IPEの果樹園2019

今週のReview

7/8-13

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スーダンの弾圧と国際政治 ・・・プーチン=トランプのリベラリズム批判 ・・・EUECBのトップ人事 ・・・労働者に投資せよ ・・・イランの核武装は避けられない ・・・デジタル通貨の時代 ・・・金融政策は理解されているか ・・・香港の抗議デモ

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 スーダンの弾圧と国際政治

FT June 30, 2019

Middle East’s power struggle moves to the Horn of Africa

Tom Wilson in Khartoum and Andrew England in London

スーダンの民主化デモを軍隊が襲撃したとき、最初に非難されたのはRSFRapid Support Forces)だった。Omar al-Bashir4月に失脚してからスーダンを支配している軍人たちは、明確なメッセージを送った。民衆の要求に従って、民政に移管する気はない、ということだ。

RSFだけでなく将軍たちの行動を観るなら、それは地域の支援者たちを問題にすることになる。サウジアラビアとアラブ首長国連邦UAEだ。スーダンの活動家たちは、強力な湾岸諸国が弾圧に承認を与えた、と疑っている。

サウジアラビアとUAEは、弾圧を事前に知っていた、という主張を強く否定する。両国は地域の安定性を促している、という。スーダンとは歴史的に経済・政治関係があった。スーダンは、アフリカとアラブ世界とを結ぶ橋であり、紅海に長い海岸線を持つ国だ。

その主張に反して、両国の積極的な介入姿勢が問われる。「アフリカの角」を管理するために、その港やインフラに莫大な投資を行っている。

襲撃の10日前に、スーダンで最も強力な軍事指導者、RSFの司令官Mohamed Hamdan Dagaloは、サウジアラビアの都市ジェッダでムハマド皇太子と会っていた。また同じ週、スーダン軍事評議会の議長であるLt Gen Abdel Fattah al-Burhanは、UAEの事実上の指導者、アブダビの皇太子を訪れていた。UAEは、Bashir失脚後、軍事評議会に30億ドルの支援を約束した。

サウジアラビアとUAEは、スーダンの諸党派間で「生産的な対話」を求めた、というが、彼らの関心は将軍たちが彼らの利益を守ることだっただろう。そこには、イエメンにおけるイランの仲間、フーシ派反政府軍と戦うサウジアラビアの連合軍に、スーダンが軍を派遣し続けることも含まれた。両国は、エジプトで2011年に起きたような混乱を避け、軍事支配体制が継承されることを望んでいる、と専門家は指摘する。

2011年の「アラブの春」以来、リヤドとアブダビは、彼らが望む形に地域を積極的に作り変えようとしてきた。彼らの目には、各地の政治的イスラム主義の台頭にはイランの影響がある、と見える。オバマ政権が2015年にイランとの核合意を結んでから、リヤドとアブダビは地域の敵対者を積極的に攻撃する政策を展開し始めた。今は、スーダンの首都ハルツームでそれが示された。

2017年、湾岸諸国はカタールに禁輸措置を取った。カタールがイスラム主義を支援し、イランに接近した、という理由だ。また、トルコがカタールに接近し、アフリカにも関心を示していることを懸念している。

サウジアラビア、UAE、カタールは、豊富な石油資金を使って、貧しいアフリカ諸国を支援してきた。湾岸諸国は、石油の消費市場として西側を向くだけでなく、地域の農業資源として、また港湾や経済利益について、戦略的な国籍を追求する。アフリカの角の貿易、安全保障、地政学的重要性により、地域の軍事化は続くだろう。

民主化弾圧は、スーダンがそのダイナミズムの中にあることを示した。



 労働者に投資せよ

FT June 30, 2019

The silver lining for labour markets

Rana Foroohar

最近のニュースを見ても、世界が分裂を深めていることがわかる。問題を理解するには、身近なことに目を向け、特にアメリカと西欧で、労働者の経済的な分け前が減少したことを理解しなければならない。

