IPEの果樹園2019

今週のReview

10/14-19

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ロシアのプロパガンダ ・・・香港への懲罰 ・・・マイナス金利 ・・・スウェーデンの少女と学校ストライキ ・・・ゼレンスキーとプーチン ・・・ジョンソンとアイルランド ・・・クマのプーさんを検閲する ・・・米軍のシリア撤退 ・・・新しい民主主義を

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 ロシアのプロパガンダ

NYT Oct. 5, 2019

Rudy Giuliani Welcomes You To Eastern Europe

By Peter Pomerantsev

ロシアのプロパガンダの多くが伝えるのは、ロシアを進歩の見本とするようなメッセージではない。そうではなく、西側の政治もプーチンの政治と同じように腐敗している、というものだ。われわれには汚職があるけれど、西側もそうだ。われわれの民主主義は操作されているが、彼らの民主主義のそうだ。そう主張する。

ドナルド・トランプ大統領がウクライナと取引したことに絡むスキャンダルは、クレムリンが神様からもらった贈り物だ。アメリカ大統領候補の息子が、父親の名声を利用して、ウクライナのガス会社の重役になり、月に5万ドルの報酬を得ていた,と疑われている。アメリカ大統領がギャングのように,敵を倒す情報を求めているのだ.ロシアとウクライナの汚職にまみれた世界とアメリカ政治は一つの織物のようになって,トランプ政権がソ連崩壊後の略奪政治教本に従っている,という。クレムリンでもこれ以上に描けないほどだ.

プーチン時代の初期に,メディアを操作した目的は,でっち上げた真実を広めることではなかった.むしろ,疑いや混乱の種をまいたのだ.こ陰謀が無限に絡まる世界において,自分がいくらうまくやろう,何かを変えようとしても無駄である,と思わせた.それは,理想化された共産主義体制のイデオロギーが粉砕された後の世界に代わる,何も信じることができない陰謀論の世界である.

プーチンは,この世界が法にも事実にも縛られないことを,よく理解していた.国際テレビに出たロシアの大統領は,クリミアの併合が進む中で,にやりと笑って答えた.クリミア半島にロシア兵はいない.住民がロシア兵の服を着たのだろう,と.

ソ連のプロパガンダは,嘘を真実に見せようとした.今,クレムリンは,エボラやジカ熱が流行したのはアメリカの陰謀だ,とネット上で示す.それを信じるとは思っていない.彼らの目的は混乱させることだ.

プーチンの2000年の大統領選挙で上級戦略官であったGleb Pavlovskyは,共産主義も民主的資本主義も,ともに崩壊した世界を描いた.そこでは旧来の社会的役割や政治カテゴリーが無意味になった.勝つためには,互いに怨嗟を抱く,異なる利益集団を多く集めねばならなかった.彼らは共通して1990年代を敗北と感じており,「多数派」や「人民」を構成するという曖昧な感覚で団結した.数十年たって,同様に,トランプの選挙運動は,「取り残された」と感じる異なる利益集団を,「エスタブリッシュメント」に対する曖昧な反感で団結させた.

プーチンは,巧妙に,エリートたちの腐敗を一掃する,と称して,旧オリガークたちを追放し,自分の腐敗したエリートに入れ替えたのだ.

「ソ連は間違いなく敗北した.しかしその後,現れたのは,ほかに選択肢のない,西側の奇妙なユートピアであった.それを管理した経済官僚たちは,間違いを犯さないはずだった.しかし,崩壊したのだ.」

未来に向けたイデオロギーがなければ,進歩はない.一貫した未来のビジョンはなく,その代わりに,ノスタルジア,陰謀論,が広がる.希望はなく,誰もが自分と同じように腐敗している.

われわれは皆,ソ連後の世界に生きている.


