IPEの果樹園2020

今週のReview

11/9-14

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トランプのパラレル・ワールド ・・・アメリカ大統領選挙と世界 ・・・経済学者たちは今もさまよう ・・・バイデン・プランの基本 ・・・財政規律とMMT ・・・権力の平和的な移譲を拒む ・・・中国の経済的、技術的前進を受け入れる ・・・投票日の後 ・・・US選挙と大接戦

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 トランプのパラレル・ワールド

SPIEGEL International 30.10.2020

A Legacy of Hatred, Culture Wars and Discord

The Mess Created By Trump Will Be with Us for Years

By Valerie Höhne, Ralf Neukirch, René Pfister, Alexandra Rojkov und Alexander Sarovic

ドナルド・トランプJr.は、良い雰囲気を何も壊したくなかった。世論調査結果は無視した。「これは強化ホルモンを加えた2016年の大統領選挙である。」 しかし、集会には空いたスペースが目立つ。

ジョー・バイデンの息子のハンターは、ロシアの富豪から350万ドルを受け取った。それは人身売買や売春で得た金だ、という疑いがある。彼はそう述べた。もちろん、証拠は何もない。

しかし、ジュニアの目は将来しか観ない。彼の父がいなくなっても、トランプ主義は永遠に続く。アメリカ有権者の30%以上がドナルド・トランプに投票した。これは重要だ。パンデミックとその死者が22万人に達し、独裁者になることを願い、検察長官に対立候補の息子を捜査するように命じた男、大統領になって最初の年に750ドルしか税金を支払わなかった男に、投票したのだ。

トランプはパラレル・ワールドを築いた。そこでは彼の言葉だけが重要だ。それは現実にほとんど基づかないのだが、忠実な支持者たちは気にしない。たとえニューヨークの5番街で彼が誰かを射殺しても、支持者たちは彼を愛し続けるだろう。

ジョー・バイデンの最も重要な約束は、アメリカを再び団結させる、ということだ。しかし、トランプ主義は残る。トランプは共和党の変身が生んだ。かつては家族・軍隊・「小さな政府」という三位一体の価値観に依拠した共和党だが、超富裕層からの献金によって、その恨みと欲望を完全に受け入れた。

今や共和党は、党のエスタブリシュメントが反対しても、トランプに権力を与えた。妻をだましてポルノ女優と関係を持ち、米軍を「負け犬」、「税金の無駄遣い」とこぼし、任期中に政府の赤字を4.4兆ドルも増やした。

トランプの大躍進を支援したのは、怒りと衝突の種を蒔くことで多くの利益を得るビジネス・モデルの新興メディアであった。Facebookが無ければ、2016年の大統領選挙で、あれほど効果的に、ロシアはトランプにとって有利な情報操作をできなかった。また、ルパート・マードックのFox Newsが、嘘とプロパガンダを数十億ドルの利益と政治的影響力に転換する点で、テレビの歴史において抜きん出た存在であった。


 アメリカ大統領選挙と世界

The Guardian, Sun 1 Nov 2020

Whatever happens, it will take more than promises to Make America Normal Again

Adam Tooze

113日が近づくと、世界が息を止めるように見える。アメリカ大統領選挙ほど注目を集める政治イベントはほかにない。

われわれはアメリカが圧倒的な超大国である時代に生きた。歴史的に、それは比較的最近のことだ。独立後の100年間は、主要国がアメリカに関心を持つことはなかった。ワシントンDCに代表も置かなかった。1893年、UKが正式の大使館を置いたのが最初である。19147月、外交の大事件で、第1次世界大戦に至ったが、小さなセルビアの方がアメリカよりも有名だった。

アメリカの選挙に世界が注目した最初のケースは、1916年、ウッドロー・ウィルソンの再選だった。アメリカの人的・経済的パワーと、ウィルソンの新外交が、第1次世界大戦の結果を決めた。さらにヨーロッパは、大統領選挙だけでなく、アメリカの権力分割により、議会政治に注意すべきことを学んだ。191811月の中間選挙で共和党が勝利し、ウィルソンのヴェルサイユ条約と国際連盟はその犠牲になった。

