IPEの果樹園2020
今週のReview
9/21-26
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終わりなきブレグジット ・・・イギリス保守党 ・・・ルールに依拠した国際秩序 ・・・大銀行と食糧部門 ・・・スウェーデンのケース ・・・インドと中国の戦争 ・・・11月の大統領選挙後 ・・・菅義偉・新首相 ・・・地中海の難民危機 ・・・金融政策のレジーム転換 ・・・ワクチンの共同開発
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 終わりなきブレグジット
The Guardian, Fri 11 Sep 2020
Brexit is the stage on which Boris Johnson acts out his theatre of provocation
Tom Kibasi
今週の法案提出は、終わりなきブレグジットの物語における、最新のひねりである。それは、国際法を無視し、離脱に関するEUとの条約に含まれる北アイルランドの特別な条文を破棄する権限を、政府に与える。
EUが悪意によって行動することを制限するため、と言うが、まるで必要な挑発だ。これはジョンソンが創り出した危機である。昨年秋には、国内法を破る(議会を無視して離脱する)と脅したジョンソンが、今度は国際法を無視すると脅している。
こうした破壊的傾向はジョンソンの政権と政治に関するアプローチである。分断や危機の衝動を煽ることが彼らの美意識だ。彼は危機に対処する自分の権力を望むが、自作自演のカオスを生きているのだ。
この筋肉質の主権に関する姿勢は、保守党の支持者を驚かせ、喜ばせるための演出である。賃金と生活水準が停滞し、長い危機の時代を経て、こうした姿勢を歓迎する人々がおり、EU残留を主張する「エスタブリシュメントたち」を攻撃する機会にしている。
しかし、漁業権でささいな領域の勝利をシンボリックに取り上げてパレードしながら、同時に、イギリスは発言権もないままEUの規制を受け入れ、国境における多くの摩擦が起きる代償を支払って、自主的な規制を手に入れる。ジョンソンは、人びとを現実から離反させ、復活した偉大さの幻想でだましている。
興味深いことに、この議会で示されたジョンソン政権の交渉姿勢は、監視体制の甘い、政府補助金である。これはサッチャー以来の保守党が信奉してきた「自由市場」とは正反対である。
ここには重大な戦略的決定がある。COVID-19による経済過程への国家の劇的な介入増大は、ジョンソン政権の主体をなすリバタリアンたちに、積極的な国家が国民に支持される、この姿勢を続けよう、と理解させたのだ。
これに対して、労働党は有権者に語る政策を持っていない。
● イギリス保守党
The Guardian, Fri 11 Sep 2020
The Tories aren't incompetent on the economy – they know exactly what they are doing
David Edgerton
1980年代から最近まで、イギリス政治の決まり文句は「ほかに選択肢はない。TINA」だった。企業の振興、グローバリゼーション、技術革新、何であれ、変化のために唱えたのだ。しかし、もちろん選択肢はあった。国家は経済を放置することなどなく、その役割や姿を変えた。
イギリスの政策の目標は、年とともに変化した。経済成長率、貿易収支、国内の不平等解消、他国に比べた自国の強化。しかし、1950年代、60年代に比べて、いずれも悪化している。イギリスの相対的地位も改善していない。
1980年代以来、政治・経済政策の目標は、イギリス経済を改善することではなかった。国内の権力バランスを変えること、経済を世界に開放すること、それは本質的に、富裕層をより豊かにし、より強力にすることだった。サッチャー革命は、根本的に、支配者による革命だった。
1954年、エコノミストのW. アーサー・ルイスが発展途上国に関する二重経済論を発表した。そこには、大量の労働者が低賃金で働き、小さな、富裕な部門がある。アメリカの経済史家であるピーター・テミンは、このモデルを最近のアメリカに適用した。1970年代以来、多数の労働者の賃金は停滞しており、富裕層はますます豊かになっている。中産階級は減少した。同じことは、より少ない程度で、イギリスにも起きた。専門職の集まる、裕福なロンドンの飛び地経済と、他の地域には低賃金、低生産性の経済が広がっている。テミンは、アメリカを超富裕層の支配する政治、とみなす。
