IPEの果樹園2020

今週のReview

5/18-23

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企業と失業者の救済 ・・・COVID-19の最適な対策 ・・・パンデミックと富裕層 ・・・トランプのウイルス対策 ・・・東南アジアの時代 ・・・世界不況から戦争へ

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 企業と失業者の救済

FT May 8, 2020

How to save pandemic survivors from the scourge of unemployment

Richard Layard

次の重要な問題は大量失業である。パンデミックの期間に、休職中のものを除いても、すでに英米などで、労働者の10%以上が失業している。

ロックダウンが終わっても、新規雇用は少なく、レイオフや企業の倒産が続くだろう。過去の不況が示すように、長期の失業が真の困難をもたらす。長期に仕事に就かなかった者を、雇用者は好まない。何度も休職して失敗する経験は、労働者を絶望させる。

時が経つと、失業手当で暮らす人は労働市場に参加しなくなる。そしてますます抑鬱状態になり、参加することをあきらめる。それは本人にとっても、経済にとってっも、良くないことだ。

パンデミックによる休職制度が突然に終了し、大量の失業者が生まれることを阻止する必要がある。労働者は雇用されたまま休職し、企業は政府から賃金の80%を得ている。この制度が終われば、労働者たちに仕事はなく、解雇されるだろう。

ドイツの制度から学ぶべきだ。ドイツでは、労働者が労働時間を短縮して雇用されることを、政府が支援している。

さらに、よりラディカルなアプローチが必要だ。失業手当を1年で終わらせ、その後は彼らに仕事を保障するべきだ。そのために、民間企業、政府、ボランティアを含めて、長期失業のリスクにさらされた労働者を雇用する者に補助金を支給する。

多くの国で、こうした制度は機能している。雇用者は仕事の質を提示して、競争的に補助金を適用に応募する。これは失業手当を受け取る条件として仕事を義務付けることとは異なるものだ。

仕事の保障とは、「あなたは仕事をする資格があります。これらの仕事をすれば、報酬を支払います。」という意味だ。公的資金は各職場に6か月間支給される。そして、その後は補助金がなくても仕事が継続することを政府は望む。もし継続しないなら、他の仕事に就くだろう。

こうした仕組みは政府の支出を増やすが、他方で、社会福祉や税金、GDPの面でプラスになる。イギリスは、2009年に、若者に対する同様の仕組みthe Future Jobs Fundを作った。政府は支出の半分を、こうした形で節約できた、と推定されている。

不況で最も深刻なダメージを受けるのは若者である。経歴の最初に受けた悪条件は、その後に影響する。ロックダウンの補助金が支給されるのは、より高齢の労働者だけだ。

積極的労働市場政策とは、失業手当に条件を付与するもので、その価値が歴史的に示されている。ドイツのハルツ改革は、フランスに比べて、失業水準を急速に低下させた。

不況による失業と違い、今回の失業は政府がもたらしたものだ。最も影響を受ける人々を保護する義務がある。それは経済にとってもよいことだ。

FT May 13, 2020

Japan models a new look for national security

Leo Lewis

日本企業への外国投資に関する新しい規制が、先週、公表された。それは安全保障に従って決められるというが、意図したように、混乱している。

ビジネスに対する日本政府の姿勢は、コロナウイルス危機によって強められた。

日本政府は、安全保障に占める企業の役割について、より全体的な・統一的な見方を採ってきた。世界第3位の経済を望ましい内容に維持したいと考えている。外国からの投資を促す財務省も、保護主義的な枠組みを採用する政府に従う。

日本に限らず、アジアでも、アメリカでも、グローバリゼーションに対する攻勢が強まっている。サプライチェーンの脆弱性が問題になっている。なんでも必要な物は市場が提供する、という前提が、コロナウイルス危機で通用しなくなった。

