IPEの果樹園2020

今週のReview

11/30-12/5

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ブレグジット後のイギリス外交 ・・・トランプの焦土作戦 ・・・トランプを支持した理由 ・・・中国はこう考える ・・・米日豪印戦略対話 ・・・バイデン政権の安全保障・外交 ・・・株価ブームと連銀プット ・・・ソ連崩壊後のウィーン会議U ・・・中華帝国の辺境・香港 ・・・日本病とその教訓

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ブレグジット後のイギリス外交

FT November 22, 2020

Why there will be a Brexit deal

Peter Guilford

離脱交渉の期限が1231日に迫っている。私は元EU通商交渉チーフの言葉を思い出す。それは10年以上もかかった、重要な世界貿易交渉の最後の1日であった。「たっぷり時間がある。24時間も残されている。EUは交渉を始めるときだ。」 取引は深夜に成立した。

ブレグジットの取引が成立すると、私は疑わない。ブリュッセルではこれが普通だ。欧州委員会の仕事は取引である。ヨーロッパの中で、また、外部の世界とも、大きな交渉をまとめてきた。鋼鉄の神経を持ち、かくれんぼにふけり、絶壁に立つことが仕事である。

前の交渉はもっと重大であった。いわゆるウルグアイ・ラウンドだ。もっと多くの国が、もっと難しい問題を含む交渉で、いっそう不統一なEUが、ヨーロッパとアメリカの農民たちから取引のすべてを拒む強い反対を受けた。それに比べたら、ブレグジットは簡単だ。

私の楽観論は2つの要因から成っている。1つは、取引に反対する強力なアクターがいないことだ。騒がしいが、力はない。

イギリスの漁民も、スコットランドの独立派も、タブロイド紙が騒ぐだけだ。漁業は経済にとって重要ではない。議会も、反EUを叫ぶブレグジット強硬派も、それを知っている。ボリス・ジョンソンと保守党の多数派は、この尻尾が犬をふりまわすことを止めるだろう。

EUの側でも、取引に反対する加盟国はない。漁業も、過去の貿易交渉を苦しめた農業も、ブレグジットの取引を拒むような感情的問題にはならない。

EUはイギリスが政府補助金を削るよう求めている。しかし、これはフランスも、ドイツも、イタリアも、スペインも、同様だ。こうした要素はいつも、あいまいな「原理」を立てて、別の委員会を設置する。EUには、進路をふさぐ障害物を見えなくする、こうした創造的解決策がふんだんにある。

楽観論の第2の要因は、地政学だ。ドナルド・トランプがホワイトハウスを去るなら、ブリュッセルとロンドンは大西洋間の関係修復に動く。バイデンは、グッドフライデー合意とアイルランド境界線の問題を懸念している。ブレグジットの取引成立は、新大統領への良いおみやげだ。さらに、ブレグジットで対立する以上に、中国の脅威こそが英欧米にとっての重大問題である。

ブレグジットで処理しにくいのは心理の問題だ。EUは理性で動き、イギリスは情で動く。経済的な利己心がアイデンティティー政治と衝突する。それはEUになじみのないものだ。

EU交渉は、典型的に、ロジックと戦術の混ぜ物だ。主要諸国の経済的必要が考慮される(ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、ポーランドが、この順番に重視される)。それらの妥協を縫い合わせ、EUに加盟する小国にうま味を与える。成果はヨーロッパ経済全体にとって良いものに見える。それが交渉の基礎だ。

最後に、欧州委員会は「人質問題」に対処する。最後の瞬間に加盟国は、無関係なことで、支持の条件として要求するからだ。たいてい、金がものを言う。それ以上に難しい問題が危機を生じることもあるが、委員会はこうした危機にも準備している。

EU諸国は、国民投票で離脱を決めたことがEUに関係ない問題だった、と考えている。ロンドンも、自分たちが何を求めているのか、わかっていないのだろう、と。しかし、有権者には主権を回復したと感じさせる必要がある。

