IPEの果樹園2020

今週のReview

5/11-16

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スウェーデンの集団免疫戦略 ・・・COVID-19とアメリカ ・・・ベーシック・インカムと労働者 ・・・危機後の世界に向けて ・・・パンデミックと都市・社会運動 ・・・COVID-19EU・ドイツ ・・・アルゼンチン ・・・米中欧の脆弱なガバナンス ・・・債務累積の管理 ・・・COVID-19と金融政策 ・・・ ・・・

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 スウェーデンの集団免疫戦略

The Guardian, Fri 1 May 2020

Has Sweden's coronavirus strategy played into the hands of nationalists?

Gina Gustavsson

スウェーデンのコロナウイルス対策は国民に支持されている。たとえ死亡率が世界のトップ10に入っても。100万人当たり240人で、さらに上昇しつつあり、ストックホルムでは介護施設の多くが感染してしまった。

このことについて、よくある説明は、スウェーデン人の「信頼」と「冷静さ」を強調するものだ。疫学者のAnders Tegnellは、スウェーデンのコロナウイルス対策を代表する人物になった。乾いた(感情を示さない)科学者から官僚に転身した人物であるが、ナショナリズムを煽動するポピュリストではない。

しかし、水面下では冷静とは決して言えない。公開論争は、国民的な威信を損なわれた、という感覚に火をつけた。それはI.バーリンが「折れた小枝」とよんだナショナリズムである。

痛みというより、喜劇的な自尊心に始まる。「スウェーデンはスウェーデンらしく」。「スマートなスウェーデン」、「親切なスウェーデン」。南欧のようにヒステリーを示さない。

次に、敵対者を侮辱し、非正統化する。22人の科学者たちが、対策の転換を求める共同コラムを載せた。しかし、数時間で、主張の中身には誰も注意しなくなった。論争は、彼ら(科学者たち)が死者数を利用し、スウェーデンのイメージを損なった、ということに終始した。批判は、彼らの主張や、ノルウェーやフィンランドより何倍も高い死亡率を、否定したわけではない。

その後、感情的な侮辱や女性蔑視が示された。

そもそもスウェーデンは孤立した実験、例外ケースではない。スウェーデンは、マイルドな規制にした、ということだ。

Tegnellは崇拝されて、イコン(聖画)になった。スウェーデンの魂を示した、とナショナリストは称賛する。彼の部屋には多くの花束が届いた。

スウェーデン・モデルの失敗はいくつもある。しかしそれは、言葉のわからない、教育を受けていない移民たちのせいにされる。介護施設の感染は、「避難申請者たち」「難民たち」と結び付けて語られる。

私は、スウェーデンのアプローチを猛烈に擁護することが、われわれの制御不能な感情を解放することを恐れる。ブレグジットに従った人々には明らかなように、ナショナリズムは批判を受け入れず、容易に社会を引き裂くことができる。


 COVID-19とアメリカ

FT May 6, 2020

Premature US reopening plays Russian roulette with its workers

Edward Luce

「コロナウイルスは平等化の偉大な推進者だ」と、ニューヨーク州知事は述べた。

しかし、アマゾンを考えてみよ。何人かの労働者はウイルスに感染する不安を表明して解雇された。「労働者たちは、商品を取り上げて梱包する、取り換え可能な消耗品にされている」と述べて、アマゾンのエンジニアTim Brayは抗議のために辞任した。

CEOのベゾスは、パンデミックの前でも、推定で毎分149353ドルを得ていたが、それはアメリカの中位の労働者の年収の3倍だ。その後、アマゾンの収入は急増している。

最初は、パンデミックが誰にでもおよぶ病原菌の平等主義を印象付けた。しかし、ロックダウンがすべてを変えた。ソーシャル・ディスタンスは富裕層に有利である。その居住や労働は、ほとんど影響を受けない。

他方で、ニューヨークを郵便番号の区分で分析すると、貧困地区ほど死者が多い。職業もそうだ。交通機関、医療、配達、食料品店、建設など、自宅を出て働く人々には死者が多い。

シンガポールやドバイで感染者が再び増えたのは、街の準隔離地区で、集合住宅に住む移民たちが感染したからだ。

鍋や釜をたたいて、エッセンシャル・ワーカーズを称え、人びとは連帯を示して感謝する。しかし、彼らは十分な保護手段を与えられていない。わずかな危険手当を得るだけだ。同様のことは、911以後の軍人たちに対してもいえる。国民は彼らに感謝したが、彼らの収入はほとんど増えていない。

