IPEの果樹園2020
今週のReview
6/15-20
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人種差別に抗議する ・・・トランプの個人的利益 ・・・コロナウイルスと経済政策 ・・・危機の株価と大企業 ・・・アメリカ社会の選択肢 ・・・キッシンジャーの世界 ・・・ハミルトン・モーメント
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 人種差別に抗議する
FT June 6, 2020
Policing in the US: ‘If coronavirus doesn’t kill us, the cops will’
Joshua Chaffin in New York
ドナルド・トランプは、3年前に、ロングアイランドで、そのほとんどが白人の警察官たちの前に立った。そして、少しプロの助言をした。法と秩序を自認する大統領は、“Please don’t be too nice!” と言って、警察官たちの喝さいを浴びた。
警察官がジョージ・フロイドを殺害し、この半世紀で最悪の、社会騒乱が起きても、トランプはその姿勢を変えるつもりはないようだ。
しかし、多くのアメリカ人はそうではない。人種的に分断され、政治的に苦悩する国民の治安をもたらす方法が改革されることを望んでいる。それには部分の改革を積み重ね、あるいは、全体を根本的な変えることも議論されている。
「たとえコロナウイルスを生き延びても、警察官に殺される」と、木曜日、ニューヨーク州議会のDiana Richardsonは抗議する人々に語った。「ニューヨーク警察は制御不能である。」
肌の色に基づいたヒエラルキーが社会によってできている。警察署も、一般の警察官を代表する組合も、大きな政治力を持っている。
アメリカの警察官と市民たちとの関係は複雑だ。高齢者を倒したまま、出血していても、通り過ぎる。あるいは、棍棒を下して跪き、連帯の意志を示す。平和的に一緒に行進することもあれば、夜間の略奪や、倒れた警察官を板で殴る者もいる。
6年前にはEric GarnerがStaten Island, New Yorkで殺害された。それから1カ月もたたずに、黒人の若者 Michael BrownがFerguson, Missouriで殺害された。Campaign Zeroによれば、警察官による殺害は、毎月100件ほどで安定している。公民権運動の最も重要なテーマはこれだった。この50年間で大きく減少したが、SNSの発達で、より注目されるようになっている。
William Brattonは、ジュリアーニ市長の下で警察長官だった。ニューヨークをブロックごとに調査して、「割れた窓」と犯罪を結び付ける統計を駆使して、より少ない警察官で、犯罪を大幅に減らした。Brattonは、ロサンゼルスに移動し、またUKのキャメロン首相にも助言した。
しかし、「割れた窓」式のアプローチは、コストを抑えて逮捕を増やすために有効であるとしても、そのような警察を市民は好むだろうか? それは社会の分断や人種差別を助長するかもしれない。犯罪はどこでも起きるが、警察は、貧しい、有色人種の地区ばかり取り締まる。
警察がペンタゴンの余剰となった軍備を使用することもコミュニティーで論争になった。2014年、ファーガソンで重装備の警察が群衆をコントロールするため展開したとき、それはまるでイラクのファルージャに展開する海兵隊のようであった。オバマはこれを重視し、制限したが、トランプは、望むものは何でも使え、とロングアイランドで指示した。
警察官に責任を問うことが必要だ。カメラによる記録の義務付けは、それほど効果を発揮していない。ルールを逸脱した行動には解雇や逮捕がふさわしい。しかし、検察も裁判所も警察官を告発し、有罪にすることに消極的である。警察官の組合は強く抗議する。過去8根間で、ミネアポリスの市民から3000件の申し立てがあったけれど、解雇された警察官はわずか5人だ。
NYT June 10, 2020
How Much Is America Changing?
By Thomas B. Edsall
アメリカは政治的な分岐点で、根本的な転換を遂げるのか?
ジョージ・フロイドのあまりにも野蛮な殺害事件、COVID-19のパンデミック、全国規模のロックダウン、経済不況の拡大、大統領選挙。そして、民主党はマイノリティーと白人のリベラル派とをつなぐ政治同盟を形成できるのか?
