IPEの果樹園2020

今週のReview

4/13-18

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コロナウイルス危機への対応#1 ・・・危機後の世界に向けた政策 ・・・メルケルは行動せよ ・・・ボリス・ジョンソンの跳躍 ・・・『資本とイデオロギー』 ・・・コロナウイルス危機と経済対策 ・・・ヘリコプター・マネーの監督 ・・・サンダースの退陣と革命

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 コロナウイルス危機への対応#1

PS Apr 8, 2020

Lessons from Crises Past

GEORGE P. SHULTZ , MICHAEL J. BOSKIN, JOHN B. TAYLOR

連邦政府や州政府、地方政府により、アメリカ経済のかつてない封鎖が命じられている。コロナウイルスの感染拡大を抑えるために必要であることはわかる。しかし、たとえ良い意図からでも、政府介入はしばしば長引き、市場の適切な機能を妨げて、有益であるより、有害になることが多い。

パンデミックに対する政策も、市場の機能を維持し、民間のインセンティブを生かすべきだ。

緊急の目的に民間部門の企業や被雇用者を規制することは最小にする。個人の責任を明確にする。政府は価格決定に介入しない。

たとえば、1971年、インフレ圧力の下にあるアメリカで、ニクソン政権は賃金・価格を統制する命令を発した。最初は機能したように見えたが、その後、経済に有害であった。対称的に、レーガン大統領は、規制緩和と税率の引き下げ、マクロ経済政策に戻し、それ以前の政府介入では達成できなかった水準を実現した。

他の原則は、市場の調整に委ねる、ということだ。1971年の夏、財政赤字とインフレで金流出が続き、ニクソンは固定レートによる金交換を停止した。そして変動レート制に移行した。それ、結局、うまく行った。フリードマンも指摘したが、1973年に中東戦争、石油禁輸、国際金融危機になるだろうと恐れたが、何も起きなかった。自由な価格システムが処理したのだ。

1990年、サダム・フセインがクウェートに侵攻したときも、石油の先物市場を閉鎖しなかった。1990年代初めのS&L危機でも、支払い不能のS&Lは閉鎖せず、高金利で資金を集めた。それは不人気だが、究極において損失を抑えた。

最後に、政策担当者は経済的影響に焦点を向けるべきだ。2008年の世界金融危機では、ベアスターンズを救済したことで、他の金融機関も救済を期待するようになった。それは失敗だ。コロナウイルス危機でも、納税者が政府からの給付を支出するように求めるべきだ。


 危機後の世界に向けた政策

NYT April 3, 2020

Covid-19: A Look Back From 2025

By Bret Stephens

2025年からの手紙

5年前、CORVID-19は中国に出現した。権威主義体制が病気を広めた、という者もいた。警告する者を弾圧し、データをねつ造し、情報の自由な交換を嫌ったからだ。

数か月で明らかになった。その反対も真実だ、と。病気は権威主義体制を広めたのだ。

ハンガリーのオルバンは、ロシアのプーチン型独裁体制を確立した。フィリピンも、イスラエルも。

パンデミックは世界中の政府に強硬策を正当化する理由を与えた。野党の反対を阻み、集会を禁止し、投票を弾圧、都市の封鎖、国境の遮断、貿易制限、ビジネスへの介入、旅行規制、反対派メディアの検閲。

アメリカでは、ジョー・バイデンが、予定されていた会場の感染リスクにより、デラウェア州の自宅で民主党の大統領候補指名を受けた。バイデンはネットで選挙活動を展開したが、非常時の権力を得たトランプ大統領は容易に再選を勝ち取った。

市民の自由は減少し、政府は巨大になった。史上空前の失業は、医療保険、失業手当、住宅・食料支援をかつてない水準に引き上げた。トランプは、バーニー・サンダースが夢にも思わなかったほど、福祉国家を拡大した。

ロックダウンが解除されても、事態は何も変わらなかった。人びとは街に出ることを嫌い、企業も個人も破産した。何万件もの融資がデフォルトになって、金融危機が発生した。多くの銀行が直ちに国有化された。政府は救済した産業を抱えることになった。

