IPEの果樹園2020

今週のReview

1/20-25

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英王室とキング・ドナルド ・・・ソレイマニ将軍の暗殺 ・・・連合王国の終わり ・・・カルロス・ゴーン記者会見 ・・・サルヴィーニとメルケル ・・・国際貿易・金融システムにかかる圧力

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 英王室とキング・ドナルド

NYT Jan. 9, 2020

Good for Meghan and Harry

By The Editorial Board

「その後、2人は幸せに暮らしました。」という物語を子供に語りたいなら、木曜日のロンドンで出た新聞は隠しておくことだ。

The Sunは「ハリーとメーガンが王室離脱で内戦」。The Daily Mailは「女王が激怒した。ハリーとメーガンは、やめます。」と書いた。イランが戦争を始める予感に震えても、イギリス議会がBrexit法案を通過させても、タブロイド紙はハリー王子とその妻メーガン(the Duke and Duchess of Sussex)による王室離脱をMegxitとして冒頭に掲げた。2人はインスタグラムに声明を出した。「財政的に独立」して、イギリスと北米の間でバランスを取る、と。

追放された者や、解任された者はあったが、これまで王位継承権を辞退した者はいなかった。エドワード8世が王座を蹴ってイギリスを去り、アメリカの離婚したことがある女性と結婚した。最近では、エリザベス2世の2番目の息子、アンドリュー王子が、性暴力の加害者であるジェフリー・エプスタインとの関係を理由に追放された。

2人が結婚して以来、強い関心が集まったが、新聞には多くの話があふれた。しかし、彼らに同情する記事は少なかったし、細かい詮索と、特に侯爵夫人には悪質な人種差別が示された。最初からタブロイド紙はメーガンの家族や王室内の問題をひどい形で取り上げた。

王室の伝統は、世界や王の家族が変化の激流や、不満、スケンダルで圧倒されても、禁欲的にその公務を果たすところにあった。Netflixの連続ドラマが描くように。

しかし、王室の真の価値は、単に、テープ・カットやタブロイド紙に際限なく話題を提供することではない。王様と女王は世界との間で条件を定める一連の寓話になる。今度の話では、ハリス王子とメーガン妃は、旧秩序からの亡命者として嘆くのではなく、現実世界で自分たちの財宝を求めるために、その特権をある程度まで放棄する現代の王族である。

「その後、2人は幸せに暮らしました。」となるかもしれない。

NYT Jan. 10, 2020

Why America Needs a Royal Family

By Jennifer Weiner

ハリーとメーガンの王室騒動を観ていると、わたしは1つの結論に達した。われわれ、アメリカ人も、自分たちの王室を持つべきだ。

あなたの不満はわかる。われわれは独立革命を戦ったのだから、王室はない。王族には多くの金がかかる。ヨーロッパ諸国は、その理由で、王室を狭く限定している。帝国主義とエリート主義の不快な雰囲気を継承する、旧時代のシステムに参加することを拒否したのだ。彼の妻は人種差別の標的になったから。

まったくその通りだ。

私のイギリス政府に関する知識は学校の世界史の記憶と “The Crown” 3つのシリーズだが、首相と議会は民主的に選ばれ、実際に統治している。同時に、選挙を経ない王族が、儀礼的な式典を行う。王と女王はお城に住んで、豪華な宝石と衣装を身に着ける。

それには金がかかるが、税金で支払う代わりに、彼らは公的な生活を送り、結婚式には素晴らしい衣装を着て、富裕な人びとを集める。バルコニーに立って手を振る。イングランドの著名人・スターたちが集まる、世界最長のリアリティー・ショーである。それが時代錯誤の浪費か、有益な気晴らしかは、観る人によって異なるだろう。最近も、美しいプリンセスがパパラッチに追われて悲劇的な死を遂げた。

アメリカでは、選出された公務員が、その妻や子供たちは選出されたわけではないが、公式の役割を果たす。アイスランドのように、選出された大統領と首相とが、前者は式典を、後者が統治を担うとよいだろう。われわれにはすでに王冠をかぶったミス・アメリカがいる。あるいは、テレビで王様と女王を選ぶリアリティー・コンテストを開催してもよい。もっとも輝いているカップルを世界に向けたアメリカ代表にしてもよい。

王族になるには、4インチのヒール靴で、3時間も冷静に握手しなければならない。外国の名士たちを、たとえ彼らの言葉がわからなくても、歓待しなければならない。奇妙な帽子をかぶっても似合って見えなければならない。

