IPEの果樹園2019
今週のReview
7/22-27
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生体認証型監視社会 ・・・駐米大使の辞任 ・・・中央銀行の失敗 ・・・日韓関係の悪化 ・・・トランプの人種戦争 ・・・ジョンソンのケーキ主義 ・・・Libra論争 ・・・関税と中国の減速 ・・・アジアの繁栄の終わり ・・・ジョンソンのBrexit ・・・アイルランドへ帰る
[長いReview]
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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 生体認証型監視社会
NYT July 11, 2019
Stop Surveillance Humanitarianism
By Mark
Latonero
国連世界食糧計画と、中心部を支配下に置くフーシ派反政府勢力との話し合いは行き詰まり、イエメンの数十万人が命の危険にさらされている。
食料が反政府勢力にわたっているという報告を受けて、援助プログラムはフーシ派担当者に、食料の配給に際して、IRISとデジタル指紋登録のような生体認証を行って、食糧の横流しを監視することを求めているからだ。
フーシ派は食糧の配布を阻止し、生体認証を諜報活動とみなして、援助受給者の個人データを彼らにもアクセスできるように求めている。
これが、監視型人道支援である。技術的な解決策は、政治問題を深く内在させる。
● 香港デモ
FP JULY 16, 2019
Ich Bin Ein Hong Konger
BY
MELINDA LIU
香港の民主化デモは、九龍半島西部の高速鉄道ステーションに集まって、旅行者にデモへの支持を求め、中国本土に「革命を輸出」しようとした。デモ隊の要求は、普通選挙権に向かっている。
香港の民主化デモは、かつてのベルリンの壁に似て、アメリカ大統領が「私も香港市民である」と演説する瞬間を待っている。しかし、トランプは違う。
北京は、香港の若い世代を新しい巨大プロジェクト、珠江デルタ湾岸開発、で魅了しようとしている。それは、より民主化されて繁栄する台湾を本土に吸収する呼び水だ。
● 駐米大使の辞任
FT July 13, 2019
US-UK relations: strains in the ‘greatest
alliance’
Gideon
Rachman in London
4週間前に国賓としてイギリスを訪問していたドナルド・トランプは、米英関係を「世界でこれまで知られたもっとも偉大な関係だ」と称賛した。
しかし木曜日、アメリカ大統領はこの「特別な関係」に前例のない攻撃を加えて、ワシントンに駐在するイギリス大使Kim Darrochを辞めさせた。
このショックを1956年のスエズ危機にたとえる意見がある。そのときアメリカはUKに圧力をかけて、エジプトへの軍事力行使をやめさせた。しかし、Thomas Wright(the Brookings Institution)は、「対立の背景に戦略的理由がないだけ、今回の衝撃はスエズ危機を上回る」という。Darroch問題とは、単に大使が、アメリカの政府を「無能」で「混乱している」と書いたことが、トランプの感情を傷つけたのだ。
この問題には戦略的な重要さはないが、UKの戦略的な地位に重大な結果をもたらす。ほぼ確実に次の首相となるジョンソンBoris Johnsonは、この特別な関係を中心に世界へのアプローチを考えている。
トランプ政権への彼の姿勢は、そのBrexit方針、10月末の離脱期限までに「やるか、死ぬか」に支配されている。
ジョンソンのようなBrexit強硬派にとって、EUの単一市場を離脱する利益とは、アメリカと新しい「すばらしい」協定を結べることである。しかし、トランプの「アメリカ・ファースト」型ナショナリズムは、その変わりやすさについて、議会の不安を高めたのだ。アメリカ国務省の元高官Jeremy Shapiroは、「トランプのエゴや米英の歴史的紐帯にアピールして優遇処置を得られるというのは幻想だ。ジョンソンはすぐに、トランプには友人も忠誠心もない、とわかるだろう。」と述べた。
