IPEの果樹園2020

今週のReview

10/5-10

***************************** 

ハイテク大企業とアメリカ社会 ・・・アメリカ国家の崩壊 ・・・ドルの急激な衰退 ・・・右派のポピュリストに対抗せよ ・・・ミダス王ではなく、税金回避常習者 ・・・バイデンの経済政策 ・・・世界の資本家と社会主義者の団結 ・・・資本移動が歪めた世界経済

[長いReview

****************************** 

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ハイテク大企業とアメリカ社会

FP SEPTEMBER 24, 2020

Make Surveillance Capitalists Pay Their Dues

BY BHASKAR CHAKRAVORTI

反トラスト運動の歴史は、解決策のヒントを示している。1956年、ベルは司法省と合意し、電話の独占を7年間維持するが、すべての特許を公開し、他の企業が利用できるようにした。トランジスターや太陽電池、レーザーの技術も含まれた。IBMの反トラスト訴訟は13年続いたが、分割されなかった。その代わり、IBMはハードウェアとソフトウェアを別々に価格付けて販売した。その結果、ソフトウェアの新企業が、後にMicrosoftになった。1998年から2001年、Microsoftが反トラストの対象になった。和解の一部は、Microsoftが競争企業の製品に互換性を保証する、ということであった。

今回も、こうした方法を参考に、アメリカ社会のデジタルギャップを解消することにハイテク大企業を活用するべきだろう。

FT September 27, 2020

Concentrated power in Big Tech harms the US

Rana Foroohar

この数年間で最も重要な経済問題は2つある。米中関係はどうなるか? 国家は大企業の独占力を管理できるか?

過去30年間で世界経済の最大の勝者は、中国と大企業であった、とUNCTADの研究は示した。

問題はトランプ大統領の矛盾した通商政策でも、中国でもなく、企業の集中である。それがアメリカ経済の活力を過去30年間に奪ってきたのだ。

司法省(DoJ)は、ついにこの問題に手を付ける。Googleサーチの独占を扱う。しかし、司法省は消費者にとっての価格を問うだけでは不十分だ。

デジタル取引は、価格ではなく、データによって評価される。GoogleFacebookはアルゴリズムへのアクセスを通じて支配する。このビジネス・モデルでは、異なる消費者に対して異なる価格を請求する。それは物理的な商店でも、航空旅客のようなサービスでも、違法である。

US法廷は、より複雑で、本質的な問題を扱うべきだ。それは大企業がわれわれの政治経済を支配する、という問題だ。

ジャーナリストのBarry Lynnは、その新著Liberty from All Mastersで、アメリカ史を大企業との闘いと観た。われわれに必要なことは、中国との闘いでも、資本と労働のバランスを変えるグリーン・ニュー・ディールでもない。アメリカ独立革命を動かした大企業の支配に対する疑念に立ち返ることだ。ボストン茶会事件は、課税に反対するだけでなく、植民地の通称を支配する東インド会社に反対する革命だった。

故ブランダイス最高裁判事は、鉄道などの寡占体制と闘った。運賃が高すぎるからではなく、大企業があまりにも大きな政治力を持ち、経済の大部分を支配すると、諸個人の仕事や競争がその条件を支配されるから、強く憂慮したのだ。

COVID-19の危機が続いて財政支援が枯渇すれば、観たこともないような中小企業の淘汰が始まるだろう。しかし、中小企業こそがアメリカ人の雇用の多数を創ってきた。ハイテク大企業(Amazon, Apple, Facebook, and Google)はS&P500の価値のほぼ4分の1を占めるが、雇用はアメリカ経済に比してわずかである。司法省が広い見地から判断することを望む。


 アメリカ国家の崩壊

The Guardian, Fri 25 Sep 2020

Donald Trump's plot against democracy could break America apart

Jonathan Freedland

アメリカの民主主義がバランスを失い、アメリカという国そのものが崩壊することもありえるのか?

