IPEの果樹園2020

今週のReview

10/26-31

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ブレグジットの政治支配 ・・・Amazon, Google, 司法省 ・・・US大統領選挙 ・・・トランプの政治アリーナ ・・・コロナウイルスと医療・社会 ・・・安全保障の同盟再編 ・・・気候変動に生きる ・・・財政緊縮の退場 ・・・バイデンの政策ミックス ・・・国家のエゴと世界戦略

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL International, VOX: VoxEU.orgそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ブレグジットの政治支配

The Guardian, Sun 18 Oct 2020

Boris Johnson is dancing with danger by threatening a crash-out Brexit

Andrew Rawnsley

ジョンソンは、イギリスがオーストラリアになることに準備せよ、と言う。しかし、その意味は、南半球に引っ越して陽光あふれるクリスマスを楽しむとか、海岸でバーベキューをするわけではない。むしろ彼は、COVID-19の冬をさらに暗くするような脅迫を楽しむ。

首相の周りに集まる、最も熱狂的なブレグジット推進派の人びとは、EUとの交渉が完全に失敗することになっても、まったく気にしていない。むしろ楽しんでいる。


 Amazon, Google, 司法省

The Guardian, Sun 18 Oct 2020

Europe and America are taking on the tech giants. Britain needs to join the fight

Will Hutton

独占資本主義、特に、データ独占資本主義に対抗するべきときが来た。COVID-19によって世界はますますオンラインで生活し、オンラインで働くようになっている。

もしバイデンが当選し、その公約を実行するなら、株主価値だけを追求するUS企業を変え、気候変動危機に対処し、労働組合の権利を強化するだろう。アメリカ経済はヨーロッパ化して、こうした改革を協調して進める。イギリスは傍観者として、この変化から取り残されるだろう。

過去10日間に、アメリカ下院調査委員会と、仏独政府の圧力を受けたEU委員会が、Apple, Google, Facebook and Amazonに挑戦し、分割する準備を始めた。US企業に対してEUが一方的にできることは限られている。ドナルド・トランプは、EUUS企業に対して影響を及ぼす野心に、激しい怒りをあらわにしてきた。

しかし、バイデン政権は、このダイナミズムを根本的に転換する。司法委員会で民主党議員が多数を占め、画期的な報告書につながった。共和党議員も、対策には署名しなかったが、その分析を受け入れた。それは数少ない超党派の合意である。

巨大ハイテク企業は、アメリカ社会に大きな利益をもたらしたが、過大な力を持ち、傲慢で、独占的になった。略奪者のように、法外な手数料を取り、価値のあるデータを抽出している。そして競争相手を追い出す。彼らの支配は、企業家精神を破壊し、アメリカ国民のオンラインにおけるプライバシーを劣化させ、自由な、多彩な新聞活動の活力を奪い去った。その結果、革新は失われ、消費者の選択肢は減り、民主主義が弱体化した。

Amazonは競争相手の企業にも、そのプラットフォームで同じアクセスを保証しているのか? Googleの検索におけるグローバルな支配は、どのような利益をもたらしているのか? 彼らは自分たちを、民主的な監視の及ばない、特別な存在と考えているのかもしれない。そういう疑問に、彼らは答えなかった。

EU委員会は抜本的な改革を提案している。プラットフォームは、隣接する事業部門を禁止される。すべての製品とサービスは、その供給元が何であれ、プラットフォームに平等なアクセスが保証される。コンピューターのシステムは相互に完全に「相互運用」を可能にする。新聞・報道関連グループは協力して、新しい法制度を運用する。それに従って、より公平な、略奪的でない条件で、ジャーナリストや広告の記事を利用できる。

こうしてアメリカとEUがデジタル資本主義の改革に進むとき、われわれは恐ろしい真実を知る。ブレグジットのイギリスはどこにも加わっていない。


 US大統領選挙

PS Oct 21, 2020

Is the Long-Awaited Constitutional Crisis at Hand?