1916年に重要であった理由で、1940年には、F.D. ルーズベルトの三選がもっと重要になっていた。彼の勝利が巨大な支援パッケージである貸与法を可能にした。しかも、ナチス・ドイツや日本帝国に勝利した後、アメリカは敗戦国を見放すことなく、マーシャル・プランとNATOで包摂した。

2008年、バラク・オバマの勝利は、金融危機の最中に決まったが、歴史を感じさせた。世界はジョージ・W・ブッシュに代わるものを求めていただけでなく、野心的な未来を波及させたからだ。かつて奴隷制に依拠した国に、黒人の大統領が選出されたことは、国家を超えた希望のシンボルだった。当選が決まる前から、数万人のドイツの若者たちがベルリンの街頭に出てオバマを祝った。

かつて同じような熱狂を生んだ大統領は、JFK(ケネディー)であった。彼が選出されたことは、世界における、政治の新世代を意味していた。現在、AOC(オカシオ・コルテス)の選出はそれに遠く、アメリカの政治は、終末期のソ連が示した老人支配体制に近い。Ruth Bader Ginsburg87歳で死去し、Nancy Pelosi80歳、トランプは74歳、ヒラリー・クリントン73歳、Bernie Sanders79歳、ジョー・バイデンが当選しても、1120日に78歳になる。

われわれアメリカ人は正直になるべきだ。トランプが示す醜い姿は新しいものではない。ウィルソンは本心から人種差別主義者だった。差別的な法制度を維持したアメリカ南部が、FDRやトルーマンを世界の指導者として支えていた。マッカーシズムの抑圧体制は、冷戦下のヨーロッパでもなかったものだ。トランプの醜悪さは、リチャード・ニクソンが吐いた、録音された、汚い偏見に満ちた声と重なっている。

アメリカの選挙制度は非常に脆く、法的な告発にさらされる。州の選挙制度はあらゆるレベルで党派的な政治に支配されている。しかし、われわれはトランプの恐怖劇に対抗する形で、リベラルの怒りのシアターが展開されていることを認めるべきだ。

2020年の大統領選挙が問うのは、アメリカの政治は変わることができるか? である。もし変わらないなら、21世紀は、ますます病的な、危険なスペクタルの目撃者となることを責められる。


 経済学者たちは今もさまよう

FP OCTOBER 31, 2020

On Election Eve, Economists Struggle to Figure Out a World That’s Unraveled

BY MICHAEL HIRSH

2008年の金融危機からCOVID-19のシャットダウンまで、世界中の優れたエコノミストたちは経済政策におよぼす彼らの影響力を取り戻そうと苦労してきた。それは成功していない。問題は、彼らが混乱するグローバル化した経済についての意味ある新理論を持っていないことだ。当分、その見込みもない。

エコノミストたちは、まだ事態をこれほど読み間違えたことを理解できない。ドナルド・トランプは、破壊された中産階級を助けるために、国境を閉ざし、貿易戦争を始めると約束して、大統領に当選した。かつてはネオリベラルの自由貿易論者であったジョー・バイデンが、4000億ドルの「バイ・アメリカン」を提案し、オバマのTPPを労働者の権利に関して再交渉すると約束している。

ニュー・ケインジアンの経済モデルは役に立たない。経済学は進歩するが、非常に遅い。大不況の中で、J.M.ケインズはマクロ経済学を開発し、政府の支出が雇用を増やし、不況を是正することを説明した。数十年後に、ミルトン・フリードマンは保守派のエコノミストを指導してケインズ主義を倒した。最小限の金融介入と小さな政府、特に、低課税と規制緩和を唱えた。しかし世紀転換期に、安定した経済、危機の無い「大いなる安定Great Moderation」を祝ったエコノミストたちが、その後の金融崩壊に面目を失った。