通常、その原因として、グローバリゼーションが指摘される。最近のthe McKinsey Global Instituteの報告書は、アメリカ労働市場について、5つの理由を挙げたが、グローバリゼーションはその最後だった。むしろ、労働よりも資本が大きな報酬を得る、商品と不動産が、スーパーサイクルを示して膨張したことを挙げている。

しかし、第2の理由、経済における無形資産の重要性が増した、という点が、労働者(そして有権者)の不満を強めていると思う。それはコンピューターやソフトウェアであり、機械や工場よりもはるかに急速に価値を失う。短いライフサイクルで新技術の価格が下落し、また生産性を高める効果を失い、したがって多くの投資がそれらに向かうことで、労働者には投資されなくなった。

国内の地方にとってそれは重要だ。技術変化が旧来の工業地帯を特に激しく破壊し、ドナルド・トランプを大統領にする1つの理由になった。将来において、少数の地域が優位を得るだろう。McKinseyによれば、わずか25の都市・地域が、2030年までのアメリカの成長の60%を占める、という。技術のハブ、商品に恵まれた地域、観光業の中心地。他の都市・地域では、労働のシェアを減らし、資本を強化する各地の開発計画が進む。労働が生産コストの小さな部分を占めるようになれば、職場の海外移転は重要でなくなる。

顧客の近くに生産を移転することが重要になっている。貿易戦争が起きる前から、サプライ・チェーンの見直しが進んでいた。3DプリンターやAIのような新技術、ソーシャル・メディア世代の顧客は何週間も待ってくれない。スピードが何より重視され、近接性が評価される。

この変化はアメリカ、そして、UK、フランス、ドイツ、イタリアで、労働のシェア低下を逆転させるだろう。アメリカにおけるリスクは、労働市場の変化がすでにある政治の分断を強めることだ。「取り残された」町の多くに、ヒスパニックやアフリカ系アメリカ人が住む。将来、急速に自動化される分野に、若者たちは最初の職を見出す。他方、50代以上の労働者たちはスキルの低下による失業のリスクが高い。それは文化戦争、世代間戦争、政治的ポピュリズムに向かう。

解決策は、もっと人に投資することだ。税制を改正し、労働者に投資する企業にも、機械への投資と同様に、税を控除する。


 トランプのエゴによる外交

FP JUNE 30, 2019

Trump’s Ego Is Officially a Foreign Policy Crisis

BY JAMES TRAUB

イランのローハニ大統領は憤慨していた。アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イランとの核合意を離脱すれば、嫌がらせをして、一気に屈服させることができる、と確信しているからだ。

トランプの認識力には限界がある。しかし、彼はアメリカ外交の性格に無知である。彼は自分の立場の正しさを確信しており、その見解を受け入れない者が彼に何かを起こす、とは考えない。これは、トランプ版の「帝国の慢心」だ。

2次世界大戦後のアメリカ外交は、アメリカの行動の結果を考慮する者と無視する者との闘いであった。1947年、有名な手紙で、George Kennanは、ソ連に傾くリベラル派にも、戦術もなく、モスクワを脅迫するタカ派にも、警告した。

ジョージ・HW・ブッシュは、世界情勢を深く理解する、まれな大統領であった。彼はソ連の指導者ゴルバチョフがソ連の解体を管理するのを助ける必要があると理解していた。そのためにゴルバチョフを脅すことをやめ、敵ではなく同盟者として扱った。

しかし、もちろん、ジョージ・W・ブッシュは、911後のアメリカにおいて、その正義の感覚に翻弄された。アメリカは自由と正義を守る。それはどこにおいても人民にとって正しいから。安全保障は、そこに何が起きるか、ではなく、われわれは何者か、という問題であった。まさに、イラク戦争に進む先見主義だ。

バラク・オバマは、2009年、カイロ演説で、イスラムに敬意を示し、植民地主義のもたらした害を認めた。相互を尊敬する新しい関係を築こうとしたのだ。オバマはイランにも関係改善を求め、それが失敗しても、国連安保理の制裁を引き出して、イランを交渉の席に就かせた。