ERIC POSNER

アメリカは「憲法システムの危機」に向かっているのか。トランプ大統領による数々の規範破り、特に、ロシアによる選挙介入に関してミューラー特別検察官を解任したこと、ジャーナリストや判事を非難すること、政治的反対派に対して検察捜査を求めることが、こうした危機を懸念させる。

憲法が定める諸制度の崩壊は始まっていない。しかし、危機は起きるだろう。それは、たとえトランプが敗北しても、危機は生じうる。アメリカ史において、裁判所と、人民に究極の権力を与える民主主義のシステムとの間に、緊張関係が存在するからだ。

2つの憲法システムの危機があった。どちらも、最高裁と、人民が支持する政府との間で起きた。第1のケースは、1857年のDred Scott v. Sandford裁判である。悪名高い判決で、最高裁はアフリカ系アメリカ人をアメリカ市民ではないと主張し、奴隷州と自由州とに分割する1820年のミズーリの妥協を憲法違反とした。それは北部と南部の対立を再燃させて、南北戦争に導いた。

2のケースは、1930年代に起きた。最高裁は、ニューディールの諸法令を大不況の非常事態に対処するものとみなして破棄した。1937年、F.D.ルーズベルトが圧倒的な支持を受けて勝利した後、ニューディールを支持する判事で最高裁を固める法律を提案した。法案は成立しなかったが、最高裁は立場を変えた。

現在のような政治的混乱が深まる中で、危機は以前のような対立を再現するだろう。すなわち、右派が最高裁を支配し、他方で、世論の支持を失うということだ。1980年代以来、保守派の判決が全国の経済規制を制約した。すなわち、銃を所持する個人の権利を認め、宗教の権利を強化し、政治献金に関する規制を翻し、人種的マイノリティに対する保護を弱め、妊娠中絶の権利を掘り崩した。

左派の不満は高まっていたが、近年、それは頂点に達していた。第1に、進歩的な議員が20年前に成立させたthe Affordable Care ActACA)「オバマケア」を、最高裁はかろうじて認めたが、下級の裁判所が脅かしてきた。最高裁はACAについてさらに反対する姿勢を強めるかもしれない。第2に、最高裁判事の指名に関して、2016年、大統領選挙が近いことを理由に、オバマ大統領の判事指名を拒んだ共和党が、選挙まで1カ月もないのに、トランプの指名したバレットの公聴会を一気に進めている。

最高裁の保守化と共和党への不信により、民主党側も「最高裁を包囲する」強硬策を取るかもしれない。バイデンは、この考え方を否定していない。すなわち、最高裁判事の数を9人から13人に増やし、リベラルの改革案を支持する判事を新しく指名して、バランスを回復するというものだ。

国民の強い支持を得ていたルーズベルトでさえ、包囲案を撤回した。バイデンは、左派の支持を失うことを恐れている。しかし、包囲案では民主党穏健派の支持を失い、政治的分断と最高裁への国民の不信を増す。他方、包囲案を拒めば、バイデンは政治力を失うかもしれない。

バレット新判事が最高裁を保守化することは、「憲法システムの危機」につながる。

FT October 22, 2020

The case for re-electing Donald Trump

Edward Luce

もしドナルド・トランプの再選を支持する理由を探すなら、それは外交政策の成果である。トランプは約束を守った、というだろう。新しい戦争を始めなかった。アフガニスタンと中東から米軍を引き上げた。アメリカの同盟諸国が、アメリカ抜きに、安全保障を負担するよう強いた。中国との対決を明確にした。

NATOの約束に従って、モンテネグロが攻撃されたらアメリカも戦争に参加するのか? アフガニスタンから米軍を引き上げても、ヒトラーへの宥和政策と同じではない。メルケルが防衛の負担を増やすのは、トランプが暴言を吐いたからだ。