アメリカはイギリスに、食品や医療に関する市場開放を求めている。米英間で、塩素消毒したチキンの輸入問題がUK国民から強く嫌われ、アメリカの製薬会社求める薬価の変更がUKの国民医療サービスの値上げを招く、という不安が強い。
もしUKが独自の通商条約を結ぶなら、それはEUとの間で、北アイルランドの国境税関を再現することになり、グッド・フライデー合意に反する。アメリカのペロシ下院議長は、下院がそのような条約を結ぶことは考えられない、と発言した。
ジョンソンの姿勢を、イギリスの同盟諸国は危険な幻想とみなしている。そして、戦略的な構想を欠いた、異常に脆弱なイギリス政府を、EU、中国、ロシア、さらにはイランが試そうとしている。
EUの交渉姿勢は、UKとのバランス・オブ・パワーが変わったことを反映し、イギリスに譲歩、譲歩を迫るものだった。かつてブリュッセルでも能力と理性を高く評価されていたイギリスが、イデオロギーと希望を唱えて迷走した。
中国が「グローバル・ブリテン」で中心的な役割を担う、とBrexit派は主張してきた。しかし、南シナ海、香港など、最近の問題で関係は悪化しており、中国の大使はイギリスの姿勢を「植民地支配者の発想だ」と非難した。
イギリスの弱さは経済と同じように安全保障にも示されている。ロシアは諜報員を使って、イギリスで暮らす二重スパイの暗殺を試みた。モスクワは、イギリスが安全保障のサークルから切り離された場合、本土においても違法行為ができると考えているのだろう。
もしイギリスのタンカーがイランとの武力衝突を生じた場合、イギリス政府はアメリカの支援を求めるだろう。しかし、Darrochの辞任が示すことは、イギリスがトランプ政権の行動を前提に安心できない、ということだ。アメリカとの特別な関係とEU加盟が、イギリスの過去50年間の外交を支えてきた。
イギリスの位置は、非常に危険なものとなるだろう。
● 中央銀行の失敗
PS Jul 19, 2019
Are Central Banks Losing Their Big Bet?
MOHAMED
A. EL-ERIAN
近年、中央銀行は巨大な政策の負担を引き受けている。非伝統的な、実験的政策の使用を延長して、より包括的な政策手段をとることへの、効果的な橋渡しをするはずだった。それが高度な包摂的成長モデルを実現し、金融不安定化のリスクを最小化するだろう、と考えたのだ。
しかし、中央銀行は繰り返し、その努力を否定されてきた。そして、彼らの信用や、実効性、政治経済を損なうリスクが高まっていることに、ますます苦慮している。皮肉なことに、中央銀行はその負担を軽くしてくれるはずの他の政策担当機関から、さらに大きな負担を強いられるだろう。
アメリカ連銀は、財政政策のように、包括的な成長にとっての構造的問題を緩和し、あるいは、直接に生産性を高めることができない、ということを知っていた。そうした政策手段は他の機関が担っている。そうした景気拡大的な政策は、議会が深く分裂したままでは実行されない。流動性を供給することは、資産価格を引き上げ、それが支出や企業投資を促す。しかし、その力は弱かった。
連銀もECBも、成長を促す包括的な経済政策に、その負担を渡すべきだとわかっていた。しかし彼らの訴えは聞き入れられなかった。
他のリスクも中央銀行の苦悩を深める。Brexitが起きればイングランド銀行の長期的な政策戦略を損ない、短期的にもアメリカ連銀やECBの目標達成をむつかしくする。通商政策の武器化は、アメリカ連銀とECBの仕事もむつかしくなる。ECB、現代貨幣理論MMT、人民のQEなど、政治の左右の極論が中央銀行の姿勢を疑っている。政治的左派は、経済資産の国家所有を拡大し、経済活動の国家管理を目指そうとさえしている。
中央銀行は、その困難な位置から抜け出すために、他の政策決定機関に頼るべきではない。彼らはますますlose-loseの位置に落ち込んでいる。
● 日韓関係の悪化
FP JULY 16, 2019
Japan’s Trade War Is as Futile as Trump’s
BY S.