より「政治的」な介入が、安全保障としてではなく、「社会的な回復力(レジリアンス)」という概念に拡大され、強調されている。日米の政府関係者は、中国に依拠するサプライチェーンの重要部分を、「グローバルな信頼のネットワーク」に再構築する計画を立てている。日本政府は中国との関係を改善しているが、コロナウイルス対策として、中国から生産拠点を日本国内に戻す企業のための補助金を設けた。

生存に関わる重要分野については、政府が投資を選別する体制をめざしている。「中核」的な国益にかかわる企業として、財務省が政府の投資機関に知らせる分野は、全体の1%強、518企業におよび、それは東京証券取引所の市場評価額の約40%である。

日本はつねに経済を諸企業とその資産や知的財産の合計で考えてきた。そこには、経済を無傷のまま維持したいという他国よりも強い願望、投資家に対する不満がある。

島国の持つ不安とみなされた感覚が、コロナウイルス危機で、世界に広まった。

FT May 13, 2020

America, coronavirus and the bailout refuseniks

Gillian Tett

政府は国民に、いわゆるPPPPaycheck Protection Program)を提供した。Scott Gallowayは、25万ドル請求できると理解したが、申請しなかった。彼は熱狂的なリバタリアンで、シュンペーターの「創造的破壊」を信奉していたからだ。

彼には裕福な支援者もいるから、その意見は、もし零細企業だったら違うだろう。しかし確かに、こうした支援策を出す政府には、何か問題がある。

COVID-19が襲ったとき、それはあまりにも大きな衝撃で、政府の介入や連銀の金融市場救済は当然だった。企業の倒産は、そのまま、累積的に経済全体におよんだだろう。特に、アメリカの多くの貧し家庭には社会保障がなかった。

しかし、2カ月がたって、そのロジックは正しいが、同時に、甚大なコストを生じることが分かってきた。政府の債務は急増しており、また、活力のある企業だけでなく、死んだはずの企業が生き残ってしまう。

さらに、別の問題として、救済はアメリカにおける所得の不平等を強めることだ。支援策は、中小企業を助け、個人やその子供にも1200ドルを支給した。しかし、連銀の債券・株式市場における買い支えは、こうした資産の多くを所有する富裕層に利益をもたらす。

もちろん、ムニューシン財務長官が言ったように、それは避けられない、危機の一時的コストだ。壊れたコンピューターを修理するようなものだ。ハードウェアはそのまま、修復したら、ロックダウンを解除する。

現実には、経済の「再起動」はコンピューターと違う。なぜなら経済はつねに変化するからだ。旧システムを保存することは、既得権者の利益になる。

ほかに良い方法はないのか? 理想的には、アメリカが社会保障制度を強化すればよい。労働者は、たとえ失業しても医療保険を利用できる。「創造的破壊」は、労働者にこれほど大きな苦痛を与えない。

現実には、多くの共和党員がそのようなセーフティーネットを「社会主義」として嫌っている。アメリカ人の多くも救済されるのは嫌だ。しかし、それを拒めない。アメリカの資本主義は深刻なモラル・ハザードをかかえている。


 COVID-19の最適な対策

FT May 8, 2020

Markets should beware this morally hazardous approach to policymaking

John Plender

コロナウイルス危機に、中央銀行と政府は何でも、だれにでも、同様に与えるように見えるが、そうではない。回復は非常に限られている。

株式市場では、Microsoft, Apple, Amazon, Alphabet and Facebookが回復を指導している。これらの企業を合わせると、S&P500企業株式の市場評価額の5分の1以上になる。10年物の財務省証券の利回りは記録的な最低水準であり、原油価格も低迷している。新興市場の通貨はドルに対して大幅に減価している。世界の銀行株価もまだまだ回復とは言えない。

