IPEの果樹園2019

今週のReview

11/4-9

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Brexitと労働党 ・・・ジョンソンの合意案と総選挙 ・・・指導者のいない抗議デモ ・・・ポピュリズムの政治経済学 ・・・警察国家か、暴動都市か ・・・ドイツとマイナス金利 ・・・イギリスとロシアを排除してはならない ・・・シリア内戦 ・・・ISISの指導者殺害 ・・・同盟と外交 ・・・ ・・・

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 Brexitと労働党

The Guardian, Fri 25 Oct 2019

The question for Labour: why are you sticking with Jeremy Corbyn?

Jonathan Freedland

The Guardian, Mon 28 Oct 2019

The polls may seem dismal. But here’s how Labour could win a general election

Tom Kibasi

The Guardian, Wed 30 Oct 2019

People are passionate about politics again – and they want radical solutions

Owen Jones

2年半の間、イギリス政治はウェストミンスターとブリュッセルの廊下や会議室で展開されたパントマイムであった。

2000年になった最初の10年間、政治的無関心が政治参加に置き換わった、としばしば言われた。政党の党員数も投票率も減少から増加に転じた。大衆政治に時代である。スコットランド独立運動、ファラージ主義やBrexit推進派たち、若者主導の環境危機運動、労働党のコービン主義者たち。

それゆえ選挙結果は予測できない、浮動的な性格を強めている。政治化した民衆が単一の根本問題に関して団結する。現状維持は好まれない。

もしジョンソンが勝利すれば、イギリスとEUとのつながりを叩き壊し、経済にウェールズ規模の穴をあけるだろう。Brexitを利用して、イギリス社会をハイパー・サッチャー主義モードに改造するのだ。これに対して労働党の使命は、一世代におよぶ市場原理主義の実験を終わらせて、この実験の主要な受益者たちから富とパワーを再分配することだ。保守党も労働党も、旧秩序を破棄することになる。

保守党の戦略は明白だ。Brexitを使って政府に反対する政治同盟を分裂させるのだ。その秘密兵器が自由民主党のJo Swinsonである。労働党の支持基盤が掘り崩されることを期待している。

大衆政治で、保守党のBrexitに集中する争点は、他の要求を排除することになる。しかし、世論調査は、1月以降、環境問題の優先度が急速に高まったことを示している。

ジョンソンは、保守党政権が行った緊縮策の時代と、選挙を切り離そうとしている。しかし、賃金水準はまだ金融危機前よりも低いままだ。教育予算の削減、住宅保有率の崩壊、その他、労働党はこれを非難するだろう。国民医療保険制度の危機について労働党が展開する批判にも、保守党は何ら答えていない。

これが保守党の罠であることに注意せよ。むしろ労働党は、圧倒的な楽観的未来を示すべきだ。大衆政治の時代には、政府の失敗をいつまでも取り上げるより、ラディカルな解決策が求められる。この10年間の運動で、政治化した民衆は社会秩序の崩壊から脱出するよう求めている。労働党が民衆の蜂起に応えることだ。それこそジョンソンが最も恐れていることである。


 ジョンソンの合意案と総選挙

FT October 25, 2019

Now Britain has a deal in sight it is time to think about what comes next

Camilla Cavendish

SPIEGEL ONLINE 10/25/2019

Interview with House of Commons Speaker John Bercow

'Parliament Has Stood Up For Itself'

Interview Conducted By Rachelle Pouplier, Jörg Schindler and Charlotte Schönberger

SPIEGEL ONLINE 10/25/2019

The Next Round in the Brexit Battle

Boris Johnson's Risky Election Gamble

By Jörg Schindler

Sir Ivan Rogersは、しばしば、この数年の間、預言者だった。イギリスの元EU大使で59歳のロジャーズは、国民投票のもっと前からBrexitが自国にとってとんでもない考えだと予言していた。テリーザ・メイの悲劇的な最後も、EUとの離婚協議が2年で終わらないことも。

