IPEの果樹園2019

今週のReview

10/21-26

***************************** 

ノーベル経済学賞 ・・・米軍のシリア北撤退 ・・・ノーベル平和賞 ・・・IMF/世銀の年次総会 ・・・不況とマクロ経済政策 ・・・不平等と税制改革 ・・・ウクライナの政治と経済 ・・・ジョンソンのEU離脱案

[長いReview

****************************** 

主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ノーベル経済学賞

FP APRIL 25, 2011

More Than 1 Billion People Are Hungry in the World

BY ABHIJIT BANERJEE, ESTHER DUFLO

世界の10億人が飢えている。・・・本当だろうか? 飢餓や貧困は、もっと複雑な話である。あまりにも多くの人が、イデオロギー的な答を信じている。すべてに当てはまる答えは、海外援助を増やすことだ。

ジェフリー・サックスは国連の顧問であった。貧困の罠を脱け出すためには、大規模な援助が必要だ。しかし、反対する学者がいる。ウィリアム・イースターリーがそうだ。この論争には抽象的に答えられない。人びとが直面する問題を調べることだ。

FT October 14, 2019

Economics Nobel for poverty work will help restore profession’s relevance

Martin Sandbu

ノーベル経済学賞を受賞した3Abhijit Banerjee, Esther Duflo and Michael Kremerは、貧困の原因と対策に関する著名な研究者たちである。それとともに、彼・彼女らへの授与は経済学そのものへの要請でもある。

金融危機を予見できず、増大する不平等を長期にわたって無視してきたことで、エコノミストたちは世界を非現実的なモデルで考える無能な幻想家というイメージを強めている。

彼らの調査は、エコノミストが、人類の基本的な経済問題を忘れていなかった、ということを示している。すなわち、食糧、衣類、住居を得ることだ。

良いエコノミストは、何が有効な対策課、に関心を持つ。貧困国の教育問題、肥料の補助金、について調査した。

その調査研究は2つの健全な傾向を示している。第1に、実証研究への転換だ。貧困状態の人びとは、制度、情報、資金、自分で何ができるかについての認識の制約された中で、自ら意思決定している。調査は、その制約を取り除く方法を学ぶ。

2に、方法的な開放性だ。ランダム化対照実験は、薬品などで使用されている、現実生活における実験のアプローチだ。反対する意見もあるが、その論争も方法論の健全さを高める。

エコノミストたちの能力に対する大衆の不信を、彼・彼女らの受賞は払しょくする道を示す。

The Guardian, Wed 16 Oct 2019

The Guardian view on the economics Nobel: worthy winners

Editorial


 米軍のシリア北撤退

FP OCTOBER 10, 2019

Some of the Most Noble People I’d Ever Met’

BY LARA SELIGMAN

20181220日に、アメリカのドナルド・トランプ大統領はツイッターで、アメリカ軍をシリアから撤退させる、と告げた。その翌日、米兵の集団が、シリア北部のクルド人が支配する街、Manbijのパトロールに出た。

クルド人が主導するシリア民主軍(SDF)の1人が近寄ってきて、アメリカ部隊の支援に感謝した。「彼は連隊の記章を取って、私にくれた。これまでに経験した中で最も感情を乱した瞬間であった。」 そのアメリカ軍人はSDFとともにイスラム国と長年戦ってきた。

国境地帯から米軍を撤退させるというトランプの最近の決定は、多くの退役軍人や現在の兵士たちの気持ちを踏みにじった。それはトルコ軍がシリア北東部を攻撃するための道を開くものだから。

Manbijの前線で彼らの反応を観たが、SDFは、おそらく、私がこれまで会った中で最も高貴な人たちだと分かった。

結局、トランプは約束を一部あきらめたが、ツイート以来、米軍の規模は半分になった。しかし、1年近くたって、再びアメリカはそのシリアの同盟軍を失望させた。イスラム国からシリアを解放するのに大きな功績のあったSDFが、今や、トルコ軍の残酷な攻撃のもとにある。トランプがトルコに青信号を送ったからだ。

ある退役軍人は、911以来、アメリカはその土地の武装集団といくつか協力してきたが、SDFは数少ない信頼できる部隊であった、と言う。「その戦闘能力と使命に対する忠誠心を、彼らは何度も、何度も、示してきた。」

