IPEの果樹園2020
今週のReview
7/6-11
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アメリカの危機 ・・・コロナウイルス危機 ・・・コロナ対策 ・・・米中新冷戦 ・・・アメリカ経済の回復 ・・・EU復興基金 ・・・香港国家安全法
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● アメリカの危機
FT July 1, 2020
US is stuck in the worst of all worlds
Janan Ganesh
2020年は、平和時におけるアメリカで最悪の年になりつつある。今も、世界最強の国家であるのは間違いないが。
まず、COVID-19の死者数が世界最大で、全体の死者数の約4分の1を占めている。EUや他の同盟諸国も、アメリカからの入国を認めていない。失業者数は史上最高水準である。ジョージ・フロイド殺害が支援した差別と殺人率の高さは、アメリカを他の裕福な諸国と大きく隔てている。
1930年代の大不況はもっと厳しかったが、パンデミックは起きておらず、国民を指導するフランクリン・ルーズベルトがいた。
アメリカは実現可能な世界でも最悪の世界に生きている。対外的パワーも、内部の結束も、顕著に衰えている。世界はその姿を厳しく観察している。
NYT July 1, 2020
The World Builds a Wall to Keep America Out
By Farhad Manjoo
ドナルド・トランプは世界に対して壁を築くと選挙で主張し、ホワイトハウスに入った。「なぜ便所のような国から来た人びとをわれわれは我慢して住ませているのか」と、トランプは言った。「ノルウェーみたいな国から、もっと人を入れよう。」
しかし、ノルウェーや他の欧州の国が旅行者の入国を許すのは、トランプが便所とよんだ大陸の国を3つ含む。アルジェリア、モロッコ、ルワンダだ。カナダ、そして、中国も加わる。
だが、トランプのアメリカはだめだ。アメリカの「偉大さ」どころか、パンデミック対策から観たアメリカの能力は底辺に近い。
私は南アフリカからの移民である。多くのアメリカ人と同様、アメリカ例外主義を信じている。アメリカ建国の理想は、われわれが特別に道義的に高い地位を占め、グローバル危機において特別な信用と知恵を示すことができる、という発想だ。
そうであるためにも、アメリカは移民に開放されているべきだろう。シリコンバレーがそうだ。トランプは、先週、技術者や季節労働者、学生など、外国人へのビザ発給を止めた。
それは医師にも影響する。アメリカの外科医の約4分の1、12万7000人は移民である。移民の医師たちは、アメリカ人を診察して、感染による死を恐れるだけでなく、その家族が国外追放されるのを恐れなければならない。
これは狂っている。アメリカには、世界でベストの、最も賢い者たちが入国したいと待っている、という偏見でしかない。
例えば、ルワンダはどうか。ヨーロッパの入国許可リストに載っている。1994年、ジェノサイドに苦しんでいたが、アメリカや国連は介入しなかった。およそ100万人が殺害された。26年を経て、復興したルワンダはアフリカで最高水準の医療システム、全国民への医療サービスを実現している。コロナウイルスによる死者は2人だ。
アメリカは機能不全で、世界での指導力を失っている。
FT July 2, 2020
How America could fail its democracy test
Edward Luce
ドナルド・トランプは大差で選挙人の多数を得た。しかし、アメリカは怒りに震えた。世界中の都市がアメリカの民主主義を監視する火をともした。民主党支持の小さな諸州が、カリフォルニアの「カレキジットCalexit」に従い、アメリカ合衆国を離脱すると脅した。アメリカの多数派を支持するよう企業経営者たちに求めて、労働組合がストライキを計画する。
公平に見て、バイデンがトランプより得票数で600万票多かった。52%と47%である。投票率は低かった。なぜならコロナウイルスの蔓延があった上に、不在者投票を妨害したからだ。しかし、規則に従って、トランプが再選された。アメリカの裁判所はこの結果に反対するだろうか?