今もなおエコノミストたちは、物理学の統一理論のような、新理論を探しているが、現実に追いついていない。COVID-19後の危機に対する政策は、古典的なケインズ主義の政策であった。それは不況がさらに悪化するのを回避したように思う。

しかし、共和党はさらに財政赤字を増やすことを強く嫌い、一層の赤字支出を求める民主党との間で、議会は行き詰まった。市場はもっと多くの赤字と債券を求めている。この金融市場を利用しないのはばかげている、と議会予算局の元主任エコノミストは言う。

エコノミストたちは、2008-2009年の大不況からほとんど学ばず、低金利を続けても景気回復が遅かった。COVID-19にグローバル経済の全神経と筋力をやられた。それはまた、他の危機と並行して起きた。中国がアメリカの職場を奪ったような危機のスピードを、まるで理解できなかった。

グローバリゼーションは経済全体にとって利益になる、と言うだけで、エコノミストたちは「分配上の懸念」を真剣に考えなかった。成長の枯渇についても、経済学は理解しなかった。非常にわずかな数の人びとが、世界の富のますます多くを所有するとき、消費は長期にわたって抑圧される。こうした新しい経済的現実に、トランプの共和党は、事実上、非正統的な経済学で応えた。それはかつて左派の急進的な思想であった。

トランプ、関税を政治的武器に使い、政治的に好ましい部門には巨額の補助金を支出した。彼の中国との合意は、その中心に毛沢東主義者の支持した管理貿易がある。民主党も、バイデンを動かして、国民すべてに大学教育、医療サービス、ベーシック・インカム、はるかに累進的な税制を目指すよう迫った。

経済思想全体が左派に向けて移動している。それは政策立案者たちが「市場だけでは十分ではない」と納得したからだ。20世紀のほとんどをかけて闘ってきたイデオロギーを、われわれは受け入れようとしている。COVID-19はこの趨勢を加速させた、とF.ザッカリアは言う。

旧いマクロ経済モデルは、インフレと不況が同時に存在することを説明できないために崩壊した。エコノミストたちは、不況に向かうことへの自動的な安定化を模索する。膨大なデータを集めて、個々の決定がグローバルな均衡をもたらすミクロ経済学を再構築することに向かっているが、そのモデルは容易に完成しない。


 バイデン・プランの基本

FT November 1, 2020

A blueprint for America’s economic recovery

Rana Foroohar

幸い、数日中に、ジョー・バイデンがアメリカ大統領になり、ドナルド・トランプは去るだろう。バイデンが唱える「思いやりの経済」が今ほどふさわしいときはない。現政権下で、政治は文字通り、私たちを殺し続けている。

民主党員でなくても、トランプ政権が行った正しいことが1つある、と思うだろう。経済発展の自由放任モデルであったネオリベラリズムが死んだことを、事実として暴露したからだ。

過去40年間、共和党も民主党も、政権に就けば、アメリカ全土をネオリベラリズムに染めた。資本、財、労働力が世界中を制約なしに移動できることで、すべての者が豊かになる、と。この哲学は破綻し、リベラルな民主主義もその犠牲になった。

金融の規制緩和と貿易自由化は、紙の上で美しいとしても、人間におよぼすコストを考慮せず、世界的な規模で不平等をもたらした。その痛みの結果が、今われわれを支配する政治である。資本は自由に移動した。世界の金融資産は実物経済の4倍以上に達している。財も移動可能になった。しかし、ほとんどの人々、その職場は移動できなかった。政治家にとってはそれが問題だ。人びとは投票する。

多国籍企業の運命と労働者たちの運命は、同じように上昇しなかった。市場は完ぺきに効率的ではなく、政治と人びとの声が重要だった。世界は混乱し、ますます複雑化している。US、ヨーロッパ、中国は別々の方向に国々を導く極であり、別の政治経済をもたらした。

民営化や自由化の言葉が盛衰を繰り返したが、中国は共産党が厳しく管理するシステムを維持しており、国益に従って運営されるだろう。アメリカと対抗して進む、世界的な規模での「一国二制度」という問題は長期に及ぶだろう。

