IPEの果樹園2020
今週のReview
12/14-19
*****************************
COVID-19の経済対策 ・・・EUのもう1つの危機 ・・・リベラルな国際主義 ・・・アメリカと中国の戦略的合意 ・・・穏やかに老いること ・・・ハイテク大企業の規制 ・・・2020年のブレグジット ・・・分裂病とアメリカの民主主義 ・・・パンデミックとドル ・・・EUとロシア、トルコ
[長いReview]
******************************
主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL International, VOX: VoxEU.orgそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● COVID-19の経済対策
NYT Dec. 3, 2020
Learn to Stop Worrying and Love Debt
By Paul Krugman
共和党は政府債務を嫌う。民主党の大統領が債務を増やすときは。しかし、共和党の大統領なら、ドナルド・トランプが赤字を増やしても、気にしない。
ジョー・バイデンが就任すれば、再び、共和党が正義を唱えて暴言を吐くだろう。オバマの時代には、中道派やメディアも赤字を恐れる声に同調した。
しかし、希望はある。IMFの主任エコノミストであったOlivier Blanchardが、「財政に関するパラダイム・シフト」が起きた、と語ったように、債務の大きさは重要でなくなり、正しい目的で借り入れることが重要になったのだ。
10年ほど前は、だれもがギリシャを心配した。債務危機が波及する、と。私は決してそんな意見を支持しなかった。実際、他に危機は起きなかった。ECB総裁が、必要なら、現金が足りない政府に融資する、と約束したからだ。
アメリカが債務の上限を超える、という警告は、常に、間違っていた。危機に近づいてはいないし、将来も、危機は起きないだろう。
長期についても、低金利が続くからだ。その理由は複雑だが、主要な理由は、人口と技術だ。投資機会は減って、他方、利子が低くても貯蓄は増え続ける。政府の借り入れコストは非常に低く、長期的に低いままだろう。
ジョー・バイデンは“build back better”をスローガンに、インフラ、気候変動対策、教育など、多くの財政支出を提案する。その財源は借り入れだ。それは正しいことであり、民間のように高い利益を求めるのではない。
共和党は必ず反対するだろうが、債務を懸念するのはやめるべきだ。債務によって正しいことを行えることを想えば、債務を愛せ。
PS Dec 4, 2020
A Monetary Mind at the Treasury
JOHN B. TAYLOR
イエレンJanet Yellenは、20年間も連銀に務めた経験を経て、財務長官になった。1979年に、元連銀議長であったミラーも財務長官になったが、連銀にいたのは1年だけであった。
イエレンはこれまで、インフレ目標という、ルールに依拠した金融政策を重視する主張を繰り返し表明した。そのような人物が財務長官になることは、COVID-19のショックで金融政策が大きくルールを外れた今、特に歓迎されることだ。明確な、予測可能性と、体系性のある、ルールに依拠した戦略に戻るべきだ。
PS Dec 7, 2020
The Infrastructure Spending Challenge
KENNETH ROGOFF
政府は積極的に債務を増やして、経済的な破局を回避している。しかし、長期的な成長は実現できるのか?
先進諸国における公共投資は低下してきた。2008年の金融危機でもインフラ投資が主張されたが、慎重論があった。すでに発展した諸国にはインフラが整備されており、高い収益が期待できるプロジェクトがない。また、19世紀、20世紀の大規模な成長をもたらした技術革新の流れは、1970年代以降、途絶えたのではないか。
たとえそうではなくとも、適切な公共投資を行うには困難な諸問題があり、環境評価や住民の反対でプロジェクトのコスト評価が大きく上昇する。国立のインフラ投資銀行のような仕組みが必要だ。
PS Dec 8, 2020
Central Banking’s Green Mission
MARIANA MAZZUCATO, JOSH RYAN-COLLINS, ASKER VOLDSGAARD
FT December 9, 2020
The case against cancelling debt at the ECB
PS Dec 9, 2020
A Post-War Playbook for a Post-COVID Recovery
MAXIMO TORERO
COVID-19による経済危機は、不況というより、戦後復興だと考えるべきだ。しかも、議論されることは少ないが、豊かな国の衝撃緩和や需要不足からの救済・支援策は、貧しい諸国の苦しみを増している。たとえば、通貨価値が上昇して、輸出競争力が失われる。豊かな国が食糧の国際価格を上昇させる。
低所得の人々にとって、働けないことは餓死することだ。この10年間の貧困減少という成果が、パンデミックの6カ月ですべて失われた。G20諸国が自発的な人道援助課税をすれば、貧困の増加を緩和できる。かつて援助に必要な政治的意志はあった。マーシャル・プランを思い出してほしい。
FT December 11, 2020
Quiz yourself whether a Covid wealth tax is a good idea
Chris Giles
● EUのもう1つの危機
FT December 4, 2020
EU identity crisis: Poland, Hungary and the fight over Brussels’ values
Sam Fleming and Michael Peel in Brussels and Valerie Hopkins in Sofia
EU加盟諸国の多くは支持するが、法の支配を破る諸国に対してはEUの1兆8000億ユーロの予算から復興基金による資金を与えない、という新しいルールが導入されることにハンガリーとポーランドは反対している。この緊急に必要なパンデミックの復興資金そのものを、両国は拒否している。
ポーランドなど、加盟国の中で、EUの基準である司法の独立性を破壊する国が現れている。丸太のように、汚職を追求するジャーナリストが殺害する国もある。ハンガリーは、EU本部の多くの者が「非リベラル」とみなす考えを推進してきた代表的な国だ。
これらはEUが依拠する基本的価値と法の原則に対する直接の否定であり、EUの外交やソフトパワーの破壊である。結果的に、EUは偽善者という非難を受け、道義的な正統性を失い、ビジネスにおける司法への信頼が損なわれている。
このようなときに、EUはUKの離脱交渉の最終段階に関心を奪われ、また、アメリカのバイデン次期大統領が進める権威主義体制に対抗する世界の民主主義諸国の団結を危うくする。
EUは、常に、経済共同体以上のものをめざしてきた。民主主義、法の支配、基本的な諸権利は、EUの根本である。EU独自の存在理由なのだ。しかし、加盟における審査は厳しいが、いったん、加盟した国における政府の行動をチェックする仕組みが欠けている。
FT December 6, 2020
Poland’s EU budget veto stokes talk of ‘Polexit’
James Shotter in Warsaw
5年前にポーランドで「法と正義」(PiS)が政権を取ってから、EUとの関係はつねに対立するものであった。ワルシャワとEUの対立が1兆8000億ユーロの予算案拒否におよんで、論争は過熱している。
保守派の雑誌Do Rzeczyは、「われわれはEUに、いい加減にしろ、と言わねばならない」と表紙に掲げている。そして「Polexit(ポーランドのEU離脱)について語る権利がある」と。
しかし、ポーランドの世論はEU加盟を80%が支持している。それは加盟を決めた2003年の国民投票で支持した78%を超えている。
確かに今、それは愚かな議論だが、長期的には、わからない。EU諸機関が各国に対する警察官のような行動を取るなら、それはリベラルなエリートを守る介入となる。その先にはPolexitがあり、他の諸国も離脱するだろう。と、右派は警告する。
FT December 7, 2020
Europe is right to risk a double ‘no deal’
Gideon Rachman
妥協が見いだせない場合、EUは両方とも「合意なし」になる。1つは、EU離脱に関するUKとの交渉。もう1つは、ポーランド、ハンガリーがEU予算に対する拒否権を行使する条件となっている、法の独立性を復興基金の給付条件にする交渉。
もしUKと合意できない場合、UK国境に通関が設けられ、輸送トラックが長蛇の列をなす。漁船同士が争って会場で衝突するかもしれない。また、もしポーランドとハンガリーが拒否すれば、EU予算は初めて成立しなくなる。
EUの指導者たちは、これほどのリスクをなぜ冒すのか? EU官僚たちが傲慢すぎるのか?