アメリカの判事、知事、企業経営者たちが、そのような結果を恐れて眠れないだろう。この20年間で2度も、得票数では敗北した者が大統領になった。
ジミー・カーターや、ジョージ・H・Wブッシュが、公平なゲームに従い、敗北を認めることと、トランプが敗者になったときとは、まったく別だ。
現在の政治の有毒化は、南北戦争に先立つ1860年の大統領選挙に近い。バイデンが僅差で勝利した場合、または、代表人の結果が不明確であった場合、トランプは投票箱を封鎖して、バー司法長官、共和党議員が、民主党知事の示す開票結果と異なる結果を示すだろう。
いくつもシナリオがある。バイデンが大差で勝利できないとき、アメリカの民主主義は強烈なストレス・テストを受ける。
● コロナウイルス危機
FT July 2, 2020
The politicians who played the Covid‑19 crisis badly
Simon Kuper
アメリカ、イギリス、ブラジルは最初にCOVID-19が襲った国ではない。彼らには準備する時間があった。
アメリカは他の発展した諸国と同じくらい公衆衛生に支出している。さらに、医療に対する民間支出は歴史上のすべての社会を超えるものだ。しかし、アメリカ、ブラジルの感染者数は増え続けており、ヨーロッパや中国では減っている。Florida, Texas, Arizonaの知事たちは、トランプと同じように、経済を優先して、ウイルス対策にも経済回復にも失敗した。
これらの土地を支配したのは、メディアの印象を気にするが、資格のある専門家の意見を聞かない、右派のナショナリストたちだ。インド、ロシア、ベラルーシもひどい。社会民主主義の伝統があるスウェーデンは例外だが。
その始まりは、関心を集めることに経済が向かったことだ。ソーシャル・メディアとノンストップ・ニュースの時代に、関心を最も多く集める政治家とは、記憶に残る、普通ではない、自ら「本物である」という者たちだ。こうした「ほら吹き」の政治家は、真実かどうかに関心がない点で、嘘つきと区別される。
彼らが指導者になると、選挙後、すぐに退屈と慢心を経験する。過去の指導者たちは、権力を握って5年経ったときだけそうなった。イラク侵攻を決めたブレアや、ブレグジット投票を決めたキャメロンがそうだ。政治家の職務は統治することと考えられた。しかし、新しい男たちはコミュニケーターであり、彼らのゲームは選挙である。統治は退屈な終章でしかない。
成功は自信過剰をもたらす。破滅を予言する者たちを勝利によって黙らせた。統治することはむつかしい、だって? 先任者たちは愚か者だった。専門家のブリーフィングなど避けて、パンデミック対策班も解散し、休日ごとに勝利を叫ぶ。ナショナリズムと、例外主義を信奉しているから、そんなことはここでは起きない、と断言する。
統治することのむつかしさを何も知らないから自信がある。それは、心理学者が、無能なものは無能であることを理解しない、という効果の一例である。ボルソナーロ、トランプ、ジョンソンは、免疫があると信じて大衆と握手し、人びともそれにならった。ジョンソンは感染し、発症した。
いよいよウイルスが広がっても、繰り返し専門家が警告し、うんざりする説明を、長期のロックダウンに求めたことを嫌って、もっとましな処方箋を待った。その結果、ロックダウンに致命的な遅れが生じたのだ。
彼らは選挙で勝利し、多くの有権者たちが何でも信じることを示した。トランプとジョンソンは、人間が利己的に考えた合理的行動を取らない、という行動経済学を政治的に利用した。分断された政治空間では、支持者たちが立場を変えるより、指導者の無能さを容認する。たとえ、自分の祖父母が無能さによって広められたウイルスで死んだとしても。
閣僚たちは何でも支持するイエスマンだ。彼らは忠誠心で選ばれる。多様性など吹き飛んだ。トランプとボルソナーロは裕福な白人に囲まれ(親族が理想的だ)、ジョンソンの仲間は、男性、私立学校とオックスフォードの出身者だ。
もしかしたら、コロナウイルスが、無知で「糞まみれ」のナショナリストが正解で繁栄するのを終わらせるだろう。しかし、かつて示したように、彼らは現実を打ち破る。
● コロナ対策