「私は憂慮と懸念で体が不調になった。ともに戦ってきた緊密な同盟軍に、このような運命を許す自国を、私は恥じている。彼らは皆、われわれのために戦った。われわれにはそれを防ぐ力がある。」 2017-2018年、シリアで任務に就いた海兵隊員はそう言った。

トルコ政府はSDFを、トルコのクルド人労働者党(PKK)の関係団体と考えている。PKKはトルコ政府と30年間も内戦を戦ってきた。アメリカもトルコも、PKKをテロ集団と認めているが、取材に応じた米軍の退役兵士や現職の兵士たちは、SDFをテロリストとみなすトルコ政府に反対した。

SDFとその政治組織は、女性の権利、言論や宗教の自由、を固く支持している。彼らは教育や、「公平で透明な」司法システムを重視している。「われわれの価値を共有するパートナーを得て、われわれの国家目標を達成できる最初のチャンスを観たのだ。」

トランプが米軍を引き上げ、トルコ軍の侵入を許す106日のニュースを知って、「私は完全に押しつぶされた。」

NYT Oct. 11, 2019

Why Turkey Took the Fight to Syria

By Mevlut Cavusogluthe foreign minister of Turkey

トルコの作戦は、国境地帯のテロリストによる自国への脅威を取り除くために始まった。この作戦は、その地のシリア住民をテロ組織の独裁体制から解放し、シリアの領土の統一と政治的一体性に向けられた脅威を消滅させる。これらによって、シリア難民は安全かつ自発的に帰還することが促されるだろう。

FP OCTOBER 11, 2019

The West Owns Syria’s Disaster

BY JASMIN MUJANOVIĆ

FP OCTOBER 11, 2019

Pentagon Chief: ‘We Are Not Abandoning the Kurds’

BY LARA SELIGMAN

FP OCTOBER 11, 2019

There’s Always a Next Time to Betray the Kurds

BY STEVEN A. COOK

クルド人と組んだのは、双方がほかに組む相手を見出せなかったからだ。トルコ政治の現実が、エルドアンにクルド人を受け入れさせない。

NYT Oct. 11, 2019

Goodbye, America. Goodbye, Freedom Man.

By Bret Stephens

The Guardian, Sun 13 Oct 2019

The Guardian view on Syria and Trump: a disaster, still being made

Editorial

3つの結果が急速に起きる。1.人道危機。13万人の難民が生じている。2.トルコが支援する民兵によるトルコ人活動家の処刑。3.イスラム国と関連する容疑者たちの逃亡。

The Observer, Sun 13 Oct 2019

The Observer view on Syria: a new horror foretold which shames us all

Observer editorial

FP OCTOBER 13, 2019

If We Have to Choose Between Compromise and Genocide, We Will Choose Our People

BY MAZLOUM ABDI

FP OCTOBER 13, 2019

Turkey’s War in Syria Was Not Inevitable

BY SETH J. FRANTZMAN

The Guardian, Mon 14 Oct 2019

Trump is right to take troops out of Syria. Now they must leave Iraq and Afghanistan

Simon Jenkins

ドナルド・トランプがアメリカをシリアから救い出すことは正しい。アメリカの部隊がその国にいる戦略的理由は何もない。彼らがそこに長くいるほど、深みに入るだけだろう。もし彼らが何らかの平和を押し付けようとすれば、彼らはすべての側から攻撃される。トルコとクルドの紛争に外から関わることは間違いだ。

アメリカはシリアから出ていくべきだ。それは、イラク、アフガニスタン、サウジアラビア、湾岸諸国から出ていくしかないのと同じである。

トランプの動機や考えはよくわからない。しかし、彼が保守派とリベラルの双方を怒らせたことは、危険なしるしである。好戦的な介入姿勢は西側に広まっている。しかし、他国民の紛争に介入すべき時は少なく、それをやめる時もむつかしい。米軍が速やかにシリア北部で平和と安寧をもたらせるなら、話は違う。しかし、それは決してないのだ。

どのような介入でも、説明がつくし、同盟は形成される。なかでも最悪の介入は、アサド政権に反対するシリア内戦において、2015年から、反政府勢力に励ましと武器を送ったことだ。イラク北部がカオスに陥って、クルド人が勢力を強め、トルコに圧力がかかったとき、シリアは3つの紛争の悪夢が重なる大会場になった。その中でずっと、アメリカはクルド人を支援した。