今週、ドナルド・トランプは質問された。「選挙で敗北した場合、政権の平和的な移行に従うのか?」 彼の答えは、「さあ、どうかな。何が起きるか観てみよう。」

「平和で公平な選挙」なら、大統領はその結果を受け入れる、とホワイトハウスは説明した。しかし結局、トランプは繰り返し述べたのだ。もしバイデンが勝利したら、それは投票を「操作した」ということだ、と。

共和党はすでに、投票条件をゆがめてトランプが勝利するように全力を挙げている。選挙人名簿から民主党の支持者を追放し、郵便局を減らして、郵便投票が期限に到着しないように画策する。

それはまるで、ベラルーシのルカシェンコが演出した不正選挙のようだ。しかし、最高裁がそんなことを許さないだろう。しかし、まさにトランプと共和党は、最高裁にできた空席を、最速で埋めるために動いた。

アメリカの進歩派は、もし共和党諸州がトランプを強引に再任した場合、何をするだろうか? 民主党の諸州は、ますます連邦政府と異なる道を進むだろう。ニューヨーク州のクオモ知事は、連邦政府が承認するワクチンを、自州の専門家たちが検査するまで使用しない、と発表した。

南北戦争の前に、連邦政府の決定を州が無効にする権利を主張した。かつて分離独立を叫ぶ南部、人種差別主義者の主張であったが、今や、それがリベラル派の武器になるかもしれない。

Andrei Amalrik1970年にWill the Soviet Union Survive Until 1984?というエッセーを書いたが、バカにされた。しかし、数年遅れて、ソ連は崩壊した。アメリカも歴史の例外ではない。

FT September 28, 2020

America’s history war looms over the presidential election

Gideon Rachman

アメリカ建国は1776年か、1619年か? これは試験問題のようだが、そうではない。2020年大統領選挙の争点だ。

今月の初めに、ドナルド・トランプは「1776年委員会」を設置して「愛国教育を復活する」と約束した。そして、アメリカを「邪悪な、人種差別主義の国だ」と色づけるいかなる企てにも対抗する、と。アメリカ大統領は明らかに、1619年プロジェクトを標的にしたのだ。それはthe New York Timesが発表した一連の記事で、奴隷にされた最初のアフリカ人がヴァージニア植民地に着いた年にちなむ、非常に論争的な企画である。

オバマのアプローチは人道的で、アメリカ史の1619年が示す暗黒面と、1776年の高揚とを、微妙なやり方で和解させた。残念だが、人道的な、微妙な和解は、トランプ時代に通用する言葉ではない。

これは単なる文化戦争の1つではない。アメリカ合衆国の本質、政治権力の本質をめぐる論争だ。ジョージ・オーウェルは彼のディストピア小説『1984年』に書いた。・・・「過去を支配する者は未来を支配する。現在を支配する者が、過去を支配するのだ。」


 ドルの急激な衰退

PS Sep 25, 2020

The Vise Tightens on the Dollar

STEPHEN S. ROACH

USドルが急速な衰退期に入った。8月までの4か月間で、その実質実効為替レートが4.3%も下落したのだ。

これは3つの要因で考えるべきだ。1.アメリカ経済のマクロバランスが急速に悪化している。2.ユーロと人民元がドルに代わる選択肢として重要になっている。3.アメリカ例外主義の特別なオーラが消えて、第2次世界大戦後のUSドルにあった回復力は消滅する。

1の要因は、かつてない貯蓄率の低下と、経常収支赤字の増大である。COVID-19の影響が顕著である。一時的な個人貯蓄率の上昇と、それを超える財政赤字の増大があった。

経常収支赤字の増大も、同様に、凶暴な姿で現れた。2020年第1四半期に現れたGDP比で2.1%の経常赤字に対して、第2四半期も1.4%拡大したことは記録的なもので、これほどの赤字拡大は1960年にまでさかのぼる。

国内貯蓄の崩壊と経済赤字の拡大が、稲妻のようなスピードで拡大している。しかし、それだけではない。連銀の金融政策が変化したことも新しい重要な要素である。連銀は、従来考えていた以上に、ゼロ金利が続くだろう、それは2%のインフレ目標を一時的に超えることがあっても維持される、と述べた。

それがドル安を加速したのだ。連銀はインフレを抑えるよりも、株式や債券市場を支えるだろう。ドル安は始まったばかりだ。


 右派のポピュリストに対抗せよ

PS Sep 25, 2020

Democrats Must Finally Play Hardball

JAN-WERNER MUELLER

世界中で、右派のポピュリストたちが民主主と法の支配を空洞化している。

20世紀の独裁者たちと違って、現代の独裁体制を望む者たちは、彼らが破壊している民主主義の制度的外観を維持しようとする。そのことが反対派の諸政党にとってジレンマとなる。反対派はポピュリストたちが操作する民主主義的ゲームのルールに従って闘うべきか? あるいは、自分たちのルールを決めて、リベラル・デモクラシーの真の破壊者である、という非難を受けるべきか?