PS Jun 26, 2020
A Stronger Recovery Through Better Accounting
WILLEM H. BUITER, IAN BALL, DAG DETTER
若年労働者たちは、一時的に、両親と暮らし始めた。アパートは貸し出して。仕事を失った場合、こうした家賃収入が必要な、歓迎すべき収入だ。ギグ・エコノミーのおかげで、景気悪化の犠牲者たちは企業のように行動する。持っている資産を活用して、所得を最大化するために、バランスシートを見直すのだ。
政府も、支出と歳入を観るだけでなく、資産と負債も見るべきだ。企業がリストラするのと同じく、政府も、過度の緊縮や、それがもたらす社会的苦痛を避けて、力強い回復への道をたどるべきである。政府投資を現時点の支出として観るのではなく、インフラへの長期投資で、公共の資産を増やすレバレッジとみなす。
そのようなモデルは1989年のニュージーランド財政法に観ることができる。強靭な財政基盤とネット資産に注意して、ニュージーランドは、30年前に深刻な金融危機を経験して以来、何度もマイナスのショックを受けたが、容易に乗り切った。
現在の危機では、政府が民間部門に債務保証を拡大している。そこには明らかに、債務保証が終わるとき、銀行や企業が倒産するリスクがある。政府も資産価値の損失リスクに対応したモデルを採用するべきだ。
AirbnbやUberが個人に保有資産の有効な利用を可能にしているように、政府も財政の優れたアプローチを採用して、必要な歳入だけでなく、現在は無視している債務保証のリスクを考慮することができる。景気下降局面でにわかに資産を処分するより、もっと良い解決策があるはずだ。
政府資産の効率的な管理は、経済成長と、財政のキャッシュフロー管理、純コストの抑制に役立つことになる。
PS Jun 29, 2020
The Pandemic Response, Act II
JEAN PISANI-FERRY
12年前の金融危機では、銀行が国有化され、金融緩和が行われた。巨額の財政支援とグローバルな協力が行われた。
しかし、大きな失敗があったことも次第に明らかになった。金融崩壊についての責任を問わなかったことだ。それは近年のポピュリストに対する支持の高まりをもたらした。COVID-19の危機でも、同じ失敗を繰り返すのか?
公衆衛生、ロックダウンと経済コストの公的支援、アメリカにおける感染者の爆発、経済回復に向けた政策、経済コストと不況、需要刺激策だけでは不足、企業倒産の波、大規模な債務組み換えの必要、政府による支援。生産性の不足にも対策が必要だろう。
今、その第2幕が始まった。
PS Jul 1, 2020
Priorities for the COVID-19 Economy
JOSEPH E. STIGLITZ
まるで古代のように感じるが、世界の経済がCOVID-19のパンデミックに対してロックダウンしたのは、それほど前のことではない。多くの人が急速なV字回復を期待したが、それは幻想だった。
パンデミック後の回復は、弱い、貧血症の回復になるだろう。IMFの予測では、2021年末までに、USや欧州経済は4%ほど縮小する。
2つの面でこれは理解できる。1つは、支出が減る。というのも家計や企業のバランスシートが悪化し、倒産が増え、非常に慎重な行動が求められるからだ。同時に、ウイルスは、人と接触する産業に課税するようなものである。消費と生産のパターンが変化する。それは広範な構造変化を意味する。
市場は、このような変化の実行に適していない。航空会社の社員は、ZOOMのエンジニアになれない。拡大する部門は労働を必要とせず、高度なスキルを求める。
構造変化は、伝統的なケインズ的問題を生む。所得効果と代替効果だ。非接触型の部門が拡大するとき、その所得と支出は増えるが、縮小する部門における所得・支出の減少におよばない。パンデミックの場合、これに不平等の問題が加わる。投資は、人ではなく、ウイルスに感染しない機械に対して行われる。貧困層の買う商品は労働集約的で、個々に機械化が進む。こうして2重に不平等が強められる。
