IPEの果樹園2020
今週のReview
11/16-21
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大統領選挙の終わり方 ・・・アメリカの次期大統領の苦悩 ・・・バイデンの内政・外交 ・・・政府開発銀行 ・・・トランプ主義の勝利 ・・・香港返還から国家安全法へ ・・・ドルと為替市場の不気味な安定性
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 大統領選挙の終わり方
NYT Nov. 5, 2020
Is America Becoming a Failed State?
By Paul Krugman
ジョー・バイデンが大統領になれるだろう。しかし、問題は、彼が望むように統治できるか、ということだ。
アメリカ国民を代表しないことが著しい上院において、過激な共和党が支配を維持しそうである。彼らはあらゆる方法でバイデンをじゃまするだろう。
上院が、各州から2人の上院議員を出すことは、ワイオミングの57万9000人も、カリフォルニアの3900万人も同じ、ということだ。こうした過大な代表権を得ている州は、国の全体から見て都市化の進んでいない州だ。都市部と地方との政治的分断が進む中で、これは上院を右寄りに変える。FiveThirtyEight.comによれば、上院は、平均的な有権者よりも7%多く共和党に偏っている。
上下院の1つを支配することが重要か、と思うだろうが、オバマのときもそうだった。共和党の強硬な戦術は、債務の上限を使って政府のデフォルトで脅し、財政支援を早期に打ち切って景気回復を遅らせるものだった。今は、2011年よりも、一層強く財政支援策の追加が必要である。コロナウイルスが1日に10万人もの新規感染者を出している。
医療サービスや、失業者、企業への支援、そして州や地方自治体への財政支援が連邦政府に求められる。パンデミックの終息まで、毎月2000億ドルの支出が必要だ、と推定される。それでもマコーネルの支配する上院共和党が同意を拒むとしたら、それは衝撃である。
通常、大統領は行政府として行動する。民主党は、議会を経由しない行動リストを準備している。しかし、ここでの心配は、非常に党派的になった最高裁だ。マコーネルの常識破りな行動は、投票日の数日前にバレット判事を最高裁に押し込んだ。最高裁判事9人のうち6人が、過去8回の選挙で1度しか多数を得ていない共和党の大統領によって指名された。F>D>ルーズベルトのニューディールを阻止した、1930年代の最高裁のように、その抵抗は重要だ。しかも、当時のように判事の数を増やす脅しは、共和党が支配する上院で利用できない。
ドナルド・トランプが退いても、共和党と選挙制度の問題はそのままだ。次期大統領が取り組むべき、感染拡大、経済危機、環境問題が明白でも、その政府は手を縛られている。これほど政治機能が崩壊した国が、もし外国にあれば、われわれはそれを「破綻国家」とよんだ。
The Guardian, Sun 8 Nov 2020
The rotten state of American politics made Trump smell fresh
Nesrine Malik
なぜ有権者はトランプを支持し続けるのか? これはいやいやながらの選択ではない。トランプの毒素を知りながら支持している。それは民主主義の問題である。トランプのような人物が、エスタブリシュメントを冒涜し、規範をあからさまに破壊することで、思考や政策が極端に狭められているとき、常に現れるのだ。超党派のコンセンサスに対する外部からの挑戦が魅力的で、破壊的に見えるのは、単に時間の問題であった。
この20年間で、最富裕層と最貧困層との格差が倍増したアメリカで、目に余る不平等を是正するため、民主党が再分配政策を取ることに臆病であったから、トランプの右翼が自分たちを故障したシステムの解決策として売り込む余地を与えたのだ。
アメリカ政治の中心に広がる自己満足があったから、トランプは血の匂いを嗅ぎつけた。投票を妨げ、公民権をはく奪する露骨な差別が支配的でなければ、トランプの犯罪にもっと関心が向いたはずだ。有権者たちはトランプの野卑な暴言を「正直さの表明」とみなした。
あまりにも多くの有権者がトランプを観て、その邪悪さより、壊れたシステムのルールを破壊する意志がある男とみなした。根本的な変化を避けるなら、もっと多くの邪悪さが現れるだろう。
● アメリカの次期大統領の苦悩
FP NOVEMBER 7, 2020
How President-Elect Biden Could—Believe It or Not—Help to Heal America
