IPEの果樹園2019

今週のReview

7/22-27

***************************** 

生体認証型監視社会 ・・・駐米大使の辞任 ・・・中央銀行の失敗 ・・・日韓関係の悪化 ・・・トランプの人種戦争 ・・・ジョンソンのケーキ主義 ・・・Libra論争 ・・・連邦財政委員会 ・・・関税と中国の減速 ・・・民主党の候補者選び ・・・国際通貨制度改革 ・・・アジアの繁栄の終わり ・・・ジョンソンのBrexit ・・・アイルランドへ帰る

[長いReview

****************************** 

主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 生体認証型監視社会

NYT July 11, 2019

Stop Surveillance Humanitarianism

By Mark Latonero

国連世界食糧計画と、中心部を支配下に置くフーシ派反政府勢力との話し合いは行き詰まり、イエメンの数十万人が命の危険にさらされている。

食料が反政府勢力にわたっているという報告を受けて、援助プログラムはフーシ派担当者に、食料の配給に際して、IRISとデジタル指紋登録のような生体認証を行って、食糧の横流しを監視することを求めているからだ。

フーシ派は食糧の配布を阻止し、生体認証を諜報活動とみなして、援助受給者の個人データを彼らにもアクセスできるように求めている。

これが、監視型人道支援である。技術的な解決策は、政治問題を深く内在させる。

FT July 12, 2019

Deutsche will not be the last victim of the automation wave

Philip Stafford

PS Jul 12, 2019

How an AI Utopia Would Work

SAMI MAHROUM

FT July 15, 2019

The cities of the future should not be dystopian

センサー、監視カメラ、インターネット、それらが生態系となった「スマート・シティ」は、特に中国で、急速に実現しつつある。カナダやロンドンも同様の計画を推進している。無人運転自動車が普及すれば、それらが情報を集積する。アメリカでは、ドライブスルーのファストフード・チェーンが、迅速に注文を管理するため皿に番号を付けて新しい情報源になっている。

それはプライバシーを侵し、大衆監視と管理の技術に利用される。


 アメリカ・イラン紛争

The Guardian, Fri 12 Jul 2019

The UK must stand up to Trump over Iran

Eskandar Sadeghi-Boroujerdi

The Guardian, Fri 12 Jul 2019

The Guardian view on Britain and Iran: a game for losers

Editorial

「これは危険なゲームだ」とイラン外務省は警告した。そして、イギリス海軍がジブラルタル沖で先週拿捕したイランタンカーを、解放するように求めた。

主要なプレーヤーは自信過剰であり、ルールを決めること、そこに賭けるものを知っている。イギリスには事態を変える影響力がない。アメリカ大統領がイランとの交際合意から離脱し、経済制裁を科すことで創りだした危機だ。テヘランで強硬派が力を強め、彼らがアメリカを決して信用しないことにとって危機は深まる。

かつてイラクで国連核査察団を率いたMohamed ElBaradeiは、現在のアメリカとイランの状況を、イラク戦争直前の日々を思い出させる、と述べた。

イギリスは、イランのタンカーを拿捕したのは、シリアに対するEUの制裁に違反したからだ、という。しかし、アメリカからの圧力があった、という疑いは明らかだ。アメリカに対するイランの怒りをヨーロッパが抑える仲介を、妨げることになった。

アメリカの地域における軍事力は増強されつつある。

FP JULY 12, 2019

Trump’s Iran Policy Hasn’t Failed—Yet

BY JOHN HANNAH

FT July 14, 2019

Iran falls into Donald Trump’s trap with provocative steps


 シリザの敗北

The Guardian, Fri 12 Jul 2019

Syriza’s defeat shows the left needs a plan to hold on to power, not just win it

Gary Younge


 ハイテク企業課税

FT July 12, 2019

Governments should resist taxing tech revenues

Tom Braithwaite

NYT July 15, 2019

Beware. Other Nations Will Follow France With Their Own Digital Tax.