王様・女王を決めるために投票することだ。その勝者をホワイトハウスに入れて、大統領はもう少し地味な建物に移す。大統領が統治し、王族はテープ・カット、国賓との晩さん会、感謝祭には七面鳥に恩赦を与え、クリスマス・ツリーに点灯する。王族たちには給与を与え、われわれの重視する価値に従ってもらう。新しいNetflixのシリーズは「野球帽の王様」だ。

何よりも、大統領が王様になる可能性を根絶するのがよいだろう。権力は、王冠のない、勤勉で、カメラに映りたがらない人物に与える。王冠は、権力を与えられないが、スポットライトを好む人物に与える。皆が知っているように、チャールズ皇太子は退屈な王様かもしれないが、良い政治家になれるだろう。他方で、われわれの破滅的な大統領は、少なくとも、その破壊を封じ込めることができる。キング・ドナルド・トランプ1世だ。


 ソレイマニ将軍の暗殺

FP JANUARY 13, 2020

Why Is the United States So Bad at Foreign Policy?

BY STEPHEN M. WALT

アメリカ政府は戦略を持たなくなった。明確な目標を立てて、それを達成するための一貫した行動計画を持ち、それには他者の反応が考慮されている、という意味で。

われわれは今、野蛮な力で強制し、明確な目標を持たず、衝動を抑えられない、無知な大統領が外交を振り回す姿を観ている。ドナルド・トランプ大統領の行動は、戦争のリスクを高め、イランを核兵器開発に向かわせ、イラクが米軍撤退を要求するようになり、ヨーロッパの同盟諸国はアメリカの信頼性と判断に深刻な疑いを抱き、むしろロシアと中国が賢明で秩序をもたらすかのように見えている。

例えば、最も重要な問題は中国である。これはトランプ政権も認めている。もし戦略的に考えるなら、最小のコストで、アメリカに対するリスクを抑えて、中国の影響力を制限する方法を探すだろう。アメリカが中国の成長を止めるとか、逆転させることはできない。しかし、AIなど、先端技術を含む多くの問題で、アメリカは、できるだけ多くの国を自分の側に付けるよう努めるべきだ、と理解するだろう。アジアにおける外交的な地位を保持し続け、中国とロシアの間にくさびを打つ方法を探すだろう。二次的な諸問題により、時間や注意、政治資本、資源を無駄にしないよう努める。

実際にアメリカがしたことは何だったか?

トランプが真っ先にしたことは、TPPを破棄することだった。アジア太平洋の11か国が苦労して合意した、有益な、アメリカ経済に緊密に結びつく諸国の合意である。その後、中国と貿易戦争を始めただけでなく、他の主要な経済大国とも、貿易戦争で脅し、実際に敵対した。中国に対する統合した戦線を形成するのではなく、単独で対決したのだ。

次にトランプは、北朝鮮とのリアリティー・ショーを始めた。「炎と怒り」によって脅迫し、その後、最初の直接会談で、金正恩の中身のない約束に騙された。その成果は、米朝関係を打開することなく、核武装計画を阻止することもなく、アジア全体で、アメリカに対する信頼を損なった。

ヨーロッパの同盟諸国、中国のファーウェイ制裁、国務省の崩壊、中東、その行動は、中国に有利な条件を与えて、喜ばせた。

しかし、トランプに始まったことではない。ビル・クリントンも、バラク・オバマも、ジョージ・W・ブッシュも失敗した。他方、ハリー・トルーマンやジョージ・HW・ブッシュの政権は、慎重に、封じ込めと国際経済機関を配置し、地域のバランス・オブ・パワーを重視して、ソ連崩壊、ドイツ再統一、湾岸戦争を平和的に解決した。どの政権も完璧ではなかった。しかし、複雑な、新しい状況に対して、何が最も重要かを見極め、同盟諸国や敵対者から望ましい反応を引き出す能力があった。言い換えれば、彼らは戦略に優れていた。

なぜアメリカ外交は失敗するのか?