発展途上諸国の危機ははるかに破滅的であった。若者が多かったが、死亡率は非常に高く、経済が停滞した。メキシコの国境地帯は無秩序と化し、ついにトランプは両党の支持で壁を建設した。

危機の初期には進歩的な政党が優位を得るように見えたが、その反対だった。

環境保護の関心は失われた。天然ガスは安く、経済破局で炭素排出量も減ったからだ。犯罪の急増で、銃規制や刑法の見直しは支持されなくなった。地方や郊外の有権者に支持されて、トランプは「アメリカ再稼働」を展開した。彼らは都市のエリートほど感染リスクを恐れていなかった。

世界中に好戦的な論調が広まった。経済にダメージを受けた体制、特に、中国、ロシア、イランは、国内不満を対外的な軍事的拡大によってそらすことを好んだからだ。軍の拡大は失業対策にもなった。コロナウイルス危機は、諸国の国境封鎖と険悪な関係を広めた。

良い面もあった。人びとは読書し、家族や老いた両親を気遣い、金銭に注意深くなり、深く思索した。精神的な豊かさは確かに成果である。

しかし今は、第46代アメリカ大統領の就任式である。マイケル・リチャード・ペンス。

FT April 5, 2020

US society needs a broadband big dig to get out of its hole

Rana Foroohar

何も成長しないこの頃だが、1つだけ伸びているもんもがある。インターネットの利用だ。

実際にある商店街は廃業し、インターネット取引が増える。コロナウイルスがデジタル経済化を加速したのは間違いない。AmazonからGoogleまで、危機後の世界で、確実に、以前にもまして強大な存在になるだろう。

他方、流通や小売り、旅行代理店、観光業が回復するには、時間を要するだろう。しかし、こうした分野こそ近年の雇用を多く生み出してきた。

はっきり言って、議会が話し合っているインフラ投資は緊急支援にならない。この数週間、数か月が重要である。融資ではなく給付、債務の免除が必要だ。

ワクチンが開発されるまで、まだ1年以上も、失業の高い水準が続くだろう。1つの意志で何羽も一緒に撃ち落とす支援策が必要だ。

まず、ブロードバンドを国民全体に提供する「ビッグバン」である。パンデミックの真ん中で、ブロードバンド接続が可能でなければ、人びとは生活、仕事、教育の機会が得られない。

こうしたサービスを地方で安価に提供するこころみや新興企業に、政府の支援策が届かない恐れがある。それは中央の規制を既存のインターネット大企業、Facebook, Amazon, Apple, Netflix and Google いわゆる “FAANG”が、政治を通じて支配しているからだ。

むしろ、インターネット取引による利益を、彼らは税金として追加に徴収されるべきだ。そして、こうした試みを政府は経済の再生の機会としなければならない。もしそれに失敗すれば、大企業に対する不満はかつてない水準に高まるだろう。


 メルケルは行動せよ

The Guardian, Mon 6 Apr 2020

The EU can emerge stronger from the pandemic if Merkel seizes the moment

Timothy Garton Ash

コロナウイルス危機からヨーロッパが回復するとき、何が起きているだろうか? それは3つの問いにどう答えるかによって決まる。

1に、ハンガリーが独裁国家になっても、EU加盟国であり続けるのか?

2に、ヨーロッパの連帯が、ユーロ圏で最も深刻な打撃を受けているイタリアの回復に何を示すのか?

3に、ヨーロッパの中枢国家であり、ユーロ圏から最大の利益を受けている国として、ドイツは何をするのか?

スペインもコロナウイルスで最悪の被害を受けている。首相のPedro Sánchezは、ヨーロッパが「戦時経済体制」を築く必要を語り、ヨーロッパ内の新しいマーシャル・プランを呼びかけた。

ドイツの7人の指導的なエコノミストが、経済回復のための1兆ユーロを共同債として調達することを主張した。それはユーロ圏諸国政府が共同で保証する。しかし、「債務削減」や「巨額の財政黒字」という基本的問題には答えていない。

ドイツのトップ・タブロイド紙である『ビルドBild』が最近、イタリアに向けて「ドイツ人はあなたたちとともにある」という公開書簡を載せた。エスプレッソ、赤ワイン、ピザを称賛し、またすぐに会えるよ、と妙な連帯感を表明したのだ。