ブレグジットは、経済の政治的性格を示した。ブレグジット推進派が40年間の政策を逆転する、などと夢にも思わないことだ。彼らは経済ナショナリストではない。経済主権や国民経済の再建など気にしない。
彼らはサッチャー主義者だ。現実の痛みを否定する必要があっただけだ。彼らは成長を犠牲にして、一層の経済変化を推進する。マーガレット・サッチャーが失業者の困窮に無関心であったように、また2010年の連立政権が財政緊縮策のもたらす停滞に無関心であったように、ブレグジットも彼らの考えではその代償に見合うのだ。経済ではなく、政治こそ重要だ。
● ルールに依拠した国際秩序
FT September 11, 2020
Hearts don’t beat faster for ‘the rules-based international order’
Timothy Garton Ash
世界中でスピーチライターたちは考えているはずだ。国連総会で演説する首脳たちのために「ルールに依拠した国際秩序」という言葉を使う。イギリス外務省は、「ルールに依拠した国際システム」を “BRIS” と省略する。
しかし、2つの意味で反対だ。第1に、中身がおかしい。COVID-19による世界不況から抜け出すために政府と中央銀行は行動している。それはしばしば「ルール・ブックを破って」という賞賛を受ける。ユーロ危機でもそうだった。すべての国に1つの硬直したルールを押し付けることが危機を悪化させた。
民主主義諸国による通貨同盟は、参加国が極端な経済的困窮に陥るのを、ルールの1つ、2つを無視してでも避けるべきだ。共有された基本的価値や原則を守ることは、恣意的なルールより優先される。それは実際、官僚的、外交的、政治的な妥協による迷走である。
そうしたルールをめぐる迷走と国際法を、イギリス政府のように、混同してはならない。国際法は上位に立つ高い価値で、保持されるべきだ。もし「ルール」を実際には法の意味で使うなら、より強い、簡潔、正確な言葉として、法、と言うべきだ。
それらに1つの表現が必要なら、それは「リベラルな国際秩序」という包括的な概念である。国際法と、数十年にわたり国際協調のために築かれた制度と実践が含まれる。
第2の反対は、その言葉が心に訴えるものではないことだ。われわれは、ナショナリストのポピュリストたちに反対して、リベラルな民主主義と国際協力を擁護したい。しかし、「ルールに依拠した国際秩序」という言葉は、ドナルド・トランプの「アメリカを再び偉大にする」、ブレグジット推進派の「主権を取り戻せ」に比べて、魅力がない。もっと短い、情念に訴える言葉が良い。
ベラルーシ、レバノン、ヴェネズエラで、勇敢な人びとが掲げる板には、その神髄だけが書いてある。「自由」、「正義」、「真実」と。
チャーチルとルーズベルトが書いた大西洋憲章も、その高い目標を掲げた。「すべての土地のすべての人が、恐怖や欠乏から自由に暮らすことができる」。
われわれは、力強い、独創的な、簡潔で、心に訴える言葉を必要としている。スピーチライターたちは考えるべきだ。
● 大銀行と食糧部門
FT September 13, 2020
The next subprime crisis could be in food
Rana Foroohar
COVID-19によって多くの問題が起きたが、中でも最も目につく3つの問題がある。食糧の安全性、中小企業の閉鎖、資産価格の浮動性である。
これらは、ABN Amro, ING and BNP Paribasなど、大銀行が中小企業への融資を減らした・やめたことに始まる。農家や農産物生産者、流通業者、グロサリー(食料品店・小売り)は中小規模であるが、グローバルな食糧のサプライチェーンを支えている。
食糧の関連企業群で2層、3層の企業は、農産物価格の変動に対してヘッジを購入する。この融資が失われれば、食糧価格が高騰するだろう。大企業に取引が集中し、市場リスクが高まる。おそらく、この数か月で、それが起きる。大銀行からの融資を得られない中小企業は、影の銀行システムに頼る。その透明性は低く、大きな抵当が要求される。
COVID-19は食糧部門の集中度を高め、地域による過剰や不足を創り出す。その結果は、経済的に「効率的」かもしれないが、非常に脆弱な、壊れやすいものである。
商品価格の変動は、しばしば、経済的な影響だけではない。政治的な影響を及ぼす。社会争乱や革命さえも、しばしば、食糧価格や燃料価格の急激な上昇によって始まる。
大銀行や、食料関連の大企業、取引業者が繁栄している。他の者たちはそうではない。
● インドと中国の戦争