しかし、だれもかれの予言を聞かなかった。「私が間違ってたらよかったのに」と彼は言う。

次の予言は、ボリス・ジョンソンが10年かそれ以上も首相を務める、というものだ。それはUKにとって破滅である。しかし、だれも将来のことを気にしない。

彼のほかにも同じ予想がある。就任以来の多くの失策やスキャンダルは、ジョンソンをますます強くした。彼は政治的な脱出策の天才だ。

ジョンソンの支持者たちは、これでウィン・ウィンの条件になった、と喜ぶ。Brexitのマラソン・レースは、いよいよ最終の競技場に入った。選挙によって、ジョンソンが勝者になるだろう。議会の多数が、初めて、離脱案を可決した。ただし、その合意は、十分な時間をかけて問題を検討することだった。

それは何も生み出さず、1つの問題に向かうだろう。すなわち、ジョンソンは信頼できるか? そして多くの議員は、「とんでもない」と考えている。アイルランドの連立相手DUPが求めたのは、イングとの間に境界線を設けないことだった。しかし、それこそがジョンソンの合意案だ。

議員たちは、合意なき離脱に対する反対で一致していた。今や、新しい選挙になると、ジョンソンの優位になる。彼は政府を動かすより、選挙運動が得意なのだ。この国に、長く待ち望んだ自由をもたらしたのは自分だ、と主張する。

イギリス経済に何十億ドルも損失を強いる「自由」であるが、まるでUK市民には関係ないかのようだ。「主権を取り戻せ。」 世論調査では、ジョンソンの保守党が労働党を15ポイントもリードしている。

ジョンソンが恐れるのは、ファラージのBrexit党だけである。Brexit党が2桁の当選者を出せば、選挙でジョンソンは過半数を得られないだろう。そして、保守党はますます右傾化し、Brexitだけの政党になる。

FP OCTOBER 25, 2019

The British Public Is Tired of Boris Johnson

BY KITTY WENHAM

右派にとって、Brexitは、北部の労働者階級から票を獲得する魔法の言葉なのである。彼らは伝統的に労働党を支持してきた。保守党による緊縮財政の結果、北部と南部との格差はさらに拡大した。その不満を吸収したのがBrexitのキャンペーンであった。その勢いでジョンソンは首相になった。

しかし、保守党の中に深く根付く貴族趣味の体質は消せないだろう。

NYT Oct. 26, 2019

Boris Johnson Is Heading for a Scorched-Earth Election

By Jenni Russell

The Guardian, Mon 28 Oct 2019

Even if the Tories win an election, they’ll be finished

Polly Toynbee

4党(保守党、労働党、自由民主党、スコットランド国民党)による競争は、わずかな支持票の移動が大きなショックにつながる。過半数を得る政党はないだろう。何でもありの選挙は、旧政党を分裂させる。労働党が内部から崩壊し、自由民主党が残留派の支持を得るかもしれない。

もし高齢者たちの支持で保守党が勝利しても、彼らが実行するBrexitは、若者たちから見捨てられ、保守党の消滅にいたるだろう。

FT October 30, 2019

Will Boris Johnson’s high stakes election gamble backfire?

George Parker and Laura Hughes in London

FT October 30, 2019

A winter election that could reshape Britain

PS Oct 30, 2019

What Happens to the United Kingdom Now?

CHRIS PATTEN

NYT Oct. 30, 2019

What Now, Britain?