次期大統領はこの挑戦にどのように対応するべきか。愚かな貿易戦争に法人税引き下げを組み合わせることは、答にならない。企業は世界中に資金を移動するばかりで、アメリカに投資しない。関税がアメリカ経済に及ぼす影響をよく考えるべきだ。成長の見込みと安定性のない国に、企業は投資しない。

バイデンは率直にアメリカ国民に真実を告げるべきだ。教育が技術に追いついていない。生産性上昇が遅れている。医療サービスや道路、橋、ブロード・バンドを更新するべきだ。バイデンが巨額の投資計画を立てていることは賢明である。21世紀の経済にとって基本的資源である、人的資本の価値を高めるからだ。企業は、機械だけでなく人にも、投資を怠ってきた。

共和党は、債務を重視せよ、と反対するだろう。しかし、債務を減らす唯一の道は、民間の緊縮(消費抑制)と成長との組み合わせである。トリクルダウン型の、金融緩和によるネオリベラルな資産バブルはそれをもたらさない。生産性のバブルが必要だ。政府が支援して、高成長する技術開発を促す。また、大企業が主要産業を独占しないように法を強化して、競争を確保する。

これがバイデン・プランの基本だ。


 財政規律とMMT

FT November 1, 2020

The future of fiscal policy without traditional constraints

Gavyn Davies

主要な先進経済の政府債務とGDPの比率は、2019年から26%上昇して、来年、141%に達する。その半分以上は中央銀行が保有する。

グローバルな経済危機に対して、この政策対応が間違っているというエコノミストは少ない。しかし、財政政策に関する基本的な考え方の転換に注意するべきだ。インフレ率や金利の上昇が債務危機を懸念させる状況は、短期的には、考えられない。

L. サマーズは、「長期停滞」論を2013年に提示した。1970年代後半、インフレ抑制に重点がシフトした「革命」と同じような思想の転換が起き、十分な需要と公平さを確保するために、主として、財政政策を使うことを主張した。

パンデミックに対応する構造的な経済変化は数十年かかるだろう。1980年代前半から、先進経済の実質と名目の利子率は低下しており、民間貯蓄に対して十分な投資が行われないことが主な原因であろう。バイデン政権が大幅な予算赤字によって、グリーン・エコノミーや所得の改善、インフラ整備を進める好条件になる。

しかし、政治家はこれをどこまで利用できるのか? 債務を貨幣の増発で賄えても、賢明な政府は債務率が増大するのを抑えるだろう。債券市場は見張っている。つまり、パンデミックの終息後、政府は利子率が成長率を下回ることで、債務率が減少するモデルを採用する。それは、景気循環を通じて、プライマリー・バランスを維持するよう、予算シーリングを受け入れることを意味する。

民主党政権は、この限界を超える予算を望むだろう。それは、2030年代に高齢化で債務が増えるより前に、債務・財政危機を懸念するべきだ、ということである。

PS Nov 3, 2020

The MMT Myth

OTMAR ISSING

現代貨幣理論Modern Monetary Theory (MMT)を、COVID-19のパンデミックで政府が採用するべきだ、と多くの人は言う。しかし、そのメッセージは危険なほどに単純だ。

MMTによれば、完全雇用になるまで、政府は思うままに支出できる。財源を心配する必要はない。なぜなら中央銀行がコストなしで政府に貨幣を供給するからだ。この新しい「理論」は、オリジナルではないし、陳腐なものだ。

数年前、MMTに関する本が出たとき、あらゆる党派のエコノミストに批判された。しかし、UKの労働党指導者コービン、US上院議員サンダースなど、政治家たちが取り上げた。サンダースはMMTのよく知られた提唱者Stephanie Keltonの助言を受け、経済政策に取り入れた。民主党左派は強い関心を持った。それは、彼らの公共政策を何でも実現できる、と思ったからだ。