ロックダウン解除にも、自宅で働くことができない者にはジレンマがある。多くの州がロックダウンを緩和しつつある。しかし、感染者が減らない州では、大統領の再開ガイドラインを無視した。

労働者たちは、働くことで感染リスクを冒すが、それを拒めば収入を得られない。小切手の給付ではなく、次の支援は雇用者・企業に与えられるだろう。多くの州は、雇用者に保護措置を命令できない。その結果、労働者たちは自宅にとどまることはできなくなる。

アマゾンの商品を使い、タイソンの加工した食肉を食べる。アメリカの消費者たちは、それにもっと高価な値札が付くべきことを知る。「あなたのサービスに感謝する」というのは、厳しい現実に対する薄いマスクでしかない。

NYT May 6, 2020

Why Isn’t Trump Riding High?

By Thomas B. Edsall

外国人排斥、権威主義的指導者の容認、社会・経済の分断という、パンデミックの利益をトランプ大統領はまだ受けているが、政治の風はトランプに向いていない。

歴史の教訓では、人びとが苦しみ、死者が増えると、人種差別や排外主義の波が起きる。悲嘆や経済的困窮の経験は、誰かを責める欲求を生み出す。

われわれは以前からスケープゴートを探す現象を観てきた。1832年、ニューヨークのコレラ感染では、プロテスタントが支配的な文化に変化を広めたカソリックのアイルランド移民が責められた。1876年、サンフランシスコで天然痘が流行したとき、中国人人口が責められ、1882年に中国人排斥法が成立した。

1918年、インフルエンザの死者が増えたことは、1932年、33年、ナチをまねた極右政党に投票する人が増えたことと連動した。

現代のリベラル・デモクラシー国ではその脅威が低いが、より独裁的な国では脅威が高い。「多くの諸国で、パンデミックが基本的な社会政治的結束を破壊する緊張をもたらす」と警告されている。

社会的結束を強調する傾向は、集団的規範の強制、部外者を拒否し、強権的な指導者に服従することにつながる。トランプを好む傾向は3月に上昇した。それは当選以来の最高水準だ。そのコロナウイルス対策が大失敗であったにもかかわらず、これは予想されたことである。

1932年の大不況に、ナチが投票総数の44%を得て、帝国議会の第1党になったことがそうだった。

危機に対するトランプの行動は、すでに周知のパターンである。他者を非難し、責任を否定し、人種的偏見や「外国」の危険を吹聴し、彼が間違った説明を広めたと告発する正直な人びとを糾弾した。

しかし、今回、多くのアメリカ人はこうした詐欺を信じていない。自分たちのコミュニティー、職場、家族に、人びとは危機の衝撃を観ているからだ。

トランプが、従来のアメリカの指導的な役割、国際協力の呼びかけを放棄しているせいで、中国に舞台を提供した。中国は喜んで真空状態を埋めるだろう。

11月の大統領選挙に向けて、民主党と共和党の行動に変化が起きるとは思えない。分断状態が短期の変化や選挙運動を支配している。気候変動が分断状態に利用できたように、ウイルスも利用される。

国民的なポピュリズムはCOVID-19で弱まる、という意見もある。移民やグローバリゼーションは制限され、医療問題が重視されるからだ。それは文化戦争を抑え、専門家の意見を尊重する。多様な、外国生まれの医療サービス労働者がヒーローである。

他の意見によれば、COVID-19は既存の傾向を変えない。危機は、すでに緩やかな死を迎えていたネオリベラリズムの衰退を継続する。ポピュリストの支配者は独裁傾向を強める。

基本的な視点の変化を重視する者もいる。パンデミックがグローバルな脆弱性を示した。世界は他者と共有されており、そのことを選べない、と示した。生きるために、われわれは環境、社会空間、緊密な関係を必要とする。他者がわれわれに触れ、われわれが触れたものに他者も触れる。空気であれ、動物であれ、世界の表面であれ。社会生活は、こうした相互の結びつき、相互依存、脆弱性を受け入れることだ。

「脆弱な集団」を指定して、その人々を隔離し、保護する。それは十分な医療を受けられない黒人や有色・ヒスパニックを含む。貧困層、移民、囚人、身体不自由者、権利と医療のアクセスを求める性転換者などを含む。

