IPEの果樹園2020

今週のReview

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社会民主主義の可能性 ・・・ロシアの独裁体制 ・・・トランプ支持の理由 ・・・中国経済の減速と技術革命 ・・・絶望死の無い社会 ・・・気候変動の抑制策 ・・・ダヴォスの茶番 ・・・香港の抗議デモは続く

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 社会民主主義の可能性

FP JANUARY 15, 2020

CAN SOCIAL DEMOCRATS SAVE THE WORLD (AGAIN)?

BY SHERI BERMAN

社会主義が復活しつつある。その第1の理由は、資本主義が失敗したことだ。この数十年間、不平等な分配が顕著である。上位1%のアメリカ人が、中産階級全体と同じだけ、資産を所有している。

しかも、所得は不安定さを増した。グローバリゼーションと技術革新が、西側全体において、人びととその子供たちの将来を不確かなものにした。社会的な上昇の可能性も、特にアメリカで、低下した。「持たざる者」が、その寿命を短縮し、崩壊したコミュニティーに暮らし、身体や精神に問題を生じて、アルコールや薬物に依存することが増えた。

こうして西側社会には、深刻な分断と不満が創り出され、ネイティビズムや政治的極論、ポピュリズムが広まる土壌となった。

19世紀から20世紀初めに、資本主義と民主主義は両立しえない、と信じられていた。たとえば、ジョン・スチュアート・ミルは民主主義を「多数者の独裁」とよび、ジェームス・マディソンも「個人の安全か、所有権か」と問いかけた。その後、経済的自由を擁護して、Ludwig von Mises, Friedrich Hayek, Milton Friedmanなど、民主主義より、権威主義的リベラリズムを支持する意見が示された。多くの社会主義者は、資本家たちがすぐに民主主義を破壊する、と考えていた。

1930年代、特に1945年以降、この2つが和解されたのは、いわゆる大転換を経て、社会民主主義が支配的になったからだ。

資本主義の利点を生かし、同時に、そのマイナス面を是正するうえで、民主主義が有効だ、市場を規制し、社会政策を実施することで和解できる、と考えるようになった。市場の持つ不安定化と、最も破壊的な効果から、市民たちを保護できる。

それは社会主義思想における闘いでもあった。カール・マルクスとその後の共産主義者たちは、資本主義の崩壊を信じていたが、それが起きないとき、暴力を使っても権力を握り、体制を転換するべきだと考えた。社会民主主義者たちは、暴力革命を批判し、政策を通じて資本主義を転換できる、と考えた。しかし、社会民主主義者は、体制転換ではなく、資本主義のマイナス面を民主主義で是正することを目標とした。

ヨーロッパでは、第1次世界大戦と、大不況にいたるさまざまな経済問題に、社会主義者たちが対決した。混沌とした時代に、苦悩する人々を救うことができない民主的政府の無能さと無気力に、政治的な過激主義が広まった。ドイツでは、社会民主主義が国家による資本主義の改革を唱えた。他方、共産主義者が資本主義の崩壊として大不況を歓迎した。

アメリカでは、フランクリン・D・ルーズベルトが、ヨーロッパの社会民主主義者と同じ結論に達した。ドイツと並んで、アメリカは大不況による最も深刻な打撃を受けた。1930年代前半は、ヘンリー・フォード、チャールズ・リンドバーグなど、ヒトラーを支持するポピュリスト政治家たちへの支持が高まった。

ルーズベルトは、大恐慌を解消し、資本主義を強制的に改革しなければ、民主主義の危機が迫っている、と認めた。市民たちに、政府は彼らを、資本主義がもたらした苦しみ、リスク、不安定さから救済できることを示さねばならなかった。ニューディールは、資本主義と民主主義への信頼を回復するために設計されたものだった。

しかし、特にソ連が崩壊してから、資本主義と民主主義との和解は次第に後退した。

FP JANUARY 15, 2020

HOW CLIMATE CHANGE HAS SUPERCHARGED THE LEFT

BY ADAM TOOZE

気候変動の緊急事態は、世界中にラディカルな政治を広めており、環境保護のラディカリズムが左派の政治運動として登場している。

しかし、左派の復活は、旧いジレンマと、新しい変化した世界における挑戦に直面する。気候変動は人類の責任ではなく、その化石燃料に依拠して、利潤動機による拡大を続けた資本主義の責任である、と左派は示すだろう。