最近の2人の大統領、バラク・オバマとトランプはともに、この地域から撤退すべきだと確信していた。しかし、アメリカの軍産複合体が非常に強力に反対した。

今、イスラム国は爆撃されて粉砕し、それ以前の紛争が再現している。トランプはもう十分だと思った。彼がクルド人を見捨て、トルコにシリアへの侵略を許したことは、外交の裏切りを示す年表でも高位に位置する。しかし、権力政治とはそうするものだ。

ヨーロッパの諸帝国が演じたグローバルな警察機能をまねて、アメリカ外交は破滅の天使になった。古代都市も現代都市も破壊され、諸宗教が分断され、武装された。多くの人びと、おそらく数十万人が死んだ。数兆ドルが浪費された。あたかも1989年のソ連の敗北が西側の軍隊をだまして、第三世界の戦場に引き込んだようだ。

もしトランプがこの自滅のサイクルを終わらせるのであれば、それを支持するのがふさわしい。

The Guardian, Mon 14 Oct 2019

The Kurds have faced their own ‘endless war’. And this is a dark new chapter

Giran Ozcan

NYT Oct. 14, 2019

What the World Loses if Turkey Destroys the Syrian Kurds

By Jenna Krajeski

イラクのクルディスタンから流れるティグリス川に沿ってロジャヴァRojavaはある。その境界線は、ある意味で、現実だが空想的なものである。

アメリカが中東地域に介入した数十年間にわたり、クルド人との同盟はしばしば重要な軍事的手段であった。

しかし、トランプが決めた米軍の撤退を、単に軍事同盟に対する裏切りとみなすことは、シリア北部で行われていること、クルド人自治区とその重大な計画を見失うことになる。それは民主主義、平等、安定性についての企てであるから。

クルド人民防衛隊YPGとその女性部隊とが境界線で戦っているが、ロジャヴァのクルド人は民主主義を少なくとも30年にわたって実践してきた。女性とマイノリティに平等な代表権を与え、土地と富を平等に分配し、バランスの取れた司法、シリア北部のエコロジカルな保全も目指している。

トルコ国内でクルド人の運動が大規模に弾圧され、イラク内のクルド人独立運動が後退する中で、シリアのクルド人が運動全体の心臓部になった。彼らはアメリカとともにイスラム国と戦ったが、彼らはロジャヴァのために戦ったのだ。

私が観たのは、ロジャヴァの指針、いわゆる社会契約の文書と、極限状況における成果である。イスラム国は近くに存在した。ある農民は、社会契約を読んだからではなく、禁輸措置の中で隣人たちを助けるために、食糧を分け合った。ロジャヴァの理想は、戦場の圧力と切り離せない。

それはロマンティックな想像を促す。ユートピアという言葉が見出しに使われ、YPGの戦いはスペイン内戦と比較された。YPGがヤジディ教徒をイスラム国の虐殺から守ったとき、彼らは英雄であった。

シリアの外で暮らすクルド人は、特にトルコにおいて、ロジャヴァの理想がクルド人自治の夢に重なった。アメリカがロジャヴァを支援したことで、それはトルコとエルドアン大統領に対する脅威となった。反テロリズムの主張により、エルドアン政権は、2015年、クルド人の支援者たちを投獄し、民主的に選挙で議席を得たクルド人指導者たちを排除した。

昨年、トルコ軍はロジャヴァの一部であるアフリンを制圧した。「彼は、ロジャヴァが示す成果、その承認を恐れたのだ。」 クルド民族会議の外交部長Adem Uzunは語った。

NYT Oct. 14, 2019

God Is Now Trump’s Co-Conspirator

By Paul Krugman

FP OCTOBER 14, 2019

Trump’s Weak Sanctions May Only Help Erdogan

BY KEITH JOHNSON, ELIAS GROLL

The Guardian, Tue 15 Oct 2019

Erdoğan’s calamitous Syrian blunder has finally broken his spell over Turkey

Simon Tisdall

FT October 15, 2019

The Syria debacle: what Trump and Obama have in common

Roula Khalaf

20174月、シリアの街で化学兵器による攻撃が行われた。ドナルド・トランプは子供たちの苦しむ様子や死体の写真に衝撃を受けて、アメリカが中東の戦争に加わることに反対していたが、クルーズミサイルによる攻撃を命じた。彼は柔軟な男である。バシール・アル・アサドを「モンスター」と非難した。