欧州委員会は、最後の圧力をかけて、危機に備えている。

The Guardian, Tue 24 Nov 2020

Brexit stems from a civil war in capitalism – we are all just collateral damage

George Monbiot

カオスが広がっている。政府がそれを増幅する。UKの、特に北アイルランドの、企業や政治家が移行期間の延期を望んでいるが、ボリス・ジョンソンは無視している。何が起きようとも、われわれは11日にホワイト・クリフから飛び降りる。

なぜこうなったのか? 私が信じるところ、ブレグジットは資本主義の内戦である。

資本主義的企業には2つのタイプがある。1つは、国内の訓練された資本主義だ。国家行政と協力し、安定性と予測可能性から利益を受け、汚い手を使う、悪辣な競争相手が規制されることを好む。こうした企業は、飼いならされた、弱体な民主主義と共存する。

もう1つは、軍閥型資本主義だ。資本蓄積にとって制約となるものすべて、税金、規制、公共サービス、が違法である。利潤追求を妨げるものは何一つ許さない。それはハイエクFriedrich Hayekやアイン・ランドAyn Randのイデオロギーである。彼らは、社会を犠牲にするような、富裕層による支配体制の完全な自由を、「リバティー」とよんで信奉する。

例えば、ハイエクはピノチェトのチリを訪問し、「リベラルな独裁体制」のほうが「リベラリズムを欠いた民主体制」よりも好ましい、と述べた。ブレグジットは、軍閥資本主義にとっての大きなチャンスである。資本主義と民主主義との危なっかしい停戦状態を吹き飛ばす。

カオスが正当化される。困難な時代には、規制を解除し、ビジネスが再びわれわれを豊かにする自由を許すべきだ、と。ジョンソン政権の「合意なき離脱」は、最も野蛮な資本主義の制約さえも解除する。

訓練された資本主義はブレグジットを恐れる。ルールに従うビジネスで得た市場の優位が脅かされるからだ。規制がなくなれば、軍閥が彼らを一掃する。ジョンソン政権は軍閥から金で買収されている。

ブレグジットは、UK全体の利益に従うものではない。Rupert Murdochマードックのような人々にとって、UKは、最も豊かで、最も強力な、諸民族のための防壁だ。チリやインドネシアのような国をフリー・ポートにすることと比べて、UKははるかに大きな戦利品だ。

Nigel Farageファラージのような連中は、煙幕でしかない。外国人排斥や文化戦争によって、経済・政治的利益の闘いを見えなくする。

われわれは、資本主義の内戦に取り残されたままだ。


 トランプの焦土作戦

NYT Nov. 20, 2020

Is Trump Trying to Take the Economy Down With Him?

By Claudia Sahm

議会は、渇望されていた救済法案を合意することに失敗し、この国を見捨てた。今は、政権移行とジョージアの上院選挙に全力を注いでいる。

その結果、金融市場を安定し、経済回復を助ける仕事は、州政府、地方政府と、全面的に、連銀の緊急融資に依存することになった。その資金を使って財務省が社債を買い、自治体の赤字を埋める。これらの緊急融資を可能にするCARES ACTは、来月、失効する。それは市場を急落させるだろう。

昨日、財務長官のSteven Mnuchinムニューシンは、連銀のパウエル議長に衝撃的な文書を送った。地方政府や中小企業への緊急救済プログラムを拡大しない、というのだ。

パウエル議長は公式に反対を表明した。

ムニューシンの行動は、バイデン次期大統領が新しい財務長官候補者を発表したのと同時であった。それはトランプ政権が、政権移行や危機管理をじゃまするために何でもする姿勢を示している。

FP NOVEMBER 20, 2020

Trump’s Scorched Earth Farewell

BY MICHAEL HIRSH

問題は、ドナルド・トランプが投票結果を否定し、クーデタを試みることではない。問題は、COVID-19対策や経済救済計画から、アフガニスタン、イランなど、紛争地域まで、自分が政権にあるうちに問題の種を蒔き、世界中の首都やバイデン次期大統領の制約となるカオスを起こしつつあることだ。

