IPEの果樹園2020

今週のReview

12/7-12

***************************** 

イエレン財務長官 ・・・ブレグジットに縛られる ・・・バイデンの外交政策 ・・・トランプの破壊力 ・・・裕福な社会のパンデミック不況 ・・・イランの核科学者暗殺 ・・・金融メカニズムとその評価 ・・・減税より高賃金 ・・・パンデミックと債務の限界

[長いReview

****************************** 

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 イエレン財務長官

NYT Nov. 26, 2020

In Praise of Janet Yellen the Economist

By Paul Krugman

バイデン次期大統領がイエレンを財務長官に指名したことは、大きな衝撃となった。彼女は、アメリカの経済政策に関する3つの頂点を経験する最初の人物になる。すなわち、大統領経済諮問委員会委員長、連銀議長、財務長官である。

そして、これは彼女の2期目を拒んだドナルド・トランプの決定を翻すことでもある。

彼女は、マクロ経済学を有益な学問として救済する知的運動の指導的人物であった。マクロ経済学は内外から攻撃されていた。

その前に、彼女が連銀議長になる前、理事であった2010年代に、金融危機後の大不況にアメリカ経済は苦しんでいた。それは議会の共和党議員たちが政府債務を懸念するふりをして、政府支出を削ったからだ。それは成長を大きく損なった。

同時に、金融政策に関して激しい論争があった。特に、2008年の金融危機から回復に向けた連銀の政策が批判された。Judy Sheltonは、まったく資格のない人物だが、ドナルド・トランプは連銀理事に指名しようとした。彼は2009年、連銀が「破滅的なインフレーション」をもたらす、と警告した。そして、イエレンは不況と闘うことを優先したハト派の指導者であった。

彼女の姿勢は1980年代にさかのぼる。「有益なマクロ経済学」は、不況と闘う財政・金融政策だった。しかし、政府が富裕層への減税で、魔法のように、好況をもたらすとか、人が合理的に行動するなら、不況と闘う政策には意味がない、という主張が広まった。

イエレンはこれに反対し、「新ケインズ学派」を指導した。人びとは愚かではないが、完全に合理的とか、完全に利己的、ということもない。彼女の主張は、若いエコノミストたちに、有益なマクロ経済学を学ぶライセンスを与えた。また、データとモデルの重要性を示した。

トランプ内閣は、アメリカ史上最悪の道化ショーであったが、220年までに、その無能さは明白になっていた。経済政策は、イエレンのような、その役割を理解した者に委ねるべきだ


 ブレグジットに縛られる

The Guardian, Fri 27 Nov 2020

As Americans fix their 2016 error, we in the UK are doubling down on ours: Brexit

Jonathan Freedland

卑しいことだが、私は羨ましいと感じた。それは、月曜日、ジョー・バイデンが彼の指名した主要閣僚を公表したときだ。冷静で、有能で、経験を積んだ司令官たちである。それはイギリスの、すべて才能が乏しい閣僚たちと、あまりにも対照的になるだろう。毎日、アメリカでは、バイデンが当選し、トランプが拒否されたことが明確になっている。アメリカ人は2016年の重大な間違いを取り消した。私は羨ましい。われわれはまだ自分たちが犯した間違いの中にいる。

ロンドン大学(LSE)のThomas Sampsonが研究で示したように、2035年までブレグジットの痛みは残る。彼の推定では、COVID-19によってUKGDPは、現在価値で、2.1%減少する。しかし、ブレグジットは、その約2倍、3.7%もGDPを減らすのだ。もし合意がないまま離脱すれば、それは5.7%になる。これは自然現象でも災害でもない。われわれが自分でやるのだ。

残留派も離脱派も、これに対して言うだろう。もう決まったことだ。離脱は完了した、と。

しかし、2つの問題が残る。第1に、ジョンソンは「すでにできたようなもの」という合意だ、と約束して勝利した。有権者が観ているのは、ジョンソンのオーブンでできたはずの合意ではなく、「まだ料理していない、中は凍ったまま」のものだった。たとえ最終的に合意できても、それが非常に薄っぺらの、EUウォッチャーの言葉を借りれば、「90年代のスーパーモデルよりも痩せた」中身である。

