IPEの果樹園2020

今週のReview

9/28-10/3

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ジョンソン政権 ・・・中国外交と民主主義 ・・・パンデミック不況と対策 ・・・リベラル・エリートの限界 ・・・アメリカ民主主義の転換 ・・・ワクチン開発競争と政治闘争 ・・・21世紀のガバナンス

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ジョンソン政権

PS Sep 21, 2020

International Law and Political Necessity

ROBERT SKIDELSKY

UK政府は、EUと合意した文書は交渉のための策略であった、と認め、それを「突破」する法案を提出した。それは国際法に違反する。しかし、協定が自国にとって損害をもたらすとしても、それを文字通りに実行するか、というのは議論の余地がある。

国際法の違反は、計画的なものと、そうではない、即興的なものがある。たとえば、多くの国が債務を支払えなくなって不履行になる。あるいは、ECBは条約で禁止されている政府債券購入に踏み切った。

私は、ジョンソンが違反する気で合意に署名した、という説明に、北アイルランド問題を考慮すればありうることだ、と同情する。EU離脱の政治過程には法的な混乱が予想された。今また、UK-EUの通商取り決めに関して合意期限が迫っており、ジョンソンは新しい法案でEUに合意への圧力をかけたのだ。

これが優れた交渉術なのかどうか、議論の余地はある。しかし、法解釈だけで政府を非難するのは間違いだ。法律家が国を動かしているわけではない。


 中国外交と民主主義

FT September 20, 2020

The west should heed Napoleon’s advice and let China sleep

Kishore Mahbubani

21世紀に入って20年経つが、西側の最大の課題は明らかだ。それは、中国が舞台の中央に戻ったことだ。西側は失敗を準備しつつある。

それは3つの間違った前提から生じる。第1に、中国共産党CCPが支配する限り、中国はパートナーになれない。1980年代後半、ソビエト連邦が崩壊してから、共産主義は歴史のごみ箱に入った。中国人の知性を抑圧する政党と、世界は協力できない、と。

しかし多くの証拠は、国民がCCPを抑圧的とは感じていないことを示す。スタンフォード大学の中国系アメリカ人の心理学者は2019年に中国を訪れた後、「中国が急速に変化しており、・・・停滞するアメリカと対照的に、中国の文化、自己認識、モラルは、おおむね良い方向に急激な転換を遂げている」と書いた。

2の前提は、たとえ中国国民が共産党と幸せであるとしても、世界は中国がいますぐ民主化することで改善される。

ソ連が崩壊して生活水準が急激に低下するのを観るまでは、即時の民主化を支持する中国人もいた。しかし今や、多くの者は、中央政府の弱さが大規模なカオスや、中国人の苦難をもたらすことに、疑いを持っていない。中国400年の歴史、特に、いわゆる「恥辱の200年」がその証拠だ、と考える。

さらに、民主的に選出された政府は必ずしもリベラルではない。インドのネルー首相は、アメリカのケネディー大統領、イギリスのマクミラン首相が抗議しても、1961年、ポルトガル領のゴアを奪い返した。もし中国が民主的な政府のもとにあったら、香港や台湾に対する忍耐力はもっと少なかっただろう。

民主的な中国政府が新疆の分離独立主義者に対して弱腰であることを嫌い、行動することは、インド政府がカシミールをロックダウンしたことを見ればわかる。実際、アジアの近隣諸国は、その最大の民主主義諸国でも、中国の体制転換など推進していない。安定した、予測可能な中国は、たとえ外交姿勢が強硬であっても、それに代わる政治体制よりも好ましい。

3の前提は、最も危険である。民主的な中国が必ず西側の規範と慣行を受け入れ、西側クラブに追加してもらうことで幸せになる、というものだ。日本がそうであったように。

アジアに広がる文化のダイナミズムを観るべきだ。トルコは世俗化を捨てて、エルドアンのイスラム・イデオロギーに転換した。インドでも、英米風のネルーではなく、ヒンドゥー教に帰依するモディが指導者である。

脱西洋化の津波が起きている。トルコやインド以上に、中国には反西側感情の火山が爆発寸前である。現時点で、こうした中国ナショナリズムの勢いを抑えるほど強い政治勢力は、唯一、中国共産党だけである。

