IPEの果樹園2020
今週のReview
6/29-7/4
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インド・中国紛争 ・・・人種差別と遺産 ・・・コロナウイルス危機後の企業・社会 ・・・アメリカ資本主義の改革 ・・・リアリストとパンデミック ・・・パンデミック後の経済 ・・・大統領の核兵器使用 ・・・中国のトランプ支持
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● インド・中国紛争
FT June 22, 2020
India picks a side in the new cold war
Gideon Rachman
中国とソ連の分断は冷戦の歴史を画する事件であった。中国とインドの分断が起これば、しだいに高まってきた米中の「第2の冷戦」にとって決定的な事件になるだろう。
最近まで、インドのモディ首相は、米中対立が激化する中でも、インドがどちらの側か選択することを避けてきた。しかし、先週、両国が国境地帯で衝突し、インド兵20人が死亡した事件は、インドを中国から分離する転機になるかもしれない。
2014年に政権に就いたモディは、習近平との数度の首脳会談を持ち、中国との新しい協力関係を称賛していた。
その気分は完全に消し飛んだ。インド政府の政策エリートの間では、中国は敵対する強国であり、USや、アジアの民主主義国家、日本、オーストラリアと緊密に協力して対抗するしかない、というコンセンサスがほぼできてきた。
中国の台頭について、この数年、インドは不安を感じていた。中国はパキスタンと関係を強化し、インドの近隣諸国(Sri Lanka, Myanmar, Bangladesh and Nepal)にも接近した。インドは、中国が呼びかけた一帯一路にも参加しなかった。
14億人のインドは自律を好み、ニューデリーには、なお、伝統的な「非同盟政策」を支持するグループや、中国との貿易関係にこだわる勢力が残っている。
しかし、米中を均等に扱う姿勢は放棄されるだろう。政権に近い、ある知識人は、中国がインド人兵士を自由に殺したのは、それが日本の兵士や台湾の兵士ではなかったからだ。アメリカの安全保障によって守られている、と考えた。
トランプは同盟国への安全保障の約束を嫌い、インドに拡大することなど考えられないが、ジョー・バイデンなら、11月に新政権がそのアイデアを採用するかもしれない。
購買力で見た世界の4大経済国家は、中国、アメリカ、日本、インドである。彼らはインド太平洋における勢力均衡を探している。中国がインドをアメリカの側に押しやるのは、愚かな判断だ。
● 人種差別と遺産
The Guardian, Tue 23 Jun 2020
Germans know that toppling a few statues isn't enough to confront the past
Géraldine Schwarz
過去がわれわれの現在を改善するためには、歴史上の何人かを非難し、銅像を引き倒すことでは不十分だ。確かに、ベルギーのレオポルド2世の銅像や、ブリストルのEdward Colstonが、公共の場で、何の正しい説明もなく据えられているのは憤慨するにふさわしい。しかし、偶像破壊はしばしば、単なる正義の幻想でしかない。それはすぐに忘れられて、われわれ自身を知るために過去を学ぶという機会を失ってしまう。
19世紀、20世紀に、アメリカ、イギリス、フランスなどの国が、民主主義や自由の国だと自慢していたが、人びとを「啓蒙する」と称して、悪辣に弾圧し、搾取した。第2次世界大戦後も長く、その抑圧は続いた。
過去と向き合うには、欠かせない一歩が必要だ。犠牲者の視点に立つこと。抑圧され、征服され、侮辱された者の視点に立つことだ。そして、謝罪できることだ。
しかし今も、多くの人はこの過程を取ることにしり込みする。イギリスは、明確になった虐殺行為について、植民地における経済的な収奪や民族の隔離について、謝罪を拒んでいる。それは単にショッキングなだけでなく、植民地の遺産に疑いを生じるものだ。イギリスの歴史における失敗は、学校でも、博物館でも、メディアでも、国民教育の一部ではない。だから、これほど多くの街の、多くの銅像が、崩壊した帝国の指導者を称えているのである。
過去を記憶することは未来を創ることである。世界を理解し、失敗を避け、危険を学ぶ。それは他者かもたらすだけでなく、われわれが犯すからだ。