その「モンスター」が、トランプの柔軟な行動で、今、主要な受益者になっている。先週、アメリカ大統領は、だれにも相談せずに、アメリカの小部隊をシリアから撤退させると決めた。クルド人は破滅と生き残りの選択に直面し、アサド政府軍によるトルコ軍からの保護を頼った。

同じ衝動的行為は、12月に、マティス国防長官の辞任をもたらした。かつて、アサドの化学兵器使用に対して攻撃を警告したオバマ大統領の「レッド・ライン」は無意味な大失策に終わった。しかし、トランプはオバマよりも長く、その後、シリア内戦を続けてきた。

トランプがつねに間違っているわけではないし、オバマもそうだった。アメリカは際限ない中東での戦争に疲れている。シリアにおける和平の機会は存在しない。しかし、紛争が燃えつくすのを許すことは、選択肢にならない。必要な撤退であっても、同盟者の保護とカオスの予防を管理できただろう。しかしトランプは、オバマと同じ失敗、敵が埋めるための真空を生み出したのだ。

これによって、アサドが勝利し、それを支持するイランが勝利する。トランプが一貫してイランを苦しめ、最大限の圧力を唱えているにもかかわらず。

ロシアも、このカオスから利益を受ける。モスクワがシリアの仲介者として、政府とクルドの交渉に強い力を発揮する。

また、失策を非難する議会共和党議員の声にあわてたトランプの、トルコに対する経済制裁は、アメリカとトルコの間に新しい紛争を起こした。

自分で創りだした破滅に気づいて、大統領はアメリカのパワーを実感しただろう。たった1000人の米軍の小部隊が、地上において重大な意味を持っている。

FP OCTOBER 15, 2019

The United States Still Needs a Syria Strategy

BY PETER JUUL

The Guardian, Wed 16 Oct 2019

Europe can’t keep shutting its eyes to the disaster in Syria

Natalie Nougayrède

FT October 16, 2019

Donald Trump reminds the west why it liked US leadership

Janan Ganesh

FT October 16, 2019

Trump’s Syria pivot is a boon to enemies of the west

David Gardner

NYT Oct. 16, 2019

The Way Forward in Syria

By Sinan Ulgen

FP OCTOBER 16, 2019

2020 Needed a Foreign-Policy Debate. It Finally Got One.

BY JAMES TRAUB

FP OCTOBER 16, 2019

Kobani Today, Krakow Tomorrow

BY GARVAN WALSHE

FT October 17, 2019

Sanctions are Donald Trump’s new way of war

Philip Stephens

それは新しいアメリカ式の戦争だ。空母も、ステルス戦闘機も、巡航ミサイルも、忘れてよい。それより、ドル、半導体、デジタル・データを考える。そして、制裁し、禁輸し、ブラックリストに載せる。どの国も経済制裁をしばしば科してきた。しかし、ドナルド・トランプは3歩先を行く。アメリカの経済政策は、その安全保障戦略と融合してしまった。

ムニューシン財務長官は、アメリカはトルコによるクルド人への攻撃を止めることができるか、と問われて、簡単に答えた。「われわれはトルコ経済を閉鎖できる。」

アメリカ政府は、ヨーロッパがイランとの核合意を救い出す試みをくじき、同盟諸国に第5世代のデジタル通信ネットワークからファーウェイを外すように求めた。もしアメリカに従わないときは、アメリカの諜報機関へのアクセスを失う、と脅した。

普通は、国外における強制力を直接に行使することはない。西側企業は複雑な、国境を越えるサプライチェーンの中にある。多くの企業がアメリカで操業し、販売している。アメリカのブラックリストに載るとか、ドルへのアクセスを失うようなことはできない。