貿易紛争は終わらない。中国は、2007-08年の金融危機に対して示したような支援策を、今回は示さないだろう。

グローバリゼーションの逆転、ジャスト・イン・タイムの見直し、失業と不安に対する貯蓄の増加、短期的には、大幅にデフレ的な状況だ。

財政刺激策を早く逆転してしまうリスクがある。また、中央銀行による債務の吸収は、次第に、金融政策の効果を失わせる。超低金利でも成長は刺激できなくなる。

中央銀行の政策がモラル・ハザードをもたらし、次のバブルを期待するようになる。

すべての債務が返済されることはないだろう。中央銀行は財政赤字を貨幣化している。それはインフレで焼却されるだろう。

FT May 12, 2020

Business cannot simply awake from this coma and carry on

Raghuram Rajan

パンデミックが起きたとき、1カ月もしくは2カ月のロックダウンを終われば、経済が再開されるという期待が広く存在した。

豊かな国では、中小企業に支援金や賃金の補助を支払い、大企業は低利(無利子)融資を受けた。それは、費用はかかるが、短期的なものだった。

こうした見方は過度に楽観的であるだろう。ビジネスが再開できるのは、まだ、ずっと先になる。製造業では多くのサプライチェーンが同時に再開しなければ意味がない。企業は単に昏睡状態から目覚めるのではない。何をするか、どのようにするか、すべてが変わるのだ。

期限のない融資はビジネスにとって問題である。低利融資が債務を増大させてしまう。それは投資の能力も意欲も失わせる。価値を破壊する企業が生き延び、ゾンビ企業になる。需要が弱ければ、健全な企業が回復を妨げられる。

われわれは難しい選択をしなければならない。公的資金は現存する企業を凍結するため、地代や賃金、私用されていない資源の利払いのために使用すべきではない。

むしろ、公的支援を次第に削減するべきだ。ロックダウンが長期化するにつれて、労働者を守ることが重要になって、職場を保護することではなくなる。

政府は、家賃を下げてもらう零細企業と所有主との交渉を助ける。あるいは、低利の融資をする。破産処理を助ける。再スタートを望む者に融資を与える。また、大企業は、より組織された資本を持っている。倒産すると失われる。公的に延命することはないが、企業の金融市場からの資金調達を助けるべきだ。

PS May 12, 2020

Making the Best of a Post-Pandemic World

DANI RODRIK

COVID-19の危機によって世界経済は3つの変化を経験するだろう。市場と国家とのバランスが国家に、ハイパー・グローバリゼーションと国民的自給体制とのバランスが自給体制に移り、経済成長の高い見通しが低下する。

これら3つはパンデミックの前に始まっていたことだ。より包括的な成長の世界経済へ、ネオリベラルの市場原理主義ではない、不平等や不安定さの対策を重視した大きな政府へ変化していた。それは、ジョー・バイデンの政策公約が左派に重心を移したことにも顕著に示されている。

問題は、その変化を実現する国家がどのような形を選択するか、である。旧式な国家介入主義に戻るのか、グリーン・エコノミー、グッド・ジョブ、中産階級の再生を重視する包括的経済に向かうのか。

国民国家の重心は、貿易戦争やエスニック・ナショナリズムをめざすのか、あるいは、国際興梠臆が効果的な分野ではグローバリゼーションを生かし、グローバルな公衆衛生、国際環境規制、タックス・ヘイブン対策、その他の近隣窮乏化政策を抑制する。

貿易と投資を増やすことだけが目標にせず、先進経済の国内における社会交渉、発展途上諸国の適正な成長モデルに、十分な余地を与えるのか。

COVID-19はウェークアップ・コールであった。政策選択の余地がある。世界経済を決めるのはウイルスではなく、われわれの対策である。


 パンデミックと富裕層

FT May 12, 2020

The wealthy should welcome an opportunity to reduce inequality

Stefan Wagstyl

「死はすべての者に公平である。」 ローマ時代から言われることだが、当時も今も、それは全く真実ではない。

パンデミックもそうだ。広大な住居、休暇用の別荘、山の家、富裕層にはロックダウンでも多くの選択肢がある。ヨットで自己隔離することもできる。他方、貧困層は部屋がなく、選択肢がなく、日当たりも少ない。感染を避けて自宅にとどまるだけの金もない。