人種に関連した問題で、世論は左派にシフトしている。しかし、民主党内には差異が存在する。Black Lives Matterの創設者の1人Opal Tometiが、多くの黒人たちの日常生活から生まれる抗議と、ロックダウンを強いられ、仕事もなく、時間があるからデモに参加するという人たちの違いを指摘する。また、共和党のTed Cruzは、フロイド殺害には一切の合法性がない、と断りながら、暴徒やラディカルに乗っ取られる、略奪や犯罪、アメリカ人への脅威と恐怖を語る。
Lilliana Masonは、事件と抗議デモをつなぐ背景を考える。主要政党が、多くのアメリカ人の正義を否定するような、歴史的な人種的(そしてジェンダーにも差別的)ヒエラルキーを維持してきた、と指摘する。
白人至上主義は共和党内でもっぱらパワーを拡大している。それは民主党内に、それに対抗する政治同盟を促す。われわれは北人至上主義を終わらせる全国民的な再考を始めているのかもしれない。
● トランプの個人的利益
FP JUNE 6, 2020
The World’s Weakest Strongman
BY STEPHEN M. WALT
大規模な抗議デモが政府の強制機関に逆らって行進するとき、何が起きるかを予測することは難しく、ほとんど予測不可能である。
ドナルド・トランプ大統領(そして他の暴力を好む共和党上院議員Tom Cottonなど)は、デモ行進を終わらせるのは無慈悲な武力行使だけである、と考えているようだ。それは考え直す方がよいだろう。圧倒的な武力が効果的な場合もある。特に、体制の安定性が脅かされ、大衆がそれをおおむね支持し、命令に従って治安部隊が乱暴な排除を行うときだ。しかし、イランの国王や他の独裁者が知ったように、強硬策は平和的な抗議を暴動に変え、より多くの人が反対する行動に参加し、治安部隊も立場を変え、あるいは、解体するかもしれない。たとえ独裁者が最終的に「勝利」しても、シリアが示すように、その国は廃墟になる。
抗議デモの圧倒的に多くは平和的に行われる。暴動や略奪は例外的な事件である。警察が過剰な反応で暴力を拡大することもあった。
デモ隊は憲法を守るように求めている。逆に、憲法の秩序を脅かすのは、ホワイトハウスそのものだ。だから米軍の指導者たちから反対する声が公然と上がるのだ。アメリカ国民は「征服する」ような戦場ではない。軍の本来の目的は、憲法を維持し、この国を外国の敵から守ることであって、大統領の個人的な政治的資産の増やすことではない。
1つ、はっきりしたことがある。それは、無能で、ますます絶望状態にあるトランプ大統領にとって、ほかに手持ちのカードがないことだ。経済は落ち込み、回復策もない。パンデミックを放置し、外交でも敵を助け、同盟諸国を怒らせ、何1つとして成果はない。
それゆえ彼にできることは、分断を悪化させることだけである。アメリカ史上初の、公然と自国の暴力や無秩序を奨励し、それが自分の政治的な利益になる、と本気で確信している大統領なのだ。リチャード・ニクソンでも、ここまで悪人ではなかった。
私はここで不安を覚える。人種的な不正義に対する抗議デモが、明らかに、理解できることだが、アメリカが直面している諸問題に拡大するだろう。不平等について、経済・政治エリートたちについて、警察官の暴行、ウォール街のインサイダー、外交専門家たちにも、怒りが向かっていく。エリートの裏切りと特権に関する広範な認識が、トランプやサンダースのような、似たところのない、政治的な主流になるはずのなかった男たちを政治の煽動者にした。
2016年に、トランプが選挙で叫んだことは、今では詐欺師の約束だったと分かっている。しかし、今から11月まで、怒りのレベルはますます高まっていくだろう。人種差別の問題を超えて拡大する。それを操るのはトランプだ。炎上する家にガソリンをかけ、それが失敗した政治の復活になることを望んでいる。彼の政治教本は1つである。アメリカで起きている問題で、中国を責め、WHOを責め、ペロッシ、オバマ、ヒラリーを責める。その他、何でも責めるだろう。自分以外ならだれでもよい。ジョー・バイデンを侮辱し、彼の家族についてスキャンダルをねつ造する。