● コロナウイルス危機後の社会
FT June 22, 2020
The problem with Big Food
Rana Foroohar
食糧大企業は、世界で最も政治的なビジネスとして、急速に、ハイテク大企業を抜いて関心を集めている。生命にとって、農業生産以上に不可欠なものは少ない。しかし、食糧安全保障は、ほとんど発展途上国の話だった。
今は違う。パンデミックで、極度に集中したサプライ・チェーンが脆弱さを示したからだ。食肉加工はCOVID-19の震源地になっている。
食糧大企業は、米中のデカップリングの焦点、サプライ・チェーンがグローバリゼーションの逆転に向かう注目分野になっている。なぜなら、危機が効率性から回復力に焦点を移したからだ。農業の効率性は信じられないほど上昇してきた。アメリカの農場は70年間で面積当たり3倍の生産量を得ている。しかし、それは激しい集中を意味していた。一握りの企業が、あらゆる分野を支配している。
効率性を上げるために、たとえば、アイスバーグ・レタスが生産を増やした。長距離・長期間のサプライ・チェーンに適しているからだ。ほとんど水だけで、栄養はない。商品作物の収益を重視して、生産量が増大した。
EUは、「農業地域化戦略」を推進している。食糧生産の可用性と持続可能性を高めることが目標だ。アメリカの民主党も、中西部の重要な州で票を増やすために、小規模農家の破産を重視し、大企業支配を批判していた。今や、COVID-19が農業の回復力と地域課を超党派の課題に変えた。
年中生産できるカリフォルニアやフロリダに集中するより、19世紀の農場と現代の工業化された農場との中間が望ましい。また、技術革新を利用した新興企業、Plentyは、垂直型の屋内農業を都市でも配置できる。99%の土地、95%の水を節約し、有機栽培ができる、と主張する。
より良い農作物、より良い賃金、集中の排除。これがわれわれの求める新しい農業だ。
NYT June 25, 2020
Free Produce, With a Side of Shaming
By Andrew Coe
週に1度、マスクをした男性と女性が、コニー・アイランドのNeptune Avenueに、ワンブロックの長さの行列を作る。彼らがめざすのは食品庫だ。
そこで、“U.S.D.A. Farmers to Families Food Boxes”を受け取る。リンゴ、メロン、ポテト、ヤム芋、オレンジ、レタス、玉ねぎが23ポンド入っている。これをもらって持ち帰る。仕事を得られるか、あるいは、来週に、同じ行列に並ぶ。
1930年11月半ばに、ハーレムのイースト104番通りに、400人の男女が行列していた。大恐慌で仕事を失った人々に、食糧を供給するのは、政府の最初にすべきことの1つであった。これによってアメリカ人は生き延びた。
しかし、最大の問題は、食糧の配給を受けるために並ぶことが意味する恥辱であった。この行為は、自分の家族が貧しいことを近隣に示すことになった。その恥辱を嫌って、家族を養う多くの男たちが、妻に並ばせた。また多くの家族は政府の支援を拒んで、家具を売った。ときには、そのプライドを守るために餓死した。
NYT June 25, 2020
When Bosses Shared Their Profits
By Robert B. Reich
この苦しみと危機から、より公平な社会が生まれるならすばらしいことだ。旧いアイデアが復活するかもしれない。利潤の共有だ。
労働者との利潤共有は、アメリカが農業から工業に移行する激動の時代に生まれた。1916年12月、労働統計局の報告によれば、利潤共有は、雇用主と労働者の間でしばしば暴力的になる紛争を、調和と協力の大きな精神が育つように促し、結果として、効率性とより大きな利益をもたらす、と述べていた。
シアーズ・ローバックSears, Roebuck and Co.はアメリカ最大の企業の1つだった。3万人から4万人を雇用し、利潤共有を実施した。企業は利潤の5%を、配当を減らすことなく、利潤共有基金に入れた。参加を希望する被雇用者は給与の5%を入れた。基金はすべてシアーズの株式に投資された。NYTによれば、その目的は「雇用主と被雇用者の間に忠誠心と調和を育てる」ことであった。3年後の評価では、被雇用者の92%が参加していた。