こうしたトランプの言動は、ワシントンの外交専門家たちが憤慨しても、アメリカ中西部の有権者と共感するものだった。


 トランプの政治アリーナ

NYT Oct. 16, 2020

THE RADICALIZER IN CHIEF

BY JESSE WEGMAN

テロ、陰謀、武器の違法所持で、13人の男たちが逮捕された。そのうち6人は、ミシガン州知事のGretchen Whitmerを誘拐する計画を立てていた。彼女は、パンデミックの初期に都市をシャットダウンした他の知事たちと同様に、憤慨を買ったのだ。

その決断は多くの人の命を救ったはずだ。しかし、逮捕された男たちは、他のシャットダウン反対同盟の人々とともに州都に集まって、彼女を独裁者とよんでいた。

抗議が拡大する中で、トランプ大統領は、コロナウイルスの感染が拡大する困難の状況で苦労する知事たちを支援するより、「ミシガンを解放せよ!」とツイートした。彼のツイートは、民主党知事の各州を、憲法修正第2条の「占領下」という条件にあると想像させた。あたかもトランプは、彼が反政府暴動を指導する先頭に立つ、とみなしたのだ。

逮捕事件の後、Whitmer知事は語った。「ヘイト集団は、トランプの言葉を非難ではなく、彼らを声援するものとみなした。行動への呼びかけである、と。」

その後もトランプは、暴力的な煽動を非難することを拒んだ。そして、Whitmerは「ミシガンの独裁者になりたいのだ。民衆はそれに立ちふさがった。」と述べた。

大統領は、ホワイトハウスから国民に規範を示す立場にある。大統領が、身体障碍者をからかうのはOKだ、人種差別も、女性蔑視もOKだ、と言えば、それらは社会に蔓延するだろう。こうした事件が起きるのは当然だ。

トランプは敵を侮辱するでなく、邪悪な存在として、人間ではないと主張する。彼の攻撃は、そのような人びとを暴力の標的にする。

20158月、トランプは大統領の会見でメキシコ移民を「強姦魔」とよんで2カ月もたたないとき、2人のボストンの男たちがホームレスを金属棒で殴打し、小便をかけた。警察官によれば、「ドナルド・トランプは正しい」と彼らは言った。「非合法移民はすべて国外追放にするべきだ。」


 コロナウイルスと医療・社会

NYT Oct. 19, 2020

What Fans of ‘Herd Immunity’ Don’t Tell You

By John M. Barry

人びとは、自分が聞きたいことしか聞かない。

信頼される科学者たちがウイルス対策の転換を求める宣言“Great Barrington Declaration”を出した。集団免疫を実現する、と言う。十分に多くの人々が免疫を獲得することで感染は止まる。高リスクの人々に、より良い保護を与える。

こうした科学者は明らかに少数派である。ほとんどの医療関係者は、これが実行できないし、倫理に反する、と考えている。William Haseltineは「大量殺人だ」と非難した。

感染を抑える規制が多くの痛みを生じているのは確かだ。経済へのストレス、家庭内暴力、薬物の濫用、がん検診の減少。それゆえ、正常への回帰というアイデアは魅力的である。

その誘惑を受ける前に、宣言が触れない3つの省略を知るべきだ。第1に、低リスクの人々にも有害な影響があり、それは数年を経て明らかになる。まったく兆候の無い人でも、心臓や肺にダメージが現れる。

2に、宣言は高リスクの人々にどのような保護を与えるのか、示さない。高齢者と同居している家族。25歳の糖尿病患者。癌の既往症。肥満。彼らも毎日仕事に行く。

3に、集団免疫の達成までに、どれほど多くの人がこの政策によって死ぬか。ホワイトハウスが使っている予測モデルで、現在の規制でも、21日までに415000人が死ぬ。集団免疫のために規制が緩和されると、571000人を超える。そして21日を過ぎて、もっと増えていく。