民主主義の規範を破ることは、通常、単に民主主義の崩壊を加速する、と考える。しかし、特別な状況においては、立憲的な挑戦を行うことがふさわしい。独裁者の立法家たちが法を利用して民主主義の精神を破壊するなら、反対派たちはその反対のことをするべきだ。

たとえばアメリカで、共和党が非対称的な行動(民主党は民主的原則を守るが、彼らは無視する)から有利にふるまっている。共和党が権力を獲得し、保持するために、何でもしてよいと考えるなら、民主党も行動の限界を破るべきだ。民主党がそれを確信するときだけ、共和党は行動を変えるだろう。

現在の共和党は、民主党を敵視するだけでなく、民主主義と敵対する。彼らは独裁者の指導に従う。共和党は多数からの支持を得ることを考えないから、上院や裁判所のように、多数派に従わない機関を利用する。非白人と投票を妨害することも厭わない。

共和党が数週間で最高裁判事を決めようとするなら、民主党は上院や裁判所に反対しなければならない。権力を取り戻すために最高裁判事を増やすことも必要だ。こうした手段は、完全に、民主主義の諸原理を反映している。有権者の権利を守るために、平等と自由の名において、正当化されるべきだ。


 バイデンのナショナリズム・カード

FP SEPTEMBER 25, 2020

Biden Needs to Play the Nationalism Card Right Now

BY STEPHEN M. WALT

トランプの失政と無能さは甚だしい。しかし、選挙人制度の下で、トランプが当選するかもしれない。人によっては、トランプの発信力に、バイデンは到底太刀打ちできない、と考えている。しかし、私は違う。民主党が無視している、トランプの重要な資産を奪うことができる。それは、ナショナリズムのパワーだ。

ナショナリズムを消滅するパワーとみなすエリートたちがいた。内外の政治に悪質な要因でしかない、と考えた。しかし、それは間違いだった。ナショナリズムは今も最も強力な政治イデオロギーである。アメリカ合衆国は、ナショナリズムなしには生き延びることができない。バイデンは、世界の舞台での「パートナーシップ」や「指導力」について多く語るべきではない。もっと愛国心や国民の統一を語るべきだ。虹の連合を示すよりも、国旗を体に巻いて、それらが相互に強め合う目標であることを示すべきだ。

トランプに対する決定的な勝利を収めるためには、バイデンがナショナリズム・カードを切るべきだ。


 アメリカ大統領選挙TV討論

The Guardian, Wed 30 Sep 2020

Trump heckled, bullied and lied through the debate. It won't help him beat Biden

Richard Wolffe

45代大統領は、彼がこの4年間にしてきたように、これ以上ないほど、大統領らしくない振る舞いに終始した。

彼はやじり、嫌がらせ、大声を上げ、嘘をついた。彼の立場は揺れ続け、拳を下した場所も気にしない。なんでもけなした。

バイデンはトランプの最初の攻撃に対処できないようだった。トランプは彼を無視して話し続けた。

民主党員たちが、バイデンによってトランプが追いつめられることを期待していたなら、失望しただろう。

討論の戦術として、トランプがしゃべり続けることは会話を支配した。

「大統領、やめてください。」 Fox News Chris Wallaceは言った。それはテキサスのハイウェーの真ん中にいるアルマジロみたいだった。


 ミダス王ではなく、税金回避常習者

NYT Sept. 28, 2020

Trump’s Debt, His Future and Ours

By Paul Krugman

トランプ時代の他の多くの暴露がそうであるように、彼の納税額は「ショッキングだが、驚くことではない」という反応だ。トランプがまったく、あるいは、わずかな税金しか払わないこと、聡明なビジネスマンであるという自慢は虚構でしかないこと、巨額の債務にまみれていることが、確認された。

それはアメリカの将来にとってどういう意味があるのか?