政府支出に限界がないなら、だれでもミルクと蜂蜜の楽園に住めるだろう。しかし、この楽園は一時的なものだ。政府支出の拡大は必ずインフレに至る。機会は失われ、人びとは失業の増大と実質賃金の停滞という形で、代償を支払う。

MMTはこの問題を認めるが、必要な時に、インフレを回避するだけ十分な貨幣を取り除くため、増税するという。これは、財政政策や民主主義に対するMMTの無邪気さを示すものだ。インフレを止めるには多大なコストをマクロ経済に生じる。西側諸国は1970年代後半と1980年代前半に、その苦しみを経験した。

MMTの主張が技術的に正しいとしても、それは自国通貨建の債務が、貨幣の増発で支払える、という意味だ。しかし、外国投資家がいつでも喜んで投資するとは思えない。US金利が政府の思うままに変えられるか、MMTは答えない。

中央銀行の独立性は、各国のインフレ率を抑制することに有効である。しかしMMTは、貨幣の発行を、中央銀行から政府が取り戻すべきだ、という。戦争のような非常時には、歴史がそれを支持したが、MMTはそのようなカオスへの道である。


 権力の平和的な移譲を拒む

NYT Nov. 1, 2020

What Happens if Neither Trump Nor Biden Concedes?

By Daniel Larsen

大統領が権力の平和的な移譲を拒むとき、多くの評論家たちが、「がたがたの」アメリカ選挙制度が、投票後の危機に対して特に脆弱である、と警告している。しかし、法的な失敗の可能性を検討するとき、そこには重要な問題が無視されている。誰の権力を移譲するのか?

究極的に、すべての民主的な移行は、一方が他方にすすんで権力を移譲する。ある段階で権力が移譲されないなら、権力は力で分割される。それは軍隊が決めるか、内戦を意味する。アメリカにおいて、移譲することが不可能な瞬間が来るのではないか、と懸念されている。

選挙制度を重視するという意味で、アメリカのシステムは多くの点で驚くほど強固である。通常、他国の大統領制度では、選挙委員会が結果を発表する。その後、焦点は敗北した候補に移り、もし彼らが敗北を受け入れなければ、直ちに、決定的な瞬間に至る。

これに比べてアメリカでは、奇妙な、欠陥多い選挙制度だが、多くのセーフガードを用意している。1人の、1度の決定ではなく、2か月半にわたる法手続きの迷宮を経る過程で、憲法が定める多くのアクターが権力の移譲に関わってくる。

アメリカ大統領選挙は、2つの段階を経ねばならない。第1に、州ごとに投票数が数えられて、選挙人が12月半ばに投票する。第2に、議会が選挙人の票数を数える。

1段階には、多くの州と地方レベルの公務員、裁判所が含まれる。その過程で、敗者が権力を移譲する機会がある。第2段階では、議会が選挙人の票を数えるが、さらに多くの譲歩の機会を提供する。

NYT Nov. 2, 2020

This Might Be the Most ‘West Wing’ Election of Our Lives

By Margaret Renkl

私のお気に入りのマグカップには、こう書いてある。「ジェドのように指導せよ。レオのように助言せよ。ジョシュのように考え、C.J.のように話し、サムのように原稿を書け。」“Lead like Jed. Advise like Leo. Think like Josh. Speak like C.J. Argue like Toby. Write like Sam.”

つまり私は ‘The West Wing’を愛するファンのように、アメリカを信じている。

それはもはや他の惑星のように思える。しかし、おとぎ話かもしれないが、われわれは今もそこから学び、政治に願うことがある。「アメリカの魂」を回復してほしい。そう思って1票を投じた。


 中国の経済的、技術的前進を受け入れる

PS Nov 5, 2020

The US Must Accept China’s Rise

DANIEL GROS

激しい選挙戦の対立において、1つの問題で両党は一致していた。「中国を止めろ」である。

アメリカ政府と欧州委員会は、今や、中国が経済的、技術的な優位を、不公正な方法で得ていると信じている。政府が広く経済に影響を与えることによって、先端技術を促進している、と。