2に、2019年と2020年との違いだ。われわれは最悪のパンデミックの中にある。サプライ・チェーンを根本的に変え、近隣諸国との通商協定を見直すには、最悪のタイミングだ。しかし、ジョンソンは延期せずに強行するつもりだ。

労働党は、合意なしの離脱に反対だ。しかし、もしジョンソンが合意案を議会に提出したら、それに賛成するのか?

The Guardian, Sun 29 Nov 2020

Will we have a return of the roaring 20s? Fat chance when we are facing Brexit

Will Hutton

イギリスが1925年に金本位制に復帰したことは、自ら招いた経済破壊として語り草になってきた。金1オンスの価格を固定することで、ポンド・スターリングが信頼され、貿易が回復し、イギリスは繁栄の1920年代を迎える、と考えられた。第1次世界大戦と1918年のインフルエンザ・パンデミックは過去のものになる。

しかし、為替レートをあまりにも高く固定したために、物価とコストが切れ目なくつながった産業界は破局に陥った。その後の緊縮策、デフレーション、賃金引き下げの試みは大規模なストライキに至った。

当時は、保守党の意見が支配的で、労働党も反対しなかった。実際、ラムゼイ・マクドナルド労働党内閣も、その政策を継承した。帝国、自由貿易、健全財政の目標が変わることはなかった。

100年を経て、状況は変わったが、ロックダウンから脱出して経済の高揚が始まる、という希望がある中で、自ら大失敗を演じ続けている。合意なき離脱、あるいは、小さな葉っぱで隠す程度の合意しかないEU離脱は、1か月後に、貿易を破壊する。

パンデミックの中で、イギリス産業界は1925年に期待されたように迅速に調整するのだろうか。世界経済における優越を魔法のように回復し、グローバル・ブリテンは社会主義的なEUの規制から自由になる。発芽、成長する自由貿易の新時代が出現する。

しかし、2020年の貿易は木綿や石炭の塊を取引するのではない。精密に設計された複雑な人工物、高度なビジネス支援やサービスを取引する。その前提は、相互に合意された基準、仕様、資格、ルール、貿易の利益を得るために主権を共有する、交渉された枠組みなのだ。

ブレグジットは予算案で何も言及されなかった。しかし、ジョンソンのウルトラ・ハード版ブレグジットはCOVID-19よりも大きな失業とGDP下落をもたらすと広く指摘されている。イギリスの財政赤字は現在の2兆ポンドから、2024年までに3兆ポンドになる。

イギリス経済は、毎年、特異で恒久的な、大幅対外赤字を続けており、内外の借り入れ能力に依存している。外国からの資本流入は「見知らぬ者の厚意」である。対外収支の赤字はGDP5%に達し、合意なきブレグジットなら、もっと大きくなる。先進国で、これほどの赤字を長期に維持する国はどこにもない。しかも貿易は混乱し、輸出能力は失われ、大企業が劇的に困窮する。

失業者に焦点をあてた支援が必要だ。さらにもっと、ルーズベルト型の雇用創出機関を設けるべきだ。企業は海外市場を必要としている。1930年代には、帝国市場を利用できた。2020年に、それに匹敵する市場はEU単一市場だけである。ブレグジットで合意するだけでは不十分だ。少なくともEU単一市場にとどまり、関税同盟に参加する。さらに、たとえ今は考えられないとしても、究極的には、EU加盟国であるべきだ。

歴史から学べ。


 バイデンの外交政策

FT November 30, 2020

The perils and pitfalls of building multiracial democracies

Gideon Rachman

オバマ元大統領が新著のインタビューで述べた言葉に、私は跳び上がった。・・・「アメリカは、マルチ・エスニック、マルチ・カルチャーの大国における、民主主義の最初の重大な実験である。そして、われわれには、それが維持できるかどうか、まだわからない。」