その数日前、記事は「ユーロはどうなる? 債務の相互保証が求められる危機だ」と書いた。しかし、ビルドの読者が考えるべきは、イタリアが必要とするのは、ドイツ人が休暇に遊びにきて、おいしいエスプレッソを飲むことではない。ドイツ人が大きな利益を得ている経済通貨同盟によって巨大な債務を負うようになったイタリアに、債務を共同保証して、経済の回復を助けることだ。

メルケルはもはや政権を維持するべきではない。大連立も望ましくない。昨年、私はそう主張した。

しかし、今はそういう問題ではない。超強力な嵐の中にある。メルケルは、EUを強化する、かつてない、最後のチャンスを得たのだ。ビスマルクは、政治家の使命を、歴史を動かす神の足音を聞き分けて、そのコートの裾をつかむために飛躍することだ、と述べた。

今、そのコートをつかめ。


 ボリス・ジョンソンの跳躍

FP APRIL 3, 2020

Britain’s Post-Brexit Identity Crisis

BY JAMES CRABTREE

ボリス・ジョンソンは、UKEUを離脱した131日に、彼が創りたい国についてグリニッジで演説した。

彼は、EU離脱が自由化と体制転換の瞬間である、と示した。大陸の足かせに長く苦しんだ島が、スーパーマンのように飛び立つ。ジョンソンは解釈する。クラーク・ケントが冒険に飛び立つ用意はできた。電話ボックスに飛び込んで、超能力を帯びたチャンピオンだ。自由貿易の利益を求め、自国の道を突き進むぞ。

2016年のブレグジット投票は、EU離脱を決めただけでなく、貧しい地方のコミュニティーより、繁栄する都市を優先するグローバリゼーションのモデルを拒む投票だった。コロナウイルスが分断や封鎖を求める前から、ジョンソンは世界で最もラディカルな脱グローバリゼーションの実験を指導していた。

ジョンソンのブレグジットは、2つの矛盾する展望の間でジレンマに陥る。ハードなブレグジットは、彼の政治基盤を破壊する。1つは、「テムズ河畔のシンガポール」モデルだ。課税やルールを採点限にまで緩めて、高い競争力を目指す。しかし、それが失敗する3つの理由がある。

1)シンガポールを誤解している。税率は低いが、厳しい介入主義国家である。2)ヨーロッパの統一規制と衝突する。3)イギリス国民が、これ以上の規制緩和に反対する。


 『資本とイデオロギー』

FP APRIL 3, 2020

The Tyranny of Property

BY KEITH JOHNSON

『資本とイデオロギー』において、ピケティは、前著でしなかったことを2つしている。不平等が続く理由と仕組みを説明する、その傾向を逆転するためのより根本的な解決策を示す。

不平等の存在は、偶然ではなく、デザインされたものだ。世界各地の、あらゆる時代に存在する、不平等レジーム(体制)である。不平等は、富を所有する者たち、特権者たちが、より多くの富と特権を得るように、政治的・経済的なゲームを決めることで生じる。

「不平等とは、経済的なものでも、技術的なものでもなく、イデオロギー的な、政治的なものである」と、ピケティは書いている。

なぜ不利な立場の人々は団結して、経済的正義を実現するための政治改革を推進しないのか? そのような改革は歴史上に何度も起きた。不公平な経済システムは不滅のものではない。スウェーデンのケースは興味深い。

ヨーロッパでもっとも不平等な(そして、最も未開の)国であったスウェーデンが、その対極の国に変身したのだ。19世紀、スウェーデンの選挙システムは階級に依拠するものだった。より多くの富の所有者、より多くの税金を支払う者は、より多くの投票ができた。つまり多くの村で、1人の地主の方が村民よりも大きな投票数を持った。19世紀に、最上位の1%が私的所有の60%を、10%の富裕層が約60%を支配していた。

しかし、1920年代に社会民主党が登場した後、およそ80年にわたり政権を握った。そしてすべてが変わった。

『資本とイデオロギー』で、ピケティは、所有権を一時的なものに変え、会社の労働者と所有者(株主)に、より平等な力を与え、国民全体に資本を付与し、医療保険とベーシック・インカムを保障する、というラディカルな改革を提唱する。