多くの人にとって、「750ドル」というのは、「本当かよ?」である。収支を合わせるために苦労している何千万人ものアメリカ人にとって、トランプの納税額が彼らより少ない、というのでは憤慨する。

トランプが注意深く作り上げた、大成功したビジネスマンのイメージも、まさにフェイクニュースだった。これは有権者にとって重要だ。彼らはしばしば、有能なビジネスの指導者が国を率いるべきだ、と考えている。

しかし彼はそんなものじゃない。テレビのショーを除いては。大統領になって、あらゆる面で失敗した。外交、インフラ、貿易戦争、パンデミック。トランプはミダス王(触れるものすべてを黄金に変える)の反対だ。

トランプは巨額の個人的な債務を負う。資金繰りに苦しむ人物が公職に就くことは、常に、警戒すべき問題だ。それは汚職の始まりになるからだ。

司法システムの執行を担う責任者が、国家安全保障を担うべき司令官が、債務にまみれている、というのは恐ろしい。企業の財務に詳しい専門家なら、債務が大きくなって倒産するほどなら、破壊的な動機が生じる、と言うだろう。債権者に請求される前に、できるだけ資産をはぎ取る。たとえ勝ち目がなくても、巨大なリスクを冒す。失敗しても、債権者の損でしかない。

しかしトランプの場合は、ビジネスだけでなく、アメリカ合衆国を経営している。


 バイデンの経済政策

PS Sep 29, 2020

Why Biden Is Better Than Trump for the Economy

NOURIEL ROUBINI

アメリカ経済の運営について、民主党より共和党が優れている、という神話は長く広まっていた。しかし、それには全く根拠がない。民主党の大統領任期は、共和党の期間に比べて、より高い成長、より低い失業率、そして大きな株価上昇を示した。

実際、アメリカの不況のほとんどは共和党の政権下で起きた。1970, 1980-82, 1990, 2001, 2008-09, そして2020年の不況は、ホワイトハウスに共和党の大統領がいた時期だ。

トランプはポピュリストとして選挙運動を行ったが、プルートクラット(超富裕層の政治支配)になることを願い、それゆえ、プルート・ポピュリストであった。まさにそのように政府を動かした。彼の経済政策は労働者にとって悲惨なもので、アメリカの長期の経済競争力を損なった。アメリカ人の職場を回復するため、という彼の通商政策と移民政策は、その逆の効果を持った。

白人ブルーカラーの不安定な労働者に多い「絶望死」は、彼の大統領執務期間に減少しなかった。2019年、薬物の過剰投与による死者数は7万人を超え、「アメリカの殺戮」は続いている。アメリカ人が将来の高付加価値の職場を必要とするなら、自己破滅的な保護主義や排外主義を唱えるより、労働者たちの再訓練をするべきだ。


 香港の民主派

NYT Oct. 1, 2020

Give Hong Kong the Autonomy It Was Promised

By Nathan Law Kwun Chung

香港の若者たちは孤立を感じている。社会的なつながりを失い、政府の白色テロに脅かされているからだ。630日に導入された国家安全法は、半自治的な香港で、民主派の抗議活動が続くことに応じて、あいまいな定義による告発を行うものだ。

ほとんどの人は、ネット上でも、政治的見解を表明することを控えるようになった。北京は民主派が公職に立候補することをやめさせる。目に見えない自己検閲が膨れ上がる。こうした抑圧状態はパンデミックを理由に一層強化された。

自由、民主主義、人権、法の支配。これらは過去において香港の繁栄の基礎であったし、将来のグローバル・シティという地位に欠かせないものだ。根本的な構造改革だけが香港を救済できる。反対派には統治能力がないのではなく、その機会がないだけだ。


 世界の資本家と社会主義者の団結

PS Oct 1, 2020

Capitalists and Socialists of the World, Unite!

HAROLD JAMES

世界で最もダイナミックな経済を統治するのは共産党である。他方、以前は資本主義世界の牙城であった国は、ビジネスを6度も破産させた男が失政を重ねている。指導的な政治イデオロギーはますます一貫性を失い、そのラベルは何も意味していないようだ。

トランプと共和党は「社会主義革命」を阻止すると言い、ジョー・バイデンは、そんなこと言っていない、「株主資本主義の時代を終わりにする」と言う。いずれにせよ、資本主義と社会主義の問題が再び世論を動かし、有権者からの支持を得る焦点になっている。

しかし、以前と違って、資本主義を擁護する標準的な主張は、知的、政治的に弱まっている。アメリカのビジネス・ラウンドテーブルの声明は根本的な資本主義改革を求め、ダヴォスのワールド・エコノミック・フォーラムを創設したクラウス・シュワブは、ネオリベラリズムや市場原理主義を批判した。