シアーズの計画は平等を重視するものだった。株式の分配は、職位ではなく、勤続年数によって決まった。最長の勤続年数を経た労働者は、1ドルに対して3ドル近くを得た。1950年代までに、シアーズの労働者たちは会社の4分の1を所有していた。1968年、典型的なサラリーマンが退職するとき、現在価値で100万ドル以上の株式を所有していた。多くの企業Procter & Gamble, Pillsbury, Kodak, S.C. Johnson, Hallmark Cards and U.S. Steelがこの運動に参加した。なぜなら、道義的に優れ、高い生産性をもたらしたからだ。
利潤共有は、労働者がより生産的になる刺激を与えた。不況のときも、利潤が減ると基金への支払も減るため、レイオフが減った。しかし、労働者の基金による給付も減ったし、もし倒産すれば、投資は無価値になるリスクがあった。
利潤共有は、アメリカ企業の成長に一致していた。1950年代まで、大企業の多くの労働者はその企業だけに勤めて引退した。企業は被雇用者たちの共同体であった。CEOもその共同体で昇進し、その報酬は平均給与の20倍を超えることが珍しかった(今では、しばしば300倍を超える)。民間部門の労働者の3分の1が労働組合に参加していた。
しかし1980年代から、大企業のすべてで利潤共有は消滅していった。その主な理由は、アメリカ企業の間に敵対的買収・企業再編の波が始まったからだ。Carl Icahn, Ivan Boesky and Michael Milkenのような乗っ取り屋たちが、コスト・カットで収益の増す企業を標的にした。高い給与は最も削られ、労働者の解雇と機械化が進んだ。乗っ取りを恐れて、CEOは同じことをした。
矛盾したことに、労働者との利潤共有は消滅し、経営幹部と「高度人材」との利潤共有が広がった。ボーナス、株式、ストック・オプションで、経営陣は必要な人材を引き抜き、温存したからだ。
2000年以来、総国民所得から労働者が得る部分は減少した。他方、企業利潤の部分は着実に増大し、現在の高株価に至った。この株価の源泉は、経済成長よりも、労働者から奪ったものである。
ジェフ・ベゾスはAmazon株式の11.1%を所有し、その価値は1650億ドルもある。もしAmazonの被雇用者が、1950年代にシアーズの労働者が得ていた企業価値の4分の1を得たとすれば、1人が所有するAmazon株式の価値は38万6904ドルになる。
利潤共有を広める方法はいくつもある。例えば、パンデミックの支援策を、財務省や連銀が企業に与えるとき、その利潤を被雇用者と共有していない企業には与えないよう議会制限することだ。
40年間も利潤を増やし、賃金を減らす趨勢が続いたことは、経済的にも政治的にも、持続できない。利潤共有は、資本主義が少数者のためではなく、多くの者の利益に役立つための、第1歩だ。
● アメリカ資本主義の改革
PS Jun 24, 2020
The Main Street Manifesto
NOURIEL ROUBINI
ジョージ・フロイド殺害に続く大規模なデモは、100以上の都市におよび、ドナルド・トランプと彼が代表する世界に対する批判と共鳴している。多くの下層階級が債務の重圧と、社会的な上昇を拒むアメリカで、システムに反対している。それはアフリカ系アメリカ人、ラティーノ、そして、ますます多くの白人を含む。
この現象はアメリカだけに限らない。2019年だけでも、大規模なデモがBolivia, Chile, Colombia, France, Hong Kong, India, Iran, Iraq, Lebanon, Malaysia, and Pakistanで起きた。そのすべてが経済停滞、汚職、経済機会の不足に抗議している。
2008年の金融危機以後、多くの企業はコストを削り、特に労働コストを減らして利潤を増やした。高賃金で保障をもたらす正規の雇用者ではなく、パート、時間当たり、ギグ、フリーランス、契約型の雇用を増やした。それは「プレカリアート」とよばれたが、内的な分断により移民や社会的弱者を悪者にし、政治的な過激化に向かう危険な状態を生んだ。
多くの若者がますます不確実なギグワークに就いている。寡占市場に向かうアメリカ大企業は、不平等を強め、アメリカ市民の限界化を進めている。アメリカン・ドリームはつねに希望であり、現実ではなかった。しかし、社会的上昇を阻むシステムに、若者たちは怒る理由がある。
プレカリアートは、カール・マルクスが『共産党宣言』に描いた現代のプロレタリアートである。失うものは何もない。世界を手に入れるために、万国のプレカリアートは団結せよ!