By Lilian V. Faulhaber


 欧州政治

SPIEGEL ONLINE 07/12/2019

A Question of Trust

Ursula Von Der Leyen Recruits Team to Win Over Brussels

By Markus Becker, Matthias Gebauer and Peter Müller

FT July 14, 2019

Europe’s centrists should be wary of Ursula von der Leyen

Wolfgang Münchau

The Guardian, Mon 15 Jul 2019

Don’t let nationalism win – we can create a better Europe from within

Magid Magid

FP JULY 15, 2019

Ursula von der Leyen Isn’t Perfect, but She’s Better Than the Alternative

BY AGATA GOSTYNSKA-JAKUBOWSKA

SPIEGEL ONLINE 07/17/2019

The New European Commission President

Von Der Leyen's Election Is a Big Moment for Europe

FT July 18, 2019

Ursula von der Leyen has promise but much to prove


 アメリカ資本主義

PS Jul 12, 2019

What America Needs to Understand About Capitalism

CLAIR BROWN , SIMON SÄLLSTRÖM


 香港デモ

NYT July 12, 2019

Can Hong Kong’s Resistance Win?

By Ai Weiwei

The Guardian, Tue 16 Jul 2019

Hong Kong showed China is a threat to democracy. Now Europe must defend Taiwan

FP JULY 16, 2019

Ich Bin Ein Hong Konger

BY MELINDA LIU

香港の民主化デモは、九龍半島西部の高速鉄道ステーションに集まって、旅行者にデモへの支持を求め、中国本土に「革命を輸出」しようとした。デモ隊の要求は、普通選挙権に向かっている。

香港の民主化デモは、かつてのベルリンの壁に似て、アメリカ大統領が「私も香港市民である」と演説する瞬間を待っている。しかし、トランプは違う。

北京は、香港の若い世代を新しい巨大プロジェクト、珠江デルタ湾岸開発、で魅了しようとしている。それは、より民主化されて繁栄する台湾を本土に吸収する呼び水だ。


 駐米大使の辞任

FT July 13, 2019

US-UK relations: strains in the ‘greatest alliance’

Gideon Rachman in London

4週間前に国賓としてイギリスを訪問していたドナルド・トランプは、米英関係を「世界でこれまで知られたもっとも偉大な関係だ」と称賛した。

しかし木曜日、アメリカ大統領はこの「特別な関係」に前例のない攻撃を加えて、ワシントンに駐在するイギリス大使Kim Darrochを辞めさせた。

このショックを1956年のスエズ危機にたとえる意見がある。そのときアメリカはUKに圧力をかけて、エジプトへの軍事力行使をやめさせた。しかし、Thomas Wrightthe Brookings Institution)は、「対立の背景に戦略的理由がないだけ、今回の衝撃はスエズ危機を上回る」という。Darroch問題とは、単に大使が、アメリカの政府を「無能」で「混乱している」と書いたことが、トランプの感情を傷つけたのだ。

この問題には戦略的な重要さはないが、UKの戦略的な地位に重大な結果をもたらす。ほぼ確実に次の首相となるジョンソンBoris Johnsonは、この特別な関係を中心に世界へのアプローチを考えている。

トランプ政権への彼の姿勢は、そのBrexit方針、10月末の離脱期限までに「やるか、死ぬか」に支配されている。

ジョンソンのようなBrexit強硬派にとって、EUの単一市場を離脱する利益とは、アメリカと新しい「すばらしい」協定を結べることである。しかし、トランプの「アメリカ・ファースト」型ナショナリズムは、その変わりやすさについて、議会の不安を高めたのだ。アメリカ国務省の元高官Jeremy Shapiroは、「トランプのエゴや米英の歴史的紐帯にアピールして優遇処置を得られるというのは幻想だ。ジョンソンはすぐに、トランプには友人も忠誠心もない、とわかるだろう。」と述べた。

