IPEの果樹園2020
今週のReview
8/31-9/5
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ベラルーシの民主主義革命 ・・・ジョー・バイデン ・・・ドル安 ・・・ブレグジットとパンデミック ・・・トランプの共和党大会 ・・・国際関係と米中冷戦 ・・・クラウド・アウト論の妄信 ・・・習近平の「二重循環」経済モデル
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● ベラルーシの民主主義革命
The Guardian, Fri 21 Aug 2020
Belarus's struggle is a powerful reminder of the value of freedom
Timothy Garton Ash
ベラルーシの心を動かされた光景の中で、1つ、私の心に染みついたものがある。30代の男性が、子供を抱いていた。彼はカメラに向かって、「選挙は・・・」と言った後、神経を刺激するような、長い間を置いた。舗道の彼の子どもを観た。そして、断言したのだ。「でたらめだ!」
それは決定的な瞬間だ。どのような独裁に対する抗議活動も、まさに決定的瞬間がある。一人一人が恐怖の壁を突き抜ける。昨日、彼は公然とそう語らなかった。しかし今日は、何万もの群衆が同じように叫ぶ中で、赤と白のベラルーシ国旗を打ち振る中で、断言する。彼が抱く子供の未来のために。
アプルボームAnne Applebaumの新著に対して、クラステフIvan Krastevは警告した。1989年(ベルリンの壁崩壊、東欧民主化)の理想や「自明の真理」から、現在の世界を観てはならない、と。もしそれが、歴史は西側のリベラルな民主主義に向けて円滑に進む、という観方なら、そのような解釈はつねに間違うだろう。
しかし、ベラルーシは旧ソ連の諸国家の中でも最もソビエト的な国である。私は、個人的には、ベラルーシがベルチック諸国と同じように、EUとNATOに入ることを望むが、プーチンが許さないだろう。ベラルーシの多数派も、ロシアと西側の地政学による対立を好まない。繁栄する中立国家、スイスのようになる、というのは難しいだろうが、迷走し、交渉を繰り返しながら、アルメニアのように、権威主義体制を抑えることがベストの進路だ。
1989年を自明の真理とした西側の傲慢さは、イラクを新しいポーランドとみなしたジョージ・W・ブッシュ政権のネオコンや、アラブの春を祝ったときに顕著だった。しかし、そうではない。その真理とは、独裁の下に長く暮らす人々が、いつも、最後には自由を求める、という意味だ。中国共産党の学校で教授であったCai Xia (蔡霞)がthe Guardianに、民主主義に向かう変化はいつが中国にも起きる、と語ったように。
リベラルな民主主義が過去30年間に犯した多くの間違いから、民主主義の夕暮れ、という主工面論がわれわれを苦しめる。しかし、私は自由のパワーを信じるべきだと思う。
● ジョー・バイデン
NYT Aug. 21, 2020
Where Hope and History Rhyme
By Roger Cohen
指名受諾演説でバイデンは述べた。「投票では、人物を判断してほしい。共感できる人物に投票してほしい。謙虚さ、科学的な真理、民主主義を私は尊重する。」
ドナルド・トランプはアメリカに、下劣なナルシシズムがもたらす惨状において重大な教訓を与えた。ロシアといえば彼だ。人種といえば彼だ。ウイルスについても彼だ。腐った木材で彫刻はできないし、腐った核心から統治することはできない。
バイデンの演説は盛り上がらなかった。それは良いことだ。嘘からできた時代の後に、アメリカはシンプルな宣言を待っている。真実に対して投票するだろう。
2016年、トランプは詐欺師として勝利した。持たざる者の声として、言葉を発することができない者たちの代弁者として勝利した。恐怖を利用して、暴力を政治の舞台に復活させた。グローバル・エリートたちを攻撃した。
トランプを誰が倒すのか、といえば、それはバイデンではない。カマラ・ハリスがそうだ。彼女はタフで、中道で、偉大なアメリカン・ストーリーを実現した女性だ。移民、アフリカ系アメリカ人、女性を情熱的に取り込む。彼女はトランプを「略奪者」と呼び、その略奪者を「臆病者」とよんだ。
バイデンは言わなかったが、アメリカの株価指数は記録的な高水準に達している。ウイルスが中小のビジネスを破壊し、経済を乗っ取る金融的なマネー・ゲームを完成した。トランプはそれに乗じる。そして民主党を「社会主義」と非難して、勝利するつもりだ。確かに401Kを持つアメリカ人にはそうだ。しかし、トランプが創った絶望的なアメリカでは、それはうまくいかないだろう。
● ドル安
PS Aug 21, 2020
Is the Almighty Dollar Slipping?