NYT June 24, 2020
The Jobs We Need
By The Editorial Board
アメリカの生産は、過去40年間で、ほぼ3倍になったが、両党の政治家に助けられて、その成果は富裕層のものになった。
1982年、食肉加工場の労働者は、インフレ調整後の平均時給が24ドル、年収5万ドルだった。現在、ミートパッカーの平均時給は、はるかに多くの肉を処理しているが、わずか14ドルでしかない。
多くの介護職員が、その多くは女性やマイノリティーだが、ベビーブーマー世代の高齢者を介護するが、その報酬では自分の家族を養えない。
もし労働者の所得が1970年から経済成長とともに増えていたら、アメリカ人の所得順位で下位90%の人は、平均で年1万2000ドルも所得が増えているだろう。すべてのアメリカ人労働者は、毎年、1万2000ドルの小切手を上位10%の富裕層に送っている。
GE(General Electric)は、アメリカを代表する複合企業だった。1953年の報告書で、多額の連邦税を支払った、と自慢した。サプライヤーや労働者にも、長期の研究開発にも支払ったことを誇りにした。
しかし、1981-2001年に会長であったJack Welchの下で、GEの主要な目的が「電球の生産」から「金儲け」に変化した。最初の3年で、GEは65億ドルの利潤を上げたが、連邦政府に企業所得税を1ペニーも支払わなかった。ウェルチは、労働者に支払う賃金より、レイオフを自慢した。
投資家たちは企業を買って、レモンを絞るように利潤を増やし、株主を幸せにした。自社株を買い戻し、経営幹部にはストック・オプションを与えた。
この国は豊富な資源を持っており、すべての労働者に、住宅や食料、その他の必要な生活物資を購入できる賃金を支払える。しかし2017年、1700万人以上の労働者が、その多くは女性やマイノリティーだが、非常に惨めな賃金しか支払われていないため、家族が貧困ラインより下の暮らししかできない。
連邦最低賃金は、インフレ調整すれば、15ドルに上げるべきだ。現実には7.25ドルである。もしデンマークのマクドナルドが利潤を出せるなら、そこでは新しい労働者でも時給20ドルを得ているのだが、アメリカで時給15ドルを支払っても利潤を出せるだろう。
広く繁栄をもたらすことのない利潤を求める時代に、われわれは暮らす。しかし、市場のルールを書き換えるパワーはわれわれの手にある。
不正義は今もある。しかし、改革の機会もあるはずだ。
NYT June 24, 2020
American Workers Deserve to Live With Dignity
By Kevin J. Delaney
人種差別に抗議する。ほかにも不正義がある。ますます多くの低所得労働者に対する扱いだ。人種を超えて、人びとは不当に苦しんだ。
あまりにも多くのアメリカ人には、十分に食べて、家族と尊厳ある、安全な住宅に住むだけの生活費を得る、そういう基本的な自由がない。
WalmartやAmazonの低賃金労働者たちは、アメリカを代表する大企業で働きながら、食糧スタンプやメディケイドのような、公的支援に多くを頼っている。フルタイムで働いても、家族を養うのに公的支援を受ける者がいる。
もっと公平な、もっと回復力のある国家であるには、どのような経済が必要なのか。将来の仕事と報酬はどうあるべきか。システムに染みついた不正義を正す。そのための政治権力を、富裕層が握っている。われわれは民主主義を資本主義から救出し、資本主義そのものを救出するべきだ。
より多くのアメリカ人に基本的な自由を。アメリカを創るのは私たちだから。
● リアリストとパンデミック
FP JUNE 24, 2020
The Pandemic and the Limits of Realism
BY SETH A. JOHNSTON