抗議デモを軍によって弾圧し、選挙を延期する口実もバー司法長官に考えさせるだろう。治安部隊を使って、特定の投票を妨害するかもしれない。この大統領には限界がない。今や彼には他のカードがない、というのは、そういうことだ。
The Guardian, Sun 7 Jun 2020
Trump uses force as a first resort. And now the firepower is aimed at his own people
Simon Tisdall
重武装した乗り物や兵士が町を制圧し、威嚇する光景は、バグダッドやカブールの住民にとってなじみのものである。先週、ワシントンなど、アメリカの他の都市でも、市民たちが同じ扱いを受けた。
ドナルド・トランプの過剰な反応は、アメリカが国内でも国外でも、武力の攻撃的な利用を最初に選択することを明確に示した。アメリカの警察や、社会全体の軍事化は、9・11のテロ攻撃に対する反応から始まった。そのときジョージ・W・ブッシュは自国を永久の戦争状態に投げ込んだのだ。矛盾した形で、「テロとのグローバルな戦争」は内外の治安を悪化させた。
ペンタゴン(国防総省)の支出は、今年、7380億ドルにも達した。約1800の法執行機関が80万人の警察官を雇用し、武装させている。
トランプなどが、アメリカの武装警察官をしきりに英雄のように描く。しかし警察官が制服を身につけ、兵士のように武装するとき、当然だが、兵士のように罪に問われないものとして、市民たちを「戦場」で見つけた敵のように扱う。
トランプの恐慌をきたした行動は、軍事力と治安との区別をあいまいにし、愛国心と軍国主義とを結びつける。それは彼が最初ではないが、トランプは国家や憲法に対する忠誠の意味をほとんど考えていない。
トランプは、アメリカの軍事力を自慢し、自分が保有するより大きな、優れた核兵器を自慢する。北朝鮮のような国を、「炎と怒り」で、無節操に威嚇する。軍事パレードで自分を称える。こうした軍事力優先の発想は、アメリカの指導力を失わせ、民主主義的なガバナンスについてのグローバルな大義を失わせる。
国旗に敬礼し、軍隊を支持することは、もし彼らが正しい任務を果たすのであれば、それ自体、何も間違っているわけではない。しかし、そうした行為を象徴的に信じ、自然な感情がトランプのようなデマゴーグによって利用され、軍事力優先、超国家主義・国粋主義、憎悪に満ちた好戦的主張、人種差別や外国人排斥に向かうなら、破局が膨れ上がるだろう。
トランプの市民に対する弾圧は、独裁者や抑圧体制、民衆を殺害する者たちを助けるものだ。
● コロナウイルスと経済政策
FT June 5, 2020
The economy won’t snap back after Covid-19
Tim Harford
コロナウイルスのパンデミックが、会社の事務所をなくすのか? 都市は消えるのか? 飛行機旅行も、商業も、劇場もなくなるのか? あるいは、それは春だけの問題なのか?
どんな経済危機でもその判断は難しい。自動的に現状が回復することはない。しかし、驚くべき頻度で、良くも悪くも、物事は旧に復する。9・11の後もそうだった。
他方、1995年、神戸の震災では、経済が復興したけれど、ゴム靴の産業集積は衰退した。震災前から中国製の靴と競争を強いられていたが、衰退を加速したからだ。
ライブ音楽はなくならないだろう。しかし、飛行機による海外旅行はどうか? 遠隔の技術革新が加速し、世界中どこでも旅行を楽しむ環境を創り出すかもしれない。もし事務所が郊外でできるなら、その仕事は、もっと低コストの国に移転するだろう。
ロボットによる自動化も加速する。他方で、新卒の若者たちは生涯にわたってキャリアに不利益を強いられる。学校に通えない子供たちもそうだ。
PS Jun 8, 2020
Which Economic Stimulus Works?