われわれは、不平等が広がる社会の致命的な脆弱性を知ることになる。


 ベーシック・インカムと労働者

The Guardian, Sun 3 May 2020

Why universal basic income could help us fight the next wave of economic shocks

John Harris

6週間前まで、仕事を2つに分けるあいまいな考えを多くの人は持っていた。勝ち組と、不安定な職場の負け組。「野心的」職業と、政府に依存した職業。グローバリゼーションに調整する者と、その犠牲者たち。

しかし、コロナウイルス危機ですべては過去の話になった。数千万人の生活にとって、不確実さは中心を占める問題である。(不安定で不確実な職に就く人びと)「プレカリアート」は、突如、潜在的な労働者すべてに当てはまる普遍的条件になった。

フード・バンクの必要が急激に増えている。政府は中小企業や個人向けの融資を熱狂的に増やしている。しかし、そもそも貧困状態の人々には問題があったから、こうした措置で解決することはむつかしい。

よく知られるようになった考えが注目されるべきだ。食料や光熱費のような必需品に対して、政府が定期的に支払うことを権利・資格として認める、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)である。左派系の団体Compassは、10日前、議員100人以上と主要政党に「リカバリー・ベーシック・インカム」を求める文書を送った。付属する文書は、これを短期的措置として、恒久的なベーシック・インカムを段階的に導入する。労働年齢の大人は週60ポンド。子供は週40ポンド(4人家族で年1400ポンド)。失業手当などは残す。将来は、「所得の下限」を大人100ポンドにする。

スコットランドではSNPが強く支持している。他の諸国でも同様の姿勢が示されている。トランプ政権は、膨大な数のアメリカ市民に1200ドルを1度だけ支払ったが、Alexandria Ocasio-Cortezなど、未来志向の民主党議員はUBIを支持している。

UNIについては、ポピュリズムに毒された社会で、明らかに意見が対立する面もある。多くの人は本能的に好むとしても、働かないことを(ロックダウンで実感したように)懸念するだろう。

しかし、労働と福祉の基本的問題は残る。自動化は不可避ではない。COVID-19のような危機は今後もわれわれを襲うだろう。気候変動についても同様に考えておくべきだ。われわれはこの衝撃を再発する世界に準備しなければならない。

今、人びとは家族や友人、そしてコミュニティーのために、無償の労働に従事している。そうすることの自由が必要だ。われわれは今、ベーシック・インカムの入り口に立っている。

FT May 5, 2020

How to move workers on to the land

イチゴ、レタス、ブロッコリーが春の太陽を浴びてみ載っているけれど、コロナウイルスは脅威になっている。摘み取るための労働者が集まらない。ウイルス感染を抑えるロックダウン、移動の禁止が行われる中で、UK農家は7万人の季節労働者を集めている。それは主に東欧からの移民労働者たちがやっていた摘み取り作業だ。

解決策は明らかだろう。仕事がなくなった、レイオフされた、他の産業の労働者たちがそれを埋めることだ。UK政府は、戦時の戦意高揚をまねて、“Pick for Britain”という雇用キャンペーンを進めている。しかし残念ながら、その実現はむつかしい。

ヨーロッパ中で、自国民が農産物の収穫を行っている国は少ない。ほとんどは移民労働者が担っている。5月末までに、フランスは20万人、スペイン8万人の農業労働者が足りない。4月、5月に、イタリア25万人。ドイツも同じ季節に、30万人を雇用する。

先週終わりまでに、UK政府の摘み取り作業に応じたのは、わずかに150人だった。雇用を探したけれどオファーがない、農場は移民労働者やその雇用構造を前提している、という者もいる。他方、農場は、柔軟で、経験を積んだ労働者を求めている。その多くは移民だ。

季節労働者は、ときに現代の奴隷労働と言われる劣悪な条件で働いている。しかも、農場が感染のクラスターになる危険もある。キャラバンのような一時宿舎はソーシャル・ディスタンシングが困難だ。ドイツ政府関係者は、例外的にルーマニアから農業労働者の入国を飛行機で認めたが、空港に集まってくる夜行バスが満載する労働者たちを観て、恐慌に陥った。

国内労働者を農場で就労させるために、また、経験のない労働者たちが作業になれるために、政府はもっと柔軟に十分な支援をしなければならないだろう。農場も、すぐに辞めるかもしれない労働者たちを受け入れ、しかも、感染対策を十分に行うべきだ。

これらはすべてコストを引き上げる。消費者たちが受け入れる限界があるだろう。小規模の農場によって担われていることもあるが、EUの共通農業政策で巨額の補助金を得ている産業は、救済されるべきではない。

農産物の供給が縮小し、来年は食糧価格の上昇が景気回復を妨げる要因になる。


 パンデミックと都市・社会運動

FT May 5, 2020

Gary Younge: What, precisely, are we making noise for?