最も緊急かつ重大な危機は、トランプ政権がCOVID-19の新規感染者増大に対応し損なっていることだ。この焦土作戦は、コロナウイルスによる経済的大虐殺にも適用され、来年も感染者と死者が劇的に増え続けるだろう。

最新の混乱は、木曜日、財務長官ムニューシンから連銀議長パウエルに送られた文書だ。彼は連銀に、ほとんどの緊急融資枠を閉じるように求めた。アメリカ全土で感染者が増加し、冬の気候、インフルエンザ、感謝祭の移動が、さらに困難な状況をもたらすと予想されているときに。

アメリカの感染者数はすでに1150万人、死者数は25万人に達している。ワクチンは試験段階でしかなく、学校やビジネスの閉鎖が新たに増えている。

トランプは外交政策においてもあらゆる手続きを無視している。アフガニスタンで、トランプは米軍を早期に撤退させるため、ペンタゴン指導部を追放した。米軍が撤退してアフガニスタンがどれほど混乱しても気にしない。珍しいことだが、それは共和党指導部に混乱を生じている。

マコーネル院内総務は上院で、「時期尚早の米軍撤退は、2011年にオバマ大統領がイラクから米軍を引き上げたよりもひどいものになる」と述べた。「それは1975年のサイゴン陥落を想起させるものだろう。」

パキスタンの駐米大使であったHusain Haqqaniは指摘する。「あらゆる助言を無視して、トランプはバイデンがその就任後に米軍を派遣するように強いようとしている。そしてトランプは自慢するだろう。自分は永久の戦争に反対だが、バイデンはアフガニスタンに軍隊を再び送った、と。」

トランプはイランへの最大限圧力キャンペーンでもバイデンに罠を仕掛ける余地がある。追加制裁を連発してイラン経済を破壊し、退任する前に、イランの核施設を空爆する計画を立てている。

トランプは、再選を阻んだ「チャイナ・ウイルス」に激怒しており。何か行動を起こすかもしれない。


 トランプを支持した理由

FT November 23, 2020

Corporate America’s deal with the Devil

Rana Foroohar

アメリカの大企業100社のCEOが、先週、オンラインで会合を開き、ドナルド・トランプ大統領の「選挙は盗まれた」という主張について議論した。商工会議所なども、選挙の混乱が早く終わって、トランプからバイデンへの政権移行が進むことを求めている。

こうしたニュースに、私は対立する感情を持った。一方では、ビジネス界の指導者たちがリベラルな民主主義を重視し、それを守ろうとしていることを喜んだ。しかし他方で、それが「遅すぎるし、少なすぎる」という不満も持った。大企業の多くは、トランプの大型減税を称賛したからだ。

私は、また、7200万人以上のトランプに投票した有権者のことを想う。彼らは、多国籍の大企業CEOたちが集まって政治力を行使するのを観て、「ほら観ろ。富裕層や有力者が国を操っている。彼らが民主主義をじゃまするのだ」と言うだろう。

それを示すデータもある。上位10%の好む政策が、政府を動かし、実現されている。普通の市民には何の力もない。それが人々を怒らせ、ポピュリストたちの支持を増やし、トランプを大統領にした。

トランプは、その原因ではなく、兆候である。独占的企業の市場支配力は高まり、政治やビジネスを腐敗させている。最高裁の判決が企業の政治献金に道を開き、アメリカの政治経済を金融寡頭制に極めて近いものに変えた。Uber, Instacart, Lyftなど、デジタル企業は、カリフォルニアの住民投票を利用して、その資金力で、ギグワーカーたちの権利を否定しようとしている。