リアリストはパンデミックに対する反応についても、主権国家が最も重要であり、大国間の競争、国際協力の障害は明らかだ、と主張する。
しかし、パンデミックはリアリストの欠点も明らかにしている。リアリズムは状況の分析であって、解決策や予防策を示すわけではない。独立した国家の行動は、リアリズムの視点から、理解できるし、予測可能である。しかし、不十分だ。国境封鎖や旅行禁止で、国家はパンデミックから救われるわけではない。
資源の争奪についても、リアリストは超国家的リスクと国益の対立を説く。しかし、建設的な代案は示さない。国連やWHOを批判するのは、的外れである。なぜなら、国際機関は国家に代わるものでも、国家の地位を脅かすものでもなく、むしろ外交の手段、国家権力の行使にかかわる装置である。
国家は確かに自国の利益を優先するが、しばしば協力することが利益になり、国際機関は協力を容易にする。そしてもちろん、国際機関による解決を安易に期待する者は、リアリストの警告を学ぶ必要がある。
協力をどのように実現するか、リアリストが示した1つの古典的なケースが覇権国(ヘゲモニー)であった。アメリカは国際機関を創る点で指導的役割を担い、それらから大きな利益を受けてきた。第1次世界大戦や国際連盟が示すように、アメリカはそれを最優先したわけではなかった。しかし、最後は、国際協力によって国益を実現することを選んだ。
● パンデミック後の経済
PS Jun 23, 2020
The COVID Shock to the Dollar
STEPHEN S. ROACH
パンデミックが経済変化を加速している。COVID-19ショックは財政赤字を増やすことは、金利がゼロ近辺であるから問題ない、と言う。しかし、すでに低水準にある国内貯蓄がマイナスに低下するだろう。それは記録的な経常収支赤字と対外的なドル価値の急落を意味する。
貯蓄を破壊して成長できる国はない。貯蓄は長期的な成長の源泉である。「アメリカ例外主義」は間違いだ。
1960-2005年の45年間、アメリカの貯蓄率は平均で7%だった。第2次世界大戦後、生産性を高めて最も成長した1960年代、年貯蓄率の平均は11.5%であった。
貯蓄不足で、高い投資率と成長率を望むなら、アメリカは外国の貯蓄を借りて、経常収支赤字を続けるしかない。世界の支配的な準備通貨として、ドルは「途方もない特権」を持つ、と言われたが、COVID-19の時代に、その常識は通用しない。
アメリカ議会は経済状態の急激な悪化に対する支援策を増やし続けている。2008年の世界金融危機後、アメリカ国内の純貯蓄率は平均でマイナスになり、連邦政府の赤字はGDPの10%であった。COVID-19の危機は、今後2-3年、純貯蓄率をマイナス5-10%に急落させるだろう。
アメリカは外国の貯蓄を急激に借り入れ、経常収支赤字をそれに見合うだけ増やすだろう。外国の投資家はアメリカに一層の投資を好むだろうか? アメリカは保護主義に傾き、脱グローバリゼーション、デカップリングを進めている。世界の外貨準備に占めるドルの割合は、2000年の70%から、現在は60%を切っている。システム化された人種差別、警察の暴力に対する抗議デモが続いている。それは、他の主要経済に比べて、アメリカの金利やドル価値に影響するはずだ。
連銀はインフレが遅れる限り、財政赤字に合わせた金融緩和を継続する。変化は金利よりもドル安に向かう。この2-3年で、ドルは35%安くなると思う。それはかつてない衝撃である。
● 大統領の核兵器使用
NYT June 22, 2020
Who Can We Trust With the Nuclear Button? No One
By William J. Perry and Tom Z. Collina