JOSEPH E. STIGLITZ, HAMID RASHID
世界中の政府がCOVID-19対策にグローバルGDPの10%を支出する。しかし、最新予測では、これが、政策担当者たちの望むほど、消費や投資を増やさないようだ。
問題は、資金が緩衝材として保蔵されて、支出されないことだ。「流動性の罠」と似た問題である。この刺激策は、正確さを無視して、その時点で急いて実行されたものだ。緊急に流動性を供給しなければ、倒産が急増し、資本が破壊され、回復を妨げる、と考えたからだ。
しかし、今や、パンデミックは数週間ではなく、もっとずっと長期に及ぶことが分かった。これらの緊急支援策は有効ではない。より注意深く、長期的な視点で、審査するべきだ。
今、重視するべきは、リスクを減らし、消費を促すことだ。大量の資金を供給しても、それが支出されない。回復が遅れて、ますます支出に慎重になる。この悪循環を破れるのは国家だけだ。政府が現在のリスクに対して保証を提供する。
また、中国政府がすでに行っているように、期限付きの電子クーポンを提供する。
正しくデザインされない刺激策は、効果がないだけでなく、危険である。それは不平等や不安定を強めて、政府が不況回避のために行動しなければならなくなったときに、必要な支持を得られないだろう。
PS Jun 9, 2020
The Illusion of a Rapid US Recovery
JAMES K. GALBRAITH
アメリカに抗議デモが広がる中、左派から中道のエコノミストたちは急速な景気回復を予想している。株式相場もそうだ。
その前提になるモデルは、パンデミックを、9・11のような経済ショックとみなすものだ。確かな構造は変わらず、正常な成長から逸脱した。アメリカ経済の軌道に戻すには、信頼を回復することであり、そのための刺激策が必要だ。つまり「ショック刺激策」である。
この考え方は1960年代以来のすべての不況と回復に共通している。しかし、それではアメリカ経済に生じている3つの重要な変化を無視することになる。すなわち、グローバリゼーション、消費と雇用におけるサービス化、個人や企業の債務依存、である。
主流の経済学は構造的問題を取り上げない。しかし、アメリカの経済的苦境は構造的である。トランプン無能さや、ペロッシ下院議長の政治戦略が失敗したせいではない。成長の急回復を宣伝するエコノミストの言葉を信じて、左右の政治家が支持する巨額の刺激策は、抗議デモに、もう1つの大きな幻滅と不満を加えるだけだろう。
● 危機の株価と大企業
FT June 10, 2020
The gap between the haves and the have-nots is widening sharply
Peter Atwater
グローバルな大企業にとって、COVID-19のパンデミックも、より大きな支配に至るでこぼこでしかない。エコノミストたちは文字の型で回復の経路を議論しているが、それに従えば、回復はK字型である。2つの大きく異なる経路が示されているからだ。
中央銀行による史上空前の流動性供給と、投資熱により、株価は急回復するだけでなく、特にハイテク株では、かつてない好調さを示している。他方、債務超過の、建物で小売りを支配していた商店は、パンデミックで死滅した。Neiman Marcus, JC Penney, Pier 1 and J Crewが倒産し、毎日、商店やレストランが閉店している。たとえロックダウンが終わっても、支援金を得ても、顧客は容易に帰ってこないと知っているからだ。
裕福な、自宅で仕事ができる者には、パンデミックは不便であるだけだ。それ以外の労働者は、まったく異なる。エッセンシャル・ワーカーズは、雇用主がパンデミックにふさわしい環境を用意できなくても、働くしかない。
持てる者は旧態に復帰し、持たざる者はますます失っている。世界最大の企業たちは、バンジー・ジャンプのように売り上げを回復した。
過去10年間は、2008年の金融危機から緩やかなK字型回復を経験してきた。回復に向かう信頼のギャップは注意されなかった。しかし今、信頼を低下させた多数の人々の中で、過剰に信頼を高める少数派がいる。
投資家や大企業は、パンデミックを、これまでのように秩序ある形で再配置するだろう。しかし、諸個人にとって、秩序があるとは思えない。ホームレスやパワーを持たない人々の声は聴いてもらえない。市場の回復を信頼できないなら、K字回復の中で、抗議デモや社会争乱が続く。
