IPEの果樹園2020

今週のReview

1/13-18

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オーストラリア火災と政府の行動 ・・・ソレイマニ殺害 ・・・カルロス・ゴーン記者会見 ・・・米中デカップリング ・・・資産税 ・・・アメリカにおける絶望死 ・・・金融政策の限界 ・・・軍事的脅威に耐える台湾

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 オーストラリア火災と政府の行動

NYT Jan. 2, 2020

Apocalypse Becomes the New Normal

By Paul Krugman

オーストラリア火災の悪夢のイメージは圧倒的だった。

しかしオーストリアの夏の火災は、過去1年間の破滅的な気候が示す一連の事件の1つである。中東の洪水、インドの熱波、ヨーロッパ各地でも熱波があった。

世界は行動を起こすだろうか? 民主党の関心は高いが、それに反して、共和党はまったく動きがない。気候に関連する破滅的事件が、政治を変えつつあるかもしれない。

トランプの環境政策は、アメリカにとっても、世界にとっても、最悪のものだ。有権者はそれを知るはずだ。

FT January 6, 2020

Democracies are ill-suited to deal with climate change

Edward Luce

「地球温暖化は恐ろしいことだ。」 とはいえ、貧しい国には無理でも、カナダはそれに対処できるほど豊かだろう。

そんな自己満足を、オーストラリアとカリフォルニアの火災は否定した。同時に、公共的な行動を起こすことの難しさもわかった。世界で最も裕福な諸国が気候変動について行動を起こすべきだ、と思う人たちは、3つの真実を忘れている。

1に、政治家は次の選挙のことしか考えない。たとえば、政府は教育になかなか投資しない。なぜなら、その成果が見られるのは何年も先だから。炭素排出量を削減する行動もそうだ。その成果があるのは何世代も先である。成果は認められないかもしれない。

教育への投資に比べて、炭素排出量の削減には「フリー・ライダー」の問題がある。近隣諸国の利益追求が自分たちの犠牲的な努力を無駄にするとわかっていても、正しいことをするというのは、よほど特別な国である。

2に、気候変動には不確実さがある。まったく人為的な形で起きる災害はない。シベリアの火災、パキスタンの熱波、ヒューストンの超巨大ハリケーン、それにもかかわらず、災害は気候変動の前にも起きた。気候変動を否定する主張のほとんどすべてが、科学的な不確実さについてである。

3に、人間の性格である。解決できそうもない大問題に取り組むことは、だれも望まない。個人でもそうなのに、グローバルな規模ではなおさらだ。グレタ・トゥーンベリの主張の中身より、その当たり前の説教について、嫌な印象を持つ人たちがいる。

どうすれば宿命論を克服できるだろか? 1992年のリオ地球環境サミット以来、私たちは、それ以前の人類が輩出した以上の二酸化炭素を排出した。

もし行動を起こすよう望むなら、その最善の途は経済について語ることだ。気候変動を抽象的に議論する時代は終わった。ある推定では、2018年のカリフォルニア火災の被害額は4000億ドルに達する。オーストラリアは、2050年まで、毎年、自然災害で270億ドル、GDPのほぼ2%におよぶ損失を被るだろう。

PS Jan 6, 2020

When Climate Activism and Nationalism Collide

KEMAL DERVIŞ

PS Jan 6, 2020

The Inequality Debate We Need

KENNETH ROGOFF

世界で最も裕福な経済における、国籍を無視した住人たちが、中産階級の運命と未来を議論しているときも、世界の8億人は電気を利用することもできない。20億人が清潔な調理器が利用できず、調理オイルの代わりに、有毒なオイルや動物の排泄物しか利用できない。いまなお欧米の排出する二酸化炭素は、1人当たりで、中国やインドをはるかに上回っている。

アジアの多数の人々にとって、西側の内向きの議論はまったく無意味だし、的外れだ。

どのような解決策にも、2つの要素が組み合わされるだろう。1つは、グローバルなCO2課税だ。第2は、新興経済や開発の程度が低い諸国に対して、排出量の削減を買い取るメカニズムだ。彼らは、排出量削減のために、成長率を下げねばならない。解決する仕組みとして、世界炭素銀行が優れている。

DER SPIEGEL 07.01.2020

Next-Generation Reactors

Can Nuclear Power Offer a Way Out of the Climate Crisis?