富裕層と貧困層が同じ戦いの中にあると言うのは、将軍と歩兵が同じ戦争の中にあるようなものだ。ドナルド・トランプはその点を指摘した。著名人が検査を先に受けている理由を訊かれたときだ。「たぶん、人生というのはそういうものだからさ。」 アメリカ大統領がそう言った。

多くの富裕層は公正にふるまっている。パンデミックと闘うために資金を提供している。たとえば、Alibabaの創立者であるジャック・マー、Microsoftの大富豪であるビル・ゲーツだ。

富裕層は、自分たちの利益のためにも、この貧富の格差を心配するべきだ。第1に、糖尿病や心臓病はうつらないが、富裕層も他人のCOVID-19がうつるかもしれない。第2に、富裕層も、生活の自由を大幅に奪われる。特に、若者たちの機会が失われる。たとえ富裕層でも。

また、危機は、自分たちの生活が、たとえ富裕層でも低所得の労働者たちに支えられていることを実感させる。医療サービス、郵便、警備、ごみ収集も。

最後に、経済回復だ。それが実現するには、何百万人もの労働者たちが職場に戻らなければならない。資本の所有者でも、彼らなしには、何も機能しない。

アメリカは史上最悪の貧富の格差を持つ状態でパンデミックに入った。それはロックフェラーが石油王として富を得た時代に並ぶ。

企業家たちは、グローバリゼーションやインターネット革命から他の人びとを圧倒するような富を得た。確かに多くの雇用も生み出しただろう。それでも、パンデミックの前から、取り残された人びとは不平等に苦しんでいた。Angus Deaton and Anne Caseが「絶望死」とよんだ問題だ。

2017年の著書The Great Levelerで、歴史家Walter Scheidelは、近代社会が不平等の病を慢性的に悪化させ、それを緩和したのは、戦争と疫病だけだった、と結論した。COVID-19のパンデミックは、ヨーロッパの人口の3割から5割を死滅させた黒死病に比べると小さなものだが、「革新的変化」の機会になるかもしれない、と考える。

富裕層は、パンデミックの中で、現状が持続可能かどうか、考えてみることだ。


 トランプのウイルス対策

PS May 11, 2020

Confronting China

IAN BURUMA

トランプ政権は、ウイルスが拡大する前に行動する貴重な時間を浪費した。そして、中国がウイルスを広めたと非難する。トランプは、十分な説明もなく、同盟諸国のヨーロッパから来る旅行者を遮断した。また、WHOを「中国を中心に動いている」と非難して、拠出金を止めると脅した。

G7外相会談は、ポンぺオ国務長官が「武漢ウイルス」という言葉を入れるよう強硬に求めて、他の外相はそれに呆れ、共同コミュニケも発表せずに終わった。

アメリカが失態を重ねる中で、中国はその経済力に見合う意欲的姿勢を示すようになった。アメリカの指導部がこれほど自国中心に振る舞うなら、中国が長期的に指導的地位に就くだろう。

中国は再び、野蛮な諸民族が従うべき文明のモデルを示す時が来たと思うかもしれない。しかし、中国のグローバルな指導力は歓迎されない。「アメリカの世紀」が、愚かな戦争や、硬直したイデオロギー、醜悪な独裁体制との許しがたい親密な関係により、それ自体で価値が損なわれた後も、世界はアメリカに指導力を求める。

それはアメリカ政府が、人びとの自由に対する願いを、受け止める国だからだ。同じことを今の中国には求めることができない。中国は、資金と脅迫では指導力を得られない、と知るべきだ。

自由は重要である。1989年に学生たちが天安門広場で、10メートルの高さの民主の女神像を創った理由は、自由のほかにない。中国が文明の中心になる野心を充たすには、まず、国内で自由を認める改革を始めることだ。