左派は資本主義を批判し、また、グローバルな協調にも積極的である。気候変動を抑える政策は、同時に、資本主義と社会的な不平等の構造を改革することを目指すだろう。

もし英米のグリーン・ニューディールを支持する左派が政権を握れば、気候変動は抑制できるだろうか? 20世紀半ばの危機の基本的教訓は、西側の資本主義的民主主義体制が挑戦を受けたことではない。どのような進歩も、ソビエト体制の変幻自在な暴力との同盟において、実現可能になったということだ。1945年以後、われわれはソ連と対峙し、世界を分割し、核による人類絶滅で脅迫し合った。

現在の明白な問題とは、気候変動に関する、西側と中後港との関係だ。ヨーロッパはソ連との間にパイプライン網を張り巡らせた。この点で、西側はソビエト体制の政治や倫理をめぐる困難な問題を無視した。中国において、気候変動の姿勢が急速に変化したものの、グリーン・デタント(環境対策における緊張緩和)として、協力関係を結ぶことは西側にとっての難問であり、特に、左派はこの挑戦に応えねばならない。

FP JANUARY 15, 2020

THE WORLD AFTER CAPITALISM

BY BHASKAR SUNKARA

FP JANUARY 15, 2020

WHY SOCIALISM WON’T WORK

BY ALLISON SCHRAGER

PS Jan 20, 2020

Walking the Talk of Stakeholder Capitalism

RICHARD SAMANS, JANE NELSON


 移民の規制

NYT Jan. 16, 2020

I’m a Liberal Who Thinks Immigration Must Be Restricted

By Jerry Kammer


 ロシアの独裁体制

FT January 17, 2020

A demographic trap and low growth are Putin’s biggest challenges

John Dizard

ロシアのニュースは、まるで19世紀の長い小説を読むようだ。制裁、諜報機関、砂漠の国における傭兵、ウクライナにおける陰謀、外国の選挙に対する介入。

しかし、プーチンとロシアの指導部が最も懸念すべき問題は1つだけである。人口減少と低成長の罠だ。

シリコンバレーであれ、クレムリンであれ、いかなるシステムも不死を求める。プーチンは、内閣改造だけでなく、制度の改革、国家権力の分散化を演説で示した。ウクライナとクリミアへの侵攻で、ロシアが経験した西側の制裁は、ロシアに、大きな犠牲を払っても、金融の対外債務依存を減らし、厳格な予算管理、社会的な緊縮を通じて、安定化を達成させた。

ロシアの証券市場は高騰し、金融政策も正統的である。しかし、プーチンが企業に情報開示を求め、汚職追放や、石油富豪のモデルを否定するのには理由がある。近隣諸国に流出する若者と才能ある人々を、ロシアにとどめねばならないからだ。

FP JANUARY 17, 2020

Putin Is Following the Game Plan of Other Autocrats Before Him

BY ANDREA KENDALL-TAYLOR

FT January 18, 2020

Russia’s political shake-up: Putin forever

Henry Foy in London and Max Seddon in Moscow

2008年にプーチンが4度目の大統領に就任したとき、モスクワの情報インサイダーたちは、だれがプーチンに後継者として指名され、ロシアを運営するのか、という噂が飛び交った。

水曜日、プーチンはその問題に明確な答えを示した。彼は自分を指名したのだ。

70分間の演説で、いろいろな問題に答えたが、最も重要なことは、彼の周りで影響力を高める者や、略奪者になろうと夢見る者たちに、石を投げて殺したことだ。プーチンは、習近平が「終身国家主席」であるように、今や事実上の「終身大統領」である。

プーチンが権力を得たのは、ボリス・エリツィンが、民主的な初代大統領として、権力の座を退くという前例のない決断をしたからだ。そのときKGBの元エージェントで、諜報機関のトップであった人物が、クレムリンに移った。

それはロシア史を通じて、民主的な権力移譲の最初のケースであった。しかし、プーチンの体制では、ロシアの安定や安全保障がプーチン個人の存在としてイメージされ、多くの人は、プーチンが後継者に平和的な権力移譲を行う、とは想像できなくなった。

結果的に、それは与党の支持率を低下させた。また改革派に対して、プーチンの周囲に集まるナショナリスト、諜報機関と結びついた反動的なシロビキのクラン(部族集団)が、その権力を強めた。