アメリカはイギリスに、食品や医療に関する市場開放を求めている。米英間で、塩素消毒したチキンの輸入問題がUK国民から強く嫌われ、アメリカの製薬会社求める薬価の変更がUKの国民医療サービスの値上げを招く、という不安が強い。

もしUKが独自の通商条約を結ぶなら、それはEUとの間で、北アイルランドの国境税関を再現することになり、グッド・フライデー合意に反する。アメリカのペロシ下院議長は、下院がそのような条約を結ぶことは考えられない、と発言した。

ジョンソンの姿勢を、イギリスの同盟諸国は危険な幻想とみなしている。そして、戦略的な構想を欠いた、異常に脆弱なイギリス政府を、EU、中国、ロシア、さらにはイランが試そうとしている。

EUの交渉姿勢は、UKとのバランス・オブ・パワーが変わったことを反映し、イギリスに譲歩、譲歩を迫るものだった。かつてブリュッセルでも能力と理性を高く評価されていたイギリスが、イデオロギーと希望を唱えて迷走した。

中国が「グローバル・ブリテン」で中心的な役割を担う、とBrexit派は主張してきた。しかし、南シナ海、香港など、最近の問題で関係は悪化しており、中国の大使はイギリスの姿勢を「植民地支配者の発想だ」と非難した。

イギリスの弱さは経済と同じように安全保障にも示されている。ロシアは諜報員を使って、イギリスで暮らす二重スパイの暗殺を試みた。モスクワは、イギリスが安全保障のサークルから切り離された場合、本土においても違法行為ができると考えているのだろう。

もしイギリスのタンカーがイランとの武力衝突を生じた場合、イギリス政府はアメリカの支援を求めるだろう。しかし、Darrochの辞任が示すことは、イギリスがトランプ政権の行動を前提に安心できない、ということだ。アメリカとの特別な関係とEU加盟が、イギリスの過去50年間の外交を支えてきた。

イギリスの位置は、非常に危険なものとなるだろう。

FT July 13, 2019

The Darroch affair reveals deeper threats to the UK civil service

Camilla Cavendish


 中央銀行の失敗

FT July 13, 2019

The Fed’s dovish turn looks like a surrender

NYT July 13, 2019

Goldbugs for Trump

By Paul Krugman

FT July 15, 2019

Acting IMF chief backs monetary easing by central banks

James Politi in Washington

PS Jul 19, 2019

Are Central Banks Losing Their Big Bet?

MOHAMED A. EL-ERIAN

近年、中央銀行は巨大な政策の負担を引き受けている。非伝統的な、実験的政策の使用を延長して、より包括的な政策手段をとることへの、効果的な橋渡しをするはずだった。それが高度な包摂的成長モデルを実現し、金融不安定化のリスクを最小化するだろう、と考えたのだ。

しかし、中央銀行は繰り返し、その努力を否定されてきた。そして、彼らの信用や、実効性、政治経済を損なうリスクが高まっていることに、ますます苦慮している。皮肉なことに、中央銀行はその負担を軽くしてくれるはずの他の政策担当機関から、さらに大きな負担を強いられるだろう。

アメリカ連銀は、財政政策のように、包括的な成長にとっての構造的問題を緩和し、あるいは、直接に生産性を高めることができない、ということを知っていた。そうした政策手段は他の機関が担っている。そうした景気拡大的な政策は、議会が深く分裂したままでは実行されない。流動性を供給することは、資産価格を引き上げ、それが支出や企業投資を促す。しかし、その力は弱かった。