By The Editorial Board

NYT Oct. 30, 2019

What Could Go Wrong With Boris Johnson’s Scheme? Everything

By The Editorial Board

FT October 31, 2019

Why Brino is the new Brexit

Simon Kuper

FT November 1, 2019

Why I want another hung parliament

Martin Wolf

UKの投資が減ったのは不確実さが大きいからだ。いつ、どのように、UKEUを離脱するのか? ジョンソンの合意案は、不確実さを悪化させたし、それがいつ終わるかもわからない。

2020年に貿易に関して合意する、というのは幻想である。カナダとEUが合意するまでにも交渉に5年を要した。UKはもっと困難だ。

ジョンソンが合意案を総選挙に賭けたのは喜ばしい。その結果は、離脱派と残留派の分裂状態によるだろう。いずれの政党も過半数を取らないことは、むしろ良いことだ。私は、保守党も労働党も、多数を得るとは信じない。

UKは新しい合意のための交渉し、それを国民に問うだろう。2大政党が、ともに愚かな考えを捨てて、冷静さを取り戻し、極端な立場から離れるだろう。

私は、ジョンソンのデマゴーグも、コービンのユートピア的な集産主義も、信じない。有権者もそうであってほしい。中道派が議会の主流になるだろう。Brexitへの過程が見直される。

しかし、残念だが、そうならないようだ。


 指導者のいない抗議デモ

FP OCTOBER 25, 2019

Lebanon’s Protests Are Leaderless. That May Be Their Strength.

BY REBECCA COLLARD

NYT Oct. 25, 2019

Lebanon Battles to Be Born at Last

By Roger Cohen

レバノンは内戦ゲームに向かった。最後のアラブのはるか、アラブの何かに向けて。強奪、汚職、縁故主義に憤慨し嫌悪する者たちが、広範な同盟を形成している。

それは民衆、無差別な市民、レバノン国旗を突如として自分たちにとってのシンボルに見出した人々だ。彼らが、長年にわたり総裁であるRiad Salamehの辞任を求めて、中央銀行の周りに集まっている。

およそ100万人、レバノン人口の4人に1人がデモに参加した。セクトに分断された国だが、今、だれもが一緒に抗議している。

若者たちは外国の代理人たちがいることにうんざりしている。自分たちの国である、という意味で、国旗を振った。市街が封鎖され、銀行もビジネスも閉まった。キリスト教徒の代表するMichel Aoun大統領は、「若者たちが主張する体制転換は街頭で起きるのではない。」と述べた。しかし、群衆は、転換しつつあると信じている。

指導者のいない大衆抗議は、ソーシャル・メディアで一気に広がった。トルコからチリ、フランスからエジプト、ブラジルからリビア、その怒りと理想主義が過去10年間の特徴である。しかし、蜂起はほとんどが失敗し、消滅した。指導者がいないことは理想的だが、効果が乏しい。

しかし、ここはレバノンだ。政府は弱く、軍隊は2つ(政府軍とヒズボラ)、2つの通貨と、公式に承認された宗教が18ある。陰謀の数は無数である。

「レバノンが滅ぶか、生きるか、、最後のチャンスだ。」 レバノン人、パレスチナ人はドバイを建設した。しかし、自分たちの国を築くことはできなかった。だから外国に出て働き、子供たちの生活を支えたのだ。

「われわれは貧しい国ではない。しかし、どろぼうがこの国を支配していた。」 私はこの国が変わるまで通りにとどまる。娘の未来のために。

経済は資本流入が枯渇して、崩壊状態だ。成長が失われ、失業が増大し、通貨価値が暴落している。ドルへの交換に群衆が殺到することを恐れて、銀行は1週間も閉じたままだ。ごみが山積みされ、電気も止まった。下水はそのまま海に流される。この国にとどまるのは、悪質な政治家たちだけだ。

FT October 26, 2019

Leaderless rebellion: how social media enables global protests

Gideon Rachman in London, Benedict Mander in Santiago, Daniel Dombey in Barcelona, Sue-Lin Wong in Hong Kong and Heba Saleh in Beirut

世界各地で指導者のいない抗議活動が広がっている。レバノン、チリ、フランス、香港、アルジェリア、彼らは同様の通信技術を用いてデモを呼びかけ、組織している。彼らを弾圧することも、彼らと交渉することも、困難だ。