By Philip Bethge

NYT Jan. 8, 2020

The Tragedy of Germany’s Energy Experiment

By Jochen Bittner


 ソレイマニ殺害

The Guardian, Fri 3 Jan 2020

Donald Trump has blundered into a crisis of his own making with Iran

Mohamad Bazzi

The Guardian, Fri 3 Jan 2020

The Suleimani assassination goes against Trump’s policy – but not his character

Jonathan Freedland

The Guardian, Fri 3 Jan 2020

The Guardian view on Trump’s biggest gamble: assassinating an Iranian general could lead to war

Editorial

FT January 3, 2020

Soleimani assassination risks all-out war between US and Iran

David Gardner

SPIEGEL ONLINE 01/03/2020

Trump's Declaration of War

Conflict with Iran Could Be Inevitable after Killing of General

A Commentary by Maximilian Popp

NYT Jan. 3, 2020

Qassim Suleimani’s Killing Will Unleash Chaos

By Barbara Slavin

ソレイマニQassim Suleimani少将が死んだことに悲しみの涙を流す者は少ないだろう。革命防衛隊のコッズ部隊をこの10年余において指揮し、イランの影響力を冷酷に拡大した。イラクで軍務についていたアメリカ人の数百の死だけでなく、シリア人、イラク人、イラン人の数万を死に至らせた。

しかし、復讐は戦略ではない。ソレイマニ将軍を殺害したことは、信じがたい危険な行為だ。アメリカはイランと40年間も疎遠な関係にあったが、イランは8000万の人口を持つ重要な国家である。一層の不安定化と多くの無辜の死者をもたらす。少なくともトランプ政権にとって、イラン外交は死んだ。北朝鮮に加えて、新しい核危機をもたらすだろう。アメリカ人を殺害したスンニ派の原理主義者たちが、ソレイマニの死を喜んでいる。ロシアと中国も、アメリカが中東で将来も苦しみ続けるのを観て楽しむだろう。

アメリカとイランの関係を長期に観察してきた者ならだれでも、現在がいかに悲劇的なものか知っている。それは明らかに一連の戦略的な失敗がもたらしたものだ。911テロ攻撃の後、ソレイマニ将軍が間接的にアメリカに協力し、アフガニスタンのタリバン失脚を図ったこと、また、イスラムの大国として唯一のアメリカに対する国民的な同情を示した国であったことを、記憶している者は少ない。しかし、タリバン後の政権を作るイランの外交的な支援を無視して、ジョージ・W・ブッシュはイランを「悪の枢軸」に含めた。

アメリカがイラクのフセイン体制を崩壊させたことは、イラン・イラク戦争で亡命していたイラク人が帰還し、イランがイラクに浸透する機会となった。自由な選挙は、イランに、バクダッドで政権の行方を決める重要な役割を与えた。

イラクへの接近が容易になったことで、ソレイマニのコッズ部隊は地上軍としてシリア内戦に参加し、ロシア空軍とともに、フセインと並ぶ独裁者、バッシャール・アル=アサドを支援し、その体制を維持した。また、レバノンではヒズボラと協力した。ソレイマニ殺害が、こうしたネットワークを破壊することはないだろう。レバノンとイラクではますます暴力が支配し、アメリカ軍のイラク駐留も維持できなくなる。イスラム国やアルカイダなど、スンニ派原理主義勢力が最大の受益者だ。

イランとの2015年に結ばれた核合意も、かろうじて維持されているが、崩壊するだろう。イランは北朝鮮のようにNPTを離脱し、核武装するかもしれない。それはサウジアラビアのような他の諸国に核兵器の保有を、また、イスラエルやアメリカによるイラン軍事施設に対する先制攻撃を誘発する。

しかし、最大の敗者はイラン国民である。イランの支配体制は崩壊せず、一層、無慈悲な支配に向かうだろう。すべての事態にアメリカの陰謀を観るからだ。トランプが去った後も、その行動のもたらした破滅は続く。

NYT Jan. 3, 2020

Suleimani’s Death Changes Nothing for Iran

By Narges Bajoghli

NYT Jan. 3, 2020

Trump’s Ground Game Against Iran

By Michael Doran

FP JANUARY 2, 2020

U.S. Strike Kills One of Iran’s Most Powerful Military Leaders

BY MICHAEL HIRSH

FP JANUARY 3, 2020

Trump’s Iran Policy Is Brain-Dead

BY STEPHEN M. WALT

2020年になって1週間もたたないが、アメリカのトランプ大統領は、イランとの無駄で危険な状態に陥った。これは中東における彼の近視眼的なアプローチの避けがたい結果である。それだけでなく、ワシントンが、グローバルな問題群に対する一貫した効果的政策を立てる能力を持たない、ということを示すものだ。

トランプの無能さ、衝動的な性格、助言を無視する態度、3流の顧問を配置する恐ろしい能力が問題を悪化させたとはいえ、これはトランプが起こした問題ではない。問題がトランプを食ったのだ。殺害の結果として、戦争にならないとしても、アメリカ人を含む、多くの市民が死に、アメリカのグローバルな地位がさらに損なわれる。