連銀もECBも、成長を促す包括的な経済政策に、その負担を渡すべきだとわかっていた。しかし彼らの訴えは聞き入れられなかった。

他のリスクも中央銀行の苦悩を深める。Brexitが起きればイングランド銀行の長期的な政策戦略を損ない、短期的にもアメリカ連銀やECBの目標達成をむつかしくする。通商政策の武器化は、アメリカ連銀とECBの仕事もむつかしくなる。ECB、現代貨幣理論MMT、人民のQEなど、政治の左右の極論が中央銀行の姿勢を疑っている。政治的左派は、経済資産の国家所有を拡大し、経済活動の国家管理を目指そうとさえしている。

中央銀行は、その困難な位置から抜け出すために、他の政策決定機関に頼るべきではない。彼らはますますlose-loseの位置に落ち込んでいる。


 日韓関係の悪化

FT July 13, 2019

Korea caught in the crossfire of trade and tech wars

Rory Green

FP JULY 15, 2019

Why Are Japan and South Korea in a Trade Fight?

BY KEITH JOHNSON

FP JULY 16, 2019

Japan’s Trade War Is as Futile as Trump’s

BY S. NATHAN PARK

日韓関係で日本の植民地化による問題をめぐって外交的な紛争が起きるのは新しいことではない。しかし、歴史問題について通商的な手段を武器に使う最近の日本の決定は、根本的なエスカレーションを意味するものだ。日本の安倍首相は韓国に対する敵対的な通商手段によって、トランプ大統領の貿易戦争をまねたように見える。しかし、それは不明確で、自己矛盾しており、内外の経済に対して潜在的にマイナスの影響をもたらすだろう。

韓国が戦略的な物資を北朝鮮に流しているという、根拠のない、後付けの説明は、東京の決定が深く考慮されたものではなく、韓国最高裁の戦時奴隷労働に関する判決に憤慨した反応だったことを示すものだ。民主的国家である日本が、リベラルな民主主義国家で、同盟国である韓国に対して、貿易規制を行うことは、第2次世界大戦における日本帝国の奴隷労働を擁護するものである。そうすることで日本は、韓国との経済相互依存関係を分断し、韓国企業を中国とロシアの側に追いやるだろう。

このことは日本と韓国の2国間だけでなく、米日間の3国間関係、アメリカの太平洋における基盤を損なうものだ。それは中国と北朝鮮に対抗して安全保障を保持する決定的な地域で、最も好ましくないことである。

FT July 18, 2019

Womenomics: cracks are beginning to show in Japan’s glass ceiling

Gillian Tett

FP JULY 18, 2019

France Is Looking for New Allies in Asia

BY HARSH V. PANT, VINAY KAURA


 トランプの人種戦争

NYT July 14, 2019

Trump’s Tweets Prove That He Is a Raging Racist

By Charles M. Blow

ドナルド・トランプは、その本性として、何度も何度も、人種差別主義者であることを示し、彼を支持する人々の人種差別を刺激してきた。

トランプは、下院議長である民主党のNancy Pelosiペロシと4人の新人女性議員との対立をあおるツイートした。「・・・彼女たちが、政府が完璧に、全体的に崩壊した国から来たこと、その政府は世界でも最悪の、腐敗し、無能な政府であることは興味深い。・・・」

「・・・アメリカの人々、世界で最も偉大で、最もパワフルな国民を悪しざまにけなし、政府の運営方法を指図している。自分たちがやってきた国へ帰って、すべて崩壊した、犯罪だらけの場所を修復する方がよいだろう。」

彼の言う進歩的議員とは、Alexandria Ocasio-Cortez of New York, Ilhan Omar of Minnesota, Rashida Tlaib of Michigan and Ayanna S. Pressley of Massachusettsである。

事実を確認するが、3人はアメリカ生まれである。Omarはソマリアから来た。

彼女たちは白人ではなく、女性である。白人ナショナリストたちにとっての「他者(よそ者)」である。彼女たちは、アフリカ、中東、ラテンアメリカの子孫である。

こうした考え方の中心にあるのは、ここが白人の国だ、白人によって建国され、築かれた国だ、白人の国として維持することが宿命である、ということだ。誰であれ、真のアメリカ人であるためには、その物語を受け入れ、同化しなければならない。白人の遺産、白人の慣習に従わねばならない。