FT September 13, 2020
India and China are edging towards a more serious conflict
Devesh Kapur
インドと中国との戦争が起きる深刻なリスクがある。世界はパンデミックに忙殺され、アメリカ国内政治は選挙一色だ。そんな中で、インドと中国は長い国境地帯の紛争に、かつてない規模の軍事力を結集させている。
ヒマラヤのGalwan Valleyで深刻な衝突があった。それ以来、双方は軍事力を増強している。数万の兵力と、戦車、重火器、ミサイル。それはもはや紛争地帯に限らない。気温が下がり、雪解け水が引けば、山岳地帯における重武装した軍の移動が容易になる。中国による建設作業が一層のエスカレーションを招くだろう。
中国側の動機が分からない。習近平主席が追求する攻撃的な外交と、その戦術的な機会があると見たのか。その場合でも、インドと戦争までする意味があるのか。中国の攻撃的姿勢は、インドのあいまいな立場を転換させた。アメリカとの関係を緊密化し、4か国(米、日、オーストラリア)同盟など、反中国の姿勢を明確にした。中国との経済関係を断ち、中国製アプリも禁止し、別の国のものに代えた。
習が国内の威信を高めるために戦闘を喧伝している、という事実はない。1つの可能性は、チベットの独立問題だ。インドは今もダライラマとその亡命政府を受け入れている。中国は、インドが支援をやめるよう圧力をかけたのか。
中国の意図が不明なことでリスクは高くなる。冬季にはマイナス20度、30度になる高地に、数万の軍を中国が維持する理由はわからない。厳しい寒気が戦争を抑えることは期待できない。1941年、冬季にもかかわらず、ソ連赤軍は侵攻するドイツ軍に対して壊滅的な反撃を加えた。中国がミサイル攻撃を行うのはさらに容易だ。
インドの世論は反中国に染まった。モディが強硬策を取らない限り、政権を維持できない。国際状況も軍事衝突を起きやすくする。インドと中国の軍事衝突が1962年に起きたのは偶然ではない。アメリカがキューバミサイル危機に奔走する時期を狙ったのだ。今、アメリカは11月の大統領選挙によって分裂している。
もはやインドと中国との衝突は小競り合いでは終わらないだろう。歴史家バーバラ・タックマンが書いたように、「戦争は誤算から始まる。」
● 11月の大統領選挙後
FT September 14, 2020
What happens if Trump loses but refuses to concede?
Katrina Manson and Kadhim Shubber in Washington
悪夢のシナリオが膨らんでいる。ドナルド・トランプが敗北しても、彼はそれを受け入れないかもしれない。
トランプは繰り返し、選挙結果を受け入れるという約束を拒んだ。大規模な不正が行われると予告した。そして、パンデミックで大幅に増えると予想される郵送による投票について、その結果がわかるまでに何か月も、何年もかかるだろう、と主張した。
バイデンは、トランプが選挙を盗もうとしている、と責めた。もしトランプが拒めば、軍が彼をホワイトハウスから連れ出すべきだ、と主張した。
僅差の選挙結果の場合、街頭での暴動を抑えるために、憲法上の危機が起きる。この数か月、アメリカの諸都市で起きているように。
最高裁と議会が、だれが大統領になるか、決める役割を担う。しかし、多くの法学者が強調するように、選挙の終結は誠意と妥協に達する意欲が決める。要するに、どちらかの候補とその政党が、自分たちの敗北を受け入れることだ。
双方が、選挙をこの国の生存に関わると決めている場合、敗北を受け入れることは難しい。2000年のG.W. ブッシュとアル・ゴアがそうだった。フロリダの再集計が最高裁で争うことになったが、ゴアが譲歩し、ブッシュが大統領になった。
もし合意がなされない場合、アメリカは第3の、深刻な不安定期に入る。下院議長、今のままならナンシー・ペロッシが大統領を代行する。しかし、共和党も民主党も、自分たちの候補が勝利することを望むから、ペロッシは介入しない。それは政治圧力と民衆の抗議、究極の妥協で決まる。
その不確実な状況では、双方が勝利を宣言し、内戦の危機が迫る。軍と民衆が対立するかもしれない。
● 菅義偉・新首相
FP SEPTEMBER 14, 2020
Japan’s New Prime Minister Is a Fixer, Not a Leader
BY WILLIAM SPOSATO
菅義偉・新首相は物事を実現する達人である。究極のフィクサーとして、彼の目標は安定性であり、革新ではない。