ビジネス界の指導者たちは、トランプを利用して好ましい政策を手に入れ、必要ないと思えば、トランプを追い出す。彼らがバイデンに、COVID-19の効果的対策を期待し、通称や外交の正常化を求めるのは本当だろう。しかし、それにとどまらず、もっとその力を利用して、ヨーロッパの市民が享受している国民医療保険や、学生ローンの解決策を見出してほしい。

そのパワーを、富裕層のための減税ではなく、国民全体のために行使することで、次のトランプを生む条件は消滅する。


 中国はこう考える

PS Nov 24, 2020

Kishore Mahbubani

Says More…

Project Syndicate:グローバルなパワー・シフトに合わせて、バイデン政権が国際秩序の改革に向かうだろうか?

Kishore Mahbubani:アメリカは、国際秩序を弱めるほうが自国の利益を実現できる、と誤解している。一極世界を好んだとしても、世界は多極化している。

PS:トランプは下層の反エリート主義を利用して支持を集めた。東アジアからバイデンが学ぶ教訓は何か?

KM:所得分配が、東アジアとアメリカでは逆転している。富裕層に富を与え過ぎだ。政治を金で買うことを許さない、強力な政治資金規正法を導入せよ。

PS:アメリカは超党派で中国を脅威と見ている。

KM:アメリカには長期の戦略がない。バイデンは戦略を立て、アメリカの核心的な利益である、中国に進出したアメリカ企業を守り、COVID-19など、共通の課題で協力することだ。チャーチルは、ヒトラーを倒すために、スターリンと協力した。

PS:戦略で重要なことは、正しい問題を立てることだ、とあなたは書いた。

KM10年後に、中国はアメリカの経済規模を超えるかもしれない。そのとき、アメリカはどうするのか? ケナンなら、中国の成長を抑えることや軍備拡大ではなく、「精神的な活力」を重視するはずだ。地政学の優位を決めるのは、銃弾ではなく、精神だ。

香港では、その不安定化が中国本土に波及することを許さない、という決意を示した。

アジアの文化では、特に中国では、体面(メンツ)を重んじる。オーストラリアは中国のウイルスに調査を公然と要求した。中国にとって、それは見過ごせない問題となった。アジア諸国には、米中の間で選択を強いてはならない。

国民国家は、グローバルな客船の小さな船室でしかない。最も豊かな者も、船が沈むことには逆らえない。


 米日豪印戦略対話

FT November 25, 2020

China sends a message with Australian crackdown

Richard McGregor

キャンベラの中国大使館は地方メディアに、両国の関係悪化に関するメモを渡した。そこにはなじみの14の不満が列挙されていた。台湾、香港、南シナ海、新疆、Huawei・・・

さらに、中国に関する敵対的な報道や宣伝、投資規制、報告書、人権に関するNGOsにも、くわしく不満を述べていた。しかし、これは偽善的であろう。北京が国営放送などで日常的に行っていることだから。

オーストラリアが、非リベラルな中国的世界秩序の出現を予知する「炭鉱のカナリア」とみなされるのは当然だ。オーストラリアはアメリカの主要な同盟国であり、英語圏の諜報活動で連携するFive Eyesに属している。

他の民主主義国は注意するべきだ。次の標的になるかもしれない。メディアが中国をあからさまに批判するなら、シンクタンクが否定的な報告書を出せば、政治家が中国を批判し続け、共産党の影響が拡大するのを示し、中国の国家や企業が市場に浸透するのを許さないとき、あなたは北京の報復を恐れねばならない。

中国の政治システムの敬意を表し、人権を抑圧することは黙認する、そういう未来が待っている。


 バイデン政権の安全保障・外交

PS Nov 23, 2020

Crafting a Diplomacy-First US Foreign Policy

ANNE-MARIE SLAUGHTER, ALEXANDRA STARK

バイデン次期大統領は、外交をアメリカの対外政策の中核に置くことを鮮明にしている。就任初日にパリ協定に復帰し、NATOの同盟を確認し、イランとの核合意を復活させ、「民主主義サミット」を招集して自由世界の精神と目的を諸国民と共有する。