現在のイデオロギー的混乱は新技術による混乱と関係が深い。デジタル化、情報・通信技術(ICT)の拡散は、集中と分散についての既存思想を崩壊させた。伝統的に、資本主義の擁護論はシステムの回復を確実にする手段として分散化を支持した。間違った決定は市場で清算され、学習・適応を促す。市場システムは安定的で、しかも、自己修正ができる。

しかし、重力の無い、「規模の経済」が支配的なデジタル経済では、そのように主張することがむつかしい。非物質的な生産の限界コストは限りなくゼロに近い。ある領域で、規模を拡大した者の大きな優位を、ネットワーク効果が強める。ICTは価格メカニズムも破壊する。価格差やその差別化は、デジタル経済の特徴であり、かつては想像もできなかった規模になり、消費者の需要とは関係がなくなっている。

社会主義の主張も変化した。旧い社会主義者は、集権化した計画が資源配分を一層効率的に行う、と主張した。しかし、人間の間違った決定は不完全な情報に由来する。われわれの時代は、コンピューターが複雑な人間社会でできる以上に、多くの情報を処理している。

それは1950年代、60年代の巨大企業についても議論された。その経営は、資本主義でも社会主義でも変わらない、と。同様に、資本主義や社会主義という言葉が広まる前、初期産業革命の時代には、フランスのサン・シモンが、銀行家、知識人、芸術家が、時代遅れの神学や封建制を打破し、「産業主義」に向かうと展望した。イギリスのロバート・オーエンは、ユートピア的な利潤共有のコミュニティーをアメリカとイギリスで運営した。そこでは、労働に基づく貨幣が計画された。

われわれは思い出すべきだ。資本主義も社会主義も、ともに機能的には同じ目標を追求していた。資源配置の分散型システムを築くこと。その中では、自発的な必要と欲求とが充足されることだ。そして何世紀もかけて示したのは、それらが過度の権力を集中するとき、どちらのアプローチも失敗した、ということだ。

源・資本家、源・社会主義者が求めた初期の夢に回帰して、新しい分散型の配分を探すべきだ。現代の技術は、ハイブリッド型社会主義の下で実現する。

19世紀初めの闘いは生産手段の所有をめぐるものだった。今日、われわれが最も必要とするのは、データの所有を求める広範な運動だ。それは19世紀初めの労働全収益(全収穫)権闘争に似ている。社会的利益、個人、プライバシーを妥協することなく、データを共有して、利益を最大にする方法とは何か?

この問題を解くために、資本主義者も社会主義者も団結せよ。失うものは、データ以外に何もない。


 資本移動が歪めた世界経済

FP SEPTEMBER 30, 2020

Global Capital Is the Tail That Wags the U.S. Economic Dog

BY MICHAEL PETTIS

アメリカ大統領、ビル・クリントンは、1993年、NAFTAに最終署名した。それは数か月前の選挙戦で約束したことに背くことだった。その決断を説明した彼の言葉は有名だ。金融と技術との結婚が、世界経済に主要な変化をもたらす、と。

「瞬きする間に人々が巨額の資金を動かすことができる現実を変える術はない。」

確かに、資本の自由(規制・制約のない”unfettered”)移動は経済運営を変える。しかし、クリントンは間違った結論を導いた。例えば、つごうよく法律を変えられる土地に生産拠点を移すことで、投資家たちは、ビジネスの利益に反して労働者の所得を守り増やそうとする政策を、即座に、罰することができる。常識とは逆に、このことは高賃金国から低賃金国への生産の移転を意味するのではない。賃金が生産性に比べて高い国から、賃金が生産性に比べてより低い国に移転する。(例えばドイツは、賃金の高い国だが、労働者の生産性は高いので、それに対して賃金水準は今でも低い。)

グローバルな貿易不均衡を生んでいるのは、低賃金そのものではなく、賃金と生産性とのこうしたミスマッチなのである。

ドイツと中国は巨大な貿易黒字を築くうえで成功した国だ。それは両国がより効率的だからではなく、家計の所得を犠牲にして、製造業を促進する政策を取ったからだ。彼らはそのために、直接、賃金を抑え、あるいは間接に、通貨を安くし、補助金を与え、環境を破壊し、セーフティーネットを劣化させた。それは実質的に所得を移転することだ。より多くを支出する中産階級、労働者、農民から奪い、より貯蓄する大企業、政府、富裕層に与える。そこには双子の問題が生じる。国内経済で吸収しきれない、過剰貯蓄と過剰生産力である。

