IPEの果樹園2019

今週のReview

10/21-26

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ノーベル経済学賞 ・・・米軍のシリア北撤退 ・・・不況とマクロ経済政策 ・・・不平等と税制改革 ・・・ジョンソンのEU離脱案

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ノーベル経済学賞

FT October 14, 2019

Economics Nobel for poverty work will help restore profession’s relevance

Martin Sandbu

ノーベル経済学賞を受賞した3Abhijit Banerjee, Esther Duflo and Michael Kremerは、貧困の原因と対策に関する著名な研究者たちである。それとともに、彼・彼女らへの授与は経済学そのものへの要請でもある。

金融危機を予見できず、増大する不平等を長期にわたって無視してきたことで、エコノミストたちは世界を非現実的なモデルで考える無能な幻想家というイメージを強めている。

エコノミストたちの能力に対する大衆の不信を、彼・彼女らの受賞は払しょくする道を示す。


 米軍のシリア北撤退

FP OCTOBER 10, 2019

Some of the Most Noble People I’d Ever Met’

BY LARA SELIGMAN

20181220日に、アメリカのドナルド・トランプ大統領はツイッターで、アメリカ軍をシリアから撤退させる、と告げた。その翌日、米兵の集団が、シリア北部のクルド人が支配する街、Manbijのパトロールに出た。

クルド人が主導するシリア民主軍(SDF)の1人が近寄ってきて、アメリカ部隊の支援に感謝した。「彼は連隊の記章を取って、私にくれた。これまでに経験した中で最も感情を乱した瞬間であった。」 そのアメリカ軍人はSDFとともにイスラム国と長年戦ってきた。

国境地帯から米軍を撤退させるというトランプの最近の決定は、多くの退役軍人や現在の兵士たちの気持ちを踏みにじった。それはトルコ軍がシリア北東部を攻撃するための道を開くものだから。

Manbijの前線で彼らの反応を観たが、SDFは、おそらく、私がこれまで会った中で最も高貴な人たちだと分かった。

The Guardian, Mon 14 Oct 2019

Trump is right to take troops out of Syria. Now they must leave Iraq and Afghanistan

Simon Jenkins

ドナルド・トランプがアメリカをシリアから救い出すことは正しい。アメリカの部隊がその国にいる戦略的理由は何もない。彼らがそこに長くいるほど、深みに入るだけだろう。もし彼らが何らかの平和を押し付けようとすれば、彼らはすべての側から攻撃される。トルコとクルドの紛争に外から関わることは間違いだ。

アメリカはシリアから出ていくべきだ。それは、イラク、アフガニスタン、サウジアラビア、湾岸諸国から出ていくしかないのと同じである。

今、イスラム国は爆撃されて粉砕し、それ以前の紛争が再現している。トランプはもう十分だと思った。彼がクルド人を見捨て、トルコにシリアへの侵略を許したことは、外交の裏切りを示す年表でも高位に位置する。しかし、権力政治とはそうするものだ。

ヨーロッパの諸帝国が演じたグローバルな警察機能をまねて、アメリカ外交は破滅の天使になった。古代都市も現代都市も破壊され、諸宗教が分断され、武装された。多くの人びと、おそらく数十万人が死んだ。数兆ドルが浪費された。あたかも1989年のソ連の敗北が西側の軍隊をだまして、第三世界の戦場に引き込んだようだ。

もしトランプがこの自滅のサイクルを終わらせるのであれば、それを支持するのがふさわしい。

NYT Oct. 14, 2019

What the World Loses if Turkey Destroys the Syrian Kurds

By Jenna Krajeski

イラクのクルディスタンから流れるティグリス川に沿ってロジャヴァRojavaはある。その境界線は、ある意味で、現実だが空想的なものである。

アメリカが中東地域に介入した数十年間にわたり、クルド人との同盟はしばしば重要な軍事的手段であった。

しかし、トランプが決めた米軍の撤退を、単に軍事同盟に対する裏切りとみなすことは、シリア北部で行われていること、クルド人自治区とその重大な計画を見失うことになる。それは民主主義、平等、安定性についての企てであるから。

クルド人民防衛隊YPGとその女性部隊とが境界線で戦っているが、ロジャヴァのクルド人は民主主義を少なくとも30年にわたって実践してきた。女性とマイノリティに平等な代表権を与え、土地と富を平等に分配し、バランスの取れた司法、シリア北部のエコロジカルな保全も目指している。

トルコ国内でクルド人の運動が大規模に弾圧され、イラク内のクルド人独立運動が後退する中で、シリアのクルド人が運動全体の心臓部になった。彼らはアメリカとともにイスラム国と戦ったが、彼らはロジャヴァのために戦ったのだ。