トランプは、もちろん、ジョージ・W・ブッシュのような自己催眠型の理想主義に苦しむことはない。彼の盲点は、信念ではなく、エゴだ。これまでは、アメリカの巨大なパワーがあったから、結果を気にすることなく、他国をいじめる本能に従うことができた。彼の、戦争を嫌う性格が、好戦的な顧問たちの助言を拒むように願うしかない。

他方、民主党の大統領候補たちは、外交政策を、国内の価値を延長して語っている。確かに彼らが言うように、アメリカは18年間も戦争し続けているし、外交と開発援助で問題を解決するのが良いだろう。しかし、われわれが生きる現実の世界には、それは十分に当てはまらない。オバマがかつて述べたように、世界をありのままに学ぶべきだ。


 リベラリズムとは何か

FT July 3, 2019

Liberalism will endure but must be renewed

Martin Wolf

リベラリズムとは何か? アメリカ人は、保守主義の反対がリベラリズム(リベラル)だと考えるが、それは違う。アメリカは、リベラルな考えで移民が作った国である。ヨーロッパにおいて、リベラリズムとは権威主義の反対である。

リベラルの語源は、ラテン語の自由な人、すなわち、奴隷の反対である。リベラリズムは哲学ではなく、その人の態度である。個人の人間性を信じ、人は自分のことを自分で決める、その能力を信じる。自分の計画、自分の意見、自分で公共の生活に参加する。

人々の活動の自由は、経済的・政治的な権利として保障され、制度がこれを守る。法の独立性が何より重要だ。経済主体として市場で協力し、自由な新聞や、政党の組織化が保証される。私的な利益と公共目的は区別され、汚職は処罰される。市民意識と寛容さが重要だ。

個人の自由と大きな政府とは、どちらもリベラルであることができる。そのバランスはいろいろだ。しかし、プーチンのロシアはリベラリズムの敵である。Anders Aslundが論じたように、ロシアのクローニー資本主義は、ツァー(ロシア皇帝)による専制国家の伝統にしたがうものだ。プーチンは、1990年代に、萌芽的な資本主義と民主主義の制度、法の支配、を絶滅させた。垂直的な権力の管理をクローニーに委ね、彼らは国家に制限のない権力を行使する。

しかし、プーチンが1つだけ正しい点は、リベラリズム、リベラルな民主主義が困難に陥っている、という主張だ。特に、移民の流入と不平等の拡大に、効果的な対応策を示していない。大衆の不満は、リベラルな民主主義の規範を無視する指導者に権力を与えた。微妙なバランスが崩れている。「非リベラルな民主主義」とは、リベラルでも、民主主義でもない。

リベラリズムはユートピアの計画ではない。永遠に進歩する作業なのだ。人間の行動を信じて、共に生きる技術である。それは出発点でしかなく、たえざる適応と調整が求められる。プーチンには、こうした考えがない。強制力と虚偽に依拠する社会秩序のほかは、考えることができない。われわれはそうではない。プーチンよりももっとうまく、もっと素晴らしい秩序を築くだろう。


 イランの核武装は避けられない

NYT July 1, 2019

Iran Is Rushing to Build a Nuclear Weapon — and Trump Can’t Stop It

By John J. Mearsheimer

トランプ大統領は、イランが核兵器を保有しないことを確実にしたい、という。しかし、彼の政策は、まったく逆の効果を持つ。テヘランは核武装する強力な動機を与えられるだろう。同時に、アメリカがそれを阻止することはますますむつかしくなる。月曜日、イランの新聞は、彼らが2015年の核合意で要求されたウラン濃縮の限界に達した、と述べた。