しかしそれは、外交と開発を安全保障の永久の中心に据える制度改革を必要とする。そのために、安全保障とは何か、だれのための安全保障か、考えてみることだ。

安全保障とは、脅威から国民を守ることだ。脅威は、病気や暴力、火災、洪水も含む、日常生活を奪うものだ。脅威は、社会の最も脆弱なコミュニティーを破壊するが、それは偶然ではなく、政策の結果である。それゆえ安全帆所は、こうした社会集団が直面するリスクを減らす、自国内とグローバルな手段を開発することから始まる。

この点で、外交は国内から始まる。例えば、パンデミックが安全保障の脅威であれば、アメリカはもっと医療システムに投資するべきだ。同時に、次のウイルスに備えるWHOのような国際機関に参加する。

政治的暴力に関して、2001年の911テロ以来、聖戦主義のテロより、右翼のテロで死んだアメリカ人の方が多い、という。アメリカは、投票制度を含む民主的諸制度の信頼を回復するために、投資するべきだ。同時に、友好諸国と協力して、世界の民主主義後退や、情報操作に対抗するべきだ。

外交において、開発は非常に重要になる。アメリカの対外政策における開発支援の地位を、閣僚レベルに引き上げるのが良い。


 株価ブームと連銀プット

FT November 23, 2020

Joe Biden needs to break the market’s codependency with White House

Mohamed El-Erian

バイデン次期大統領は、彼の前任者と株式市場との極端な共依存関係を減らすため何ができるか、考える必要がある。

彼がその考えを市場に対して説明するのが遅れると、ますます彼もアメリカ連銀やECBの指導者たちが就任初期に直面したジレンマと同じものを抱えるだろう。

ドナルド・トランプは、株式市場が彼の政策の正しさを証明している、と信じていた。それは投資家たちにとって、音楽のように流れた。政策が資産価格や株価の上昇を求めている。その状態が長く続くと、「連銀プット」という信念が強まる。連銀がいつも株価下落に介入して回復させる、というわけだ。

それは意図しない結果をもたらす。過度の、ますます無責任な、リスクの高い投資が増える。将来の金融不安定性が増大する。経済全体の資源配分が悪化する。ますます不平等化が進み、「ウォール・ストリートとメイン・ストリート」との分断が悪化する。ゆっくりと、しかし確実に、経済・金融制度の高潔さや信頼性が失われる。

連銀のパウエルも、ECBのラガルドも、就任したとき、市場を支援することに限界を設けようとした。しかし両方とも、明確なUターンを強いられた。

大統領就任のはじめに、バイデンは株価の人質にはならないと明確にし、株式市場はすでに、成長のために資金を効率的に配分するという元来の役割を大きく逸脱している、と説明する必要がある。


 ソ連崩壊後のウィーン会議U

FP NOVEMBER 25, 2020

When Great-Power Politics Isn’t Great Enough

BY HANS GUTBROD

アルメニアとアゼルバイジャンとが戦ったNagorno-Karabakhの停戦合意は、長期的な解決策にならないだろう。なぜなら紛争に深く関与する大国、ロシアとトルコが、当事国の要求を高めたからだ。

Nagorno-Karabakhは、ゼロサム・ゲームのように扱われているが、本当はそうではない。この紛争は、行き詰まりと、紛争激化中と、ときには爆発的な衝突を生じる、ウクライナからコーカサス、カスピ海沿岸、シリア南部にまで及ぶ紛争地帯の一部である。

Transnistria, Crimea, the Donbass, Abkhazia, South Ossetia, Karabakh、そしてトルコの南部は、いずれもユニークであるが、解決をむつかしくしている構造は共通である。

