IPEの果樹園2019

今週のReview

7/15-20

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アメリカは貿易戦争に勝てない ・・・ギリシャにおけるシリザの敗北 ・・・香港民主化デモ、北京、台湾 ・・・ECB総裁とEUとのユーロ圏改革 ・・・アメリカ経済の評価と運営 ・・・ブレトンウッズ会議の75周年 ・・・ポピュリズムの2つの説明 ・・・多国籍企業への世界課税

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 アメリカは貿易戦争に勝てない

NYT July 4, 2019

Trump Is Losing His Trade Wars

By Paul Krugman

ドナルド・トランプの発言、「貿易戦争は良いことだ、簡単に勝てる」というのは、歴史の教科書に載るだろう。良い意味ではなく。それはディック・チェイニーの予言、「われわれは、実際、解放者として歓迎されるだろう」に並ぶ顕著な例だ。重要な政策が、しばしば、傲慢さと無知によって決まる、ということを示している。

現実に、トランプは貿易戦争に勝利しつつあるのではない。確かに、彼の関税は中国を傷つけ、他の諸外国も傷つけた。しかし、関税はアメリカ経済も傷つけた。

貿易戦争とは何か? エコノミストも歴史家も、国内政治的な理由である国が関税を課すとき、それを貿易戦争とは呼ばない。アメリカも1930年代までしばしばそうした。「貿易戦争」というのは、関税の目的が強制であること、他国に苦痛を与えて、その政策をわれわれの気に入るものに変えさせることをいう。

G20でトランプは、中国との貿易戦争を休止することに合意した。あいまいな相互の譲歩と交換に、新しい関税を課すことはやめた。

なぜトランプはその意志を押し付けないのか? 3つの理由があると思う。

1に、簡単に貿易戦争に勝てる、と思うのは、破滅的なイラク戦争に突き進んだのと同じ、独我論である。独自の文化や歴史、アイデンティティーを持ち、独立を誇りとし、外国の嫌がらせに屈服すると感じるような譲歩を強く嫌うのは、われわれだけではない。それがわかっていないのだ。

特に、ほかでもない、中国が屈辱的な降参を意味する取引に応じる、と思うのは、正気じゃない。

2に、トランプの考える「関税を武器にする権力者」は過去のイメージだ。彼らはマッキンリーの政策を懐かしそうに語る。しかし、単純な問いを答えてみるべきだ。「それらの製品はどこで作られたのか?」

現代ではどのような製品でも、多くの国境を越えるグローバル・バリュー・チェーンの生産物である。もし中国で組み立てられた製品に関税を課せば、その効果は韓国や日本からの部品に及び、組み立て工場はアメリカではなく、ベトナムなど、他のアジア諸国に移転されるだろう。

最後に、トランプの貿易戦争は支持されない。彼の支持率も下がるだろう。そえれゆえ彼は、関税に対する報復に弱くなる。

これはどのように終わるのか? 貿易戦争は決して明確な勝者を持たず、しばしば、世界経済に長期的な傷を負わせる。1964年に、アメリカは冷凍のチキンをヨーロッパに買わせるため、軽い関税を課した。しかし、55年経ってもそのままだ。

トランプの貿易戦争ははるかに大規模だ。しかし結果は同じだろう。いくつかの些末な譲歩を得て、トランプは大勝利だと叫ぶが、皆が貧しくなるだけだ。そして、アメリカの信用はすでに大幅に損なわれ、国際的な法の支配は弱まった。


 ギリシャにおけるシリザの敗北

The Guardian, Fri 5 Jul 2019

Syriza betrayed its principles – and the Greek people. Its days are numbered

Alexander Kazamias

20151月、進歩的な世界は、EUが押し付ける緊縮策に拒否するSyrizaシリザの総選挙における勝利と、ギリシャの新しい時代を称えた。4年を経て、Alexis Tsiprasチプラスのかつてのラディカルな政党は、日曜日、死者のように投票所に向かう。シリザは今や、左派、社会民主主義者、保守派、右派ポピュリストのごった煮である。右派ポピュリストたちは、かつてシリザが反対した、ユーロ圏を崩壊に導くネオリベラルな政策を擁護している。