BY MICHAEL HIRSH
驚くべき接戦により、ドナルド・トランプはアメリカを絶望的に分裂国家にしたという悲観論が強まっただけだった。
彼が仕えたオバマ大統領は尊大で、民主党内でも批判されたが、彼と違ってバイデンは、常に仲間が多かった。バイデンは無駄話を重ねて、敵との取引を繰り返した。
確かにトランプは敗北宣言をしないし、マコーネルもバイデンに当選の祝意を伝えていない。彼はすでに、繰り返し、バイデンがウォレン上院議員、サンダースなど、進歩派を閣僚に指名しないように圧力をかけている。マコーネルはまた、アメリカがパリ協定やイランとの核合意に復帰することに強く反対している。
こうしたことすべてが、バイデン大統領の試練である。政治は機能するか。分断が支配し続けるのか。
しかし、国民には怒りや分断を行き過ぎと感じている多くの人がいる。彼らは政府の行動を求め、冷静さを求め、何よりCOVID-19に効果的な対策を求めている。もしワシントンの政治共同体を回復するとしたら、それができる者はバイデンしかいない。
この破れた国に癒しを与えるときだ。
PS Nov 9, 2020
America’s Dangerous Interregnum
BARRY EICHENGREEN
1932年は、フーバーHerbert HooverからFranklin D. Rooseveltルーズベルトへの政権移行が、比類ない経済不況と銀行危機の中で行われた。退任する大統領は、後継者をひどく嫌い、精神の鋭敏さを欠くだけでなく、ルーズベルトには部分的な麻痺があることを気にした。チェック柄のカメレオンと侮辱し、デッキの底から執務する、と非難した。FDRの社会主義的傾向は、「モスクワに進む道」である、と示唆した。
銀行の封鎖、パニックが広がっていた。しかしフーバーは、一方的な銀行休日の宣言を拒んだ。1933年3月にFDRが就任するまで、銀行システムと経済は停止したままであった。
フーバーは危機を認識していた。しかし、イデオロギー的に、連邦政府が介入することには反対だった。彼はまさしくその考えを確信していたのだ。新しい政策は必要ないし、新大統領が選択肢を持つことを制限するために何でもした。FDRが市場の信頼回復のために声明を発表するよう求め、フーバーが指名した代表団を国際会議に送って、ヨーロッパの戦債や金本位制の回復を議論させるようFDRをけしかけた。
FDRが次期大統領としてそれを拒むと、フーバーは激怒し、その時の会話記録を公表して、国民が憤慨するように仕向けた。
PS Nov 9, 2020
The Democrats’ Four-Year Reprieve
DANI RODRIK
残念ながら、この辛勝がもたらす教訓とは、アメリカ政治が2つの軸で分裂状態にあることだ。すなわち、文化と経済である。これらの問題で、民主党は左傾化しすぎたと思う人々と、民主党はもっと左派の議論を受け入れるべきだと思う人々とに、分けられる。
文化戦争とは、社会的に保守的な、白人の支配的地域と、いわゆる「目覚めた」態度が支配的な都市部との、対抗関係である。前者は、家族の価値、人工中絶反対、銃の権利を主張する。後者は、LGBTの権利、社会的正義、「システミックな人種差別」に反対する。
経済に関して、民主党の穏健派を含む多くの人が、左傾化し過ぎると保守派の票を失う、と考えている。共和党は、増税の恐怖、雇用を減らす環境政策、製薬企業の国有化という不安を煽っている。どの政党も、企業家がすることは最善で、政府は最悪、という神話を信じている。
これに反して、進歩派は、バイデンの選挙公約が外国の基準で観てラディカルではない、という。バイデンが、選挙をトランプの信任投票に変えたのは失敗だった。サンダースやウォレンの強調した雇用、経済安定性、再分配がもっと取り入れられるべきだ、と考える。
選挙は、中道左派や民主党の多年にわたる難問に答えられなかった。すなわち、ピケティが主張してきたように、左派政党はますます、都市部の、教育を受けたエリートの政党になっている。伝統的な労働者階級は影響力を失い、グローバル化した専門職、金融ビジネス、大企業の利益を代表している。こうしたエリートは、しばしば、中産階級や、さらに低い階層、取り残された地域の利益を無視して、経済政策を唱える。エリートたちの文化的、社会的、そして空間的な孤立が、より恵まれない人びとの世界観とは共鳴しないのだ。それゆえ文化エリートたちは、トランプがつかんだ7000万票に当たる人びとを、容易に無視する。