FT October 15, 2019

The Syria debacle: what Trump and Obama have in common

Roula Khalaf

トランプがつねに間違っているわけではないし、オバマもそうだった。アメリカは際限ない中東での戦争に疲れている。シリアにおける和平の機会は存在しない。しかし、紛争が燃えつくすのを許すことは、選択肢にならない。必要な撤退であっても、同盟者の保護とカオスの予防を管理できただろう。しかしトランプは、オバマと同じ失敗、敵が埋めるための真空を生み出したのだ。

これによって、アサドが勝利し、それを支持するイランが勝利する。トランプが一貫してイランを苦しめ、最大限の圧力を唱えているにもかかわらず。

ロシアも、このカオスから利益を受ける。モスクワがシリアの仲介者として、政府とクルドの交渉に強い力を発揮する。

また、失策を非難する議会共和党議員の声にあわてたトランプの、トルコに対する経済制裁は、アメリカとトルコの間に新しい紛争を起こした。

自分で創りだした破滅に気づいて、大統領はアメリカのパワーを実感しただろう。たった1000人の米軍の小部隊が、地上において重大な意味を持っている。

FT October 17, 2019

Sanctions are Donald Trump’s new way of war

Philip Stephens

それは新しいアメリカ式の戦争だ。空母も、ステルス戦闘機も、巡航ミサイルも、忘れてよい。それより、ドル、半導体、デジタル・データを考える。そして、制裁し、禁輸し、ブラックリストに載せる。どの国も経済制裁をしばしば科してきた。しかし、ドナルド・トランプは3歩先を行く。アメリカの経済政策は、その安全保障戦略と融合してしまった。

ムニューシン財務長官は、アメリカはトルコによるクルド人への攻撃を止めることができるか、と問われて、簡単に答えた。「われわれはトルコ経済を閉鎖できる。」

アメリカ政府は、ヨーロッパがイランとの核合意を救い出す試みをくじき、同盟諸国に第5世代のデジタル通信ネットワークからファーウェイを外すように求めた。もしアメリカに従わないときは、アメリカの諜報機関へのアクセスを失う、と脅した。

普通は、国外における強制力を直接に行使することはない。西側企業は複雑な、国境を越えるサプライチェーンの中にある。多くの企業がアメリカで操業し、販売している。アメリカのブラックリストに載るとか、ドルへのアクセスを失うようなことはできない。

アメリカが唯一の準備通貨を持ち、圧倒的な経済支配力を持つ限り、いつでも、好きなように強制できる。トランプの世界では、弱者のためだけにルールがある。

PS Oct 17, 2019

The High Price of Trump’s Great Betrayal

RICHARD N. HAASS

1つの説明は、トランプが「終わりのない戦争」と、終結の時期を決めない軍の駐留とを、混同していることだ。アメリカがシリア北部でしていることは、スマートで効率的だ。クルド人部隊がISISとの戦闘の大部分を担った。アメリカの貢献は程度が抑えられたもので、主に、助言と諜報支援だった。さらに、アメリカがそこにいたことで、トルコ、シリア、ロシア、イランの行動を抑制できた。アメリカ部隊の撤退により、こうした抑制は一夜にして消滅した。

さらに重大なことは、トランプの決定が旧来のアメリカの伝統、孤立主義に道を開くことだ。トランプのスローガン、「アメリカ・ファースト」は、アメリカの世界的な指導力にかかるコストは、そのいかなる利益も大幅に超えている、という考えに基づいている。この見解によれば、資源を海外の冒険主義に支出するより、国内に支出するほうが良いのだ。

そのような議論には魅力があるかもしれないが、アメリカが安全に世界に背を向けることは可能であり、グローバルな秩序が失われても繁栄していける、というのは深刻な間違いである。何千マイルも離れたシリアはアメリカの安全保障にとって重要ではない、とトランプは繰り返し主張した。しかし、911の惨劇からアメリカ人が学んだのは、距離が安全を保障しない、ということだ。伝染病も、気候変動も、選挙を破壊することも、その影響は国境線で止まらない。

年間の防衛予算は7000億ドルであり、諜報、海外援助、外交、核管理などの予算は8000億ドルに達する。しかし、それはGDP比で見て、冷戦期を下回っているし、アメリカ経済は繁栄してきた。アメリカ国内の多くの問題は、予算が不足しているから解決しないのではない。OECDの平均の2倍を支出しても、アメリカ人の寿命は短く、不健康である。支出額より、支出の仕方が重要だ。