NATHAN PARK
日韓関係で日本の植民地化による問題をめぐって外交的な紛争が起きるのは新しいことではない。しかし、歴史問題について通商的な手段を武器に使う最近の日本の決定は、根本的なエスカレーションを意味するものだ。日本の安倍首相は韓国に対する敵対的な通商手段によって、トランプ大統領の貿易戦争をまねたように見える。しかし、それは不明確で、自己矛盾しており、内外の経済に対して潜在的にマイナスの影響をもたらすだろう。
韓国が戦略的な物資を北朝鮮に流しているという、根拠のない、後付けの説明は、東京の決定が深く考慮されたものではなく、韓国最高裁の戦時奴隷労働に関する判決に憤慨した反応だったことを示すものだ。民主的国家である日本が、リベラルな民主主義国家で、同盟国である韓国に対して、貿易規制を行うことは、第2次世界大戦における日本帝国の奴隷労働を擁護するものである。そうすることで日本は、韓国との経済相互依存関係を分断し、韓国企業を中国とロシアの側に追いやるだろう。
このことは日本と韓国の2国間だけでなく、米日間の3国間関係、アメリカの太平洋における基盤を損なうものだ。それは中国と北朝鮮に対抗して安全保障を保持する決定的な地域で、最も好ましくないことである。
● トランプの人種戦争
FT July 17, 2019
Donald Trump’s race-baiting strategy to
secure second term
Edward
Luce
表面的には、ドナルド・トランプの過熱する人種攻撃は自己破壊的である。アメリカ経済は成長し、中産階級の賃金は上昇しているから、トランプ再選キャンペーンは支持基盤を拡大するべきだろう。すくなくとも、南北戦争が再現することを好まない、穏健な白人有権者を安心させるべきだ。しかし、彼は逆に進む。アメリカ生まれの民主党員に「国へ帰れ」と命じるのは、いくらトランプでも限度を超えている。彼に意見するような非白人市民は、アメリカ人ではない、というわけだ。
しかし、このトランプの醜い主張には計算がある。彼の目的は、民主党員たちをいわゆる「4人組」の擁護に団結させることだ。4人組の主張は、アメリカの主流派が支持しないラディカリズムである。アメリカ人の多くは、社会主義を支持しないし、奴隷への補償金支払いや、国境の開放を支持しない。2030年までに化石燃料をゼロにするグリーン・ニュー・ディールにも懐疑的だ。トランプはこうした主張に民主党全体を仕向けている。4人の女性を激しく攻撃して反発させることで、民主党が指名する大統領候補とメディアは彼女たちを支持するだろう。それが、トランプの考えでは、再選をもたらす。
これは、敵国を戦火で破壊しつくすことで、それを平和と呼ぶ、トランプ版の選挙作戦だ。もし選挙戦が人種差別を政策綱領に掲げるなら、アメリカの政治がこれを生き延びることは困難だ。かつてリンカーンを擁した共和党が、今では、ヨーロッパのポピュリスト右派政党に賛同し、ネイティビストの政治を推進する道具となっている。その違いは、共和党がすでにホワイトハウスを握っていることだ。ヨーロッパ右翼と違って、共和党とトランプは負ける恐れがない。
トランプには2つの計算がある。1つは、共和党を完全に掌握したこと。もう1つは、民主党を共和党に反対するラディカルと色付けすることだ。次の選挙は、白人と非白人との対決になるだろう。2020年には、まだ有権者の7割が白人である。その3分の2を採ることで、彼が勝利するには十分だ。
この数週間、民主党はナンシー・ペロシの指導部と、若いラディカルたちの間で、分裂が強まっている。それは、79歳のペロシと、29歳のOcasio-Cortezオカシオ=コルテスという、世代間の対立である。若いラディカルたちは、ペロシがトランプの弾劾を行わず、その他の政策にも慎重な姿勢に、次第に不満を強めている。ペロシが4人組をからかった後、オカシオ=コルテスはなぜ「有色女性」を攻撃するのか、と反発し、支持者の1人はペロシを白人至上主義者の仲間と非難した。これはトランプの思うつぼだ。彼はまさに、民主党を、過激な4人組の擁護に追い詰める。