それは荒涼とした見解である。アパルトヘイトの南アフリカでも、指導者が多人種社会で民主主義は機能しない、と述べれば非難されただろう。しかし、オバマの疑念は間違っていない。

もし間違っているとしたら、彼がそのような挑戦をアメリカだけのものと示唆したことだ。インドとブラジルも、マルチ・エスニック、マルチ・カルチャーの大国であり、民主主義は歪みを強めている。

インド独立の指導者たちは、新しい国が非宗教国家であり、すべての市民が平等に扱われる、と考えた。しかし、現在のモディNarendra Modi首相は、ヒンドゥー・ナショナリズムに依拠し、専制国家の性格を強めている。ムスリムの市民的自由は、司法やメディアの独立性とともに、脅かされている、と多くのリベラルは考える。

ブラジルでは、ボルソナーロJair Bolsonaro大統領が、アメリカの共和党に似た主張を展開する。不正投票の犠牲者だ、と述べ、黒人、混血人種、先住民へのアファーマティブ・アクションを攻撃する。21年間の軍政支配を称賛する。

それに反対する例は存在する。カナダ、オーストラリア、UKがそうだ。何が違うのか?

最大のエスニック・宗教集団が、社会的地位や特権を脅かされる、と恐れるようになったことだ。ブラジルでは、2020年のセンサスで白人が人口の半分を切った。アメリカでも、2045年までに白人がマイノリティーになる、という予測が、共和党に選挙で勝てないという憂鬱な想像を生じた。インドではヒンドゥー教徒が8割近いが、BJPの指導者たちはムスリムが不当な特権を得ている、と攻撃する。

民主主義内のこうした緊張は何をもたらすのか。マレーシアは多数派に教育や雇用の特権を与えた。レバノンは、議席や、公共部門の雇用を、宗教とセクトに割り当てた。しかし、両国とも、特権はクローニズムと腐敗を生じている。フランスは市民権を集団の権利よりも優先する。

世界中を観ても、オバマの疑念は当たっている。完全な解決の公式はないが、大規模な移民が起きている世界で、日本やハンガリーのような単一民族を強制することは難しく、機能しない。それはますます、停滞と独裁のレシピになっている。

あるエスニック集団の支配を維持することは、最悪の場合、「エスニック・クレンジング」や、中国の新疆に観られるような、大量の投獄や再教育収容所に至る。

マルチ・エスミックの民主主義は困難で、機能も不確かであるけれど、それに代わるシステムは魅力のない、機能不全の、ときに、恐るべきものだろう。


 トランプの破壊力

PS Nov 27, 2020

America’s Political Crisis and the Way Forward

JEFFREY D. SACHS

トランプは、アメリカの政治の正統性を破壊する1つの要因でしかない。

すでに2000年の大統領選挙は、フロリダの再集計を最高裁が停止するという論争の多い結果によって、ジョージ・W・ブッシュが大統領となった。2008年のオバマの勝利は、その出生地や国籍に関して疑いをばら撒く「バーセリズム」を生み、これをトランプが利用した。2016年には、ロシアがトランプの勝利に向けた情報操作を行った。そして特に、2000年も、2016年も、共和党の大統領候補が過半数を得ずに勝利した。

トランプは、単に心を病んだ人物であるだけでなく、こうした暴力政治の兆候でもあった。

アメリカ国家の破綻と慢性病は、すでに主張されてきた、経済、文化、政治の趨勢を示すものだ。すなわち、急速な技術変化。デジタル社会の到来は破壊的な影響をともなった。それは大学卒とそれ以外との間で、所得やキャリアの大きな違いを生んだ。

また、白人・プロテスタントの国家が、有色人の市民権獲得と非白人が多数の国家になった。社会民主主義の政治勢力が衰退した。キリスト教福音派の政治活動が高まった。富裕層による政治支配が強まった。時代遅れの政治制度。ソーシャル・メディア。