EUの側で「合意なし」を求める者はいない。しかし、EUは間違った合意が長期的にEUを破壊する影響を知っているからだ。
ブレグジットの条件が、イギリス企業の市場アクセスを認めながら、UK政府が企業を保護し、EUよりも規制を緩和するなら、ヨーロッパ企業は市場を奪われるだろう。EUは「平坦な競争条件」を決して譲らないのだ。UKはカナダと違い、EUのすぐ横で、しかも、多くの潜在的な競争企業がUKにはある。
UKとの交渉を間違えば、EU加盟国政府が国内で政治・経済的ダメージを被るだろう。特に、右派のポピュリズムから攻撃される。フランスのマクロン大統領は、2022年の選挙を前に、すでに右派に流れている漁業関係者たちを刺激するようなことは、決して認めない。
ハンガリー、ポーランドとの悪い合意は、ブレグジット以上に破壊的影響がある。何年も、両国は権威主義体制に向かう傾向を進めてきた。EUからの復興基金に「法の独立性」を条件として付けることは、彼らの方針を変える最後のチャンスであろう。
UKも、ハンガリーも、ポーランドも、EUが求める条件は国民の利益に一致する。
ボリス・ジョンソン首相は、環境規制や労働基準に関して、UKがそれを低下させることには関心がない、と表明している。漁業の対立は国益と関係ない。むしろ、フランスとの関係を悪化させるだけだ。また、ポーランドとハンガリーの国民も、汚職や政治の経済介入を防ぎ、権威主義体制への傾斜を止めるために、EUを必要としている。EU加盟国として、国民は多くの利益を得ているのだ。
たとえ、短期的には2021年が悪いスタートになるとしても、悪い条件で合意することは何十年もEUを弱めるものになる。
FT December 8, 2020
Poland and Hungary will be losers from a budget veto
PS Dec 9, 2020
Merkel’s Last Chance
JAN-WERNER MUELLER
EU加盟諸国の中で最も長い期間を政権担当者である者として、ドイツのメルケル首相は打開策を求めた。「すべての側は」・・・「一定の妥協をするよう」呼びかけた。
しかし、なぜ「法の支配」のような基本的価値に関してEUが妥協するべきなのか? なぜ納税者から集めた資金を独裁者とその仲間たちの利益にすべきなのか?
The Guardian, Thu 10 Dec 2020
For Europe, losing Britain is bad. Keeping Hungary and Poland could be worse
Timothy Garton Ash
「ブレグジットとは、ブレグジットのことだ。」 イギリスのテリーザ・メイ元首相はこんな呪文を唱えた。
EUとほとんど合意なしの離脱を決めれば、こうした言葉で自分たちをだますこともできなくなる。5年か10年で、この島と大陸の間の新しい関係が決まる。そのときは、EUが全く違うものになっているだろうし、UKはなくなっているかもしれない。
スコットランド人は、数年内に、イングランドとの300年間の同盟を破棄して、EUに参加することを住民投票で決めるかもしれない。それに反対して、同盟を維持したいイングランド人は、独立より望ましい新しい同盟関係を示さねばならない。UKが終わり、新しい連邦国家になる。(Federal United Kingdom produces an unfortunate acronym.)
2016年の国民投票は、約束破りの連続だった。ボリス・ジョンソンは、自由貿易で、しかも欧州単一市場にアクセスできる、と書いた。Liam Fox通商大臣は、EUとの自由貿易協定を「人類史上で最も簡単なもの」と述べた。強硬派は、「イングランドを征服する独仏のナポレオン帝国」と非難し、同時に、このナポレオンたちがUKの特権や単一市場へのアクセスを認める、と主張した。つまり、ケーキを持って、しかも、ケーキを食べる。
イギリスと大陸の間は、接近するのか、離れていくのか? 現在のポピュリスト政権が進める方針に代わる説得的な方針はソフト・ブレグジットである。他方で、ハードなブレグジットのあと、スコットランドと北アイルランドを失った小さなイギリスが、優れた金融サービス、大学、バイオなど、競争的なビジネスモデルを、時間をかけて、発展させるかもしれない。
しかし、ブレグジットの将来は、大陸側の変化にも依存するだろう。1兆8000億ユーロの予算と復興基金の提案を、ハンガリーとポーランドが拒否権で阻止している。基金の前提条件に「法の支配」を求める提案を弱めるため、彼らは他のEUを人質にしている。
両国の主張が意味するのは、コロナウイルス危機で苦しむユーロ圏、特にイタリアやスペインを助けたかったら、何の条件も付けずに、われわれに復興基金を使わせろ、ということだ。その金は、ドイツやオランダの納税者が支払い、オルバンとその家族や友人たちが使う。持ってもいない他人のケーキを、彼らは食べる。
EUはUKに「平坦な競争条件」を求め、ハンガリーとポーランドに「法の支配」を求めて、交渉が危機に陥っている。しかし、ハンガリーとポーランドがイギリスに続いてEUを離脱することはない。彼らはEUに残り、EUの重要なルールを破り続ける。
EUの将来にとって、どちらが重要な危機か?
PS Dec 10, 2020
Poland’s Populist Catch-22
SŁAWOMIR SIERAKOWSKI
● EUの統一
FP DECEMBER 4, 2020
Europe Needed Borders. Coronavirus Built Them.
BY CAROLINE DE GRUYTER
PS Dec 10, 2020
EU Leaders Must Hold the Green Line
PASCAL LAMY, ENRICO LETTA, LAURENCE TUBIANA
● 超富裕層
FT December 4, 2020
Angry billionaires make disturbing neighbours
John Gapper
FT December 10, 2020
Will wealthy Americans jump the queue for the Covid vaccine?