西側の諸政府は中国の指導部と協力して生きることを学ぶべきである。その転換や早期の崩壊を望むのは間違いだ。


 パンデミック不況と対策

PS Sep 22, 2020

Willem H. Buiter

Says More…

名目政策金利がゼロ近辺に落ちた世界で、財政刺激策や減税を中央銀行が融資している。これは、将来、金利が上昇するときに財政緊縮を強いるのか、中央銀行の政府融資を強いるのか? 連銀は危険資産まで含めて市場介入した。中銀の独立性は名目でしかない。

アメリカのインフレや世界のドル需要はどうなるのか? ユーロ圏では政府債務のデフォルトが避けられない。ESMを拡充して秩序ある債務整理をするべきだ。

発展途上諸国の債務も支払えない。債券諸国は債務の支払いを猶予している。同様に、マーシャル・プランを、かつての4年ではなく、もっと長期に行う必要がある。

パンデミックは社会主義的な実験を一斉に認めた。EUの復興基金がそうだ。アメリカには福祉国家の諸制度がない。そして、たとえ11月にバイデンが勝利しても改革は進まないと思う。もっと長期の不況が続いてからでしか、政治的意志は形成されない。

中央銀行がGDP20-30%を政府に与えることが、最も効果的なマクロ政策である。「ヘリコプター・マネー」による財政支出の拡大は切り札として今も残されている。

2016年から主張していたように、ブレグジットは、ハードな、合意なしの離脱になるだろう。サプライチェーンの混乱は大きなダメージを生じる。投資が減り、家計も貯蓄を増やす。しかしロンドンの金融街は、最も損失が少ない。離脱によって規制を大幅に緩和し、ヨーロッパから民間取引を奪うからだ。

しかし、COVID-19UK経済を破壊し、5年以内に、北アイルランドとスコットランドを失うだろう。UK解体が、ブレグジットの最大の不利益である。

VOX 24 September 2020

A tale of three depressions

Paul De Grauwe, Yuemei Ji

COVID-19パンデミックを、1930年代の大恐慌、2007-2008年の銀行危機と大不況と比較する。

1930年代大恐慌と2008年大不況の違いは、始まりは似ているが、後者が10カ月を経て回復に向かったことだ。それはマクロ政策の緊縮と緩和の違いであった。

現在のパンデミックは、その落ち込みが急速であった。COVID-19とロックダウンが需要と供給を一気に破壊したからだ。しかし、マクロ的な拡大がそれを補ったため、2008年の不況よりも早期に回復し始めた。その違いは、2008年以降は、危機を経験した銀行部門が融資を再開しなかったからだ。

パンデミックからの回復は早いが、第2波、第3波があるか、わからない。V字回復が成功するだけの金融・財政の支援を続けることは難しいかもしれない。


 リベラル・エリートの限界

FP SEPTEMBER 21, 2020

You Can Only See Liberalism From the Bottom

BY DANIEL IMMERWAHR

アメリカが世界で最も優れた、最良の人々が住む国だとみなされたのは、それほど以前のことではない。ノーベル賞受賞者の数、科学技術、世界のエンターテイメント、そして夢を放出していた。

その墜落はあまりにも急速で、憤慨をよんだ。今やアメリカのイメージは、愚か者たちの集まる村、である。

これはわれわれの時代の謎である。もとから、まぐれ、だったのか。そうではない、という理論がある。インド生まれのエッセイスト・小説家・歴史家であるパンカジ・ミシュラPankaj Mishraがそうだ。英米の指導者たちは危険なほどに現実を無視する、と彼は論じた。

ミシュラが注目したのは第1次世界大戦だった。それに先行したのはヨーロッパにおける「100年の平和」であった。その間、指導的諸国はめったに戦争せず、戦争しても短かった。J.M. ケインズは平和がもたらした経済的繁栄を称賛した。ヨーロッパは文明の高みを表し、イギリスはその頂点を極めた。

あるいは、すくなくとも、ロンドンから見れば、そうだった。しかし、北京、レオポルドヴィル、カルカッタから見た世界は違った。ヨーロッパの平和な時代は、侵略、征服、文字どおりの殺戮を、世界に広めた時代であった。それは、ケインズの観た、文明世界の西側中産階級が快適に暮らす代償だった。