NOURIEL ROUBINI
急速なドル安にはいくつかの理由が考えられる。しかし、世界の主要な準備通貨としてドルが使用されなくなると考えるのはまだ早い。
中・長期的には、ドルの支配が続くいくつかの要因がある。変動レートが広く採用された世界で、資本規制の利用は限定されており、アメリカの債券市場は深く、流動的である。他の通貨と金融市場で、これに代わることはできない。
アメリカの潜在成長率は2%ほどあり、他の先進的な経済に比べて高い。ダイナミックで、先進的な、指導的企業がある。
アメリカのように、強い通貨と巨額の経常収支赤字を出して、安全資産に対するグローバルな需要を満たせる国はない。ヨーロッパも、日本も、中国も経済成長のために輸出を必要としている。
他方、ドルのグローバルな地位を損なう要因もある。第1に、アメリカが巨額の財政赤字と経常収支赤字を出すことで、インフレが起きて、準備通貨としての魅力を損なう。また、アメリカの覇権国としての地位が失われる。もし、将来が「中国通貨の時代」であるなら、人民元の台頭によってドルは魅力を失う。
貿易、金融、技術に関する制裁としてアメリカがドルを政治的な武器にするとき、その衰退は加速する。米中の冷戦状態が続くから、この傾向は変わらない。
同時に、中国は人民元の為替レートを弾力化してきた。資本規制を徐々に緩和し、より深い債券市場を作ろうとしている。Alipay and WeChat Pay のe-コマースや決済、SWIFTに代わる、デジタル人民元の取引システムを築こうとしている。
ドルの地位は、今のところ、安泰である。しかし、未来がそうであるとは言えない。新興市場では、すでに中国モデルが魅力的である。
● ブレグジットとパンデミック
FT August 23, 2020
The risk of a no-deal Brexit is rising, and that’s no bad thing
Wolfgang Münchau
EUとUKは将来の関係に合意できるのか?
EUは熟達した交渉マシーンであるが、具体的な合意は何もなく、期限まで2カ月しか残されていない。合意が成立しない可能性は少なくない。双方が全く硬直しており、譲歩の動きはない。
しかし、ブレグジットを失敗と決めつけることは間違いだ。最大の争点は、EUの求める「公平な競争条件」である。EUは、UKが競争政策に関して、EUと全く同じような法律を定めるように求めている。UKの政治的な補助金が、機械主義的な理由で特定の産業に与えられ、EU企業の競争条件を破壊することをEUは恐れている。あるいは、UKが労働基準や環境規制を緩和するかもしれない。どれも起こりうることだ。
ブレグジットの最良の部分を実現するには、UKが産業補助金を増やす必要がある。ただし、その多くはハイテク部門だ。これは重商主義的な市場の分割競争ではない。例えばUKは、製薬の研究や、ハイテク軍事技術に戦略投資することであり、民間・軍事の次世代にAI開発に優れている。これらはヨーロッパにおいても優位にある。UKがEUのデータ保護に従うことは悪夢である。
EUの競争政策自体が変化しつつある。中国やアメリカのハイテク企業に対抗して、ヨーロッパの利益を守らねばならない。裁量的な政策は主権の一部であり、同じことをUKに拒むのは難しい。世界貿易も変化している。
ブレグジットのコストばかり計算するのは間違いだ。私は何もかも捨ててEUとの協力関係を築くより、ブレグジットのもたらし可能性を生かすべきだと思う。
パンデミック、地中海東部、ベラルーシなど、EU指導者たちは他の政治問題に忙しく、UKとの合意を優先する余地がない。「公平な競争条件」を優先する姿勢は間違っている。反ダンピングならWTOが扱うべきだ。
合意なきブレグジットはEU側にもコストである。最大の市場の1つ、最重要な同盟国を失う。合意しないことを評価するなら、コストを公平に計算するべきだ。
● トランプの共和党大会
FP AUGUST 24, 2020
The Republican National Convention Is Already Over
BY MICHAEL HIRSH
さらに4年間、ドナルド・トランプが大統領にとどまるなら、アメリカのあらゆる伝統は破壊され、政治の規範は失われるだろう。
共和党全国大会の初日、始まって数分で、ドナルド・トランプを正式に党の候補者として指名し、大統領自身が現れて演説した。そして、みんしゅとうの対立候補、ジョー・バイデンは11月3日にまともな方法で決して勝利できない、と断言した。
「奴らがわれわれからこの選挙を奪う方法は1つしかない。不正に操作することだ。」