彼らはその解決を貿易相手国に押し付ける。もし外国がそれを吸収できないなら、自ら政策を逆転する(すなわち、賃金を引き上げ、産業補助金を削減する)か、あるいは、失業者が増大することになる。

しかし、この解決策(輸出を増やす)には2つの問題がある。第1に、世界経済は需要不足に苦しんでいる。製造業の競争は厳しく、賃金を抑圧している。第2に、過剰貯蓄を受け入れる国は、それに応じて貿易赤字を累積する。それは資産の所有権を移転することを意味する。株式、債券、不動産、工場が輸出国(貿易黒字国)の所有になる。他方、資本流入国(貿易赤字国)は、その経済を調整する。それが先進国の場合、常に、失業の増大や債務の急激な増大(アメリカのような国ではより起きること)になる。

アメリカは貯蓄率が低いから、外国資本の流入が必要だ、という者がいる。それは逆立ちしている。アメリカの貯蓄率を下げているのは、外国からの資本流入である。外国資本の流入が、失業の増大と債務をもたらす。

アメリカが発展途上国なら、貯蓄不足で制約された投資が、資本流入によって増えるだろう。19世紀にそうだったように、資本流入は良いことだ。しかし、グローバルな貯蓄過剰と歴史的な低金利が続く世界で、アメリカ企業は投資しない現金を貯めこんでいる。外国の貯蓄が流入しても、投資は増えない。資本流入が投資を増やさないとき、貯蓄が減る。これは収支表の鉄則だ。

資本流入はドル高になり、輸出企業から輸入品消費者への所得移転は消費を増やす(貯蓄を減らす)。輸入の増大は失業を増やす。失業増に対して、財政刺激策は政府の赤字(債務)を増やし、金融当局は融資基準を甘くする(債務増は貯蓄源である)。外国投資家が株や債券、不動産を買うと、その価格が上昇してアメリカ人は豊かになったと思い、債務を増やして消費する。

自由な資本移動に関して、エコノミストたちは、グローバルな経済で資源のより生産的な利用を実現する、と擁護する。理想化された世界では、小規模の投資家たちが世界中の効率的投資を探しており、インフラや生産設備の能力を改善することで利潤を得る。

現実はそうではない。国際投資は主にポートフォリオの管理である。株や債券を短期のフローとして管理する。それは投機であり、流行の仮説、資本逃避、インデックス、その他、さまざまな理由で取引されるが、資本配分を効率化することとは関係ない。莫大な国際投資が、すでに過剰貯蓄と安価な資本に苦しむ先進経済に向けて流入している。

「制約のない資本移動」を崇拝することは間違いだ。それは、過剰貯蓄のある世界で、生産的投資をもたらさない。グローバルな貯蓄配分の不均衡を強め、赤字国の失業と債務を増やし、労働者の交渉力を損ない、いたるところで不平等を強めている。グローバル資本という尻尾が、経済という犬をふりまわす。

政府が介入して、資本移動を制限・安定化するときだ。例えば、アメリカ政府は外貨取引もしくは資本移動に課税する。海外で得る利子や配当にも課税する。USドルの海外での使用を制限し、通貨バスケット(SDRなど)に代えるか、新しい貿易・資本移動の体制を友好諸国の間で模索する。

資本移動を制限して初めて、貿易は世界経済を適切にバランスできる。その制限に対して狂信的に反対するのはウォール街だ。しかし、正しい政策によって、労働者、生産者、農民、中産階級を破滅させる経済のゆがみが取り除かれる。アメリカ史の大部分でそうであったように、利潤を求めて競争する大企業は、賃金抑制ではなく、自国の生産性を高めることに投資するだろう。

******************************** 

The Economist September 12th 2020

Brexit and international law: A shocking breach

Turkey: Erdogan’s world

Germany and Russia: The lady may toughen up

Charlemagne: Last of the cedntre-lefties

Brexit negotiations: A new barrier

Bagehot: Revolutionary conservatism

Government debt: Putting on weight

Free exchange: Which market model is best?