悲観論を強める、さらに2つの理由がある。まず、金融政策は効果がない。支払い不能の企業に追加の融資をしても無駄である。すでに世界金融危機後から金利はほぼゼロになっている。債務の累積に関する保守派の反対がある。しかし、ウイルス対策や医療サービスは拡充しなければならない。
必要な流動性を供給し、不必要な倒産を避け、労働者と企業との関係を維持するべきだ。しかし、「ゾンビ」企業が増えることは成長を損なう。連銀がジャンク債市場を救済したのは間違いだった。
むしろCOVID-19が長くわれわれの経済に残るなら、われわれは政府支出でさまざまな問題を解決するべきだ。人種差別、不平等、医療サービス、化石燃料など。解決策に導く条件を公的支援の配分に反映することが望ましい。
実際、今こそ、労働集約的な、環境に優しい経済に移行する大規模投資計画はふさわしいだろう。
● アメリカ経済の回復
FT June 28, 2020
Small business: a canary in the US economic coal mine
Rana Foroohar
あなたがアメリカ経済の回復経路を予測しようと思うなら、V、W、L、あるいはKでもなく、株価の変動など見なくてよい。そうではなく、中小企業を観るべきだ。彼らこそアメリカの雇用の半分をもたらしている。彼らこそアメリカの現状を示す指標であり、非常な困難にあることを意味する。
現状の支援策だけでは、小規模ビジネスは次々に倒産する。私の好きな映画館とレストランの複合ビジネスは、3月に閉鎖された。
4月半ばまでに、鍵屋、美容院、ペット業など、個人サービス業の収入は80%も減少した。それらの事業主はマイノリティーが多い。これも、パンデミックが不平等を拡大する理由である。ヘルス・クラブ、レストラン、小売業など、雇用の半分が危機にある。
大企業の多くは好調だ。特にハイテク企業は、パンデミック前よりも、企業の富のより大きな部分を得ている。彼らの株価は上昇しているが、それは現実と無関係だ。アメリカ連銀が全ての資産価格を保証したからだ。ハーツは倒産を発表したが、株価は上昇した。
感染者の統計や、怪しい株価分析を観なくても、街を歩けばアメリカ経済がわかる。多くの中小企業は閉店したままで、それはパンデミックが起きてから失われた2000万人の雇用の3分の2を占めている。感染の第2波が襲うのは確実だろう。
その影響は絶大だ。零細企業の多くはネット取引では生きられない。彼らはロックダウンに対応できず、グローバル資本市場から資金を得られない。彼らが依拠するのは地域社会である。
NYT July 1, 2020
We Socialize Bailouts. We Should Socialize Successes, Too.
By Mariana Mazzucato
経済危機では誰もが政府に支援を求める。しかし、経済が好調になると、われわれは政府を忘れ、企業は報酬を吸い取ってしまう。それは2008年の金融危機でも起きた。
この問題は不平等の拡大につながる。リスクは社会化するのに、報酬は私有化する。コロナウイルス危機は、このダイナミズムを変える好機である。
価値は価格や支払によって測ることがベストではない。政府は、毎日、ビジネスや市民に利益をもたらすような、価値を創り出している。ハイウェー、教育、その他の不可欠な財やサービスを政府は供給している。また、GPSなど、重要な技術を提供して経済を形成している。
市民がその「配当」を得られるなら、政府により支援や救済、市場介入は、より平等な社会をもたらすだろう。COVID-19のワクチン開発はその出発点だ。政府と企業の共同パートナーシップで開発し、特許権は共通の資金プールが所有する。ワクチンは世界中で利用でき、無料である。
● EU復興基金
FT June 29, 2020
A rapid rebound would challenge EU contradictions
Wolfgang Münchau
ユーロ危機では失敗した財政・金融政策の統合が、コロナウイルス危機に対しては実現するのか? 2012年には不況になった。しかし、今度はある諸国が急速に回復するかもしれない。そのとき、他の人びとを支援することができるか?