Gary Younge

毎週、木曜日。ロンドンの自宅では、7:55に同じことをする。考えすぎないようにして。台所へ行って、鍋やフライパン、木のスプーンを、玄関ドアまで持ってくる。そして8時になるのを待つ。私は外へ出て鍋を打ち、妻は私の横で拍手する。ときには子供たちが加わる。

この1週間だれもいなかった通りに、人びとが現れる。私たちは手を振り、雑談し、国民医療サービスNHSの労働者たちを励ます。彼らはわれわれを代表してCOVID-19と闘っているからだ。その後、私たちは屋内に戻る。私は自問する。

「これは、いったい、何なのか?」

パンデミックにおいて医療関係者を称える国は多い。しかし、医療サービスを国有化している国は少ない。われわれは、NHSをイギリス王室よりも誇りにしている。

だから、一斉に外へ出て、NHSを応援することは、この問題は昨年12月の総選挙でもブレグジットの主要目標であったのだが、まさに政治的行動である。政治とは、非常に激しい対立をもたらすものである。専門家によれば、イギリスは数週間遅れてイタリアを追っている。

私はNHSを称えて拍手する。私の母のように、そこで働く人々のために。そこには多くの黒人と有色の移民たちが低賃金で働いている。NHSの初期から、彼らはこの制度が機能するように、羽田らしてきたし、今や、感染の危険とロックダウンのダメージに最もさらされている。

私は、NHSを創り、維持してきた国に誇りを持って拍手する。しかし、その施設が十分でないこと、必要な検査が足りていないことに怒りを感じる。いつか彼らが十分な給与を支払われ、そのサービスに十分な投資がなされることを願っている。

ボリス・ジョンソン首相やチャールズ皇太子が同じように玄関で拍手するのを観るとき、私は思う。「もちろん、われわれは違うことを願って拍手しているのだ。」 あなたたちは国民の団結を呼びかけるが、それを強制することはできない。パンデミックに対処する政府の能力は、国民の信頼を大幅に損なうものだった。

それは現代の社会運動の典型だ。人気はあっても、問題を解決するには至らない、不十分な振る舞いである。インターネットで呼びかけられ、ソーシャルメディアで広まった。指導者も、本部も、組織もない。人びとが広く感じている雰囲気。点火を持っている無色のガス。意味を求めるネット上の行為。

#BlackLivesMatterや、#MeTooもそうだ。その始まりを示す事件と、広がる時期や関心は違う。こうした運動には、会合も組織も存在しない。急速に反応するが、急速に消滅する。われわれが何を信じているとしても、クリック、送信、リツイート、いいね、という行為は、デモ行進やピケ、座り込みとは異なる。

しかし、人びとはかつてない規模とスピードで集合する。厳密な目標はないまま、意識を高めるが、要求はしない。それが成功したかどうか、明確に測ることもできない。#MeToo運動が、その1年後に、アメリカ下院で記録的な女性議員の当選につながった、という因果関係は主張できない。

ウォール街占拠運動Occupy Wall Streetもそうだ。それが金融制度改革をもたらしたわけではない。しかし、オバマ政権の報道官は、それがオバマの再選に重要な影響を与えた、と述べた。不平等の拡大や不公正に関して、オープンに議論してこなかったような問題を、人びとは議論できるようになった、と。

だから私は、次の木曜日も、考えすぎないようにしよう。玄関から出て、あいまいな希望のために雑音を立てるのだ。その延長に、何か改革が起きるのではないか、と願って。


 米中欧の脆弱なガバナンス

PS May 6, 2020

The Threat of Enfeebled Great Powers

ARVIND SUBRAMANIAN

COVID-19の危機は3つの分水嶺を示すだろう。ヨーロッパ統合のプロジェクトが終わる。統合した、機能するアメリカという国が終わる。そして、中国の国家と市民との間にある暗黙の社会契約が終わる。その結果、これら3つの大国はパンデミック後に内部から弱体化し、グローバルな指導力を示せなくなるだろう。