しかし彼らは、その無慈悲な野蛮さを、ほとんど無視した。第1次世界大戦で起きた何物も、彼らに植民地化された世界で暮らす人々が驚くようなことではなかった、とミシュラは考える。そして、この第1次世界大戦のパターンを、現代でも再現する、と警告する。

リベラルのプロジェクトには、その中心に巨大な矛盾がある。リベラルは、その歴史から、彼らが好むシステムに慢性的に生じる不平等、暴力、人種差別を消し去った。だからNiall Fergusonは、公然と帝国を擁護するのだ。Thomas Friedmanはイラク戦争を熱烈に推進したし、イスラエルが市民たちを空爆しても、サウジアラビアのサルマン皇太子を称賛しても、アメリカのコモン・センスを示す大物として扱われる。

ミシュラは、西側リベラルの過ちを知っている南の声を聴くべきだ、と主張する。彼らはもっと複雑で、世界を統一基準で観ないし、過度の個人主義を唱えない。


 アメリカ民主主義の転換

FP SEPTEMBER 22, 2020

The Republican and Democratic Parties Are Heading for Collapse

BY LEE DRUTMAN

アメリカの民主主義は目の前で崩れ落ちそうに見える。しかし、アメリカは以前にも政治・経済危機を経て、政治と経済に必要不可欠な転換を遂げることで危機から再生した。2020年代もそうなる理由がある。アメリカは、政党システムを見直し、展開する民主主義を再生するときだ。

概ね、アメリカは6つの政党システムを経てきた。各時期には、政党間競争が安定的で、経済に占める政府の役割のような、主要な論点で勢力が均衡していた。すなわち、1796-1820, 1832-1856, 1868-1892, 1896-1928, 1932-1968, and 1980 から今まで。システム間の移行は、一般にトップ・ダウンで、典型的には社会的危機が触媒となり、エリートの連合体に亀裂や再編が起きることだった。5つの政党システムは、24年、24年、24年、32年、36年続いた。人びとの寿命が長くなってきたので、ここには明確な規則性がある。それによれば、現行の政党システムは、今、崩壊している。

もちろん、過去は未来の保証にならない。

単純小選挙区、1ラウンドで、勝者が全ての選挙人を取る、アメリカ特有の選挙制度により、2大政党が政治的競争を支配する。そのために、2つの政党は巨大なテントを広げて、多くの党派を吸収する連合を形成しようとする。政権を取る多数派は、多くの異なった利益を、広大な地理的領域で、包摂する必要がある。しかし、こうした連合を長期に維持することは難しい。

時間が経つにつれて、連合を組んだ原理は弱まり、かつて問題を解決したイデオロギーは新しい問題を生じ、人口の変化が政党の内外で勢力均衡を変える。しかし、選挙の地盤には粘着性がある。特に、2大政党制では、連合を離脱することに高いコストがともなう。反対の政党が迎え入れてくれるとは限らない。それゆえ、連合の分解・再編には、経済不況や人種対立など、重大な事件が引き金となる。

現在の政党システムは、1980年頃に確立された。共和党は、市場崇拝のリバタリアン、福音はキリスト教徒、外交におけるタカ派の連合であった。民主党は、世界市民的なリベラル、非白人の低所得者層、社会的な大義を掲げる支援者の連合であった。両政党とも、「ネオリベラリズム」が支配的な経済イデオロギーであった。それは、市場と民営化を内外の公共政策における主要な道具とみなす、曖昧な言葉である。ネオリベラリズムに関する相対的なコンセンサスがあったために、2大政党は文化や人種の問題でシステムに支配的亀裂を生じ、ますます強まる都市と地方の分断をともなった。

この政党システムは4年前に粉砕されていた。2016年の大統領選挙は新しい政党システムを予告した。ドナルド・トランプが、経済的なポピュリスト政党となった共和党の前衛として当選したのだ。しかし、候補者として社会福祉国家や製造業の復活という公約をした彼は、大統領となっても、政策インフラがなく、党内のコンセンサスも築けなかった。彼の政権は既存の共和党連合を維持した。柔軟な姿勢、政策に関する無知、個人に対する驚くべきカルト、「ラディカルに支配された民主党」を攻撃する能力で、トランプは共和党の内部分裂を抑え込んだ。