現在の政治論争は孤立主義に傾いている。2020年の大統領選挙を目指す民主党の指名争いでも、世論調査でもそうだ。トランプの孤立主義はアメリカ人の多くのムードを反映していることがわかる。トランプが去った後も、アメリカが世界から撤退する、特に、軍事的な関与を避ける傾向は残るだろう。

歴史は、撤退する時期が、しばしば、大きな地政学的ショックで終わったことを示す。そして、軍事力行使の時期が続く。そのようなショックでは、人命も、資源も、大きく失われる傾向がある。

FP OCTOBER 17, 2019

Assad Is Now Syria’s Best-Case Scenario

BY STEPHEN M. WALT

もっと大きな絵を見失ってはならない。アメリカのシリア政策は、長年、失敗であった。戦略には矛盾があり、アメリカが駐留しても、成果は期待できない。アサドBashar al-Assad体制が北部を再び支配するだろう。アサドは、自国民を50万人も殺害し、数百万人の難民を出した戦争犯罪者である。完全な世界なら、ダマスカスで政権に就くより、ハーグの国際司法裁判所で裁かれるはずだ。しかし、われわれは完全な世界に暮らすのではなく、この恐るべき世界で最善のことをするしかない。

アメリカがクルド人の武装勢力、SDFに約束したことは、決して永久の約束でも、無条件の者でもない、ということを知ることから始めよう。それは戦術的な同盟、条件付きの、イスラム国家と共同で戦う同盟であった。イスラム国が制圧されれば、クルド人との関係は終わるべきものだ。これまで一緒に戦った仲間を置き去りにして、アメリカ兵が感じる個人的な苦悩は理解できるが、それは遅かれ早かれ起きることだった。優れた大統領なら、もっと規律正しく行っただろう。

1.なぜクルド人はこれほど悲惨な状況にあるのか? それは彼らが国家を持たないからだ。近い将来、持てる見込みもない。アメリカ政府はクルド人国家を決して支持しない。なぜならシリア、イラク、イラン、トルコの一部地域にクルド人は暮らしているから。その独立は地域全体の戦争になる。そのせいで、SDFは既存の地域国家の支配下で生きるしかない。

2.トルコはSDFを深刻な脅威とみなしている。クルド人が事実上の自治区を得たシリア北部に、トルコは機会を見て侵攻し、それを滅ぼすだろう。アメリカの部隊がいることで、その滅亡は遅らせたが、長期の解決策をもたらすわけではなかった。

3.あるときから、アサド体制がシリア内戦に勝利することは確実になった。その結果に道徳的な嫌悪を示すことはできても、それは政策ではない。アサド体制が安定することは、多くの問題を解決する。クルドの自治区に対するエルドアンの不安。イスラム国。ロシアとイランの影響拡大。内戦状態を終結した後も影響力を確保するためにロシアとイランが多くの資源を使う。

アメリカがシリアから撤退することを、誇りにすることではないが、悲観すべきでもない。未来の前進にドアを開くことだから。1975年、ベトナムからの撤退がそうだった。

アメリカの失策で最も利益を受けているのは、ロシアでもイランでもなく、中国だ。アメリカは数兆ドルを不必要な戦争とロマンチックな十字軍に浪費している。中国は静かに、外交関係を拡大し、イランなどの諸国に近づき、国内経済を強化している。

私はアサドの勝利を喜んでいない。しかし、彼の体制を受け入れることが最もひどくない選択肢である。私はトランプの混乱した処理方法を正しいものと認めていない。

アメリカがこうした苦しい妥協を避けたいなら、期限のつかない安全保障への関与や、パートナーへの裏切りを望まないなら、どこでその資源と名誉を配置するべきか、慎重に考えることだ。それがアメリカの安全と繁栄にとって真に死活的な重要性を持つときだけである。


 不況とマクロ経済政策

FT October 12, 2019

Global economy is at risk from a monetary policy black hole

Lawrence Summers

IMFの新しいマネージング・ディレクターであるKristalina Georgievaの最初の演説を、世界の金融界は待っている。IMFは、2年前に比べて、世界経済の成長予測を大幅に引き下げた。

ヨーロッパと日本の中央銀行はマイナス金利を受け入れ、アメリカ連銀も金利の一層の引き下げが予想されている。15兆ドルもの債権がマイナスの利回りで取引されている。

財政・金融政策を緩和しても、工業化した世界の中央銀行は、10年間も、そのインフレ目標を達成できていない。ヨーロッパと日本の金融政策はブラックホールになっている。政策金利がプラスになる見通しがない。アメリカが同じブラックホールに入るのは、次の不況の後だろう。リスクのない貯蓄はマイナス金利となり、成長もインフレも目標を達成できない。