(コメント) イギリスのジョンソン首相が、国際法を破ってEU離脱交渉を有利にする脅しをかけたことは、保守党もしくは保守主義に流れる過激な発想として理解できます。元来、保守派は社会の漸進的な変化を支持し、歴史的に与えられた秩序や伝統を守る党派ですが、革命派による攻撃に我慢できず、過激な権力戦略を採用して革命派の主張を(実は認めて)横取りします。

市場モデルのどちらが優れているか、という最後の記事もおもしろいです。資本主義には、ドイツなど「協力型」と英米の「自由市場型」に加えて、今では中国の「権威主義国家型」も加わりました。コロナウイルス対策で、自由市場型は負けましたが、技術革新に強いので、コロナ後の再編やワクチン開発では優位を奪う返すかもしれない、と主張します。

******************************

IPEの想像力 10/5/20

ブレグジットでUKが解体するかもしれない、と私は思いました。保守党はポピュリストに占拠され、労働党は支持者から見放され、若者は政党政治に関心を持たなくなっている。主要政党が解体し、新しい政治・社会運動やイデオロギー、新旧の支配勢力が、政治的な同盟関係を組み替える歴史的瞬間に至る前に、こうしたデマゴーグたちは歴史の中の道化師たちなのか、と思いました。

しかし、トランプがアメリカの民主主義をここまで解体する・できる、とは思いませんでした。共和党はトランプ・ショックで新しい保守主義を模索するのか。民主党は、ポピュリストに対抗するために、金融的利益に従うグローバリゼーションや、政治経済モデルの質を転換し、広い、革新的な政治基盤を探し始めるのではないか。

私は楽観していました。国際秩序だけでなく、トランプの独裁でUSそのものが分裂するかもしれない、と本気で思ったのは最近です。

****

この時代の政治経済秩序を狂わせたダイナミズムは何か? デジタル化によるハイテク大企業への富と権力の集中、また、無制限の資本移動自由化がもたらした階級対立を、考える論説に感銘を受けました。

HAROLD JAMESは、私たちのデータを集めて、それを加工するハイテク大企業の利益が、市場競争や価格メカニズムで決まらないこと、資本主義の擁護論も、社会主義の資本主義批判も当てはまらないことに注意します。

まともに良い商品を生産しても、なかなか利益が残らない。消費者はネットで検索するから、厳しい価格競争に圧倒される。より安価な供給者が世界中から現れる。アイデアは模倣され、新商品は偽造され、信頼されるブランドも買収される。

データを加工するハイテク企業は、さまざまな無料のサービスを提供して、非常に多くの利用データを集積する。どのような属性の人びとが、いつ、どのように動くのか。何を買うのか。詳しく予測する。企業は、何としても新しい商品を売りたいと願い、そのためのデータと予測を彼らから買うだろう。

企業もそうだが、政治家は選挙にどうしても勝ちたい。あなたが勝つ方法がわかっている。対立候補を落選させる情報と戦略を教えることができる。そう言われたら、政治家たちはそれを買うだろう。コンサルタント契約を結んで、大金を支払う。

市場も政治も、データによって細分化され、効果的な情報を、消費者や有権者に個々に送り付ける。それは、市場の均衡でもなければ、民主主義的な選挙でもない。情報操作、情報戦争である。

MICHAEL PETTISは、資本移動と貿易とが逆転した世界を発見する。より多くの富を生産するグローバル経済の再編によって、貿易不均衡が生まれているのではない。短期の、投機的な利益を目的とした、制約の無い国際資本移動があることで、貿易不均衡が所得分配の不平等、失業と債務の増加につながっている、と批判する。

1国の貯蓄と投資のバランスを理由に、貿易(経常収支)不均衡が決まる、という説明をよく聞くけれど、Pettisは反対する。最大の貿易黒字国は、自国の労働者の消費を抑える中国とドイツである。彼らの輸出向けに強化された産業政策が間違いだ。また、その反対にドル高や安価な輸入を歓迎し、ウォール街の利益や、債務に依存した貧しい家計を生み出す政策に従うアメリカ政府が問題だ、と。

****

小さな民主主義に、私は期待しました。秩序を築くのは、普通の人たちが話し合う場を尊重する世界なら、優れたアイデアによる社会の改善を支持する同盟でしょう。

グローバルなハイテク企業も、国際通貨・金融システムも、民主的な諸社会の実現に向けて、人びとを助ける形で活動します。大きな民主主義は、優れた政治経済構想と国際秩序を人々が獲得することにかかっていると思います。

J.M.ケインズが生きた時代が、再現しているのかもしれません。

******************************