すぐに解決できるようなものではない。内部の分裂状態と対外的な永久の戦争を終わらせるには、幸運と、能力の高い指導者が必要だ。

バイデンは、保守的な、白人労働者たちに、COVID-19の制御、医療サービスの利用、富裕層への増税、学生ローンの救済、と言った政策で、彼らとその家族に希望を与えることだ。党の基盤を超えた広い支持を得ることで、社会民主的な包括政策は支持される。

バイデンは、また、化石燃料から再生可能エネルギーへの交代が、国民的な好景気をもたらすことを示す必要がある。

アジアは、アメリカの冷戦思考、中国「封じ込め」を打開するために、その経済的、技術的な優位を、地域協力の枠組みで最大限に生かすべきだ。アメリカの覇権的な世界は終わり、中国を含むRCEPなど、アジアの協力関係にアメリカも参加する。

世界の環境、社会、安全保障の問題は、非常に複雑で、緊密に結合している。単独に解決することは不可能だ。地域内の、地域間の強い協力が求められる。バイデンは、このグローバル協力体制に建設的に貢献できる。


 裕福な社会のパンデミック不況

FP NOVEMBER 27, 2020

The World’s First Affluence Recession

BY MAX EHRENFREUND

近代の経済は伝染病に冒されることはなかった。今までのところ。

アメリカは史上初めて、感染症による経済危機を経験している。4月から6月で、約2兆ドルの経済活動が止まった。19世紀のコレラ、1900年にサンフランシスコに達した腺ペスト、1918年のいわゆるスペイン風邪も、そういうことはなかった。

その違いは、消費者が世界規模で、その所得の大きな部分を非必需財・サービスに支出できるようになったからだ。多くの消費が選択的になった。消費できなくても死ぬことはない。消費の裁量的な部分が増えたことで、政府や消費者が非必需の消費を削ることがパンデミックを経済危機にする。

長期にわたる経済成長と構造転換の結果、現代経済は、高価なコーヒーから航空機を使った旅行まで、多くの奢侈財・サービスに依存している。こうした奢侈財の多くを、今、消費者はあきらめている。望むかどうかと関係なく、彼らは貯蓄する。この極端な貯蓄がコロナウイルス経済を定義する。

公共医療の危機は新型コロナウイルスのせいだが、経済危機の原因はわれわれの豊かさである。

パンデミックは21世紀の経済的難問を悪化させている。すなわち、過剰貯蓄、低金利、物価の下落、大量失業、しかも、所得水準は上昇し続けている。

専門家の多くが、サプライサイドの景気後退を予測した。財・サービスの供給が制約される。1970年代のオイル・ショックのように。物価だけでなく、賃金も上昇する。デマンドサイドの景気後退ほどは激しくない。

過去のパンデミックはサプライサイドに集中して作用した。黒死病はヨーロッパ大陸の人口の40%から60%の命を奪ったが、労働力不足は飢饉をもたらし、さらに、実質賃金の上昇につながった。同様に、1918年のインフルエンザの後も、賃金と所得が上昇した、という研究がある。以前の感染症は賃金を上昇させたが、今回、パンデミックは大量失業を生じている。

アメリカ人の消費の多くが裁量的な支出になったからだ。食料、衣服、住居といった必需品への支出は、1918年に、家計の予算の73%を占めたが、2019年、それは35%でしかない。人びとはレストランでの食費やカレッジの授業料に支出する代わりに、多くの貯蓄をした。貯蓄率は433.5%、524.2%、619%。第2次世界大戦以降、最も高い数値である。この期間の平均は7.3%であった。

豊かな消費者が、支出するか、貯蓄するかを、裁量的に決めている。これほど高い貯蓄率は第2次世界大戦中にもあったが、割当制が消費者に、兵役や軍需工場での高賃金を貯蓄するよう強いた。戦後、彼らはこの貯蓄を使って、住宅や電化製品、自動車を買った。そして、子供を産んで育てた。それが1950年代、60年代の好況であった。