Gillian Tett
● 弁護士ジュリアーニ
FT December 4, 2020
Rudy Giuliani, America’s nightmare
Henry Mance
トランプとジュリアーニとの結びつきは、アメリカの機能マヒについて特に目立つ一面である。
9・11のテロ攻撃を受けたニューヨークで指導力を発揮したジュリアーニが、市長mayorからアメリカの悪夢nightmareに変わった。
● リベラルな国際主義
PS Dec 4, 2020
Can Joe Biden’s America Be Trusted?
JOSEPH S. NYE, JR.
SPIEGEL International 04.12.2020
Germany's Foreign Minister on the Future of Trans-Atlantic Relations
Interview Conducted by Christiane Hoffmann und Martin Knobbe
FP DECEMBER 5, 2020
Why Liberal Internationalism Is Still Indispensable—and Fixable
BY MICHAEL HIRSH
ジョー・バイデンは、オバマ政権でめざしたリベラルな国際主義を再び追求するのだろうか。しかし、その理想主義が復活することは難しい。
アイケンベリーG. John Ikenberryは、新著A World Safe for Democracyで、リベラルな国際秩序を説明し、擁護した。それは民主主義、協力、法の支配を基礎に、諸国民の共同体を築くものである。彼によれば、この考えは200年前に、啓蒙主義の中に生まれ、アメリカ革命・フランス革命を経て、ポスト冷戦期、そして最悪の時期には、ドナルド・トランプのネオ・ナショナリズムにより、危うく崩壊するところまで弱められた。
アメリカの政策担当者たちは、「リベラルな国際主義」が、20年前、「歴史の終わり」と言われた春の時代から、冬の時代に入っていることを知っている。
アイケンベリーによれば、バイデンと民主党は、ずっと前に、冷戦後のアメリカの慢心から、現代におけるリベラルな国際主義の大失策をもたらした、と知った。レーガン時代には、ネオリベラリズム、すなわち、資本主義的な自由市場が全ての問題を解決する、と信じた。また、民主主義が全ての問題を解決する、と信じた。特に、アラブ世界でそうだ。しかしイラク戦争は破滅であった。
諸国民とワシントンは、共通の「物語」を失った。
アイケンベリーによれば、ベルリンの壁が崩壊した1989年後の時代は例外的なものであった。むしろ200年間にわたり、秩序を築く闘いは、疲れた、民主主義国家間の競争だった。
バイデンの政策チームはアイケンベリーの本に注目している。彼は、あまりにも熱狂的にグローバリゼーションを追求したことで犠牲になったアメリカ中産階級の諸問題を、バイデンは解決する必要がある、と考える。
民主党も、共和党も、「アメリカの国際主義はアメリカ中産階級の必要や希望に対して十分に注意を払わなかった。」 アメリカが危険なポピュリスト的分断に苦しむのは、彼らの問題に答えるより、グローバルなネオリベラリズムを受け入れ、国境を開放したからだ。特に、中産階級は中国からの安価な輸入品に苦しんだ。
冷戦後の国際主義者が失敗したのは、ロシアや中国など、非リベラルな諸国がグローバルなシステムに入って、容易に改革を実現すると信じたからだ。彼らは変わらなかったのだ。
リベラルな国際主義は、もっと攻撃的ではなく、防衛的なものになるだろう。大きな構想を実現するために世界に進軍するのではなく、もっと実際的な改革を進める。そして、リベラルな民主主義にとって安全な世界を築く。
しかし、リベラルな国際主義のほかに、「相互依存の問題」を解決するシステムは存在しない。アメリカはもっとリアリスト的なアプローチを取るべきだ。平均的なアメリカ人にとって有益な、労働基準や環境規制を守る国際主義。その意味で、「保護主義」はもはや悪い言葉ではない。
バイデンの外交は、パンデミックと失業した労働者たちから始まる。
NYT Dec. 7, 2020
Biden Says No More Coddling Dictators. OK, Here’s Where to Start.
By Michael Wahid Hanna
NYT Dec. 7, 2020
On Iran, Biden Can Bide His Time
By Bret Stephens
● 世界貿易
PS Dec 4, 2020
The Limits of the RCEP
LEE JONG-WHA
PS Dec 10, 2020
Supply Chains and Demand
RICHARD HAASS
サプライチェーンの安全性が問題になっている。それは保護主義と区別して、産業政策による多様化が進むだろう。
FP DECEMBER 10, 2020
2021 Could Be the Year of Free Trade
BY RYAN C. BERG, LAURI TÄHTINEN
● 強姦、誘拐、奴隷
NYT Dec. 4, 2020
The Children of Pornhub
By Nicholas Kristof
インターネットにおける児童ポルノ、誘拐や強姦の動画、それを公開して収入を得るサイトとさまざまな組織。そのシステムに巻き込まれ、人生を破壊される子ども、女性。
The Guardian, Sat 5 Dec 2020
Slavery will never be history as long as we turn a blind eye to China
Nick Cohen
● アメリカと中国の戦略的合意
FP DECEMBER 4, 2020
Congress Isn’t Leading on Human Rights in China
BY JORDAN SCHNEIDER, COBY GOLDBERG
FP DECEMBER 4, 2020
The United States Can Negotiate With a China Driven More by Power Than Ideology
BY ROBERT A. MANNING
中国の台頭・再登場に関して議論するとき、私は問題を提示する。「アメリカは、何を中国の正当な利益と認めるべきか?」 会場は静まり返る。その答えは、基本問題につながる。アメリカは中国と共存できるのか? あるいは、戦うしかないのか?