 香港への懲罰

FT October 6, 2019

Beijing will have its revenge on Hong Kong

Jamil Anderlini

北京は復讐のときを待っている。

平和的なデモと暴力的な抗議が続く中で、警察と政府は事態を掌握することに苦労している。中国政府の姿勢は、おおむね、和解を呼びかけるものだ。しかし、デモが鎮静化して、日常が戻れば、北京はその清算をするだろう。香港が再び「アジアの世界都市」に戻ることはない。

デモ隊のニヒリスティックな姿勢は印象的である。

支配する側の共産党は、2014年の雨傘革命から教訓を学んだ。香港中心部を79日間占拠した運動にもかかわらず、普通選挙の実施は無視され、北京は香港の自由と権利を侵食し始めた。それらは中華人民共和国のどこでも認められていないものだった。

雨傘革命の指導者たちは起訴され、後に、もっと重い罪に処せられて、投獄された。間違った政治的見解を持つ議員は立法会から追放された。独立派の政党は禁止され、その政党の創設者と議論して記事を書いたFTの編集者も香港を追放された。

北京は、香港と本土との経済統合を加速した。物質的な豊かさが反政府的な都市の雰囲気を変えると考えたからだ。しかし、それは結局、1989年の天安門事件以来、最悪の反乱となった。

北京が導く結論は、このますます全体主義的になる権威主義体制にとって、唯一のものだ。・・・反対派に対してソフトに応じ過ぎた。適当な時が来れば、香港を無慈悲に懲罰しなければならない。

共産党の幹部は、香港を貯水槽とみなす。必要なことは、悪い「魚」を取り除き、良い「魚」に代えることだ。彼らは国際金融センターを維持することは望んだ。しかし、香港だけが持つ自由や権利は急速に奪った。もし投票権について習近平主席が妥協すれば、深圳や上海も求めるのではないか? もし厳格に処罰しなければ、他の地域の反政府派はそれを称賛するより、北京の弱さを見るだろう。

香港人たちはそれを本能的に知っている。だから彼らは日常生活に静かに戻ることはないだろう。双方が後ろに引かないなら、暴力のエスカレートとともに、人民解放軍が香港に入る可能性は日々高まってくる。警察幹部は、広東語を話す地元警察官の4分の1ほどが、任務のない日は、平和的な抗議デモに参加する、と言った。しかし、北京語を話す軍が北部から来れば、多くの警察官は反政府派に合流するだろう。

このシナリオにより、北京は香港を処罰する時期を自由に選ぶことができない。しかし、報復は来る。


 マイナス金利

FT October 4, 2019

Negative rates are tarnishing central bankers’ halos

Merryn Somerset Webb

前の世界金融危機はだれが引き起こしたのか? まず挙げられるのは、「銀行」だ。そして、だれであれ、サブプライム・モーゲージやリスクに賭けた者たちだ。

専門家でなければ、金融規制や中央銀行の金利は責めない。この10年間、彼らは世界経済の救済者を演じてきた。政治が財政刺激策を取らないので、中央銀行が何でもやって、世界経済に低利融資をまき散らした。ECBのドラギはユーロを救った、と。

しかし、彼らのやった量的緩和QEは、資産価格を人為的に引き上げる分配政策でもあった。金融政策と財政政策とは混じり合う。さらに、マイナス金利だ。

もはや問題を生じていることは明らかだ。スウェーデン、スイス、その後はECBが金利をマイナスにした。それは銀行を苦しめ、それゆえ経済を苦しめている。銀行の株価は顕著に下落している。預金に対して手数料を取るなら、マイナス金利は資産を一種の負債に変えることになる。富裕層の預金や企業は銀行を離れてしまう。自分の現金が減ってしまうことを知るのは衝撃だ。

マイナス金利は年金や保険会社の安定性も破壊した。そして、老後の暮らしに、もっと多くの貯蓄が必要になった、と考える。

極端な金融緩和の問題は、すぐに見えてこない。発展した社会で政府と民間の債務が累積している。しかも、その質が低下する。金融緩和が終わるときに、問題が明らかになる。しかし、中央銀行家たちは、次の不況が迫る中で、さらに緩和することを話し合っている。

日本とユーロ圏の外では、まだ金利を下げる余地がある。さまざまな形でヘリコプター・マネーの実施も検討されている。

しかし、これまでの複雑な、退屈する、金融政策の説明と違って、マイナス金利は、だれでもそれは不自然だと感じている。資本配分をゆがめ、債務の水準を高めて、次の危機を招くなら、その危険は自分におよぶ。政治から独立した良識ある人々、という考えは吹き飛ぶだろう。