トランプのやり方は、敵に火を放つ、危険な、アメリカ的でないやり方だ。しかし、だから失敗するとは言えない。
● ジョンソンのケーキ主義
FT July 15, 2019
Boris Johnson, ‘cakeism’ and the Blitz
spirit
Gideon
Rachman
ボリス・ジョンソンの名が、ある政治思想と固く結び付いているとしたら、それは「ケーキ主義」であるだろう。それは、困難な選択をすることなしに統治できる、という考えだ。
党首選挙の間、ジョンソンは、まさにケーキ主義者として運動した。彼は、数か月内にもっと良い条件でEUと合意できる、と約束した。しかし、彼はまた、もし新しい合意が達成できない場合、合意なき離脱も「準備しておけば、ほんのわずかなコストしかかからない」と聴衆に約束した。
この考えは専門家たちと全く異なるものだ。食品、自動車のような、主要産業で何千人も失業するだろう。混乱の規模と期間は、過去2世代に及ぶ人々が、発展した世界の経験したことがないほど深刻なものだろう。
ジョンソンは常に、こうした予測を、無価値の破滅論者と非難してきた。彼が首相になって、合意できず、大きなコストが生じたとしたら、どのように対処するのだろうか? それは「電撃精神」“Blitz spirit”であろう。第2次世界大戦の間にイギリス人が逆境において示した、国民的な連帯の精神である。彼が、イギリスの「最高の瞬間」をもたらした首相、ウィンストン・チャーチルの伝記作者であるのは、偶然ではない。
ジョンソンにとって最も困難な条件とは、BrexitをめぐってUKが深く分断された状態にあることだ。電撃が来る前に、邪悪な、避けることのできない敵に対して、生存を賭けて戦うのだ、という信念をもって、多かれ少なかれ、イギリスを団結させねばならない。しかし、国民の半分は、EUではなくジョンソンが、合意なき離脱をもたらした犯人だ、と思うだろう。
それゆえ彼は、新首相として国民の団結を率いることはなく、辞任を求める、憤慨したデモに直面するだろう。21世紀のチャーチルになる、という彼の白昼夢は終わる。
ジョンソンは、イギリス版のマリー・アントワネットである。愚かな提案をしたことで悪名高い、フランスの女王だ。
● Libra論争
PS Jul 16, 2019
Will Facebook’s Libra Turn into a Cancer?
ANDRÉS
VELASCO, ROBERTO CHANG
FacebookのLibraは、特に発展途上諸国で、金融サービスで困難な状態にある人々の大きな利益となる、と強調した。しかし経験から考えて、それは1つの災厄になりそうだ。
1991年4月、アルゼンチン政府はアルゼンチン・ペソの価値をUSドルに固定する、と発表した。ペソは、信頼できるドルによって保証された。1世紀に及ぶ通貨価値の不安定さから解放されたのだ。
市場はこれを歓迎した。しかし、10年後、政府はペソの価値を引き下げ、その後、変動させた。数か月間で価値の3分の2が失われた。深刻な政治危機の中、2週間に5人の大統領が現れた。820億ドルの政府債務がデフォルトになった。世界最大のデフォルトだ。
アルゼンチンの政策は、カレンシー・ボードとして知られるが、Libraも同じである。その価値を主要通貨で保証する。残念ながら、その主要なリスクは、カレンシー・ボードによる通貨価値の切り下げである。
Libraを管理するthe Libra Associationは、同様の間違ったインセンティブの下にある。Libraが普及した後、彼らがわずかに切り下げるだけで、莫大なキャピタル・ゲインを得るだろう。しかし、それほどあからさまな決定はしないはずだ。むしろ、バスケットの比重を変える、ということをする。
アルゼンチンで起きたことだ。「技術的理由」で比重が調整された後、「たまたま」比重を増やした通貨価値が失われた。Libra計画にも、こうした時間不整合性の問題を解決するガバナンスが必要だ。
これに加えて、the
Libra Associationが利益を得る方法も問題である。彼らは主要通貨を保有して利子を得るが、Libraに利子は付けない、という。それは自国通貨を発行できる中央銀行が得ている特権的利益と同じであり、シニョレッジ、とよばれる。