1970年代の高いインフレ率が金融政策をリセットしたように、新しい思考が求められる。

現在のマクロ経済政策の課題は、私が数年前に唱えた、長期停滞、慢性的な需要不足、である。世界経済の民間投資需要は、明らかに、マイナス金利でも民間貯蓄を吸収できない。政策の目標は、景気循環をならすことでも、浪費をやめさせることでもない。グローバルな需要が、十分に、そして、諸国の間にも合理的に行き渡ることである。


 不平等と税制改革

NYT Oct. 11, 2019

How to Tax Our Way Back to Justice

By Emmanuel Saez and Gabriel Zucman

アメリカの不平等拡大には新しいエンジンがある。逆進的な税制だ。過去半世紀で、アメリカ最富裕層の富はかつてなかった高みに達したのに、その税率は崩壊している。同じ期間に、労働者階級の賃金は停滞し、労働条件は悪化し、負債は膨張し、その税率は上昇した。

過去10年間で初めて、アメリカの労働者たち、低所得の側のアメリカ人の半数は、億万長者たちよりも高い税率で支払っている。

すべての税を含めれば、所得集団のすべてが所得のほぼ2530%の税金を支払っている。唯一の例外は、億万長者たちだ。彼らの税率は23%であり、他のすべての集団よりも低い。

多国籍企業が、税を徴収されないようなタックス・ヘイブンを選ぶかもしれない。たとえば、アメリカ国内で35%の課税を避けるため、Appleはアイルランドで1%の課税になるよう利潤を申告した。この場合、Appleなど、大企業の多くが行っていることだが、巨額の税収不足を、アメリカ本社にアメリカが課税することだ。アメリカは最後の課税徴収者である。外国の多国籍企業にもできる。それは何ら国際条約に違反しない。もし徴収を避けるためにアメリカ市場での販売を拒むなら別だが、そのような企業はないだろう。

アメリカは税の正義に向かう手本であった。地球上でもっとも累進的な税制を実現した民主主義であった。1930年代には、最高所得限界税率が90%近くに達し、企業利潤には50%、巨額の相続には80%の課税を行った。


 ジョンソンのEU離脱案

The Guardian, Thu 17 Oct 2019

Boris Johnson has a deal. Now MPs must end the agony and vote it through

Simon Jenkins

再び採決が行われる。Brexitは庶民院の拷問にかかる。ボリス・ジョンソンは議会の承認を求めた。合意によってEUからの離脱は可能である。その後の関係は交渉に委ねる。

ジョンソンが保守党の党首になったことは、解決策を失わせた。彼は離脱するだけで、摩擦のない北アイルランドの境界を維持して、関税同盟が可能だという。そんなことがあるとしても、イギリスが求めるものではない。

ジョンソンは多くの間違いを犯した。21人の保守党議員を除名した。彼らがいたら、他党から支持を得て、DUPの呪縛を免れたかもしれない。関税同盟にこだわるべきでなかった。メイと同じように、ジョンソンもDUPの罠にはまった。地域の党派性は何度もイギリス政治を苦しめたが、Brexitによって、「統一されない」王国が完全に解体する。

DUPがイギリスの首相を決めるべきではない。議員たちはジョンソンの合意案を承認するべきだ。それを嫌う者は、移行期に交渉する。離脱によって政治から毒素を除去できるだろう。イギリスとヨーロッパの将来を冷静に交渉できる。この苦悩を終わらせよ。

The Guardian, Thu 17 Oct 2019

Saving the union will need imagination – and we’ve lost it

Aditya Chakrabortty

分裂する国もあれば、統一を維持する国もある。UKにとって最も重大な疑問だ。その答えが古い本の中にある。Benedict Andersonの『想像の共同体』だ。

どのように国民的アイデンティティが創られ、人びとがそれによって殺人を犯し、そのために死ぬこともあるのか。アンダーソンは分析した。国家は「想像上の政治共同体」である。比較的最近の技術で、集団的な夢想に目覚めた。毎日の生活から生じている。

いずれの国民国家も死の淵にある。生き延びるためには、その再確認が必要だ。国家建設とは、共通の利益を築き、共通の文化を創りだす、長い旅である。

イギリスというアイデアはどうなるのか? エリートたちは関心を失ってしまった。そこに残るのは、-の統合力だ。想像の敵を作る。

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The Economist October 5th 2019