このアイデンティティーとしての人種差別主義が、多文化主義に反対し、人種差別という非難を受け入れない。

この異国風の名前が付いた異国風の場所から来た黒人や混血種の女性たちは、この国の父権主義的な支配に挑戦するだろう。彼女たちが白人男性の認め、尊重すると思うのは、愚かなことだ。

なぜなら、白人至上主義者たちのイデオロギーとエートス(精神性)は虚偽であるからだ、アメリカはその領土の大部分を、流血の惨事、ネイティブ・アメリカンとの協定を破ることで、拡大したからだ。その富の多くを、250年にわたる黒人たちの搾取によって築いたからだ。

アメリカの原罪に挑戦し、その理想に従って生きることは、悪意による攻撃ではない。それは愛国心の発現である。

アメリカの未来を表す顔としてふさわしいのは、まさにこの4人の女性たちである。トランプ大統領ではない。白人と白人らしさは、トランプ大統領の核心である。彼はそれを擁護し、保護し、育成している。

われわれは大統領として、むき出しの人種差別がホワイトハウスに入ったことを目撃している。そして国民のおそらく3分の1が彼を支持し続けることで、われわれに悪意を表明している。

NYT July 15, 2019

Trump’s America Is a ‘White Man’s Country’

By Jamelle Bouie

NYT July 15, 2019

Racism Comes Out of the Closet

By Paul Krugman

ドナルド・トランプは、ポピュリストではない。明らかに、レイシストだ。

The Guardian, Tue 16 Jul 2019

Trump’s ‘go back’ racism is crude, but may be dangerously effective

Afua Hirsch

われわれ移民でない者にも、「国へ帰れ」という人種差別主義の言葉がつぶやかれるのを聴くとき、それはマイノリティーが永久に移民とみなされており、移民は悪だという意味であることを理解する。

「もしここで幸せでないなら、この国から出ていけばよい」と言うのは、彼女たちがアメリカ人であるから、意味のないことだ。しかし、彼女たちが白人ではない、その意味では、それで十分だ。トランプは差別主義者でるし、意図的な人種差別主義者である。

政治戦略として、人種差別は効果がある。

The Guardian, Tue 16 Jul 2019

The Guardian view on Donald Trump: a racist in substance and style

Editorial

NYT July 16, 2019

Donald Trump Wishes He Were Running Against Alexandria Ocasio-Cortez

By Frank Bruni

それは再選に向けた大戦略なのか? ツイートする前に考えたのか? それとも単なる悪意の声か?

2020年の大統領選挙は、その実日草を示し始めた。それに比べたら2016年の選挙が、キューリのサンドイッチを食べながらガーデン・パーティーを楽しむのに似た、簡単なものであったと思うだろう。

トランプは、だれが民主党の大統領候補として指名されても、この4人の民主党議員たちを攻撃する標的に決めたのだ。個人として、イデオロギーとして、アメリカの人口構造変化として、新しいパワーの分配として、トランプは問題にする。

NYT July 16, 2019

In the Squad, Trump Finds His Foil

By Michelle Cottle

The Guardian, Wed 17 Jul 2019

Democrats are right to condemn Trump’s racism, but they risk walking into his trap

Jonathan Freedland

FT July 17, 2019

Donald Trump’s race-baiting strategy to secure second term

Edward Luce

表面的には、ドナルド・トランプの過熱する人種攻撃は自己破壊的である。アメリカ経済は成長し、中産階級の賃金は上昇しているから、トランプ再選キャンペーンは支持基盤を拡大するべきだろう。すくなくとも、南北戦争が再現することを好まない、穏健な白人有権者を安心させるべきだ。しかし、彼は逆に進む。アメリカ生まれの民主党員に「国へ帰れ」と命じるのは、いくらトランプでも限度を超えている。彼に意見するような非白人市民は、アメリカ人ではない、というわけだ。