Facebookは、もっと金利が高くなっても、この利益を黙って取得するのだろうか? さらに、Libraの価値を保証するための準備は、全額ではなく一部にして、もっと高い利回りを得るようなリスク資産を購入する、という選択をしないだろうか? その場合、商業銀行システムと違って、Libraには連銀の「最後の貸し手」がない。もちろん、その時点で、「大きすぎて潰せない」という問題がLibraシステムにあるから、連銀は救済するしかないだろう。これも時間不整合性の問題だ。
Libraが金融サービスに多くの貧しい人々を包摂する、という主張は嘘ではないだろう。しかし、もっと深刻な問題が起きる。居住者が保険として銀行預金や契約にドルを使用する、いわゆる「ドル化」だ。発展途上諸国で「最後の貸し手」が機能せず、金融不安定性が増したこと、金融政策の効果が失われ、輸出や雇用を増やすために通貨を切り下げることができなくなることは、Libra化によって強まるだろう。
Libraには十分な政府規制が必要だ。
● 関税と中国の減速
FT July 16, 2019
Donald Trump is wrong — drags on Chinese
growth are homegrown
James Kynge
ドナルド・トランプ大統領が、アメリカの関税引き上げで中国経済が成長を27年ぶりに低い水準に落とした、という意味のツイートをした。
しかし、その解釈は中国経済を単純化し過ぎである。実際は、中国のダイナミズムの変化は国内から生じている。貿易が成長の主要な要因から外れたのは、もうずっと以前のことだ。「昨年、中国の純輸出額はGDPの1%でしかない。」
中国経済の成長が大きく落ち込んだ、という大統領の理解も間違いだ。今年前半の念成長率は6.3%であるが、昨年は全体で6.6%であった。昨年、13兆6000億ドルの中国経済が追加した額は1兆4500億ドルであり、1国が世界GDPに貢献したものとして圧倒的な最大規模である。
2018年の追加GDPはスペインやオーストラリアの規模に等しい。今年の成長率が6.3%でも、もう1つスペインを追加する。
中国の成長を制約する国内問題とは、2008年の金融危機以降に行ってきた刺激策の副作用である。中国の総債務は40兆ドルを超え、そのGDP比は310%に近い。2008年には、それが150%であった。その結果、北京は成長率の目標を下げ、膨大な、規制されていない、影の金融システムを警戒してきた。北京は、信用供与と資産価格のバブルによって成長を高める、という安易な成長政策を失ったのだ。
中国の銀行監督局、Guo Shuqingは、「不動産に過剰に依存して経済繁栄を求める国が高い代償を支払うことは、歴史が示している」と述べた。しかし、政策担当者たちは、不動産価格の下落が支出を減らし、不況につながることも知っている。刺激と抑制の微妙なバランスが求められる。
唯一の脱出策は生産性の上昇だ。ここにトランプは交渉のテコを得るだろう。中国政府がトランプとの和解を望むのは、それがなければ中国企業が技術の階段を登るのは遅れ、生産性上昇はより困難になるからだ。
● アジアの繁栄の終わり
PS Jul 17, 2019
Asia’s Scary Movie
RICHARD N. HAASS
歴史は各瞬間の写真、スナップショット、として理解できる。それは現在のわれわれを示すだけでなく、どこから来て、どこに向かうだろう、ということも示すのだ。
東アジアと太平洋を考えるとき、そのスナップショットは、安定した社会、成長する経済、強固な同盟である。しかし、よく見れば、この世界で最も経済的に成功した地域が、バラバラに粉砕されつつあるのがわかるだろう。
1.北朝鮮の核武装・・・戦争は回避されたが、その脅威は今も存在する。トランプ大統領が、その激しい言葉と違って、行動しなかっただけだ。北朝鮮の核とミサイルの脅威は増している。金正恩が非核化するだろうと信じる理由はない。核保有の上限を、制裁緩和と交換するかどうか? たとえ合意しても、北朝鮮が約束を守るか。日本は核武装せずに安全を確保できたと思うか?