まず、ヨーロッパだ。2010-212年のユーロ危機と同様に、今も、イタリアを通る地殻の亀裂として走っている。何十年もダイナミズムを失い、財政的に脆くなったが、イタリアは大きすぎて、ヨーロッパが救済することも、崩壊させるまま放置することもできない。パンデミックにおいて、イタリア人は生死の危機にありながら、ヨーロッパの仲間に見捨てられた、と感じた。それはポピュリスト政治家たちに肥沃な土壌を与えている。

パンデミックに傷ついた諸国に対して、EUは官僚主義的な、恐ろしいことに目をふさぐエリートの失策から、ECB, ESM, OMT, MFF, and PEPPと、アルファベットのスープでごまかした。大陸の指導者たちは動揺し、決断できなかった。たとえ限定的な前進を示すときでも、ドイツはその保守的な本能から、例えば最近も憲法裁判所がECBの行動を否定したように、ヨーロッパ統合の生命力を回復することはできなかった。

いかなる政治統合も、永久に下層にとどまる諸国が、近隣諸国の繁栄を分かち合えず、危機において困窮するときにも自分だけで何とかしろ、というような話では、生き延びることなどあり得ない。

アメリカ衰退論は、あまりにも多く予告されたために、信じる者がいない。しかし、COVID-19の危機前にも、重要な諸制度は侵食されていた。自分を抑えることのできないドナルド・トランプ大統領、選挙区の党派的な書き換え、最高裁判所の政治利用、連邦制の解体、規制当局の私物化。その中で、アメリカ連銀だけが例外である。

アメリカ人の多くは衰退論を信じない。アメリカには非国家の諸制度の深い網の目がある。そこから生じる強さが、アメリカの優位を再生する、と信じている。しかし、世界で最も豊かな国が、パンデミックに対して最悪の結果を示している。アメリカの信用やグローバル・リーダーシップは、帝国の過剰拡大(イラク戦争)、経済システムのいかさま(世界金融危機)、政治に機能不全(トランプ大統領)、そして現在、COVID-19に対する無能さが、立て続けに起きたことで、一気に破壊された

これらの病理の多くは、深く、毒を放つ、アメリカ社会の分極化から生じている。トランプは、今や、支持者たちを反乱に駆り立てている。11月には、自由かつ公平な選挙という民主的な基準でさえも翻すかもしれない。

最後に、中国だ。ケ小平の時代以来、中国の繁栄はシンプルな暗黙の合意に基づいてきた。市民たちは政治を語らず、自由やその諸価値を奪われ、共産党が支配する国家の命じることに従うが、同時に、繁栄を享受する。しかし、COVID-19の危機は2つの意味でこれを損なった。

1に、中国当局がパンデミックを処理する初期の恐るべき間違いが、特に武漢で、真実を弾圧した破滅的な振る舞いが、体制の正統性と能力に関する疑義を生じた。国家が市民の基本的な福祉、生命そのものを保障できないとしたら、この社会契約には意味がない。COVID-19の犠牲者は、明らかに当局が認めた以上であろうが、この点を明らかにした。そして、台湾や香港のような、より自由な社会が、パンデミックに対する優れた反応を示した。

2に、パンデミックが貿易、投資、金融を縮小させる外的要因になる。グローバリゼーションの逆転は、他国が中国に頼る程度を減らすだろう。中国の貿易機会は縮小する。より多くの中国企業が、安全保障だけでなく、さまざまな意味で投資を阻まれる。一帯一路イニシアチブが、パンデミックによって損なわれる貧しい諸国で債務のデフォルトを生むリスクとなる。

それゆえCOVID-19の危機は、中国の成長を長期的に引き下げる。外には見えなくても、内部の不満が広がるだろう。習近平主席はすでに、無慈悲かつ効果的な弾圧を、一層高い水準に引き上げているから、反乱は起きそうにない。しかし、現在の社会契約は、市民たちにとってますます悪魔的なものとなる。

弱く、分裂した社会は、どれほど豊かであっても、戦略的な影響を及ぼすことはできず、国際的な指導力を発揮できない。

われわれは、米中のG2が指導力の欠如からマイナスをもたらす世界に生きている。貿易戦争から国際機関の侵食まで、両国は、安定性や解放された市場、金融のようなグローバル公共財goodsではなく、グローバルな公共「悪bads」を供給している。

