。

もし普通選挙の国で、経営者たちを選挙で決めたら、だれか当選できるのだろうか? 間違ったことをした企業が処罰されても、経営者たちは処罰されていない。

あまりにもバランスを欠いた経済的、社会的、政治的パワーが現在の条件では発生する。企業のパワーが野放しであることは、ポピュリズムが台頭する1つの要因だ。フリードマン的なリバタリアンの世界を支持する者は少なく、企業は民主主義を生き延びるために、戦争、人種差別、女性差別、ネイティビズム、外国人排斥、ナショナリズムを支持する諸集団と同盟を組んだ。

2008年の金融危機の後、規制されない自由市場はますます支持されなくなった。だからリバタリアンたちは、ドナルド・トランプを必要としたのだ。トランプは好ましい人物ではなかったが、大統領選で勝つことができる政治的企業家であった。何より、企業の求める減税と規制緩和を、トランプは与えた。

企業がどのように変わるか、と多くは議論している。しかし、重要なのは、競争、労働、環境、課税など、ゲームのルールを正しく決めることだ。良いゲームのルールを決める政治を、今、われわれは持たない。


 2020年のブレグジット

NYT Dec. 7, 2020

Brexit: What Were We Thinking?!

By Russell Brand

ブレグジットを決めた国民投票から4年経ったが、われわれはこの楽しい荷物の中身を理解したのだろうか?

今年の1月末に、ようやくイギリスはEUを出た。それはナショナリズムへの後退、進歩的なグローバリズムの夢にラッダイトが加えた攻撃だった。

それで、権力集中と封建主義の理想を求めた、われわれはどうなるのか? 世界は変化し続けている。まさにグローバルな勢力の1つであるコロナウイルスが、この何か、よくわからない、神秘的で、未来的で、宇宙的で、微生物的な勢力が、われわれの世界を変える。

パンデミックは、ブレグジット後のイギリスで明白になった社会の階層化とともに、われわれがもはや中央集権的なシステムに生きることはできない、ということを示した。そのシステムが賢慮億の階層性と頂点を支えていたのだ。彼らは、その本性において、醜いポピュリストか、リベラルな技術官僚であった。両者は真の政治的な対案、真の変革が必要なことを教える先駆者である。それは超党派の民主主義が表面的に示す改革ではない。

おそらくパンデミックの前から、ブレグジットの前から、われわれはむき出しの個人主義に入って港を封鎖していたのだ。それはもっと有害な孤立である。われわれは投獄され、つかの間のアイデンティティーという刑務所の中で、独りぼっちだった。何の信念もなく、気まぐれな欲求を満足させるだけで、他には何も気にしない。これが分断だ。イギリス人民はそこから出て、何か自分たちを統一する本物の感覚を手に入れる必要がある。

究極的には、ぞれが、離脱しても残留しても、その罠にはまってしまう、自分という孤島である。


 分裂病とアメリカの民主主義

FT December 8, 2020

No easy cure for America’s ‘paranoid style’

Edward Luce

ホーフスタッターRichard Hofstadterは、アメリカの20世紀における偉大な思想家であるが、世界を善と悪の闘いで理解するパラノイド心理でアメリカ政治を考えた。彼の理論は、“the paranoid style in American politics”に示されるが、1950年代のマッカーシーによる赤狩りを観察したことで生まれた。

現代のアメリカでは、敵はグローバルな諸勢力と同盟した「ディープ・ステイト」である。陰謀論者たちは、彼らが大統領選挙を操作してジョー・バイデンを勝たせた、と信じている(証拠は何もないが)。問題は、そのようなパラノイドが共和党の支持者の圧倒的多数なのか。それは政治的怨嗟をまき散らす、破滅的な勢力なのか。

トランプの陰謀論が衰微し始めることは、もちろん、ありうるだろう。しかし、彼が共和党を結束させることも、同様に、ありうる。最近の調査が示すように、トランプは共和党の2024年大統領候補として圧倒的に好まれている。そして、ペンス副大統領に次いで、第3位に来るのはドナルド・トランプ・ジュニアである。

トランプは、1月のジョー・バイデン大統領就任式をボイコットするようだ。そのとき、共和党議員たちが彼に従うなら、共和党は彼のものだ。

NYT Dec. 9, 2020

The Resentment That Never Sleeps

By Thomas B. Edsall

ざっくりといえば、トランプと共和党は、白人のキリスト教徒、大学を卒業していない白人労働者・白人中産階級の地位を高めるために闘った。バイデンと民主党は、以前から社会の周辺に追いやられていた集団の立場を改善するために闘った。女性、黒人などのマイノリティー、LGBT、その他である。