右派の新民主主義党との最大の違いは、左翼政党である、と主張することだが、ばかばかしい。政府は一貫して、トロイカ(欧州委員会、ECBIMF)のネオリベラルな改革実現に多大の情熱を注いだ。

シリザが支配した4年間は、アイデンティティーの喪失、信頼を失い続けるものだった。政権にあるシリザは、妥協と後退に満ちており、政治的な方向性は靄に包まれ、形も中身も失った旧左派の亡霊になった。

その多くが2015年夏、多くの条件が付いたトロイカの救済融資をチプラスが受け入れる、という大逆転にさかのぼる。そこには2060年までの緊縮策、2114年までの民営化による国際基金の積み立て、が含まれている。その中身に加えて、シリザの詐欺的な手法が、ギリシャの進歩派勢力に深刻な政治的・文化的悪夢を生じた。欧州議会選挙で、投票所の出口調査は示していた。「約束を破ったシリザを罰したい。」

チプラスはトロイカのネオリベラルな改革を称賛し始めた。安価な融資、財政の健全性、回復へ進む道を得た、と。かつて「ギリシャ経済を絞首刑にする」と非難していた3.5%の予算黒字目標を超過しない、とチプラスは誇った。

チプラスにはギリシャの改革を進める知的な関心も政治的原則もなかったのだ。その経過が日曜日の選挙における敗北につながっている。彼はポピュリストではなく、機会主義者である。チプラスが親交を深めるのは、ドナルド・トランプ、ベンヤミン・ネタニヤフ、そしてサウジアラビアだ。

The Guardian, Mon 8 Jul 2019

The three mistakes behind Syriza’s demise in Greece

David Adler

20151月、チプラスAlexis Tspirasはラディカル左派の猛烈な指導者として政権を執った。彼はギリシャの寡頭制に戦いを挑み、EUのテクノクラートに抵抗し、世界中の投資家たちに恐怖を与えた。

しかし、その後の4年間に、彼は、闘うと言っていたエスタブリッシュメントに、自分の魅力を売り込んだ。旧寡占家族を守り、新しい寡占的支配層を生み出した。ドイツのショイブレ財務相が「弱者に負担させる」ことを責めたほど、野蛮な緊縮策を採った。わずかな税金しかとらない、ゴールデン・ビザを与えると約束して、国際投資家たちに服従した。

チプラスの変身は予想されたことだ。右派の批評家は、冷徹な現実に直面してラディカルな政治が生み出した当然の副産物だ、という。シリザの闘う姿勢を、チプラスは単に卒業した、と。他方左派の批評家は、それをEUの反民主的な構造が不可避的にもたらす結果だ、という。トロイカと戦っても勝ち目はなく、シリザの夢は最初から死んでいた。

しかし、こうした見方は、チプラスが首相として担ったもの、その政治的な究極目標に挑んだ意欲を、過小評価している。

まさに、彼が首相となった状況は容易なものではなかった。グローバル資本主義の課す制約は、さらに困難であった。船舶を所有する寡占家族を激しく攻撃すれば、彼らは単にこの国を捨てるぞ、と彼は警告された。われわれは彼が首相として味わった苦しみに共感するだろう。

しかし、何一つ、宿命ではなかった。寡占家族が国を捨てるのか、彼らの資産を差し押さえるのか。莫大な土地と資産を、ExxonMobilのような、大企業のオークションに委ねるのか。ギリシャの難民キャンプにおける過密状態、性暴力、「医師、薬、食料、飲み水」の不足をどうするのか。サウジアラビアのMohammed bin Salmanに武器を売るか、ネタニヤフに支援の笑顔を振りまくか、ドナルド・トランプから戦闘機を買うか。

つまり、チプラスはトロイカの囚人ではなかったし、そのラディカルな理想をむき出しのリアリズムに替えたわけではなかった。彼はむしろ積極的に右派政権として、自身の政府を世界に売り込んだ。

それはシリザの支持者の多くにとって、耐え難い裏切りだった。シリザの歴史的な支持基盤である若者たちは、シリザから新民主主義党の支持に変わった。年金生活者のさらに多くが支持から反対に変わった。