いつの時代も、改革はワシントンからではなく、ボトムアップに起きた。政治エリートはそれを結局受け入れた。アメリカが、アイルランドやオーストラリアで使用されている、複数当選の選挙区で、優先順位付きの投票制と比例代表制を採用すれば、2大政党制の行き詰まり、過激化、交渉決裂に向かうダイナミズムを阻止して、多くの政党を支持できる。重要なことは、新しい、より柔軟な連合が形成されることだ。

アメリカ民主主義の未来は変えることができる。


 ワクチン開発競争と政治闘争

FP SEPTEMBER 19, 2020

The World Is Winning—and Losing—the Vaccine Race

BY ADAM TOOZE

世界を停止させたパンデミックに対して、常に、ワクチンが解決策であるとみなされてきた。自然の脅威を科学が解決する。

しかし、そうではない。ワクチンの製造と供給は一定の政治・経済問題を解決するかもしれないが、それはまた、新しい問題を生じる。ワクチン接種を祝福するかもしれないが、むしろグローバルな不正義と、世界中で恨みを生じる。

アメリカは国連が推進するCOVAXに参加しないと表明した。世界でワクチンの共同開発・供給をめざす計画だ。アメリカ政府はこれを、腐敗したWHOに頼るものだ、と非難する。

アメリカは自国の解決策に賭けている。それは政治的な利益だけでなく、製薬業界の巨大企業と、公衆衛生の問題に深く結び付いている。

このドラマの中で強力なアクターたちは、国民国家、その国民、そして製薬大企業だ。グローバルな公共レジームの影は薄い。WHOの予算は、1つの巨大病院よりも少ない。国際関係論が教えているように、それは常態であるが、コンストラクティビストは、アナーキーを作るのはわれわれだ、と注意する。問題は、78億人に高品質のワクチンを、利用可能な価格で供給するために、アクターたちは協力できるか、ということだ。

それは緊急に必要な問題であるが、同時に、国際秩序と国内秩序の正統性の問題である。

COVID-19は悪である。しかし、この時代は「新人世Anthropocene」と記録される。人類が自然環境に対して、包括的に、不安定化するような転換をもたらしている。その1つとして、他の生物種のウイルスが人間にも感染する変異を生じているのかもしれない。われわれは、生活、労働、遊び、旅行、食事、住居を再調整する必要がある。

321種類もワクチン候補があるのは非常に多いようだが、1つもまだ開発されていない。COVID-19とその経済封鎖は、何兆ドルもの損失を生じている。数億人が失業した。世界銀行の推定では、断固とした対策がない場合、人的資本の損失は10兆ドルに達する、という。

経済的ダメージを埋めるために、政府は戦時のように大規模な刺激策を取った。しかし、その規模で十分なのか。マンハッタン計画(原子爆弾)や宇宙開発、ペンタゴンのF-35戦闘機開発に比べて、ワクチン開発に投じた資金はまだ少ない。

本当に懸念されるのは、ワクチンができた後だ。パンデミックはグローバルな現象を指す用語だが、ワクチン接種では国家のエゴ、企業利潤が、深刻な不平等問題につながる。

パンデミックに対する進歩派の答えは、莫大な資産に対して課税せよ、である。ワクチンの生産には公共の医療インフラを整備し、世界中の大学と研究所が、知的所有権や特許権に制約されることなく、競争するチームを組織して資金提供される。検査体制と生産体制でも、過剰利潤を排除し、コストを抑える。科学者たちは賞と名誉を得る。それは科学者に限らない。

問題は、それを実現する政治パワーはあるか? 混乱する既存秩序をそのような解決策に向かる勢力はあるか? だろう。

ビジネス界では、明らかに製薬産業だ。複雑な薬品の有効性を信頼できるビジネス・モデルを知っている。しかし、彼らを所有するのは、現代資本主義の大企業がそうであるように、巨大なポートフォリオを運用する機関投資家である。