殺害はトランプの戦略的な失敗である。アメリカの同盟諸国や裕福な支援者たちが守っていたにもかかわらず、トランプは多国間のイラン核合意を破棄した。彼は、いわゆる、最大限の圧力を唱えたが、それは包括的な経済制裁でイランの政策転換を、そして、体制の転覆さえも願うものだった。イラン国民は苦しんだが、政府は要求を受け入れず、もちろん、崩壊もしなかった。むしろ、ウラン濃縮を進め、ロシアや中国に接近し、アメリカの同盟者に報復した。テヘランの考えは明白だ。アメリカがイランを苦しめるなら、イランも同様にアメリカを苦しい状況にできることを示そう。

外交を拒否し、脅迫と強制に頼った結果、トランプは後退するか、エスカレートするしかなくなった。報復の応酬により、イランに友好的なデモ隊がバクダッドのアメリカ大使館を占拠しようとした。死者は出なかったし、事態は沈静化しつつあったが、トランプはソレイマニ殺害を承認した。

一連の事件をイランの視点で考えるために、外国の敵が軍の統合参謀本部メンバーを殺害した、、あるいは、CIA長官や、副大統領を殺害したとき、アメリカはどのように反応するか、考えてみるべきだ。アメリカは何もしないだろうか? ソレイマニを擁護するつもりは全くないが、真に戦略的な問題に答えねばならない。外国政府の重要人物を暗殺することが、アメリカの国益を満たすのか? アメリカがより安全な、より豊かな、世界でより大きな影響力を持つ国になるのか? 2つとも、答えはノーだ。

政府による暗殺の禁止は、長い間、国際規範として強く支持されてきた。大国の指導者たちは、互いに殺し合うことが相互的な自己利益に反する、と理解していたからだ。この数十年で、規範は崩れつつあったが、しかし、われわれは、暗殺が国家の通常の行為であり、当たり前に見られるような世界を望むのか?

もちろん、アメリカでも、タカ派の政治家たちはソレイマニ殺害を支持するだろうが、他の標的をすべて殺害することは望まないだろう。殺害は、それに関わる政治問題を解決することにならない。アメリカは多くの指導者を殺害してきた。Al Qaeda’s Osama bin Laden, Libya’s Muammar al-Qaddafi, North Korea’s Kim Jong Il, Iraq’s Saddam Hussein, the Taliban’s Mullah Mohammad Omar, the Islamic State’s Abu Bakr al-Baghdadi、その他、多くの敵が死んだ。しかし、外交問題が魔法のように解決したことはない。指導者の殺害は、過激派の力を強め、さらに大きな暴力につながる、という証拠がある。

トランプ政権のイラン政策は、戦略的なロジックや目的がない。相手の動きを読めないチェスのプレーヤーと同じである。アメリカはますます、他国の反応を予想した、一貫した計画を示す能力、戦略的な思考を失った。

FP JANUARY 3, 2020

Petraeus Says Trump May Have Helped ‘Reestablish Deterrence’ by Killing Suleimani

BY LARA SELIGMAN

NYT Jan. 3, 2020

Trump Kills Iran’s Most Overrated Warrior

By Thomas L. Friedman

いつか、ドナルド・トランプ大統領の名前が付いた通りがテヘランにできるかもしれない。ソレイマニQassim Suleimaniは、イランで最も愚かな男、中東において最も過大評価された戦略家であった。

イラン核合意による制裁解除を得て、経済成長できる機会を、彼は無視した。そして、彼と最高指導者はイランとその支援する武装勢力による帝国を、ベイルート、ダマスカス(シリア)、バグダッド(イラク)、サナア(イエメン)に築き始めた。

シリアでアサド大統領が50万人のシリア人を殺害するのを助けた。イスラエルと戦うのは、イスラム国を倒したようにはいかなかった。ソレイマニを追跡したのはイスラエルの諜報機関である。

ソレイマニがイスラム国を倒すためにアメリカと協力した。しかし、彼とそのコッズ部隊が、イラク政府にスンニ派の排除を求め、イスラム国を生んだのだ。スンニ派の兵士に給与を払わず、追放し、殺害し、平和的なスンニ派のデモを大量に拘束した。

ソレイマニの仲間が諸国の中で独自の国家のように行動し、大規模な汚職が発生し、政府は学校や道路、電気を失った。各地でまともな政府、民主化を求めて、大衆の抗議デモが起きた。

ソレイマニが、アメリカ軍をイラクから追放するために、彼が雇った者たちでバグダッドのアメリカ大使館を占拠しようとした。それこそがソレイマニ殺害の決定につながった。彼は、イラクでの失策を隠すために、アメリカを挑発したのだ。

FT January 4, 2020

America must be ready for Iranian retaliation

Richard Haass

NYT Jan. 4, 2020

The Dire Consequences of Trump’s Suleimani Decision

By Susan E. Rice

ソレイマニを殺害しても、アメリカの安全は確保できない。紛争の水準は過去の事件に比べて最も高まるだろう。

NYT Jan. 4, 2020

American Foreign Policy Is Broken. Suleimani’s Killing Proves It.