ピケティは、社会主義国の世界連邦制が、ナショナリズムの狭隘な国境を克服し、憲法を書き換え、協力して税金を増やす、と考える。「公正な社会は、参加型社会主義と社会連邦制の基礎の上に樹立される。」

過去においても、ラディカルな解決策は考えられないものとみなされたが、突如として、そうではなくなった。


 コロナウイルス危機と経済対策

VOX 06 April 2020

To fight the COVID pandemic, policymakers must move fast and break taboos

Sony Kapoor, Willem Buiter

稲妻のようなスピードで、巨人が駆けるように、ウイルスは世界経済を破壊した。それに見合った「衝撃と恐怖」の政策で克服するしかない。

各国は目のくらむような対応策を並べた。ECBのパンデミック資産購入プログラム、アメリカ政府が約束した何億人にも及ぶ直接的資金投入、EU全域におよぶ賃金補助給付、これらの史上空前の政策はまだ始まりに過ぎない。

政策担当者たちは、急速に行動し、タブーを打ち破る必要がある。結局、政府こそが最後の保険、最後の貸し手、最後の購入者であり供給者でもある。小さすぎ、遅すぎのリスクがあまりにも明白だ。

アメリカやEUの経済活動は、おそらく、少なくとも3か月間にわたり、消費、投資、貿易が崩壊するだろう。GDP10%から20%も落ち込む。あるいは、もっと大きいかもしれない。これは政府の歳入に巨大な穴をあける。おそらく、30-40%も減少する。

他方で、政府はコロナウイルス危機の対策に、医療や社会介入政策だけでなく、社会保障や雇用保証にも、かつてない規模の支出を必要としている。巨大企業を救済したり、金融部門全体を保証したりするだろう。それはGDP10%から20%、それ以上にもなる。危機とその後の対策により、イタリアの債務残高はGDP160%、日本はGDP270%に増大する。

それは財政緊縮の要求、政治の混乱、そのせいでユーロ圏経済の不況が続くかもしれない。また、世代間で不当な分配をもたらし、将来世代に大きな負担を押し付ける。むしろ、コロナウイルス危機に対する政府支出は中央銀行からの新貨幣発行で賄うべきだ。

リーマンショック後、中央銀行は多くのタブーを破ってきた。今は次のタブーを破るときだ。ECBと日銀は、特に、インフレ目標の達成に苦しんでいる。ここで大量の失業者が出れば、インフレ目標を大きく下回るだろう。企業や政府が破産状態になるのを、中央銀行は防ぐことができる。

しかし、中央銀行がヘリコプターでばら撒くように貨幣を市民の口座に供給する政策は、需要が不足しているときに効果的だ。また、こうした仕組みはこれから作るしかないから、時間がかかる。

現在の危機では、それと違って、医療から供給ライン、雇用保証、企業・銀行救済まで、政府が行動しなければならない。各国中央銀行がその資金を供給することが最善のマクロ政策だ。これによって財政的な保証に遅れることを避け、発展途上諸国支援にはIMFSDRsを発行し、ECBから加盟諸政府が株主として追加資金を受け取ればよい。

NYT April 8, 2020

Congress Needs a Plan to Confront the Coronavirus. I Have One.

By Elizabeth Warren

議会は3つの対策を承認した。しかし死者が12000人を超え、1000万人が職を失う、この悲劇の規模に見合った対策を、もっと多く、もっと早く、示すべきだ。

感染者は増大し、医療システムは崩壊寸前である。非白人の感染者、その死亡率が異常に高い。失業は大恐慌の水準に近付いている。医療崩壊の危機を封じ込めることが第1に優先されねばならない。市場がそれをできないなら、政府が生産者に命じて、重要な物資を供給させるべきだ。検査機、個人のための医療品、薬品の不足が起きている。ワクチンや治療薬を、数千ではなく、数千万の単位で。国民全員に医療サービスを無料で提供するべきだ。

労働者たちは職を失い、中小企業は閉鎖し、家計所得が激減している。家族や個人に向けた現金給付を超えて、経済救済を拡大しなければならない。消費者債務の徴収停止、立ち退きや差し押さえを全国で、一斉に延期する。水道や公共料金の徴収を止める。学生ローン債務の償却、チャイルドケアの提供を続けられる資金援助。社会保障給付や障碍者給付の増額。