トランプ大統領の権力乱用に関する論争は、さらに暗黒の、軍最高司令官として、核兵器の使用をめぐる問題に及んでいる。大統領が平和的な抗議デモに対して軍隊を派遣する権限を行使するなら、彼は核兵器を使用する権限も乱用するかもしれない。
4年前、大統領選挙で核戦争を始める権限が、チェックされないまま、信頼できない人物に与えられる問題が議論になった。そのときヒラリー・クリントンは、「誰が核兵器を持つとしても、トランプの過敏な反応を知っているから、彼が核戦争に至るほどの事態は起きないだろう」と応えた。
しかし、その誰かがいた。核武装した北朝鮮の指導者、金正恩だ。2017年、トランプ大統領は「炎と怒り」が北に降り注ぐだろうと約束した。その後、金をからかった。「私も核のボタンを持っている。彼のものよりずっと大きく、もっと強力だ。しかも私のボタンは作動するぞ。」
トランプは核戦争を始める絶対的権限を持っている。数文で、大統領は広島型原爆の1万倍の核兵器を発射できる。彼が決めれば、だれも、防衛長官も、議会も反対することはない。文明の終わりだ。
こうした懸念は、トランプが最初ではないし、最後でもない。情報を知らない、感情に走る大統領(トランプ)、過度の飲酒にふける大統領(ニクソン)、他の活動にふけって判断が鈍った大統領。大統領は人間であり、失敗を免れない。
現在の枠組みを作ったのはトルーマン大統領だ。彼は広島、長崎の破壊を観て、原子爆弾を2度と使わないと決断した。それは、核兵器の使用を軍の権限から切り離す、という意味だった。トルーマンは、核兵器は大統領が個人として認めない限り使用できない、と宣言した。それは危険な先例となった。
われわれは、冷戦の歴史において何度か、核戦争が起きる失策を犯しかけた。特に、間違った警報だ。1980年、ペリーはソ連が多数の核ミサイルを発射した、という間違った警報を受けた。幸い、すぐに誤作動がわかった。今、間違った警報が一層の高い確率で核戦争に至る。われわれの核兵器や警報システムはサイバー攻撃に弱いからだ。
権限を1人に集中するのは、間違った前提による。不意打ちの第1撃があるだろう、という前提だ。冷戦終結から30年を経て、それは間違いだったとわかっている。ソ連も、同じことを恐れていた。そして、同じ結論に達した。それは国家の自殺行為だ。報復が始まり、両国は、そして世界も破滅する。
1985年、レーガン大統領とゴルバチョフ書記長は「核戦争に勝者はなく、戦ってはならない」と宣言した。それでも危機において、大統領が短時間に決断する圧力を受けることが懸念される。それは数分ではなく、数時間に伸ばすべきだ。
第1に、核兵器の使用権限を議会の特別なグループと共有する。第2に、アメリカから核戦争を始めることはない、報復だけに使用する、と宣言する。第3に、地上発射の弾道ミサイルを全廃する。
● 中国のトランプ支持
FT June 25, 2020
Beijing would prefer another term of Trump chaos to a Biden presidency
Jamil Anderlini
ドナルド・トランプの再選を助ける者は、驚くところから現れる。
中国は、民主党のバイデンが当選するより、トランプが再選されて、もう4年間、アメリカ政府が混乱状態に落ち込むことの方を好んでいる。トランプはそれを意識して、農産物の購入を求めた。
中国国営のGlobal Times編集者は、アメリカ大統領が中国を団結させる、と述べた。「彼はアメリカを不気味な、世界から憎まれる国にするから」、皆がトランプ再選を願っている、と。
北京は、アメリカの敵意が共和都にも民主党にも広がっていることを知っている。選挙は、その方向を変えるものではなく、政府の能力だけが問題だ。北京が好ましくないと思う候補は、伝統的な同盟諸国Korea, Japan, India, Taiwan, Australia, Vietnam, Indonesia, Malaysia, Africaの一部, Europeの大部分と、中国の増大する攻撃的姿勢に懸念を深める他の多くの国とを、協力させる人物だ。