トランプはもう1つ指摘した。「さらに4年を」と唱和するのでは不十分だ。「もし奴らを本当に怒らせたいなら、さらに12年というべきだ。」 群衆に対してトランプは述べた。アメリカ憲法は大統領の任期を2期までとしているが。
共和党は、今後、選挙運動の主要な強調点になる言葉を示した。その政治経歴のすべてにおいて中道穏健であったバイデンを、「危険な社会主義の政策」をホワイトハウスに持ち込む、と。
トランプは、民主党がパンデミックを悪用し、通常は投票しない人々を郵便投票で「収穫」しようとしている、と攻撃した。
COVID-19のパンデミックから国を救出する、という大会での主張は、現状のひどい結果を、選挙戦でまともに議論できないだろう。
FT August 27, 2020
Donald Trump’s Orwellian jamboree
Edward Luce
共和党全国大会のメッセージはオーウェル的である。そこには認知できる選挙公約がない。第2期のトランプ党行動計画もない。だから異論の可能性もない。メッセージはトランプ。トランプが全て。他には何もない。
共和党はトランプ個人のカルト集団になった。それは保守派ではないし、それ以外の識別できるイデオロギーもない。いつでもトランプの言うことがその主張だ。ある日、北朝鮮の指導者、金正恩はアメリカの死をもたらす敵である。全員が立ち上がって喝さいする。翌日、金とトランプは盟友だ。聴衆はそれを静かに聴いている。
トランプは共和党を乗っ取った。その後、ストックホルム症候群(人質が犯人に協力する)が現れた。それだけではない。トランプは多年にわたる共和党の産物である。上院の多数派指導者ミッチェルやオバマ大統領が、トランプの育つ土地を用意し、種をまいた。
トランプの頭に思い浮かぶことなら何でも、それに合わせて共和党がダンスする。一貫した計画はない。共和党の歴史で初めて、今年の行動計画がない。彼らは情熱的に、大統領の「アメリカ・ファースト」を支持する。そこにあるのはあいまいな言葉だけだ。トランプが何でも言えるように。
既に18万人のアメリカ人がコロナウイルスで死亡した。全国大会の夜に、トランプが推奨するプラズマ療法を緊急的に承認する、と発表した。科学者たちはほとんど一致して反対している。
もしトランプが政治コンサルタントに相談していたら、ジョー・バイデンの弱点に絞って攻撃し、アメリカを再生する自分の政策を示せ、と言っただろう。しかし、もう遅い。共和党は誘拐されて、それを逃れた者は民主党大会でバイデンを支持する演説をした。
これはトランプのオーウェル的大宴会だ。彼はテレビのリアリティー番組をよく知っている。1つ、1つ、何のつながりもない。メッセージと現実との矛盾を、共和党は気にするのをやめた。
11月の勝敗に関係なく、共和党はトランプのものだ。共和党は自ら手を貸して生み出したフランケンシュタインの囚人である。
● 国際関係と米中冷戦
FP AUGUST 26, 2020
Stay Calm About China
BY ANATOL LIEVEN
国際関係のリアリストによる理解で中心となるのは、国益を死活的なものと2次的なものに分けることだ。死活的利益(vital interests)とはその国家の生存に対する脅威であり、外部からの制服・支配、既存の政治・イデオロギー的秩序を破壊する目的での政権転覆、を意味する。冷戦期のソ連と、それに対抗するアメリカ・西側の戦略がそうだ。
米中対立は、このような死をもたらす闘いではないし、アメリカがそれを理解していることが重要である。「新しい冷戦」というのは陳腐なジャーナリスト的観方であり、深刻な危険を含んでいない。米中の地政学的な競争は、米ソの冷戦とは異なる。
米ソ冷戦は、ソビエト革命の脅威とスターリン体制の野蛮さに起源があった。その対立はさまざまな形で現れ、アメリカの政治、文化、公共の倫理にまで恐ろしいダメージを与えた。
諸国家が、平和な時期でさえ、内外でその破壊を企て、互いに脅威を与えることは、不断の国際的緊張状態、国内の弾圧、文化的な熱狂・妄信、ヒステリー、陰謀論を生む。現代の中東地域はその悲劇的な例である。ヨーロッパの祖先は350年も前にそれを学び、解決を試みた。それがウェストファリアの和平であり、既存の対立する諸国家間で、イデオロギー的な大規模反乱を支援する行為を終わらせた。そして、その後144年間の平和をもたらした。
その決定的な合意とは、その地域を支配する者が宗教を決める、ということだった。支配者だけが臣民の宗教を決定でき、他の宗教を信じる他国が干渉してはならない。対立は続いたが、国家と政治体制にとって、それはもはや生存を脅かすものではなくなった。