しかし、このトランプの醜い主張には計算がある。彼の目的は、民主党員たちをいわゆる「4人組」の擁護に団結させることだ。4人組の主張は、アメリカの主流派が支持しないラディカリズムである。アメリカ人の多くは、社会主義を支持しないし、奴隷への補償金支払いや、国境の開放を支持しない。2030年までに化石燃料をゼロにするグリーン・ニュー・ディールにも懐疑的だ。トランプはこうした主張に民主党全体を仕向けている。4人の女性を激しく攻撃して反発させることで、民主党が指名する大統領候補とメディアは彼女たちを支持するだろう。それが、トランプの考えでは、再選をもたらす。

これは、敵国を戦火で破壊しつくすことで、それを平和と呼ぶ、トランプ版の選挙作戦だ。もし選挙戦が人種差別を政策綱領に掲げるなら、アメリカの政治がこれを生き延びることは困難だ。かつてリンカーンを擁した共和党が、今では、ヨーロッパのポピュリスト右派政党に賛同し、ネイティビストの政治を推進する道具となっている。その違いは、共和党がすでにホワイトハウスを握っていることだ。ヨーロッパ右翼と違って、共和党とトランプは負ける恐れがない。

トランプには2つの計算がある。1つは、共和党を完全に掌握したこと。もう1つは、民主党を共和党に反対するラディカルと色付けすることだ。次の選挙は、白人と非白人との対決になるだろう。2020年には、まだ有権者の7割が白人である。その3分の2を採ることで、彼が勝利するには十分だ。

この数週間、民主党はナンシー・ペロシの指導部と、若いラディカルたちの間で、分裂が強まっている。それは、79歳のペロシと、29歳のOcasio-Cortezオカシオ=コルテスという、世代間の対立である。若いラディカルたちは、ペロシがトランプの弾劾を行わず、その他の政策にも慎重な姿勢に、次第に不満を強めている。ペロシが4人組をからかった後、オカシオ=コルテスはなぜ「有色女性」を攻撃するのか、と反発し、支持者の1人はペロシを白人至上主義者の仲間と非難した。これはトランプの思うつぼだ。彼はまさに、民主党を、過激な4人組の擁護に追い詰める。

トランプのやり方は、敵に火を放つ、危険な、アメリカ的でないやり方だ。しかし、だから失敗するとは言えない。

NYT July 18, 2019

Donald Trump Hates America

By David Brooks

NYT July 19, 2019

The Joy of Hatred

By Jamelle Bouie


 ラガルド

The Guardian, Mon 15 Jul 2019

Christine Lagarde will have to confront Berlin if she’s to save the euro

Yanis Varoufakis

FT July 15, 2019

Lagarde set to inherit Draghi’s counsellors at ECB

Claire Jones in Frankfurt

PS Jul 18, 2019

What’s Next for Europe’s Capital Markets?

JONATHAN FAULL, SIMON GLEESON


 ジョンソンのケーキ主義

FT July 15, 2019

Boris Johnson, ‘cakeism’ and the Blitz spirit

Gideon Rachman

ボリス・ジョンソンの名が、ある政治思想と固く結び付いているとしたら、それは「ケーキ主義」であるだろう。それは、困難な選択をすることなしに統治できる、という考えだ。

党首選挙の間、ジョンソンは、まさにケーキ主義者として運動した。彼は、数か月内にもっと良い条件でEUと合意できる、と約束した。しかし、彼はまた、もし新しい合意が達成できない場合、合意なき離脱も「準備しておけば、ほんのわずかなコストしかかからない」と聴衆に約束した。

この考えは専門家たちと全く異なるものだ。食品、自動車のような、主要産業で何千人も失業するだろう。混乱の規模と期間は、過去2世代に及ぶ人々が、発展した世界の経験したことがないほど深刻なものだろう。