冷戦終結後のアメリカの優位が、そのあまりにも強く、豊かで、安全な地位が、外交の失敗を無視させた。イラクとアフガニスタンの戦争で、アメリカは6兆ドルを浪費し、数年人の兵士を犠牲にした。しかし、犠牲者に対する国民の懸念を制限し、財政的には赤字を外国と将来世代から借り入れた。

アメリカには驕慢さが広まった。アメリカ人は、常に、自分たちが他国にとってのモデルであるとみなしてきたが、冷戦に勝利した後、アメリカは現代世界における成功の方程式を知っている、魔法が使えるという自信過剰を強めた。

アメリカの歴史的経験、地理的孤立、巨大な国内市場、全般的な無知が、戦略的な外交を見出す力を失わせた。特に、自分たちと全く異なる歴史や文化的要素が重要な世界の部分において、その欠落は大きかった。

アメリカの国内政治システムも、国内外のロビーに外交を支配され、失策を導く。アイデアを交換する本当の意味の共通市場、注意深い、正直な議論はなく、声の大きな、豊富な資金を持った、それゆえ、少数の裕福な資金提供者の好みに従った。

外交の決定と実行において責任を持つ機関が、時間をかけて経験から学ぶことが望ましい。しかし、現実には、何度も間違いを導いた、ひどい考えがはびこっている。イラク戦争を指導した責任あるものはだれも責任を取らず、今も重要な地位に就いている。主要紙(the Wall Street Journal, New York Times, and Washington Post)のコラムもそうだ。

チェック・アンド・バランスが崩壊し、内外の法律を犯し、メディアは政府と共謀し、反政府勢力は沈黙させられ、大統領とそのゴマすりたちが、ますます容易に、支持を高めるための嘘をつくことができる。なんでも好みの政策を行い、公的な論争が現実世界から乖離するなら、優れた戦略を立てることは不可能だ。

われわれの外交・安全保障政策は、パフォーマンス・アート(即興芸)のようになっている。兵士や外交官の命より、テレビやツイッターで評価される方が重要なのだ。有権者をより多く楽しませることに関心がある。


 連合王国の終わり

NYT Jan. 10, 2020

Boris Johnson Might Break Up the U.K. That’s a Good Thing.

By David Edgerton

連合王国UKがいよいよ終わるのかもしれない。

ボリス・ジョンソン首相は先月の総選挙に勝利し、月末には、UK131日にEUを離脱する、という法案を通過させた。

数十年にわたり、EUUKがばらばらになるのを繋ぎとめてきた。今、BrexitUKを分解する。短い幻想であった「ブリティッシュ・ネイション」も、その終わりを迎える。

ジョンソンの離脱計画は、UKを神聖なものとするアルスター統一論に対する驚くべき裏切りである。それは南のアイルランド・ナショナリストに統一への大きな機会を与える。独立を支持するスコットランド民族党SNPも議席を増やした。

それは悪いことだろうか? 実際は、そうでもないだろう。UK解体は、容易ではないが、Brexitがもたらす数少ない良いことだ。それは、アイルランドとスコットランドにとって良いだけでなく、イングランドにとってもよい。

北アイルランドは、経済的に繁栄する、社会的にリベラルなアイルランド共和国に統合する。それに反対する党派も、ロンドン政府に裏切られて、アイルランドの民族性を受け入れる。スコットランドも独立し、自分たちの決定権を回復する。

イングランドも、UK内の支配的民族でありながら、その枠組みは機能していなかった。大都市、特にロンドンに住む、活気ある、ヨーロッパに近い若者たちは、高齢化し、衰退し、ヨーロッパを嫌う他の地域と、分断状態を深めていた。

腐食したブリティッシュ・ネイションと国家の制約を離れて、イングランドはようやく大げさな幻影と手を切りことができる。イングランドはGDPで世界第8位の国でしかない。スコットランドにある原子力潜水艦の基地とともに、核保有もやめるだろう。

イングランドは、UKに固執し、偏狭で、領地回復を唱える国になる必要はない。世界における正しい地位を理解すれば、EUを敵視することを改める。脱工業化に苦しんだスコットランドがEUを支持するように、イングランドも進歩的なスコットランドをモデルとみなし、民主的なナショナリズムに向かう。

UK解体は途方もない話ではない。連合王国UKは「古く」もなく、「安定的」でもなかった。ブリティッシュネスは、帝国の一部として成り立った。UKや、インドや植民地を含むコモンウェルスは、第2次世界大戦のプロパガンダである。兵士たちは「王と国」のために死んだ。しかし、その国に名前はなかった。

1945年以後、「ブリテン」はUK国民国家になった。それは大英帝国が崩壊したために、現れた創作物の1つである。その後、1970年代まで、UKは経済、政治、イデオロギーの単位として、その他の世界と区別された。しかし、2つの国民政党が支配するUK国民国家は、わずかな期間でしかない。1970年代から始まったグローバリゼーションと、ヨーロッパとの経済統合の深化は、このUKを解体した。