国家評議会は、今は、単なる諮問機関でしかないが、その任期も影響力も法律によって制限されない、強大なパワーを得るだろう。ロシアは専制体制を強化し、民主主義の規準からさらに遠くなる。何かが変わったふりをするけれど、すべてはそのままだ。

しかし、ペレストロイカを企画した者たちもそうだった。簡単に勝利できると思って戦争を始める者も。国民投票に勝てると思って、敗北した者たちも。すべて間違いだった。

PS Jan 18, 2020

Putin’s Meaningless Coup

SERGEI GURIEV

FP JANUARY 20, 2020

Russia’s New Prime Minister Augurs Techno-Authoritarianism

BY JOSEPH W. SULLIVAN


 トランプ支持の理由

The Guardian, Fri 17 Jan 2020

Trump’s is the third impeachment in US history and no case has been stronger

Jonathan Freedland

NYT Jan. 22, 2020

Why Trump Persists

By Thomas B. Edsall

なぜトランプへの支持が続くのか? アメリカの有権者は、憤慨しているけれど、寛容さ、感情移入、誠実さを、多くの人が思っているほど、持たないからだ。

トランプの当選とその3年間は、国民全体が移民、人種、平等、公平をめぐって、深く迷った状態にあった。

もし信念の体系が反移民政策や人種差別を正当化するために使われるなら、すなわち、外部者への敵意、孤立した感覚、外部の脅威に対する敏感さが、移民に対する共感、人種の平等という信念の体系、すなわち、開放性、新しい経験を受け入れる姿勢、信頼感とともに、アメリカという国家に深く浸透しているとしたら、どうだろうか?

ある政治心理学者は考える。移民、人種、ホームレスに関するトランプの保守主義が、より「自然な」「初期状態」である、とは思わない。2つの信念体系の良いバランスを保つコミュニティーが、人類の発展史において、繁栄する傾向があった。正しいバランスを見出すことが重要だ。あまりにも多様性や複雑さを好むなら、「多くの人々がそれに対する寛容さ」を超えてしまうだろう。

われわれの時代のパラドックスとは、リベラルな民主主義を減らす方が、究極的には、リベラルな民主主義を確保できる、ということだ。

受け入れるコミュニティーの構成要素が変化するスピードが最も重要である。すでに多様な場所においては、より多様になることに問題はない。しかし、相対的に同質的な場所では、たとえ小さな絶対数の新規参加者でも、例えば難民のように、混乱し、文化的な不安が活性化する。

部族主義tribalismを非難するのは間違いだ。それは多くの人々が脅威に対して反応し、集団間の競争で仲間のまとまりを強め、チームへの忠誠を強め、境界線や領域を守る行動である。

リベラリズムは発展における贅沢な感情である。それは人々が、ネガティブな刺激はますます抑制され、減少していると感じるときに現れる。困難な時代には、限られた財への競争が激化し、リベラルが右にシフトする。

資源が希少なとき、負荷が強いと感じるとき、援助が重要ではなく、二次的なときには、リベラルは保守的に行動する。十分な理由と、改革を信じて、他者を助けるように求められたとき、保守派はリベラルのように行動する。

国民に広がるあいまいさは、政治党派のより大きな問題を示している。彼らはトランプに対する嫌悪感を共有しているが、中道から左派まで、イデオロギー、社会、経済問題で、連携することはむつかしい。民主党の連合が一緒に行動するための、共通の基礎はあるか?

FT January 23, 2020

The guilty verdict on the Republican party

Edward Luce


 アイデアの市場

FT January 17, 2020

Facebook does not understand the marketplace of ideas

Joseph Stiglitz


 トランプの好況

PS Jan 17, 2020

The Truth About the Trump Economy

JOSEPH E. STIGLITZ

トランプが再選されるという予想は、アメリカ経済が好調であるという主張によって支持されている。それは全く真実から遠いものだ。

GDPの増大や株価は、経済を判断する正しい基準にならない。多くの人々は、市民から見た暮らしや、持続可能性に関して、何が起きているかを重視する。経済だけでなく、市民の健康状態がそうだ。アメリカ人の平均寿命は短縮し、絶望死が注目されている。

トランプは民主主義とわれわれの星を維持するという基本においてだけでなく、経済においても基準を満たしていない。


 未来の仕事

PS Jan 17, 2020

Work in the Twenty-First Century

JANE HUMPHRIES, BENJAMIN SCHNEIDER

未来の仕事は何か? 「良い仕事」は失われてしまうのか?