逆転することも、制御することもできない実験を始めた、危険な、創造性を誇る人々。2000年代の最初の数年に、銀行家たちがそうだった。


 スウェーデンの少女と学校ストライキ

PS Oct 7, 2019

Greta Thunberg’s Moment

PETER SINGER

スウェーデンの15歳の少女、Greta Thunbergが、私のこれまで聞いた4分間のスピーチで最も強力な言葉から始めた。「これはぜんぶ間違っている。」

先月の国連環境行動サミットで発言した彼女の背後には、推定600万人の環境ストライキ週間と行進への参加者がいた。

昨年、ロンドンの「反抗声明」で始まった“Extinction Rebellion”「絶滅からの反抗」は、市民的不服従を唱えている。市民的不服従は、最初、マハトマ・ガンディーが南アフリカで、その後はインドで始めた。アメリカでは、マーチン・ルーサー・キングJr.が、人種隔離に反対する闘争で用いた。市民的不服従は他の抵抗運動でも行使され、ベトナム反戦を推進した。

各国政府は温暖化ガスの排出削減を怠る姿勢は、イギリスによるインドの支配、アフリカ系アメリカ人に関する平等な権利の否定、あるいは、ベトナム戦争の劣るものではない。それがもたらす損害の規模は、むしろはるかに大きいだろう。

Thunbergがスウェーデン議会の前で、一人で(スウェーデン語で“School Strike for Climate”と書いた)プラカードを持って立ったとき、だれもこの少女が数百万の若者から支持される運動を始めるとは思わなかった。それが世界の指導者たちに対する演説となった。事態が切迫し、コースを急激に転換する必要性を考えれば、こうした革新的なアイデアがもっと必要だ。


 ゼレンスキーとプーチン

PS Oct 4, 2019

Russia Is a Strategist, Not a Spoiler

ANA PALACIO

ウクライナ大統領Volodymyr Zelenskyは、2014年にロシアが分離派を支援し、掌握している2つの地区Luhansk and Donetskで選挙を行う、という合意を支持した。その合意には、この地域に特別な自治権を認める条件が含まれている。これは、ウクライナが国内の紛争を鎮静化させるだけでなく、動揺する世界秩序にとって重要な意味を持つ。

サウジアラビアの巨大石油施設に対するイランの大胆な攻撃から、アメリカにおけるトランプ大統領の弾劾審査開始まで、先月の不穏な事態は国際秩序を震撼させた。サウジアラビアとイランは中東塩蹴る支配権を争い、国際秩序内の地位を中国は高め続けている。ヨーロッパ、ロシア、アメリカも、グローバルな役割を転換しつつある。

ロシアは、2014年にウクライナに侵攻し、クリミアを違法に併合した。プーチンは国際秩序の破壊者である、と言われる。結局、ロシアには秩序を混乱させる力、せいぜい影響圏を保持する力しかなく、グローバルな強国にはなれないのだ、と。シリア、ベネズエラ、アフリカでもそうだ。

しかし今、ロシアは優れたグローバルなパワー・ブローカーである。ウクライナで、Zelenskyは、いわゆるSteinmeier方式を受け入れた。ロシアが欧米との関係を正常化する重要な一歩である。同様にシリアでも、先月、政府、市民社会、反政府派から、国連は150人の代表を集めた委員会の新憲法合意を承認した。ロシアが主催した2018年の和平会議で推進したものだ。シリアが安定化した後も、ロシアは空軍・海軍の基地を拡大する。

他方、アメリカは、トランプが好戦的なツイートを発信するばかりで、イランに対する具体的な軍事行動は取らない。制裁の追加や、小規模の増派、サウジアラビアやアラブ首長国連邦への武器売却である。

対照的に、ロシアは中東における安定性の保証人であることを示した。慎重に犯人を決めず、すべての関係者と協力する姿勢を示した。中東諸国が求めるロシア製のドローン撃退システムを売ることも公表した。この地域におけるアメリカの役割を乗っ取るものである。これは戦略的アプローチであって、破壊者ではない。


 ジョンソンとアイルランド

The Guardian, Sat 5 Oct 2019

The EU was crucial to securing peace in Ireland. This plan puts it in peril

Tony Blair

およそ100年間も、アイルランドは独立を求めて実現した。しかし、北部では、統一派、プロテスタントの6つのカウンティがUKに残った。それはつねに不安な情勢にあった。なぜなら、北部人口の多数はカトリック、ナショナリストであり、南部はプロテスタントが少数派であったからだ。