ヨーロッパ、アメリカ、中国におけるコロナウイルス危機は、地政学的な悪夢をもたらす条件になる。


 債務累積の管理

PS May 5, 2020

The Day After Tomorrow

HAROLD JAMES

論争の核心は、危機によって急増する経済的、財政的コストをどのように分担するか、ということだ。その歴史的な類似ケースは、20世紀の戦間期である。

COVID-19危機と同様に、第1次世界大戦WW1も、人びとが最初に予想していたよりも、はるかに長引いた。経済ショックは、当初、大幅に過小評価されたのだ。

交戦国のどこも、大規模な軍事動員を課税のみで実行しなかった。戦争の費用は対部分を借り入れで、しかも結果的には中央銀行による貨幣化で賄われた。非常事態に対しては、それが必要であり、適当な方法である。

それが財政に与えた影響はおおむね類似していた。戦争の最後の年に、赤字に占める戦費の割合は、イタリア、USUK70%、フランスは80%、ドイツは90%以上であった。物価の上昇も各国が2倍程度と、ロシアを除いて、似た水準であった。

大きな違いは戦後に生じた。UKUSは、戦時債務の巨大な支払い負担に直面して、できるだけ速やかに正常状態へ復帰しようとした。それは大幅増税(しかも、富裕層へのかつてない高い税率)による財政均衡、近代における最初の意図された緊縮策であった。それは需要を削減し、短期の激しい不況を生じた。

対照的に、戦争に負けたドイツや、他の中欧諸国は、深刻なデフレを恐れた。人口は減少し、人心の荒廃と敗戦による絶望が広まっていたため、政府は新規に課税しなかった。むしろ中央銀行の融資による、福祉や公的雇用を支出し続けて、平和と秩序を維持した。

英米と異なり、ドイツ政府は戦争の非常事態が続いている、と考えた。政策論争は、戦時と同じような激しいレトリックで支出を正当化した。もちろん、ドイツはその結果、ハイパーインフレーションと、その後のはるかに深刻な社会崩壊を経験する。

現在、政策担当者たちは同じ状況にある。非常事態を延長し、コストの分担は考えていない。さらに、2008年の世界金融危機が先例となっている。危機への迅速は対応は必要だが、脆弱性と不安定さは危機後もしばらく続く。新しい金融危機を招くと恐れて、どの国も債務の削減をやる意志も能力もなかった。

この一時的な救済策は、新しい福祉国家の導入なのか? ある種の最低生活保障やベーシック・インカムを受け入れたのか?

1920年代も、ラディカルな社会政策の実験を行った時代であった。その教訓は、非常時の手段だけでは財源がない、ということだ。それを維持するためには、正しく価格を支払い、増税(ときには、債務削減)しなければならない。

ロックダウンが終わるとき、率直に、かつ、オープンに、将来のコストを分担することについて議論するべきだ。厳しい問題を避けることは、破滅への道を開くものだ。


 COVID-19と炭素税

PS May 6, 2020

The Carbon-Tax Opportunity

KEMAL DERVIŞ, SEBASTIÁN STRAUSS

COVID-19が経済・社会活動を停めて、2酸化炭素排出量が急速に減少した。大都市の空は、何十年ぶりかに晴れ渡っている。

しかし、「脱成長」が環境破壊を防ぐ持続可能な戦略にはならない。人類は経済活動をやめることで環境を保護するのではなく、それを回復力のある、頑健な、持続可能なものに変えることで、環境を守るべきである。

態様や風力による発電に代表されるグリーン・テクノロジーのコストが急速に低下してきたことは良いニュースである。しかし、その市場競争力は、パンデミックで需要の減った化石燃料の価格が暴落したことで失われるだろう。

それをプラスに変えることもできる。原油価格の下落は炭素税を増やすことで環境政策を加速するチャンスであるからだ。この機会を逃してはならない。

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The Economist April 25th 2020

A pandemic of power grabs

Public finances: After the disease, the debt

Migrants and the virus: Essential workers

Cov-19 and public finances: Undercut

India on lockdown: Impossible sums

Argentina: The Peronist and the pandemic

Hedge fund: Back in the game

Buttonwood: Hard money

Free exchange: Tough love

(コメント) パンデミックと強権指導者の独裁化。民主的諸国における公的債務の急増。それらは予想された話です。しかし、シンガポールやクウェート、あるいは、ニューヨークやロンドンで働く移民労働者たちが、パンデミックで住居の改善、公衆衛生、社会的な地位の改善を達成するとしたら、危機の遺産として社会を変える条件になるでしょう。