アメリカが唯一の準備通貨を持ち、圧倒的な経済支配力を持つ限り、いつでも、好きなように強制できる。トランプの世界では、弱者のためだけにルールがある。

FT October 17, 2019

Donald Trump’s Syria pullout is a serious strategic error

FT October 17, 2019

Russia reaps windfalls of Trump’s chaos

Edward Luce

PS Oct 17, 2019

The High Price of Trump’s Great Betrayal

RICHARD N. HAASS

1つの説明は、トランプが「終わりのない戦争」と、終結の時期を決めない軍の駐留とを、混同していることだ。アメリカがシリア北部でしていることは、スマートで効率的だ。クルド人部隊がISISとの戦闘の大部分を担った。アメリカの貢献は程度が抑えられたもので、主に、助言と諜報支援だった。さらに、アメリカがそこにいたことで、トルコ、シリア、ロシア、イランの行動を抑制できた。アメリカ部隊の撤退により、こうした抑制は一夜にして消滅した。

さらに重大なことは、トランプの決定が旧来のアメリカの伝統、孤立主義に道を開くことだ。トランプのスローガン、「アメリカ・ファースト」は、アメリカの世界的な指導力にかかるコストは、そのいかなる利益も大幅に超えている、という考えに基づいている。この見解によれば、資源を海外の冒険主義に支出するより、国内に支出するほうが良いのだ。

そのような議論には魅力があるかもしれないが、アメリカが安全に世界に背を向けることは可能であり、グローバルな秩序が失われても繁栄していける、というのは深刻な間違いである。何千マイルも離れたシリアはアメリカの安全保障にとって重要ではない、とトランプは繰り返し主張した。しかし、911の惨劇からアメリカ人が学んだのは、距離が安全を保障しない、ということだ。伝染病も、気候変動も、選挙を破壊することも、その影響は国境線で止まらない。

年間の防衛予算は7000億ドルであり、諜報、海外援助、外交、核管理などの予算は8000億ドルに達する。しかし、それはGDP比で見て、冷戦期を下回っているし、アメリカ経済は繁栄してきた。アメリカ国内の多くの問題は、予算が不足しているから解決しないのではない。OECDの平均の2倍を支出しても、アメリカ人の寿命は短く、不健康である。支出額より、支出の仕方が重要だ。

現在の政治論争は孤立主義に傾いている。2020年の大統領選挙を目指す民主党の指名争いでも、世論調査でもそうだ。トランプの孤立主義はアメリカ人の多くのムードを反映していることがわかる。トランプが去った後も、アメリカが世界から撤退する、特に、軍事的な関与を避ける傾向は残るだろう。

歴史は、撤退する時期が、しばしば、大きな地政学的ショックで終わったことを示す。そして、軍事力行使の時期が続く。そのようなショックでは、人命も、資源も、大きく失われる傾向がある。

FP OCTOBER 17, 2019

Tentative Syria Cease-Fire Is a Major Win for Turkey

BY LARA SELIGMAN, ELIAS GROLL, ROBBIE GRAMER

FP OCTOBER 17, 2019

Assad Is Now Syria’s Best-Case Scenario

BY STEPHEN M. WALT

もっと大きな絵を見失ってはならない。アメリカのシリア政策は、長年、失敗であった。戦略には矛盾があり、アメリカが駐留しても、成果は期待できない。アサドBashar al-Assad体制が北部を再び支配するだろう。アサドは、自国民を50万人も殺害し、数百万人の難民を出した戦争犯罪者である。完全な世界なら、ダマスカスで政権に就くより、ハーグの国際司法裁判所で裁かれるはずだ。しかし、われわれは完全な世界に暮らすのではなく、この恐るべき世界で最善のことをするしかない。

アメリカがクルド人の武装勢力、SDFに約束したことは、決して永久の約束でも、無条件の者でもない、ということを知ることから始めよう。それは戦術的な同盟、条件付きの、イスラム国家と共同で戦う同盟であった。イスラム国が制圧されれば、クルド人との関係は終わるべきものだ。これまで一緒に戦った仲間を置き去りにして、アメリカ兵が感じる個人的な苦悩は理解できるが、それは遅かれ早かれ起きることだった。優れた大統領なら、もっと規律正しく行っただろう。

1.なぜクルド人はこれほど悲惨な状況にあるのか? それは彼らが国家を持たないからだ。近い将来、持てる見込みもない。アメリカ政府はクルド人国家を決して支持しない。なぜならシリア、イラク、イラン、トルコの一部地域にクルド人は暮らしているから。その独立は地域全体の戦争になる。そのせいで、SDFは既存の地域国家の支配下で生きるしかない。