この1年のアメリカによるイラン外交は、イランの指導者たちに2000年の最初の10年で核武装しておくべきだった、ということを鮮明に示している。

まだ軍事衝突は起きていないが、アメリカはイランに宣戦布告しているに等しい。広範な経済制裁を科して、イランに屈服を求めている。ポンぺオ国務長官は、アメリカやその同盟諸国の利益に従って、イランは外交政策を変えねばならない、と宣言した。「最大限の圧力」をかけることで、トランプ政権は主権国家イランの生存を脅かす。

歴史が示すように、大国が敵に対して激しい処罰を科す場合、禁輸、制裁、包囲、空爆、それらが標的となった国を降伏させたことはほとんどない。1990年代に10万人のイラク市民を犠牲にしたアメリカの制裁もそうだった。ナショナリズムは強烈だ。指導者が敵に降伏するより、ともに戦う。

国家は強制圧力に降伏するのを嫌う。なぜなら、降伏することで、強国の要求がエスカレートするからだ。

イランはすでに、制裁を我慢するだけでなく、報復すると表明している。その場合、トランプ大統領は再び報復し、制裁をエスカレートするだろう。両国は、古典的な制裁エスカレートのスパイラルに入る。イランは、確実に、自身で核兵器を持とうとする。それはイランにとって究極の抑止力となる。なぜなら敵は、核武装した国に攻撃しないからだ。特に、その国が第1撃を生き延びる場合に。

核武装は、明らかに、イランの戦略的な条件を改善する。もちろん、ワシントン、テルアビブ、リヤドはそれを何よりも嫌う。しかし、その結果は避けられないだろう。アメリカはイランと戦争し、占領しないだろう。強硬派はイラン空爆を主張するが、それは核保有をせいぜい数年遅らせるだけだ。

トランプの政策はアメリカの立場を身動きできない位置に追い込む。イランの指導者たちは、当然、トランプを信用しない。たとえ合意しても、トランプは離脱することを知っている。もしトランプが緊張を緩和するために制裁を解除すれば、それは交渉の席に就くためにテヘランが要求していることだが、アメリカ国内の強硬派に責められる。イスラエル、サウジアラビア、その他の湾岸諸国も彼を責める。

イランの核武装を避けるわずかな可能性は、アメリカが政策を逆転させることだ。まず、トランプは強硬派を切り離す。究極的には、2015年の核合意に戻ることだ。制裁を緩和し、経験ある、公正な姿勢の代表を送って、交渉する。トランプは、共和党からも、有力な資金提供者からも、イスラエルやサウジアラビアのような同盟国からも、批判されるだろう。その嵐に耐える必要がある。

残念だが、トランプは政治的コストを払って失敗した政策を逆転するより、イランへの圧力を強める。その失策の結果は、イランが核保有国になることだ。


 デジタル通貨の時代

FT July 1, 2019

Central banks should issue digital currencies of their own

Jean-Pierre Landau

デジタル化は、通信、組織化、相互作用、移動、貿易を変えた。今や、貨幣を変えつつある。電子決済のできる携帯電話が、貨幣と同じように、契約なしに、安価に、簡便に、参加者同士で、国境を越えて利用できる。銀行口座を持たない生活が可能になり、銀行はなくても携帯電話が普及した世界で、金融の包摂が進む。

中国のTencent and Ant Financial、アメリカのFacebook27社によるLibraなど、多くの企業がデジタル経済のシナジー効果を狙っている。

主権国家には様々な権力がある。法貨を受領させ、納税の義務を課し、現金を受け入れさせ、発行主体を登録させる。技術革新で現金が消滅するなら、中央銀行はデジタル貨幣(CBDCCentral Bank Digital Currency)を発行するべきだ。

CBDCが金融政策や金融の安定性に持つ意味を検討しなければならない。政策の効果が、マイナス金利も含めて、改善されるだろう。しかし、銀行の取り付けが起きやすくなる。われわれの社会の民間と公共とのバランスが問い直される。