 東南アジアの時代

FT May 11, 2020

South-east Asia rides fourth wave of regional growth

Parag Khanna

「米中貿易戦争は終わった。」 それはシンガポールでよく聞くジョークである。「勝ったのは、ベトナムだ。」

実際は、貿易戦争が終わる見込みは少しもないが、ここには真実のかけらがある。

この10年はすべての関心が中国と世界経済成長との関係に集まっていた。しかし、今は東南アジアである。そこは10の国民がパッチワークをなし、中国の南、インドの東に、約7億人も住んでいる。経済的、人口学的、地政学的に見て、注目すべき国が東南アジアに並んでいる。

東南アジアの成功は、近隣地域の成長のおかげである。アジアの戦後史は、相互に、成長の波を強めあった。アジアの貿易の60%が、今や地域内で取引されている。国境が薄れるとともに、貧困も消滅した。

ASEAN10か国に、インド、日本、オーストラリア、そして、中国が加わり、超巨大経済圏を形成している。購買力平価で測って、世界GDP40%近くを占める。中国は、アメリカよりも、東南アジアと多く貿易している。中国からの新興企業の投資も多い。

アメリカ企業も東南アジアに進出している。トランプ大統領は、2017年に、TPPを離脱したが、ベトナムからの輸入は増え続けている。アメリカがTPPに参加しないため、マスターカードやQualcomm、エクソン、ファイザーなど、多くの投資がアジアに向かった。こうした企業は、TPPの後にできた条約に所属する国に拠点を持たねばならない。

EUはシンガポールとの条約をもとにしてASEANとの通商条約をめざし、ブレグジット後のイギリスもアジアで存在感を示すことに熱心だ。貿易戦争とパンデミックは、1つの国に拠点を集中することのリスクを示した。

多くの多国籍企業はアジアにおいて分散投資をめざすようになった。サムソン、FoxconnAppleなどが、高度な生産拠点をアジアに展開し始めた。2020年も、ベトナムの成長率は5%と予測されている。豊かな地域ではまだ貧しい国だが、GDP2000億ドルを超えるだろう。インドネシアのGDP1兆ドル、タイは5000億ドル、シンガポールは香港とほぼ同じ3500億ドル。マレーシア、フィリピンも3000億ドルを超えた。

ASEAN1つの国であれば、それは世界で最も不平等な国の1つだ。しかし、西側の国と違って、東南アジア諸国は貧困を、インフラ、教育、雇用、モバイル・バンキング、農業開発に投資することで、克服した。

アジア諸国は、1998年の通貨危機後も改革を続け、貿易黒字と外貨準備を増やし、変動レート制に移行した。インフレは抑制されている。彼らは西側の市場だけでなく、互いに貿易し、特に、中国、日本、インドに輸出している。重要なことに、今やアジアの経済はサービス化し、多くの人口による消費が、貿易よりも成長をもたらしている。

アメリカのドルが強いうちに、グローバルな資産管理機関は新興アジアにますます投資するだろう。その機は熟しているのだ。


 世界不況から戦争へ

FP MAY 13, 2020

Will a Global Depression Trigger Another World War?

BY STEPHEN M. WALT

2020年は何十年に1度の人類最悪の年に見える。パンデミック、世界不況、アフリカのバッタ被害。アメリカ人は現実を観ない大統領に苦しむ。もしこれらがすべて魔法のように消えるとしても、われわれは先の長い気候変動のダメージに苦しむ。

もっとひどいことがあるだろうか? 1つの可能性は、戦争が起きることだ。パンデミックと世界不況の組み合わせは、戦争が起きるのを促すのか、抑えるのか?