左派は、現在の私たちにとって焦眉の問題に答えを示さない。すなわち、良い職場はどこから来るのか? 累進課税、教育やインフラへの投資、(特にアメリカでは)国民への医療サービスは重要だ。しかし、十分ではない。中産階級の良い職場は減った。COVID-19が労働市場のひっ迫を強めている。
良い職場を失うコミュニティーは、薬物中毒、家族の崩壊、犯罪の増加にも苦しんでいる。人びとは保守化し、権威主義的な強権指導者を支持しやすい。経済不安がそれを悪化させる。
左派政党には、文化エリートが作った社会的亀裂を修復する多くの橋を築く必要がある。
● バイデンの内政・外交
FT November 7, 2020
The movement that backed Donald Trump is here to stay
Christopher Caldwell
世論調査はバイデンの優位を示し、民主党は興奮していた。投票日の前に、Robert Reichライクは、南アフリカでアパルトヘイトの終結時に設置された、「真実と和解のための委員会」を求めた。
しかし、投票日の夜、そのようなトランプの終わりは来なかった。週末になって、トランプは負けそうだが、彼を押し上げた運動はアメリカ政治に残っていることが分かった。
この運動の核心とは、専門家に対する民主的な反抗である。西側の市民は、多くの意思決定で、権力を専門家たちに与えた。たとえば、中央銀行、検索エンジン、感染症の専門家だ。トランプは、専門家から権力を取り戻すべきだ、という人々の声を代表している。彼は専門家たちの動機を疑う。そもそも専門家であることを疑う。むしろ、自分たちの利益のためにこの国を利用している、と考える。
企業や政府の指導者たちが、技術革新や社会的進歩をもたらすことに対して、ポピュリズムは反抗する。それは長期的に勝利するわけではない。しかし指導者たちが彼らをバカにし、利己的であるなら、彼らの時代が来る。
「われわれは労働者の党だ。」 と、ミズーリ州の上院議員Josh Hawleyは投票日の夜にツイートした。「共和党の未来だ。」
FP NOVEMBER 7, 2020
The Election Is Over. The Ideological Fight Is About to Start.
BY STEPHEN M. WALT
次期大統領の外交をめぐる論争は、2つの重要な問題に対する答えにより、4つの大きなグループの間の論争になるだろう。問1:政府の役割、特に連邦政府の正しい役割は何か? 問2:アメリカは多くの土地で政治を変える野心的な外交を採用するべきか? あるいは、もっと選択的に、抑制した外交を取るべきか?
多くのアメリカ人は、強く、有能な、財源を持った連邦政府が、より大きな善(その意味はいろいろだ)をなすために社会を規制するパワーを行使することを願う。その古典的な例は、進歩派リベラルのニューディール国家である。
しかし、他のアメリカ人はこの考えの基本要素を拒む。連邦政府はできるだけ小さくて、税金を少ししか取らないことが好ましい。政府は自由に対する潜在的な脅威である。政府の介入は経済成長を妨げ、個人の自由を損なう。
野心的なアメリカ外交の支持者がいるのは確かだ。コアの政治的諸価値を掲げて、世界の指導的国家になる。同盟諸国の安全保障、テロ対策、諜報・情報収集、民主主義、競争市場、基本的人権、法の支配、などを、他国に広める。リベラルな、グローバル秩序をさらに長期にわたって維持する。
しかし、かなり大きな割合でアメリカ人の多くはこの見解を採用しないだろう。特に、多くのコストがかかる場合は。
トランプの外交は寄せ集めだ。リバタリアンで、サンダース型の進歩派に似た主張をし、明らかに共和党主流派の政策を実行した。巨大な防衛予算、行政権の制約無視、ドローン攻撃、外国での殺害命令、おなじみの他の外交戦術を駆使し、人種と社会の分断を煽った。最終的に、トランプは共和党の潜在的自我を表現している。
バイデン外交は、抑制された進歩派になるだろう。それは国民が新しい戦争を望まず、多くの解決すべき課題を並べているからだ。旧外交を超党派で支持する交渉に手を出すことはないだろう。外交に大きな改善は望めない。それがこの選挙の結果である。
● 政府開発銀行
FT November 11, 2020
An investment bank to help the US prosper
Stephany Griffith-Jones
アメリカの次期大統領、ジョー・バイデンは、クリーン・エネルギーから医療サービス、住宅まで、あらゆるものに投資を大幅に増やしたいと考えている。しかし、競争相手や同盟者に頼る限り、その手段がない。