● アメリカ社会の選択肢
PS Jun 5, 2020
The Post-COVID State
DARON ACEMOGLU
世界は過去75年間で最大の転換期を経験しつつある。COVID-19の危機がもたらす社会・経済・政治的結末がどれほど大きいかは、まだわれわれが一部を感じ始めたばかりだ。アメリカでは4000万人以上が失業した。世界中で、数百万人、数千万人が絶対的貧困以下に落ち込むだろう。
特にUSとUKで受け入れがたいほど多くの死者が出たことは、両国におけるあまりにも醜い不平等が密接に関係している。
歴史と現状から、4つの可能な道があるだろう。
第1は、「悲劇的な旧態復帰」である。機能しない現状が単純に繰り返される。破綻した制度の改革や、経済・社会的不平等は改善されることなく慢性化する。
これが悲劇的であるのは、何らかの仕方で、民主的な政治がその継ぎ目から解体し始めるからだ。ポピュリストのナショナリズムや、もっと悪いものが、旧体制の空白を埋めるだろう。
第2は、「軽い中国型の絶対国家」である。われわれは「ホッブズ・モーメント」を生きるようになる。内戦を経験したホッブズThomas Hobbesは、個人が安全であるのは、絶対的な国家があるときだけだ、と主張した。社会が繁栄するには、その意志をリバイアサンに従わせねばならない。それは、COVID-19の大規模な非常事態を管理する国家の教訓でもある。
現代の中国はその顕著な成功例だ。西側の民主主義も次第にプライヴヴァシーや監視に関する懸念を捨てて、中国を模倣しつつある。20世紀の2度の世界大戦は、いったん拡大した政府が容易に縮小しないことを示した。
また、USのFBIやCIAが行き過ぎた監視や強制能力を得たこと、9・11テロ攻撃の後、USの安全保障国家が、懸念される。
第3の経路は、ハイテク企業による支配、「デジタル農奴制」である。もしアメリカ社会が政府や公的機関の能力を信用できなくなれば、特に、トランプ政権の無能さは顕著であるが、アップルやグーグルのような民間企業を信頼するようになるだろう。
しかしパンデミックでも時間が経つほどハイテク企業は巨大化し、格差が拡大している。シリコンバレーは、ベーシックインカムやチャーター・スクール、e−ガバメントのような独自の解決策を実行するかもしれない。しかし、それは問題を示しているだけで、その解決策ではない。
幸い、第4の解決モデルがある。それは「福祉国家3.0」だ。大不況と第2次世界大戦が条件になった戦後の福祉国家に対して、1980年代には、レーガンとサッチャーが登場し、ソ連崩壊もあって、福祉国家2.0ができた。
COVID-19のパンデミックを経験して、人びとはより大きな責任と効率性を示す政府を求めている。政府による支出、規制、流動性供給、市場介入は一気に拡大した。これが中国版絶対国家と違うのは、監視強化にともない、民主的な諸制度や政治参加のメカニズムも強化されることだ。
● キッシンジャーの世界
FP JUNE 7, 2020
Welcome Back to Kissinger’s World
BY MICHAEL HIRSH
コロナウイルス危機は、トランプの「アメリカ・ファースト」孤立主義を新しい流れにした。トランプ政権は、中国包囲網を検討しているようだ。
将来の米中関係がどうなるのか、それは世界の平和と安定性を大きく決めるものだが、その答えは過去にある。キッシンジャーとその哲学が観ていた世界は、ベトナム戦争、都市暴動、ウォーターゲート、1970年代のスタグフレーション、など、アメリカの衰退を示していた。その状況では、外交官たちが共通の基礎を探し、大国間のバランス・オブ・パワーを模索する必要があったのだ。
衰退し、混乱したアメリカ政府が、今日の米中関係に苦しみ、キッシンジャーが得意としたテーマ、彼の外交の最大の勝利に焦点をあてる。元オーストラリア首相のケビン・ラッドが書いた。「この危機を脱け出たとき、アメリカも中国も、そのパワーは大きく縮小しているだろう。中国による平和も、アメリカによる平和もなく、ゆっくりと、着実に、国際的なアナーキーに落ちていく。」