 香港民主化デモ、北京、台湾

FT July 8, 2019

Xi Jinping faces his moment of truth in Hong Kong

Gideon Rachman

中国に、民主主義という妖怪がさまよっている。香港の街に広がる大規模な抗議デモは、1989年の天安門事件以来、中国共産党に対する最大の挑戦である。

北京はデモが、2014年の雨傘革命と同じように、自然に消滅することを願っている。しかし、香港の庶民に至るまで、共産党一党支配体制の下に住みたくない、という本質的なジレンマは続くだろう。抵抗運動はいつでも再燃する。

香港に本当の意味での選挙を許せば、同様の運動が本土で起きる、という問題を生じる。香港の騒乱は、中国政府が慎重に広めてきたイメージ、最高の信頼と有能さ、を破壊した。

香港は150年以上も植民地として支配された特別な場所だ、という説明は、中国の他の土地と同じような弾圧を進める現実に合わない。新聞は事実を伝えられず、Joshua Wongのような民主化の活動家は本土への旅行を禁止されている。

北京の反応は、ナショナリズムへの刺激だ。「100年の恥辱」を教育されてきた世代が、香港を愛国心がない、外国の手先だ、と攻撃する。しかし、それは習近平の願望を否定することになる。習は、台湾を取り戻すことではなく、香港を失うことで記憶されるだろう。

それゆえ、香港政庁は一時的な戦術的譲歩を示した。しかし、一部のデモ隊は本当の民主的機関ではない立法院を占拠して破壊しようとした。北京は香港に議会を認めて、それが先例となること、独立を主張する政党が議会で多数を占めることを恐れている。

改革ではないとしたら、それは弾圧だ。しかし、その選択も危険である。大規模な逮捕、投獄は、殉死者を出し、さらなる抗議デモを呼ぶ。軍を展開すれば流血の鎮圧行動に至り、国際的非難、経済制裁、香港経済への将来の信頼は失われる。100万人を殺戮することは道義に反する。

北京は、ソ連を崩壊させたのはゴルバチョフの失策であった、と確信している。東ベルリンで反体制デモを観たゴルバチョフは、ソ連軍を動かすことを拒んだからだ。しかし、それは誤算ではなく、道義による選択であった。習近平も問われるだろう。

PS Jul 8, 2019

The Limits of Mass Protest in a Dictatorship

IAN BURUMA

香港のデモには指導者がいない。それは政党のような組織ではない。その有利な点を意識しているが、同時に多くの異なる意見がそのまま伝わり、暴力的な行動も起きる。1989年の天安門広場でも、経験ある活動家は政府による武力弾圧の危険を重視して、平和的な方法に転換するよう訴えた。

街頭デモだけで民主主義の政府を変える効果を持つことは困難だ。ベトナム反戦デモは大規模に続けられたが、その後も数年は戦争を止められなかった。2011年のウォール街選挙運動は、何ら効果的な改革を生まなかった。

民主主義の政府には、再選のために選挙民の意識を受け止める必要がある。しかし、独裁体制の下では、それは難しい。たとえガンディーでも、ヒトラーに対する非暴力のデモは無駄である。

香港の民衆にとって、何が有効な政治的手段なのか。もし小さなチャンスがあるとしたら、北京政府が国際的な威信を高めたいと願っていることだ。そして、香港が中国本土の民衆に支持されることだろう。暴力を抑えて、平和的な方法で抗議を続けることが、中国本土の人々の共感を得る。


 ECB総裁とEUとのユーロ圏改革

FT July 8, 2019

Christine Lagarde’s opportunity to reform the eurozone

Wolfgang Münchau

ラガルドChristine LagardeECB総裁に指名されたことは、ユーロ圏改革の構図を大きく変える可能性がある。変わるのは金融政策ではなく、EUの他の機関との将来の相互作用だ。

ほかにも、欧州委員会委員長にはUrsula von der Leyen, German defence minister; 欧州理事会議長にはCharles Michel, Belgian prime minister; EU外務・安全保障政策上級代表には Josep Borrell, Spanish foreign ministerが指名された。彼らがすべて欧州連邦支持者であることは、予期されなかった幸運な結果である。