2016年、トランプは当選して以来、その「アメリカ・ファースト」の思想で、戦後のアメリカが築いたリベラルな世界秩序を誰よりも破壊してきた。最も緊密な同盟諸国を攻撃し、脅迫し、侮辱した。そして、習近平を含む独裁者たちと親しくなった。
中国はつねに、リチャード・ニクソン以来、共和党の大統領と交渉することを好んだ。彼ら(共和党の大統領)は、よりプラグマティックで、中国の労働力と市場に魅力を感じる大企業に共感しているからだ。トランプも取引を好み、イデオロギーがなく、人権のことなど気にしない。
トランプは、独裁者への傾向を示し、新聞を弾圧し、自分の子供を政府の要職に指名する。抗議デモを粉砕するために軍隊を呼ぶ。アメリカのシステムは中国と何も変わらない、と宣伝するのも簡単だ。、
11月にトランプを支持することが、中国を再び偉大にする。
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The Economist June 13th 2020
The power of protest
Cities and the pandemic: After disaster
Renewable energy in Japan: No mill will
Industry in Africa: Will it bloom?
Bagehot: Battle for the working class
The yuan: The 24-body problem
Free exchange: Stony the road
Rethinking capitalism: Free but fair
(コメント) パンデミックに関して、見通しのある議論は見つからない。都市が廃棄されるのか? アメリカやブラジルはどこまで拡大するのか?
日本の再生可能エネルギーに関する記事が目に止まった。風力や太陽光は、どうも地形的にむつかしいようだ。地域に分割された電力供給の独占を批判している。地熱発電に最も期待しているけれど、進まない。革新精神が足りない、ということだろうか。
アフリカの花の輸出に希望を感じる。アジアの工業化モデルではない、アフリカの近代化が模索されている。それは《ルイス・モデル》の再発見だ。
黒人差別の問題は包括して論じられている。人民元のバスケット・ペッグに疑問を示し、資本主義の改革論も紹介する。
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IPEの想像力 6/29/20
テレビを観ていると、専門家会議を廃して、経済学者を加えた諮問委員会を創る、ということで、そのメンバーが質問に答えていました。コロナウイルス危機から経済が回復するために、「政府は何をするのか?」
第1に挙げたのは、マイナンバーとキャッシュレス決済で、ポイント還元25%を行うこと。しかし、コロナ対策とキャッシュレス決済の推進とを合わせた、政治家と官僚の発想に、不公平な、あるいは、不当な国民操作・機会主義を私は感じていました。今度は、マイナンバーも普及させる。なんて、《対策》の中身が薄い。
もう1つは、(飛ばし・中抜き疑惑のある)「Go To キャンペーン」です。これも、なんだ・・・これは? と思うものです。・・・地方経済・雇用の回復はもっぱら「観光業」で成り立つ、というのか? 観光に関係しない産業や雇用は、財政支援・振興策を得られないのか? 不公平で、不当な、何より、効果の怪しい、見通しのない財政赤字・公金浪費型選挙対策ではないでしょうか?