まず、パンデミックも世界不況も、だから戦争は不可能になる、という条件ではない。確かに第1次世界大戦が終わるときパンデミックが起きた。しかし、そのパンデミックはロシア内戦や、ロシア・ポーランド戦争、その他の深刻な戦争を阻止しなかった。1929年の大恐慌は、1931年の日本による中国・満州への侵攻を阻止しなかった。1930年代の人種差別や第2次世界大戦後の勃発を促したと言える。

MITBarry Posenが、COVID-19について、この問題を考察した。彼は、COVID-19が平和をもたらすと信じている。各国政府の短期・中期の見通しを悲観的にするからだ。戦争を始める国は、しばしば、自信過剰である。

戦争は、感染を拡大するような状態をもたらす。訓練キャンプ、軍事基地、動員、海上輸送、など、いずれもパンデミックの最中にはしたくない。また、パンデミックは国際貿易を短期・中期に抑制する。近年は貿易が国際摩擦を生じている。

国内の支持率が下がった指導者は、危機や戦争を起こすことで、国民の関心をそらす(スケープゴートを求める)という仮説がある。トランプ大統領が、11月の選挙に負けると考えたら、イランやベネズエラに戦争を仕掛けるだろうか?

それはないと思う。戦争はギャンブルだ。楽勝とは限らない。国内のパンデミックを無視して戦争を起こすとしたら、熱狂的な支持者も、時間とカネの無駄遣いを嫌うだろう。

戦争は景気刺激策になる(軍事支出によるケインズ主義)という仮説もある。第2次世界大戦が不況を終わらせた。しかし、債務の水準が全く違う。また、刺激策なら、インフラ建設、失業手当など、ほかの方法でできる。戦争をする理由にはならない。何よりも、戦争は株価を下げる。政治家が恐れることだ。

現在の不況は戦争を促さないだろう。第1に、過去の多くの不況は戦争を起こしていない。第2に、短期に、しかも、安いコストで、勝利できる戦争を政治家は好む。第3に、戦争は経済的理由ではなく、安全保障について、長期的な改善になる(不利な条件を逆転する)と指導者が確信したときに起きる。

その意味で、現在のアメリカは戦争を好まない。ただし、愚かな指導者が戦争を起こす、ということは別問題だ。

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The Economist May 2nd 2020

The 90% economy

Big tech and the crisis: West-coast shuffle

Disease and laboratories: The origins of the virus

Food supplies: Slaughterhouse dive

Zambia: In the pits

Chinese entrepreneurs: Flowerbeds of enterprise

(コメント) 経済、企業、雇用はどうなるのか? コロナウイルス危機の後、何に向かうのか? いくつか記事を読んでも、判然としません。

中国が武漢で行ったロックダウンは、世界にウイルスを抑えるモデルを示したように、危機後の経済や社会を示すのか。あるいは、アメリカのウイルス対策における深刻な失敗、政治の混乱、危機の悪用、小切手の郵送、連銀による大規模な救済、などが危機の経済を次のモデルに導くのか。

世界金融危機の教訓を、それぞれの機関や指導的地位にある者は、どのように学んだのか。

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IPEの想像力 5/18/20

コロナウイルス危機の経済支援策が論争になっています。

社会福祉や国民医療保険がないアメリカでは、パンデミックで働きに出られなくなった貧しい労働者家族に、生活費を支給する案が支持されました。いわば、緊急時におけるベーシックインカムです。パンデミックで大きな痛手を受けたのは、重症化する高齢者と、仕事を失った底辺労働者たちでした。

他方、オンラインで仕事が続けられる事務職や、感染リスクの低い地方の住民は、ロックダウンの影響を違う意味で嫌いました。経済活動を再開する論争を、トランプ支持派が広めているようです。

しかし、ニューヨークの事務職では、経済的損失より、コミュニティー住民の苦痛を実感している人たちが、給付金を実際に苦しむ人たちのために使いたい、と願いました。NYTのコラムニストは、いつも来てくれた家政婦の女性に小切手を渡す、と書きました。