戦時経済とコロナウイルス経済には違いがある。かつて消費者は耐久財を購入してきた。しかし今、豊かな消費者はそれらの需要を満たしてしまった。さらに、アメリカ製造業は、国内だけでなく、外国の需要を満たすようになっている。そして、外国の消費者がますます貯蓄する傾向を、バーナンキが「貯蓄過剰」として問題にしていた。

バーナンキは外国政府を責めた。しかし、ますます多くの人々が老後の暮らしや子どもたちのために貯蓄する。外国の銀行は、中央銀行も、アメリカの銀行システムに安全な資産を求める。日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)はその巨大機関だ。こうした過剰貯蓄が、次第に解消される、という彼の予想は裏切られた。

ケインズは、有名なエッセー「孫たちの経済的可能性」において、経済進歩が基本的需要を満たしてしまう、と予想した。コロナウイルス経済がそうである。しかしまた、生活水準の上昇が失業を生む、と予想した。多くの伝統的な職場はなくなるが、社会な新しい需要を創り出し、労働者たちに新しい機会を与える。

20世紀に、彼のこの予想も正しかった。しかも、富裕層に課税して再分配し、政府が労働組合を守って、労働者たちの賃金を引き上げた。20世紀前半の過剰生産や過少消費は回避されたのだ。しかし、こうした保護や利益は弱められ、失われてきた。

資本主義システムの経済成長は、世界中で庶民に多くの可能性を拡大した。特に、不確実さや不安を回避できるようになった。パンデミック後はどうか。世界的な規模で、諸政府が協力し、再分配や公共支出で過剰貯蓄を緩和できるだろうか。あるいは、景気後退が常態なのか。

豊かさが経済のルールを変えた。2008年の景気後退で、ケインズがしばしば言及された。しかし、あの危機は過去の危機であった。コロナウイルス不況は未来の危機である。


 イランの核科学者暗殺

The Guardian, Sat 28 Nov 2020

Was scientist’s killing the opening shot of a Trump-led war on Iran?

Simon Tisdall

イランの指導的な核科学者が暗殺された。

先週末、かつてない会談がサウジアラビアであった。イスラエルのネタニヤフ首相、アメリカのポンぺオ国務長官、サウジアラビアのムハマド・ビン・サルマン皇太子の会談だ。中東には、トランプが、表裏の、軍事もしくは情報操作、いずれかに関わらず、イランを攻撃するのではないか、という観測が広まっていた。

暗殺は核計画に対する攻撃だけで終わるのか? もっと長期的な遺産を狙っているのか?

しかし、次に起きることは、イスラエルとサウジアラビアの指導者たちにかかっている。彼らは慎重に計算するだろう。バイデンの考えを無視すれば、イスラエルの安全が損なわれる。サウジアラビアの皇太子もテヘランを叩きたいだろうが、自国の都市や石油施設が標的になる。彼らにとって、暗殺はリスクの高いギャンブルだった。

イラン指導者は選択するしかない。報復の要求を抑えるのか、あるいは、それに従って紛争を拡大し、コロナウイルス対策をむつかしくし、制裁によって経済を破壊されるのか。中東全体にとって運命の選択だ。


 金融メカニズムとその評価

FT November 28, 2020

Investors right to see through the gloom to economic upturn

John Plender

株価は上昇を続け、最高値を更新している。他方で、アメリカ経済の回復は思わしくない。雇用は低調で、政府と民間の債務はパンデミックで膨張している。

投資家たちは空想的な楽観主義にふけっている、と批判したくなるが、そうではない。市場はこの乖離傾向を正しく理解している。コロナウイルスによるパニックは、財政・金融の大幅な拡大策で不況が回避され、さらに最近のワクチンに関する良いニュースで、2021年の強力な回復が期待されるからだ。

景気の底から新しい上昇局面で、過剰な貯蓄が投資に流れ込む。しかし、政策の問題には注意するべきだ。超低金利政策はリスクと価格評価を歪めている。政府の債券発行には投資家のインフレ警戒心が働くことによる限界がある。ケインズの述べた「金利生活者の安楽死」と「流動性の罠」が同時に起きている。