指導者がいないことは、警察との暴力的な応酬に陥る危険がある。最大のリスクは、リーダーがいない抗議デモは成果を上げられないことだ。

FT October 28, 2019

Chile’s crisis was decades in the making

Jennifer Pribble

FT October 28, 2019

The IMF’s second chance in Argentina

Kevin Gallagher and Matías Vernengo

PS Oct 28, 2019

Santiago Under Siege

ANDRÉS VELASCO

チリのサンチアゴで暴動が起きた。なぜここで、起きたのか? なぜ今、起きたのか? なお数百万院がデモに参加している。

不平等、制裁と汚職、政治に対する不信感の増大。社会契約を書き換えるチャンスかもしれない。あるいは、左右のポピュリストが登場する。

The Guardian, Tue 29 Oct 2019

This wave of global protest is being led by the children of the financial crash

Jack Shenker

PS Oct 29, 2019

The Politics of Frustration in Latin America

JEREMY ADELMAN , PABLO PRYLUKA

NYT Oct. 29, 2019

The Arab Spring Rekindled in Beirut

By Roger Cohen

FT October 30, 2019

In Chile and Argentina, anti-populist politics is failing

Ernesto Seman

PS Oct 31, 2019

The Arab Winter of Discontent

ISHAC DIWAN

PS Oct 31, 2019

The Spirit of 2019

DOMINIQUE MOISI


 米中貿易交渉の失敗

PS Oct 25, 2019

No Art to the US-China Trade Deal

STEPHEN S. ROACH

アメリカ側交渉のトップの1人であるムニューシン財務長官によれば、交渉の大きな取引は6月に90%が終わっていた。そのあと、非難合戦となり、しっぺ返しになった。

その後、新しい楽観主義が誕生したが、それも大きな失望に終わった。合意がまとまらないのは、その中身より、交渉の枠組みが問題である。たとえ中国側の財布を開かせて購入額を積み上げても、アメリカに問題はもっと根が深い。

2018年の、8790億ドルの貿易赤字は、102か国との間で赤字を出した結果である。これは多角的な問題であり、米中2国間交渉では解決できない。政治家たちは、アメリカの製造業や労働者を苦しめている、と言うが、問題は多角的な貿易不均衡、マクロ経済の問題である。アメリカの貯蓄が少ないのだ。

人民元を問題にするのも間違いだ。中国は通貨価値を操作していない。かつて巨額に達した外貨準備も消滅した。

米中交渉で、アメリカの貿易赤字は解決できない。貯蓄を増やす最も効果的な方法は、政府の財政赤字を減らすことである。しかし、トランプ政権はそれを増やした。

FT October 28, 2019

Three ways to trade a changing China

Tom Price

中国はもはや巨大なものを生産する時代を過ぎた。世界の商品市場を動かすことはない。

PS Oct 28, 2019

China Adjusts to the New World Order

ANDREW SHENG, XIAO GENG

FT October 29, 2019

The factory workers at the frontline of US-China relations

Patti Waldmeir


 ドイツ社会民主党

NYT Oct. 25, 2019

Are German Social Democrats Doomed?

By Anna Sauerbrey


 ポピュリズムの政治経済学

FP OCTOBER 25, 2019

The Cure for Populism Is Equal Opportunity

BY ERIC PROTZER, PAUL SUMMERVILLE

カナダ人民党(PPC)は、先進諸国の多くに広がるポピュリスト政党の1つであるが、最近の連邦選挙でひどい結果に終わった。党首で創立者のMaxime Bernierは議席を失うかもしれない。得票率は2%以下で、全国政党の第6位と消滅寸前だ。

PPCの不振は、アメリカ、UK、フランスのような他の西側民主主義諸国で、ポピュリストが成功していることと対照的だ。そこには明確に違いがある。すなわち、その経済体制の公平さだ。社会的移動性が低い、経済的成功と家族の出自が強く関係している国は、ポピュリストの政治的な混乱を生じやすい。

Bernierは、ケベックの政治家として経歴を積んでいた。閣僚も経験していた。権力闘争に敗れて保守党を抜け、PPCを創った。PPCは右翼の新聞から支持されたが、自由貿易や国家介入を肯定する国民からは支持されなかった。