グローバルなCOVID-19危機への対応は、製薬産業の「ビジネス・モデルが適切で、持続可能なものかを調べるリトマス試験紙」である、とファンド・マネージャーが述べた。ワクチン開発競争はこの産業の正統性を確立し、あるいは、破壊する。それ以上に、世界経済は解決することを求めている。それなしには、広範な領域で、何兆ドルもの資産を運用するマネージャーたちの将来が厳しい。

ファンド・マネージャーたちは新時代を開く。そこではインデックス・ファンドのマネージャーたちが公共財の代表と執行者になり、こうして「社会主義の前衛」になるのだ。そう示唆する評論家もいる。気候変動の政治や、Exxonなどの石油大企業、エネルギー政策についても同様だ。

社会主義を語るのは早すぎる。しかし、もし大不況がアメリカの住宅担保証券市場に公的支援を与えるためファニーメイを作ったのであれば、2020年のワクチン開発危機が同様の対策を求めるかもしれない。完全な国有化は無理でも、「バイオテク巨大ファンド」ならどうか。もし適当な政府保証が与えられれば、金融エンジニアリングでAAA格付けの債券ができて、保険会社や年金基金が購入するだろう。

しかし、巨大ファンドのマネージャーたちに頼ることは、われわれが渇望する解決策を、巨大なファンドの、選挙で決めることのない者たちにパワーを与える。彼らの安定性は不確かで、その利益は人口の中のごく一部の資産家にだけ結びつく。彼らの金融資産は、政治的正統性をまったく欠いている。

COV-19危機への対策を非政治化するという考えは、魅力的だが、危険な幻想だ。

より大きな公正性や民主的な管理と支配を求める左派の声は不快なものかもしれないが、彼らはシステムの基礎を疑うわけではない。社会主義を語るのは、恐怖をあおるものだ。それは、右派の政治が資本主義システムの一般的な長期利益を決める王座から降りること、そして、保守派の政治家たちとビジネス界が、進んで非合理的なポピュリストたちと同盟すること、を示唆するものだ。

2020年、連銀が債券・株式市場に劇的な介入を行い、銀行は安定している。ますます多極化する世界で、アメリカは世界金融危機のときほど、パンデミック危機に対応する中心にいない。トランプが勝利することは災厄だ。しかし、構造改革のための政治的連合を実現する民主党の能力が問われている。新人世にふさわしい政治経済を創り出すときだ。


 21世紀のガバナンス

FP SEPTEMBER 24, 2020

Why Europe Wins

BY ANDREW MORAVCSIK

ヨーロッパではCOVID-19が襲った後、ロックダウン、マスク、検査と追跡の体制を政府が実行して、感染者を数か月で抑え込んだ。しかし、アメリカは衝撃から立ち直れない。その対称は、偶然ではなく、ヨーロッパにおける、所得の平等、専門家を重視した政府組織、を反映している。

1世代にわたり、人びとはヨーロッパの将来を悲観する意見ばかり聞いた。高成長、中央集権的政治制度、国内の正統性、ハードな外交手段としての軍事力、こうしたものをヨーロッパは欠いている。ユーロの崩壊、加盟国の急増による失敗、ヨーロッパという理想から離反する有権者、など。こうした評論、シンクタンク、外国の政治家たちは間違っていた。

彼らがその能力を疑う点で、外交に勝る分野はなかった。2014年、ロシアはウクライナを攻撃し、2015年、地中海を渡る移民の波が起きた。翌年、ブレグジットの国民投票でイギリスはEUを離脱すると脅し、アメリカ大統領候補であったドナルド・トランプがNATOと大西洋貿易を壊す発言をした。

しかし、ヨーロッパはいずれも静かに退けたのだ。ヨーロッパは非軍事的な能力を展開ことに成功した。外国援助、通商協定、雇用協定、規制基準の国際適用、国際法・国際組織の促進、確実な、しかし静かに行う外交、民主主義の支援。ヨーロッパのシビリアン・パワー行使はプラグマティックであり、退屈で、遅く、官僚的であるため、注目されない。しかし最後には、対抗する諸大国が行使する手段よりも、多くの成果を上げた。