平和を維持するうえで、南北の境界を開放しておくことは重要だった。境界周辺の家族は1日に何度も行き来して生活していた。

1973年に国民投票をしたときは、UKEU加盟に積極的であった。アイルランドは境界を開放しておくために、単一市場に加わった。

北アイルランドではナショナリスト、共和主義者の感情が高まり、1960年代末には暴力が爆発していた。それはひどい戦争状態だった。

The Good Friday Agreementもしくはベルファスト合意は、19984月に交渉されたが、ヨーロッパは2つの意味で重要な役割を果たした。まず、UKとアイルランドが双方の抱く古い遺恨を退けて、ヨーロッパで協力すること。ヨーロッパとの貿易は島の経済にとって重要だった。

共通の未来は、境界線を低くした。そして、そこにおいて合意の核心部が成り立ったのだ。北アイルランドは、多数派がUKに残りたいと願う限り、UKの一部にとどまる。しかし、それと交換に、ナショナリストたちの希望を受け入れ、アイルランド統一が実現されることを認める。

境界線が開放されていなければ、この合意は成り立たない。ジョンソンの解決案は、統一派との約束を破る。その代わりに、彼らに拒否権を与えるものだ。単一市場ではなくなるが、北アイルランドとUKは関税同盟になる、という。こうしたつぎはぎは、慎重に練られた和平の構造を破壊するだろう。

また、これはイギリスBritainにとっても悪い取引だ。ジョンソンが進めるハードBrexitでは、将来も長い交渉を続けるしかない。そのたびに、閣僚たちは課税や規制に関するヨーロッパとの競争を主張する。

Brexitを解決する、たった1つの道がある。それは国民投票だ。この3年間にわたる経験、知識、政府の特殊な立場を前提に、国民に問うことである。


 クマのプーさんを検閲する

NYT Oct. 9, 2019

Let’s Not Take Cues From a Country That Bans Winnie the Pooh

By Nicholas Kristof

クマのプーさんは、習近平に似ているため、批評家たちの批判で別名として使用された。中国は検閲により、ネットや映画館からクマのプーさんを追放した。それだけでなく、西側、アメリカ国内にも検閲が及んでいる。

アメリカのバスケットボール・チーム、the Houston Rocketsのジェネラル・マネージャーDaryl Moreyが、香港の民主化デモに共感する意見を示したことに、中国はヒステリックに反応した。

中国はまた、アメリカン・エアラインが台湾を中国の一部として扱うように強制し、ダライ・ラマを引用したメルセデス・ベンツが謝罪するまで嫌がらせをした。

しかし、待てよ。子供の死亡率は、ワシントンDCより、北京の方が低い。中国では、毎週1つ、新しい大学が設立されてきた。上海のすばらしい公立学校は、われわれに羞恥を覚えさせるだろう。

中国の姿勢には反対しなければならないものが多くある。たとえば、100万人のイスラム教徒を収容所に閉じ込めている。しかし、中国が貧困を抜け出す人々を、いかなる国の歴史にもない規模で、助けたことを称賛する。

すくなくとも、中国に対する対立した見方は、常に、続くだろう。

インターネット、信仰、香港の抗議デモ、クマのプーさん、習は不安を感じている。情報が反響効果により、彼のプロパガンダを脅かすのだ。

われわれはこの点で、3つのレバレッジを使って改善を求めるべきだ。・・・1.中国が外国のニュースやソーシャルメディアをブロックしている問題を、公式に協議する。2.アメリカは、中国の市民が検閲システムを乗り越える技術を、開発・普及させる。3.アメリカの諜報機関は、習近平の家族が収賄によって資産を築いていることについて、情報収集する。


 米軍のシリア撤退

FT October 8, 2019

Donald Trump’s troop withdrawal leaves Syria a ticking time bomb

David Gardner

トランプ自身の失策の多くと比べても、アメリカ軍をシリアから撤退させて、北東部を支配するクルド人部隊にトルコが攻撃することに青信号を示した決定は、あからさまなものである。