Bernierは、ただちに、ポピュリストの主要なメッセージを取り入れた。それらは、アメリカ、UK、フランス、ドイツの市場型民主主義を再定義した、さまざまな政治的言説である。Twitterを重視して、主要メディアを「カルト」と批判した。新しい移民からのカナダ人を「部族」や「ゲットー」として描いた。気候変動を否定した。

そのような戦術は、フランスのル・ペン、アメリカのトランプ、イギリスのファラージが採用して成功した。しかし、カナダでは拒否された。カナダは、世界で最も社会的移動性の高い国だから、ポピュリストは支持されない。カナダ人には所得の上位層に移る多くのチャンスがあり、家族の出自は関係ない。

トランプは、(ワシントンの)「どぶさらい」を主張し、「アメリカを再び偉大にする」と叫ぶとき、アメリカに築盛された不公平の感覚を捉えていた。ファラージやボリス・ジョンソン首相が、人びとに「主権を取り戻せ」と叫んで、UKにおいて同じことをした。そのようなメッセージが広がったのは、アメリカとUKが発展した世界において最低レベルの社会的移動性しか実現できていないからだ。

カナダは、機会をもたらす公共財の供給、例えば、教育、医療、移動可能な資格で、競争を受け入れる国であり、報酬を高める機会があった。カナダは、フランス的な国家介入と、アングロサクソン型の自由市場とから、最善の要素を結合して成功している。

NYT Oct. 28, 2019

The Way We Measure the Economy Obscures What Is Really Going On

By Heather Boushey

VOX 29 October 2019

Moderator’s introduction to the Vox debate on populism

Sergei Guriev

ポピュリズムの興隆には、経済要因と文化要因が作用した。社会移動性を高めて、不平等を減らすべきだ。

VOX 29 October 2019

Many forms of populism

Dani Rodrik

ポピュリズムは、過激な保守主義と結びついている。それは金融危機など、経済ショックと、より長期的な文化的変化との、両方から説明される。後者は、例えば、都市化と関係している。

政治的な意味で、民主主義から独裁に向かうポピュリズムの危険性が重視される。しかし、経済的な意味では、ポピュリズムに一定の積極的な意味が認められる。経済的ポピュリストは、権力に対しての政治的な制約ではなく、政策への制約を拒否する。それが正しいか、間違っているかは、その状況次第である。

エコノミストたちがポピュリズムを嫌うのは、それが無責任で、持続不可能な政策を意味するからである。最後は、彼らが救済すると主張する庶民を破滅に導く。ラテンアメリカ諸国のマクロ経済的なポピュリスト政策はその代表だ。

しかし、経済政策の制約は常に望ましいものとは言えない。ルールや政策委員会に権限をゆだねると、狭隘な集団の利益に偏り、一時的な優位を長期化することにつながる。そのような場合は、効率性によってではなく、もっぱら再分配のために、その制約を緩和することが社会的に望ましい。

例えば、金融政策が独立した中央銀行によって決定されることは、1980年代、90年代のインフレ鎮静化に有益であった。しかし、低インフレの状況では、中央銀行が排他的に物価の安定性を重視することがデフレ的な偏向を経済政策に与える。

また、グローバルな貿易ルールについて、国際貿易協定の議題をますます特殊な利益集団が支配するようになっている。すなわち、多国籍企業、金融機関、製薬やハイテクの大企業だ。その結果、グローバル化の制約は、資本にとって有利な、労働者たちにとって不利なものになっている。ISDSinvestor-state dispute settlement)も、外国企業とその本国政府に有利な原則を支持し、実際には、再分配する手段となっている。外国投資家の圧力により、政府は公共の利益のためにでも、利潤にマイナスとなるような政策は採用できない。