ECBも欧州委員会の復興基金も、その法的な根拠や節理湯に反対する声がある。EUの低成長を前提して議論することでは、より起きそうな不均等な成長を、諸政府が財政政策の協力によって管理する政治的判断にまでおよばない。
デジタル経済に適用した北欧圏と、もし観光が回復するなら、5G情報通信網によって要塞化する南欧圏が急速に回復するだろう。ドイツや中欧の工業センターはロックダウンから長期的に損失を被る。
金融政策は不均等成長問題を解決できない。財政政策はある程度効果がある。しかし、EUの復興計画には、それにふさわしい手段が盛り込まれていない。
● 香港国家安全法
FT July 1, 2020
US-China spat puts future of Hong Kong dollar in the spotlight
Henny Sender
香港は米中対立の焦点になった。香港ドルとUSドルとを固定した為替レートシステムだ。大規模な資金流出の圧力で、香港ドルの崩壊が迫っている、と投機業者は考える。
しかし、香港通貨庁(金融管理局HKMA)のEddie Yue長官は、それを懸念しているだろうが、平静である。金利が底にある世界で、通貨防衛は容易である、と。
20年前のアジア通貨危機に比べて、現在はまるで恐怖を感じない。当時、タイ・バーツ、インドネシア・ルピー、韓国・ウォン、マレーシア・リンギ、台湾ドルの価値が下落し、香港ドルも強大な圧力を受けた。
しかし今なら、10ないし15%のプレミアムで資金が戻るのに十分だろう、とYueは言う。香港は、JD.com、NetEaseなど、中国の優良国有企業の上場からも利益を受けている。
通貨庁の最初の防衛ラインは、4420億ドルの外貨準備だ。マネタリー・ベースのおよそ2倍ある。Yueは、取引監視システムの能力がアジア通貨危機のときより大きく向上し、銀行が投機業者に融資すれば察知できる、と言う。
それでも投機圧力が続くとき、通貨庁はアメリカ連銀ではなく、中国人民銀行の支援を求めるだろう。香港通貨庁がアメリカ連銀の支援を受けることは、たとえ金融政策の独立性を前提しても、アメリカ政府・財務省が同意しなければ不可能だ。
すべての放水車が機能すれば、火災を鎮めるのに十分だろうか。しかし、今回は異なる危機だ。香港の依拠するシステムが疑われている。
「香港は、かつて冷戦時代の西ベルリンのようなものだった。」とKevin Laiは言う。しかし、「東ベルリンになるだろう。」
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The Economist June 20th 2020
The new world disorder
Global trade: Invisible hands
The pandemic: Not Britain’s finest hour
Federal Reserve (1): From yields to maturity
Federal Reserve (2): Swapping panic for calm
Global trade: Ninety percent of everything
Free exchange: Changing room
(コメント) 《世界無秩序》の特集記事は、国連再考です。ざっと見ただけですが。
世界貿易が、コンテナやタンカーの多国籍乗組員によって機能しているのは、すばらしい市場メカニズムでしたが、パンデミックの犠牲になっています。まさに「共有地の悲劇」です。労働者の代表組織と世界の輸送インフラを代表する協議会が必要です。
アメリカ連銀の立場は、ますます、微妙な位置にずれてきています。内外の金融市場に対して、アメリカ連銀が関与しなければならず、ますます金融管理体制に頼るしかない世界で、実際の経済をどのように転換させるのか、見通しが立たないからです。中央銀行や金融政策の積極的な役割を、いつまで、避けているふりを続けるのか。
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IPEの想像力 7/6/20
突然、スマートフォンが警報を発するような大雨が始まった。熊本、宮崎、長崎、九州北部、そして、高知や山口、東海や北陸地方にも、豪雨が襲っている。
これほどの大雨が毎年のように襲うのであれば、地域によっては、もうこの土地に住めない、と思うのではないか。東北の太平洋岸を津波が襲ったときのように、大雨に弱い土地から人びとは集団で退避し、移住するという判断をしなければならない、と思いました。
コロナウイルス危機も、私たちの職場や住居、さらに、貿易や投資のパターンを大きく改造するに違いありません。
ペストと戦争が広まった時代には、城壁で囲まれた都市が、その周囲の農民とともに、略奪や疫病から人々を守ったと思います。21世紀の人類も、気候変動、ウイルス感染を避けて、金融グローバリゼーションを離脱した土地が各地に現れるのでしょう。時代の支配的な政体や思想が変態し、世界の景観が変貌し始めたように思います。
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ロックダウンでは、経済活動を急停止することになります。
もしこのまま東京の感染者が爆発し、1日に1000人を超えたら、東京をロックダウンするのだろうか。東京の住民が外へつながる交通手段、道路も空港も、港も封鎖される。そして、食料品の購入のほかは、屋外へ出ることを禁止する。外出する際には許可を申請し、スマートフォンで位置確認情報を通知し続ける。
居酒屋、レストラン、ホテル・旅館、映画館、劇場、商店、オフィスビルも閉鎖する。それに対して、緊急融資と財政支援によるベーシックインカムの補償、コロナウイルス危機の「ソーシャル・ディスタンス」を行う。ロックダウンは、経済に対する大きな穴を空ける。絶壁となって、その土地の活動水準が低下する。そして、一定期間を経て再開し、回復する。
今は、政府と中央銀行がこのギャップを緊急融資と財政支援で埋めている。しかし、永久にはできないし、全域でもできない。将来、債務をどのように処理するのか? だれが負担するのか? 各地の政治対話と合意形成が問われる。中央銀行は、どのような形で、政治的決定に参加し、従うのか?