2.トルコはSDFを深刻な脅威とみなしている。クルド人が事実上の自治区を得たシリア北部に、トルコは機会を見て侵攻し、それを滅ぼすだろう。アメリカの部隊がいることで、その滅亡は遅らせたが、長期の解決策をもたらすわけではなかった。

3.あるときから、アサド体制がシリア内戦に勝利することは確実になった。その結果に道徳的な嫌悪を示すことはできても、それは政策ではない。アサド体制が安定することは、多くの問題を解決する。クルドの自治区に対するエルドアンの不安。イスラム国。ロシアとイランの影響拡大。内戦状態を終結した後も影響力を確保するためにロシアとイランが多くの資源を使う。

アメリカがシリアから撤退することを、誇りにすることではないが、悲観すべきでもない。未来の前進にドアを開くことだから。1975年、ベトナムからの撤退がそうだった。

アメリカの失策で最も利益を受けているのは、ロシアでもイランでもなく、中国だ。アメリカは数兆ドルを不必要な戦争とロマンチックな十字軍に浪費している。中国は静かに、外交関係を拡大し、イランなどの諸国に近づき、国内経済を強化している。

私はアサドの勝利を喜んでいない。しかし、彼の体制を受け入れることが最もひどくない選択肢である。私はトランプの混乱した処理方法を正しいものと認めていない。

アメリカがこうした苦しい妥協を避けたいなら、期限のつかない安全保障への関与や、パートナーへの裏切りを望まないなら、どこでその資源と名誉を配置するべきか、慎重に考えることだ。それがアメリカの安全と繁栄にとって真に死活的な重要性を持つときだけである。

FP OCTOBER 17, 2019

Why is Turkey Fighting Syria’s Kurds?

BY CAMERON ABADI


 ノーベル平和賞

The Guardian, Fri 11 Oct 2019

The Guardian view on Abiy Ahmed’s Nobel peace prize: so far, so good

Editorial

エチオピア首相、アビー・アーメドAbiy Ahmedにノーベル平和賞が贈られた。

ノーベル平和賞の受賞者にはさまざまな評価がある。バラク・オバマも、ヘンリー・キッシンジャーも受賞した。1991年に受賞したアウン・サン・スー・チーは、その後、ミャンマーの軍政とロヒンギャ難民に関して、その姿勢を問われ、ノーベル平和賞をはく奪する声が上がった。

アビーは、首相となってから目覚ましい成果を上げた。特に、20年近く続いた隣国エリトリアとの国境紛争を終わらせた。非常に抑圧的な国内体制についても、実効ある改革を進めた。彼の閣僚の半分は女性である。選挙管理委員会のトップは、反体制の元亡命者である。反対政党の禁止令は廃止された。多数の政治犯が釈放され、汚職や人権侵害で高官たちが逮捕された。

しかし、これほど急激で、根本的な改革は、支持を高めるとともに、必ず、多くの敵を作る。複雑な制度の解体は予想外の結果も引き起こす。野蛮な秘密警察を全面的に改革したことで、ある程度、国中のエスニック紛争が増加した。改革が制度化されるのはこれからだ。来年、自由で公平な選挙を約束しているが、改革の進め方は明確に示されていない。

支持者たちは、ノーベル平和賞のオーラが改革の深化に助けとなることを望む。しかし、個人のカリスマに頼るのは危険である。

ノーベル委員会はアフリカに希望を広げてほしいと願う。アビーがそれらの期待に応えられるか、まだわからない。

FT October 17, 2019

Ethiopia’s path to prosperity is opening up under Abiy Ahmed

Paul Collier

アビーの新政府は、戦前であるが限界に達した戦略を引き継いで、出発しようとしている。アフリカでは珍しく、エチオピアの投資率は高く、GDP38%である。投資はエネルギーと輸送インフラにもっぱら集中しており、これなしには中所得の水準は達成できない。

水力発電、国営航空、鉄道、それは新しい諸都市を活気のあふれた環境に結びつけるだろう。アフリカの急速な都市化は避けられない。生産的でない巨大なスラムを作らないことが重要だ。