米中対立を生じている中国の行動は、大国の行動パターンなのか、あるいは、中国共産党のマルクス=レーニン主義イデオロギーによるものか? パワーは交渉できるが、イデオロギーは、宗教と同じように、妥協の余地がない。
中国の台頭・再登場は、勢力均衡の変化として理解できる。第2次世界大戦後の秩序は、神が命じたものではなく、永久には続かない。Robert D. Kaplan and Eldridge Colbyが、Foreign Affairsで論じた。アメリカに比べて中国のパワーが相対的に増大することは、アメリカの利益や影響力を損なう、しかし、これはイデオロギーの問題ではない。もしそう考えれば、破滅をよぶことになる。
中国の1000年を超える歴史が示すのは、イデオロギーが重要な要素ではあるが、基本的に、パワーの問題であることだ。中国共産党のイデオロギーは、マルクス=レーニン主義と、権威主義的な開発型・国家資本主義モデルとの、雑種である。
習近平の中国は、毛沢東のように共産主義革命を輸出していないが、海外の中国系住民を利用して、悪意ある形の経済圧力を加えている。たとえば、オーストラリアに対してあらゆる中国批判を黙らせるやり方は、あまりにも常軌を逸しており、アメリカ、EU、日本、その他の諸国が団結したオーストラリアの支援に立った。
しかし、中国はグローバリゼーションを破壊するのではなく、それを支持している。IMFや世界銀行、国連に関しても、中国の地位が低いことに不満を持っているが、秩序を破壊するより、その中で地位を引き上げるつもりである。北京が採用している略奪的な産業政策に関しても、これはそもそもアメリカの初代財務長官、A.ハミルトンが提唱したものだ。
最近、ヘンリー・キッシンジャーは米中関係について語った。「アメリカの指導者と中国の指導者は、脅威になる限界がどこなのか、話し合うべきだ。・・・そんなことは全く不可能だ、と言うのかもしれない。しかし、もしまったく不可能であれば、われわれは第1次世界大戦と似た状況に入るだろう。」 しかも今、われわれは核兵器とAIを持つ。
FT December 6, 2020
Three priorities for the US to de-escalate the China conflict
Stephen Roach
FP DECEMBER 7, 2020
Forget Greenland, There’s a New Strategic Gateway to the Arctic
BY REGIN WINTHER POULSEN
FP DECEMBER 7, 2020
China Is Both Weak and Dangerous
BY MATTHEW KROENIG, JEFFREY CIMMINO
中国は、アメリカに変わって世界を1つの秩序によって統一するつもりだろうか。中国の長期的戦略によって、米中対立の将来が問われている。
Dan Blumenthalの新著The China Nightmare: The Grand Ambitions of a Decaying Stateは、中国が攻撃的な、野心的な大国であると同時に、底流に横たわる弱点を抱えており、それが台頭を終わらせ、衰退へ向かわせる、と考える。中国は、その内部に育つ弱点を抱えるがゆえに、外に向けて野心的な戦略を進めるのだ。
中国がアメリカからアジアにおける地域的な覇権を奪うことをめざすのか、あるいは、世界秩序そのものを中国の考えによって築こうとするのか、と学者たちは論争している。Blumenthalの答えは明確だ。中国は世界秩序をめざす。
中国共産党は、内部の多くの問題を意識している。人口危機。成長鈍化。その原因ともなっている、共産党による経済の国家管理再強化。資産の海外逃避。環境破壊。それによる農業危機と国民の健康破壊。中所得の罠。分離主義。国内の反乱。
中国共産党は、正統性を得るために、従来のマルクス=レーニン主義ではなく、新しい恐怖の帝国を築くイデオロギー、すなわち、帝国主義的ナショナリズムを広めている。中国は弱く、それゆえ危険である。
中国はどのような世界に住みたいか明確に意識している。長期的戦略だ。問題は、アメリカがそれを知らないことだ。
FP DECEMBER 9, 2020
Democracies Need a United Strategy Against China
BY EDWARD LUCAS
アメリカが指導する大西洋同盟と民主主義的東アジア同盟とは、最も恐るべき敵である中国に関する戦略を欠いている。他方、中国共産党(CCP)は、こうした敵対者を扱う戦略を持っている。CCPは、自分たちがルールに従うより、ルールを作る側である国際秩序を求めている。習近平体制が自国民を扱うやり方を観れば、彼らが国外の者に対して優しい扱いをするとは思えない。
CCPはその戦略を明確な指導力によって推進する。外国の外交的、経済的、政治的、社会的な弱点を、正確に評価し、利用する。「シャープ・パワー」戦術として、情報システムの監視と操作、情報空間の作戦、貿易や投資の利用、プロパガンダと軍事的威嚇を行使する。
グローバルな反中国同盟には戦略が必要だ。目標、指導体制、同盟関係、優先順位を決定する。謙虚さは必要だ。同盟内において、また中国の人々に対して、謙虚であるべきだ。過去数十年、そして数百年の、間違った政策を認める。貧困や混乱状態から中国が復興したことを認める。
中国共産党を倒すことは目標ではない。それは対立とカオスを大きくするリスクがある。冷戦が他の封じ込めも実行できない。中国はあまりにも大きく、重要で、国際的なサプライチェーンや金融市場に緊密に問うどうされている。中国のもっとも有害な行動をやめさせることが目標である。世界の裕福な民主主義諸国による体制転換ではなく、中国がわれわれと共存できるようにすることだ。
トランプ政権が破棄したTTP(環太平洋)やTTIP(大西洋)が必要である。自由貿易と投資ルールの調整よりも、経済・デジタル・ガバナンスに焦点を向ける。最も優先されるのは、政治・文化的な自由と、民主的な司法システムの独立性である。
第2に、CCPの脅迫や影響力の拡大に対して、集団で対抗することだ。例えば、台湾の孤立化を進めることに反対する。むしろ台湾はCCPのプロパガンダに対する最良の反例である。自由で、繁栄する、法治の「もう1つの中国」が存在する。
第3に、世界の民主主義諸国は、何をやっても許されるという風土に打撃を加えるべきだ。中国の違法行為や外国における影響力の拡大を、統一戦線を形成して阻む必要がある。
第4に、アメリカの指導する同盟は、中国の弱点を突くべきだ。西側との個人的なコネクション、国境を超える犯罪取り締まり、諜報活動、金融規制などは、これらをCCPが介入手段として買収や影響力行使におよぶ構造をあばくことに結びつけるべきだ。
CCPが海外に住む中国系住民に及ぼす影響力を失わせることが、最も重視されねばならない。中国語によるグローバルなテレビ放送、短波ラジオは、インターネットのように情報遮断することがむつかしい。CCPに批判的な、独立のメディアを促進する。CCPに支配されない形で、中国の歴史や文化を研究する。台湾をグローバルな関係の中に維持し、香港を支援する。中国を批判することを人種差別だというCCPのプロパガンダに反対する。放送局やソーシャル・メディアが、広東語、モンゴル語、チベット語、ウイグル語で聴衆に訴えることだ。
中国に対抗することや貿易・投資のかく乱はコストを生じるが、明確な政治目標はこれを負担することができる。ソ連に対して行えたように。
FP DECEMBER 10, 2020
Biden’s First Foreign-Policy Crisis Is Already Here
BY TANNER GREER
● 農業
FT December 5, 2020
A chance for British farming to break a vicious cycle
John Cherry
FT December 6, 2020
Jobs are the wrong metric to judge a ‘Green Industrial Revolution’