COVID-19、経済不況、不平等、気候変動など、アメリカが直面する挑戦に応えるためには、政府投資銀行を創設するべきである。
十分な資本を備えた、活気ある政府融資機関は、民間部門と協力して、景気下降期の衝撃を緩和し、上昇期の繁栄を拡大する。インフラ投資、中小企業支援、特に革新的部門への投資や、脆弱なコミュニティーへの支援を行う。
矛盾するようだが、アメリカ政府は、第2次世界大戦後の理想主義的な行動としてマーシャル・プランを実施し、その資金を使って、ドイツの開発銀行KfWを設立した。しかし国内では同じことをしなかった。
今やKfWの資産は5000億ドル以上に達し、ドイツで2番目の規模である。戦後復興、再統一後の東ドイツ統合化、2008年金融危機からの回復に、KfWは推進力となった。COVID-19の期間にも、KfWと地方銀行が個人、企業に融資を提供している。
アメリカ政府も、政府投資銀行を設立するべきだ。
全国気候銀行は、オーストラリアのような国々や、ニューヨーク州、ミシガン州にも設立されたが、the Moving Forward Actの一部として下院を通過した。
同様に、アメリカ投資銀行(AIB)を設立すれば、重要な公共プロジェクトに向けた投資を指導できるだろう。民間部門は初期の投資に問題を感じるような、再生エネルギーのための電力供給グリッド、地方へのブロードバンド拡大、海岸沿いの高速鉄道、などだ。
AIBは独立し、党派を超えて、厳格な規制と政府監査に従う。金融的に持続的かつ利潤を生みだすよう運営されるが、利潤目的ではない。その目標は、ダイナミックで、持続可能な、より公平な経済を創出することだ。
経済危機では、エッセンシャルなサービス部門に、低コスト、長期の融資を供給する。的確な企業や地方政府に対して運転資金や賃金支払いを支援する。また常に、ショックに脆弱なコミュニティーに向けて資源と技術支援を提供する。黒人、有色人種、先住民などは、しばしば周縁化され、融資を得られないからだ。
COV-19によって生じた経済危機からの回復を助け、改革を促して、活力がある、革新を進め、競争的な、包摂的部門や企業に投資することで、AIBは21世紀のアメリカ経済を繁栄に導く。
● トランプ主義の勝利
FT November 9, 2020
Liberals misunderstand the seductive appeal of populism
Jan-Werner Müller
選挙結果は、しばしば、X線検査よりも、ロールシャッハ・テストである。われわれはその中に知っていたことを読んでしまう。
政治家や評論家たちは、ドナルド・トランプの驚異的な接戦を、右派ポピュリズムのパワーが確認された、と考える。期待された(民主党支持の)ブルー・ウェイブは起きず、深刻な分断状態を観る。しかし、その解釈は、リベラルがポピュリズムをどれほど誤解しているかを示すものだ。
リベラルは複雑な現実を理解していると思いたがる。そして、ポピュリストは単純な解決策で大衆をだましている、と。しかし、リベラルもツイート的な短い説明でグローバルな趨勢しか示さない。トランプの勝利で、彼らは、アメリカ中西部の食堂で人々が何を話しているか、調べるようになった。
リベラルは、成功する政治運動は単一の政治アイデンティティーに依拠しない、ということを忘れている。トランプ主義は、常に、異なる人々にとっての異なる出来事だった。アメリカの保守派は、「社会的な保守と、複数のエスニックに応じた経済ポピュリズム」から、リアリティー・ショーの規範破壊者を取り除いたものを、トランプ主義として称賛した。しかし、トランプの道化的な言動は、反エスタブリシュメントの庶民に受けたのだ。
ポピュリストは、何よりも反エリート主義に傾く者たちではない。トランプを崇拝する下院議員Jim Jordanは、数週間前にツイートした。「アメリカ人はアメリカを愛する。近所がサンフランシスコのようになってほしくない。」 まるでカリフォルニアの都市は国内の外国人に占拠された拠点で、投票に数えるべきではない、というように。
ポピュリズムは単なるスタイルではない。トランプや、インド首相のナレンドラ・モディは、ツイートや衣装、経済政策を観るだけでは理解できない。彼らは排他的で、反多元主義の、アイデンティティー政治を推進する。キリスト教徒やヒンドゥー教徒を称え、彼らだけが「真の人民」である、という。彼らはつねに敵の攻撃にさらされている。「便所のような国」やイスラムだ。