しかし、それは間違いだ。国家介入が目標を達成できるとは思えない。かつて日本がそう言われた。戦後から1970年代、1980年代まで、日本の高成長が注目されたとき、通産省(MITI)が神話的な高い評価を得ていた。戦略部門に資源を誘導して成功したからだ。

だが日本は不動産バブルで成長が大きく失速し、MITIが支援した部門も実際には成功していなかった。日本経済が高成長したのは、高い貯蓄率と、教育水準の急速な改善であった。同じことが今の中国に起きている。

最近まで、中国の指導部は国家介入の限界を理解していたようだ。国有企業(SOE)は一般に民間企業よりも非効率である。経済に占めるSOEの割合を下げてきた。しかし今、その見解を転換し、政府はハイテク部門の成長を国家の指導下に置いている。

しかし、その成功の理由は、高い貯蓄率であり、教育の改善、特に、高等教育に巨額の投資を行っていることだろう。中国は今や、アメリカの2倍のエンジニアを育て、同じだけ多くの研究論文を発表している。次の10年でアメリカを抜くだろう(すでに抜いているかもしれない)。

アメリカが中国の前進を止めるどころか、邪魔することもできないだろう。中国経済が成長し、それに従って、輸出に依存しなくなり、自国の技術開発が増えるからだ。

対照的に、アメリカの戦略はお粗末だ。中国との「デカップリング」は実行可能でないし、むしろ非生産的である。中国からの供給を遮断することは、生産性の低い、高コストの企業に暗黙の補助金を与えるだけだ。究極において、それはアメリカ消費者への課税である。

結論は明らかだ。アメリカの次期政権は、中国の経済的、技術的前進を受け入れるべきだ。中国がアメリカを超える、というのは気に入らないだろう。しかし、その結果を拒む試みは、無益であり、コストが高い。


 投票日の後

NYT Nov. 3, 2020

Either Trump or Biden Will Win. But Our Deepest Problems Will Remain.

By Yuval Levin

選挙が終わった後、何をするべきか? この国の深刻な諸問題は、大統領の決意だけで解決するものではない。

その問題とは、社会的危機に至った何かである。政治文化の崩壊だけでなく、自殺と薬物中毒につながる孤立感と絶望、コミュニティー全体がアメリカの成功物語から排除されているという感覚、そして、それに憤慨し、拒否すること。

二大政党が互いをアメリカの未来に対する脅威として攻撃し合うのは、こうした人びとを助けることにつながらない。選挙の勝利は諸問題を一掃するわけではない。

われわれは今、希望を失い、敵意に満ちた状態を、どうやって解決するのか、自身に問うべきである。なぜならそれらが機能する政治の前提条件を破壊しているからだ。

疎外という危機の核心にあるのは、責任感の喪失、深く根を張った文化的な分断、連帯感の欠如である。大統領も、議会も、これを解決できない。底辺から積み上げることで、再生する機会はある。国民の政治が機能するために必要とされるエートスの回復は、人と人との関係に近いところで起きるだろう。

「私には役割があり、何をなすべきか」と問う。教師や隣人として、牧師や会衆として、雇用者や従業員として、教師や生徒として、議員や市民として。関係性の中で責任を果たす。

この問いかけを怠った。多くのアメリカ人が、われわれの制度は自分を人間として扱っていない、という感覚を持つ。それがトランプ大統領の失敗であり、ある種の彼の批判者たちの失敗でもある。

重要なことは、われわれが互いに、特定の制度における自分の役割が何かを問わないことだ。重要な瞬間に、自分のブランドを売り込むのではなく、自制と責任が求められる。この国は、そのような直接の節操・清廉さに飢えている。あたかもポピュリズムが何位でも腐敗を観るけれど、それは清廉さを求めているのだ。