そのすべてが変わったのはフランス革命のせいだ。再び国家は他国の基本的なアイデンティティーを脅かし、内部の反乱を刺激した。危険な状態にある諸国家は狂信的な大衆弾圧で応じた。敗北した敵に対する暗殺や虐殺がヨーロッパに復活した。フランス革命は、後の社会主義革命と保守派の反革命、その後、冷戦の基本的性格を決めた。
他の世界から見て、アメリカは真に生存の脅威を感じたことのない国だった。アメリカは両側を海に囲まれ、アメリカ大陸には軍事的・経済的に弱体な国家しかなかったからだ。唯一の脅威は内部にあった。アメリカの社会とイデオロギーに関する若い不可能な対立から起きた、南部諸州の分離独立だ。
冷戦期においても、核兵器を除いて、アメリカは生存の脅威に直面していなかった。冷戦の初期には、共産主義イデオロギーとソ連のパワーが、アメリカの死活的な同盟諸国に対する脅威であった。ソ連と東欧においてスターリニズムは、まさに邪悪で強大なシステムであったからだ。第2次世界大戦後の西欧は経済的なカオスであり、共産主義者に乗っ取られる機会があった。
しかし、数年で、ソ連の脅威は大きく後退した。1960年代初め、ハンガリーの革命、東ドイツから西ドイツへの大量の出国(その後、ベルリンの壁を建設)で、共産主義の崩壊は明らかだった。さらに中ソ対立では、中国がアメリカの準同盟国になった。
現実には、ソビエト共産主義との闘いがアメリカ外交・安全保障政策の知的なスタンダードになった。その結果、一連の誤解と失策が今に至っている。イラン、ベトナム、アフガニスタンへの「反共産主義」軍事体制を支援する介入がそれだ。その政策は各国民に著しく不人気であった。
国内でも、偏執狂・妄想、文化的不安、善悪二元論的な世界観、という旧来の傾向を冷戦が強めた。その遺産は現在の共和党にも及んでいる。彼らの妄想は、内外いずれにおいても、アメリカに及ぶ危険とは関係がない。
中国との対立は、したがって、アメリカ外交・安全保障の特定の分野で、限定的な競争として理解されるべきだ。善と悪との、生存をめぐる普遍的な戦いとみなすべきではない。米中の対立は増えるし、中国側の野心とアメリカ支配階層のグローバルな秩序維持の決意とは矛盾する。しかし、それは対立するシステムの生存を脅かさない。
中国は世界に向けて共産主義革命を輸出していない。既存国家を転覆することをめざしているという証拠はない。むしろ、偉大な資本主義的大国として、市場の安定性や中国の投資が安全であることに大きな関心を持っている。西側における中国の影響力は本物であり、これに抵抗するべきだが、それは西側の中国政策を変えるべきであって、国家の崩壊や革命を起こすことではない。中国やロシアのアメリカ政治に関するプロパガンダよりも、アメリカ国内の問題、たとえば、ジョージ・フロイド殺害の方が、その影響力は大きい。
アメリカ資本主義を防衛し、強化することが重要だ、しかし、それは単に中国の製品に対する関税を高くするだけでなく、アメリカ国内の経済改革、インフラと技術に投資することである。それは中国政府が行っていることだ。
軍事力を強化してきた中国は、インド洋でも、中東でも、慎重な行動に限定している。それは、世界最大の石油輸入国としてペルシャ湾の安全に強い関心を持つが、同時に、アメリカが中東に関与して繰り返した大失策を研究しているからだ。大きな例外は南シナ海である。中国はその海を自国の裏庭とみなしている。しかし、中国が環礁や砂州を支配したことが、国際貿易やアメリカ海軍の優位を脅かすことはない。東アジアでは、中国に次いで圧倒的に重要な同盟国として日本がある。日本が中国に地域の覇権を認める意図は全くない。
米中の間で唯一、危険な問題は、これまでもそうだったが、台湾だ。アメリカが中国の台湾侵攻を容認することはない。しかし、私的な発言として、将来の時点で、台湾に近接する中国の軍隊から防衛するアメリカ軍の能力には限界がくる、と認めている。アメリカの目標は、北京が軍事侵攻によって生じる経済・政治的なダメージの大きさを疑わないようにすることだ。
米中の地政学的な競争は、アメリカがケース・バイ・ケースで、プラグマティックに扱うべきだ。気候変動やウイルス対策には協力する。ところが、ヨーロッパではなくアジアで展開する競争では、インドやベトナム、フィリピンなど、民主主義の推進に熱心な国ではない。
そのせいで、米中を生存に関わるイデオロギー対立とみなす、非常に危険な考え方が出てくる。「他国の内的な性格に注目することで、対立の責任を自分たちから免除できる・・・ 他国を責める。・・・それが体制の本質であれば、長期的な解決策としては体制を転覆するしかない。共存を認め合うこと、相互利益のある問題では協力することが、無視される。」