ロシアが2014年にウクライナを攻撃し、クリミアを併合し、東部の2つの地方で分離主義者をひそかに支援した。ロシアがウクライナに持つ歴史的、文化的、経済的、戦略的重要性から、キッシンジャーやミアシャウマーのような伝統的リアリストたちは、ヨーロッパはウクライナを手放すべきだ、と助言した。さもないとモスクワが冷酷な対応を示し、必ず、西側の敗北に至る、と警告した。

しかし、ヨーロッパの指導者たちはロシアをその隣国でも抑え込んだ。ロシアとそれに協力する分離主義者が占拠する国土の7%を除いて、ウクライナは、今、西側と緊密な関係を結ぶ独立国家である。ウクライナは経済成長を享受し、民主主義を確立した。EUは、戦争による破壊に苦しむウクライナが債務を維持できるように、2014年以来、約200億ドルを提供した(アメリカからの支援額は20億ドルに満たない)。推定400万人のウクライナ国民が流出し、ヨーロッパで働き、年160億ドルほどを送金する。EUとの協定により、ウクライナは貿易を拡大し、年250億ドルを輸出する(アメリカ向け輸出額の20倍)。

移民・難民の流入に対しても、ポピュリストたちに対しても、ヨーロッパは現実的に、有効な、さまざまな手を打った。移民たちは統合化を進め、難民に対してはより経済的・人道的な基準で扱えるような条件を整えている。反イスラム、反移民、反テロ、反ヨーロッパを主張するポピュリスト運動が支持を拡大していた。しかし、パニックを起こすより、指導者たちは移民やテロに対処することで、そのエネルギーを失わせた。イギリスの離脱交渉は厳格に対処した。

唯一、EUの重要な国でポピュリストたちが権力を握ったのはイギリスだけだ。しかし、ブレグジットはルールではなく、その例外である。ほかではありえない驚異的状況で、巨大な嵐が起きた。イギリスはヨーロッパで唯一、有権者の一部を越えて、EU攻撃が効果を発揮する国だった。それでも当時の首相は、党内紛争を抑え込むために、必要でなかった国民投票を実施した。先の選挙でも、ボリス・ジョンソンは44%の得票で権力を固めた。しかし、ヨーロッパで最も多数派に有利な、イギリスの偏った選挙制度でなければ、EU支持派が多数を占めただろう。

COVID-19でアメリカの多くの人が気づいたように、民主主義国家が、将来を観て、データに依拠する、専門家たちの政策を実行することは難しい。多くのトランプ、多くのプーチンが現れて、そのような政策は望ましくない、もっと自国を偉大にするべきだ、と主張するかもしれない。

しかし、その答えはヨーロッパにある。21世紀にも、正しい政策を維持してきただけでなく、成果を上げた。ヨーロッパに未来がある。

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The Economist September 5th 2020

How Abe Shinzo changed Japan

Politics : America’s ugly election

America’s presidential election: A house divided

Japanese politics: A new story at last

Unite Nations peacekeeping in Congo: Blue helmet blues

Japanese business: Rebalancing act

Culture: A social turn: Hard work and black swans

Financial coupling in China: Present tense, future market

Free exchange: Parting shot

(コメント) 安倍首相が辞任し、その時代を高く評価する記事と、他方で、アメリカ大統領選挙の深刻な投票・開票作業と当選者をめぐる危機を予想する記事が、まさか同じ号になるとは思いませんでした。安倍政権の時代に日本のガバナンスが強化された点は、保守政治の基盤とともに、英米から見て優れた点でした。

「確かに、われわれはすべて日本人だ」と言われるように、世界の富裕諸国はCOVID-19とともに日本病のパンデミックにも苦しみます。アベノミクスが効能を証明された、副作用の少ない、優れたワクチンだ、と断言することはできませんでした。

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IPEの想像力 9/28/20

半沢直樹の最終回を観ましたか?

おもしろい。・・・なぜかな?

ドナルド・トランプの納税額が、ゼロ、もしくは年750ドルであった。

NYTがそうスクープしました。大富豪だ、天才だ、と自慢するトランプが、収入より多くの損失を出すのか? しょっちゅう、ゴルフを楽しむのはビジネスに必要な経費なのか?