エルドアンとの電話で、トランプは、トルコの大統領が国境沿いに軍事的な「緩衝地帯」を作る計画を進めるように、と語った。

この決定は、中東からアメリカ軍が引き上げることで生じる真空地帯へ、ロシア、イラン、トルコが一気に踏み込むことを意味する。そしてまた、アメリカ軍とクルド人部隊によってISIS掃討に成功したユーフラテス渓谷が、再び戦火に包まれることを、そして、クルド人部隊や彼らの組織がシリアのアサド、トルコのエルドアンの手によって抹殺されることを意味する。


 新しい民主主義を

NYT Oct. 8, 2019

We Need a Fourth Branch of Government

By George A. Papandreou

古代、政治は、自分たちの運命を支配することができる、という信念から生まれた。そして民主主義は、公共的な意思決定に、人びとが発言することを保証する、継続的な、革新の試みとなった。

現在、われわれはパラドクスを生きている。人類は莫大な富と、グローバルな共通の善に向けた解決策に役立つ技術を手に入れた。しかし、膨大な人びとが無力な状態で、困窮し、安全さえも失って苦しんでいる。協力すれば、世界を作り変えられる。しかし、残念なことに、その力は少数者の手に握られている。

富とパワーに大きな格差を生じている。メディアと政治は、資金を過度に集中している。民主的な制度は占領され、人びとの意志は譲歩させられた。個人も、コミュニティも、名も知らぬ諸勢力の膨張に飲み込まれたと感じている。

2009-2011年、私はギリシャ首相として、大幅な政府赤字と債務を削減するため、税の徴収を改善しようとした。しかし投資家たちは、グローバルな金融システムを利用して、資本を国境の外へ移し、ギリシャの資金を枯渇させた。

グローバル化した企業の恣意的パワーは、民主主義という基本的概念、法の前の平等、を破壊する。

グローバル・パワーの猛威は、Brexit活動家が唱えたようなナショナリストのスローガン“take back control”を広めてしまった。しかし、Joseph Stiglitzが新著で書いたように、真の対立は違う。「一方には労働者と消費者、発展途上国と開発国の両方にいる99%の人々。他方に、企業の利益である。」 新しいグローバル・エコノミーの運営には、新しい制度が必要だ。

反動政治、権威主義的指導者を選べば、彼らは壁を築き、孤立主義と人種差別を広める。パワーに飢えたデマゴーグがわれわれを分断し、市民社会は衰弱し、最悪の解決策をもたらす。

偽の約束ではなく、われわれは民主的な制度を再建し、深化させることで、人びとにパワーを与え、グローバル資本主義を手なずけ、不平等を一掃して、国際的な技術管理社会の支配を確立する。

それが政府の(3権に加えた)第4部である。ここにはすべての市民が、企業重役、議会代議士、司法幹部たちと一緒に、参加する。すべての法律や政策は、まず、ここでe-デモクラシーの審議を経る。透明性の確保されたアルゴリズムが、その議論や情報交換に、AIを駆使して貢献する。インターネット時代のアゴラが、市民の立場を公平に集約し、多様な、真のアイデンティティの下で、合意形成を促す。

専門家たちのフォーラムが情報を与えるだろう。公共テレビ・ニュース・ラジオ・ポッドキャストが意見交換の質を改善する。学校が参加を促す。James Fishkinが唱えたような、いわゆる工夫された投票制で意思決定を改善する。

政府の第4部は、ローカルな社会で、市民たちがコアとなる。学校教育は全面的に改革され、エスニック、人種、社会経済的格差を乗り越えるために、教室はグローバル市民を創りだす。公共の、地球規模の善をもたらす、民主的文化において、新しいパワーが乱用や迫害ではなく、治癒のために行使される。

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The Economist September 28th 2019

The promise and the perils of impeachment

Twaddledee: The reckoning

The future of the office: Work in progress

Impeachment: telephone justice

Immigration to South Korea: Peninsular draw

Poverty in America: Poor America

Ukraine: Hope and fear

Corporate tax: In the dock

Free exchange: Repo uh oh

(コメント) 英米の政治は,にわかに危機の水準を引き上げたように見えた.ジョンソンは,最高裁判所から違法と断言され,トランプも弾劾裁判を始める審査が始まったからだ.その結果,政治の混乱がやっと終わるのだ,とは,だれも思っていない.記事は,Brexitを政治に広まるウィルスと見なしている.