この政治化された地位をめぐる競争は過熱し、リベラルなエリートによって地位を奪われることへの、大学卒ではない白人たちの怒りを生んだ。そして亀裂の両側で、伝統的なヒエラルキーを転覆する試み、アイデンティティー政治をもたらした。

Ridgewayによれば、「社会的不平等の基礎として、地位は資源やパワーと異なっている。地位は、物的な枠組みに直接に依拠するのではなく、文化的な信念によるものだ。」

われわれは地位を重視する必要がある、なぜなら地位は、資源やパワーと同様、人間の動機を形成する基本的な源泉であり、不平等を生み出す優先順位における闘争を強力に形成するものだから。

Peter Hallは、左派に惹かれる人たちは、社会的地位のトップとボトムから生じる、という。「社会的な階段の底に近いところから始める人たちは、ラディカルな左派に惹かれる。それは彼らに最も顕著な社会的再編をもたらすプログラムを示すからだ。トップに近い人々も、しばしば左派に惹かれるが、それは彼らがその価値を共有するからだろう。」

トランプのような、右派ポピュリストの主張に惹かれるのは、社会的階段の数段上にいるが、「転落の恐怖」をもっとも感じている人びとであろう。経済的、文化的なショックに直面して、逃げ場を求めているのだ。

トランプ支持者の中核集団は、大卒資格のない白人たちであり、能力主義的な競争で階段を落とされていく、という暗い未来を予想している。それは、高等教育や標準化されたテストによる高得点が高い報酬をもたらす競争だ。

所得分配の下半分にいる有権者は、ハイパー地位競争に直面して、社会的、経済的な移動性がゼロになった不平等な世界で、地位の不安を政治化することに従事してきた。すなわち、1940年代に生まれた人々は90%が親たちの世代よりも経済的に改善する未来を期待していたのに、1980年以後に生まれた人びとは50%しか期待していない。さらに悪いことに、パンデミックの最悪の結果を強いられているのは、地位の低い人たちである。

ジョー・バイデンは有権者に約束した。「私たちはアメリカの約束を守る。あなたの人生がどこで始まるとしても、あなたが達成できないものは何もない。そうすることで、私たちは国民の魂を再生する。」

トランプは、アメリカが約束を守らなかったことを攻撃して大統領になった。今、われわれは、バイデンが約束を果たしてくれることを願う。


 パンデミックとドル

FT December 9, 2020

Will bitcoin end the dollar’s reign?

Ruchir Sharma

パンデミックでも、ドルの地位は揺るがない。国際貿易を仲介し、諸通貨の価値のアンカーになっている。ほとんどの中央銀行が「準備」としてドルを保有する。

アメリカ以前に、5つの大国だけが「準備通貨」を供給した。ポルトガル、スペイン、オランダ、フランス、イギリスである。その在位は平均で94年であった。アメリカがその地位に就いてから、今年で100年が経つ。

問題は、後継者だ。ヨーロッパの共通通貨は信頼されていない。中国の通貨は、その野心を示すが、1党支配国家の恣意的な運営を懸念される。

アメリカ政府は自信を深めて、パンデミックの対策を巨額の財政赤字とドル紙幣の増発で賄っている。しかし、新しい対向車が現れつつある。暗号通貨だ。

アメリカが指導して、各国の中央銀行が通貨価値を削る取る中で、これに不安をもった多くの人々が暗号通貨を購入した。

昨年、アメリカの対外債務はGDP50%を超えた。それは、しばしば、危機のシグナルだ。ロックダウンの借入増で、一気に67%に達する。世界がアメリカ政府の返済能力に不信を感じたときが、ドル支配の終わるときである。

暗号通貨を規制しようとしているが、それはポピュリストの反感を強めるだけだろう。

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The Economist November 21st 2020

A misguided counter-revolution: Remaking the British state

A better way not to pay: Many countries need debt relief

A grand bargain: Democracies must team up to take on China in the technosphere

On the edge: Recep Tayyip Erdogan faces up to economic facts

Dayton at 25: After a quarter of a century of peace, Bosnia remains wretched

The constitution: Dominic Cummings and the unchained ministers

Changing down: Why money is changing hands much less frequently

(コメント) ブレグジットは、これまでに労働党が行った改革に対する保守恐慌派による反革命、イギリスの行政権力を握った人々が、人民の意思を実現するためには、他の面倒な制約を破壊し、一掃するべきだ、という思想運動である、と説明されています。

貧しい諸国の債務を組み替える国際合意が必要です。また、バイデン政権は中国との合意を得るべきでしょう。特に技術分野で。それは国境ではない形で、技術の基準・法体系、監視社会による3つの帝国(中国、USEU)を生む危険があります。

トルコ、ボスニアについての記事、そして、アメリカで通貨の流通速度が大きく低下し、おそらく、爆発的に増大する条件が蓄積されているかもしれない、という記事に注目しました。

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IPEの想像力 12/14/20

インターネットの闇には底がないのか?