ジョンソンは常に、こうした予測を、無価値の破滅論者と非難してきた。彼が首相になって、合意できず、大きなコストが生じたとしたら、どのように対処するのだろうか? それは「電撃精神」“Blitz spirit”であろう。第2次世界大戦の間にイギリス人が逆境において示した、国民的な連帯の精神である。彼が、イギリスの「最高の瞬間」をもたらした首相、ウィンストン・チャーチルの伝記作者であるのは、偶然ではない。

ジョンソンにとって最も困難な条件とは、BrexitをめぐってUKが深く分断された状態にあることだ。電撃が来る前に、邪悪な、避けることのできない敵に対して、生存を賭けて戦うのだ、という信念をもって、多かれ少なかれ、イギリスを団結させねばならない。しかし、国民の半分は、EUではなくジョンソンが、合意なき離脱をもたらした犯人だ、と思うだろう。

それゆえ彼は、新首相として国民の団結を率いることはなく、辞任を求める、憤慨したデモに直面するだろう。21世紀のチャーチルになる、という彼の白昼夢は終わる。

ジョンソンは、イギリス版のマリー・アントワネットである。愚かな提案をしたことで悪名高い、フランスの女王だ。

FT July 15, 2019

The new prime minister may have a very bumpy ride

Catherine Haddon

PS Jul 15, 2019

Boris Johnson and the Threat to British Soft Power

GORDON BROWN

FT July 18, 2019

Boris Johnson, Donald Trump and a lopsided special relationship

Philip Stephens

FT July 18, 2019

Here is what awaits the next UK chancellor

Chris Giles


 Libra論争

FT July 15, 2019

Digital upstarts need to play by the same rules as everyone else

David Liptonacting managing director of the IMF

小さなスタートアップ企業からFacebookまで、デジタル企業が、大銀行やカード会社を押しのけようとしている。IMFは、いわゆるステーブルコインの増大を慎重に観察しているが、月曜日、その報告書を発表した。

ステーブルコインの提供者は、ビットコインのような暗号通貨よりも浮動性の少ないものだ、という。インターネットで情報を交換することで、取引を確実、安価、瞬時に行う、ことを望んでいる。提供者の奥は、その額面価値を現金で払い戻すことを保証している。しかし、彼らは銀行のような政府による保証を受けていない。価値が失われるリスクがある。

なぜステーブルコインを使用するのか? それは便利だからだ。低コストで、グローバルに利用でき、迅速かつ容易に利用できる。特に、アフリカなどでは金融への包摂を拡大する。しかし、その魅力は、ソーシャル・ネットワークと同じように、取引が容易であることだ。

銀行とカード会社は独自の技術革新、より高い金利を提供して競争するだろう。われわれはこうした競争から利益を得る。

しかし、リスクも存在する。1.独占。2.新しい「ドル化」。3.消費者保護と金融の安定性確保。4.犯罪。5.「シニョレッジ」の喪失。

ステーブルコインを、MMFと同じように規制するのか。あるいは、中央銀行に準備を置く、「中央銀行デジタル合成通貨」にするのか。

PS Jul 16, 2019

The Great Crypto Heist

NOURIEL ROUBINI

すべての文明的な国家がその金融システムを厳しく規制していることには理由がある。2008年の世界金融危機は、要するに、金融規制を大きく緩和したことで起きたのだ。悪人、犯罪者、詐欺師は現実に存在している。投資家たちが彼らから保護されていなければ、金融システムは本来の目的を達することなどできない。

暗号通貨は、公式の金融監視の外側で容易に設立され、取引されている。そして法令順守のためのコストを免れることが効率性の源泉として宣伝されている。その結果は、暗号化された、規制のないカジノの王国であり、犯罪行為が暴徒を駆り立てている。