医療、輸送・配達、農場、食品小売りなど、現場で働く労働者たちが、アメリカの機能を支える。大企業のように彼らは頼るものがない。議会は、労働者自身や家族が病気になったときの医療保障を国民全体について法制化するべきだ。職場の安全、非常時の安全基準、危険手当、労働者が危険な状態について発言できる集団交渉権を保障すべきだ。


 ヘリコプター・マネーの監督

FT April 10, 2020

Monetary financing demands careful and sober management

Martin Wolf

絶望的な状況では、中央銀行が政府に貨幣を供給し、「ヘリコプターからばら撒くように」国民に貨幣を与えることもある。しかし、それはどういう意味か? そもそも意味があるのか? どれくらい危険か? どのように、だれが管理するのか?

イングランド銀行のAndrew Bailey総裁とイギリス大蔵省の意見は一致しない。巨額の国債を中央銀行が購入した場合、それを管理するのは中央銀行なのか? 自分たちだけで、その売買を決定できるか? 長期に、恒久的に保有することを求められるのではないか?

2つの知的な問題が関わっている。1つは、財政支出に直接に貨幣を供給する政策は、財政政策なのか、金融政策なのか? もう1つは、「恒久的に」保有するとしたら、それはどういう意味か?

この政策は両方を1つにしている。そして、日本銀行が事実そうしているように、恒久的ではない、という見せかけで行う。膨大な国債を保有し続けているとしても、中央銀行としては、政府に貨幣を供給しているつもりはない。それは意図の問題である。

真実はあえて語られない。不可逆的な国債の大量保有も、それがいつか売却されるかもしれない。真の問題は、そういうところにはない。

その政策には意味があるのか? 答えは、“Yes”である。戦争、深刻な不況、パンデミックのような、例外的な状況では、国民の生活と生命を守る政府の膨大な行動を支えるのも中央銀行の任務である。これに反対するのは狂信的なリバタリアンだけだ。中央銀行の独立性や物価の安定さえも、すべての状況で支持されるわけではない。

しかし、制御されない場合、財政への貨幣供給は無責任な支出をもたらし、インフレ高進や、ハイパーインフレーションという形での隠れた課税につながる。これを抑えるために中央銀行が、銀行への規制や多くの準備金を求めるなら、民間部門の発展を損なうだろう。

とはいえ、現在の危機を、政府が債務を増やすことで国民の所得や経済を維持しようとすれば、その後の緊縮策やその予想が経済拡大を損なうだろう。問題は、政府支出への中央銀行からの資金供給を、制度的、技術的に、どのように管理するか、である。

イスラエルのエコノミストEran Yashivは、時限制の、CORVID-19可逆的財政プログラム、を提唱する。プログラムの理事会は、財務省と中央銀行の代表、外部の専門家が構成する。

政策委を実施する場合、マネタリー・ベースの大幅な増加が、商業銀行の融資拡大に向かわせる。中央銀行は、金利を上げ(しかし、その場合、準備に高い利子を支払う)、あるいは、金利を支払わない準備を求める。インフレが急伸するかもしれないが、公開市場操作で過剰な準備を吸収する。

その提案も1つの手段でしかない。状況に応じて、特別なものが必要だ。それはハイパーインフレーションへの王道ではないし、実体経済が落ち込むのを解決する万能薬でもない。

政府がしなければならないことを助けるために、中央銀行は行動する。それを管理できる方法を見出すことだ。


 サンダースの退陣と革命

FT April 9, 2020

Bernie Sanders exits just as big government returns

Edward Luce

バーニー・サンダースが敗北する状況を考えた誰一人として、まさか、アメリカ議会が財政赤字を4倍増にするとか、有力な共和党員たちがこぞってユニバーサル・ベーシック・インカムを称賛する、などと考えたことはなかっただろう。大きな政府がまさに要請されているときに、サンダースが選挙運動をあきらめるのは、皮肉なことである。