退廃したブリティッシュ・ナショナリズムが、連合を破壊している。2016年以前から現在に至るまで、Brexit推進の中に自分たちを見出した。EU離脱がUKを再び偉大にする、と言うが、それは間違いだ。

イングランドの若者たちは、その他のブリテンでも、EU残留を強く支持した。彼らはブリュッセルからの解放ではなく、イギリス政府やイギリス議会、老人たちの自滅的な憤慨から解放される必要がある、と理解している。

帝国から現れた新しいUKは数十年で、今や解体され、新しいイングランドが誕生する。


 カルロス・ゴーン記者会見

NYT Jan. 16, 2020

Why Is Carlos Ghosn Afraid of the Japanese Justice System?

By Nobuhisa Ishizuka

日本の検察システムに関する批判は以前からあった。特に、検察官に与えられた強い権限だ。いくつかの改革はあったが、日本の司法システムは何十年も変わらなかった。検察官が広範な権限を持つことを日本国民は受け入れてきた。それは日本の犯罪率が低かったからだ。

西側の正義の概念は、個人の自由、公的権力のチェック、法の支配に深く根差している。しかし、日本の正義の概念は、個人と社会との関係を定義する規範に従って、個人が行動することを規制するものだ。それらの規範は、西側の法概念に先立つ、数千年前に定義された。

ゴーン氏や他の意見が、日本の刑事裁判は99%が有罪で、しばしば自白に頼っている、と主張した。それは日本の検察システムの目標が、行動を是正し、社会に再統合することであるからだ。単に、有罪か無罪を決め、量刑することが目的ではない。それゆえ罪を認め、悔悛の姿勢を示すことが求められる。いったん、罪を認めた後で、検察は刑を軽くできる。

ゴーン氏の裁判は行えないとしても、それに関わる論争は重要だ。日本の司法システムは改革を必要としている。弁護士の立ち合い。証人や証拠の検証。拘束の制限。罪の認定、悔悛、社会復帰についての社会の要求と、容疑者が告発に抗弁する独自の権利とを、バンスさせるべきだ。

それは日本がアメリカ式の、敵対的で、金のかかる、司法システムを輸入することを意味しない。改革を進めて、より開明的な司法システムを実現し、西側に有益な教訓を示すべきだ。


 サルヴィーニとメルケル

FT January 16, 2020

Angela Merkel warns EU: ‘Brexit is a wake-up call’

Lionel Barber and Guy Chazan in Berlin

アンゲラ・メルケルの周りには嵐の雲が沸いている。彼女が政治家として守ってきた基本的価値が攻撃されている。UKEUを離脱し、US大統領は同盟国を裏切り、中東で単独に行動し、プーチンは憲法を改正し、リビアとサブサハラ・アフリカに介入しつつある。貿易紛争が国境の開放とグローバル・サプライチェーンを脅かす。

メルケルは合理的なやり方で妥協の途を探ってきた。しかし今、彼女が直面するのは、リベラルな原理がジャングルの法則に押しのけられる、非妥協的な世界である。

彼女の解決策は、EUを強化することだ。EUはドイツの生命保険である。ドイツは、地政学的な意味でも、市場規模でも、小さすぎる。

メルケルは、多国間の協調を重視してきた。その価値はトランプ、Brexit、復活したロシアの時代に、攻撃にさらされている。

ドイツは、NATOEUから大きな利益を受けてきた。だから、メルケルはEUの強化に努めた。批判されたが、それでも彼女はユーロ危機を鎮静化に導き、ロシアのクリミア併合に制裁を、Brexitにも交渉を、協調して行った。

メルケルは、慎重な楽観主義者だ。Brexitも、EU改革の刺激となり、制度改革に向けた生産的な競争になる。確かに、ドイツ国内では反対が強いけれど、彼女は銀行同盟を支持する。特に半導体生産で、ヨーロッパ規模の産業政策も必要だ。EUが、データ利用のスタンダードを示すべきだろう。

ヨーロッパは深い亀裂に苦しんでいる。アメリカのトランプ大統領は、ヨーロッパの防衛力をサンドバックのように叩く。しかし、トランプ以前から、アメリカのヨーロッパに関する注意は失われていた。

それゆえ、ヨーロッパは、特にドイツは、自分たちで責任を果たすべきだ。自分たちの軍事力を整備する。しかし、中国に対して幻想は持たないが、アメリカのような対決姿勢を取らない。多くの解決すべき問題はあるが、アメリカの「デカップリング」には従わない。中国の経済的成功は、そのハードワーク、創造性、技術スキルによるものだ。