ポピュリストは社会の分極化を刺激するのが非常にうまい。多くの市民が選挙のたびに、われわれ対彼ら、という世紀末的な演出を観る。しかし、多数を得るには十分ではない。彼らの大義が決定的な支持を得るのは、伝統的な金融・ビジネス界のエリートたちに支持されるときだ。彼らは低税率や規制緩和と交換に、権威主義的な行動には目をつむる。ヨーロッパでも北米でも、保守派のエリートと協力しなければ、右派ポピュリストが政権を得ることはなかっただろう。
トランプは、共和党が「富裕層のポピュリズム」に転じた趨勢の、原因ではなく、その兆候であった。最も裕福な1%の者が利益を得る政策を、容赦ない文化戦争と組み合わせた。多くの人々が、民主主義よりも、党派や経済的関心に支配され、権威主義的行動を容認するという事実は、恐ろしい。
NYT Nov. 10, 2020
The Long Shadow of the Reagan Years
By Jennifer Finney Boylan
1980年11月5日、二日酔いの私は階段を下りながら歌っていた。“This is the end, beautiful friend, the end.”
テレビでは司会者がレーガンの優位の大きさを議論していた。まだカリフォルニアの開票中であったが。ジミー・カーターはたった6つの州とワシントンで勝っただけであった。
それはレーガン時代の始まりであった。共和党員の母は幸せだった。
現在の混乱は、ドナルド・トランプが始めたものではない。彼が敗北しても、それで終わることもない。40年前の1980年11月4日、今では遠い過去であるが、現在の世界を創る触媒が広がった。
レーガンの起こした反乱は上院で12議席を奪い、1952年以来、共和党に初めて主導権を与えた。私は穏健な共和党員だったが、最悪だと思った。トリクルダウン経済学も、「ブードゥー経済学」も私には信じられなかった。しかし、それだけではない。レーガンが広めたアイデアが問題だった。「政府は解決ではない、政府が問題である」というものだ。
良い統治を求めても不可能だ。生活を改善するすべての希望は、企業に利益をもたらすこと、企業を愛することだ、という。それはバカげていたし、今もそうだ。
多くの共和党員が愛国心を語り、国旗を愛する。しかし、愛国心とは、統治を憎み、すべての条約をエクソン・モービルの視点に委ねることなのか? 共和党員は、この何年もオバマケアを憎み、廃棄することに費やした。法を守るという宣誓に反して。マスクをつけることも人びとは拒んだ。自由への抑圧だ、と。
ドナルド・トランプはパンデミック対策に失敗して非難される。しかし、ロナルド・レーガンは自国の統治への憎しみを奨励し、共通の善のための自己犠牲を独裁とみなした。ジョー・バイデンは、この核心的な信念を変えなければ、政府こそが自由への侵害だ、と反対される。
● 香港返還から国家安全法へ
FT November 11, 2020
China’s ‘recolonisation’ of Hong Kong could soon be complete
Jamil Anderlini
1997年7月1日に、イギリスのチャールズ皇太子は香港の港から航海した。植民地化について何と言われようとも、香港はその成功例だ、と述べた。
イギリス帝国はもっと早く滅亡していたが、多くの点で、香港の脱植民地化が完成したのは2020年の7月1日であった。このとき北京が一方的に香港に「国家安全法」を導入し、いかなる反政府行動も違法にしたからだ。
この法律の直接の目的は、1989年の天安門事件以来、最も大規模な反政府抗議デモが続いた香港で、これを粉砕することだった。
チャールズ皇太子のイギリスに対する評価は、どれほど時代錯誤を含んでいたとしても、正しかった。香港、そして、中国の台頭に、イギリスの支配は、清潔な行政、法の支配、言論の自由、という足場を提供したのだ。
過去18カ月の行動を観ると、中国の指導部が言論の自由を抗議活動の原因として責めていることは明らかだ。中国の習近平主席は、「激しい悪意に満ちた」、「西側の」リベラリズムや民主主義という思想と、中国はイデオロギー闘争に入った、と確信している。
毛沢東の共産党は、世界に革命を輸出しようとした。現在の共産党は、世界を自分たちのテクノ・ナショナリスト的な、権威主義体制にとって、安全な場所に変えたいだけである。
しかし、この法律には領域の定めがない。地球上のどこでも、彼らは「犯罪」を問うだろう。中国大使はイギリス政府に、「違反者を速やかに裁判にかけよ」と要求した。
チャールズ皇太子が香港港を出てから25年を経て、中国の法的支配はイギリス本土にまでおよんだ。
● ドルと為替市場の不気味な安定性
PS Nov 10, 2020
The Calm Before the Exchange-Rate Storm?