政治家は問いかけに答えない。自分たちの中に、深い問いかけと思想が準備できていないからである。補償と財政赤字、膨大な融資は、答えることを先送りしている。
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被災者の声を、なぜもっと集めないのか? 国民的な連帯、救済や支援についての具体的な仕組み、それを支える財源と思想を、もっと語る必要がある。
東日本大震災でも、各地の水害でも、コロナウイルス危機でも、被災者は自分たちの住宅と雇用を、何とか回復し、子供たちに希望を持てるような道を示してほしい、と願っただろう。13メートルの堤防を国費で建設できる、というのは、それに応えたものではない。
「IPEの果樹園」に載せた「IPEの想像力 3/11/19」を観てください。
https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2019/031119review.html
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政府を担う政治家であるなら、国民の合意形成に向けて、責任ある答えを示してほしい。
接触型職種の減少。移動や観光、劇場の閉鎖。自宅待機。外出規制。こうした方針が経済や社会にもたらす意味と、それに対して長期的な展望を与え、国民の負担を減らすような方針を示すこと。だからお店を閉め、業態を変え、職場を変わる。移住する。
医療サービス、医療保険、ワクチン開発。検査、追跡、隔離。感染者と非感染者の分離。それらはどのように組織されるのか。UK、US各州、スウェーデン、ブラジル、インドなど、集団免疫は達成されるのか。医療崩壊と死者数はどうなるのか。
エッセンシャル・ワーカーズが、中国でも、アメリカでも、外出規制の中で生活を維持している。ネット販売と倉庫、配達。黒人、マイノリティー、移民労働者。農業の季節労働者。食肉加工場。だれが、どこで生産し、だれがそれを運ぶことで、感染爆発を回避するのか。
もっと急速に死者数が増加するなら、戦争状態のように国家の指揮・命令が強化されただろう。独裁化する危険と、民主主義の適応力が求められる。
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政府とは権力を握り、それを行使するエリートだ。
女性記者に「おっぱい触らせて」と手を出す福田事務次官を、何が悪いのか、という顔でかばった麻生財務大臣や、「国家の分離、政権転覆、テロ、外国勢力との共謀」を国家の安全を脅かすとみなし、終身刑にまで問える香港の治安組織の幹部なら、政府とはそういうものだ、と考えるのかもしれない。
パワハラ、セクハラのなにが悪いか。それが権力だ。
人種差別、女性差別こそが権力だ。それ以外に権力なんてあるかよ。
そう思っているのかな?
暴力に対抗する。正義を行う。協議や交渉によって合意を形成する。積極的に説明し、改善策を見出す。コロナウイルス危機が、権威主義的な支配体制と、民主的な統治システムとの違いを示す。グローバリゼーションが動揺し、変貌し始めるとき、そのさまざまな変種と混合体制が生まれてくる。今や、「私たちは皆、香港市民だ。」
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