ロナルド・レーガンは、「私は政府の者だ、あなたを助けてあげる(“I’m from the government and I’m here to help”)」というのは、最も危険な9つの英単語だと言ったのは有名だ。しかしコロナウイルスはアメリカ人に、政府の不在こそ、危機の間の最も憂うるべきことだ、と教えた。

しかしまた、コロナウイルスこそサンダースにとどめを刺した。自宅退避の命令は、突如として、選挙戦を不可能にした。

火曜日のワイオミング予備選が示したように、多くの投票者がサンダースを支持するために遠くから集まって、何時間も危険な状態で列をなした。サンダースの、大衆動員戦術が不可能になったのは明白だった。今後、アメリカ大統領選挙は、デラウェアの自宅から中継するバイデンと、コロナウイルス対策で放送を独占するトランプとの対決になる。

2020年選挙には、多くの失敗した選挙戦術が並ぶだろう。しかし、サンダースはその中身を変えた。サンダースの遺産として、民主党は左派に寄り、バイデンは、その経歴のいかなる時期よりも、経済に関してポピュリストに近づいた。

サンダースが退場したとき、バイデンは認めた。「まるで注目されず、というのも、まったく議会で承認される見込みのない、諸問題が今や政治論争の中核に現れた。所得の不平等、国民皆保険、気候変動、大学無料化、学生ローンからの解放。これらこそ、バイデンと彼の支持者たちが命を吹き込んだ問題である。」

バイデンの仕事は、トランプ大統領の怠慢を糾弾することになるだろう。サンダースの早期退陣は、バイデンを有利にした。結局、だれかがツイッターでつぶやいたように、サンダース革命はテレビで見せるものではない。ZOOMでも無理だ。しかし、彼の退陣こそトランプの敗北を引き寄せたのであり、革命をなしたと言える。

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The Economist March 28th 2020

The next calamity

The state and covid-19: Everything’s under control

America’s rescue package: Mixed medicine

Economic policy and the virus: Building up the pillars of state

Special report: The African century

Free exchange: How to pay for the pandemmic

(コメント) 核心を突く、暗闇を抜けるような議論は見つけられなかった。

ウイルスの対策は、わからない。経済政策も、わからない。財政負担と中央銀行の正しい姿勢も、わからない。

「アフリカの世紀」はおもしろい。人口の急速な増加、しかも、人口の半分が20歳以下だ。人びとは都市に集まり、雇用を求めている。民主的な政府と経済成長との関係を積極的にとらえている。独裁者たちを倒す手段を鍛えるだろう。

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IPEの想像力 4/13/20

コロナウイルスによる都市封鎖、外出禁止令が、市民生活を一変させ、世界大恐慌と大不況を再現しつつあります。

アメリカの投資家は、まだ、危機後の急速な回復と株価上昇を期待しているようです。政府の大規模な補償や現金給付は、経済の落ち込みをできるだけ回避し、凍結と、危機後の回復に備えるものです。デジタル経済化が大幅に進み、グローバリゼーションの逆転も、すでに、危機前からハイテク技術の労働節約や米中の新冷戦(ただし、これもトランプの再選に向けた政治ショー)で限定的な再編が進みつつありました。

コロナウイルス危機は、まだ、「風の谷」のような集落を「腐海」に点在させる未来を想像するほど、深刻なわけではないのです。

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危機の終わりが見えません。コロナウイルスは、最終的に、どうなるのか? ウイルスが完全に消滅するのか? あるいは、ウイルスの毒性が増して、人類が完全に死滅するか、辺境に孤立して暮らすしかないのか? ウイルスも、人類も、変異し続け、ウイルスと共存できる免疫を獲得した人類だけが生き残るのか?

各国政府が試みていることは、短期的なロックダウンと、長期的な集団免疫との間で、感染のスピードを遅らせ、医療崩壊を避けることと、他方で、経済活動と雇用・所得をできるだけ維持して、大恐慌を避けることです。

ロックダウン(外出禁止と経済の凍結)と集団免疫(弱者の死滅)の間をバランスさせる武器としては、マスクや防護服、隔離施設、人工呼吸器しかありません。時間(そして莫大な資本、研究者の協力体制)を費やして、ウイルスの研究を進め、ワクチンと治療法が見出されるのを待っています。

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ウイルスや感染症という「病気」が私たちに問うのは、もちろん、私たちの「健康」な姿、その意味です。この社会は平等で公正か? 社会として、どのような存在をめざすのか?