2.日韓関係の悪化・・・日本政府は、韓国の北朝鮮に対する融和姿勢に不安を感じる。植民地支配に謝罪し、従軍慰安婦に補償を支払うよう、再び求めている韓国政府に激怒している。アメリカの同盟国間で、対立は通商関係にも波及し、北朝鮮や中国に対して協力することもむつかしい。
3.香港の民主化デモ・・・住民が願うような「一国二制度」の約束を、北京は守る気がない。金融的な窓口としての香港の役割が低下している。デモにリベラルな対応を取ることは北京の弱さ、デモ隊の北京に対する挑戦を刺激する、と考え、秩序を維持するために北京は何でもするだろう。
4.ウイグル、南シナ海、一帯一路・・・中国の外交は、ウイグル自治区の弾圧や南シナ海の軍事化、一帯一路によるユーロシアのインフラ整備で、影響力を強めている。
5.台湾独立・併合・・・1979年に米中関係を回復したが、アメリカは台湾との非公式な関係を維持し、軍備を提供し、平和を保証してきた。しかし、習近平は台湾の統合を「チャイニーズ・ドリーム」として実現する意図を示す。他方、アメリカにも台湾にも、独立を主張する声がある。互いに受け入れられない線を越えるとき、危機は現実となる。
6.トランプ政権の外交・・・アメリカが韓国そして日本と結ぶ同盟関係は、アジアの成長を支える平和の基礎であった。しかし、トランプは違う。同盟関係が価値のない、不公平なものだと非難し、日本や韓国にもっと支払え、通商政策で譲歩せよ、とせまる。その予測不能で信頼できない姿勢が、地域の不安定化を生じる。
● ジョンソンのBrexit
The Guardian, Fri 19 Jul 2019
EU officials don’t relish the idea of no
deal – but they are prepared to play hardball
Charles
Grant
ブリュッセルのEU職員たちや政治家は、イギリスが10月末に合意なしの離脱を選ぶとみている。保守党は、その破滅的な道を避ける能力がない。
ボリス・ジョンソンが次の首相になれば、彼には2つの選択肢しかない。1つは、「豚に口紅」、すなわち、メイの合意案を見かけだけよくすること。あるいは、アイルランド国境の安全策を排除するような、根本的変更を求めること。前者であれば、EUは協力できるが、ジョンソンは拒否している。
ジョンソンの仲間たちは誤解している。イギリスが強い態度に出ても、EUは通商上の優遇策を出さないし、国境の検問所による破滅的な結果にもかかわらず、アイルランド政府は妥協しない。
ブリュッセルの意見では、ジョンソンの気まぐれと柔軟性によって、「豚に口紅」の妥協策が可能である、と期待できる。しかし、たとえジョンソンがそれを好んでも、イギリス議会を説得できないだろう。妥協は無駄になる。
より達観的な意見では、UKはすぐに総選挙になる。そしてジョンソンは敗北し、新しい首相が合意なき離脱に反対する。もし首相が明確な解決策を示せば、EUは離脱交渉のさらなる期限延長を認めるかもしれない。
NYT July 19, 2019
Send Me Back to the Country I Came From
By
Timothy Egan
その通りだ。この老いた男は怒り、叫んだ。この国で起きていることが気に入らない者たちは、ここから出ていくべきだ。「彼らがそこからやってきた、元の犯罪に侵された土地へ。」
なるほど、いい考えだ。
私にとって、それはアイルランドだ。そこはかつて、犯罪、飢饉、病気、そして外来の恐怖に満ちていた。すなわち、イギリス人の地主たちは、慈悲深い神の恩寵によって、飢える大衆を殺害する許しを得た、と言ったものだ。
そこで私は、トランプ大統領の提案、気に入らない市民は出て行け、に戻る。それは私の父のようにアイルランドを去った者と違い、凍った土地に何世代も埋葬された後のことだ。
私がそこに見るのは、泥の中で眠り、家族のすべてがチフスに罹った島、そして、ある推定では、かつてダブリンの新生児の半分が1歳になる前に死亡した島で、今や国民皆保険制度があることだ。
すべての住民に医療保険がある。それは、トランプの下で700万人に増えた医療保険のない国民を抱える国からは、驚異である。はだしの、ゲール語しか話せない、英語の読めないかつての人々が、すべての市民に、ほぼ無料で、素晴らしい大学で学ぶことを認める国である。
私がそこに見るのは、8人に1人が外国生まれで、アメリカの比率にほぼ等しく、Leo Varadkar首相自身がインド移民の息子である、という共和国だ。19世紀の地獄は、21世紀の天国になった。アイルランドは、われわれアメリカ人の希望、そのめざすものになった。抑圧者から逃れた者たち、機会を得られない者たちに、国を開いている。アイルランドの首相なら、この共和国に来た者たちへ向けた、「あの女を送還しろ」という憎悪の合唱に、決して満足するようなことはないだろう。
火曜日、アメリカの下院はRonald
Reagan, John F. Kennedy and Benjamin Franklinの名を挙げて、Franklin Rooseveltの呼びかけを引用した決議を行った。「われわれすべてが、移民と革命家の子孫であるということを、常に、思い出そう。」 普通であれば、これは全会一致で認められただろう。しかし、共和党から賛成したのはわずか4人であった。