Jonathan Ford
● タイ王室
NYT Dec. 5, 2020
A King Above and Beyond Politics
By Pavin Chachavalpongpun
● UK国家の改造
FT December 6, 2020
We need to talk about England’s greenbelt
Zack Simons
FT December 8, 2020
Covid crisis is a chance to adapt and evolve the UK’s welfare state
Gavin Kelly
● 穏やかに老いること
FT December 6, 2020
From Tokyo to Beijing, growing old is hard to do
Leo Lewis
人口が増加から減少に転じてから1年後の、2008年までに、死亡者数が出生者数を5万人上回った。2019年までに、その差は10倍の50万人を超えた。
2016年、日本の人口は1日平均で1000人減少していた。2020年は1日1500人減少する。毎分1人が減っている。
この統計を最も懸念するのは、日本国民ではなく、中国だろう。いつ、どのような形で心配するのか。マクロ的には、日本の年金基金が世界におよぼす影響が重要だ。
● ハイテク大企業の規制
FT December 7, 2020
A transatlantic effort to take on Big Tech
Rana Foroohar
欧州委員会は、大西洋関係を転換する「この世代に1度」のチャンスをつかみたいと考えている。他方、アメリカのバイデン次期大統領は、欧州とのパートナーシップを、中国に対する政治的・経済的な対抗案として示すため、リベラルな民主主義の同盟を再活性化する中心にすえたい。
しかし、EU27か国はアメリカと、技術の規制、通商、企業への課税、と、多くの係争中の問題を抱えている。重要なことは、個々の問題を切り離すのではなく、包括して考えることだ。
アメリカでは、反トラスト法をデジタル企業の取引にも適用する動きがある。しかし、司法省のGoogle訴訟は始まったばかりだ。ヨーロッパでは、各国政府に対して、「デジタル・ゲートキーパー」としての共通法や規制をEUが求めている。
シリコンバレーはこれに対抗する動きをすでに取っている。バイデン政権にはハイテク部門に親密な官僚が入っている。しかし、新政権が、市場独占を批判しないような、大企業との親しい関係にある、というのは深刻な打撃になる。
米欧は、境界を超えるデータの交換について、迅速に合意を結ぶべきだ。欧州の提案は司法省の姿勢と重なる。ハイテク大企業が利用者の選択を制約し、操作している、という主張でGoogleと争う。パンデミックにおいて急速に拡大するネット空間の市場独占を、米欧が協力して規制するべきだ。
それはまた、中国によるデジタル監視国家に対する反対を組織することにもなる。
私は今も、公的なデータバンクなどが、市場参加と競争を公的に組織する未来を希望する。小さな企業も含めてすべての企業、研究者、学術研究、などがデータのアクセスを保証される。
同様に、データ抽出ビジネスに課税することも、米欧協力の重要なテーマであるべきだ。公的な規制や監視、制度の維持にはコストがかかるからだ。最も利益を受けている者たちが、これを負担するべきだ。
FT December 7, 2020
The unfiltered lessons of Facebook’s bid for Instagram
Andrew Hill
FT December 9, 2020
Milton Friedman was wrong on the corporation
Martin Wolf
企業の目標とは何か? その答えは、M.フリードマンが1970年にNYTに書いた記事“The Social Responsibility of Business is to Increase Its Profits”が、英語圏で支配的であった。私も信じていた。しかし、私は間違っていた。
この答えは、複雑な問題に対して、余りにも簡単すぎる。
フリードマンの原理を、50年経って、再評価する論集の企画があった。彼と縁の深いシカゴ大学からだ。論争を促したLuigi Zingalesは、さまざまな見解のバランスを取って単純な問題を立てた。「どのような条件なら、経営者は、社会的に観て効率的に、ステークホルダーの価値を最大化することだけに集中するのか?」
彼の答えは、3つの条件であった。1)企業が競争的な環境にあること。2)外部性が存在しない、もしくは、税や規制で完璧に処理されていること。3)すべての偶発的な事情がコストなしに処理できるよう契約されていること。
言うまでもないことだが、これらの条件は何1つ満たされない。企業は、規模の経済を利用するために発明された。市場価格を受け入れる、という発想は間違いだ。グローバルなものも含めて、外部性は顕著に存在する。企業は契約が不完全であるから存在する。完璧な契約が書けるなら、経営者は必要ない。何よりも、企業はルールを受け入れるのではなく、自分たちに都合のよいルールを作っている。
私は、他の寄稿者たちに問いかけた。良い「ゲーム」とはどんなゲームなのか? 企業は、気候変動や環境問題についてのクズのような理論を発明した。アヘンのような中毒性の薬物を広めて多数の死者をもたらした。莫大な利潤をタックスヘイブンに移してしまうような税制を推進するよう、政治家たちにロビー活動した。金融部門は自己資本が不足するような規制を推進し、金融危機を招いた。著作権(技術のライセンス)の有効期間を延長し、延長し、さらに延長した。競争促進政策を無効にした。不安定な職場の社会的悪影響を抑制する努力に激しく反対した。これが企業の考える良いゲームだ。
もし普通選挙の国で、経営者たちを選挙で決めたら、だれか当選できるのだろうか? 間違ったことをした企業が処罰されても、経営者たちは処罰されていない。
あまりにもバランスを欠いた経済的、社会的、政治的パワーが現在の条件では発生する。企業のパワーが野放しであることは、ポピュリズムが台頭する1つの要因だ。フリードマン的なリバタリアンの世界を支持する者は少なく、企業は民主主義を生き延びるために、戦争、人種差別、女性差別、ネイティビズム、外国人排斥、ナショナリズムを支持する諸集団と同盟を組んだ。
2008年の金融危機の後、規制されない自由市場はますます支持されなくなった。だからリバタリアンたちは、ドナルド・トランプを必要としたのだ。トランプは好ましい人物ではなかったが、大統領選で勝つことができる政治的企業家であった。何より、企業の求める減税と規制緩和を、トランプは与えた。
企業がどのように変わるか、と多くは議論している。しかし、重要なのは、競争、労働、環境、課税など、ゲームのルールを正しく決めることだ。良いゲームのルールを決める政治を、今、われわれは持たない。
FT December 8, 2020
EU vs Big Tech: Brussels’ bid to weaken the digital gatekeepers
Javier Espinoza in Brussels
FT December 8, 2020
Silicon Valley’s next goal is 3D maps of the world — made by us
Tim Bradshaw
FT December 10, 2020
The foreseeable, yet largely unforeseen, risks of a tech crash
John Thornhill
NYT Dec. 10, 2020
Yes, Facebook Has Become a Menace
By Kara Swisher
● 2020年のブレグジット
NYT Dec. 7, 2020
Brexit: What Were We Thinking?!
By Russell Brand
ブレグジットを決めた国民投票から4年経ったが、われわれはこの楽しい荷物の中身を理解したのだろうか?