遠隔で、インターネットを通じて働くことができる人もいますが、畑や倉庫で働く人、建設作業、配達や警備、輸送システムの運営、保守点検で現場を回る人もいます。

働く者の生活やその報酬がこれでよいのか? という問いを社会はまだ受け止めていないように思います。もし医療従事者が「働くこと」を拒否し始めたら、どうなるのか? それは報酬の問題や、自分たちの命、家族、将来だけでなく、医療をめぐる政治や社会の異なるあり方を求めるからです。

外出禁止令で、中小企業や商店街は倒産と閉店を強いられ、農家、漁師、酪農家など、生産者の直接統制経済(戦時経済)が再現し始めています。プラットフォーマーとロジスティクス、それを担う低賃金労働者の大軍。そして危機は、住宅を失ったホームレスや、故郷が戦場となった難民たち、異教徒、異民族への迫害とともに、集団的隔離、追放や暴力を顕在化します。

富裕層は富の正当な所有者か? 資本や所有制の根本が疑わしいと感じるでしょう。たとえ富裕層は感染を遮断した別荘で暮らすとしても、また、彼らの所得がどこかの投資ファンドやタックスヘイブンから湧き出すとしても、かつてセレブとして称賛されたような指導的地位を社会が与えることはないでしょう。

民主主義は正しい権力の制御方法か? 医療関係者、高齢者の危機、イタリアのような医療崩壊とパニック、大量死が目の前に現れるまで、政府は行動しないのか?

個人主義や自由主義は制限されるべきか? 強い統制は、その合理的な根拠を必要とし、実効的な仕組みは、ハイテクによる行動監視、負担と痛みの関連付けを求めるでしょう。自粛や閉店を求めるなら、補償や生活を明確に支持しなければなりません。どのような水準で維持できるのか、規範だけでなく、行動基準を示し、それを意図的に無視し、破る者には、高い税率を課し、食糧の配給を止め、医療の順番を遅らせることになるでしょう。

こうした仕組みは、もちろん、可能です。スマートフォンとIOTの時代、さまざまな電子機器にはセンサーが付属し、インターネットを介してデータが蓄積され、町中に何万台もの監視カメラがあるのです。日本も含めた欧米社会がテロや犯罪捜査に利用し、中国が国民に社会評価制度を導入しているように、ウイルスの感染とその社会的コストを個人の評価や負担にリンクすることは、危機後の社会にきっと組み込まれるでしょう。

だからこそ、インターネットの在り方に付きまとう不安は深刻です。この詐欺的な「情報」×「監視」社会。投機に沸く金融市場。ネットが広める差別、性暴力。グローバルな文明の暗渠に消える子供たち。・・・

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国民一人当たり10万円給付。それは素晴らしい政策なのか?

そういう政府こそ、日銀に財政赤字を現金給付させ続けてきたのではないか? 株価が上昇しているときには自慢していた国民年金の運用はどうなったのか? 東日本大震災や福島原発処理コストの負担はどうなったのか? 今後、世界中で政府債務が急増するなら、金融市場を介して、日本はどのような影響を受けるのか?

以前、FTのコラムで、全員に給付されるなら、自分は家政婦に来てくれていた女性に小切手を渡したい、というアメリカの話を読んで、なるほど、そうだな、と共感しました。外出禁止で働く機会を失い、困っている人が多いだろう、と心配したからです。ぜひ10万円をもらったら、本当に困っている、子供を育てながら苦労して働くお母さんへの支援金として使いたいです。

国家は確かに最後の保証人であり、国民の生活を守り、生活と経済の再生を支援しなければなりません。しかし、だれを、どのくらい、どうやって支援するのか?

しっかり提案して、説明するよう、政府に求めます。そして、野党は今こそ、しっかり斬新なアイデア、具体的な、実効性のあるプランを示して、政府と論争しなければなりません。

パンデミックが民主主義を活性化した、という国の1つに、日本がなってほしいです。

『ブレグジット×トランプの時代』

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