ラガルドもそうだ。ここに初めて、EUのすべてのトップにEU改革とユーロ圏改革を推進する者が就いた。

ラガルドは、内部で対立する次の量的緩和を行うより、ECBの独立性を失わない形でEU諸機関と協力することが望ましいだろう。ドラギが述べたように、財政政策がより大きな役割を果たす必要がある。ヨーロッパ諸国の政府債が非常に低い利回りであるのは、安全な資産が不足していることを意味する。IMF専務理事とフランス財務相を務めたラガルド以上に、財政・金融協力の新時代を拓くにふさわしい指導者はいない。

理想的には、ドイツが財政黒字を永久化する憲法を改正するべきだ。それは実現しそうにない。また、イタリア政府が財政刺激策を求めることも理解できる。

ユーロ圏は、真に統合された資本市場同盟を必要としている。大規模なユーロ債市場だ。改革派のフランス、マクロン大統領や、スペイン、サンチェス首相を、ラガルドは支援できる。いわゆる新ハンザ同盟と、その指導国であるオランダは、ユーロ圏改革に反対している。しかし、欧州委員会委員長にドイツの保守派フォン・デア・ライエンを指名したことは、マクロンの英断だった。ドイツはマクロンの改革案を無視できないだろう。

ドイツはなお、「財政移転同盟」として改革を嫌っているが、ユーロ圏が求めるのは目黒経済の安定化メカニズムである。それは加盟国の財政規律とECBの救済禁止原則を強化するものだ。

ユーロ圏が進むべき道はここにある。それを選ぶかどうかは、メルケルの後継者にかかっている。


 アメリカ経済の評価と運営

PS Jul 9, 2019

Is Plutocracy Really the Problem?

J. BRADFORD DELONG

世界金融危機後の大不況が、大恐慌の教訓を生かすことに失敗したのはなぜだったのか? 最近まで、Martin Wolf Barry Eichengreenは、危機後において、右派のイデオロギーが支配的であったことを挙げた。

今、Paul Krugmanは異なる説明を示す。それは、世界の所得上位の0.01%3万人(その半分はアメリカに住む)が経済政策を自分たちに有利なものに変えたからだ、ということだ。超富裕層は失業を無視し、政府債務の増大を嫌って、財政緊縮策を求めた。

しかし、この説明は、超富裕層が自分たちの富を増やす政策を求める政治的な方法がないことを無視している。むしろ、超低金利が危機を緩和し、不況が終わったような錯覚を与えた。また、党派に分断された政治が、政府に十分な不況対策を採れなくしていた。2009年から、オバマ政権になっても、大恐慌を抜け出す公共投資の重要性は無視され、緊縮策が続けられた。

異なる政策を要求する声が存在しなかったことが重要である。1930年代なら、商工会議所や労働組合が、選挙を通じて、議員たちに積極的な支出を求めただろう。


 ブレトンウッズ会議の75周年

FT July 10, 2019

Martin Wolf on Bretton Woods at 75: global co-operation under threat

Martin Wolf in London

「われわれは国益を守る最も賢明で最も効果的な方法が国際協力であるということを認識した。言い換えれば、それは共通の目標を達成するために団結するということだ。」

これはアメリカのモーゲンソーHenry Morgenthau Jr財務長官が、1944722日に、ブレトンウッズ会議の閉会の辞で述べたものだ。

「われわれは、われわれの製品を作り、われわれの会社を盗み、われわれの仕事を破壊する他国の破壊行為から、国境を保護しなければならない。保護が偉大な繁栄と力をもたらす。」

これはドナルド・トランプが、2017120日の就任の辞で述べたことである。

ブレトンウッズ会議は、ニューハンプシャーで、まだ第2次世界大戦が終わっていないとき、194471日から22日に開催された。西側の大国は、特にアメリカは、将来のよりよい世界に向けて、事態を異なるやり方で組織しようと考えていた。

ブレトンウッズの精神が数十年後に世界を形成したのか、失敗したのか、考える機会である。それは、戦間期の国際連盟に似ている。50のエッセーを集めたRevitalising the Spirit of Bretton Woodsは、この課題に取り組んでいる。

Paul Volcker, former chairman of the US Federal Reserve ・・・ブレトンウッズの精神とは、「国際協力における共通の利益を信じ、為替レートに応じた良い行動とは何か基本ルールを信じ、多方面で「新興」諸国の発展の必要を信じること」。