中国との競争は、ソ連を打倒したようにはならない。これは2つの資本主義システム間で、経済成長、社会の安定性維持、新しい危機への対応の点で、相対的な成果を競うものだ。アメリカが勝つには、祈りや、CIAの特殊部隊、ヴォイス・オブ・アメリカの予算拡大ではなく、国内改革が重要だ。
● クラウド・アウト論の妄信
PS Aug 24, 2020
The Crowding-Out Myth
ROBERT SKIDELSKY
COVID-19の経済的効果は、1)発展した経済が不況になる、2)V字型回復は自動的に実現しない、3)政府は自国の経済を無限に支援する必要がある。
民間企業が長期にわたり政府支援に頼ることは考えられなかった。それは、正統派理論が、公共(政府)投資は民間投資より非効率的である、としたからだ。資源配分を誤る、という発想は、「クラウド・アウト」、「敗者を決める」、「成長を損なう」という指摘につながる。
しかし、クラウディング・アウト論は、理論的にも、実証的にも、間違いだ。それは資源の完全雇用を前提している。ケインズも指摘したように、公共投資は、そうしなければ有給化している資源を「クラウド・イン」するのである。
実際、国家はつねに資本の配分で指導的な役割を果たしてきた。直接に投資することも、間接的に特定の民間投資を助けることもある。トヨタも、シリコンバレーもそうだった。今では、中国が国家主導の経済発展を遂げている。イタリアのIRIの歴史を観ればよい。
IRIの成功と失敗の歴史は、国家介入が成功するにはどうすればよいか、という問題を提起する。当然、その答えは、国家目的を実現する十分な権限を与え、政治的な介入から切り離すことだ。これが実際は難しい。
しかし、われわれは新古典派の原理に服従するより、建設的な発想を取るべきだ。政治的責任を果たさず、周期的な崩壊するような、市場に支配された経済システムは、単に、危険すぎる。
● 習近平の「二重循環」経済モデル
FT August 25, 2020
The problems with China’s “Dual Circulation” economic model
By: Michael Pettis
5月に、習近平主席が「二重循環」経済モデルという概念を導入してから、中国指導部の目指すものをアナリストたちは理解しようとしてきた。北京の戦略は、輸出向けの国内生産(国際的循環)を拡大し続けながら、同時に、国内消費向けの生産(内的循環)に向けて、経済の相対的な強調を移すことであるようだ。
中国は、目標の成長を達成するために、巨大な投資を行う必要があった。2000年に入って、中国経済は輸出や、ますます生産的でなくなる投資に依存するより、賃金の上昇と国内消費によって成長する必要があった。後者は貿易摩擦や、世界でも最高の債務依存を生じたからだ。
しかし、「二重循環」戦略はそれに反する。2007年、当時の温家宝首相が内需と消費に依拠した成長を約束したが、それは実現しなかった。COVID-19と、北京の生産重視というパンデミック対策のせいで、GDPに占める消費の割合が低いままである。2007年から2019年に、債務のGDP比は倍増した。
「二重循環」は2つの問題を生じる。第1に、内需主導の成長には、経済・社会・政治の構造転換が必要だ。所得を企業、富裕層、政府から、普通の人びとに移さねばならない。それは莫大な富と、政治的パワーの移転である。それゆえ、むつかしい。
第2に、中国の輸出の「競争力」は、労働者が賃金やセーフティーネットで受け取る生産物を非常に低く抑えてきたことに依存する。内需と消費を重視した成長に移行するなら、輸出競争力を失い、「国際的循環」は拡大できない。
政治的にも、成長モデルにとっても、現在の所得分配のゆがみを正すには、非常に困難な調整期が必要だ。
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The Economist August 8th 2020
The absent student
Vaccine economics: A bigger dose
The dismal yet flexible science: When the facts change
Taxing and spending: From unthinkable to universal
Mali: Fear and loathing in the Sahel
Free exchange: Change for the dollar