崩壊した社会は、怒り、冷笑主義、伝統の拒否を生み出す。しかし賢明になるなら、われわれが求めているのは、責任、清廉さ、何よりも連帯である。

それらは底辺から生まれる。われわれがいる、その場所から。


 US選挙と大接戦

FP NOVEMBER 4, 2020

Even if Biden Wins, It’s Trump’s America Now

BY JONATHAN TEPPERMAN

この選挙結果は、アメリカにとってどのような意味があるのか。

最も重要なことは、ホワイトハウスに誰が入るにせよ、アメリカの投票の約半数が、白人ナショナリストの、権威主義的な、虚言を慢性的にまき散らす人物を支持したことだ。彼らはまた、トランプのむき出しの残酷さ、性差別主義を無視した。政府や世界に対する無知と関心の無さを無視した。フェア・プレイ、法の支配、報道の自由といったアメリカの伝統的な価値観を、彼が軽蔑したことを無視した。多年にわたって、たとえ欠陥はあったとしても、われわれの平和と繁栄を支えてきた内外の諸制度を、彼が熱心に破壊したことを無視した。

2016年には、共和党員たちもトランプのことを知らなかったと言えただろう。しかし、今は違う。われわれは、トランプがどんな男か、よく知っている。

トランプは2016年よりも500万票多い、約48%の票を獲得した。ラテンアメリカ系有権者、黒人有権者に支持を拡大し、共和党は上院の多数を守るようだ。われわれは1つの結論を得た。2016年はまぐれではなかった。勝者が誰かに関わらず、われわれはみな、トランプのアメリカに生きている。

トランプの影響は政治に残り、共和党を支配し、バイデンの宥和策を拒み、アメリカをますます破壊する。政府が失敗を犯すことに人びとは憤り、あるいは、共和党は政府の試みをくじき、悪意に満ちた分断状態はさらに悪化し、超党派の協力の可能性は消滅し、政治は暴力に向かう。

オバマが同じことを試みた。しかし、それは共和党の激しい反対を呼ぶだけだった。国民のさらに多くが、バーサリズム(オバマには大統領になる資格がない、出生証明書を見せろ、という反政府運動)やその他の陰謀論を信じた。

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The Economist October 17th 2020

Torment of the Uyghurs

The American election: Grading Trunponomics

Ruling Thailand: Battle royal

Xinjiang: Orphaned by the state

Trunponomics: Watered with liberal tears

Far-right extremism: Making the world glow

Dubai: Old is gold

An interview with Russia’s opposition leader

Bagehot: Mad, bad and dangerous

(コメント) アメリカ大統領選挙の2週間前に、こうした記事が並んでいました。

新疆・ウイグル自治区におけるイスラム教徒への厳しい監視と拘束、改宗、同化のシステムは、現代の強制収容所である、ジェノサイドである。スキャンダルにまみれたタイの新しい国王は、ドイツに暮らしながら、タイの民主主義を絶対王政に転換し、王室の富を自分だけで支配することが正しいと考えている。アメリカにおける白人ナショナリストたち、極右の過激派は、大量の武器を蓄えて、政府に対する武装蜂起を考えている。

そして、他の記事では、石油の出ない中東の都市国家ドバイが、経済危機から脱出するために、豊かな高齢者を世界から自国へ招き寄せる。ロシアの反プーチン指導者、毒殺未遂から奇跡的に生還したナワルニーは、ドイツの病院でインタビューに回答した。ブレグジットを生んだイギリスの狂気を、いまさら驚くべきではない。

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IPEの想像力 11/9/20

アメリカ大統領選挙の投票日、恐れられた騒乱は起きませんでした。少なくとも、まだ今は。

しかし、民主主義の表面的な正統性のベールをはいだ、私たちの異なる姿、社会の対立、鬱積する不満、既存の秩序や支配者を引きずりおろしたいという欲求が、アメリカだけでなく、ヨーロッパにも、中東にも、ラテンアメリカにも、インドや韓国、タイなど、アジア諸国や、新時代を期待されたアフリカの諸国にも、深く根を張り、巨大な都市で沸騰し続けていると感じるのは、世界政治を想像する、だれもが共有した経験ではないでしょうか。