世界の1人当たり所得は、人口が3倍になったために、約4倍になった。1950-2017年に、世界貿易は39倍になった。12ドル以下で生活する貧困人口は、1950年の75%から、2015年には10%に減少した。

それはすべてが円滑に進んだことを意味しない。調整可能な釘づけの為替レート体制は1971年に崩壊し、ドルと金との交換はニクソン政権において破棄された。1970年代はインフレが高進したが、大きなコストを支払って、1980年代に沈静化された。銀行や債券市場の自由化が進み、2007-2013年、世界金融危機とユーロ危機が起きた。

ドル高と日本の成功によって1980年代に保護主義が高まったが、無差別な貿易システムも次第に優遇(差別化)通商協定を増やした。

国際協調の制度化は、その焦点を、アメリカの支配から、中国の超大国への前進に移した。ナショナリズムや保護主義が広まり、アメリカが「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ政権になって、西側の内部に基本的な脅威がある時代となった。高所得国における脱工業化、不平等の拡大、生産性上昇の減速、予期せぬ金融危機のショック、などが政治変化と連動している。

気候変動、技術革新、特にデータの国境を越えるフロー、さらに、汚職、破綻国家、移民・難民など、協調的なグローバル経済秩序はどのように維持できるのか? ドルへの依存には問題がある。しかし、ユーロや人民元はその代わりにならない。「持続的開発目標」の達成に必要な投資は、どこから来るのか?

既存の国際制度は改革しなければならないが、ナショナリズムが強まっている。国家は島ではない。75年前よりも、グローバルな協力が重要になっている。

「リアリスト」たちは国際協力をパイプ・ドリームだと言う。確かに、かつてアメリカが築いたような階層的秩序を築く超大国はもはやない。

Keyu Jin of the London School of Economics, one of only two Chinese contributors ・・・中国人として参加した2人のエコノミストがいる。その1人のKeyu Jinによれば、中国が目指すのは、伝統的な覇権国家ではなく、「グローバル・ネットワーク・リーダー」である。中心にある問題とは、他国が従う覇権国家なしに、この複雑で、相互依存した、環境に負荷のかかる世界に、秩序を与え、協力させる方法を見つけることである。

モーゲンソーは正しかった。トランプは間違っている。たとえ実現は困難でも、真理は単純だ。


 ポピュリズムの2つの説明

PS Jul 9, 2019

What’s Driving Populism?

DANI RODRIK

現代のポピュリズムの広がりを説明するのは、文化なのか、経済なのか? ドナルド・トランプの大統領当選、Brexitを支持した多数派、ヨーロッパ諸国に広がる右派ネイティビズムの諸政党。これらは保守的な価値とリベラルな価値との対立なのか? あるいは、経済的不安や不確かな生活、金融危機、緊縮策、グローバリゼーションの結果なのか?

権威主義的なポピュリズムの源が経済問題であれば、適当な対応策がある。経済的な不正義を解消し、包括的な成長モデルを実現することだ。政治において異なる意見があっても、民主主義を損なうことはない。しかし、文化や価値観における対立には、解決策がない。リベラルな民主主義は、その内部から、矛盾を深めて崩壊するかもしれない。

Pippa Norris and Ronald Inglehartの研究によれば、権威主義的ポピュリズムは長期的な世代にわたる価値観の変化によって生じた。より若い世代が豊かで、教育水準が高く、安定した職を得るにつれて、「脱物質主義的」な価値観を持つようになる。世俗主義的(宗教的でない)、個人の自律と多様さを重んじ、信仰、伝統的な家族、集団的な統一を軽視する。高齢の世代は疎外されるようになる。「自分の国でも異邦人である」と感じる。伝統主義者は少数派になるとしても、より多く投票し、政治的な意識が高い。

Will Wilkinsonによれば、都市化が文化・政治的な選別機能を強化する。都市化は、繁栄する、多文化的な、高密度の地域を創りだすが、そこではリベラルな価値が支配的である。同時にそれは、地方や、より小さな都市のセンターを、変化の後方へ置き去りにし、人々はますます社会的な保守主義に傾き、多様性を嫌うようになる。

この過程はそれ自体で強め合う。大都市の成功は都市の価値観を強化し、遅れた地域から自ら望んで都市へ移住する人々は、一層の分極化を進める。ヨーロッパでも、アメリカでも、同質的で、社会的に保守的な地域が、ネイティビズムのポピュリストたちを支持している。