それでも集団免疫は達成されないだろう。21日までに、私の予測ではまだ人口の25%しか感染していない。

40%の人口が免疫を得て集団免疫が達成されるとした場合でも、アメリカ人の死者数は80万人だ。おそらく100万人を超える。その後に現れる症状も含めて、恐ろしい代償である。

集団免疫の支持者はスウェーデンを例に挙げる。スウェーデンはそのような戦略を否定するが、経済活動や学校を閉鎖しなかった。隣接するデンマークとノルウェーは閉鎖を実施した。スウェーデンの死者数はデンマークの5倍、ノルウェーの11倍だ。多くの死者で、経済が繁栄したのか? 第2四半期のGDPの落ち込みで見ると、スウェーデン8.3%、デンマーク6.8%、ノルウェー5.1%であった。

代替策はあるのか? 公共医療の専門家が何か月も要求してきたように、ソーシャル・ディスタンシング、集団を避ける、マスクをつけ、手を洗い、感染経路を追跡する。自宅で隔離することや休業を求められた場合、必要な期間、必要な額の支援を行う。


 安全保障の同盟再編

FP OCTOBER 19, 2020

America Needs To Talk About a China Reset

BY ROBERT D. KAPLAN

トランプも、バイデンも、中国のことを明確に議論しない。バイデンはトランプの中国政策を効果がなかったと言うが、自分はもっと強く要求する、と言う。

米中関係の見直しは、平和や善意をもたらすことや、米中冷戦の終わり、を意味しない。両国が多くの問題木基本的に異なるのは明らかだ。南シナ海、通商政策、イデオロギー。簡単な解決策はない。しかし、偶発的な軍事衝突を避けるためのルールが必要だ。あるいは、グローバルな平和と繁栄を脅かすサイバー空間の戦争を避けるべきだ。

この4年間で、米中関係は悪化しただけでなく、劇的に、機能しなくなり、感情的になった。このような状態を続けることは危険すぎる。

キューバ・ミサイル危機が米ソ両国に示したのは、核戦争が現実に起きる、ということだ。どちらも再発を望まなかった。それゆえ、核兵器やその他の軍事力に関する制限条約を結んだ。指導者間で話し合うホットラインを結んだ。超大国間でサミットを繰り返した。

1962年の後も、冷戦や基本問題での対立は終わらなかったが、多くのパラメーターや道路規則ができた。冷戦は危険さを減らしたのだ。それゆえ、次期政権は中国の指導部と落ち着いて話し合うべきだ。規則的なサミットを繰り返し、官僚たちが諸問題領域で進展具合をチェックする。サイバー戦争にも上限を設けるべきだろう。紛争海域での航海にもルールを作る。相手が事前に知らない形で、急激に行動するのを抑制すると、双方が約束し、それを守ることは重要だ。


 気候変動に生きる

FP OCTOBER 17, 2020

Welcome to the Final Battle for the Climate

BY ADAM TOOZE

中国の習近平主席が2060年までに炭素排出量をゼロにすると一方的に宣言して、西側は驚いた。世界の脱炭素化に向けた地政学とビジネスのバランスが、旧工業諸国や西側の秩序を超えて、大きく転換し始めた。

中国の宣言は、単なる外交戦術ではない。共産党指導部は、国内の中産階級が環境意識を高める中で、次の100年をかけて、気候変動を真剣に対処すべき問題だと考えている。西側が中国の姿勢を時代錯誤の東西対立で観ているのは間違いだ。中国は国際秩序のゲームを転換する役割を担うだろう。

1980年代、1990年代、その後、超大国間の取引は重要な意味を失ってきた。脱炭素化には、新興市場が重要な意味を持ち、アメリカの関与も欠かせない。それにふさわしい国際機関は、脱炭素で利潤を上げるビジネスモデルに向かう巨大企業とともに、主要国を包摂しなければならない。