キッシンジャーはウィルソン主義者の過剰な理想を嫌ったが、それがアメリカ外交に基礎にあることは認めた。そして、ウィルソン主義者たちが、アメリカの主権と軍事力の重要性を理解し、アメリカが最初に、アメリカ自身が創ったリベラルな国際秩序を受け入れることを求めた。アメリカは多数によって支持され、アメリカの軍事力は北京やモスクワが対抗する軍事同盟を組織できないように使われる。そのときだけ、コンセンサスとその秩序は可能になる。
アメリカ外交政策における支配的思想とは、パワーをコンセンサスに転換することに違いない。その時国際秩序は、不本意な黙認ではなく、合意に基づくものになる。「われわれの目標は、多元的な世界が破壊的でなく、創造的であるという、道徳的コンセンサスを築くことだ。」
● ハミルトン・モーメント
PS Jun 10, 2020
Europe’s New Deal Moment
DANIEL GROS
仏独の欧州復興基金案は「ハミルトン・モーメント」になる、と願う人たちがいる。1790年、アメリカの初代財務長官ハミルトンは、独立戦争で生じた13州の債務を、連邦政府の債務とみなした。
それは一見、今すぐ、ユーロ債を発行するべきだ、という話の根拠になる。しかし、よく見れば、「ハミルトン=ユーロ債発行」は3つの理由で間違っている。
第1に、US諸州の債務は、イギリスとの戦争、という共通の大義によって生じた。EU加盟諸国の債務はそうではない。COVID-19が共通の敵だ、というのは正しくない。パンデミックによる債務の追加は、全債務のほんの一部でしかない。
第2に、US諸州の債務は、すべてが連邦政府によって支払われなかった。その一部は、民間債権者が債務の組み換えで負担したからだ。EU加盟国がその債務を組み替える話は、まったく出ていない。
第3に、US諸州の債務を連邦政府に付け替えることは、ある意味で、避けられないことだった。なぜなら、歳入の主要な源泉は関税であり、それが連邦政府に移されたからだ。もし大規模にユーロ債を発行するなら、それは各国政府の財源をEUレベルに移す必要がある。それは各国の財政政策を厳しく制限するだろう。ほとんどの加盟国政府が、ユーロ債を提唱する政府も含めて、こうした変更を支持していない。
現在のヨーロッパに類似した状況をアメリカの歴史に求めるなら、それは1930年代のF.D. ルーズベルト(FDR)大統領によるニュー・ディールであろう。アメリカは、州ごとに分断された銀行システムを持ったまま、大不況になった。失業保険や貧困対策も州政府に責任があった。
ニュー・ディールはこれをすべて変えた。しかし、FDRの改革は激しい抵抗にあった。政府はすぐに連邦預金保険公社を1933年に創設し、銀行同盟を構築した。しかし最高裁はニュー・ディールの中核部分を繰り返し違憲とみなし、阻止した。裁判所が姿勢を変えたのは、FDRが1936年に再選され、最高裁判事を増やすと脅したからだ。
当時も今も、重要なことは失業問題と貧困の解消である。ニュー・ディールは、これらについて、単に州を超えて命令したのではない。州と自治体に連邦からの巨額の資金を与えて、公共事業や失業補償を行ったのだ。同様の姿勢が、仏独の提案を受けて欧州委員会が示した7500億ユーロの「新世代EU」基金に観られる。
FDRの改革は歴史の試練に耐えて、今やアメリカ「経済憲法」の不可欠の部分として受け入れられている。EUの挑戦は、COVID-19対策を実現することで、それを正常な時期にも経済安定化の政策手段として確立することだ。
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The Economist May 30th 2020
Dragon strike
Coviv-19: The American way
Global tourism: Summer break
Coviv-19 in America: 100,000 and counting
Hong Kong’s freedom: Rule by fear
Brazil: Losing the battle
Charlemagne: The benefits of Brexit
Chinese diaspora Inc.: High-wire act
Free exchange: A political economist
(コメント) なぜアメリカはこれほど感染者が増加するのか? トランプだから? なぜブラジルはこれほど感染者が増加するのか? ボルソナーロだから?