多くの研究が、ポピュリストの政治的支持と経済ショックとの結びつきを示している。David Autor, David Dorn, Gordon Hanson, and Kaveh Majlesiによれば、2016年の大統領選挙でトランプを支持した地域は、中国からの輸入が増大した地域であった。イギリスのBrexitやヨーロッパの極右ナショナリスト政党への支持も、中国製品の浸透と関係している。

文化的要因と経済的ショックの対立する説明は、よく見れば、ある種の収束を示すものだ。なぜなら文化的な趨勢の変化で、ポピュリストたちの政治的反動を説明することはできないから。それは長期的な性格の問題だ。しかし、中国貿易のショックといった経済的要因は、真空の中で起きるわけではない。社会・文化的な分断が進む状況で生じている。

文化的な要因に対する解決策は明らかでなくとも、不平等や不確実さに対する経済的な解決策は必要であり、間違いなく重要である。


 多国籍企業への世界課税

FT July 11, 2019

A rare chance to fix the global corporate tax system

José Antonio Ocampo

フランスは、次のG7を主催することで、「規制のある、より公平で、より平等なグローバリゼーションを通じて、不平等の問題と闘う」特別な機会を得た、と1月に発表した。

来週、フランスのChantillyに集まる財務大臣たちは、ついに国際課税体系の全面的な見直しを行い、多国籍企業に公平な負担を支払わせ、政府がより大きな財源を得るようにするだろう。

多国籍企業は支店間で利潤を移転し、税額を最小化している。たとえば、高税率の国にある企業は、知的財産を低税率(もしくは無税)の国に移動させる。このような手法は、デジタル企業やデジタル取引にとって、さらに容易になっている。Gabriel Zucmanの推定によれば、多国籍企業の海外における利潤の40%はタックス・ヘイブンに移転されている。

大衆的な怒り、インドのような世界秩序に挑戦する大国からの要求は、国際税制を改革するか、もしくは、一方的に各国の法律を変えるか、を迫っている。

国際法人税改革に向けた独立委員会The Independent Commission for the Reform of International Corporate Taxation(私が議長である)は、客観的要素(売上、雇用、資源、デジタル・ユーザーなど)に基づく、多国籍企業の利潤に関するグローバルな税の分配方式を推奨している。それは、多国籍企業による雇用が大きなシェアを示す発展途上諸国に有利な、雇用を含む方式である。

委員会は、ドイツとフランスも支持する、最低法人税率を提案している。タックス・ヘイブンにある多国籍企業の利潤は、このグローバルな最低税率に従って、本国で課税されるだろう。したがって、税の引き下げ競争(底辺への競争)を防ぐことができる。最低法人税率に合意する諸国は税の優遇策を失うが、法人税による税収を得られるだろう。これは多国籍企業の豊かな本国にとっても利益である。

国家内、そして、国家間の不平等には是正策が必要だ。諸政府は、この機会を逃してはならない。

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The Economist June 29th 2019

How to contain Iran

Financial Services: Can the City survive Brexit?

America and Iran: The narrowing gyre

Chaguan: What next for Hong Kong?

Gambia: Parade of horrors

Charlemagne: Back to the barricades

Financial centres after Brexit: City under siege

Mini-BOTs: Funny money

Financial crime: Cracking the shells

(コメント) アメリカとイランの対立も、BrexitによるCityの危機も、香港民主化デモと北京も、時代の重要な転換点です。

しかし、面白いな、と思うのは、EU政治の考察です。移民・難民危機に変わって、気候変動がヨーロッパ政治を翻弄し始めています。記事は、移民・難民危機の教訓から、環境問題を「文化戦争」にしてはいけない、と考えます。環境規制に反対する者を説得するとき、彼らを偏見や無知によって非難し、愚弄するのではなく、気候変動対策による経済的影響を十分に考慮し、困難を強いられる地方に対する十分な補償や対策に投資しなければなりません。