デジタル・ドル化を抑えるには、デジタル通貨をできる限り現金と同じように機能させるべきだ。それは銀行預金に代替するのではなく、それを補完する。

PS Jul 1, 2019

The Coming Libra Panics

STEPHEN GRENVILLE

もしアルゼンチンの人々が、ペソから安定した通貨バスケットに、スマホのワン・タッチで転換できるとしたら、国内経済で問題の最初の兆候を見るや、安全な資産に殺到するのではないか? 「効率的市場」の信奉者たちは、完全な市場では、そのような移動は自動的に是正される、とわれわれが信じるように宣伝した。ペソの減価は、小さな差でもアービトレージャーの利益になるからだ。

残念だが、現実の市場は、そうではない。国内のパニックの衝撃は、預金保険もない国際資本移動を襲い、銀行取付と同じロジックが働く。もし銀行が破産すれば、あなたはすべてを失う。パニックは、自己実現的な予言になる。ペソの減価は、大幅な暴落に向かう。

現代政界では、そのような大規模な通貨間資本移動はまれである。それは資金を動かす取引コストが大きいからだ。コストの低い、規制のない方法があれば、何が起きるのか? アルゼンチンのような、通貨価値下落の長い歴史を持つ、しかも、変動レート制を採る中規模国は、資本逃避に極めて脆弱である。

価格メカニズムの利益を最大化するのだろうか? むしろ、非効率な市場から資金が大量に流出することを防ぐべきだろう。取引費用を高め、資金洗浄を厳しく規制し、国際通貨の取り付けを抑える十分な砂を撒くべきだ。50年前に、James Tobinが主張したように。

トービン税は、プライバシーや金融安定性に対処するものではないが、単位委の投機的な移動を抑え、直接投資のような、もっと有益な取引を促す。

PS Jul 2, 2019

Thumbs Down to Facebook’s Cryptocurrency

JOSEPH E. STIGLITZ

伝統的な通貨は、これまで価値が不安定で、インフレを起こし、価値の保蔵に適さなかった。しかし今、ドル、ユーロ、円、人民元はとても安定しており、心配するとしたら、インフレではなく、デフレである。金融部門の透明性も改善された。資金洗浄など、犯罪行為に利用されないことだ。

既存の通貨や銀行システムで、本当に問題なのは、競争の欠如、金融取引を管理する企業の規制、である。アメリカの消費者たちは、Visa, Mastercard, American Express、銀行に対して、毎年、何十億ドルもレント(年貢)を支払っている。デビットカード、クレジットカードの過剰な手数料を規制する必要がある。競争を制限する契約を、オーストラリアは規制して、成功している。

われわれが問うべきなのは、Facebookのビジネス・モデルだ。彼らは、競争が利潤をゼロに近づける、とは信じていない。そのマーケットにおける支配力と政治的権力に自信を持っている。

新しいLibraの価値は、諸通貨のグローバルなバスケットで保証され、100%準備される、としよう。おそらく、国債のミックスだ。この場合、収益を生み出す源泉が存在する。利子を支払わない「預金」、すなわち、Libraに交換した伝統的な通貨である。なぜ、人々はFacebookに利子もつかない資金を与えるのか? 資産の価格変動はどう反映するのか? 税金は? 犯罪行為の取り締まりはなされない? それでも「ハイテク」通貨だから安心するのか?

もし、これがLibraのビジネス・モデルなら、政府はすぐに禁止すべきだ。少なくとも、他の金融部門と同じ透明性規制に従う必要がある。しかし、その場合、Libraは暗号通貨でなくなる。

Facebookは、これまでのように、Libraをデータ・マイニングに利用して儲けるだろう。マーケットを支配し、利潤を上げ、セキュリティーやプライバシーを損なう。銀行部門を得るには不可能な不信感をFacebookはすでに築いてしまった。自分の金融資産をFacebookに委ねるのは、愚か者である。