今年の1月末に、ようやくイギリスはEUを出た。それはナショナリズムへの後退、進歩的なグローバリズムの夢にラッダイトが加えた攻撃だった。
それで、権力集中と封建主義の理想を求めた、われわれはどうなるのか? 世界は変化し続けている。まさにグローバルな勢力の1つであるコロナウイルスが、この何か、よくわからない、神秘的で、未来的で、宇宙的で、微生物的な勢力が、われわれの世界を変える。
パンデミックは、ブレグジット後のイギリスで明白になった社会の階層化とともに、われわれがもはや中央集権的なシステムに生きることはできない、ということを示した。そのシステムが賢慮億の階層性と頂点を支えていたのだ。彼らは、その本性において、醜いポピュリストか、リベラルな技術官僚であった。両者は真の政治的な対案、真の変革が必要なことを教える先駆者である。それは超党派の民主主義が表面的に示す改革ではない。
おそらくパンデミックの前から、ブレグジットの前から、われわれはむき出しの個人主義に入って港を封鎖していたのだ。それはもっと有害な孤立である。われわれは投獄され、つかの間のアイデンティティーという刑務所の中で、独りぼっちだった。何の信念もなく、気まぐれな欲求を満足させるだけで、他には何も気にしない。これが分断だ。イギリス人民はそこから出て、何か自分たちを統一する本物の感覚を手に入れる必要がある。
究極的には、ぞれが、離脱しても残留しても、その罠にはまってしまう、自分という孤島である。
PS Dec 8, 2020
The EU Must Break the Brexit Deadlock
MARCEL FRATZSCHER
The Guardian, Wed 9 Dec 2020
Brexit was never a grassroots movement, but an elitist political takeover
Aditya Chakrabortty
Callum Vagaは離脱運動のボランティアだったが、今はウェールズの組織、19人いるが、そのシニア・スタッフだ。彼の人生で最も多忙な瞬間である。
「私は男たちを探した。特に、エスニック・マイノリティーで、裕福でない男たちだ。」 多くの者がブリュッセルに憤慨していたが、その問題の多くは国内で生じたものだった。病院の待ち時間が長い。まともな仕事がない。外国人たちが金をもらっているという人種的な偏見も聞いた。「EUに関心はないが、ブレグジットを支持した多くの者がいた。彼らはエスタブリッシュメントに逆らったのだ。」 すなわち、デーヴィッド・キャメロンを失敗させた。
2016年6月に顕著な点は、すべての奇妙な右派の億万長者たち、オックスフォードで学んだリバタリアンたちが、自分たちの行商人のような計画やにせものの政策を行うために、人民の道義的な権威を僭称し始めたことだ。彼らはその目的を達成するために、いなかの労働者階級が支持し、投票したブレグジットやジョンソンを頼った。クルーズ船に乗るような、豊かな年金生活者は彼らのために投票しなかった。
ブレグジットはフェイクの社会運動である。ブレグジット・キャンペーンは、下から起きたのではなく、上から組織された。エリートたちが保守党を乗っ取ったのだ。さまざまな進歩的党派はブレグジットで分裂し、対応の仕方がわからなかった。彼らはEUを守ろうとして、まさに右派の思うつぼにはまった。
ファラージやリース=モグはブレグジットを、偉大な民主的生まれ変わりだ、と称えるが、とんでもない。彼らは職が失われることを気にせず、主権を称えたのだ。
2016年に政治的関心を高めた人々は、今は消えてしまった。どうなることができたのか? 今、ブレグジットは、意味のある投票について、指導権を争い、焦点の定まったスローガンを広めている。その正当性を信じるのは、イギリス経済や政治の周辺部、限界的な役割を強いられる人々だ。
右派のポピュリストとは違い、離脱に投票した人々は、人でも、政党でもなく、投票の決定プロセスを支持した。しかし、それがどうなるかは、必然的に何十年もかけて、政治、官僚、ビジネスのエリートが決めるだろう。
The Guardian, Wed 9 Dec 2020
'V-Day', really? The vaccine should be a source of global joy, not petty patriotism
Fintan O’Toole
The Guardian, Wed 9 Dec 2020
The partition of Ireland reverberates through history – and Brexit will too
Martin Kettle
FT December 9, 2020
Future of the City: how London’s reach will shrink after Brexit
Jonathan Ford in London
FT December 11, 2020
Standing on the edge of the Brexit precipice
FT December 10, 2020
What world is Brexit being launched into?
Simon Kuper
● 分裂病とアメリカの民主主義
PS Dec 7, 2020
America Passed the Trump Stress Test
ERIC POSNER
ドナルド・トランプ大統領が既存の政治規範を侮辱した4年間の後、アメリカの立憲民主主義は長期のダメージを被った、と言いたくなる。しかし、2020年の選挙が示すように、アメリカの民主主義制度はむしろ強化された。
投票ができなくなるとか、脅迫されるとか、暴動が起きるとか、警察や軍が動員される、と言われた。ドナルド・トランプ大統領は敗北を認めず、民主党の不正を主張し、投票結果を無効だと裁判所に訴えた。
しかし、就任式の日を超えて、ドナルド・トランプがホワイトハウスに残る現実的な見込みはない。
クーデタの試みがあるというのは誤解だった。香港型の街頭蜂起は起きていない。制度に対するトランプの攻撃は、概ね、一種の政治パフォーマンスを示すアートである。
矛盾したことだが、トランプによる民主主義への攻撃は、それを弱めるより、むしろ強化したように見える。投票率は1900年以降で最高であった。トランプは新聞を「人民の敵」と攻撃したが、批判されたジャーナリストたちや主要メディアは注目されて、活躍した。NYTの発行部数は、トランプが「敵」とみなしたが、2017年の300万部から2020年には700万部に増えた。
法廷は独立性を維持している。根拠のない訴えを退けた。
規範破りは続かないが、その欠陥を示すことで、民主的な手続きによる改正を促す。規範が滅びるのは、新しい原理と対立するか、新しい政治の現実と合わなくなるからだ。
トランプはアメリカ政治システムの権力中枢を攻撃したが、それは人々に、なぜ権力の中枢が重要であるかを思い出させた。新聞、裁判所を破壊できなかったし、彼が望むほどは、法の強制力、行政過程が、民主党や他の政敵を妨害することはなかった。
それは、彼が政治的に支持されていなかったからだ。トランプは人気のない大統領である。
NYT Dec. 7, 2020
Trump Needed the ‘Boneheads’ More Than He Knew
By Julius Krein
FT December 8, 2020
No easy cure for America’s ‘paranoid style’
Edward Luce
ホーフスタッターRichard Hofstadterは、アメリカの20世紀における偉大な思想家であるが、世界を善と悪の闘いで理解するパラノイド心理でアメリカ政治を考えた。彼の理論は、“the paranoid style in American politics”に示されるが、1950年代のマッカーシーによる赤狩りを観察したことで生まれた。
現代のアメリカでは、敵はグローバルな諸勢力と同盟した「ディープ・ステイト」である。陰謀論者たちは、彼らが大統領選挙を操作してジョー・バイデンを勝たせた、と信じている(証拠は何もないが)。問題は、そのようなパラノイドが共和党の支持者の圧倒的多数なのか。それは政治的怨嗟をまき散らす、破滅的な勢力なのか。
トランプの陰謀論が衰微し始めることは、もちろん、ありうるだろう。しかし、彼が共和党を結束させることも、同様に、ありうる。最近の調査が示すように、トランプは共和党の2024年大統領候補として圧倒的に好まれている。そして、ペンス副大統領に次いで、第3位に来るのはドナルド・トランプ・ジュニアである。
トランプは、1月のジョー・バイデン大統領就任式をボイコットするようだ。そのとき、共和党議員たちが彼に従うなら、共和党は彼のものだ。
NYT Dec. 8, 2020
A Chance to Repair the Cracks in Our Democracy
By Joseph E. Stiglitz
NYT Dec. 9, 2020
The Resentment That Never Sleeps
By Thomas B. Edsall
ざっくりといえば、トランプと共和党は、白人のキリスト教徒、大学を卒業していない白人労働者・白人中産階級の地位を高めるために闘った。バイデンと民主党は、以前から社会の周辺に追いやられていた集団の立場を改善するために闘った。女性、黒人などのマイノリティー、LGBT、その他である。