もっとも有害な影響はモラルハザードである。IIFによれば、グローバルな債務の膨張は、2019年の20兆ドルから、今年末に277兆ドル、世界GDP365%に達する。債務の水準を考慮して、中央銀行は金利を引き上げることをためらい、独立性を捨ててインフレを容認するかもしれない。

金融政策の限界を恐れて、IMFと中央銀行は財政政策による刺激を要求している。しかし、アメリカの議会は財政支援策に関しても動けず、EUの復興基金もハンガリーとオーストリアが予算の承認を拒否する脅しをかけている。

PS Dec 1, 2020

The Financial Equivalent of a Vaccine

HAROLD JAMES

COVID-19がグローバルな分断を劇的に拡大している。

いくつかの諸国はパンデミックとロックダウンのコストを、巨額の財政支援策と、そのための中央銀行による債券購入によって埋めてきた。しかし他の多くの諸国は借り入れコストが増大し、財政政策が利用できない。世界は金融・財政的な持つ者と持たざる者、あるいは、 “cans” “cannots” とに分裂する。このまま放置すれば、グローバリゼーションは完全に脱線するだろう。

豊かな国は政府債務が増えても、長期的に低金利が利用できる。中央銀行の貨幣は、ますます、債務というより、国民的な努力に対する市民の持ち分と考えられている。それは市民権の一部であり、コミュニティーの統一を維持するためにどれほどの貨幣が必要か、という問題である。

しかし、持たざる国はそうではない。例えば、トルコでは、COVID-19の対策として低利融資を大幅に増加したが、それは通貨価値を暴落させた。その結果、金利を大きく上げるしかなかった。国際的な融資を行う中央銀行がなければ、彼らの財政的な制約は明らかだ。貧しい国がCOVID-19の対策に支出したのはGDP2%でしかなく、これに対して豊かな国は15-20%を支出した。

民主主義の未来が深く懸念されるときに、市民間のつながりを欠き、国家の福祉が失われる。現代の拡大するグローバルな分断状態は、19世紀の金本位制が再生したように見える。当時は、一握りの国(イギリス、フランス、ドイツ、日本、アメリカ)だけが低利で融資された。そして、政府の借り入れ能力は軍事力の拡大を可能にしたから、金本位制は、帝国主義的な国際的支配の拡大を促したのである。

システムの周辺では、絶えざる不確実さ、高コスト、極度の脆弱性に人々が苦しんでいる。こうして周縁化された諸国はシステムの中枢に加わることを熱望しているが、彼らの努力はいつも投機や市場のパニックによって打ちのめされる。彼らの悲惨な経済状態は、初期には、豊かな諸国の消費者の利益になる。安価な輸入品を利用できるからだ。しかし、それは国内の製造業雇用にも及び、保護主義への政治的圧力を増している。

SDRやユーロの導入は、そもそも、こうした金融システムを是正する改革であった。貧しい人々の暮らしや成長を支え、債務危機を回避するために、もっと利用すべきだ。単に国民的コミュニティーとしてでなく、グローバル経済の全体が団結するための金融メカニズムを、考えるときが来た。


 減税より高賃金

NYT Nov. 28, 2020

Let’s Talk About Higher Wages

By The Editorial Board

共和党は、経済成長に関する単純な公式をプロパガンダとして繰り返した。減税せよ。

この公式は間違いだ。しかし、減税万能論には多くの批判がなされても、滅ばなかった。対抗するアイデアがないからだ。

国民は成長をもたらすエンジンについて、もっと良い物語を求めている。公共政策の改善を支持するような話だ。1つの有望なアイデアが現れた。高賃金だ。

その利益を説明する最も良い例は、ヘンリー・フォードの決断だろう。1914年、彼の工場の組み立てライン労働者に日給5ドルを支払った。彼は生産を拡大し、信頼できる労働者がとどまるようにプレミアムを支払った。そして、労働者たちが自動車の購入者になる、という利益も得た。