ブレトンウッズ会議を見習って、ラテンアメリカ野債務危機、アジア通貨・金融危機で、G20が誕生した。2008年の金融危機では、19世紀風の「大国間協調」が批判された。気候変動と脱炭素化に向けて、中国とEUが協力するだろう。それは新興諸国や途上諸国のインフラ投資を支援する、グリーン「一帯一路」戦略だ。もちろん、グローバルな炭素価格、炭素税と国境における調整、さまざまな規制がそれを促す。

巨大な機関投資家も、持続可能な開発目標、脱炭素化に向けた資本を供給することで、中国と合意する。アメリカの冷戦と石油をめぐる中東支配に依拠する覇権体制は、1973年の危機で問題を意識した。化石燃料による工業主義は終わった。中国とEUがアンカーだ。


 財政緊縮の退場

FT October 17, 2020

Global economy: the week that austerity was officially buried

Chris Giles in London

それは緊縮論の葬儀であった。1970年代、80年代、債務危機とインフレーションの中で成立してから長期の正統を維持した財政緊縮論が破棄された。積極財政の復活だ。

IMF・世銀総会が、ワシントンと世界の主要な金融・財政の幹部とを結ぶヴァーチャル会議で行われた。世銀の新しい主任エコノミストとなったCarmen Reinhartラインハートは、かつて財政緊縮を唱える指導的な研究を出版した。

しかし、彼女も、IMFも、今は違う。金融市場にアクセスできるすべての国が、緊縮のことは後回しで、債券を発行して支出せよ、と命じている。

財政の正統派は、1950年代、60年代のブームの後に成立した。景気循環を効果的に緩和するために、税金や政府支出を増減させることは、ほとんどの政治システムにとって困難であった。金融政策が、理想的には政治から独立した中央銀行が、それをやるべきだ、と。しかも、財政政策は長期の安定性をめざすことが良いとされた。

なぜ思考がこれほど激しく逆転したのか? その理由は3つだ。過去10年間の厳しい経験、状況の変化、政治圧力。

2010年代はすべての経済が苦しんだ。主要な経済圏が、賃金を上げるような、インフレが起きる条件を達成できなかった。先進経済においては、政府の借り入れコストが、借入期間のすべてで、ゼロかマイナスになった。それが続くと予想される。

2010年代の厳しい経験を経て、もはやだれも緊縮策を支持していない。新しい経済学を望んでいる。緊縮策こそが、ある意味で、ドナルド・トランプやボリス・ジョンソンのようなポピュリスト政治家への支持を高めたのだ。指導的なエコノミストたちが積極財政論を唱えている。

しかし、富裕な、高齢化する経済では、将来、財政が逼迫するだろう。もし政府の借り入れコストが高まって、高齢化の問題とぶつかれば、緊縮論がよみがえるかもしれない。


 バイデンの政策ミックス

FP OCTOBER 19, 2020

Team Biden Should Start With an Asia Pivot 2.0

BY JAMES CRABTREE

オーストラリア、インド、日本、アメリカの外相が東京で会談を持った。画期的なことだ。しかし、アメリカの中国封じ込めにとってはジレンマを意味する。

中国外相は、Quadクアッドを、北京に羽風を送る、と認め、地政学的競争における「インド太平洋版NATO」を築くものと批判した。しかし、クアッドはNATOに大きく劣り、テロ対策、サイバー・セキュリティ、沿岸警備のような問題を扱うにすぎない。

従来は中国との対立を避けてきたインドの姿勢が変わった。ヒマラヤでインド軍と中国軍とが衝突したことで、ニューデリーの外交バランスが反中国に変化したからだ。クアッドは、中国の攻撃的な姿勢に対する協調として生まれた。将来、中国の行動がそれを加速するかもしれない。

アメリカのジレンマは、すべての参加諸国がインド太平洋の未来を中国が決めることに反対であるが、何をすべきか、という点で合意がないことに始まる。最近、元通商代表、外交官のRobert Zoellickゼーリックは、アジア諸国の広い範囲で、より深い関係を築くような経済目標をアメリカは何も示していない、と批判した。