企業はグローバルに課税を回避し,金融市場は最後の貸手による救済によっても,その崩壊をくい止められない.まだ,私たちは空中を自由に飛べるわけではないようだ.

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IPEの想像力 10/14/19

民主主義とは何か? ・・・朝のゼミに集まった学生たちに、考えてほしいと思いました。

大学の教職員組合と理事会の話、学生の自治会がなくなった話をしました。・・・

参院選の翌日にテレビは「吉本興業社長記者会見」ばかりを中継した、社会の脱政治化、民主主義による権力の批判と制御を眠らせる、国民意識の「全体主義」化、そういった言葉が並ぶ、集会を呼びかける文句を黒板に書いて。

ダールによれば、それは集団における意思決定に関する1つの規準である。

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TVドラマで人気者になった喜劇役者Volodymyr Zelenskyが,ウクライナ大統領選挙に勝利した,というニュースに,ポピュリズムの末路を憂慮したのは最近のことでした.ゼレンスキーは、有権者に多くの期待を抱かせたことで,今は政権として応じる必要があるのです.

特に,ウクライナの東部を占拠しているロシアと,交渉によって,停戦・和平の条件を見いだす必要があります.すでに13000人の死者,150万人の難民が出ているということです.和平のためには,ロシアに劣らず腐敗したウクライナ政府・経済について、改革を進め,国民や西側の支持を固めなければなりません.

「ウクライナ:希望と不安」というThe Economistの記事に,こんな記述があります.

・・・この戦争で,プーチンは,ウクライナのナショナリストによる軍事政権からロシア人を守る,と主張した.ウクライナの前大統領も,戦争を選挙に利用した.しかし、ロシア語圏出身のユダヤ人であるゼレンスキーが大統領になって,戦争の構図が変化した.それは,キエフのファシストたちを排除する,というクレムリンの説明に合わない.ゼレンスキーだけでなく,プーチンも国民の不満が高まっていることを心配する.戦争より,年金問題,経済停滞が深刻だ.

トランプもマクロンも、異なる理由で,ロシアとの関係正常化をG7で求めた.トランプにとって,ウクライナ問題はロシアとの関係改善を邪魔している.マクロンは,ヨーロッパの新しい安全保障アーキテクチャを構想するとき,ロシアを排除できない,と主張する.

合意では,プーチンが占拠した土地,ドンバスに、ウクライナ憲法で特別な地位を保障するよう求めた.(カシミールを思い出すかもしれない.) モスクワはこの土地に影響力を残し,キエフに対して圧力をかける.他方,ウクライナはドンバスの地方選挙と大幅な自治の可能性を認める.ただし,選挙は自由で,公正であること.そのために,ロシアはドンバスから軍備を撤収し,住民が軍事的な脅迫から解放される必要がある.ドンバスから逃れた人々にも投票の権利が認められねばならない.また,ロシアとの国境は、ウクライナが管理する.

この合意が実行されるには,ウクライナと西側のロシアに対する十分な政治的・軍事的圧力が要るだろう。ゼレンスキーは、ウクライナ国内に銀行処理問題を抱えている。特に、ゼレンスキーのTVドラマを放映し、選挙に資金とスタッフを与えた大富豪Igor Kolomoiskyは、ロンドンに逃れている。彼の銀行は、巨大なネズミ講式の資金集めで55億ドルを略奪した、と告発されている。・・・

同じように、シリアの和平協議で、アサドを支援した主要3か国、ロシア、イラン、トルコが取引するのは、アメリカが軍を引き上げた後の、安全保障の枠組みです。そのエルドアンが、シリア北部に侵攻してクルド人の支配地域を制圧することに、トランプは電話で合意を与え、独仏政府は反対しました。それに対し、エルドアンは、シリア難民300万人をヨーロッパに送るぞ、と脅したのです。

サウジアラビアの石油施設が大規模に破壊されてから、中東の秩序は流動化し、アメリカもEUも、地域の安全保障を考え直す必要が明らかになっています。軍事的な均衡が成立することで、厳しい限界の中でも、クルド人や小国の生きる余地が生まれます。

多くの死者と難民を出しながら、このようにしか国際秩序を改変できないのは、彼らだけの失敗ではありません。

私たちは、権力者による弾圧や拘束、死と向き合うことがなければ、民主主義を考えることはないのだ、と思いました。

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