そこが問題だ。24億人もFacebookを利用しているのだから。Facebookは、どれほど多くのカモがいるか、知っている。


 トランプの通商・金融・外交政策による破壊行為

FT July 1, 2019

Currency warrior: why Trump is weaponising the dollar

Sam Fleming in Washington

ドナルド・トランプは、ますます攻撃的に、外交問題で、アメリカの貿易・金融関係を武器として使用するようになっている。異常なほどに傲慢な通貨好戦論者である。貿易赤字の縮小を求めてそる安を喧伝し、外交の道具としてドルのグローバルな利用を異常な形で活用する。

ロシア、イラン、北朝鮮、ベネズエラ、そして他の諸国、Huaweiなどの企業にも、アメリカ政府は、ドルが支配的な国際貿易・金融関係を使って制裁を行っている。元財務省、現在はホワイトハウスに属するAdam M Smithは、他国がアメリカ市場やドルを避けようとしても、効果的な迂回方法は見つからないだろう、という。

PS Jul 1, 2019

A Future Without Currency Wars?

HAROLD JAMES

貿易・通貨戦争の1930年代の悪夢がよみがえる。トランプ政権の「アメリカ・ファースト」が実行されれば、通貨戦争が勃発するのは時間の問題だ。

2008年の金融危機後、当時のブラジル財務大臣が、アメリカの低金利政策について、本格的な通貨戦争だ、と主張した。日本とヨーロッパも同様の政策を採り、減価政策は先進経済のひそかな景気回復策となった。

2012年、ユーロ危機はドルに対する減価が進んでから、やっと落ち着いた。他方、UKのエコノミストたちは、ユーロ圏諸国に対して、より弾力的な為替レートを採れたUKは危機を緩和できた、と指摘している。いずれにせよ、危機が沈静化したのは主要中央銀行が同時にQEを行ったからだ。21世紀の通貨戦争は、あいまいな、壊れやすい停戦状態にある。

政治家が決める限り、国民通貨は明らかに経済的武器である。それゆえ1944年のブレトンウッズ会議では、安定した為替レートを保証する枠組みに合意した。アメリカは交渉を指導し、関税・貿易戦争から自由な開放型国際秩序を確立すると約束した。他国には、対外不均衡を抑えるしか、他に選択肢がなかった。

ブレトンウッズ体制を設計したケインズは、巨額の黒字や赤字を蓄積する国を処罰する制度と、「バンコール」とよぶ普遍的な合成通貨を基礎として、新しい世界金融システムを計画した。ドラギが指摘したように、ユーロの起源も競争的な通貨の切り下げを止めることだった。1960年代のロバート・A・マンデルなど、国民通貨ではなく、一般的通貨を求める意見は繰り返し示された。

今や技術革新が、グローバル通貨を達成できるものにした。先月、Facebookは、デジタル・コイン、Libraの計画を発表した。銀行口座を持たない17億人を含む、世界の貧しい人々が利用できる。それは、金融投機ではなく、交換手段として、Bitcoinなどのブロックチェーン通貨に反対する試みだ。「マイニング(採掘)」と称して、Bitcoinは人為的な希少性を課した。Facebookに対する非難はあるが、複数の資産に依拠するデジタル通貨は、批判者の言うような、不安定化をもたらさない。

真の普遍的通貨があれば、利用者は財、サービス、そして労働も、自国通貨で示さなくなる。1つの領土でも複数の通貨が存在する世界は、前近代にあった、金貨と銀貨が互いの価値を変動して表す仕組みになるだろう。それは悪いことではない。

金と銀の価値が変動するから、賃金はより柔軟に変化して、失業者は減るだろう。グローバル通貨の利用が拡大し、通貨戦争は減るだろう。経済ナショナリズムによる混乱とは無縁な、21世紀のグローバル金融システムが実現する。