この政治化された地位をめぐる競争は過熱し、リベラルなエリートによって地位を奪われることへの、大学卒ではない白人たちの怒りを生んだ。そして亀裂の両側で、伝統的なヒエラルキーを転覆する試み、アイデンティティー政治をもたらした。
Ridgewayによれば、「社会的不平等の基礎として、地位は資源やパワーと異なっている。地位は、物的な枠組みに直接に依拠するのではなく、文化的な信念によるものだ。」
われわれは地位を重視する必要がある、なぜなら地位は、資源やパワーと同様、人間の動機を形成する基本的な源泉であり、不平等を生み出す優先順位における闘争を強力に形成するものだから。
Peter Hallは、左派に惹かれる人たちは、社会的地位のトップとボトムから生じる、という。「社会的な階段の底に近いところから始める人たちは、ラディカルな左派に惹かれる。それは彼らに最も顕著な社会的再編をもたらすプログラムを示すからだ。トップに近い人々も、しばしば左派に惹かれるが、それは彼らがその価値を共有するからだろう。」
トランプのような、右派ポピュリストの主張に惹かれるのは、社会的階段の数段上にいるが、「転落の恐怖」をもっとも感じている人びとであろう。経済的、文化的なショックに直面して、逃げ場を求めているのだ。
トランプ支持者の中核集団は、大卒資格のない白人たちであり、能力主義的な競争で階段を落とされていく、という暗い未来を予想している。それは、高等教育や標準化されたテストによる高得点が高い報酬をもたらす競争だ。
所得分配の下半分にいる有権者は、ハイパー地位競争に直面して、社会的、経済的な移動性がゼロになった不平等な世界で、地位の不安を政治化することに従事してきた。すなわち、1940年代に生まれた人々は90%が親たちの世代よりも経済的に改善する未来を期待していたのに、1980年以後に生まれた人びとは50%しか期待していない。さらに悪いことに、パンデミックの最悪の結果を強いられているのは、地位の低い人たちである。
ジョー・バイデンは有権者に約束した。「私たちはアメリカの約束を守る。あなたの人生がどこで始まるとしても、あなたが達成できないものは何もない。そうすることで、私たちは国民の魂を再生する。」
トランプは、アメリカが約束を守らなかったことを攻撃して大統領になった。今、われわれは、バイデンが約束を果たしてくれることを願う。
FT December 11, 2020
Like the financial crisis, Covid is a gift to populists
Philip Stephens
NYT Dec. 10, 2020
What Really Saved the Republic From Trump?
By Tim Wu
● パンデミックと開発・貧困国
PS Dec 8, 2020
The Pandemic Public-Debt Dilemma
MICHAEL SPENCE, DANNY LEIPZIGER
PS Dec 9, 2020
The Case for an Arabian Universal Basic Income
STEFFEN HERTOG
PS Dec 9, 2020
China Takes the Lead in Development Finance
KEVIN P. GALLAGHER, REBECCA RAY
FT December 10, 2020
World Bank: four steps to equitable education
David Malpass
● NATO
PS Dec 8, 2020
Getting NATO Back on Track
MELVYN KRAUSS
● 良い職場を創る
PS Dec 8, 2020
How Biden Can Create Good Jobs
DANI RODRIK
パンデミックにより、アメリカの労働市場はますます分極化が進むと予想される。良質な、中産階級の好む職場は消滅してきたが、その理由は、機械化、脱工業化、グローバルな競争激化、「ギグ・エコノミー」などであった。
バイデン次期大統領は率直な問題に答えねばならない。「良い職場はどこから生まれるのか?」
それは特別なスキルを求める職を生み出す、生産的な企業である。
いわゆる「部門ごとの職業訓練」が成功している。特定の部門で、雇用者の要求にあったスキルを訓練するべきだ。
需要面では、税による誘因やインフラが挙げられる。しかし、それはコストがかかって、無駄になることも多い。ローカルなレベルで企業との関係構築が必要だ。その規模は極めて小さく、資金調達は困難である。
バイデン政権が、彼らの小さな試みを、アメリカ再建戦略の中心に据えてほしい。
● 西欧の移民
FP DECEMBER 8, 2020
Western Europe Is Losing Its Immigrants
BY OGNYAN GEORGIEV
● 中国の環境政策
FT December 9, 2020
Fall of China’s ‘most profitable’ coal miner is a cautionary tale
Sun Yu in Yongcheng and Tom Mitchell in Singapore
PS Dec 10, 2020
Assessing China’s Prospects for Carbon Neutrality
XU HAN, SEBASTIAN LEWIS, SHAUN ROACHE
● 技術の多様化
FT December 9, 2020
Diversity in technology must go beyond gender
Sarah Al Amiri
● パンデミックとドル
FT December 9, 2020
Bank capital buffers aren’t working
Lars Rohde
FT December 9, 2020
Will bitcoin end the dollar’s reign?
Ruchir Sharma
パンデミックでも、ドルの地位は揺るがない。国際貿易を仲介し、諸通貨の価値のアンカーになっている。ほとんどの中央銀行が「準備」としてドルを保有する。
アメリカ以前に、5つの大国だけが「準備通貨」を供給した。ポルトガル、スペイン、オランダ、フランス、イギリスである。その在位は平均で94年であった。アメリカがその地位に就いてから、今年で100年が経つ。
問題は、後継者だ。ヨーロッパの共通通貨は信頼されていない。中国の通貨は、その野心を示すが、1党支配国家の恣意的な運営を懸念される。
アメリカ政府は自信を深めて、パンデミックの対策を巨額の財政赤字とドル紙幣の増発で賄っている。しかし、新しい対向車が現れつつある。暗号通貨だ。
アメリカが指導して、各国の中央銀行が通貨価値を削る取る中で、これに不安をもった多くの人々が暗号通貨を購入した。
昨年、アメリカの対外債務はGDPの50%を超えた。それは、しばしば、危機のシグナルだ。ロックダウンの借入増で、一気に67%に達する。世界がアメリカ政府の返済能力に不信を感じたときが、ドル支配の終わるときである。
暗号通貨を規制しようとしているが、それはポピュリストの反感を強めるだけだろう。
FT December 9, 2020
Bank of England should switch strategy on QE
Richard Barwell
● 民主主義
FT December 9, 2020
Democracy cannot function without media freedom
Stef Blok
NYT Dec. 9, 2020
A Year of Radical Political Imagination
By Nadya Tolokonnikova
● EUとロシア、トルコ
PS Dec 9, 2020
Putin’s Constitutional Autocracy
ANDREI KOLESNIKOV
FT December 10, 2020
Turkey is Europe’s other major headache
David Gardner
EUは、UKやハンガリー、ポーランドだけでなく、トルコとの交渉決裂がありうることを真剣に考えねばならない。それは、トルコのEU加盟交渉だ。欧州の指導者たちはエルドアンの専制的な傾向を非難する。
しかし、彼らはエルドアンのプラグマティックな姿勢を無視してきた。その結果、EUはトルコに対する重大な交渉の梃子を失う恐れがあるのだ。
2005年、トルコとの加盟交渉の開始を盛大に祝ったが、その後は急速に停止した。それは、トルコが大きく転換し、近代化するためのエンジンを失わせた。
2004年のキプロス再統合に関する国連案が崩壊したことが原因であった。しかし、フランスやドイツなど、EU諸国は、トルコの加盟に高い障壁を設けたのだ。それはトルコが、あまりにも大きく、あまりにも貧しく、ホトンでお記述されないが、あまりにもイスラム教国家であるからだ。
EUは加盟熱を煽ったり、冷ましたりしながら、機会主義的に利用した。例えば、シリア難民問題だ。
エルドアンンは、進展しないEU加盟よりも、自国の外交や軍事力で政治的な進路を決めるようになった。その好戦的な首長や暴言を無視するべきではないが、トルコはEUを求めている。この扱いにくい独自の国家を、EUと西側は取り込むべきである。
● 女性たちの低賃金労働
NYT Dec. 10, 2020
How Can a Garment Be Cheaper Than a Sandwich?