トランプ政権は中国を恐れ、中国の戦略をまねて、アメリカの強さを忘れている。それは、公平な、法の支配に基づく、革新と競争に富む市場である。

アジアにおける中国海軍の拡大は顕著であり、将来も続くだろう。誰が大統領になっても、アメリカは軍事力を再構築するべきだ。しかし、COVID-19後の経済に追加の軍事予算はむつかしい。ワシントンは異なる軍事的関係をパートナーたちと築く必要がある。

反中国の外交が軍事力をアメリカに大きく依存するなら、アメリカは「アジアの傭兵」となってしまう。同盟諸国やパートナーは、中国の軍事力とバランスを取るためにアメリカを求めているだけだ。他方で、アジアの経済・政治問題を解決するのはアメリカではなく、中国だろう。ヨーロッパでNATOが効果的な均衡を生み出せたのは、軍事力だけでなく、非軍事的な紐帯、目標、諸価値を反映した信頼関係があったからだ。

オバマは2011年に「アジア旋回」を提唱し、批判された。しかし、アジアにより大きな軍事力を常駐させ、伝統的な同盟諸国との関係を修復し、より深い経済協力を築くというのは、正しい構想であった。バイデンが大統領になれば、アジア旋回Uの提唱から始めるべきだ。


 国家のエゴと世界戦略

FT October 19, 2020

Brexit Britain adopts the Microsoft model

Robert Shrimsley

大きすぎるエゴを持つ国民が中規模国家として生きるには、どうすればよいのか?

EUを離脱したイギリスは、それでもNATO、国連安保理、G7に席を占め、重要な役割を担っている。ブレグジット最強硬派には2つの信念がある。すなわち、UKは特別な国だ。ブレグジットは停滞する経済へのショック療法である。

かつての大帝国が、新興の諸大国によって退けられたが、再興に向かう道を見出す。それは、国家ではなく、企業の話だ。アップルとグーグルに圧倒されたマイクロソフトが、デスクトップを支配するという間違った戦略を捨てて、顧客の中でサービス提供を確立した。ブレグジット後のイギリスは、マイクロソフトをモデルにする。

マイクロソフトと契約すれば、OfficeTeams、クラウド・サービスなどを得られるように、UKに進出する企業は、世界秩序の頂点と法、教育サービス、フィンテックを得られる。

貿易において、海に囲まれたUKは戦車の大軍を恐れる必要がない。軽武装で十分だ。自由貿易とルールに依拠した秩序を支持する。G7にインド・韓国・オーストラリアを加えて、G10にすることを望む。CPTPPJapan, Australia, Canada, Mexico, Chile and Vietnam)への参加で、拡大する貿易圏を得るだろう。

しかし、アジア市場を狙うのは正しいが、ファーウェイの制裁に加わって中国との関係を損なった。ドーバー海峡をあてにして、ドイツのE3安保という呼びかけに応えないのも間違いだ。

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The Economist October 3rd 2020

Germany: Growing up at last

China’s countryside: Mass destruction

Joe Biden’s economic plans: The pragmatist

Consolidating villages: On Harmony Road

Bello: The missing local klinks

Race: Not black and white

Virtual realities: Reaching into other worlds

Reunified Germany, 30 years on: Waking Europe’s sleeping giant

(コメント) バイデンの経済政策が何を含むのか、特集記事が論じています。しかし、私が興味を持ったのは、中国の農村破壊(人口が減少した農村を破壊して農地に転換し、住民は近代的なアパートへ)と、人種問題の解決策(黒人と男性とが結婚して、混血の子供たちが増える)です。どちらもかなり乱暴な解決の仕方ですが、決して無視できない問題です。