(コメント) 大学が感染爆発の震源地として攻撃される不安から、若者の高等教育における役割を放棄しているという非難の対象に変わりました。
国家主義的なワクチン開発競争は、トランプ、プーチン、習近平が先頭を切って進みます。
経済学、ベーシック・インカム、軍事クーデタ、ドルと国際通貨秩序。動揺する時代の深みに答える力が求められています。
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IPEの想像力 8/31/20
民主主義と社会の豊かさについて、11月のアメリカ大統領選挙は重大な危機を迎えます。
自民党は総裁を両院議員総会で決める。自民党の総裁が、今の衆議院では、公明党との連立与党として首相になる。自民党の派閥間で数人が裏取引する結果、日本の内閣が決定される。
石破や岸田ではなく、菅が首相になると、安倍内閣の末期、疑惑を塗りつぶし続けた姿勢をそのまま継承する。権力者たち、裏取引に従った者たちが、自分たちの嘘や保身を最優先する政権になる。コロナウイルス対策は言い逃れでしかない。
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技術のスタンダードや政治的な介入は、ウェストファリア体制のような、領土的主権による平和を求めているかもしれません。アメリカ政府がシリコンバレーと協力して、テロ対策や犯罪の予防、諜報活動を行ってきたことは、それを市民の視点で是正する動きとともに、法律や社会契約の基本に関わる問題です。
支配体制や権力・地位の独占を批判できる仕組み。現実の問題を、話し合って解決するための制度を築く試みに、新しい発想を生かす余地があるはずです。市場による資源配分や富の分配を、抽象的な効率性のメカニズムとして信奉するのではなく、その土地を支配する者が、その宗教を決定する。それぞれの土地が互いに正当な支配を尊重する。
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国境を超える貿易・金融は、さまざまなスタンダードを求めます。それが普遍的な、たった1つの正しい統合された世界に向かう、という楽観(支配層の強権)は失われたと思います。
コロナウイルスによる経済ショックで始まった、国家による雇用支援、産業投資・補助金給付は、感染を抑えるためのロックダウンを、内外の金融市場・資本取引にも必要とするでしょう。医療機器や食料、ワクチン開発など、さまざまなコアを分断されても生き残る新産業・雇用・福祉モデルに向けて、国境ではない、人びとの結びつきが重視されます。
ハイテク大企業のプラットフォーム支配は解体され、国際通貨ドルの支配も終わるでしょう。新時代への転換が見えます。アメリカが軍事力や世界市場を圧倒した時期を越えて、国際秩序の基盤を提供し、各国が参加することで、アメリカ企業やドルは平和と繁栄を意味しました。こうした条件を、トランプが猛烈な勢いで破壊します。
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感染症や台風で、その土地のGDPが減少するのは明らかです。しかしGDPではなく、社会を問うべきです。
ワクチン開発と生産、利用が、コストを抑え、社会的に支持される形で行われるにはどうすればよいのか。ワクチンや治療法が普及しなければ、感染への不安は経済を繰り返し仮死状態に戻すでしょう。さまざまな社会集団間で対立が刺激され、政治は迷走します。
猛暑や海水温度の上昇が続けば、猛烈な台風が関東に上陸するかもしれません。河川が氾濫し、輸送システムや電力、ガス、水道が止まれば、東日本大震災の記憶が再現します。都心の地下街や高層ビルが破壊され、今後は、数年おきに同じクラスの台風が襲来する、とわかります。
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金融に偏ったグローバリゼーション、ネオリベラリズムの政治経済モデルが、世界秩序の方針として、今、明確に終わりに向かう。新しい権力の誕生には、すでに始まっている各地・各分野の問題に答えることが求められる、と思います。
軍事クーデタで権力を奪い、憲法や選挙を私物化した支配層に、タイの学生たちは反対し、それだけでなく、人びとを抑える秩序の象徴となった王制改革を提起しました。
民主主義は何を問うのか。政治がさまざまな社会問題の解決に力を発揮してほしいです。
次の首相に、日本病を治す方針はあるのか?
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