衝突コースではなく、対話と協力が答えである。しかし、ドイツ経済の将来に関する不安はメルケルへの支持を失わせた。

メルケルの遺産は何か? その問いを彼女は大げさだと否定した。当然、原発停止と、難民に対する国境開放が、メルケルの大胆な決断を示している。

しかし彼女が言及したのは、その2つではなく、ドイツ連邦軍をアフリカとアフガニスタンに派遣したことだった。ウクライナでの戦争を停止するための努力、イランとの核合意に向けた努力を強調した。どいつはさらに大きな外交と軍事における責任を果たす国になる、と。

危機に直面したとき、ドイツをメルケルが指導していたことは幸いだった。しかし、世界はさらに反映したドイツと、強力な指導者を求めている。それが問題だ。


 国際貿易・金融システムにかかる圧力

PS Jan 14, 2020

Protecting Trade

RAGHURAM G. RAJAN

多くの国でポピュリスト政治家が貿易協定の見直しを求めている。発展途上諸国は、長い間、国際貿易に関するルールは根本的に不公平だ、と主張してきた。なぜ同じような主張が、自分たちで作ったルールに対して、発展した諸国から起きるのか?

確かに、競争が激化した。新興諸国、特に中国で生産する方が有利になった工業製品が、旧ルールによって開放された発展した諸国の市場に流入している。NAFTAを見直したUSMCAは、メキシコの輸出競争力を削ぐ合意であった。その場合、メキシコは部品の40-45%を時給16ドル以上の労働者が生産することを要求される。また労働者を代表する強い労働組合などが、労働者保護として求められ、アメリカ側の査察でそれを検証する。

しかし、これまで製造業を新興経済に移転してきた発展した諸国が、なぜ今、それを制限し始めたのか? 従来は、製造業における失業が、低熟練の配送業から、高熟練の研究開発まで、サービスの雇用によって代替された。残念ながら、失業者のすべてがサービスの良い職場を得られなかったのだ。グローバル市場に関連する高度な教育を受けた専門職は大都市に集中し、他方で、アメリカ中西部やイングランド北部などの小都市は、製造業を失った後、回復しなかった。

しかも、今や新興経済が競争力を高めているのは製造業だけではない。むしろ、サービス分野で競争が激化している。先進的経済の企業群は、サービス関連貿易の市場開放を推進しているが、それはまた、発展した諸国がその支配的な生産者の優位を保護するための機会でもある。これに対して、新興市場のエリートたちは独自に反撃するだろう。インドは、アマゾンやウォルマートのような、外国企業のプラットフォームでネット販売することを制限する新しいルールを導入した。

こうして、2つの要素が国際貿易・投資の枠組みを動揺させている。発展した諸国の取り残されたコミュニティーで、人びとは既存の枠組みにもはや従わない。同時に、新興経済のエリートたちは、サービスのグローバル市場で分け前を求めており、もはや譲歩しない。

貿易の問題は説得ではなくパワー・ポリティクスになる。ヴェテランの通商交渉担当者は、いつもそうだった、と言うかもしれない。1つだけ、重要な違いは、新興経済がより民主化されたことだ。メキシコ商工会議所は同意しても、メキシコの有権者は受け入れない。

将来、世界の支配的な消費者となるのは、より裕福で、より多く発言する、新興経済の市民である。発展した諸国は、国内からのポピュリスト的要求に、どうやって応えるべきか? 関税の引き下げ、非関税障壁の撤廃を求め、複雑な問題はWTOで処理する。しかし、労働組合やオンライン規制、特許の期限など、それ以上の要求は、貿易制度そのものを破壊するだろう。

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The Economist January 4th 2020

Criminal injustice: How to reduce rape

Renault-Nissan: Fled to the Med

Justice in Japan: Ghosn, going, gone

Suburbs: Laboratories of democracy

The end of CFA: Frankly speaking

The Rand Club: Rhodes to redemption

Reshaping the state: The Cummings plan

Bagehot: One nation under Boris

Free exchange: Planned obsolenscence

(コメント) 強姦を法律によって裁き、減らすことができるか? これまでは非常にむつかしかったけれど、スマホやネットの時代に。

ニッサンのゴーン元会長がレバノンに逃亡した話を、微妙な形で、取り上げています。日本の司法システムが不正だから、レバノンに正義を求める? 反政府デモの続くレバノンの富裕層と友達だから? ある意味で、アフリカのフラン圏が独自通貨になるのも、南アフリカの人種差別時代に威信を誇ったクラブが、マンデラの肖像画の下で、復活するのも、中国の産業政策が米中戦争でむしろ是正されるのも、どこか似たパラドクスを示す話です。