同様に、アメリカ経済は消費で動いている。労働者の高賃金はより多くの支出を意味する。

長い間、主流の経済学は持続可能な賃金水準を決めるのは市場である、と考え、これを不可能とみなした。生産性の上昇だけが高賃金を可能にする。賃金の引き上げを要求し、交渉することは「非生産的」である。最低賃金の法律も、集団交渉権も、間違いだ。

こうした世界観が、減税を繁栄への道と主張させる。富裕層が投資する。それは生産性を高めて、賃金が上がる。

現実はそうではない。もっと複雑だ。賃金は雇用者と労働者との綱引きに影響される。賃金は生産性上昇に大きく遅れている。パワーは重要である。

富裕層は、他のアメリカ人の暮らしから孤立している。コミュニティーに属しているという意識がない。彼らの企業は外国市場から利潤を得ている。それはますますアメリカの消費者を無視させる。

経済成長を高賃金で動かす、そういう話を始めよう。


 パンデミックと債務の限界

PS Nov 30, 2020

How Much Debt Is Too Much?

RAGHURAM G. RAJAN

COVID-19のパンデミックで、先進経済の政府はGDPの被害から家計や企業を救うためGDP15-20%も支出した。債務の規模は膨張し、第2次世界大戦以来の高さに達している。

超低金利であるから可能だと言うが、限界はないのか?

すぐにジンバブエのようになるとは言えないが、たとえ先進国でも、債務不履行やハイパーインフレーションが始めるかどうかは、債務を何に使うか、による。貧しい、脆弱な家計を支援するために支出し続けるなら、政府は将来の返済能力を失う、と疑われる。

******************************** 

The Economist November 7th 2020

Financial markets: How to fix the market for Treasury bond

Circling back: China’s “dual-circulation” strategy means relying less on foreigners

Look who’s back: Nigel Farage returns to torment the Conservative Party

The bonds that bind: Why the bond market might keep America’s next president awake at night

Buttonwood: Why dollar assets are still riding high after America’s election

(コメント) アメリカの金融市場、その中心である財務省証券の市場が、緊張を生じたことに、世界は動揺を感じています。ドルを中心とした金融市場に終わりが近づいた予感がするからです。 ドル価値の下落もそうです。

中国の「二重の循環」戦略は、指導者が述べた空虚なタームを、信仰対象にして奉るようなものではないでしょうが、怪しい中身です。アメリカの「デカップリング」もそうですが。

ナイジェル・ファラージは、保守党の混乱に乗じてイギリス全土をブレグジットの狂気に翻弄した張本人です。彼が政界に旗を立てて復帰したことは、ジョンソンの憂鬱を深めるでしょう。

The Economist November 14th 2020

President Joe Biden will face two extraordinary economic challenges

Banyan: Filipinos working abroad are a source of money, not reform

Peace, for now: A peace deal ends a bloody war over Nagorno-Karabakh

Bagehot: How Princess Diana shaped politics

(コメント) バイデンの挑む課題は、パンデミックを調伏し、技術革新によるゲイ対転換を、国民にとって有益な、好ましいものに導くことです。グローバリゼーションのような失敗は許されません。

フィリピンが国を挙げて、組織的に労働者を海外に輸出してきたことは有名です。220万人。タクシー運転手、ホテル従業員、レストランのバンドや歌手。フィリピ人の船員がいなければ、グローバルな海上輸送は停止するほどです。また特に、女性たちは世界中で家政婦や看護婦となって働きました。家族を支え、国を支えたのです。彼らがフィリピンの政治や経済運営を改善する政治的圧力になるという期待は、残念ながら、間違っています。

最も興味深い記事は、ナゴルノ・カラバフの紛争と、イギリス政治のポピュリズム蔓延に果たしたダイアナ妃の深い影響です。エスニックな飛び地をめぐる小国の流血の争いを利用して、トルコは中国の一帯一路に結びつき、ロシアはこの流通ネットワークの安全と利益を確保する地位を得たのだ、という結びに感銘を受けます。