その実現のカギは、ユーロがすでに始めているように、国民国家と貨幣との関係を断つことだ。


 香港の抗議デモ

NYT July 3, 2019

Why China No Longer Needs Hong Kong

By Eswar S. Prasad

1997年、中国は香港を必要としていた。しかし、もはやそうではない。香港の制度を尊重することより、中国の国際秩序を示すためには、反政府デモを弾圧するほうが良い。

1997年には、まだWTOに加盟していない中国にとって、香港は重要な中継基地であった。中国の貿易の約半分をあつかった香港が、今では12%足らずである。香港の経済規模は、中国の5分の1であったが、今では30分の1である。1人当たり所得は中国の35倍であったが、今では5倍である。通貨の点でも、もはや中国の金融市場は香港を圧倒している。北京を、香港をしのぐ国際金融センターに育てようとしている。

世界金融危機以後、中国は香港を異なる視点で扱うようになった。中国共産党は、西側のリベラルな民主主義がもたらす混乱に代わる組み合わせ、経済的自由と、政治的・社会的自由の制限、を好む。北京は香港をショーケースとして、そのような中国型の「法の支配」、所有や契約を守らせるが、共産党の命令には従うことを、優れたものとして示そうとしている。

香港の抗議デモは、安定した経済成長、法と秩序を提供する限り、市民たちは個人的自由や政治的自由を進んで放棄している、という北京の説明と真正面からぶつかる。

中国はしばらく香港を窒息させる手を緩めるかもしれない。しかし、誤解してはならない。北京の描く香港に、国際投資家や住民が愛した香港、すなわち、自由な企業、民主主義、表現の自由、法の支配はない。

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The Economist June 22nd 2019

Texafornia dreaming

The Conservative leadership: Which Boris would Britain get?

Unrest in Hong Kong: China’s chance

Facebook’s new cryptocurrency: Click here to buy Libra

Chaguan: America, as seen from Beijing

Lexington: Elizabeth Warren, savior of capitalism

Charlemagne: Built on air

Bagehot: The Plato test

Libra and banking: Libralised finance

(コメント) アメリカがトランプによってどうなるか、ではなく、カリフォルニアとテキサスがどうなるか、を考えます。GDPの規模で並べると、アメリカ、中国、日本、ドイツ、という世界経済の順位は、5位にカリフォルニア、11位にテキサスが入ります。

それ以上に、2つの州の政府の在り方、人口変化、が対照的で興味深いです。さらに、中国、アメリカ、イギリス、ヨーロッパの政治力学を描く連載コラムは充実しています。詳しくまとめる時間が無くて。

プラトンの『国家』には、政治家に必要な資質として、真実を求める姿勢、専門的な管理能力、を挙げ、指導者が劣化する印として、ナルシシズムと慢心、を挙げたそうです。なるほど。

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IPEの想像力 7/8/19

国民にとって、参議院選挙の機会が政治経済の転換に活きるのか。さまざまなことが同時に起こり、あまりにも複雑な、意図された動き、意図しない結果の波に振り回される感じです。

あなたは何を観ましたか? 私は何を観たか、書いておきます。

● レバノンのシリア難民を描いたラバキー監督の映画『存在のない子供たち』が、朝の「国際情報」NHKBS1で紹介されました。

まだ幼い少年、ザインが、難民キャンプで暮らす苦しみを描いているようです。ザインが妹の幸せを願う気持ちによって、彼らの不幸と闘い続けること、大人たちが創り出した戦争や貧困に、理由もなく子供たちが巻き込まれ、大きな苦痛を強いられること。食料も、水もなく、妹は児童婚の相手に奪われてしまいます。

ラバキー監督は、この映画を観て、路上の子供たちを見る観方が変わった、という観客の声を紹介し、子供たちの境遇について、対話や議論が起きることを望んでいる、と述べました。子供たちの経験を演技として指導することはできない。ザインや他の子供たちを難民の中から選んだ。彼らは演じているのではない。ザインは周りの大人やカメラマンを気にしなかった、と述べています。