これほどトランプはアメリカの姿を貶めたのだ。
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The Economist July 6th 2019
The global crisis in conservatism
China v America: Counter flow
Conservatism: The self-preservation society
Hong Kong’s protests: Anti-establishment day
The World If: China crisis October 2020
The World If: Versailles revisited
(コメント) リベラリズムの危機、社会民主主義の消滅、そして、保守主義の危機が注目されます。権力に近づく新右翼の活動家たちは、社会の保守層に支持されているとしても、決して、E.バークの唱えた保守主義ではない。むしろ逆のものである、と考えます。
世界がもし・・・だったら、という特集記事があります。・・・南シナ海でアメリカの空母が漁船の群れに包囲されます。NATOが解体して、欧州軍が組織されます。エジプトの国家体制が崩壊し、AI・ロボットの普及は進まず、富裕層に増税され、抗生物質は効果を失い、温暖化防止のための地球工学が実験される。
最後の話は、ケインズです。・・・『平和の経済的帰結』を書くのは早すぎた。もし数年後に書いていたら、ケインズはドイツの賠償金を重視しなかったはずだ。
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IPEの想像力 7/22/19
「竹島」の領空侵犯事件を知って、Gideon Rachmanの論説記事 "US-UK relations: strains in the ‘greatest
alliance’"(FT July 13, 2019) を連想しました。
日本と韓国が領土と主張する「竹島(独島)」の上空で、韓国軍は防空識別圏を犯したロシアの偵察機にスクランブルをかけ、警告のために数百発も銃撃した、ということです。ロシアは、中国軍との合同軍事演習の一環であったと説明し、領空侵犯を否定しています。
日本は、自国の領土である竹島の領空侵犯に抗議しましたが、スクランブルはかけなかった。この抗議に、韓国政府は強く反発しています。
プーチンは、もしかすると、日本が主張する北方領土の2島返還を再び取り上げたいのではないか。戦争の勝利によって得たロシア領を日本に譲るものとして、多くの経済支援と他の問題での日本側の譲歩として、国民に支持される。そのためには、安倍首相に、ロシアとの領土問題を解決したという成果として、2島返還を示すことが重要でしょう。
この目標のために、日韓関係の急速な悪化と竹島の領土問題は、ロシアが中国とともに揺さぶりをかける安全保障のひずみになっている、と思いました。プーチン氏の言う「スピード感」が、北朝鮮と日韓関係に行き詰まった安倍退任の前に現れたのです。
中国は、香港や台湾の問題が内外で注目されることを嫌っており、竹島での日韓の紛争が、北朝鮮の交渉を進めるうえで中国の重要な役割を、アメリカにも韓国にも、教えることに役立つだろう、と考えます。
トランプは、もちろん、ともだちの安倍から、政治的な貸しを何倍にもして返却させることをねらっています。イランとの紛争に、日本が先陣を切って参加すること、日米通商交渉においてTPPを超える譲歩と優遇策を多方面において認めること、安保条約の「片務」性を日本が認めて、より「双務」的な条項を設けること、も要求するでしょう。中国との貿易戦争で、日本企業が中国の生産拠点を日米経済から切り離すことは当然です。
トランプ大統領に異常に一体化した安倍外交の「無能」で「混乱した」性格を、批判する政治家やジャーナリストが積極的に発言しないのは、まだ政権が続くと思うからでしょうか?
「令和」や「G20」の騒ぎは何だったのか? わざわざ選挙のために吉本の舞台に上がり、芝居もどきに参議院選挙公示前に日韓関係を悪化させ、選挙が済めば、新聞・テレビはオリンピック一色になって忘れるだけだ、という安倍派の計算があったように思います。
吉本興業の芸人と、詐欺・犯罪集団との関係が、一気に騒動になりました。Edward Luceの"Donald Trump’s race-baiting strategy to
secure second term," (FT July 17, 2019)は、再選に向けて「人種戦争」を刺激するトランプの計算を描いています。
アベノミクスや安倍=トランプの親密な関係に従うことなく、財務省や日銀、外務省が、独自に、この危険な政治家たちから国民を救出する構想を練っていることを、私は期待します。
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