すべてのユーラシア中央部における紛争を解決するために、諸大国を含む、関係諸国を集めて大きな取引を行う国際会議を開くときだ。相互にいくらかの授受を強いて、地域全体に大きな利益をもたらす。理想主義だけでなく、こうした難しい和平交渉について、歴史的な先例がある。1814年のウィーン会議がそうだ。フランス革命とナポレオン戦争後の、多くの相互に結びついた紛争を、大国を含む、ヨーロッパ諸国が集まって合意した。

かつてウィーン会議を研究した元アメリカ国務長官キッシンジャーHenry Kissingerが示したように、指導者たちを合意に向けた大きな要求とは、事実上の領土として統合した土地に対して、明確な合法性を与えることだった。そのうえで、彼らは機能する、安定した、理想的な繁栄の秩序を築こうとした。より大きな解決策がなければ、不安定さは続くのだ。

ロシアは、その国内に民主主義を欠いているがゆえに、会議において主要な取引を指導する重要な役割を担えるだろう。キッシンジャーは、ウィーン会議の後、ヨーロッパは最も長い平和を得た、と書いた。ヨーロッパに中産階級が現れて、繁栄をもたらした。


 中華帝国の辺境・香港

NYT Nov. 25, 2020

Reports of Hong Kong’s Death Are Greatly Exaggerated

By Yi-Zheng Lian

香港の民主主義は死んだ。それは半分だけ真実だ。

北京が資格をはく奪すると決めたことで、それに抗議する立法会の民主派議員4人がすべて辞任した。しかし、立法会の民主派は香港の植民地時代から、香港返還後に民主的制度を維持するためにあった。政府はそれを無視してきたし、その体制内改革の性格には、特に雨傘革命で強い批判が生じていた。

雨傘革命後の普通選挙要求は、もっと若い世代の民主化運動である。彼らは指導者や組織を持たず、北京は認めない新しい民主主義を求めてきた。北京は激しく弾圧し、国家安全法の導入と、多くの活動家やメディア、ジャーナリスト、知識人の拘束、弾圧を行った。もはや香港立法会は、人民代表大会と同じ、権力者たちのための承認機関になった。

それはつねに中華帝国の行動計画であった。辺境における反抗的な人びとを、征服する前に、徐々に吸収した。2047年まで「一国二制度」を約束したのも、香港のシステムを継ぎ目のない中華システムに組み込むためだ。かつての王朝が数世紀をかけて行ったことを、中国共産党はわずか数十年で行った。

しかし、権威主義体制の弾圧は抵抗を強めるだろう。これまでの弾圧がそうであった。

確かに、香港民主化運動の前衛は完全に解体された。それは他の権威主義体制がそうであったような地下組織に変わるだろう。1939-90年のポーランド、1945-87年の国民党独裁の台湾。香港の地下組織も我慢の時を過ごす。そして多くの海外支部が国際的な支持を求める。

香港の新しい民主派は、小さいが、中華帝国の拡大に反対する闘いの前線として、決定的に重要だ。たとえ中国が大砲をもって攻撃しても、彼らは生き残る。


 日本病とその教訓

FT November 23, 2020

Lessons from Japan: coping with low rates and inflation after the pandemic 

Robin Harding in Tokyo and Chris Giles in London

1980年代末の日経株価指数は38957であった。日本経済の成長は続くと思われたが、今、日本が注目される理由は全く違う。奇跡の成長の秘密ではなく、衰退期の秘訣である。

日本は、バブル後の銀行における資産悪化に対する公的資金投入が遅れた。アメリカはこれを学んで、2008年の金融危機救済に成功した。

日本の金利はゼロまで下がった。それでも、「量的緩和」によって経済を安定させることができた。しかし、適度なインフレを回復することはできなかった。それは、人びとのインフレ期待に影響することはできないからだ。インフレ期待が失われると、自己実現的に、インフレ率が低下する。

日本の低成長、低金利、低インフレの原因は、高齢化と人口減少である。高齢化自身は、それが進むと貯蓄が減少し、消費を増やすから、デフレは解消する、と考えることもできた。しかし、安倍政権は成長を刺激するためにアベノミクスを導入し、宣伝した。その成否は明確ではない。