ヨーロッパで、経済統合が強調されるときも、国境を越える取引コストをなくすために、各国の権限を犠牲にして、遠くの機関でルールが決定される。EU規模の規制、財政ルール、共通の金融政策は、ますます、ブリュッセルやフランクフルトで決定される。システムは、高度なスキルを持つ専門家や国際展開する企業にとって有利なものとなり、他の多くの人びとは排除されたと感じている。地域の民主主義の赤字と、最近のポピュリスト的な反発は、こうした、政治を排除するテクノクラートの政策決定から生じている。

多くの場合、経済政策の制約を緩和し、政策権原を選挙によって生まれた政府に返還することが望ましい。正統的な議論が政治的な展開やポピュリズムの興隆によって転覆されるときは、特にそうだ。例外的な時代には、経済政策の実験の自由が必要だ。

フランクリン・D・ローズベルト(FDR)とそのニューディールがその歴史的な例である。1933年、彼は金本位制を離脱した。それが金融政策に対する主要な(外的な)制約であった。これにより、アメリカはドルを減価させ、金利を下げることができた。生産は急速に回復した。FDRの経済イニシアティブは、その多くがポピュリスト的であった。彼は、反対する者たちを「経済的王党派」と呼んで攻撃した。それは、庶民を犠牲にして経済を支配する大企業、金融業者、産業家たちだった。

FDRの挑戦は、大不況が広めたポピュリスト的情念を緩和し、修正した。大規模な富の再分配を唱えるロングHuey Longのようなデマゴーグも生んだ。しかし、FDRは正しかった。人びとの生活を改善するだけでなく、民主主義を守るためにも、経済改革が必要だった。

一層危険な政治的ポピュリズムを阻止する唯一の道は、経済ポピュリズムしかない、という時代がある。

VOX 29 October 2019

The two faces of populism

Barry Eichengreen

VOX 29 October 2019

The rise of populism

Guido Tabellini

先進的民主主義国が、新しい政治運動によるシステムの変容を続けている。特に3つの変化が起きている。

1.政治対立の規準が変化した。左派と右派による、経済的な論争、再分配ではなく、ナショナリスト、社会的保守主義と、コスモポリタン、社会革新との対立である。

2.伝統的な社会民主主義政党への支持が失われた。新しい諸政党がその真空を埋めた。

3.新政党の多くが、反エスタブリシュメント、反エリートの、いわゆるポピュリスト型政策を主張している。「人民の真の利益」を代表する、という。

なぜか? いくつかの説明がある。1つは、文化の後退だ。教育をあまり受けていない、より伝統的な有権者は、社会における彼らの価値体系が次第に浸食されていくことに反発した。あまりにも進歩的で、コスモポリタンな価値に反対したのだ。

もう1つは、経済的な緊張、不況に対する反応だ。かつては、福祉国家による保護を求めた。それは社会民主主義的な政党や労働組合を支持する力になった。今は逆に、保守的な政治家が支持される。彼らは福祉国家の縮小を主張し、再分配政策に反対する。有権者たちは、自分たちの利益に反して、再分配政策より、移民排斥や国籍を重視する。

なぜか? 1つの答えは、政治の供給側だ。特に、社会民主主義政党が、進歩的政策、規制緩和を優先し、伝統的な支持者の願いや利益を無視した。他の選択肢を失い、グローバリゼーションや技術革新によって取り残された「敗者たち」がポピュリスト政党に向かった。しかし、すべての左派政党が同じ失敗したとは思えない。

もう1つの答えは、政治の需要側だ。政治とは社会集団間(われらvs彼ら)の対立である。しかし、「われら」とは誰のことか? 「彼ら」とは誰のことか? かつては左派と右派であったが、今は、文化や教育による違いが対立を生じている。グローバリゼーションと技術革新が、新しい勝者と敗者を生み出し、彼らは文化や教育によって分断されているからだ。

社会的アイデンティティーが変化したことで、社会集団の政治的信念や政策嗜好が変化した。かつての再分配政策より、社会的保守主義が支持されている。

長期的社会変化が、今、政治的な変化として現れたのは、2つの重要な事件、すなわち、ソーシャル・メディアの普及と、金融危機の影響が大きい。その意味では、Brexitやトランプは、一過性の現象ではない。ポピュリズムの興隆がもたらす政治変化は戻ることなく、永久に残る。