パンデミックを利用してポピュリストが登場する。しかし、すでに権力を得たポピュリストは、パンデミックに対処できない。行政機関や国民を分断するのだから。しかも、これほど死者が出ても、権力を失わない。そして彼らは再選を目指す。どうやって? 死者を減らす方法が、ロックダウンや距離を取ることなら、それはポピュリストにふさわしい選挙にならない。
イギリスが離脱したから、その拒否権を行使できず、EUは復興基金を承認した。
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IPEの想像力 6/15/20
『未来少年コナン』の再放送を観ました。
私の子どもたちがまだ小さかった頃、一緒に観て、本当に楽しかった名作です。
2008年7月に始まった超磁力兵器を使った人類の大戦争と混乱を経て、すべての大陸が海中に没した世界を描いた。
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ドナルド・トランプがアメリカ大統領のポストを得たこと、そして、11月の投票まで、彼が再選キャンペーンを続けることは、世界中に地獄の苦しみを与えるでしょう。どのような事件であれ、トランプは自分の政治的利益のために利用し、どのような形であれ、選挙で1票でも多いと示すことを最優先するからです。まだ100日以上あるトランプの任期中に、何が起きても、驚くことではないのです。
コロナウイルス危機で世界中が強権政治的な対策を進めていることが、グローバルな社会にポピュリズムへ向かう度合を高めていることも影響すると思います。
たとえば、北朝鮮が南北融和の象徴であった連絡事務所の建物を爆破しました。
私は、トランプの再選キャンペーンを利用することが目的ではないか、と疑いました。韓国はアメリカや国連安保理の制裁を無視することはできません。北朝鮮は、トランプから譲歩を得たいのです。実際、2度のサミットは、核武装したことを認め、わざわざアメリカ大統領が会いに来たわけです。
独裁国家とトランプなら、朝鮮半島に核戦争の危機を煽って、オバマやバイデンを非難し、大統領選挙直前に、歴史的な打開策を北朝鮮が受け入れる、さらに、朝鮮戦争の終結宣言や和平交渉への約束も、この2人なら考えるのではないか。
国際政治は、まさに、不穏な情勢です。
l インド軍と中国軍が衝突し、インド兵20人が死亡した、と伝えられています。
l トランプ大統領は、ドイツから米軍を大幅に撤退させると発表しました。G7開催に、メルケル首相が欠席すると表明し、実現しなかったことへの報復と思われる。
l アメリカはロシアとの核軍縮や、そのための検証に必要な飛行許可を破棄し、大気中核実験も行う方針に転換する、というわけです。
l 中国を、米ロの核兵器協定に加えたい、とアメリカは考えます。中国は応じない。
l なぜこのタイミングなのか、日本の河野防衛大臣はイージス・アショアの日本導入を断念する、と発表しました。
l 韓国は日本との通商対立と徴用工問題に逆戻りです。
l 北京でコロナウイルス感染者が増加しています。北京をロックダウンするとなれば、その影響は中国と世界におよぶ。
l 黒人差別に抗議する大規模なデモが続いていることは、今後、アメリカでのコロナウイルス感染が再拡大する、と予測される。
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The Economistには、インドのロックダウンで仕事と収入を失い、交通手段も断たれて、徒歩で帰郷する貧しい出稼ぎ労働者たちのことが書いてあります。
しかし、インドがとても貧しい国だからではありません。朝日新聞の記事で、日本からベトナムへの帰国用特別便で帰郷する留学生、出稼ぎ労働者たち、さらに、大きなおなかで出産を控えた妊婦や、遺骨を抱えた人がいると知りました。
日本で学び、日本で働く夢を持ってきた人たちが、食べるものも、住むところも失い、生活に困っている、というニュースも観ました。国民1人に10万円を配り、マスクを配る話よりも、最も困っている人たち、不当に苦しんでいる人たちに、真っ先に支援が届けられるべきだと思います。
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大統領制や独裁的体制は、たとえ民主的に選挙が行われても、ポピュリズムに支配されやすいものです。東京都知事選はどうでしょうか? コロナウイルス対策や東京オリンピックを問うのは、むしろポピュリストの政治批判や大げさな約束を広めるだけで、政治家の力量や知識と関係ない話になるのでは、と心配です。
大地が消えて、わずかな島に生き残った人類が、ごみの山からプラスチックを集めてエネルギーや食糧を得ている、というコナンとラナが暮らす未来は、コロナウイルス後の世界に似ているかもしれません。
それは、香港の民主化デモと、アメリカの黒人殺害に対する抗議デモを、トランプと世界中の独裁者やポピュリストたちが悪用して、協力体制や信頼関係を破壊しつくしたあと、とてつもなく元気で、しかも思慮深い、子供たちが育つ小さなユートピアなのです。
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