インドのロックダウン、アルゼンチンの債務組み換え交渉、あるいは、ユーロ圏がそうです。パンデミックに際して、積極的に政府が融資・補償を与えることを支持する「モラル・ハザード」の記事を読んで思いました。これは「人類愛」の問題なのです。宗教が利殖を嫌ったように、愛と営利は対立します。それは、愛が「経済構造の調整」を無視しているからです。

この2つを両立させることは可能だ、と思いませんか。

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IPEの想像力 5/11/20

The Economistを読みながら思いました。「愛と営利は両立するか?」

経済活動が盛んになった中世ヨーロッパの都市で、あるいは、シルクロードのイスラム圏で、利殖が宗教指導者たちによって禁止されたのは当然です。

にわかに職を失うこと、家族を養えないこと、お金のために子供を売り、債務に苦しんで自殺し、あるいは、金貸しを殺害する話に、宗教は信仰の反対物を観るでしょう。

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インドのロックダウンは、多くの移民労働者から職を奪った。彼らはYamuna riverの橋の下で暮らしている。悲惨な光景だが、川はいつもよりはるかにきれいだ。乾季の川は汚水で墨を流したような状態だが、今は奇跡的な清流となっている。流域の工場が閉鎖され、水中の酸素が増えて、生命がよみがえったからだ。

コロナウイルスによる死者は700人に近づき、もっと増えるだろう(3000人を超えた)。しかし、大気汚染は、毎年、インドで少なくとも120万人の命を奪う。ロックダウンで犯罪は急減し、デリーで報告されたレイプ件数は83%減少した。

アルゼンチンの新大統領Alberto Fernandezは、2つの危機に対処しなければならない。1つは、前政権が残した経済危機。もう1つは、コロナウイルス危機である。記事は、2つの危機に対処したFernandezを称賛する。財政を安定化するため、就任直後に増税し、賃金と年金を凍結した。パンデミックを抑えるために、312日に国境を封鎖し、ビジネスと交通を遮断した。支持率は81%に高まっている。

しかし、この先はわからない。失業者が増えてくる。パンデミックを抑えるにも財源がないため、中央銀行の融資に頼っている。対外債務返済を繰り延べ、条件を再交渉するよう、政府は債権者に求めている。インフレ率はすでに50%を超えている。もしこのまま9度目のデフォルトになれば、アルゼンチンはパンデミックに襲われ、社会秩序も含めて崩壊するだろう。

ユーロ圏のコロナウイルス対策では、ユーロ圏やECBが生き残ると予想する。パンデミックを恐れる人びとが現金を余分に保有するとき、発行番号から、ドイツで印刷されたユーロ紙幣(Xで始まる)を選んで残し、ギリシャ(Y)やイタリア(S)の紙幣を残さない、という話を紹介する。それは何の意味もない。すべてのユーロ紙幣はECBの管理する同じ貨幣である。

通貨圏として生き残るためには、財政を統合する必要がある、と言われる。しかし、政府債務の少ないドイツなどは、債務の多いイタリアなどを信用しない。税制や政府支出を統一してから通貨も統一する歴史を無視して、ヨーロッパは通貨同盟を先行させた。共通の財政が存在すれば、地域に偏った危機にも、自動的に、危機の及ばない地域から財源が再分配される。ユーロ圏にはそれがない。

しかしECBがあるから、事実上、政府債券は共同保証されている。コロナウイルス危機で発生したコストは、当面、公的に融資される。しかし債務は積み上がり、いつかその分担を合意しなければならない。それはユーロ圏に限らない。納税者(増税)、消費者(インフレ)、債券保有者(削減や低利回り)、そして、ユーロ圏では加盟諸国間で、分担が政治論争になる。

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一気に共通の危機を経験することは、人間本性の中から、愛を覚醒するのかもしれません。

愛と営利は異なるものですが、この2つが共存し、共鳴できる仕組みや空間もあるでしょう。あってほしいと思います。新技術のもたらす社会的革新や産業構造の転換は、金融都市や経済特区を超えて、文明の深いところでつながっているのです。

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