2大政党制や大統領選挙のような、多数派を有利にする政治システム(小選挙区制)が混乱を拡大したことは明らかだ。新しい政治対立軸が反映されにくく、主要政党は内部で分裂した。選挙結果が予想できなくなる。新しい敗者の声を代表して、ポピュリズムが政治システムを改善する、とは断言できない。

その主張とは矛盾した形で、ポピュリスト政治家には政策失敗の高いリスクがある。1.右派ポピュリズムは再分配を嫌う。2.即座に成果を求める。3.政治的過激化、極端な新政策を唱える。こうした傾向は、ラテンアメリカ諸国で繰り返された失政を予想させる。

ポピュリズムがナショナリズムに傾く。それはグローバリゼーションと技術革新が続く世界で取り残される人びとを救うことにならず、必要な超国家機関を破壊することになる。


 警察国家か、暴動都市か

FP OCTOBER 25, 2019

Hong Kong’s Future: Police State or Mob State?

BY MELINDA LIU

今週、抗議デモ参加者は、九龍地区の商業地区でガソリンの火炎瓶を投げた。群衆は警察を犯罪集団の仲間となじった。中国の大企業と連携する店が黒煙に包まれた。暴力行為によって多くのレストランが破壊された。反政府デモを平和的な形に戻すようっ求める声が多い。

しかし、双方は、政府当局も、デモ隊も、譲歩する姿勢が全くない。暴力の水準が高まっていくだけだ。721日、長い歴史のあるギャング集団、「三合会triads」を非難する者が多い。721日のYuen Longにおける流血事件で、警察と話し合っていた三合会のメンバーが、暴力におよんだことをビデオが写したからだ。

721日以後、穏健な人びとも、より極端な行動を支持するようになった。警察が正常な規則に復帰するまで、デモ隊が平和的な反政府の抗議活動に戻ることはないだろう、と政治学者のVictoria Tin-bor Huiは述べた。警察の暴力は、事態を「鶏と卵」の問題にしてしまった。

香港は、2つの異なる未来を見ている。警察国家か、暴動都市か。

The Guardian, Sun 27 Oct 2019

If Beijing does not budge, the struggle for Hong Kong will last decades

Louisa Lim and Ilaria Maria Sala

YaleGlobal, Thursday, October 31, 2019

Wong: Electoral Turning Point for Hong Kong

Mike Chinoy

香港政府がJoshua Wongの立候補を認めていたら、それは政治的緊張を緩和する過程を促せただろう。しかし、彼の候補者資格を、独立運動の懸念と結び付けて拒否したことは、すでに過激化している抗議活動に一層の悪化する刺激を与えることだ。彼らは、既存の政治システムが一切の改革の余地を持たない、と確信するからだ。


 ドイツとマイナス金利

FT October 27, 2019

What will Christine Lagarde’s ECB look like?

Martin Arnold in Frankfurt

FT October 30, 2019

How the euro helped Germany avoid becoming Japan

Martin Wolf

事態は加算されていく。大きな経済圏における責任を無視できない。ユーロ圏の悲劇とは、特に、その中でのドイツの役割だが、所得と支出がユーロ圏内で、またグローバルなレベルで、どのように加算されるか、思考が及ばないことにある。

このことが、ECBの政策に対するドイツ人の敵意を、部分的に説明する。最近のSabine Lautenschlägerで、ドイツ人の理事がECB理事会を辞任したのは3人目だ。この敵意は、UKにおけるヨーロッパ懐疑主義と似た長期的な結果を及ぼすだろう。それは破滅につながる。EUUKが抜けても生き残るが、その中核的なドイツが抜けた場合、消滅するだろう。