By Imran Amed
● ギグ・エコノミー
FT December 11, 2020
Airbnb and DoorDash IPOs leave gig economy issues unresolved
Richard Waters
********************************
The Economist November 21st 2020
A misguided counter-revolution: Remaking the British state
A better way not to pay: Many countries need debt relief
A grand bargain: Democracies must team up to take on China in the technosphere
On the edge: Recep Tayyip Erdogan faces up to economic facts
Dayton at 25: After a quarter of a century of peace, Bosnia remains wretched
The constitution: Dominic Cummings and the unchained ministers
Changing down: Why money is changing hands much less frequently
(コメント) ブレグジットは、これまでに労働党が行った改革に対する保守恐慌派による反革命、イギリスの行政権力を握った人々が、人民の意思を実現するためには、他の面倒な制約を破壊し、一掃するべきだ、という思想運動である、と説明されています。
貧しい諸国の債務を組み替える国際合意が必要です。また、バイデン政権は中国との合意を得るべきでしょう。特に技術分野で。それは国境ではない形で、技術の基準・法体系、監視社会による3つの帝国(中国、US、EU)を生む危険があります。
トルコ、ボスニアについての記事、そして、アメリカで通貨の流通速度が大きく低下し、おそらく、爆発的に増大する条件が蓄積されているかもしれない、という記事に注目しました。
******************************
IPEの想像力 12/14/20
インターネットの闇には底がないのか?
YouTubeに投稿される動画は、危険な、間違った情報にも、プラスの報酬を与えて奨励します。その内容をチェックする責任を、プラットフォームが負うべきではないのでしょうか?
座間市の連続殺人事件の犯人に対する死刑判決が出ました。SNSによる言葉や情報が支配的になる中で、約束や感情というものが根本的に損なわれる世界が現れるのだろうか、と思いました。2016年に「文明の暗渠」(IPEの想像力 3/28/16)と書いたとき観ていたのは、千葉・東京の少女誘拐・監禁事件と、ブリュッセルの空港・地下鉄に対するテロ攻撃でした。
ヨーロッパに広がった極右・人種差別集団による弱者への示威行為や施設への放火。アメリカ大統領選挙で広まった集団的狂気。日本では老人たちから資産をだまし取る詐欺集団。そして、介護や貧困の果てに心中する家族の苦しみ。
****
Nicholas Kristof, “The Children of Pornhub,” NYT Dec. 4, 2020
・・・15歳の少女がフロリダで行方不明になった。母親は彼女をPornhubで見つけた。58本のセックス・ビデオの中だ。性的暴力を受けた14歳のカリフォルニアの少女は、Pornhubに載り、警察に通報された。会社が通報したのではない。ビデオを観たクラスメートが通報したのだ。襲撃者たちは逮捕されたが、Pornhubはビデオを配布し、利益を得たことの責任を問われない。
・・・「Pornhubが、私の人身売買を行った犯人だ。」と、女性は私に言った。彼女は、中国からアメリカ人の養子になった。その家族は、彼女を人身売買組織に売り、ポルノビデオに出ることを強いられた。彼女が9歳のときだ。いくつかのビデオはPornhubに載った。何度も載る、と彼女は言う。
・・・これはポルノ写真ではなく、レイプの問題だ。本人が理解しないまま、子供たちが犠牲になっている。
****
ベーシック・インカムについて、ゼミ生が問題提起してくれました。
「お金をもらったら、働かずに遊ぶだけではないか?」 そういう反対は必ずあります。その通りだと思います。もし、彼・彼女たちが「それでよい」と思うなら。
しかし、本当に、そう思うでしょうか? だれか、バカなやつが働いているのだから、それでよい。自分は勝手にさせてもらう、と。
そういう人間が自分の父親、兄弟や妹、自分の息子や娘であったら、あなたは「それでよい」と認めるのでしょうか? 私はそう思いません。
自分の仲間が苦労して働き、自分の両親が田んぼや畑を耕し、長距離トラックを運転しているのに、遊んで暮らせるなら「それでよい」と思うとしたら、そんな奴は「クズだ」と叱られ、「働け」と注意されるでしょう。彼の両親は、自分たちも恥ずかしいと思うはずです。
自分が働いて、十分に稼げることや、税金、医療費などを支払えることに、もっと誇りが持てるような社会であれば、困っている人や、さまざまな、やむをえない事情で働けない人の分も、自分が支払ってやるよ、と思うかもしれません。
インターネットには社会がなく、その闇には底がない。しかし、社会には底がある。仲間を想い、苦しんでいる者を助け上げる気持ちがあるから、それは社会なのです。
****
最近読んでいるポール・コリアーの名著、『エクソダス』には、こんなことが書かれています。
・・・「移民は基本的に、機能不全な社会モデルを持つ国から逃げ出しているのだ。」
・・・「家族を越えた信頼と助け合いは、近代の繁栄した社会の中に蓄積する機能的態度の一環として身に付けられる。」
・・・移民の1つのモデルによれば、「国は異なる文化的コミュニティが同じ法的・社会的地位を約束されて平和に共存する地政学的空間として生まれ変わる。」
・・・「経済的繁栄という奇跡は、根源的には社会モデルを指す。」
しかし、もう一つの「移住」が、同じ暮らしにネットの穴をあけただけで起きる。インターネットを利用することで、ますます多くの人が、特に若者たちが、ポルノや暴力や政治的ポピュリズムを受け入れ、急速に変わっていく。そして、「文明の暗渠」が私たちすべてを呑み込む。
******************************