それを読んで私は、税金を介して富を再分配することを、市民自身の選択にゆだねる、というのは、すばらしいな、と思いました。そして、迅速・効果的で、共感を広げる行為だと思ったのです。

日本でも、政府の国民全員に1人当たり10万円支給案が登場し、本当に? と思っていると、承認されました。私は、国民が自主的に再分配しなければ意味がない、と感じたのを覚えています。どこかの役所が職員から集めて対策の財源にする、というので問題になりました。

また、給付の手続きは非常に煩雑で、長い時間がかかり、なかなか届かないことも問題になりました。こうなると、緊急支援策ではない、不況の景気刺激策、減税のようなものだ、という話になりました。コロナウイルス危機が終わってから、商店街や旅行先で復興のために支出してください、というわけです。

その結果、自主的な再分配は目標から消えて、漫然と、いつか届くというお金を、期待し始めています。あるいは、緊急の生活費には間に合わないことに困窮家庭は絶望し、処理の遅さに「日本的管理体制」が批判されています。もしデジタル化の進んだ経済で、納税額も、企業や個人の所得におよぶ危機の影響も、正確に把握できるなら、即時、給付金がデジタル口座に届いたはずです。

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緊急支援・給付金制度について、私が思ったことは3つです。第1に、行政の側で管理しているデータで迅速に給付する。第2に、給付された資金を、自発的に、救済基金として役立てる。特に、政党や団体は、そのための救済基金モデルを示して競争する。第3に、受給資格を明確に示す。

最後の点は簡単です。誰にでも10万円給付する、というのでは、政策の意図がわからない。税金を浪費することは許されない。今すぐ必要な物に届けるため、条件を付けず、審査をしない、ということは認めても、そうであれば、基本的条件を示すことである。

すなわち、コロナウイルス危機によって深刻な被害を受けた。給付金はそのダメージに対する保証として有効に利用する。

行政の側で、この条件にあてはまる地域、業種、その他を考慮した基本タイプを決めて、対象者に積極的に給付する。ただし、タイプに合わない適切・深刻なケースでは、自己申告を認める。基本的条件に反する者は、給付金を受け取らない、返金する。

補償金・支援金を不正に利用した者、条件を偽った者は、明確に処罰する。たとえば、資格がないのに受け取った者は、事後的に調査し、10倍までの返金を求める。調査対象は、ランダムに選ぶ。悪質なケースは告発する。支給と調査、返金について、定期的に結果と分析を公表する。

資格があっても、受け取った支援金を使わず、もっと困っている人に、有効に役立てるため、基金に利用方法を委ねることができる。

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時間が経つにつれて、3つの不安が生じています。

1つは、債務の膨張について、政府が基本的な姿勢を示さないこと。アメリカを代表として、給付金も、債券や株式の購入、企業の救済も、まるで世界中が日本政府と日銀をまねたような?救済拡大競争です。軍備拡大と似た、不気味な高揚感があります。

しかし、残された債務はどうするつもりなのか? 十分な見通しを持って行動しているのか?

2に、経済規模の旧水準への回復は、現実を無視していること。食堂や、映画館の使用できない座席が示すように、生産ラインの休止や工場閉鎖、農場の移民労働者が暮らす集団住居の劣悪さが示すように、もはや経済活動は旧水準に戻らないのです。

経済規模は2割も3割も縮小する。分野によっては半減し、あるいは、完全に消滅するでしょう。

3に、サプライ・ショックは長引き、たとえば、食糧危機になるかもしれない。

それは、輸入の途絶から、日本の経済危機、そして通貨危機、債務危機になるのではないか?

日銀(黒田総裁)と政府(麻生財務大臣)が並んで記者会見する、奇妙な余裕の表情に、決して健全ではない日本経済の、もっと不気味な印象を持ちました。

私は、生活水準が2割、3割低下するのだな、と考え始めました。エンゲル係数、という言葉が浮かびます。もっと食料に多くを支出しなければならない、そういう時代が来る。

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