ユーロが30年前にできたとき、私はユーロがEUを政治的に分裂させると恐れた。ドイツ人は理解しなければならない。ユーロはすでに彼らの利益になる形で機能している。ドイツ経済は膨大な貯蓄を行っているにもかかわらず、ユーロのおかげで安定している。ドイツ人はそのような過剰貯蓄に対して高い報酬を得ることはできない。なぜなら市場がそれを必要としないからだ。グローバルな「流動性の罠」である。貯蓄は、希少ではなく、過剰である。

ユーロがもたらすドイツにとっての利益を知りたければ、非常によく似た経済と比較することだ。それは日本である。両国は、第2次世界大戦の敗戦後、アメリカの同盟国として再生した。ダイナミックな工業製品の輸出国で、世界第3と第4の経済規模がある。高齢化が進み、出生率の世界ランキングは、ドイツが204位、日本は209位だ。

急速に高齢化し、製造業の輸出部門を持つ大国として、両国の民間部門は投資を超える過剰貯蓄を持つ。ただし、ドイツは民間部門の家計が、日本は民間部門の企業が、過剰貯蓄の多くを占める。超低金利でも、国内の民間投資はそれを吸収できない。算数の問題だが、その結果は財政赤字と資本流出になる。

ここで違いが生じる。日本では、資本流出(それは経常収支黒字でもある)が過剰貯蓄の3分の1であり、残りは財政赤字になる。ドイツでは、資本流出が全てを吸収する。なぜなら、政府は赤字を出さないからだ。

それは、ドイツ人が財政規律を尊重する美徳を示し、日本人が悪徳にふけるからではない。日本人にはGDP8%も経常黒字を出し続けることはできないからだ。そんなことをすれば実質為替レートが不安定化し(激しい円高を招く)、また貿易相手国の怒りを買うだろう。

しかし、ドイツ人は安定した、競争的な為替レートを持っている。輸出のほぼ40%がユーロ圏内の他国に向かう。ユーロ成立後の初期に、ドイツの競争的な優位が確立されたままだ。その為替レートは加盟諸国によって平均される(ユーロ高は起きない)。ユーロのおかげで、ドイツの望む組み合わせが可能になる。民間貯蓄、財政、貿易収支、すべてが黒字になることだ。

もしユーロ圏がなければ、ドイツ・マルクは大幅に増価するだろう。低インフレの世界で、ドイツのインフレ率はマイナスになり、輸出部門の利潤と貿易黒字を損ない、多くの外国資産を持つ金融機関に損害を与える。名目金利がプラスであることも、財政黒字も、維持できないだろう。要するに、ユーロ圏がドイツを日本化から守っているのだ。

ユーロ圏の中でも、外でも、金利は低い。ドイツ人の貯蓄に高い収益を求めるなら、もっとリスクの高い投資をすることになる。しかし、国家としてドイツは、貯蓄と海外投資のバランスを変えることができる。世界経済もドイツ経済も悪化の兆候を示すとき、ドイツが民間と政府の支出、特に投資を増やすのだ。その機会は豊富に存在する。

長期金利が非常に低水準であることは、呪いではなく、祝福である。

SPIEGEL ONLINE 10/30/2019

Elegance and Toughness

Christine Lagarde Brings a New Style to the ECB

By Marc Hujer and Michael Sauga

FP OCTOBER 31, 2019

Germany Chooses Economic Nostalgia Over Saving the Planet

BY ADAM TOOZE

IMFの新専務理事であるKristalina Georgievaは、IMFが気候変動に対する行動を支持することでデビューした。気候変動は現代の圧倒的に重要な課題であると認められている。他方、金融政策においては論争が続いている。低インフレ、マイナス金利の世界で、中央銀行は何をなすべきか?

アメリカは奇妙な立場である。景気悪化の兆候に金融緩和を再現しているが、トランプは気候変動を否定する。ドイツ銀行は、2つの戦線で反対の側だ。緑の党が支持を伸ばしているが、ECBの金融緩和に強く反対した。


(後半へ続く)