YouTubeに投稿される動画は、危険な、間違った情報にも、プラスの報酬を与えて奨励します。その内容をチェックする責任を、プラットフォームが負うべきではないのでしょうか?

座間市の連続殺人事件の犯人に対する死刑判決が出ました。SNSによる言葉や情報が支配的になる中で、約束や感情というものが根本的に損なわれる世界が現れるのだろうか、と思いました。2016年に「文明の暗渠」(IPEの想像力 3/28/16)と書いたとき観ていたのは、千葉・東京の少女誘拐・監禁事件と、ブリュッセルの空港・地下鉄に対するテロ攻撃でした。

ヨーロッパに広がった極右・人種差別集団による弱者への示威行為や施設への放火。アメリカ大統領選挙で広まった集団的狂気。日本では老人たちから資産をだまし取る詐欺集団。そして、介護や貧困の果てに心中する家族の苦しみ。

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Nicholas Kristof, “The Children of Pornhub,” NYT Dec. 4, 2020

・・・15歳の少女がフロリダで行方不明になった。母親は彼女をPornhubで見つけた。58本のセックス・ビデオの中だ。性的暴力を受けた14歳のカリフォルニアの少女は、Pornhubに載り、警察に通報された。会社が通報したのではない。ビデオを観たクラスメートが通報したのだ。襲撃者たちは逮捕されたが、Pornhubはビデオを配布し、利益を得たことの責任を問われない。

・・・「Pornhubが、私の人身売買を行った犯人だ。」と、女性は私に言った。彼女は、中国からアメリカ人の養子になった。その家族は、彼女を人身売買組織に売り、ポルノビデオに出ることを強いられた。彼女が9歳のときだ。いくつかのビデオはPornhubに載った。何度も載る、と彼女は言う。

・・・これはポルノ写真ではなく、レイプの問題だ。本人が理解しないまま、子供たちが犠牲になっている。

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ベーシック・インカムについて、ゼミ生が問題提起してくれました。

「お金をもらったら、働かずに遊ぶだけではないか?」 そういう反対は必ずあります。その通りだと思います。もし、彼・彼女たちが「それでよい」と思うなら。

しかし、本当に、そう思うでしょうか? だれか、バカなやつが働いているのだから、それでよい。自分は勝手にさせてもらう、と。

そういう人間が自分の父親、兄弟や妹、自分の息子や娘であったら、あなたは「それでよい」と認めるのでしょうか? 私はそう思いません。

自分の仲間が苦労して働き、自分の両親が田んぼや畑を耕し、長距離トラックを運転しているのに、遊んで暮らせるなら「それでよい」と思うとしたら、そんな奴は「クズだ」と叱られ、「働け」と注意されるでしょう。彼の両親は、自分たちも恥ずかしいと思うはずです。

自分が働いて、十分に稼げることや、税金、医療費などを支払えることに、もっと誇りが持てるような社会であれば、困っている人や、さまざまな、やむをえない事情で働けない人の分も、自分が支払ってやるよ、と思うかもしれません。

インターネットには社会がなく、その闇には底がない。しかし、社会には底がある。仲間を想い、苦しんでいる者を助け上げる気持ちがあるから、それは社会なのです。

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最近読んでいるポール・コリアーの名著、『エクソダス』には、こんなことが書かれています。

・・・「移民は基本的に、機能不全な社会モデルを持つ国から逃げ出しているのだ。」

・・・「家族を越えた信頼と助け合いは、近代の繁栄した社会の中に蓄積する機能的態度の一環として身に付けられる。」

・・・移民の1つのモデルによれば、「国は異なる文化的コミュニティが同じ法的・社会的地位を約束されて平和に共存する地政学的空間として生まれ変わる。」

・・・「経済的繁栄という奇跡は、根源的には社会モデルを指す。」

しかし、もう一つの「移住」が、同じ暮らしにネットの穴をあけただけで起きる。インターネットを利用することで、ますます多くの人が、特に若者たちが、ポルノや暴力や政治的ポピュリズムを受け入れ、急速に変わっていく。そして、「文明の暗渠」が私たちすべてを呑み込む。

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