ダイアナは、もっと感銘深いものですが、要約より、記事を読んでください。

******************************

IPEの想像力 12/7/20

若者たちは、苦しい思いで勉学を続けるべきか、悩んでいると思います。

大学は、国費によって授業料を大幅に安くし、授業内容を濃くして、試験で厳しく学生たちの思考を鍛えるべきです。そして、大学を卒業する学生が、どれほどすばらしい若者たちか、企業がこぞって迎えに来るようでなければなりません。

リモートでも積極的に学ぶ若者はいると思います。しかし、数パーセントであることを認めざるを得ません。特に、人文・社会系は、よほどの工夫が必要です。

あるいは、学生たちが大学を中退する方がよい。働いて、あるいは、旅をして、人生や社会・政治について考えるのは、良いことです。知識を求める最も強い動機になると思います。コロナウイルスで社会や政治が分裂状態に向かうより、自分たちの国や故郷を想う、志の高い若者こそが、人文・社会系の学問を求め、深めようとするはずです。

政府は、ゴー・トゥー・トラベルやゴー・トゥー・イートではなく、長期の休業に対して、積極的な公的雇用を拡大すべきだと思います。それは一時的な雇用(特に、医療・福祉)から、中長期的な産業・雇用の転換促進、地方振興の移住支援(特に若い夫婦や家族)を含みます。

デジタル化やAIを推進したい、というなら、新しい研究機関やインフラ整備のために、また、再生可能エネルギーの普及、ソフトの開発など、新会社の設立を呼びかけ、多くの若者・大学中退者を積極的に雇用します。

もっと学びたい。もっと新しい人間関係を獲得し、新しい分野に挑戦したい、という強い意欲に駆られたら、そういうときこそ大学に戻ってくればよい。ちっとも学びたくない者が、教室に縛られているより、自由に仕事を探し、若いときから職場で学ぶ方が、健全な職業意識を獲得するでしょう。すばらしい職人、すばらしい仕事、仲間や、土地の人々に貢献する。そういう意識があれば、おそらく、パンデミックも、中国も、私たちがむやみに恐れる話ではないのです。

大学が変わっても、それを阻むのは雇用機会です。中退し、働き、復学し、さらに、いろいろな大学で学び、再び就労する。たとえば、企業が採用を世代ごとに行うのはどうでしょうか。さまざまな世代で、復学や転職を望む人が増えれば、企業もこれに応じるはずです。技術革新や国際環境の変化が加速するとき、ビジネスの急速な転換を可能にし、社会の活力を高めます。

専門のリクルーターや新興企業・ベンチャー企業の人材募集を、政府が共通のプラットフォームで提供することで、女性や外国人も包摂して、労働市場が透明な、公平なものになると期待します。

こういう話は空想的で、理想主義なのでしょうか?

****

The Economistの配達が3週間ほどありませんでした。2週間なかったとき、気が付きました。クレジットカードを変えたからです。ネット上のアカウントでカード情報を訂正しました。でも届かない。

メールでクレームを出そうか、と思ったら、シンガポールに電話するか、あるいは、チャットでした。チャットはいいな、とポチポチと英語で尋ねると、「彼」?はすぐに私の記録を調べて、来週から届く、と約束してくれました。

「彼」が、どこの国の、どんな人か、さっぱりわかりませんが、助かりました。さまざまなサービスがリモートで行われるのを実感します。彼・彼女たちは、英語の堪能なポーランド人、中国人、リトアニア人、フィリピン人、バングラデシュ人、シエラレオネ人、・・・地球人英語族、かもしれません。

若者たちも、退屈な大学を中退し、世界中で働き、学べばよい、と思います。そして、いろいろ学ぶうちに、そうか、日本の大学にも面白そうな先生がいる、と、訪問してくれないかな、と想うのです。

******************************