たとえば、暗号通貨のデリバティブを取引するBitMEXを観ればよい。規制のない何兆ドルもの取引が行われている。タックスヘイブンに登録されているが、グローバルに取引し、CEOArthur Hayesは、それが100倍のレバレッジを含むギャンブルだと認めている。

規制のない市場が詐欺師・犯罪者たちの楽園になるのは当然だ。暗号通貨取引は、数兆ドルの規模の産業をもたらしたが、そこにはジャーナリストを称する宣伝・称賛者、金融解説本を売り歩くご都合主義者、規制の免除を求めるロビーストたちが群がっている。その背後で犯罪者たちがかき集める資金は、ゴッド・ファーザーも恥じ入るほどだ。

アメリカなど、各国の法を執行する機関は介入するべきだ。しかしこれまでのところ、金融監督者たちは暗号通貨の癌が転移するまま放置している。

PS Jul 16, 2019

Will Facebook’s Libra Turn into a Cancer?

ANDRÉS VELASCO, ROBERTO CHANG

FacebookLibraは、特に発展途上諸国で、金融サービスで困難な状態にある人々の大きな利益となる、と強調した。しかし経験から考えて、それは1つの災厄になりそうだ。

19914月、アルゼンチン政府はアルゼンチン・ペソの価値をUSドルに固定する、と発表した。ペソは、信頼できるドルによって保証された。1世紀に及ぶ通貨価値の不安定さから解放されたのだ。

市場はこれを歓迎した。しかし、10年後、政府はペソの価値を引き下げ、その後、変動させた。数か月間で価値の3分の2が失われた。深刻な政治危機の中、2週間に5人の大統領が現れた。820億ドルの政府債務がデフォルトになった。世界最大のデフォルトだ。

アルゼンチンの政策は、カレンシー・ボードとして知られるが、Libraも同じである。その価値を主要通貨で保証する。残念ながら、その主要なリスクは、カレンシー・ボードによる通貨価値の切り下げである。

Libraを管理するthe Libra Associationは、同様の間違ったインセンティブの下にある。Libraが普及した後、彼らがわずかに切り下げるだけで、莫大なキャピタル・ゲインを得るだろう。しかし、それほどあからさまな決定はしないはずだ。むしろ、バスケットの比重を変える、ということをする。

アルゼンチンで起きたことだ。「技術的理由」で比重が調整された後、「たまたま」比重を増やした通貨価値が失われた。Libra計画にも、こうした時間不整合性の問題を解決するガバナンスが必要だ。

これに加えて、the Libra Associationが利益を得る方法も問題である。彼らは主要通貨を保有して利子を得るが、Libraに利子は付けない、という。それは自国通貨を発行できる中央銀行が得ている特権的利益と同じであり、シニョレッジ、とよばれる。

Facebookは、もっと金利が高くなっても、この利益を黙って取得するのだろうか? さらに、Libraの価値を保証するための準備は、全額ではなく一部にして、もっと高い利回りを得るようなリスク資産を購入する、という選択をしないだろうか? その場合、商業銀行システムと違って、Libraには連銀の「最後の貸し手」がない。もちろん、その時点で、「大きすぎて潰せない」という問題がLibraシステムにあるから、連銀は救済するしかないだろう。これも時間不整合性の問題だ。

Libraが金融サービスに多くの貧しい人々を包摂する、という主張は嘘ではないだろう。しかし、もっと深刻な問題が起きる。居住者が保険として銀行預金や契約にドルを使用する、いわゆる「ドル化」だ。発展途上諸国で「最後の貸し手」が機能せず、金融不安定性が増したこと、金融政策の効果が失われ、輸出や雇用を増やすために通貨を切り下げることができなくなることは、Libra化によって強まるだろう。

Libraには十分な政府規制が必要だ。

FT July 19, 2019

G7 crypto opposition masks warmer stance for wholesale markets

Philip Stafford in London


(後半へ続く)