こうした手間のかかる政治を否定して、ポピュリズムによって権力を得た者は通貨や金融、バブルに頼ることを考えるかもしれません。

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IPEの想像力 7/15/19

大阪の実家で母と晩ごはんを食べ、テレビの前に座ると、この町の参議院候補者たちが並ぶ選挙委員会の広報がありました。

これは、なんとも不思議な景観です。定員4人に対して12人が並びます。・・・日本維新の会・東とおる・・・幸福実現党・数森けいご・・・立憲民主党・かめいし倫子・・・オリーブの木・あだちみちよ・・・NHKから国民を守る党・尾崎全紀・・・日本維新の会・梅村みずほ・・・自民党・太田房江・・・安楽死制度を考える会・浜田たけし・・・日本共産党・たつみコータロー・・・国民民主党・にしゃんた・・・労働者党・佐々木一郎・・・公明党・杉たけひさ

比例代表選挙と複数の定員がある選挙区選挙、というシステムの性格から、こうした多数の候補者、思いもよらない不思議な(?)政党が現れるのでしょう。これは欧州議会選挙に似ているのでは、と思いました。インターネットやSNSの利用、現状に対する批判票・浮動票、話題性、など、ドナルド・トランプやイギリス独立党UKIPそしてBREXIT党に似た政治現象を感じました。

欧州議会選挙が、もしかしたら、積極的な政治の構造変化を促し、既存政党を解体して、社会の不満を吸収し、新しい要求を反映する積極的な動きであった、という意味で、この候補者乱戦の投票結果を、研究者たちはくわしく分析してほしいです。

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しかし、そうであれば、どうしてないのか、と思いました。「70歳以上の老人のためのベーシック・インカムBI」を求める政党です。

老人のためのBIは、医療費・社会保障費・社会インフラ維持費用の削減に役立つように設計できると思います。老人たちは、資産、田畑や住宅を、子供たちに相続させ、あるいは、自治体に寄付します。老人たちは、望むなら、町や村の医療・社会福祉センターの近隣に住むことができます。安価な地区の住宅をリフォームして、共同で暮らしやすくするだけでなく、各地のケア・マネージャーたちが助けます。オレオレ詐欺をなくし、都市の縮減や開発計画にも役立つでしょう。

また、デフレや失業を解消するために、老人たちへの給付を通じて、日銀・政府はQE(量的緩和)をおこなうべきです。それは時限制の購買力として給付し、効果的に有効需要を増やすヘリコプター・マネーになります。

日本において、グローバルなメガロポリス、東京圏だけが繁栄する成長モデルは、地方の衰退を広め、所得格差を拡大しています。都市における非正規の労働者が不安定な暮らしを続けることも、外国人労働者が厳しい条件で搾取されることも、不当だと思います。地方における農業や酪農を振興するために、こうした外国人や若い家族を招くことはできないでしょうか。なぜなら、そのことが都市の労働条件も改善するからです。

都市でも地方でも、さまざまな分野でハイテク基地を集積することは、将来の成長分野を開拓するうえで重要でしょう。インターネットや物流を整備した地方に、外国企業・労働者の参加を促す。科学者や研究者、エンジニアの、家族での移住を奨励します。そのための社会インフラ(日本語教育・子供のケア・就労のあっせん・医療や年金)を整備し、住民とのコミュニケーション、ネットワークを支援します。もちろん、彼らも日本で長く(30?)暮らせば、老人たちのベーシック・インカムに参加します。

アベノミクスや、株価・金融資産を膨張させたQEに代わって、持続可能な社会への転換に向けた長期の投資・融資が重要でしょう。福島原発事故とその終わりの見えない廃炉作業、沖縄の米軍基地問題と辺野古の埋め立て、こうした問題で国民の貯蓄を費やすより、アメリカでも主張されているような、グリーン・ニュー・ディールを期待します。

グリーン・ボンドを発行し、国境を越えてグリーン・ファンド、農村開発銀行を設立するのです。

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中井精也の「てつたび ベトナム縦断2000キロ」を観ました。成長に向けて希望を持って働けるとき、社会は一人一人の輝きを増す、と思います。

参議院選挙のごった煮が、エネルギーあふれる政治家を育て、面白い議論や、地方によって異なる活性化の試みに刺激を与えるとき、政党の名前や政治の姿もすっかり変わっているのでしょう。社会のビジョン、政策の中身について、多くの小さな討論会を有権者が組織してほしいです。

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