● バイデンの反応
FP SEPTEMBER 14, 2020
Joe Biden Is Actually Listening
BY JAMES TRAUB
20年前、私はジョージ・W・ブッシュにインタビューした。そして、ブッシュの外交政策は基本的に「リアリスト」の、強硬派、ユニラテラリストである、と考えた。もしワールド・トレード・センターへのテロ攻撃が無かったら、そうなっていただろう。かつてイギリスのハロルド・マクミラン首相は、何が外交を決めるのか、と尋ねられて、「事件だよ、坊や、事件さ。」と答えた。しかし、それは真実の半分でしかない。
ある指導者が、9・11のような構造転換を及ぼす事件に直面したとき、経験したことのない衝撃に対して男は福音派の信仰で応じた。そして、テロとの戦い、「自由のエジェンダ」というミッションに従った。
第1次世界大戦、バルカン半島のジェノサイド、コロナウイルスによるパンデミック、その他の予測しなかった、予測不能の事件は避けられないものであり、新大統領になればバイデンが何をするか予測するにも、謙虚であるべきだ。国内政策は予測できるが、外交はそうではない。問題は、彼の世界に対する基本的な直観、予想外の事件に反応する仕方である。
この点で、バイデンはG.W. ブッシュと対極にある。政策の知的な立案者ではなく、それを多くの人に会って話し合う。生まれつきのプラグマティストであり、旧来型の職人だ。世論を重視して政治を動かす、野心的な政治家である。
外交官であったWilliam Burnsは、バイデンを、一貫性と感情移入のセンスで優れている、と評価する。同盟諸国がますます懐疑的になる時代に、バイデンは他国を安心させる。
● COVID-19と経済政策
FT September 17, 2020
Support people rather than jobs for a more resilient post-Covid economy
Chris Giles
パンデミックの下で、雇用・職場を守るべきか、人・暮らしを守るべきか?
ヨーロッパ諸国は職場を守ってきた。公的支援で雇用を維持し、時間短縮を支持した。失業率は6.5%から7.2%と、わずかに上昇しただけだ。
アメリカは失業手当を増やし、職を失った個人に支給してきた。アメリカの失業率は、2月の3.5%から4月は14.7%に急上昇し、8月に8.4%まで低下した。
支援策は失業率に異なる影響を与え、将来も、重大かつ持続的な効果をもたらすだろう。パンデミックの初期にはヨーロッパの支援が優れていた。しかし、期間が長引くと、ソーシャル・ディスタンスや部門の回復が以前と異なるものがはっきりしてくる。職場よりも人を支援し、新しい産業や雇用に移ることを支援する方がよい。
しかし、この転換の判断は容易でない。もしワクチン開発が早く成功すれば、政策転換を遅らせるほうが賢明だ。数か月を経て、人びとの消費や旅行は変化しつつある。
● 金融政策のレジーム転換
PS Sep 15, 2020
Crunch Time for Central Banks
STEFAN GERLACH
戦間期の金本位制崩壊に関するGolden Fetters(金の足かせ)という研究書の中で、経済史家のBarry Eichengreenは、政治と社会の重要な変化を強調した。特に、フランチャイズの拡大が、金本位システムを維持不可能にした。金本位制の要求に従おうとしても、有権者たちはもはやその緊縮策を我慢しなかった。
金融政策の支配的なレジームが、新しい政治状況において放棄された。アメリカやUKのような諸国は、新しい現実に速やかに適応したが、フランスやスイスのような他の諸国は反応が遅く、長く苦しんだ。
今、中央銀行は「金の足かせ」をはずす新しい瞬間に向かっている。10年足らずの間に、世界金融危機、気候変動、そして、COVID-19によるパンデミックが、金融政策の環境を作り変え、世論は中央銀行を支持しなくなっている。
2つの心情の変化が顕著に起きている。第1に、グローバルな気候変動は本当に起きている、という広範な合意がある。政府や中央銀行は、それに対策を採るべきだ、と考える人が増えた。
第2に、金融危機やパンデミックに対する中央銀行の政策は、資産の不平等を拡大している。経済を刺激するために、ゼロ金利や量的緩和は資産価格を上昇させる。それは金融政策の働きであるが、多くの人々は不公平だとみている。危機による失業や不況で苦しむ人が多いのに、資産保有者たちはさらに富を得た。