難民として、大人たちの作った理不尽な世界を生きる子供たちの痛み。その感覚をなくしてしまったのか、と反省しました。ぜひこの映画を観に行こうと思います。

● 「国際情報」が伝えたトップ・ニュースは4つありました。1.ギリシャの選挙、2.香港のデモ、3.イランのウラン濃縮、4.ドイツ銀行の大幅人員削減。

1.ギリシャの選挙では、政府債務危機とトロイカによる救済融資をめぐって対立したシリザ政権のチプラスが敗北しました。ゼミ生たちと読んできた本(田中素香『ユーロ危機とギリシャ反乱』)の結末を見る思いです。しかし、これが結末とは言えないでしょう。

The Economistは、チプラスを政治家として称えました。既存政党を破って急進左派政党が現れたのは、ユーロ危機と緊縮策の過程で大きな苦痛を強いられた労働者、貧困層の声を集めて正当な民主主義の力でした。救済融資の条件をめぐって闘った過程も、国民投票に訴えたガッツも、若い指導者として称賛されるでしょう。何より、債権国の強いる条件を満たしたことを、彼は誇りました。

2.香港の100万人を超える抗議デモから、一部の学生たちは、いよいよ立法院に突入し、一時、占拠することで、暴力的なエスカレーションが懸念される局面に入っていました。

しかし、このニュースは違います。香港島ではなく、九龍半島側の高速鉄道の駅周辺で、平和的なデモを展開した、ということです。本土からの観光客に香港の抗議の声を示します。彼らはSNSやデモの写真を、友人、家族に送るでしょう。なぜ香港から本土の裁判所に送ることが許せないのか、観光客たちは不思議に思うかもしれません。しかし、抗議デモのある政治を体験します。

3.トランプ政権はイランに対する制裁、禁輸措置、外交圧力を強化してきました。それは、戦争を始めることに等しい、と考えます。イランも無人機を撃墜し、ウラン濃縮の核合意による限界を超えた、ということです。

しかし、イランは核合意の履行を主張し、経済制裁を解除するように求めています。戦争を求めているのは、トランプ(とその反イラン同盟諸国)です。

4.ドイツ銀行は投資銀行部門を大幅に削減しました。これは、チプラスの敗北以上に、ドイツの金融界、ユーロ危機をめぐるメルケルの敗北かもしれません。

世界に、核武装のエスカレート、貿易・通貨戦争、人種差別や女性差別、ポピュリズム政治を拡大するトランプは、就任演説で予告した「大殺戮」についての妄想を、アメリカのパワーでグローバルに実現しているようにみえます。

● 朝日新聞の連載記事「問う 2019参院選」を読みました。言葉を選んで、事実を探します。

1.「嘲笑する政治」を続けるのか ・・・民主党政権を「悪夢」といって笑う。自分が相手より上位にあり、見下し、排除する意識。国会は、鑑定が成立させたい法案を通す場として下請け化した。政策に異を唱える人を攻撃する風潮。

2.非正規の女性に目を向けて ・・・女性は「」結婚か、仕事か」の二者択一を迫られていた。シングル女性を引き付けた「派遣」という働き方。自由度が高い、さまざまな会社を経験できる、事務職の即戦力。正規雇用へのステップ。夢はかなわず、今の時給は1500円。これまで政治は直視してきただろうか。

3.くすぶる不安、「未来」に責任を 4.首相の密談外交、見えぬ将来 ・・・

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安倍首相。あなたの頼りとするトランプは、「最大限の圧力」をやめて、金正恩と非武装地帯で握手した。彼の関心は、核廃絶より朝鮮戦争の終結。日本政府は、植民地支配に対する補償交渉も準備しているのか。そして、あなたの頼りとするプーチンは・・・

安倍首相。安保法制と自衛隊海外派遣の合法化、憲法改正論を推進し続けて、得られた日米同盟の最高・最強の瞬間は、ホルムズ海峡への有志連合や、イラン核保有を(一時的に)阻むトランプの空爆シナリオに巻き込まれる。そして、アジアでも、中東でも、核兵器は拡散する・・・

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