KENNETH ROGOFF
パンデミックの中で、金、ビットコイン、他にもドルに代わる資産がある。ドル価値が急落する、と予告する者もいた。しかし、今のところ、ドルの価値は非常に安定している。
アメリカのパンデミック対策は失敗し、経済崩壊に対する支援で財政が大幅な赤字を出している。連銀のパウエル議長は「多くの禁止ライン」を超えて金融緩和を実施した。ドルのコア・レートがこれほど平静であるのは気味が悪い。
こうした安定性は驚きだ。通常、アメリカが不況のとき、為替レートの浮動性が顕著に増大するからだ。それは、パンデミックのもたらす主要なマクロ経済的謎である。
もっとも納得できる理由としては、伝統的な金融政策がマヒ状態にあることだ。主要な中央銀行の金利が、すべて、実質ゼロである。たとえ成長が回復するシナリオでも、この状態は数年も続くと予想されている。
しかし、現在のような停滞が永久に続くことはないだろう。相対的なインフレ率をコントロールしたとき、ドルの実質価値は10年ほども上昇してきた。ある点で、それは平均に戻るだろう。アメリカが選挙後の混乱でパンデミックの医療サービスやマクロ経済政策を示せない場合、その逆転が起きるかもしれない。グローバルな市場で保有されているアメリカの政府債券や社債のシェアが増えており、長期的な脆弱性になる。
単純に言えば、世界市場におけるUS債務のシェア増大と、グローバル経済に占めるUS経済の規模のさらなるシェア縮小との間には、根本的な矛盾がある。これは、1960年代前半にイエール大学のロバート・トリフィンが指摘し、その10年後、固定レートのブレトンウッズ体制が崩壊に至ったことと重なるものだ。
短期、中期においては、さらなるCOVID-19の波が金融市場を圧迫し、安全資産への逃避が起きるから、ドル価値は上昇するかもしれない。2030年でも、ドル紙幣は王様でありうる。しかし、われわれが経験しつつある経済的なトラウマは、痛みをもたらす転換点であった、と分かるときが来る。
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The Economist October 24th 2020
Who controls the conversation?
Brexit: Seal the deal
Illegal fishing: Monsters of the deep
Trade: Tariff man
Chile: In need of a new edifice
Swedish defence: Less neutral, more beefy
Lael Brainard: Top contender
(コメント) ヨーロッパにおけるコロナウイルス感染の再拡大は続いています。しかし、アメリカ大統領選挙直前の週に、冒頭を飾ったのはSNSの規制でした。どのように嘘やデマ、政治的妄言と非難中傷、憎悪、攻撃、陰謀論などを抑制するのか? このような汚れた水の中で、民主主義や選挙は生きることができるのか?