中央銀行の権限や政策手段では、不平等や気候変動を緩和できない、と説明しても、それが真実を含むとしても、人びとを説得できない。
ECBのラガルド総裁は新しい現実に直面して、気候変動を考慮する政策を採用した。銀行規制当局も、気候変動による対策を採る銀行を優遇する。アメリカ連銀のパウエル議長は、金融政策に不平等の緩和や、黒人・ヒスパニックのコミュニティーが利益を受けるという観点を取り入れる。
時代は変化している。中央銀行はそれに対応し、遅れた者は評価を損なうだろう。
● ワクチンの共同開発
FT September 15, 2020
Bill & Melinda Gates: Vaccine fairness will make us all safer
Bill and Melinda Gates
われわれはできるだけ早くパンデミックを終わらせたい。われわれはできるだけ多くの命を救いたい。ワクチン接種を自国だけに確保する動きがある。しかし、研究が示すように、われわれは協力型のアプローチを採用しなければならない。
2つの異なるシナリオをモデルで予測してもらった。1つは、裕福な50カ国が最初の20億回のワクチン接種を独占する。他のシナリオでは、富ではなく人口により、各国はワクチン接種をグローバルに配分される。
いくつかの仮説を設けたが、予測は観察された事実に基づいている。
より公平な後者のシナリオでは、ワクチンが9月1日までに死者数を61%減らすだろう。裕福な諸国がワクチンを確保する不公平なシナリオでは、2倍の死者が出る。そしてウイルス感染は、世界の4分の3で、4か月間、放置される。
残念ながら、多くの裕福な国がワクチン接種の確保を競っている。しかし、いくつかの2国間で合意できる効果的戦略がある。
パンデミックと経済不況はグローバルな性格だ。1国による解決策では不十分だ。国境線は病原菌にとって意味を持たず、経済についても経過とともに同様になる。ニュージーランドは感染を見事に抑えたが、経済は今も縮小し、ウイルスの感染拡大が再発して、再びシャットダウンした。
グローバルで、公平なワクチン配分は、すべての者にとってパンデミックを早く終息させる。世界全体で約5000億ドルが節約される。他方、一部の国が国民全員にワクチン接種を行う場合、経済はほとんど改善しないだろう。いたるところでパンデミックが猛威を振るい、グローバル・サプライチェーンも、海外旅行も、止まったままだ。
効果的で公平な対策とは何か。すべての国がワクチン接種の一部、Covaxを得られるよう保証することだ。ワクチンの配分に応じて、リスクの高い人々に接種できる。欧州委員会、韓国、日本、一部のアラブ諸国がCovaxに支持を表明している。
Covaxに参加しない諸国にも、他の方法でグローバルな対策を支援できる。確保したワクチン接種の一部を低所得国に与える。あるいは、ワクチン連合Gaviに寄付する。製薬会社も、危機においてはすべての者に薬を利用可能なものにしなければならない。
企業と政府は、未来がゼロサム競争ではないことを理解しなければならない。
● カースト制
FP SEPTEMBER 17, 2020
Feeling Like an Outcast
BY YASHICA DUTT
2001年9月、南アフリカのダーバンで、the World Conference Against Racismが開催された。インドのダリット活動家たちは、カーストを人種差別と認めるよう支援を求めた。ダリットはインドのカースト制で最下位の、かつて「不可触民」とよばれた人びとだ。
EUやグアテマラ、スイスなどが支持を表明した。しかし、ダリットが自分たちの政府を求めることは支持されなかった。インドは、長年、南アフリカのアパルトヘイト反対に指導的な国だった。しかし、カースト制の問題は国内問題として国際的な行動を認めなかった。
Isabel Wilkersonは、アメリカの階層化した人種差別を認識するために、カーストの概念を使用した。彼女は、ナチズムによる強制収容所も、ヒンドゥー教が起源のカースト制も、ダリットが味わった弾圧と同じものだと考える。
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The Economist August 29th 2020
What Putin fears
Belarus and Russia: The people lose patience
Migration: Cheques don’t check treks
Germany’s refugee influx: Did they handle it?