民間の知恵を入れて、高度な経験を持つ帰還難民も経営チームに招き入れている。為替市場の自由化や金融抑圧の緩和も進めるべきだ。通信市場の自由化は刺激になるだろう。

エチオピアは重要な局面にある。膨大なインフラ投資を、国内貯蓄と援助で賄ってきた。後者の多くは中国からの融資である。しかし、インフラが完成する前に、その限界に達しそうだ。かつてフランスが1947年にそうだった。IMFIBRDが、エチオピアのインフラ整備に融資を行うべきだ。

アフリカにおける地政学的な安定化にも、経済発展の希望にも、エチオピアの成功は欠かせない。かつて韓国がそうであったように。


 IMF/世銀の年次総会

FT October 11, 2019

Kristalina Georgieva’s IMF challenge

Kevin P Gallagher and Haihong Gao

PS Oct 11, 2019

How to Support Developing Countries in Energy Transition

KENNETH ROGOFF

The Guardian, Thu 17 Oct 2019

The Guardian view on the IMF and World Bank: back a global Green New Deal

Editorial

IMF/世銀の75回目の年次総会は、沈鬱なムードである。世界の成長は減速し、マイナス金利はいつまでも続き、無謀な債務が累積する。気候変動は進み続け、気候の大災害が新しい金融危機の引き金になるかもしれない。

最も深刻な憂鬱の源は、国際協調を組織する国際機関が、さまざまな協調の破壊行為を傍観していることだ。グローバリゼーションが逆転し始めているのかもしれない。

これらの国際機関に新しい使命を与えるときだ。ポピュリズムがわれわれに教えたのは、平等を欠いた成長は続けられない、ということだ。国連とともに、貧困の解消、気候変動の抑制、グローバル・グリーン・ニューディールに取り組むべきだ。

FT October 18, 2019

Central banks are tuning in to climate change

Gillian Tett


 不況とマクロ経済政策

PS Oct 11, 2019

The Insanity of Austerity

ISABEL ORTIZ , MATTHEW CUMMINS

FT October 12, 2019

Global economy is at risk from a monetary policy black hole

Lawrence Summers

IMFの新しいマネージング・ディレクターであるKristalina Georgievaの最初の演説を、世界の金融界は待っている。IMFは、2年前に比べて、世界経済の成長予測を大幅に引き下げた。

ヨーロッパと日本の中央銀行はマイナス金利を受け入れ、アメリカ連銀も金利の一層の引き下げが予想されている。15兆ドルもの債権がマイナスの利回りで取引されている。

財政・金融政策を緩和しても、工業化した世界の中央銀行は、10年間も、そのインフレ目標を達成できていない。ヨーロッパと日本の金融政策はブラックホールになっている。政策金利がプラスになる見通しがない。アメリカが同じブラックホールに入るのは、次の不況の後だろう。リスクのない貯蓄はマイナス金利となり、成長もインフレも目標を達成できない。

1970年代の高いインフレ率が金融政策をリセットしたように、新しい思考が求められる。

現在のマクロ経済政策の課題は、私が数年前に唱えた、長期停滞、慢性的な需要不足、である。世界経済の民間投資需要は、明らかに、マイナス金利でも民間貯蓄を吸収できない。政策の目標は、景気循環をならすことでも、浪費をやめさせることでもない。グローバルな需要が、十分に、そして、諸国の間にも合理的に行き渡ることである。

まず、貿易戦争をやめるべきだ。それはゼロ・サム・ゲームではない。需要を減らすだけで、だれも需要を増やさない、ネガティブ・サム・ゲームである。

デフレ・スパイラルの破壊的効果を恐れるとしても、これ以上の金融緩和は効果がなく、銀行や、その他の金融仲介の健全性を破壊する。

最も重要なことは、政府が財政政策の考え方を改めることだ。国債の増加や民間債務の政府保証は、貯蓄を吸収するために必要だ。ゼロ金利の世界では、健全な債務水準が変わってくる。慢性的な黒字を出す政府は、世界経済の支持を損なうものであるから、国際審査の対象にするべきだ。

賦課方式の年金を増やし、民間の環境保護投資を政府保証し、設備の更新を加速する規制の変更、発展途上国の投資を促す環境整備が考えられる。

問題を解決するために、世界の金融関係者が正しい処方箋と正しい理解を受け入れることだ。

FT October 15, 2019

Fed awaits answers on liquidity strains

Philip Stafford in London

VOX 15 October 2019

Monetary policy should prevent deflation and avoid a bad equilibrium

Olli Rehn


(後半へ続く)