おそらく同じことが、海洋資源の乱獲にも見られます。
チリの新憲法制定、スウェーデンの防衛予算大幅増額、アメリカの財務長官候補Lael Brainardについて記事を読むなら、きっとさまざまな想像力を刺激されるでしょう。民主主義は多くの土地で危機の中にあり、その中から、次の姿に変態する機会を模索しているのだな、と。
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IPEの想像力 11/16/20
「うわさの保護者会」(NHK教育)を観ました。尾木ママの話す、匿名参加者のトーク番組です。
仕事が減り、あるいは、職を失った親たちは悩みます。子どもたちが学校へ行くにも、その前に、家賃、食費や光熱費を支払わねばなりません。貯蓄は減っていくばかりです。
学校で進路相談の後、子どもが進学をあきらめることに同意した姿を、親は観ています。本当は専門学校でギターを習いたかったことを知っているけれど、家計を助けるために仕事を探すと答えてくれた子どもに、感謝するしかありません。
吹奏楽部の全国大会やクラブ活動がなくなって、勉強にも身が入らなくなった、と娘ががっかりするのを、母親はだまって聞いています。娘がとても熱心に取り組んでいたことを知っているからです。リモートの授業にも身が入らず、成績が下がって、志望校を変えた、と言います。
3人の子供がいる両親は、父親の仕事、母親のパート、子供のバイトもすべて減って、収入が大きく減りました。予想もしなかったことだ、と父親は苦悩します。子供たちの受験料、入学金、授業料を払えるだろうか、心配します。2人の娘の受験が重なるから、と。受験勉強に、他の子供が通う塾や予備校には行けない。自分の子どもには余裕がないとわかってもらう、と言います。
番組には、何の答えも、解決策もありません。そうでしょう。
尾木ママやゲストの2人は、子供たちの思いや、親としての苦悩を理解し、励まそうとします。食事をしっかり取らないと勉強に集中できず、記憶力も劣るようになるから、と貧しい若い時代を芸人は回想します。
政府はもっと子供たちに支援を与えるべきだ。子供たちの教育を支えることは、国にとって重要な投資なのだから。
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コロナウイルスの第3波がせまっても、アメリカ大統領選挙で深刻な不安が残っても、株価は上昇し続けています。
かつてないような質的量的金融緩和に費やされる莫大な資金は、本当に、その価値にふさわしいものなのか?
Go to TrabelやGo to Eatによって支出される政府の財源は、もっとほかの仕方でも支出できるはずである。誰の負担で、何を支援したのか、明確な意図と効果を、政府は国民に対して説明する必要があるでしょう。
女性の雇用が、特に大きな影響を受けている。家賃を補助する「住居確保給付金」によって何とか住む場所を維持できている人たちが、12月に終わる。ホームレスの急増につながるかもしれない。(清川卓史「記者解説:コロナ 広がる生活危機」朝日新聞11月16日)
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どのような構造変化を、政府は支持しているのか? 菅政権は何も説明しない。どのような社会を望むのか、と国民に尋ねもしない。
コロナウイルスに対抗する持続可能な経済があるとしたら、それは、おそらく共通のインフラを備えている。PCR検査体制、追跡、隔離、医療サービス、そして、経済的保障、ベーシック・インカム、公的教育と雇用機会の保障。
感染の無い土地で、自律的な経済圏を築くことに、日銀と政府が、地方政府・銀行を介して財源を与えるほうが良い。そういう時期が来たと思います。巨大都市のロックダウンではなく、外国人観光客を期待して膨張した航空機産業やホテル・旅館の維持、金融機関や株式市場への途方もない資金投入でもない。
長い目で見れば、高齢化とデジタル化。この2つの波を経験する世界の中で、優れた政府は、国民に議論を促し、新しい経済に向けて参加するように説得するでしょう。
各地に分散したハイテク都市や開発区は、小規模で、周囲の農村と結びついている。自律的な経済単位は、早期の、迅速なロックダウンと、他の経済圏との協力関係により、パンデミックを受け止めるだろう。
都市を脱して参加する食堂や中小企業、学生や労働者の採用と人事は、極めて公平・公正で、その基準をしっかり説明する。地域の代表や就労希望者の発言を大切にする。
子どもと一緒に、移住するか! そういうお父さんやお母さんと、子供たちに、日本の未来は支えられている。能力の高い女性やシングル・マザー、希望を失っている学生、学びながら働くため日本に来た外国人、不安定・不確実な雇用を必死につないで生きてきた、非正規で十分に評価されない、しかし労働意欲の高い人たちが、積極的に雇用され、移住してくれば、開発区の成長を通じて日本全体の活気を取り戻す。
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