そもそも日本経済は問題なのか、ということも問われた。1人当たりの実質成長率は他の先進諸国と比べて劣っていない。しかし、日本はその潜在成長力を十分に発揮できなかった。労働市場の悪化で、多数の大学卒業者が人生のチャンスを損なわれてきた。

バブルは避けるべきであったし、成長モデルを再構築することが重要である。

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The Economist November 7th 2020

(コメント) 次週に紹介します。

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IPEの想像力 11/30/20

かつてビスマルク、リー・クアンユー、キッシンジャーが生きた世界は、今も、私たちを取り巻いている。

ソ連崩壊とトルコ帝国の重なる紛争地帯に平和を築くウィーン会議U、中華帝国の拡大に合わせたクアッド(米日豪印戦略対話)、グローバリゼーションに代わる多国間地域貿易協定・・・ パワー・シフトと国際秩序の改革を求めるダイナミズムは、諸国家を呑み込む勢いで、動き始めています。泥をこねたり、海を割ったり、人と世界を創った、神話的な終わりと始まりの物語を、これから数十年の人類も経験する。

イスラエルがサウジアラビアと話し合い、その後、イランの核開発計画を推進した科学者が武装集団に襲撃、殺害されました。コロナウイルス危機とトランプのグローバル焦土作戦は、国際秩序の転換過程でアメリカが果たす重要な回復力を、奪ってしまうと思います。

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拙著『グローバリゼーションを生きる』では、こんな風に書きました。

・・・たとえダイヤモンドや金,石油があっても,その社会が豊かであるとは限りません.富をめぐって内戦を繰り返す貧しい社会では,武装した民兵が大人たちの手足を切り落とし,子供を連れ去って兵士や奴隷にしました.砂漠に逃れた難民たちには食べるものも無く,路上に眠る子供たちは「学校に行きたい」と願いますが,夢は叶いません.運よく豊かな国に逃れることができても,彼らはしばしば差別され,まともな職を得られず,満足な学校や住宅に入ることもできません.ときには,慈善に頼って生きる若者がテロ活動に傾倒したり,警察と衝突して町中で暴動を起こしたりするのです.彼らが依拠できる「社会構造」は,一体,どこにあるのでしょうか?

・・・グローバリゼーションに関する模擬講義の後,一人の女子高生が質問してくれました.「貧困や争いはなくならないのですか?」と.

・・・貿易であれ,移民であれ,私たちは「社会構造」が変化することを通じて豊かになります.その過程を正しく理解しなければなりません.

・・・社会構造が変化するとき,たとえ激しい対立が起きても,孤立し,排除するのではなく,「一緒に解決しよう」と呼びかける優れた政治指導者がいれば,人々の声を聞いて,問題を解決するための新しい制度や仕組みを作るでしょう.グローバル化が良いか悪いかは,正しい理解と,社会的な工夫(革新的なアイデア),それを吸収して広める指導者と国民の能力にかかっています.

13年を経て、小著『ブレグジット×トランプの時代』を出しました。その序章は、「時代を生きる」という形で、彼女に答えています。

その時代に生まれ、時代に参加し、時代を変える。ブレグジットやトランプが示した政治的混乱は、新しい社会構造を求めるポピュリズムに代表され、金融に乗っ取られたグローバリゼーションを変える各地の反乱と、民主主義の危機はつながっています。

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コロナウイルスによるパンデミックで、レストランや食堂、旅館、旅客・輸送産業の多くが閉鎖され、若者たちは学業をあきらめ、卒業しても就職氷河期Uに入り、女性たちはパートを失って風俗業・売春で家族を支え、世界の最底辺では債務危機によって医療や食事が奪われ、さらに何億人も貧困状態に入る。

新しい社会構造は求めて、だれもが激しく変化する時代を生きる。

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