(コメント) 読みが浅いせいだと思いますが、ポイントがつかめない。特集記事は “dementia” 認知症です。何を主張しているのか? 増えることを心配する。何をすべきか? 財政負担は? どこかに成功例はないか? よくわかりませんでした。
他にも、株式市場の国際競争、ハリウッド、COVID-19による心理的変化、安倍辞任、中国のポドキャスト、カリフォルニアの大火災、QAnon、など。
2つがおもしろかったです。ロシアのプーチンはなぜベラルーシの体制を支援するのか? なぜナワルニーを毒殺しようとしたのか? それは、石油価格だけでなく、プーチンの巧妙な心理的支配が効果を失いつつあるからです。
EUがアフリカからの移民を抑えるために行った経済支援、貿易・投資協定は、期待した効果がなく、むしろ移民を増やしたかもしれない。また、ドイツの移民統合化政策は、必ずしも成功しなかった。
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IPEの想像力 9/21/20
「Go To トラベル」 東京発着が解禁された。その盛況ぶりをニュースが伝えていました。
温泉地より白馬高原の巨大ブランコ、沖縄より北海道、そして山にはテントがあふれています。旅行に出かける家族の笑顔も、それを迎え入れるホテルや旅館、商店街や温泉の人たちも、忙しくなってとても嬉しそうです。
しかし、高速道路の渋滞が20キロも続く。・・・キャンプ場のトイレ待ちが2時間。・・・松本城に入るにも2時間半かかる。
「Go To トラベル」と同時に、休暇を分散するよう呼びかけるとよかったです。年間を通じて長期滞在やリピーターを増やす。異なる季節の魅力をアピールする。
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ツーリズムにはさまざまな問題があると思います。
2018年に、ゼミ旅行で訪れたとき、志摩スペイン村について考察しました。
https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2018/082718review_s.html
ブレグジットや大阪都構想にも見られる「領邦国家の悲劇」と言えるでしょう。連邦政府や世界市場への不満、ローカルなネイティビズム、愛国心。極右と左翼の理想が混在するポピュリストたちの舞台です。
しかし、だからこそ彼らが民意を動かせるなら、政治を取り戻す「衝撃」を駆使する可能性があると思います。解決困難な課題があるときほど、既得権や既成概念、支配組織を破壊して、闘う姿を政治は演出します。何年かに一度、投票するだけの民主主義を、私たちが真剣に考えるなら、彼らの真実を問うことです。
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地方の活性化とは何でしょうか。外国人のもたらす需要より、国内、地域内の需要を増やすことが、本当は、重要であったはずです。
アベノミクスは多面的な効果を及ぼす政策として、評価の分かれるものですが、株や土地など、資産価格が上昇し、円安が進みました。外国人観光客を増やす「インバウンド」は、アベノミクスの目玉の1つでした。外国人の雇用を増やす「技能実習制度」も、「ふるさと納税」も、・・・ 日本で生きる人々は豊かになったでしょか? 国籍や、住む場所や、年齢、社会的地位によって、その答えが大きく異なるなら、それは政治の失敗です。
ニュースで、技能実習生として宮崎県で働いていたベトナム人の若者が、台風10号の土砂崩れで死亡したことを知りました。
移民の積極的な役割を認めるなら、出稼ぎ労働者のための医療体制と災害保険をつくるべきだ。移住から定住、国籍取得までの道筋を示すべきだ。このとき、私はそう思いました。
しかし、ネットで彼らのことを検索する中で、以前、観た作品を思い出しました。NHKスペシャル「夢破れる外国人労働者たち」です。観たでしょうか? その内容が詳しく紹介されています。「日本で働く外国人はまもなく150万人を突破する。彼らは、私たちのすぐそばで働いている。」
https://www.nhk.or.jp/special/plus/articles/20190726/index.html
ベトナム人の若者が日本に来て、希望にキラキラ輝く目を、しだいに、苦悩で閉ざしてしまうことを、この作品は訴えています。不法就労の末に死んだ若者、アインさんは、日本で罠に落ちたまま、裏切られたと思って死んだでしょう。
「お金のためにキャリアを失った」
「自分の行為は自分に返ってくる」
「神様、許してください。取り戻すチャンスを与えてください……」
アメリカの多くの都市でデモが行われました。日本も、VLM(ベトナム人の命は大切だ)と訴えなければならない。希望をかなえられる法律や制度を整備し、不当な抑圧をなくすべきだ。そう、強く思います。
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