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イギリスの議会政治は、フランスのような革命や、ドイツのような独裁に頼らず、漸進的で、現実的な妥協を積み重ね、法と社会制度の改革に成功した、と称賛されていました。そういうイメージが広まっていると思います。

しかしブレグジットや、その後のボリス・ジョンソンが首相となった数年間の迷走は、これがイギリスというイメージからの逸脱ではなく、むしろ本質なのか? という驚きと恐れを世界に与えました。

The Economistの記事( Bagehot: Mad, bad and dangerous)は、そうだ、と書いています。1783-1846年のイギリスを扱う the Oxford History of England のタイトルが示すように、イギリス人とは「狂った、性悪の、危険な」人びとである、と。

フットボールの国際試合で、各国がイギリスからのフーリガンに特別な警戒態勢を取り、ときには国境を封鎖したことを私は思い出します。まるで、コロナウイルスのように。

なぜか? なぜ絶望して、憎しみ合い、紛争・対立し続ける人びとになったのか? 左派によれば、かつて階級政党が担った議会政治はその安定した論争のイデオロギー的基礎を失い、保守派によれば、資本主義が国民的な政治文化を破壊し、大衆とエリートとの乖離を際立たせた。

さらに、1冊の本( “Brexitland” )から、2つの視点を紹介しています。政治が階級ではなくアイデンティティーに依拠するとき、対立する集団が経済的な妥協点を見出すことはできなくなり、むしろ対立を過激化する政治家が「勝利」する。いわゆる、「部族主義」の政治です。さらに、メリトクラシー(能力主義)が社会組織の原理として広まった。人びとの地位や富を、その能力で説明し、過度に単純に結びつける。成功しなかった者は、システムに反撃するか、あるいは、自ら絶望する。

イギリスの分断の背後には、大学の急拡大がある、と言います。かつて人口の3%だった大学卒業者は、今や6倍にも増えた大学が量産している。人口の半分は大卒者で主要な都市に住み、他の半分は田舎に住んでいる。後者は議会やメディアが彼らの声を代表していない、と感じる。さらに、学校を中退した者は特に社会の周縁に追い込まれ、暴発しやすい。他方、大学教育を受けた者も、多くはだまされたと感じている。大学卒業はエリートへの入場許可証ではないし、債務と「プレカリアート」(不確実で、低賃金)の仕事が待っているだけだ。

ボルシェビキやナチが示すように、「過剰な教育と過小な高級職との組み合わせは、政治的な火薬庫である。」

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トランプが投票の半数を占める国とは、どんな国なのだろうか? 彼の計算された(?)暴言が刺激し続けたアメリカの分断は、ミシガン州知事の誘拐や庁舎爆破を計画した武装民兵たちとつながっています。

過激派を研究する歴史家は、これほど多くの武装集団がアメリカに現れたのをかつて観たことがない、と言います。「コロナウイルスのロックダウンを行った州に広がる怒り、失業の不安、人種的な正義や警察に対する抗議、政党政治の不快な紛糾、長期に及ぶ(ほとんど無視された)海外から戻った多くの退役軍人。」 それは「完璧なパラノイア(偏執症・妄想)の嵐」となっている。

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中国とロシアには、また異なる世界政治が広がっている、と実感します。The Economistによれば、「世界的規模の人権危機」が起きています。中国西域では、親を失った孤児たちが増えている。コーランよりも習近平思想を信じるように求め、子供たちに家の中での信仰や祈りについて問い、収容所で100万人規模のイスラム教徒を再教育するから。過激派を抑えるため、と政府は説明する。

破綻国家と権威主義、民主主義の関係は、巨大な長期のサイクル、地理的な拡大から崩壊へ、という、「帝国の循環」を想像させます。

バイデンのアメリカが、トランプのいないこの国を和解させるより、朝鮮戦争や台湾海峡の危機に立ち向かう意志を問われるかもしれません。

投票日前にオクトーバー・サプライズはなかったけれど、トランプの国に住み続ける武装集団が、たった一発の銃弾で、大統領の交代を強いるかもしれない、という恐怖を、アメリカ人は知っているはずです。

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