そして最後に、諮問委員会のその先生は、《対策》のポイントは「安心」です、と強調しました。マクロの経済モデルで、「安心」を欠くことの投資・消費への影響を分析したのかもしれません。でも、なんで「マイナンバーとキャッシュレス決済で、ポイント還元25%」なのか? 「Go To キャンペーン」なのか? ・・・何とも、がっかりした話でした。
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Reviewをまとめながら、《民主主義》という言葉を、2つの場面で多く読みました。1つは、アメリカの民主主義が不正義と不平等を正す力である、という主張です。
自分たちの手には改革するパワーがある、とNYTの社説は読者に呼びかけました。そして、富裕層だけに富とパワーを集中するようになった《資本主義》を、もっと多くの人が、豊かに、尊厳のある暮らしを送れるような、住宅や教育、医療サービスを平等に受けられるような自由社会を築くために、救い出そうと訴えます。
コロナウイルス危機で、朝から食糧配給所に並ぶ人たちがいます。それは《貧困》の烙印や差別につながるものではなく、さまざまな雇用や機会を提供する仕組みにもなるはずです。最低賃金を引き上げ、ウーバーなど、ギグワーカーにも労働組合の組織化を保障し、Gooogle、Amazonなどネットの大企業に課税し、独占を解体し、国民全体に医療や年金を保障する。できることはもっとあります。
もう1つは、中国が導入した国家安全法で、香港の自由と《民主主義》が死んだ、という訴えです。Joshua Wong黄之鋒やAgnes Chow周庭など、香港衆志Demosistoの創立メンバーが離脱し、団体は解散しました。
「香港は新しい時代に入った。」 体制側による白色テロ、恣意的な告発、記録に無い監獄、秘密裁判、自白の強要、メディアの弾圧、政治的検閲。香港は警察国家になった。「抗議デモに参加した者は、中国の法廷に送られて、終身刑になる可能性が高い。」
なぜ権力者はこんな弾圧に頼るのか? 中国の支配層は、香港を恐れている。香港のような大都市が、市民的な自由を求め、政府に対してもはっきりと反対する。諸都市に同じような民主化運動や抗議活動が広がるなら、共産党の支配は崩壊する。
もしそうなら、中国の指導者たちに必要なものは、《民主主義》です。
中国が改革開放のモデルとしたシンガポールに、今では反対政党の加わる選挙があり、人民行動党だけでなく、野党が政府を批判している。コロナウイルス危機で、感染の広がる貧しい外国人労働者に対する異なる姿勢、異なる政策を、具体的に提案し、議会や市中で論争している。
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NHK「かんさい熱視線」では、モノづくりの工場がコロナ危機に襲われている、と大阪の苦しい状況を伝えていました。大企業からの注文がなくなり、これから先がつらい。待っているわけにはいかない。新しい製品を開発して東京で売りたい、と動き始めました。・・・だいじょうぶか?
派遣労働者は3カ月ごとに再契約される。6月末から、失業が急増するだろう。職を失い、住宅を失い、所持金がなくなればホームレスになってしまう。大阪の駅前や商店街に、急速にホームレスが増えるのだろうか?
コロナウイルス危機で、諸外国でも政府が「最後の買い手」になっています。経済がどうなるのか、何をめざして投資するのか、政府は企業に見通しを与えることが重要です。マイナンバーより、地方経済や農業の再生を議論する方が、長期的な日本経済の再生に資するでしょう。
もし都市にホームレスが急増すれば、ベーシック・インカムや無料食堂の運営、安価な寮施設を提供する。高齢者のための住宅を建設し、都市を縮減・再設計してはどうでしょうか?
巨額の財政赤字と債務処理をめぐって、積極的に、日銀を含めた産業構造や地域経済の転換をめざす時期だと思います。
香港市民100万人を動かしたJoshua Wong黄之鋒を10人、Agnes Chow周庭を10人、日本の《民主主義》にはどうしても必要です。
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