アメリカの民主主義が試されるのは、郊外都市である、と考えます。リベラル派は育つのか? イギリスはボリスが天下を取って支配を確立しようと試み、戦略家は国家そのものを破壊し、再編する。

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IPEの想像力 1/20/20

ピーター・ポメランツェフの名著『プーチンのユートピア』を読み始めました。これは本当に面白い。もしまだ読んでいないとしたら、読まないままでいるほうが幸せかもしれない。

・・・ロシアは、「国土が9つの時間帯にまたがり、世界の大陸の6分の1を占め、東は太平洋から西はバルト海まで、北は北極海から南は中央アジアの砂漠地帯にまで広がる」・・・この国では今も、「人々が木造の井戸から腕力を使って水をくみ上げるような中世さながらに取り残された村落があるかと思えば、工場城下町がある。」 「生まれ変わったようなモスクワに戻れば、青い硝子と鋼鉄でできた摩天楼が並んでいる。」

・・・「テレビこそ、この国を1つにまとめ、支配し、団結させることができる唯一の権力だ。」・・・とらえどころがない新しいタイプの権威主義の中枢となる機構である。

・・・「現大統領が2000年に政権を握ったとき、最初にしたのは、テレビ局を管理下に置くことだった。」・・・「生まれ変わったクレムリンは旧ソ連の二の舞を演じるつもりはなく、二度とテレビ番組を退屈なままにしない。」・・・「ソ連時代の統制を西側のエンターテイメントとうまく融合させることだ。」

・・・「そして、偉大なショーの中心にいるのは、大統領自身だった!」 ・・・兵士、愛人、はだかの胸の筋肉を誇示したハンター、ビジネスマン、スパイ、皇帝、スーパーマン・・・「テレビの力を通じて、陰鬱な元KGBから生み出された」。

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そして、問題は、なぜか? このような権力、このようなシステムが、どのようにしてできたのか? どのような条件において、このようなことが起きるのか? つまり、私たちにも。

その答えをこの本から探せば、

● 金が流れ込んだ。・・・「モスクワはヨーロッパの端にあるうらぶれた衛星都市で、ソヴィエト帝国の残り火が目に映るだけだった」・・・「21世紀にはいると何かが生じたのだ。ずばりマネーである。これだけ多額のマネーがこれほど短期間に、これほど狭い場所に一気に流れ込んだ例はなかった。」・・・「世界でいちばんたくさんの原油を握り、世界でも飛び切りの美女たちを侍らせ、世界でも比べるものなく豪華なパーティーを催している。」・・・「青二才が一瞬のうちに億万長者になりあがる」この都市にいなければ理解できない。

● 社会工学・エンジニアリング。

● ギャングだけが秩序だ。

● 西側の開発プロジェクト。

● 理想を失った。

● ポストモダニズム。

● オルガルヒ(大富豪)と売春婦。同じ仮面舞踏会の役者たち。・・・「北半球一の格差社会であるこの都市では、大富豪はフェンスを巡らしたなかで隔絶された優雅な文化的生活を送っているが、週に一晩だけ、ほんのわずかだけ天国への水門を開ける。すると、女たちはそのわずかな隙間にどっと押し寄せ、中に潜り込もうとする。」・・・「固定観念にとらわれていない」・・・これは依頼人とセックスすることも厭わないという暗号である。・・・「このフレーズが、屈辱を人間的な解放に変えたと言えなくもない。」

・・・「フォーブズ(大金持ちの男たち)と娘たちは異なる財力を持つ宇宙空間へと打ち上げられてしまったが、今でもお互いを完璧に理解している。」・・・「男たちと女たちは、ストロボスコープの中の自分の姿を見て考える。『あれは現実に自分に起きていることなのか?』・・・」

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そういえば、デイビッド・レムニックの『レーニンの墓』を読んだことがありました。理想を実現する暴力も、理想を持たない暴力も、前者は戦争、後者はマネーで、一種の狂気を演じることができる。

私の国際政治経済学には,石油の呪い,破たん国家,テロと内戦,金融危機などがあります.プーチンは,グローバル資本とテレビ,あるいは,インターネットの時代を,暴力とマネー,嘘で支配する,典型的な専制君主なのだと思います.

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