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IPEの想像力 10/26/20

人口の減った中国の農村がブルドーザーで破壊され、政府は土地を平たんにならす。住民たちは新しい町に移住します。そこには、近代的な街並みと、新しい設備が配置され、小さな畑も与えられる、という話をTVで観たことがあります。

The Economistの記事でも、生活の大幅な改善だ、と市長が自慢します。もとは大人たちが都市に出稼ぎへ行って、農村が崩壊したのだとしても。14億の人口と農地の不足を心配する政府にとって、これは不退転の政策です。そして、それが開発業者に販売する地方政府の財源や賄賂をもたらすのは、当然です。

特に、老人たちが負う心の傷が無視されているのではないか。そういう批判が現れます。同時に、本当に開発業者に転売して、ぼろ儲けができるのか。地方政府は売れないアパートをかかえて苦しむかもしれません。

読者は、垂直農場や、折り畳み式北京を、この話から思い出すかもしれません。

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他の記事の始まりは、かつて社会的平等を願ったイギリスの左派的な作家(あるいは、リベラルな理想主義者)、ジョージ・バーバード・ショーです。彼は、それを実現する最善の策は「社会全体が(人種間、黒人と白人の)結婚できる状態に保つこと」である、と考えた。(拙著『グローバリゼーションを生きる』の35ページも参照)

この記事は、イギリス社会に混血の人々が増えていることを紹介します。混血市民 “a mixed-race citizen” もしくは混成異文化国民 “Britons who say they have a mixed-ethnic background” とよびます。2001年と2011年の間に倍増し、120万人、人口の2%に達しました。奴隷貿易商人の銅像をBLMの抗議デモで群衆が倒したブリストルの市長もそうです。

しかし記事の要点は、混成異文化の市民たちが、大英帝国や白人の特権に反対でも、過激な主張を嫌うことです。彼らは、自分たちの両方の伝統や歴史に親しみと誇りを感じるから。1つのアイデンティティーを強いられることを嫌うから。アイデンティティーは変化し、それを人為的に政治が利用する姿勢に反対します。

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難民危機、文化戦争、格差と差別、アイデンティティー政治、国民投票・大統領選挙によって生じる分断で、絶滅の危機に瀕する「民主主義」を救出するには、互いの経験を共有すること、共感する能力を高めることが重要です。

The Economistは、技術に関する特集記事が載る週でした。ヴァーチャル・リアリティー(VR、仮想現実)です。ビデオ・ゲーム産業が核となって、音楽や映画、そしてコロナウイルスによる学校閉鎖、自宅待機、リモートワークなどで、現実の世界から仮想現実の世界が膨張する時代は、おそらく、現実を変えるほどの衝撃を生む水準になったのです。

その内容は飛ばし読みでしたが、私たちが戦争や貧困、病気に苦しみ、社会的差別や政治的分断に翻弄される状況を、なるほど、VRが結びつけるかもしれないな、と思いました。

その部屋に入るとき、あなたはAIに訊かれるでしょう。・・・「どの世界を築きましょうか?」 ・・・「誰の姿で生きますか?」 ・・・「では、あなたの運命を選んでください。」

ただし、1度自分で選ぶためには、他の3つの人生をランダムに経験しなければなりません。その選択肢を決めるのは、コミュニティーの平等と政治的な和解を推進する委員会です。

1.小さな民主主義で議論を尽くす。2.投票や選挙を最終決定・答とみなすのではなく、議会の論戦を重視する。そして、3.ヴァーチャル・リアリティーで異なる人生を経験する。

中国の政府官僚は、年老いた農婦の気持ちがわからず、ドナルド・トランプは、メキシコ国境で親から引き離される子供の悲しみを理解できない。もし日本でも、日本と韓国の混成異文化MEB人が国民の10%、日本と中国のMEB人が人口の10%、その他のMEB人が5%を占める時代には、差別的姿勢を誇示する政治家やイデオローグが、テレビで自説を流すことはないでしょう。

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