どこに資産を隠し、どのような仕組みで税金を支払わない企業や富裕層が増えるのか、私の小著でも少し紹介しました。何より、彼・彼女たちには、それが正しい、と主張するイデオロギーがあるのです。

・・・税金などというのは、ちっぽけな人びとが払うのだ。

・・・政府に税金を渡して無駄に支出されるより、できる限り民間に残して投資する方が正しい。そういう仕組みを合理的に、合法的に利用できる社会は素晴らしい。

本当にそうなのか? もちろん、そうであれば、あなたの資産、資金の流れを示してほしい。もちろん、だれの所得や資産もネットに公開する必要はないが(そういう国もある!?)、政治家や公職に就く者であれば、要求されて当然です。

半沢直樹に登場してほしい、テレビ・ドラマのような話です。

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土下座するシーンが、何度か出ました。これはよくない、と私の奥さんが横で注意しました。

確かに、小学校で半沢たちの物まねが流行り、中学や高校で、半沢ごっこと称したいじめが横行するのではないか、と心配です。

私は、それを禁止するよりも、なぜ土下座シーンが重要な意味を持つのか、そのストーリーだけでなく、社会・政治・経済的な背景を理解できることが重要だと思います。

そして、怒り、にらみつけ、激怒するシーンがやたらに多い。これも心配です。えてして、優しい、正しい者が、(富裕層に比べて)貧しいため、社会的・経済的な地位の低さによって見くびられ、沈黙することを美徳として称賛する日本社会に生きるからこそ、怒りをあらわにするドラマチックな演技がおもしろいという意味を、正しく教えるべきだと思います。

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だれのための、何のための、デジタル化なのか?

エストニアは、デジタルIDのシステムを安全に市民が利用できる仕組みを作り、支持されている、とThe Economistは伝えます。市民の記録が一括してリンクされます。税金や医療データをどこからでもアクセスでき、結婚も、引っ越しも、就職も、ネット経由で簡単に処理できます。

どういう感じかな、と思いました。先日、パソコンを購入して、少し理解できました。私の情報は大学のサイト経由でリンクされ、Office365により電子メールや講義のデータはそのまま使えます。ネットはChromeを使っていたので、これもダウンロードした後、スマホ経由で同期できました。お気に入りのバーも、購読中のネットジャーナルとそのパスワードも、勝手に入力できています。

たとえば、富裕層にはデジタルIDの義務化を求めます。所得や資産、資金の流れが透明になるでしょう。脱税も、政治献金も、遺産相続、株や不動産の売買も。

高齢者にも、デジタルIDを義務化するとよいでしょう。年金や医療費は明確になり、詐欺事件が大幅に減ると思います。

パンデミックで苦しむ個人商店や職人は、デジタルIDにより、即日、その資格や条件に照らして、全員に支援金が給付されます。

しかし、もし市民たちが何重にもチェックしなければ、これは監視社会なのだ、と思います。オーウェル的な世界、トランプやプーチンが拡散するフェイクな情報と、ポスト真実の世界です。

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ADAM TOOZEは、ワクチン開発と接種の普及に向けて、巨大ファンドのマネージャーたちによる「社会主義」的な基金の推進を批判します。それは、より大きな公正性や民主的な管理と支配を求める左派と、進んで非合理的なポピュリストたちとも同盟する保守派の政治家、ビジネス界との闘いである、と。

Willem H. Buiterによれば、中央銀行がGDP20-30%を政府に与えることが、最も効果的なマクロ政策です。「ヘリコプター・マネー」による財政支出の拡大は切り札として今も残されており、(資産家たちの富を増やす)不平等化の副作用がある金融市場の安定化や金融緩和策より、それは優れています。

MORAVCSIKは、移民・難民の流入、ロシアの軍事攻撃と占領、政府債務危機、ブレグジット、トランプによるNATOへの脅しを、21世紀のEUは、軍事力に代わるソフト・パワーで抑え込んだ、とANDREW論じています。

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この数年で、世界は得るのかもしれません。トランプを10人。プーチンを10人。・・・そして、デジタル世界の巨大スクリーンには、あのテーマソングと、半沢直樹の顔。

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