Masters of the universe

Kashmir: Valve of tears

Technology and politics: Open season

Automatic investing: March of machines

Ethiopia’s Somali region: Lessons from an open-air prison

Bagehot: Richard Milhous Johnson

Free exchange: Outrageous fortune

(コメント) 「宇宙の支配者」とは? スター・ウォーズのタイトルみたいですが、これは金融市場のことです。かつてアメリカ大統領よりも強力と恐れられた。しかし、それを動かすのは人間ではない。AIなのです。マトリックスのような話です。ますます多くの取引を、AIプログラムが実行している。

他方で、米中の技術冷戦が始まる前に、主要なIT技術をオープン・ソースでプログラムする動きが強まりつつあります。中国のスパイでも、アメリカの制裁でもなく、オープン・ソースによる時代がグローバル・サプライチェーンにふさわしい。

カシミールについて、エチオピアについて、興味深く読みました。そして、ボリス・ジョンソンとリチャード・ニクソンの共通点。地代への課税と資産への課税の合理的なタイプを、資本主義の積極的な改革として受け入れる視点を紹介します。

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IPEの想像力 10/21/19

この世界には、正義がない。まじめに働く人々が、たとえば、高い技量をもつ左官や大工が、現代の技術や文明的な制度によって実現された繁栄を、ふさわしい形で享受できない。

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PSのインタビュー("The Future of the Establishment" PODCASTS Oct 22, 2019 MATTHEW GOODWIN , ELMIRA BAYRASLI)を聴いて、ポピュリズムの広まる世界を考えました。そこには、2つの問いがあります。なぜリベラリズムは消えたのか? なぜナショナリズムに向かうのか? ・・・

リベラリズムは、キャピタリズム(資本主義)と重なり、両者の一致した運動が破綻し、あるいは、その犠牲(スケープゴート)になった。

ポピュリズムは、いかなるイデオロギーや改革運動でもなく、エスタブリシュメントを批判し、既存の制度を攻撃するためのスタイルだ。保守派のナショナリズムは、このスタイルを採用して成功した。ここでも、キャピタリズムの欠陥が大きく作用した。

政治論争は非常にゆがんだ形で広まり、有権者の意識を改変し、固定した。何かの政策や、その結果に対する証拠を議論するのではなく、互いを攻撃するレトリックだけに政治が翻弄される。まさに、Brexitはポピュリズムの条件を強めている。

ナショナリズムもポピュリズムも、デモクラシーとともに古いものであり、そのことがこうした混乱を排除することをむつかしくしている。労働者、中産階級、自営業者は、ポピュリズムのレトリックに影響されやすくなった。・・・移民が多すぎる、政治は自分たちの声を聴いていない、経済システムは基本的に間違っている。

左派の経済安全保障と、右派の文化安全保障が、論争を支配する。しかし、左派は旧来の経済的主張に復帰するだけでは論争に勝てない。グローバリゼーションやAIの不安は、利益を再分配する力を奪い、文化的な衝撃を政治の焦点にした。

イギリスの保守党、アメリカの共和党は、労働者階級からの支持を得て権力を握り、そのポストを失わないために、労働者との約束を守る主張を続けている。そして、イギリスの労働党とアメリカの民主党は、左派の勢力を抱えたものの、権力を奪い返すための明確な戦略を打ち出せないまま弱体化している。

リベラリズムはどこに行ったのか? もっと複雑な多党制と連立政権の組み換えが必要だ。しかし、2大政党制の選挙マシーンは、有権者と社会勢力を分断する方向に作用してきた。本当は、保守党が消滅しつつあるのに。ファラージやトランプはそれを知っている。

ローカルなレベルで、変化を進める可能性は必ずある。各地で、不平等を逆転し、教育を改革するよう、人びとは求めている。

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金融取引にかかわる報酬(そしてAIによる利益拡大)、IPOによる創業者たちの所得(そしてWeWorkのスキャンダル)、AmazonGoogleなど、グローバル巨大企業の利潤、あるいは、雇用や納税額の少なさ、BezosZuckerberg、中国における超富裕層の急増、資産(特に、生産的に使用されていない資産)に対する課税強化・・・

個人の所得は、それが社会の富を増やすことと一致した形で、長期的に評価されねばなりません。しかも、同じ社会に生きるとは、さまざまなマイナスの負担を引き受け、公正な分配状態を維持するルールに従うことでしょう。ベーシック・インカムは、それを実現する形で普及することがふさわしいと思います。

新しい天皇が内外の代表に向けてあいさつし、この国の平和や繁栄を祝してもらうのは、特に、正義への熱意があれば、喜ばしいことでしょう。しかし、世界中から集まる王族や大統領、首相たちの、実にさまざまな、ある意味で、恐ろしいほど残酷な現実の世界を、その饗宴から切り離すことはできません。

アフガニスタンの大統領が映りました。

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