FT January 19, 2020

The upstart unions taking on the gig economy and outsourcing

Bethan Staton in London

PS Jan 21, 2020

Why AI Will Not Abolish Work

ANDREA KOMLOSY


 中国経済の減速と技術革命

NYT Jan. 17, 2020

China Has a Big Economic Problem, and It Isn’t the Trade War

By Yasheng Huang

中国経済にとって問題は、貿易戦争ではなく、民間部門が衰退しつつあることだ。

FT January 20, 2020

How I became a China sceptic

Gideon Rachman

中国の富、パワー、威信は、上海の高層ビルと同じように、急速に高まっている。

私は、多くの懐疑論に対して、常に反対だった。中国の台頭は本当だ。その影響は世界におよぶ。世界はアジアになるだろう。

しかし、疑いが生じ始めている。中国経済の減速、香港の抗議デモ、それ以上に、習近平主席の周りに築かれていく個人崇拝に対して、疑念を持ったからだ。

習の時代は、ますます、一党支配ではなく、個人支配の様相を示している。

NYT Jan. 20, 2020

How Technology Saved China’s Economy

By Ruchir Sharma

最近、中国の空港に降り立った。そこは技術革命の真っただ中にあった。パスポートはスキャナーが自動で読み取り、それぞれの言語で応答した。デジタルでの支払いが現金に代わり、紙幣を使う者は店員から白い目で見られる。

ホテルのドアは顔認証で開くため、鍵が要らない。ロボットのルーム・サービス、ドローンによる配達、都市の交通信号は調整されて渋滞を減らしている。

中国の外からは、こうした技術が「自動化された権威主義体制」の前兆とみなされている。ビデオカメラと顔認証が法律違反を阻止し、「市民スコア」が政治的信頼度について市民を順位づける。ウイグル自治区で大規模に展開されているものだ。

しかし、中国全体では技術に対する信頼が高い。プライヴァシーに対する懸念は低い。ビッグ・ブラザーを恐れるとしても、それは表に出さない。沿岸部を旅する中では、人びとがハイテク大国としての中国の台頭を誇りにしていた。

中国の奇跡は市場開放から始まった。しかし今、ハイテク企業が海外において競争から排除され、国内での育成に向かっている。ソ連と違って、中国は効果的に保護し、国内の消費文化を創造して、経済成長のエンジンにした。

2015年の記憶がよみがえる。40年前に改革が始まって、最初の不況に入る恐れに直面した。2008年の世界不況を回避するために、北京は湯水のように融資を拡大したのだ。それは民間債務をGDP230%にまで高めた。

しかし、中国は2010年の2ケタ成長から6%の成長に減速するが、まだ不況ではない。それは新しいデジタル経済の台頭があるからだ。その規模は3兆ドル以上と推定され、GDP3分の1を占める。アリババやテンセントのような大企業がアンカーとなり、鉄鋼、アルミニウムのような旧産業の減少を相殺するだけでなく、債務を負わない形で拡大している。

2017年までに、中国は、ドイツと同じ、ハイテク部門のシェアを示した。過去10年間の研究開発投資額は4400億ドルを超え、すべてのヨーロッパによる投資額を超える。世界のインターネット企業上位20社のうち、9社は中国企業だ。(10社がアメリカ、1社がカナダ。)

ロボットは人の雇用を奪うだろう。しかし、全体としては、技術革新が破壊する以上に、専門職で多くの雇用をもたらす。アリババのプラットフォームだけで、数百万の小企業が利用し、3000万人の雇用をもたらした。

中国経済の成長には、高齢化と「中所得の罠」、という2つの問題がある。この2つを同時に抱えた国はない。しかし、ハイテクの普及で若者の生産性が上昇している。累積債務と金融危機のリスクも、ハイテクによって新しい預金が増えることで解消されるだろう。

中国経済が深い不況の谷を観たとき、まさに技術革命が救済に現れた。

FT January 23, 2020

Wuhan virus points to tough Year of the Rat for Xi Jinping

James Kynge


 ソレイマニ暗殺

NYT Jan. 17, 2020

No, Mr. President, It Does Really Matter

By The Editorial Board

イランの報復が限定的であったとしても、トランプ大統領がソレイマニ司令官を殺害したことは外交における重要な失敗であった。


(後半へ続く)