By Jonathan Stevenson

PS Jan 4, 2020

The Post-Suleimani View from Iran

ABBAS MILANI

PS Jan 4, 2020

The Suleimani Assassination and US Strategic Incoherence

RICHARD N. HAASS

アメリカは中東への関与を減らすはずだった。しかし、この暗殺で、アメリカは再び軍事的な資源を中東により多く投入するしかないだろう。

PS Jan 4, 2020

What Does Suleimani’s Death Change?

SHLOMO BEN-AMI

FP JANUARY 4, 2020

Trump Is Playing With Fire in the Middle East

BY COLIN KAHL

The Observer, Sun 5 Jan 2020

The Observer view on the assassination of Qassem Suleimani

Observer editorial

PS Jan 5, 2020

Trump’s Blind March to War

DJAVAD SALEHI-ISFAHANI

PS Jan 5, 2020

The Assassin’s False Creed

NINA L. KHRUSHCHEVA

NYT Jan. 5, 2020

Trump Hurts an Ally and Helps the Terrorists

By Daniel Benaim

The Guardian, Sun 5 Jan 2020

The Guardian view on Trump’s war: UK goes from poodle to lapdog?

Editorial

The Guardian, Mon 6 Jan 2020

Even after Iraq, too many US elites still think war is a bloodless chess game

Moustafa Bayoumi

FT January 6, 2020

America should drop the ‘Dr Evil fallacy’ on assassination

Gideon Rachman

これは、アメリカ外交のthe “Dr Evil syndrome”「邪悪博士症候群」である。ハリウッド映画なら、「悪者」を捕まえるか殺せば、問題は解決する。

しかし有名な悪者を取り除いても、アメリカの安全や影響力は改善しなかった。悪者は深刻な機能マヒの国から生まれる。その状況は何も変わらないからだ。むしろ問題は悪化する。

アメリカも、国際法も、政治的暗殺を厳しく禁じている。トランプ政権は、暗殺を自衛だ、テロ対策だ、と言う。しかし、テロの定義はあいまいで、ロシアも中国もテロ対策で何でも正当化している。彼らも、アメリカのように、外国において敵をドローンで暗殺したいだろう。

ジョージ・ケナンがソ連に対する方針を確立したように、忍耐と不断の監視によって、敵対する国を抑え込むべきだ。

PS Jan 6, 2020

Was Killing Suleimani Justified?

PETER SINGER

FP JANUARY 6, 2020

The Middle East Is More Stable When the United States Stays Away

BY TRITA PARSI

FP JANUARY 7, 2020

Why Iran May Not Be Satisfied with a ‘Slap’ at Trump

BY MICHAEL KNIGHTS

PS Jan 8, 2020

Trump’s Gift to China

MINXIN PEI

PS Jan 8, 2020

America’s Dangerous Iran Obsession

JEFFREY D. SACHS

PS Jan 8, 2020

Why Morals Matter in Foreign Policy

JOSEPH S. NYE, JR.

NYT Jan. 8, 2020

Iranian Blood Is on Our Hands, Too

By Geraldine Brooks

NYT Jan. 8, 2020

The American-Iranian Psychosis, Next Chapter

By Roger Cohen

The Guardian, Thu 9 Jan 2020

Donald Trump’s rant against Iran is the howl of a dying empire

Simon Jenkins

すべての帝国はほろんだ。世界の覇権国としてアメリカが担った時代は消滅していく。

FT January 9, 2020

Risks of US-Iran conflict will not quickly subside

FT January 9, 2020

The fruits of America’s tragic turn in the Middle East

Hisham Melhem

FP JANUARY 9, 2020

U.S. Media Lets White Pundits Rule the Middle East

BY H. A. HELLYER

FT January 10, 2020

Why America has less to fear from an oil shock

Gillian Tett


 日本

The Guardian, Fri 3 Jan 2020

Japan’s warship deployment could push a pacifist country into conflict

Jeff Kingston

FP JANUARY 3, 2020

East Asia’s Alliances Are Falling Apart

BY ELLIOT SILVERBERG, ANDREW INJOO PARK

FT January 8, 2020

Toyota’s success sends Japan a mixed message

Leo Lewis


(後半へ続く)